半導体レーザービーム整形技術r直接加工のためのビーム整形

轡灘鎧
半導体レーザービーム整形技術
一直接加工のためのビーム整形,現状と課題, 将来展望一
實野孝久,徳村啓雨*,玉村寿**
大阪大学レーザー核融合研究センタr(〒565−0871大阪府吹園市山田丘2−6)
*ナルックス株式会社(〒618.0001大阪府三島郡島本町山崎2.1−7)
**日本テクトロニクス株式会社(〒141−0001東京都品川区北品川5−9−331)
Precise Beam S㎞api髄g of亙》iodle L餐ser
D蓋rectA即亙ic飢io聾ofLD:Li帥tibrM飢eぬ且Process責ng
TakahisaJITSUNO,KieuTOKUMURA,*and HisashiTAMAMURA**
みz5漉厩αゾゐα3αEπ8∫1¢66r’ng,03αたo Un彦v8rs’研,2−6}勧zα磁一〇震α,S厩∫α,05αんα565−087!
*八乙4LUX CO.々4,2−1−7}匂η観zαた∫,Shin雄ノnoro,〃’sh枷α,Os磁α618−000/
**7セ6hオo眉oη∫x/αρα1τCo1アoヂαπon,5−9−31κZ∫αsh’nα9αwα,Sh∫ηα8αvレα,7わκyo!41−0001
(Received November26,2002)
Current techniques developed for beam shaping of multi−mode laser diode(LD)output are reviewed and a
new approach for the direct micro−processing with a single−mode LD is reported。The advantage of single−
mode LD for high brightness focusing,the source of aberration in LD light,and the method to improve the
brighmess are described.The experiment on the laser ablative shaping(LAS)for single−mode laser light
indicated that the initial wavefront distortion of O.9入was improved to O.4λ,Possible applications of LD
micro−marking system are described。
KeyWords:Laserdiode,CollimatorIens,Wavefrontdistortion,Laserablativeshaping,Micro−marking。
1.はじめに
いう特性を改善するためのLD本体の改良も図られてお
り,回折格子を活性媒質に作り込んだ分布帰還(DFB)型
半導体レーザー(laserdiode,以下LDと略す.)は電気一
レーザー8)やテーパ増幅器9),光路をジグザグにしたZ共
光変換効率が50%以上と他の固体レーザーやガスレー
ザーの数倍近く高く,小型・軽量であるため,優れた
振器lo〉などにより単一モードでLDを作動させることが試
みられているが,寿命やコストの問題で,実用化される
レーザー光源であると言える1〉.そのため,これまで他の
には至っていない.
レーザー光源が使用されていた多くの応用分野で直接応
用が試みられている2・3).しかし,LDはビーム品質が悪
用などに使われて来た.また,スポットサイズが小さく
著者らは,LDの良好な発振効率をなんとか加工などの
応用に直接活用したいと考え,LDの高輝度集光のための
方法を検討して来た.単一モードLDで高い輝度を得るた
めには活性層の幅を5μm程度にする必要があるが,一般
に入手できる単一モードLDでは出力がまだo.2w程度と小
さく,単体では使えないと考えられていた.そこで,多
ならないことから,逆にLDの数を増やして全体のパワー
数の単一モードLDをスタックし,全体のパワーを上げて
く,通常の光学系では集光性能を上げることが難しいた
め,主に低いパワー密度でもよいハンダ付けやプラス
チックなどへのマーキング,および固体レーザーの励起
を大きくし,kWクラスの装置を作製して金属溶接などに
使用されているが4),装置自体が大きくなり,価格も非常
一般的な加工に必要な輝度である1MW/cm2を得ることを
に高価となっているため,広く普及するには至っていな
い.LDの集光特性を改善する光学系も各種試みられて来
最初は検討した,しかし,このように大きな単一モード
LDスタックを作っても,小さな点に全てのLDの光を集め
るためには,LDとそれに付けるコリメーターレンズの間の
たが5−7),使用するLDがマルチモードであるためにいずれ
相互の位置精度を0.1μm以下にする必要があることから,
も高い輝度を得るには至らず,最高でも200kW/cm2Sr1)
材料の熱膨張を考えれば非常に難しいことが判明した.
に留まり,これより高い輝度を得ることは困難であっ
た.そこでLDメーカー各社では,この集光特性が悪いと
このような場合には,焦点距離の短いレンズを使用す
330
ると集光スポットを小さくできるが,装置のパワーが大
レーザー研究 2003年5月
きければ加工物からのデブリスでレンズがすぐに損傷す
ることが予想される.そこで小さいパワーを小さく絞り
込むことで10MW/cm2Srを越える輝度を出す可能性を検
討した.単一モードで0.2Wの出力のLDを使用し,ビーム
径を3mmくらいにコリメートし,焦点距離里cmのレンズ
で集光すると,全ての収差がなければ回折限界のスポッ
トサイズが得られ,数MW/cm2の面密度と数十MW/cm2Sr
の輝度が得られることが判明した.ただし実際にはコリ
メーターレンズの形状やLDとの位置合わせ,集光レンズ
などに収差があり,回折限界まで絞れない.集光レンズ
には収差の小さいものを使用可能であるが,コリメー
ターレンズは焦点距離がmm程度の直交シリンドリカル型
となることから,その収差を小さくすること,および精
度よくLDと組み合わせることは非常に難しい.そこでお
おむねコリメートされたLD光の波面を測定し,コリメー
ターレンズの後に入れた波面補正板の形状を制御するこ
とで位相を補正して良好な集光特性を得る方法を考案し
た.この波面補正板の形状の制御には,以前より開発を
行っていたレーザーアブレーションを用いた光学素子の
に対してLDでは出力によって単調にスポットサイズは増
加する.しかも,そのサイズは固体レーザーより1桁以上
大きく,絞れないレーザーであることが判る.このLD光
のスポットサイズを固体レーザー並に向上させることが
ドイッの国家プロジェクト「LASER2000」などで試みられ
たが12〉,良好な成果は得られていない.そこで致し方な
く,多くのLDをスタックし,大きな出力を出すことで集
光点での輝度を上げる方策が取られた.このような努力
の結果,金属の溶接などに使用できる大出力LDアレーが
市販されるに至ったが,大規模なLDスタックであるた
め,価格的に高価であり,かつ小さく絞れないという欠
点を有していた.著者らはLDスタックを使う替わりに,
単一のLDを小さく絞る方向で研究を進めた.
3.半導体レーザーの光学的特性
LDでは半導体の一部に構成された活性層の両端をへき
波面制御技術mを用いることができる.
開して共振器を構成している.活性層は通常厚さ1μm程
度と薄く,厚さ方向には単一モードで発振しているが,
この方向には大きな回折拡がりを持っており,fastaxisと
本稿ではこれまで提案されたLD光のビーム整形技術を
概観し,著者らの最近の成果を含めて報告する.
呼ばれている.一方,横方向はslowaxisと呼ばれ,5∼
200μmの幅を持っている.狭い幅の場合には単一モー
2.各種のレーザーの集光特性
ド,広い場合にはマルチモードで発振する.高出力LDで
は,主に端面のレーザー光により誘起された半導体の吸
収による光学的損傷(COD:CatastrophicOpticalDamage)1)
各種のレーザー装置の集光特性をレーザー出力の関数
を避けるため,横幅を広げると共に,縦方向にも回折効
としてFig。1に示す12).図の縦軸は相対集光スポットサイ
果で光が広がって出るように工夫されている.しかし,
ズであるbeamqua夏ity9であり,以下の式で与えられる12〉.
広い横幅の場合には発振する空間モードがマルチモード
となるため,集光した場合のスポットは回折限界よりは
Pθ2
92論竺 (1)
1π.
るかに大きくなり,輝度の高い集光は行えない.これま
ここで,Pはレーザーパワー,1は集光強度,Ofは集光角
ではこのマルチモード光を少しでも小さく絞るため,特
を表す.このgは集光する立体角が一定の時のスポットサ
殊な光学系を工夫して来たが,結局大きな改善は得られ
なかった.また,単一モードLDを用いた場合でも,半導
体そのものの屈折率が35程度と大きいため,Fig.2に示す
ように,共振器から出てくるレーザー光が拡がりを持つ
イズを表し単位はmm・mradである.この図から判るよう
に,ランプ励起の固体レーザーは小出力では非常に小さ
く集光できるが,出力が大きくなるに従って多モード化
し,スポット径が増大する.LD励起の固体レーザーで
は,ランプ励起に比べてモードの劣化が高出力側に移る
が,やはり高い出力ではモードが悪くなる.CO2レーザー
場合には,出射端面での屈折により曲げられて大きな収
差を含んでしまうので,たとえ単一モードのLDを用いて
もスポットサイズは十分に小さくできなかった.
は波長が長いために低出力でもスポットが大きいが,比
4.従来のL D用光学系
較的高出力まで良好な集光特性が得られている.これら
これまでLD光を使用しようとする場合に用いられて来
た光学系の例をRg.3に示す.ロッド状レンズ5〉,ステッ
1000
Diode Lasers
で
歪
E
E
E
プミラー6),反射ミラー整形器7),偏光一波長結合器2)であ
重00
レ
σ
>、10
Cavity
蓬
CO2Laser
響
Acti ve medl a
ぼのド
/
\
σ
E
σ 1
CaVIty
mirror
Solid Stateしasers
Φ
㎜
一
/
(LampPump) DPSSL(LDpump) !/
口自
一
『
㎜
一
n鍍3.5
0.1
〕
deflection べ
1
里0
重00 1000
翼0000
Semiconductor pbte
active materiai
Laser Power(W)
Fig.l Beam quaHties of different kinds of lasers,12)
due to index of
Fig.2Source ofbeam aberration ofLD.
第3!巻第5号 半導体レーザービーム整形技術一直接加工のためのビーム整形,現状と課題,将来展望一
331
lncident beams
123456
LD array Lens coupie
己縛㌧ノ
Reflection
Reflection
mirror(璽)
l mirror(2)
2
ぎ
Outputbeams
(a)
(c)
LD stack array wlth
col睡matorIens
Folding
λ1、s−pol
Wavelengt 、
mirror(2)
λ1,P−pol
Folding
ノarization coupler
mirror(1)
\
λ2,P−pol
Outputbeams
lncidentbeams
λ2,s−po
(b)
(d)
Fig.3Convent圭onal optics£orLD.(a)Micro−1ens system,5)(b)micro−minDrs,6)(c)Two−mirror beam shaper,7)(d)Polarization−
wavelength coup豆ing.2)
平行ビームとし,後のslowaxisを少し離れた位置にあるシ
で集めると回折限界まで絞ることができる.これに対し
て,マルチモード光では上に述べた単一モードの光が,
リンドリカルレンズで平行光にする構造である.しか
し,ロッド状レンズの焦点距離が短く,わずかな位置の
少しずつ異なる角度で重ね合わされていることになるた
め,1点に絞ろうとしても絞れない.このマルチモード光
る.ロッド状レンズはLDのfastaxisをLDの出口すぐでほぼ
誤差や部材の熱膨張が集光特性に大きく影響するため,
はあたかも面光源のように働き,加工物などに照射する
取り付け・調整が困難であり,また良好な安定性を得る
ことが難しい.ステップミラー型では精度の高い複雑な
ミラーを用いて,横に並んだLDを縦に並べ替えるように
ビームを入れ換え,最後にシリンドリカルレンズで発散
場合,照射光学系の結像倍率に従って拡大/縮小されるた
角を補正する方式であり,反射ミラー整形器は同様の効
果を2枚の反射鏡で行い,偏光一波長結合方式は偏光と波
す.
このため,LDを単一モードで発振させる努力が多くの
長の違いを用いてレーザービームを結合させる方式であ
LDメーカーで行われてきた.その例をFig.5に示す.これ
る.しかし,これらのいずれの方式もマルチモード光で
らの方式では約1Wの単∼モード出力が1つのLDから得ら
れたが,先に述べた出射端面で生じる収差のために微小
に集光できず,それを補おうとしてアレーとして組み合
わされたために装置が複雑となり,寿命やコストの点で
あることと,ミラーの精度やLDバーの組み立て精度など
の問題で,集光特性は回折限界には遠く及ばない.たと
え単一モードのLDアレーを使用しても,LDバーの光を足
し合わせたビームはマルチモードとなるために問題の本
質的な解決とはならない.
その一方で,位相共役鏡13)を用いたり,LDアレーに共
め,極端な短焦点・大口径レンズを用いない限り縮小投
影することができず,一般的な加工条件ではLD端面以上
の面密度に上げることは難しい.この様子をFig.4に示
Multトmode LD
Laser diode
Co目imator lens
Focusi ng l ens
通の外部共振器を付けてLDを互いに同期させる試み茎4・15)
も行われている.これらの試みでは,LD出力が小さい場
合には単一モードが得られているが,高出力を出そうと
Power:∼1W
Large spot
すると同期が外れるため,まだ実用的なレベルには達し
ていない.
Single−mode LD
Co臨mator lens
5.単一モードとマルチモード
これまで単一モードとかマルチモードという言葉が出
てきたが,その基本的な違いはレーザービームが,指向
性の異なる成分を含むか含まないかである.単一モード
のレーザー光では,たとえビーム全体の発散角が大きく
ても,1点の光源から出た光と見なせるため,集光レンズ
332
Laserdiode
Focusingiens
Diξfraction鷲mlt
Power:∼0.1W
←d
−
D d篇4チλ/πD
f
F圭g。4Beam qualities ofmultl−mode and single−mode LD。
レーザー研究 2003年5月
Diffractiveratings
ビーム径を3mmとし,焦点距離1cmのレンズで集光す
ると約3.8μmのスポット径が得られる.このため,もし
lWの単一モードLDを用いた場合には,中心部の強度は
17MW/cm2(242MWcm2Sr)となり,非常に大きな密度
(a)
と輝度が得られる.実際に容易に入手できる出力0.2W程
Osci”ator Taperedampllfier
度のLDでも3.4MW/cm2の密度と48MW/cm2Srを越える
輝度が得られる.このように,単一空問モードのLDでは
出力は低いけれど,小さなスポットに絞れるために高い
、づ
、ン/
輝度を得るのに適している.
(b)
Grooves
7、LD光の高輝度集光に必要な条件
一よ)
(c)
Fig5Various types of high brightness LD’s。(a)Distrib−
uted feedback(工)FB),8)(b)Tapered amp重ifier,9)(c)Z
typecavity.lo)
LD光を高い密度で集光するためには,これまで述べて
きた単一モードが必要であると共に,良好なビームの波
面分布と収差の少ない集光光学系が必要である.一般に
あるビーム径の平行光線が集光される場合,その得られ
るスポットサイズはビーム及び光学系の持っている波面
収差に大きく依存する.すなわち,収差のないビーム(完
全な平面波)と無収差のレンズを用いた場合にのみ回折限
界のビームパターンが得られるが,素子の収差が増加す
るにしたがって,そのスポット分布は拡がり,照射密度
実用化されなかった.
6.集光スポットサイズと集光輝度
は低下して行く.
基本的な収差については光学の収差論ではザイデル
以上の説明からも判るように,基本的にマルチモード
のレーザー光は絞り込むことが難しく,したがって,大
きなスポットサイズしか得られず,面密度を上げること
が困難である.これに対して単一モード光では,レー
ザー光および使用する光学素子の収差が小さい場合には
ビームの発散角などによらず,高い密度に絞り込むこと
が可能である.この場合,絞り込めるビームのサイズは
(Seidel)の5収差17)が良く知られており,それらは球面収
差,コマ収差,非点収差,歪曲収差および像面湾曲と呼
ばれている.本稿では収差論の詳細の議論は省略する
が,収差が集光スポットに与える影響はレーザー光を使
用する場合に重要であるので,少し触れておく.光学機
器に許容される収差の目安として,レーレーの1/4波長則
(Rayleighlsquarterwavelengthrule)がある17).この目安に
回折現象に支配される.回折によるビームの拡がり全角θ
よると,ビームに含まれる波面収差が入/4になると遠視野
は円形のガウスビームの場合,以下の式で与えられる王6).
像のピーク強度が20%程度低下するとされており,λ/4以
2λ
下の波面収差が良好な光学素子に期待される精度である
加.
ここでλは波長,αはビーム半径である.また,集光する
とされている.実際には収差の種類や組み合わせによっ
て影響は異なるが,目安としては正しいものと考えられ
レンズの焦点距離を∫とした場合,加工物上で得られるス
てきた.収差がある場合のピーク強度の変化の一例をFig.6
θ=一 (2〉
に示す18〉.この図ではコマ収差の大きさが変わった場合
ポットサイズは
2る=α一畿〕.
のピーク強度を与えている.これらのことから,LD光を
(3)
絞り込む場合でも,全体の波面収差はλ/4以下にする必要
があり,これが開発の目標となる.
集光スポット上の強度分布もガウス型となり,
・ω一籍・陛)
(4)
重,0
あ
、㊥}
飼
Qり
となる.ここで,70はスポットサイズ,rは中心からの距
仁
、傷
の
ヲ
.∈
離である.このため,小さいスポットサイズを得るため
には,波長を短くする,ビーム径を大きくする,焦点距
離を短くするという3つの手だてがある.しかし,レー
ザー光の波長は現状ではあまり短くできず,レンズの∫も
加工時に発生するデブリスの飛散を考えれば余り短くで
きない.しかし,レーザー出力が小さい場合,微小なス
ポットに絞ることを考えると比較的短いレンズを使用す
ることも可能である.例えば波長0.9μmのLDを使用し,
藩Q5
風
\
,蟹
\
箱
ε
ろ
z
0
λ λ 3λ
4 2 4
Wavefront distorti on (λ)
Fig.6Focused beam intensity for different values of
WavefrOnt diStOrtiOn.18)
第3王巻第5号 半導体レーザービーム整形技術一直接加工のためのビーム整形,現状と課題,将来展望一
333
8,波面補正法
位相の遅れている部分の位相補償板の表面をレーザーア
光学素子の波面を補正するには,反射鏡の形状をアク
チュエーターで変形させる可変形ミラーゆや,液晶の屈
折率変化を制御して位相を制御する方法20〉などがある
て許容誤差に入るまでこの操作を繰り返す.これにより集
ブレーションで除去して補正を行い,再度波面を計測し
光精度を上げるのに必要な波面形状に持ち込むのである.
これまでの研究では,直径5cmのガラス板上に形成し
が,いずれも特殊で高価な機器や複雑な構成が必要であ
り,LDのような小型のレーザーに用いるには適さない.
た紫外線硬化樹脂の形状を制御し,2.5λの波面収差をλ/5
また,任意の波面形状を創成できる反応性ガスによるプ
初めてレーザー整形(LAS)で高い精度の光学素子を加工し
ラズマエッチング21)や磁性流体を使った研磨法22)等が実
た例となった.しかし,微小光学系に適用するために,
用化されているが,mm単位の小型の光学素子への適用が
難しい上に,たとえ加工できたとしても,レンズとLDの
小さいスポットに加工用レーザーを絞り込んで使用した
ところ,加工表面に微細な加工むらが発生し,光学面と
しては十分とは言えない状態となっていた.この原因が
主に照射する加工用レーザー光の不適切な分布とビーム
相対的な位置精度をサブミクロン以下にする必要があ
り,通常の組み立て精度ではとても及ばないものと考え
られる.そこで我々が以前から開発してきたレーザーア
ブレーションを用いた光学素子の波面制御技術11)をLD用
に適用し,LDとコリメーターレンズを組み合わせた後に
出てくるビームの波面を測定して,その収差を補正する
ように位相補償板の表面の形状を変化させることを考案
した.この系に用いる光学素子の配置をFig.7に示す.
この波面補償のためのレーザーアブレーション整形
まで小さくすることに成功したm.この研究は,世界で
内部の細かい強度変調があるためであったため,より
ビーム品質が良好なレーザー装置に変更した.その結
果,表面の加工むらはほとんど解消し,良好な加工が可
能となった.しかし,当初試作したコリメーターレンズ
の精度が悪く,LDと組み合わせて40入という大きな収差
があったため,波面補正はうまく進められなかった.そ
こで補正操作の性能確認のため,参照光源(He−Neレー
(LaserAblativeShaping:LAS)装置の構成をFig.8に示す.
ザー)に長焦点のレンズを挿入し,疑似的な波面収差を発
装置は加工用のArFレーザーと精密ステージ,波面計測用
生させて補正を行う実験を行った.その結果をFig。9に示
のシャックハルトマン波面センサーおよびそれ用の参照
光源からできている.LDとコリメーターレンズを組み合
わせた上に,樹脂製の薄い板(位相補償板)を載せ,LDを
す.最初0.9λあった波面収差が0.4λまで補正できる事が
発光させて出力波面を計測する.この波面のデータから
れば,波面補正はほぼ行えることが示された.この他
に,使用している波面計測器に分解能上の問題があり,
精度が上がっていない事も判明しており,現在改修中で
ある.最近開発された波長0.94μmの出力0.2WのLDを用
3mm
い,新しく設計したコリメーターレンズで波面補正を行
ノ
う準備を進めている.
Focusinglens
utput
示された.これにより,最初の波面収差が大き過ぎなけ・
Diチf
Dlチfractionlimit
0、2W
d國3、8μm
、一
9、微細加工への応用
_炉一
LD
㍊
一 1cm
O,6mm
本節ではこれまで述べてきた単一モードのLDを高輝度
に集光することによる各種の応用可能な用途について述
Phasecorrected
area
Collimator phase
べたい.波面補正を行った単一モードLDの特徴は,何と
lens
compensator
Fig。7High brightness LD system.
Shack−Hartman籍wavefrontsensori
CCD
iLensarray
言っても装置全体が小型・軽量になることと,装置全体
の価格が他のレーザー装置に比べて格段に低価格になる
という点にある.使用するLDは,最近普及の著しいLD励
起固体レーザーの励起用LDよりも簡便なもので,波面補
正も初期に位相補正を行っておくとその後は無調整で使
camera
Foc纏singlens
・く
Beam
BS
shaper
べ
ArF laser
)餌罫〆
¢
o
ぼ
.90
怒
←8 〔
田
Φ 蓼
8
ゆ
Phasecompensator
Co目imator lens
く 簿
く 奪、. 覇
廟mア鴨 汽
x(吻 穿 鳶
しD
Before correction
X−Ystage
Fig,8LAS system for LD phase correction,
334
After correction
碧一V O,9唾 λ
P−V O。39λ
RMS O.18 λ
R麟S O.089 λ
Beam size 2.3mm
Beam size 2.3mm
Fig。9Resultofopticalphasecorrection。
レーザー研究 2003年5月
用できるため,装置としては簡便・堅牢なものとなる.
このため,微少部品の製造工程や半導体部品の加工プロ
セスの個々の工程の直後にマーキングを行ったり,工程
管理のためのトレーサブルマーキングなどが行える.ま
た,装置全体が軽量であるために,レーザー光をファイ
バやガルバノミラーで伝送しなくても,直接加工点に動
かすことができるため,簡便な加工システムが構築でき
‡
紹介する.
8S
H
…
ぐ 、隔r 、
マ 、
Oblect
,認
ICoii i mator し
X−Ystage
lens \11ens
る.また,必要な場合には単一モードファイバにも容易
に結合できるため,特に顕微鏡にレーザー光を供給する
場合には利便性が高い.以下に個々の応用可能な用途を
Phase corrector
LD Auto−focus
謙ll,口
/{’\」
爆廻ラ珈
9.1 マクロマーキングと微細マーキング
Fig。10Posslble micro−marking system with single−mode
電子部品や光学部品に文字を書き込むマーキングに
は,肉眼で視認できるマクロマーキングと,肉眼では見
えない微細マーキングが考えられる.マクロマーキング
は製造会社名など,使用者に見てもらうことで機能を発
揮する用途に使えるが,逆に使用者に読まれる必要のな
いマーキングも存在する.その一例が製造工程の管理用
のトレーサブルマーキングである.このマーキングは部
個々のウエファの同定が重要となる.現用のシステムで
はウエファのトレイに磁気媒体等で工程の状況が記録さ
れているが,ウエファそのものへの記載が必要な工程も
あるため,直接書き込みができることも望まれる.その
ような場合にはLDマーカを工程直後に設置して書き込む
品の特定の位置に,微細な2次元バーコードなどのような
ことができる.
特殊な記号を記載して製造日時や製造ライン,型番や使
用材料と加工プロセスのパラメーターなどを書き込み,
9、4 微小部品管理
LD.
CDやDVDなどのピックアップレンズや通信用フィル
万一不良が出たときに逆上って調査して不良原因を確認
したり,特定の出荷先などの顧客確認などに使用できる
ものである.従って,このマーキングは使用者の操作で
消えない部位に数μm程度のドットを用いて記載し,工程
接記載することが困難であったが,微細マーキングが可
能となると,たとえば微少なレンズの側面に部品番号を
での管理やトラブルの時に読み取るためのものである.
書き込むことが可能となるため,使用上の利便性は格段
この処置は,その性格上加工現場でプロセスの直後に記
に向上すると考えられる.
ターなどの極微少部品には,これまで部品番号などを直
載する必要があり,製造工程やラインの数だけ書き込み
装置が必要である.しかし,従来のレーザーマーカなど
は装置が高価であり,十分な数を備えることは一般的に
困難である.光源がLDになると,装置価格が各段に低下
するので,容易に設備を揃えられると考えられる.この
トレーサブルマーキングは今後の我が国における付加価
9.5 生物・医学応用
値の高い産業育成には欠かせない重要な要素技術となる
置き変わることも可能であろう.
微小に集光できるLDがあると,その光を顕微鏡などに
導入し,細胞メスや細胞のマニュピレーションなどに使
用できると考えられる.これまでこのような装置の横に
置かれていたYAGレーザーなどが小さな箱とファイバに
と考えられる.
10.まとめ
9.2 微細マーキング装置
上に述べた微細マーキングを行うには,LDの波面を補
正して微細な集光を行うと共に,加工物に対して焦点調
整を行い,縦横10緋m程度の文字や数十μm程度の2次元
バーコード(2次元に配列されたドット)を書き込む必要が
ある.したがって,LDとコリメータレンズ,位相補償
板,集光レンズとオートフォーカス装置が一体で小さな
X−Yステージの上に搭載されている必要がある.その様子
をFig.10に示す.従来のマーキングがmmサイズであった
のに対し,この方式で作製されるマーキングは最小文字
サイズが10継m程度となる.
9.3 インラインマーキング
半導体プロセスなどでは多数の処理工程をシリコンウ
エファーが順次巡っていく機構が取り入れられるため,
本稿では,半導体レーザー(LD)の光学的特性とその改
善方法,および1W未満の低い出力のLDによる高輝度集
光の可能性,レーザーアブレーションを用いた波面補正
の原理と方法,現在の課題と今後の改善の方向,このよ
うな微小集光LDの応用分野について記述してきた.LD
は,小さい出力での応用を考えた場合には理想的な固体
レーザーであり,これまでのレーザー加工に比べて非常
に小さく絞ることが可能であり,十分な照射密度が得ら
れるであろうことが判明した.現状ではまだ十分な集光
密度は得られていないが,その改善のための検討では原
理的な困難は見当たらない.従って,いずれ非常に高い
輝度のLD加工機が実現できるものと考えられる.この場
合,トレーサブルマーキングとしての用途は多くの産業
製品に広がるものと考えられる.この方式が,日本発の
第31巻第5号 半導体レーザービーム整形技術一直接加工のためのビーム整形,現状と課題,将来展望一
335
オリジナル技術として産業界に広く普及することを願っ
Optics38(1999)3338.
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レーザーワード
レーザーアブレーション整形(laserablative sha in)
短い波長のレーザー光によるアブレーションを用いた
加工が可能となる.実証例では193nmのArFエキシマレー
光学素子の波面制御法.従来の光学素子の整形法とは異
なり,レーザーアブレーションを用いて表面の物質を任
意の深さで除去し,透過波面や反射波面を改善する.こ
波面を初期収差2.5λから修正後に入/5以内に改善すること
の場合,波長の短いレーザー光の方が物質内での吸収係
数が大きく,表面の薄い層で吸収されるためにきれいな
336
ザーを用い,PMMAなどのプラスチックを整形して透過
ができた.大きい光学素子を整形しようとすると加工時
間がかかるため,従来の方法が困難な微小光学系の波面
補正に適している. (實野孝久)
レーザー研究 2003年5月