ツーリズムにおける宿泊の CO 2 排出量推計方法の提案 - 名古屋大学

B1-03
第 6 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2011 年3月)
ツーリズムにおける宿泊の CO2 排出量推計方法の提案
The Estimation Method of CO2 Emission for Hotel Accommodation in the Tourism
○玉利有香*1)、森本涼子 2)、稲葉敦 1)
Yuka Tamari, Ryoko Morimoto, Atsusi Inaba
1) 工学院大学, 2) 名古屋大学
*[email protected]
1. はじめに
環境問題が叫ばれる昨今、消費者の「環境に優しい行
100%
動をとりたい」という意識が高まっている。そこで、商
品やサービスのライフサイクルにおける温室効果ガスを
80%
60%
算定して表示する“CO2 の見える化”の需要が増えてきて
いる。社団法人日本旅行業協会によると、国内旅行者数
40%
は年間 3 億人を超え、それに伴う CO2 排出量は小さくな
い。そこで、旅行についても CO2 の見える化を行い CO2
20%
商業施設
100%
0
3
26
21
飲食
14
宴会
32
バックヤード
20
パブリック
30
宿泊
シティ・リゾート
2
62.5
50
20%
その他
(パブリック等)
宿泊部門
0%
ビジネス
1
<エネルギー消費割合1)>
CO2 排出量削減が可能となる。
旅行には、移動、食事、宿泊、観光の 4 つの構成要素
宴会
飲食
40%
26
により消費者の環境意識の向上を図り、旅行産業での
10
37.5
80%
16
42
ビジネス
1
10
60%
0%
排出量の少ない旅行を提案することは重要である。それ
0
シティ・リゾート
2
<水道水使用割合2) >
図 1 ホテルの部門別エネルギー消費割合
がある。しかし、それらの CO2 排出量を算定するための
800000
y = 7.523x + 69509
R² = 0.6239
方法が整備されていない。そこで、本研究では「宿泊」
600000
CO2 [kg]
を取り上げ、ホテルに 1 泊する際の空調・照明等のエネ
ルギー消費やアメニティグッズのライフサイクルに起因
する CO2 排出量の推計方法を整備する。既存研究では宿
400000
泊する施設のエネルギー消費量を調査しているが、その
200000
ようなデータの入手は困難であるため、入手が容易なデ
ータで簡易に推定する方法を提案する。また、求めた推
0
0
計式を用い、ツアーでの CO2 排出量を算出する。
20000
40000
60000
80000
宿泊人数[人]
2. 宿泊による CO2 排出量の推計方法
対象とするのはホテルのみであり、旅館等は含まない。
評価対象は、1)エネルギー消費量、2)水道水使用量、3)
アメニティである。エネルギー消費量には電気と都市ガ
スの和の値を用いる。
図 1 に示すように、ビジネスホテルとシティ・リゾー
トホテルでは部門構成が異なるため、分けて考える。ま
た、本研究では宿泊・パブリックの 2 部門で排出される
CO2 を、1 泊する際の CO2 排出量とする。
CO2 排出原単位は JEMAI-LCA PRO の値をそれぞれ用
図 2 ビジネスホテルの宿泊人数と CO2 排出量の関係
(1)エネルギー消費量
ビジネスホテル年間宿泊人数と CO2 排出量の関係を図
2 に示す。近似式は y=7.52x+69509 となった。定数項の
値をバックヤードでの CO2 排出量とし、7.52[kg- CO2]の値
をビジネスホテル 1 人 1 泊の CO2 排出量とする。
(2)水道水
(1)と同様の方法により、1 人 1 泊する際の水道水使用
による CO2 排出量として、0.155[kg- CO2]が得られた。
2.2 シティ・リゾートホテル
シティ・リゾートホテルでは系列の異なる 4 ヶ所のデー
タを用いる。
いる。
2.1 ビジネスホテル
ビジネスホテルについては同系列の全国19ヶ所のデー
(1)エネルギー消費量
タを使用し、回帰分析を行う。これらのホテルはいずれ
シティ・リゾートホテルの 1 人あたりのエネルギー消
も部屋数 200 室前後であり、他系列のビジネスホテルと
規模の差はほとんどない。そのため、一般的なビジネス
費量は、ホテルの規模に比例することが分かった。本研
究ではホテルの規模を表しかつ入手の容易なデータを説
ホテルには以下の式が適用できる。
明変数による推計式を提案する。
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第 6 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2011 年3月)
図 1 のとおり、本研究の宿泊に関するエネルギー消費
割合は46%であるため、
ホテルの総CO2 排出量の46%を、
食事
90.0[kg]
24%
宿泊人数で割った値を 1 人 1 泊あたりの CO2 排出量とし
て使用する。
シティ・リゾートホテル 1 泊あたりの CO2 排出量を、
宿泊
45.9[kg]
13%
ホテルの規模を説明変数として回帰分析を行い、式(1)
移動
233.8[kg]
63%
(2)を得た。ホテルの規模として、各ホテル 1 泊の平均
宿泊金額、又は部屋数を用いている。
y=10.026x (R2=0.97)
・・・(1)
合計CO2排出量 369.7[kg]
図 3 ツアーの CO2 排出量割合
ただし、y:1 泊の CO2 排出量[kg- CO2]、x:金額[万円]
y=00534x (R2=0.88)
占める割合を図 3 に示す。図 3 をみると、移動、食事、
・・・(2)
ただし、y:1 泊の CO2 排出量[kg- CO2]、x:部屋数[室]
なお、式(2)においてビジネスホテルの平均宿泊金額
飛行機による CO2 排出量が大きな割合を占めている。国
は 1 泊 5800 円と設定しており、シティ・リゾートホテル
内旅行では、飛行機ではなく他の移動手段を利用するこ
宿泊の順で CO2 排出量が大きいことがわかる。移動では、
で5800円以下のホテルはビジネスホテルの値を用いても
とで、移動全体の CO2 排出量を削減することが可能であ
よい。
(2)水道水
る。その場合は、宿泊・食事の割合が大きくなり、削減
策の検討が重要になる。また、食事の占める割合が大き
図1よりシティ・リゾートホテルの宴会と飲食を除い
い要因として、回数が多く、また、国内のツアーで提供
た水道水使用量は 80%であることから、水道水の CO2 排
出量の 80%を宿泊人数との関係で考える。2.1 節と同様の
されることの多い会席料理は品数も多く手間がかかるこ
とが考えられる。
方法により、シティ・リゾートホテルで 1 人 1 泊する際
の水道使用による CO2 排出量は 0.6094[kg- CO2]とする。
4. まとめ
2.3 アメニティ
ビジネス・シティ・リゾートホテルに 1 泊する際の 1)
アメニティによる CO2 排出量として、シャンプー・リ
ンス容器、ハブラシ、カミソリ、シーツ、タオル、ピロ
空調・照明等のエネルギー消費量、2)水道水使用量、3)
アメニティに起因する CO2 排出量の推計方法を提案した。
ケース、固形石鹸、液体石鹸の LCA 結果 3)を用いる。そ
これを用い、旅行でホテルに宿泊する際の CO2 排出量を
の結果、1 泊あたりのアメニティ由来の CO2 排出量は、
事前に簡易に推計できる。例として国内ツアーの CO2 排
合計 1.51[kg-CO2]となる。
ビジネスホテル 1 泊の CO2 排出
量と比べると、宿泊の CO2 排出量の 17%に相当し、無視
出量を推計した結果、宿泊は他の要素と比べても無視で
きない割合を占めることを示した。旅行会社ではツアー
できない。
の CO2 排出量を表記し、CO2 排出量のより少ない旅行の
提案をすることができる。それを受けて消費者は CO2 排
3. ツアーの CO2 排出量算定例
3.1 ツアーの概要
出量の少ない旅行を選択することが可能となる。
2 章の結果を用い、
国内旅行の CO2 排出量を算出する。
5. 引用文献
今回用いるツアーの詳細を以下に示す。
1) 経済産業省:
“総合資源エネルギー調査会省エネルギ
[日程] 4 泊 5 日
[観光地] 九州周遊
[宿泊施設] リゾートホテル
[人数] 10 名
ー部会政策小委員会(第 4 回)-配布資料”
, 資料 3 内田
委員提出資料,(2007)
[食事回数] 朝:4 回
2) 福田光久,三船俊冶,柴田隆充:日本エネルギー学会
昼:4 回
夜:4 回
[交通起点] 羽田空港
大会講演要旨集 (14),p.294,(2005)
[乗り物] 飛行機・バス・フェリー
3.2 ツアーの CO2 算定結果と考察
3) 山田俊成:
“ホテルにおける省エネ・省資源化に伴う
環境負荷低減効果の定量化~LCA 手法を用いて~”,
移動では伊藤ら 4)の原単位を用いて CO2 排出量を算出
pp.24~40,(1999)
した。食事の CO2 排出量とは、調理に伴う CO2 排出量と
4) 伊藤友佳,森本涼子,柴原尚希,加藤博和:
“日本 LCA
食材に伴う CO2 排出量の和である。調理には風間ら 5)の
学会”
,仙台,(2011),CD-ROM
調理推計式を用い、材料には味の素グループ版「食品関
5) 風間理応,森本涼子,稲葉敦:
“日本 LCA 学会”
,仙
連材料 CO2 排出係数データベース」を用いた。宿泊は、4
台,(2011),CD-ROM
泊すべて異なるホテルに泊まる。
ツアーの CO2 排出量と移動、宿泊、食事、それぞれが
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