日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.39(2004)pp.247 - 257 有珠山 2000 年 3 月 31 日噴火における火砕物の 形態的特徴から導かれる噴火プロセス 高橋 寛徳・大野 希一・遠藤 邦彦 Eruptive Process of the Eruption in the Usu Volcano, on the March 31, 2000, Inferred from Morphological Characteristics of the Pyroclastic Deposits Hironori TAKAHASHI, Marekazu OHNO and Kunihiko ENDO ( Received September 30, 2003 ) Phreatomagmatic explosion occurred on March 31, 2000, at Usu volcano showed complex sequence of volcanic phenomena ( i. e. temporal variation of cloud height, generation of cock’ s tail jets and collapsing of eruption cloud ). It is considered that these changes attributed to eruption rate of essential materials. In order to investigate the relationship between the content of essential material and volcanic phenomena observed, we attempted to detect an essential material derived from phreatomagmatic explosion on March 31, 2000, at Usu volcano, on the basis of the observations of morphological characteristics of the ejection ( i. e. visible color, vesicularity, and shape and mean size of vesicles of micro pumice, and content and shape of microlites in groundmass). On the basis of microscope and SEM analysis, pumice grains erupted on March 31 event can be divided into 3 types;1) high -vesiculated white grains with circular vesicles, 2) low-vesiculated gray grains with circular vesicles, and 3) high-vesiculated white grains with elongated vesicles is similar to those of pumice in Toya pyroclastic flow deposits which distributed under and around Usu volcano. From these observations, it is concluded that type 1 and 2 are essential material of this explosion, and type 3 is the accessory material of this explosion, which derived from the Toya pyroclastic flow deposits. Strong correlation can be detected between content of the essential material in the deposit and cloud height observed. It suggests that cloud height depends on the eruption rate of essential material. However, 2 types of essential materials can be observed ( type 1 and 2), and besides, these contents have temporal variation in the deposit. It implies that interaction between water and magma was heterogeneous. Generally, cloud height correlated with content of type 1 in the deposit, except for some cases. Judging from the observation, morphological characteristics of type 1 was produced by the more magmatic eruption in the phreatomagmatic explosions. In some cases, however, cloud height is systematically low nevertheless content of essential material is high. It would explain that magma was fragmented more strongly by efficient interaction between magma and ground water. Keywords: Essential material, Morphological characteristic, Usu 2000 eruption, Vesiculation り の 噴 火 を 開 始 し た( 宝 田・ 羽 坂,2000; 川 辺, 1 はじめに 2000;岡田・他,2000;宇井・総合観測班地質グルー 北海道南西部に位置する有珠山は 2000 年 3 月 31 日 13 時 07 分に,前回の 1977 ~ 78 年噴火から約 22 年ぶ 日本大学文理学部地球システム科学科: 〒 156-8550 東京都世田谷区桜上水 3-25-40 プ,2000)。噴煙高度が 1000m を越えるような噴火活 動は 4 月 7 日まで行われたが( 稲葉・他,2000;中田, Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156- 8550 Japan ─ 247 ─ (147) ( ) 高橋 寛徳・大野 希一・遠藤 邦彦 Fig.1 Isopach map of Layer A ( after Kunikata et al., 2003 ), which derived from the phreatomagmatic explosions occurred on March 31, the Usu 2000 eruption. The Layer A distributes mainly NE direction from the N1, N2 and N3 craters (Ui et al., 2002a), and some minor axes were also observed to N and NW direction. Samples of Layer A were collected at Location (a), ( b ) and ( c ), and those of Usu 1977 and 1822 ejection were at Location (d). A: KA crater, B: KB crater, Kp: Kompirayama, Ty: Toyako Kindergarten. 2001; 宇 井・ 他,2002; 国 方・他,2003; 本 松・他, 東宮・他( 2001 )は,2000 年 3 月 31 日噴火による本 2003),3 月 31 日の 13 時 07 分から 17 時 25 分の噴火が 質マグマ由来の軽石が 1977 年噴火により形成された 最大規模であったとされている(大野・他,2002;宝 軽石と色調や形態及び化学組成が類似するため,本質 田・他,2002)。3 月 31 日の噴火は有珠山西麓の西山西 軽石を認定する手段として,軽石に含まれる磁鉄鉱斑 側山麓に N1,N2,N3 火口(宇井・他,2002)を形成し, 晶の化学組成の測定を行い,主にその違いを認定の決 活発な噴火活動は数時間であったにもかかわらず,噴 め手とした。また,中川・他( 2002 )では,詳細な全 煙柱高度が 100 m から最盛期では 3500 m まで達する 岩化学組成を行うことにより 1977 年噴火による軽石 (国方・他,2003)など大きく変化し,またプリューム と 2000 年噴火による軽石の違いを見出し,2000 年噴火 状やサージ状,コックステールジェット状など様々な による本質軽石の化学組成上の特徴を認定している。 形態の噴煙を噴出するなど,いろいろな変化が見られ 本稿では,有珠山 2000 年 3 月 31 日に起きたマグマ た(国方・他,2003)。また,この噴火は噴出物中に本 水蒸気噴火を対象に,噴出した軽石の化学組成等を測 質マグマ物質が含まれていたことからマグマ水蒸気噴 るのではなく,発泡構造や石基構造等を含めた形態的 火であったことが明らかにされている(東宮・他, 特徴を詳細に分析し,その特徴を過去の噴火によって 2001;中川・他,2002)。 もたらされた本質物質の形態的特徴と比較することに (148) ─ 248 ─ 有珠山 2000 年 3 月 31 日噴火における火砕物の形態的特徴から導かれる噴火プロセス Fig.3 Flow chart of image process in analysis of this study. Fig.2 Flow chart of the method to detect the essential material on the basis of observation of morphological characteristics of pyroclastic materials. 色,明灰色,灰色,暗灰色)の違いに基づいて分類を 行った。そしてそれぞれ分類した軽石群から,任意に 選出した約 30 粒に対し,偏光顕微鏡による薄片観察 と走査型電子顕微鏡( SEM )観察を行った。 より本質物質を認定することを試みた。さらに噴煙柱 薄片観察では斑晶鉱物や石基組織の観察を行った。 の高さや形態等の変化は大局的にはマグマの噴出率の また,SEM 観察では軽石の断面を観察し,気泡球の形 変動を反映している可能性が高いことから,本論で認 状や密度等の発泡構造について観察を行った。そし 定した本質物質の含有量が時間とともにどのように変 て,画像加工ソフト( Photoshop )及び画像解析ソフ 化するのか,またそれが噴煙の上昇高度や火砕サージ ト( Scion Image )を用いて斑晶鉱物やマイクロライ の発生といった表面的な噴火現象とどのように対応す ト,及び気泡球の面積,周長,長径,短径,円形度( 4 るのかについて比較検討した。 π× 面積 /(周長)2;Cashman and Mangan, 1994 ),ア スペクト比(長径 / 短径) ,そして気泡球面積から発泡 2 分析方法 度を,マイクロライトの面積からその占有量を,斑晶 Fig. 1 は試料採取地点,及び 2000 年 3 月 31 日噴火に 鉱物の面積から斑晶量を測定した( Fig. 3 )。なお本論 より噴出された火砕堆積物( Layre A )の等層厚線図 では長径が 60μm 以下の鉱物をマイクロライトと定義 ( 国方・他,2003 に加筆)である。また,Fig. 2 に本研 する。 究で行った分析方法のフローチャートを,特に画像解 また,N1,N2,N3 火口の火口壁( Fig.1 の d )で確認 析を行った具体的な手順は Fig.3 に示した。2000 年 3 月 できた有珠山の過去の噴火による堆積物である 1977 31 日噴火の本質軽石を認定するための試料を N1,N2, 年噴火による堆積物( Us-1977-II・III;新井田・他, N3 火口から,降灰分布の主軸にあたる北東方向 400 m 1982 )と 1822 年の文政火砕流による堆積物(曽屋・他, の地点( Fig.1 の地点c)より採取した。採取した試料 1981;宝田・他,2002 ) ,そして火口付近に厚く堆積 について湿式粒度分析を行った後,0 φ( 1 mm )~ - 2 していると考えられる洞爺火砕流堆積物を北海道伊達 φ( 4 mm )のサイズの軽石粒子(マイクロパミス)を 市館山町国道37号沿いで採取し, 同様の分析を行った。 拾い出し,後述するような形状解析等の分析を行っ た。この粒子サイズを選定したのは,軽石粒子の形状 3 分析結果 や色調及び内部構造的な特徴を観察しやすく,かつ充 3. 1 実体顕微鏡下での観察結果 Fig. 4 に各噴火年代ごとの軽石の外形的特徴に基づ 分な個数が確保できたためである。 拾い出したおよそ 1000 粒の軽石に対し,まず実体 く分類結果を示す。実体顕微鏡下で 0 ~ - 2φの軽石 顕微鏡下で観察を行い,形状( 丸みを帯びた形状,破 粒子を観察し,発泡形態,外形,及び色調で分類を行っ 断面に囲まれた形状)及び色調( 明白色,白色,暗白 たところ,2000 年噴火による軽石は 8 種類( 2000-1 ~ ─ 249 ─ (149) 高橋 寛徳・大野 希一・遠藤 邦彦 Fig.4 Pictures of pumice produced from Usu 2000 eruption, Usu 1977 eruption ,Usu 1822 eruption and pyroclastic flow of Toya by substance microscope. These pumices were classified from the difference in the shape of vesicles, external shape and visible color. The Usu 2000 pumice can be grouped into 8 types ( 2000-1~8). On the other hand, the Usu 1977 pumice, the Usu 1822 pumice, and the Toya pumice can be grouped into 5 types ( 1977-1~5), 4 types ( 1822-1~4), and 3 types (Toya- 1~3), respectively. 8 ),1977 年噴火による軽石は 5 種類( 1977-1 ~ 5 ), 1822 年噴火による軽石は 4 種類( 1822-1 ~ 4 ),洞爺 火砕流による軽石は 3 種類( Toya-1~3 )に分類でき Table 1 Phenocryst content of pumices for Usu 2000, 1977, 1822 eruption. (Pl: plagioclase, Mt : magnetite, Opx : ortho-pyroxene). る。タイプ別に分類されたそれぞれの軽石群の特徴を 2000 年噴火による軽石と過去の噴火( 1977 年,1822 年,洞爺火砕流)による軽石で比較すると,2000-1 ~ 6 は 1977 年噴火及び 1822 年噴火によって噴出された 軽石と,また 2000-7・8 は洞爺火砕流による軽石とそ れぞれ類似する。このため 2000 年噴火による本質軽 石を他のマグマ噴火により生じた軽石と外形的な特徴 を基に認定することは非常に難しい。 3. 2 含有鉱物の比較 Table 1 に外形的特徴に基づき分類された各噴出年 代ごとの軽石群の斑晶量を,Fig. 5 に各噴出年代におけ る軽石の石基部分に含まれるマイクロライトを表す薄 片写真を示す。なお,斑晶量は軽石粒子数粒に対して 測定し,平均値を算出した。分類された軽石の含有鉱 物を比較したところ,2000-7・8 に分類された軽石群 は斑晶鉱物及びマイクロライト共にほとんどみられな いという特徴を持ち,洞爺火砕流による軽石( Toya- 1~3 )にも同様の特徴が見られた。2000-1 ~ 6 に分類 された軽石群は主に斜長石,斜方輝石,磁鉄鉱の斑晶 鉱物を持ち,1977 年噴火による軽石( 1977-1 ~ 5 )や, (150) ─ 250 ─ 有珠山 2000 年 3 月 31 日噴火における火砕物の形態的特徴から導かれる噴火プロセス Fig.5 Thin sections of pumices for Usu 2000, 1977, and 1822 eruption by polarization microscope. These images were cross Nicols. ( a ): 2000-1~ 6 pumices have many needle plagioclase microlites in groundmass. (b): The Usu 1977 pumice has a little needle plagioclase microlites. ( c ): The Usu 1822 pumice has many needle and polygonal microlites. 1822 年噴火による軽石( 1822-1 ~ 4 )でもこれと同様 の斑晶鉱物の組み合わせが見られた。また,斑晶量も ほぼ同量である( Table 1 )。 しかし 2000-1 ~ 6 と 1977 年噴火による軽石,及び 1822 年噴火による軽石では石基部分に含まれるマイ クロライトの形状や含有量が異なる( Fig. 5 )。それぞ れの軽石群における軽石粒子のマイクロライトを画像 解析し比較した結果を Fig.6 に示す。2000-1 ~ 6 の軽 石群にはアスペクト比が平均 3.59 と伸張した針状斜長 石マイクロライトを平均 7.12%含む。1977 年噴火によ る軽石は,アスペクト比が平均 3.17 と 2000-1 ~6 の軽 石群とほぼ同形状の針状の斜長石マイクロライトを含 むが,その含有量は平均 1.19%であり 2000-1 ~ 6 の 軽石群に比べて系統的に少ない。1822 年噴火による軽 石は,斜長石マイクロライトの含有量は平均 8.34%と 2000-1 ~ 6 の軽石群とほぼ同量であるが,アスペク ト比は平均 2.38 であり相対的に短柱状の形状を呈す る。なお,東宮・他( 2001 )においても 1977 年噴火に Fig.6 Relations between contents of microlite and average of aspect ratio for microlite in groups of pumice for Usu 2000 eruption (2000-1~6), Usu 1977 eruption (1977- 1~5) and Usu 1822 eruption ( 1822-1~4). 2000-1~6 have high content of microlites, and these microlites are high aspect ratio. 1977- 1~5 have low content of microlites, and these microlites are high aspect ratio. 1822 - 1~ 4 have high content of microlites, and these maicrolites are low aspect ratio. よる軽石はマイクロライト量が少なく,2000 年噴火に よる本質軽石はマイクライトの量が多いという記述が ごとの軽石の発泡構造の画像を示す。2000-7・8 に分 あり,本稿の結果と整合的である。 類された軽石群は顕著な繊維状の発泡形状を呈し,洞 以上から,2000-7・8 については洞爺火砕流による 爺火砕流による軽石( Toya-1~3 )のそれに類似する。 軽石と斑晶鉱物,マイクロライト共に特徴が極めて類 一 方,2000-1 ~ 6 に 分 類 さ れ た 軽 石 群 と 1977 年, 似するが,2000-1 ~ 6 の軽石群については石基部分に 及び 1822 年噴火による軽石では,各噴出年代や各軽 含まれるマイクロライトの量と形状が,過去の噴火に 石群で発泡構造にそれぞれ違った特徴が認められる。 よる軽石の持つ特徴と異なる。 2000-1 ~ 6 の軽石群は気泡の球形度が平均 0.81 と極 3. 3 発泡構造の比較 めて高い( Fig.8 )。また 2000 年噴火による軽石の発泡 Fig. 7 に外形的特徴に基づき分類された各噴出年代 度はおよそ 60%程度の粒子と 20%程度の粒子に 2 分さ ─ 251 ─ (151) 高橋 寛徳・大野 希一・遠藤 邦彦 Fig.7 Cross section of pumices for Usu 2000, 1977, 1822 eruption and pyroclastic flow of Toya by SEM. 2000 - 1~ 6 have the shape of circular bubbles, and 2000-7・8 have the elongated bubbles. 1977-1~5 and 1822-1~4 have the shape of various bubbles. Pyroclastic flow of Toya pumice have the bubbles similar to 2000-7・8. れ,中でも 2000-1・2 の軽石群は 50 ~ 70%と高い発 泡度を示す。これに対し 1977 年及び 1822 年噴火によ る軽石は共に発泡度は 20 ~ 65%と 2000-1 ~ 6 の軽石 群とほぼ同等であるが,分布は一つにまとまる。気泡 球の円形度は平均 0.34 と低い。 また,Fig. 9 に 2000-1 ~ 6 の軽石群における軽石粒 子 1 粒中に含まれる気泡球のうち 3000 ~ 4000 個を対 象にした断面積のヒストグラムを示す。2000-1・2 の 軽石群は断面積が 100μm 以下の気泡球の割合が 40 ~ 50%程度であるのに比べ,2000-3 ~ 6 の軽石群では 60 ~ 75%を占め,サイズが小さい気泡球の割合が高い。 以上から,2000-7・8 の軽石群は洞爺火砕流による 軽石と極めて類似した発泡構造を持つが,2000-1 ~ 6 の軽石群は,過去の噴火による軽石には認められない 発泡構造を呈する。 Fig.8 Relations between average of sphericity for bubbles and vesicularity in groups of pumice for Usu 2000 eruption ( 2000-1~6) ,Usu 1977 eruption (1977-1~5) and Usu 1822 eruption (1822-1~4). Shericity for bubbles of 2000-1~6 is systematically higher than 1977-1~5 and 1822-1~4. And groups of pumice for Usu 2000 have bimodal distribution in vesicularity. 3. 4 本質軽石の認定 3.2. 及び 3.3. に示した結果を総合すると,2000-7・8 を有する。このことから,2000-1 ~ 6 は有珠山 2000 の軽石群は表面形態,含有鉱物,発泡構造全てについ 年 3 月 31 日噴火の本質物質とみなすことができる。 て洞爺火砕流による軽石と特徴が類似するため,2000 1977 年及び 1822 年噴火による軽石は 3 月 31 日の噴火 年噴火起源の本質軽石ではなく洞爺火砕流堆積物を起 を引き起こした N1,N2,N3 火口壁に露出しているこ 源とする類質軽石であると考えられる。しかし,2000 とから 2000 年噴火による火砕物中に含まれているは -1 ~ 6 に分類された軽石群は,その外形や色調は類 ずであるが,今回は類質軽石として見出すことはでき 似していたもののマイクロライト及び発泡構造に有珠 なかった。これは,東宮・他( 2001 )や宝田・他( 2002 ) 山の過去の噴火による軽石には見られない独特の特徴 が示しているように,火口壁で認められた有珠山の過 (152) ─ 252 ─ 有珠山 2000 年 3 月 31 日噴火における火砕物の形態的特徴から導かれる噴火プロセス Fig.9 Histogram of cross-section area for bubbles in groups of pumice for Usu 2000 eruption (2000-1~6). 2000- 2 3 ~ 6 include bubbles 100μm or less at a high rate compared with 2000-1 and 2000-2. Fig.10 去の噴出物の層厚と N1,N2,N3 火口の面積から換算 される混入量が 2000 年 3 月 31 日に噴出された火砕物 の総重量の約 1.2%とごく少量であり,1000 粒程度の Typical columnar sections of the LayerA. (a) 150m ENE from N1, N2 and N3 craters ( Locality ( a ) in Fig. 1 ). ( b ) 200 m NE from N1, N2 and N3 craters ( Kunikata et al.,2003; Locality ( b ) in Fig.1 ). ( c ) 400m NE from N1, N2 and N3 craters (Locality (c) in Fig. 1). 観察で類質物質が多量に含まれることは考えにくいた めと考えられる。 3. 5 2000 年噴火における本質軽石の形態及び内部 と,国方・他( 2003 )による柱状図( Fig. 1,地点 b ) を示す。地点 a では,2000 年 3 月 31 日噴火による噴火 構造の特徴 2000 年噴火によって噴出された本質軽石の形態的 堆積物( Layer A )が層厚 165 mm で確認され,その上 部には暗灰色~黒褐色の凝集火山灰層( Layer D;大 特徴をまとめると以下のように記述できる。 まず,色調は暗白色から暗灰色と比較的暗い色を呈 野・他,2002)が厚く堆積する。この地点では Layer A する。外形は丸みを帯びたものと破断面に囲まれたも は少なくとも 15 枚のサブユニット(下位から第1~ のがある。斑晶鉱物は主に斜長石,斜方輝石,磁鉄鉱 15層)に細分でき,シルトサイズの火山灰層と粗粒 を含み,過去の噴火のものと差異はないが,石基部分 砂~細レキサイズの軽石層の互層からなる。粗粒砂~ に含まれるマイクロライトには針状に伸張した斜長石 細レキサイズの軽石を多く含むのは第2層,第4層, マイクロライトを平均 7.12%と比較的多量に含む。ま 第 6 層, 第 8 層, 第 1 2 層 で あ る。 第 2 層 は 層 厚 た,気泡球の円形度が平均 0.81 と極めて高く,有珠山 7 mm で径 2 ~ 5 mm 程度の軽石を含む。第4層は層厚 の過去の噴火には見られない独特な特徴を呈する。ま 22 mm で径 5 ~ 10 mm 程度の軽石を含む。また 1 mm た,2000 年噴火による軽石は,主に外形が丸みを帯び 程度の軽石が細粒火山灰にコーティングされている。 た形状を呈し発泡度の高い軽石( 2000-1・2 )と,主 第6層は層厚 3 mm で径 1 ~ 2 mm 程度の軽石を含む。 に外形が破断面に囲まれた形状を呈し,気泡サイズの 第8層は層厚 11 mm で径 5 ~ 15 mm の軽石を含む。第 小さい気泡を多く含み発泡度が低い軽石( 2000-3 ~6 ) 12層は層厚 7 mm で径 5 ~ 15 mm 程度の軽石を含む。 の 2 種類に大別することができる。 また,第2層,第4層,第6層は軽石とほぼ同じサイ 3. 6 本質物質の含有量の時間変化 ズの石質岩片を多く含む。これら各層のうち,層位や Fig. 10 に Fig. 1 における地点 a 及び地点cの柱状図 岩 相 の 特 徴 か ら 第 4 層 か ら 第 1 2 層 は 国 方・ 他 ─ 253 ─ (153) 高橋 寛徳・大野 希一・遠藤 邦彦 Fig.12 Fig.11 Components analysis of Unit 1 to Unit 15 in Layer A. 500 Particles in 1mm to 2mm ( 0φ~-1φ) size range were counted. Components were classified for 2000- 1 to 2000-6 ( essential pumice ), lithic and pyroclastic deposits of Toya. ( 2003 )の第15層から第23層に対比できる。 Correlation diagram between vesicularity and average of cross-section area for bubbles in groups of pumice for Usu 2000 eruption ( 2000-1~6 ) and Usu 1977 eruption (1977-1~5 ). These two factors are correlated on 2000-1, 2000-2 and 1977-1~5. But these two factors are not correlated on 2000-4~6. による軽石は 2000-1・2 の軽石群は 1977 年噴火によ Fig. 11 に地点 a で確認できた Layer Aの15層全て る軽石と同様,発泡度と気泡断面積の間には相関関係 に対して湿式粒度分析を行い,0 ~- 1φの構成粒子各 が認められるのに対し,2000-4 ~ 6 の軽石群にはこの 500 粒程度に対して本稿で認定された 2000-1 ~ 6 の本 ような相関関係が認められない。また,3.3. で示した 質軽石,洞爺火砕流起源の軽石,及び岩片などの軽石 Fig. 9 から,2000-1・2 の軽石群は気泡の成長が行われ 以外の構成物の含有率を計測した結果を示す。本質物 たため高い発泡度をもち,2000-3 ~ 6 の軽石群は気泡 質の含有量は第5層,第8層,第12層にピークが認 の成長があまりなされないうちに破砕,固結したこと められる。また,第2層から第8層は本質軽石の含有 が考えられる。よって有珠山の 2000 年 3 月 31 日噴火 率がおよそ 35 ~ 50%の範囲にあり,相対的に高い本 は一連のマグマ水蒸気噴火の噴火活動の中でもその発 質物質含有量を持つが,第9層ではその割合は急激に 泡様式は一様ではなく,少なくとも 2 つ以上の条件下 減少し,その後は第12層のピークを除くと本質物質 でマグマの発泡が進行していた可能性が示唆される。 の含有量はおよそ 25%程度と低い値を示す。 つまり地下水によるマグマへの関与が充分に行われ, マグマが急冷破砕したため気泡が成長せず,100 μm 4 考 察 以下の小さい気泡を多く含む発泡度の低い軽石( 2000 4. 1 本質軽石の特徴から推測される噴火活動 -3 ~ 6 )を噴出したマグマ水蒸気噴火の中でもより地 前述のように 2000 年 3 月 31 日噴火による本質軽石 下水の関与が大きかった噴火と,マグマの供給率が高 は, 丸 み を 帯 び た 形 状 を 呈 す る 発 泡 度 の 高 い 軽 石 かったため地下水の関与をあまり受けず,気泡の成長 ( 2000-1・2)と,破断面に囲まれた形状を呈する発泡 が行われ発泡度の高い軽石( 2000-1・2 )を噴出したマ 度の低い軽石(2000-3 ~ 6)に大別される。Fig. 12 は グマ水蒸気噴火の中でもよりマグマティックな噴火が 2000 年噴火と 1977 年噴火によって噴出した各軽石群 行われていたと考えられる。また, 鈴木・他( 2001 )も, における発泡度と気泡断面積の平均値の関係を示した 本稿と同様,有珠山 2000 年噴火による軽石の発泡度 図である。プリニー式噴火の産物である 1977 年噴火 の多様性の原因として地下水とマグマとの接触が不均 による軽石はほぼ相関関係にあり,発泡度は気泡の成 質であったことを挙げている。 長に起因すると考えられる。これに対し,2000 年噴火 (154) ─ 254 ─ 有珠山 2000 年 3 月 31 日噴火における火砕物の形態的特徴から導かれる噴火プロセス Fig.13 Temporal variation of content of essential material in Layer A. Sedimented time and column height corresponding to each Layers. Sedimented time and column height were estimate (quotation from Kunikata et al.,2003) are shown at the right. Column height is the highest value in each sedimented time. 4. 2 本質軽石含有量の時間変化と噴煙との関連性 他( 2003 )で行われた以外の堆積物における噴煙高度 Fig. 13 に N7 火口壁における 2000 年 3 月 31 日噴火の との対比を行ったところ,第1層は 13 時 07 分から 13 堆積物の柱状図と本質軽石含有量の時間変化及び堆積 分の高度が 400 m に達した噴煙,第2層は 13 時 14 分 時間とそのときの噴煙高度を示す。堆積時間およびそ から 19 分の高度が 1600 m に達した噴煙,第3層は 13 の時の噴煙高度は,2000 年 3 月 31 日の噴火による堆積 時 20 分から 24 分の高度が 900 m に達した噴煙,さら 物とその堆積時間,噴煙高度との対比を行っている国 に第6層は 13 時 50 分から 57 分の高度が 2000 m に達し 方・他( 2003 )の層位と本稿における層位を対比する た噴煙,第8層は 14 時 00 分から 16 分の高度が 3500 m ことにより決定した( Fig. 10 )。本稿における第4層 に達した噴煙に対比する可能性が高い。これらの時間 は国方・他( 2003 )における第15層に相当すること に形成された本質軽石の含有量と,実際に観測された から,13 時 28 分から 39 分の噴煙高度が最高で 2600 m 噴煙高度との間には強い正の相関関係が認められる に達した灰黒色火山灰プリュームにより形成されたと ( Fig. 14 ) 。このことから,本質マグマ物質をより多く 考えられる。同様に第6層から第11層は 13 時 48 分 含む噴煙ほど大気中に与えた単位時間当たりの熱供給 から 14 時 15 分の噴煙高度が 3500m に達した灰黒色火 率が大きく,高い噴煙が形成されたことが考えられる。 山灰プリューム,第12層は 14 時 27 分から 51 分の噴 3 月 31 日噴火における本質軽石含有量の時間変化に 煙高度が 2100 m に達した灰黒色火山灰プリュームに ついて,宝田・他( 2002 )は噴火の初期は本質物質の より形成されたと考えられる。この対比を基に,国方・ 含有量が高く,後期ほど含有量が減少する傾向があ ─ 255 ─ (155) 高橋 寛徳・大野 希一・遠藤 邦彦 の供給率には波があり,一連のマグマ水蒸気噴火の中 でもより地下水の関与が小さいマグマティックな噴火 活動と,より地下水の関与が大きいフレアティックな 噴火活動が交互に繰り返され,本噴火における最大規 模である 14 時 00 分の噴煙高度 3500 m に達した噴火を 境にマグマの供給率は急激に減少したものと考えられ る。 一方,第9層から第15層までは 2000-1 ・ 2 の軽石 群の含有量と 2000-3 ~ 6 の軽石群の含有量との間に は相関関係が認められる。このうち 14 時 30 分には高 Fig.14 Correlation diagram between content of essential pumice and column height. These two factors are correlated. The point marked with the arrow is Unit 12. This point shifts from correlation. It means that the rise energy of eruption column fell on 14 : 27 - 14:51. 度 2100 m まで噴煙が上昇し,本質軽石の含有量及び 2000-1・2 の軽石群,2000-3 ~ 6 の軽石群も共に急激 に上昇するが,本質軽石含有量が 51.9%と本噴火の最 高値である割には噴煙高度が 2100 m と低い。また, この噴火は Fig. 14 における噴煙高度と本質物質の含有 量との相関関係からも外れる。これはマグマの供給が る,と報告しているが本稿ではその傾向は認められ 一時的に急激に増加したにもかかわらず噴煙の上昇エ ず,含有量に3回のピークを持つ。しかもそれらのピー ネルギーは減退していたことが考えられる。この原因 クは,必ずしも粗粒軽石層に対応しない。そこでより としては第9層以降から岩片の割合が増加している 地下水の関与の程度が小さいマグマ水蒸気噴火の産物 ( Fig. 11 )ことや,14 時 00 分の噴火の直後から噴煙中 と考えられる 2000-1・2 の軽石群と,より地下水の関 に多数の岩片が含まれているのが映像資料から確認さ 与の程度が大きいマグマ水蒸気噴火の産物と考えられ れたことから,14 時 00 分の噴煙高度 3500 m に達した る 2000-3 ~ 6 の軽石群を分けてそれぞれの含有率の 噴火の際に火道の拡大がなされたことが考えられる。 時間変化を求めると,第5層を除いた粗粒軽石層の形 この結果マグマの供給量は一時的に増加したが,火道 成期と 2000-1・2 の軽石群の含有率のピークとの間に の拡大によって火道内に入り込む地下水の供給も増加 は対応関係が見られた。このことからマグマの供給率 し,地下水の関与が小さいマグマ水蒸気噴火の産物で が増加する,あるいは地下水の関与が少なかった時期 ある 2000-1・2 の軽石群と地下水の関与が大きいマグ には,上昇高度の高い噴煙が形成され,比較的粗粒な マ水蒸気噴火の産物である 2000-3 ~ 6 の軽石群の両 軽石が噴出されたことが考えられる。細粒火山灰層で 方の割合が増加したと考えられる。また 14 時 30 分の ある第5層にも本質軽石含有率のピークがあるが,そ 噴煙では,その一部が崩れ落ちてサージが発生してい の層には発泡度の低い 2000-3 ~ 6 の軽石群の大きな る( 国方・他,2003 )ことから,噴煙の熱供給率が低 ピークがある。またその堆積時間に当たる 13 時 41 分 下したことが考えられ,このことからも地下水の供給 にはコックステールジェット状の噴煙が時折観察され が増加したことが示唆される。 ている(風早・他,2001;国方・他,2003 )ことから, この時期には地下水の関与が大きかったことが考えら れる。このためマグマの供給量も増加したが地下水と の接触が能率よくなされたためマグマが細かく破砕さ れ,細粒の火山灰が噴出されたと思われる。 また,第1層から第8層では 2000-1・2 の軽石群の 含有量と 2000-3 ~ 6 の軽石群の含有量との間には相 関関係が認められず,細粒火山灰層と 2000-3 ~ 6 の 謝辞 本稿をまとめるにあたり,日本大学文理学部地球システ ム科学科の宮地直道助教授には本論の改善に有益なコメン トをしていただいた。同科の副手である国方まり氏には有 益な議論をしていただいた。日本大学大学院総合基礎科学 研究科の本松史年氏には地図データを提供していただい た。ここに記して感謝いたします。なお,本研究には,平 成 15 年度科学研究費( 課題番号 14740294。研究代表者:大 野希一 )の一部を使用した。 ピークが対応する。このことから,噴火初期はマグマ (156) ─ 256 ─ 有珠山 2000 年 3 月 31 日噴火における火砕物の形態的特徴から導かれる噴火プロセス 参考文献 Cashman, K.V. and Mangan, M.T. 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