6.

 小特集
@ 大気圧非平衡プラズマの環境工学への応用
6.自動車排気ガスの処理
藤 井 寛一
(茨城大学工学部)
Plasma Treatment of the Exhaust Gas from Vehicles
FU∬IK:an−ichi
勘o%1砂oゾEκg初召67初g,乃σ7罐乞Uπ吻召鴬勿,研惚ψ乞316−0033,∫の伽
(Received4December l997)
Abstract
The motivation an(l historical background of plasma treatment of toxic gas exh.aust from diesel en.
gines are introduced.The principles of the plasma reactor and the experimental results obtaine(l using
this reactor to treat in real diesel engine e油aust are described.In particular,the simultaneous elimina.
tion of NO知SO泊COヱ,an(1soot is shown to be of prlmary importance.Results of a road test using a
truck at a public testing facility are also reporte(1.
Keywords=
Plasma treatmenち(iiesel exhaust,NO泊sooL non−thermal plasma
6.1 まえがき
今からおよそ四半世紀前に起こった第一次オイルシッ
Diesel engine
ヨクを契機として,各種自動車の燃費の向上策やNOκ
EGR
一 ←一一
対策が種々検討されてきた.その一つに,排気の一部を
燃焼室に戻す排気再循環(EGR:Exhaust Gas:Recir−
culation)方式がある.燃焼室の温度を低下させ,NOκ
の生成を減少させることがその目的とされた.しかし,
薗
晒
ロ
ロ
ロ
freshair
ディーゼルエンジンの場合には排気に大量のすすが含ま
国工
れるためそのまま再循環させたのでは,弁と弁座,シリ
管
CO杜「e”coliec毛or
ンダとピストンのあいだの摩擦によって傷をつけたり,
エンジンオイルの寿命を短縮させる等の欠点があった.
CyClOneCdleCtOr
exhaustpipe
これを解決する一つの方法として再循環系統内にFig。1
soot cO[lec重or
に示すようなサイクロンーコットレルコレクタを設ける
Fig.1
Exhaust gas recicuIatioη(EGR)System with the
“cyclone−cottre薩coIlector.”
ことが提案された[1].サイクロン内の遠心力によって
機械的にすすを取り去ると同時に電気集塵器により微粒
な改良が加えられる過程で後述のようなプラズマリアク
子を吸着除去する方法を併用したものである.しかし,
タが完成したのであるが,これをエンジン下流に取りつ
実験中,コットレルコレクタ用の高電圧細線がしばしば
けてNOκ対策をこうずる着想が,ある日芽生えた[2,3].
断線する欠点があり,これを防止する必要があった.様々
このことにより,本論文で記述する自動車排気ガスの処
側!ho齎6一〃吻1’肋卿@伽zぬ伽7罐癩oゆ
151
プラズマ・核融合学会誌 第74巻第2号 1998年2月
理が可能になったのである.
自動車に取り付けるリアクタの場合は許容されるス
ペースに制限があり,小型化することが課題の一つであ
oiI
圃
ったが,ビル内に設置される自家用ディーゼル発電機の
ような場合にはスペース的な制約が少ないため,その排
py「ex
ガス処理に応用するには好都合となることが考えられる.
spacer
inner elec廿ode
6,2 実験の原理と方法
電子とイオンや中性気体粒子との温度が異なる,いわ
Qut elecなode
ゆる非平衡プラズマを利用することが,本研究の主眼で
ある.非平衡プラズマの一種である正極性払子コロナ
(bridged streamer corona)放電を活用する.コロナ放
H,V,
電が成長して火花放電やアーク放電に至ることを防ぐた
めに電極問に誘電体(バリア)を挿入した,いわゆるバリ
㌧
z、
ア放電が実際には用いられる.バリアのために,高電圧
N
グ
非平衡プラズマとなる.
Fig.2に,この目的のために考案されたプラズマリア
クタの構造を示す[4].一方の電極であるステンレス製
Fig,2 111ustration of the construction of a plasma reactor.
の長いネジ棒の外側にガラス管が同軸状に固定されてい
て,同軸型と名付けられている.ガラス管の外壁にアル
その間にプラズマ化される.プラズマ中の電子の衝突に
ミ箔を張り付けるか,あるいは透明な金属被膜を塗布し
よってNq Sq Cq等のガスが解離され,N2,02等
て外側の電極として,これらの電極間にネオントランス
の無害ガスに変換される[2−4].すすの除去は,このプ
で昇圧した50Hzの交流電圧が印加される.12∼15kV
ラズマリアクタの上流からエンジンオイルを滴下するこ
が適性動作電圧となっている.処理されるべき排気ガスは,
とにより実行される.油滴がプラズマに触れるとミスト
この同軸型電極問の空間を上方から下方へ円筒状に流れ,
あるいはバブルになり,すす粒子に付着あるいはすすを
Diesel
enginees。 plasma reactor 幡強 睡蹄 exha
綜.
exhaustgas
翻
〔
㌍
(へ1)H,V.
旦
humi萌ノeliminator oil circula恒on Pロmp
へ1) H.V.
旦廿
醸
clean
exhaustgas
oilcircuia価on
pump
蕊
誘
⇔
measurementuni垂e
oilseparator
Fig,3 Shematic diagram of compIete system for periments.
152
小特集
6.自動車排気ガスの処理
藤井
6.3実験結果
同軸型リアクタ,ボックス型リアクタの両リアクタに
Highvoltageprobe
\
よりサンプルガスおよびディーゼルエンジン排気ガスの
Plasma reactor
両方の処理を行った.両者とも所期の処理ができること
Trans牝)rmer
Pow er ampIi祠er
□
粉團
が確認された[7−10].その内の同軸型リアクタをFig.5
のようにトラックに搭載して[11]日本自動車研究所(茨
田.
城県つくば市)の法定自動車検査を受験した.試験は「デ
OscilIoscope
ィーゼル自動車排出ガス試験法(6モード)」[12]に準拠
0,22μF_
する機能試験であり,計測法は「TRIAS24−2−1974」[12]
に準拠したものであった.NO。はN’DIR(非分散型赤
Fig.4 Power supply and electrical diagnosis system.
外分析法)で測定し,所定の算定係数を加算した平均排
吸蔵して下流にたまるので,これを再循環させることに
出濃度値として表示される.
よりすすの連続的除去が行われる.
その結果をFig.6に示す[11].図から明らかなよう
実験システム全体図をFig.3[4]に示す.同軸型リ
ィーゼルエンジン排気ガスの処理ができる.
に,NO、の6モード平均排出濃度は処理前の366ppm
から,処理後は259ppmとなり,約29%の除去率が得
られた.この値は排出基準値である350ppmを大幅に
Fig.4は小型で同時に大容量の公害ガスが処理できる
クリアしている.
アクタを約30本並列にたばねて用いると2,000ccのデ
ように考案された新型リアクタ[5]と,給電系統および
電力測定系統を示す.平行平板の中央部が高電圧電極で
6.4 まとめ
あり,その左右両側にガラスバリアとアルミ箔電極が設
非平衡プラズマをバリア放電(bridgedstreamer
けられて,背中合わせに2つのプラズマ部が形成される
corona)の形で活用したプラズマリアクタを考案し,こ
ので,ボックス型と名付けられている.平板電極の幅が
れを中古ディーゼル車に搭載してその排出ガスの処理を
30cm,長さが40cm,電極問距離が0,5cmであるので
一方のプラズマ部が600cm3となり,2つ合わせて
1,200cm3となる.2,000ccディーゼルエンジン排気ガ
行い,NO卑の排出量を法定基準値以下に抑制すること
に成功した.ここで主役となるbridged streamer coro−
スの処理ができる.電極の幅および長さは原理的に任意
naとは5∼IO mmの長さを有する正極性コロナ放電の
一種であり,典型的な非平衡プラズマの一種である.ス
の値に選ぶことができる.印加電圧の周波数を50∼900
トリーマの長さを1∼2mm程度に短くして使用するも
Hzの間で変化させて性能への影響を調べた[6].
のにオゾナイザがある.本文中に紹介したプラズマリア
plasma reactor
■
radiator
聾i
o
plasmareactor
\鐙識趨轟繍繊
8
難調酬
clean
exhaust
叢警
イ 一
淘、
一レ翻 \事 十
、灘
、inve曲erゴ
ansαmer
Fig.5 Road testing system.
153
→
oilmist
separator
り
↑
D,C,generator
:ba嘲1
、添、
←
circula顛on
pump
プラズマ・核融合学会誌 第74巻第2号 1998年2月
参考文献
ppm
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ゆ
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259ppm
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Trans.on Plasma Science20,1(1992).
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講醗難.
100
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鍵
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彊 Kヅ 慧欝
[7]東 學,内田智至,鈴木長利,藤井寛一1電気学会
撒脚 盤
0
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be石ore afセer
[8]R.Bendahan,K.Fujii an(1M.Higashi,〈玩プogεπ0午
セea㎞ent treaセnent
読3加00解クOS痂0π醜初9α窺61副吻Bαプ漉7Z)富一
Fig。6 Result ofthe road test
6hα響d∼6σo渉oプ,電気学会論文誌118−A,No.4(1998)
掲載予定.
クタは,空気中あるいは酸素供給の雰囲気中で使用すれ
[9]K.FujiL P彪3〃zo T80h%ology,Plenum Press,p.143
ば高性能のオゾナイザになる.エンジンの分野ではオゾ
(1992)。
[1Q]K.Fujii,M.Higashi and N.Suzuki,S加%1伽εo窃s
ンは燃料と空気の混合の際に吸気に付加して活性化する
五∼6〃zoz7αl oゾ’〈汚0κ,COκ,SOκσ%4Soo渉わz Z万6361E歪z−
ことに応用され,予混合自着火エンジンの自着火時期制
g初6E%h側s∫,ハ石o%一Th67〃昭l Plα3刀zαT60h初卿6sプ∂7
御の可能性が調べられている[13].このことにより
Pollz漉o冗Co窺701,Springer−Verlag,Ecological Sci−
NO。やススの発生を抑制しようとの着想である.エン
ence,G34,part B.p.257(1992).
ジン前処理の一方法として興味深く,エンジン後処理の
[11]東 學,藤井寛一:電気学会論文誌ll6−A,868
典型である本研究のプラズマリアクタ処理とともに,そ
(1996).
[12]自動車認証制度研究会編:新型自動車審査関係基準
の成果が排気公害対策の有効で有力な手段として寄与し
集p.540(1993).
てくれることが望まれる.
[13]橋本貴嗣,金野 満,正 陣,梶谷修∼:活性化空
謝辞
気の着火・燃焼促進効果に関する基礎的研究,日本
機械学会/精密工学会,茨城地方講演会前刷,9月
原稿作成途上のコンピュータ処理に際し精力的に協力
(1997).
してくれた茨城大学大学院博士前期課程の佐々木誠君,
西澤盛十および卒業研究生の菱田知弘,吉田賢司の両君
に謝意を表します.
王54