「有機系廃棄物の分解に伴うコンポスト型微生物電池の開発」 鐘ヶ江隆行,大嶺 聖,安福規之,小林泰三 第8 回環境地盤工学シンポジウム,pp. 253-256,2009年7月 有機系廃棄物の分解に伴うコンポスト型微生物電池の開発 ○鐘ヶ江隆行 1・大嶺聖 2・安福規之 2・小林泰三 2 1 2 九州大学大学院工学府・ 九州大学大学院工学研究院 1.研究背景 現在、ごみはリサイクルにより減少しているがそれでも多くは焼却処分や埋立処分により処理されている。焼却処分 するためにも多くの重油が必要であり、また大量の二酸化炭素が発生する。埋立処分場も収容量が限界に近づいてきて いる。そこで循環型社会の構築のためには大量に発生する焼却灰、産業副産物および有機系廃棄物の有効利用技術が求 められている。本研究では、有機系廃棄物の堆肥化において微生物の代謝に伴って電気を発生させる微生物電池の特性 を明らかにするとともに、産業副産物である石炭灰を混合した場合の効果を検討する。微生物電池とは、微生物の有機 物分解を利用して、有機物の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置である。有機系廃棄物はアルカ リ消化および酸化作用により分解されるため、使用後は土壌及び地盤材料として活用が期待される。すなわち、発電効 果を持つ廃棄物の新たな処理、活用法の提案を行い、微生物電池 の開発と性能の向上を目指す。 e- 2.微生物電池の原理 固体電極 図 1 に微生物電池の原理の概略図を示す。微生物は,基質(有 抵抗 負極 機物)を酸化分解する際に発生する電子を電子受容体に供与する ことでエネルギーを得ている。電子受容体の酸化還元電位(電子 正極 有機物 の受け取りやすさ)が高いほど微生物が得るエネルギーは大きく e- なる。嫌気条件下では,酸素以外の化合物(硝酸イオン、硫酸イ O2 オンなど)が電子受容体になり、それらは酸化還元電位の高いも のから順次使われていく。そして最終的に、二酸化炭素に電子を 供与するメタン生成反応が起こる。微生物電池では、低分子化合 微生物 物ではなく固体電極が電子受容体になる。電極が受け取った電子 H 2O は外部抵抗を通過する際に仕事を行い、酸化還元電位の高い正極 CO2・H+ に移動する。電極での電位差に伴い電圧が生じるのである。下記 の式は負極が好気条件の場合の各電極における反応式である 1)。 セパレーター 負極:CxHyOz+aH2O→bCO2+cH++ce− 正極:1/2cO2+cH++ce−→1/2cH2O 図1 (a,b,c 任意定数) 微生物電池の原理 3.微生物電池の性能評価 微生物電池のシステムの評価に最も多く使われる評価パラメータ ーは、負極の電極表面積当たりの最大発電力(mW/m2)である 1200 60 1000 50 800 40 600 30 400 20 200 10 1) 。最 大発電力は内部抵抗に依存するため電流-電圧直線(図 2)から求める。 ことにより測定でき、グラフの切片を E、直線の傾きを−r とすると 直線は V=E−rI の関係式で表わされる。V は電圧(V)、E は電池の起 電力(V)、r は内部抵抗( )、I は電流(A)であり、傾きが小さいほど内 電圧(mV) この直線は、外部抵抗を変化させた際の電圧と電流をモニターする 部抵抗が小さくなる。内部抵抗が小さいほど高い最大発電力 P(=V ×I)を示す 1)。本研究では、電圧の経時変化を測定し、電圧がピーク 値となった時の電流−電圧直線を描き、最大発電力を求める。 4.嫌気分解による微生物電池 0 0 50 4.1 セパレーターによる効果の検討 現在一般に研究で用いられている微生物電池では、正極側を空気 に触れやすい好気条件下におき負極側を嫌気条件下において行われ 100 電流(mA) 150 0 200 図 2 電流−電圧直線 ている。さらに微生物電池の正極と負極のセパレーターとして高分子膜が用いられている。本研究では負極側を嫌気状 態にした微生物電池を作成し電圧の経時変化を測定した。 The development of Compost type of Microbial fuel cell by degradation of organic wastes Takayuki Kanegae,Kiyoshi Omine,Noriyuki Yasufuku,Taizou Kobayashi (Kyusyu Univercity,) KEY WORDS:organic wastes,microbial fuel cell,compost,coal ash 表1 表 1 に示すように、セパレーターと セパレーターの違いによる実験の条件 して条件①にはろ紙,条件②にはセ セパレーター ロハン、 条件③には高分子膜を用い、 セパレーターによる効果を検討した。 条件① 条件② 条件③ 4.1.1 実験概要 図 3 に実験装置を示す。アクリル ろ紙 セロハン 高分子膜 試料の質量 細かく切った刈草 腐葉土 有用微生物群 70g 140g 15g 70g 140g 15g 70g 140g 15g 板で作製した容器(10×10×5cm)に表 1 で示し た混合試料を電極の炭素繊維とともに嫌気状態 炭素繊維 (正極) 重り となるよう密に詰めた。 さらに混合試料の上に, 水 80g 80g 80g 活性炭 セパレーター, 活性炭, 炭素繊維の順で載せた。 また,電極間の接触の関係により,重りを載せ 抵抗51 ることで一定の圧力を保ち実験を行った。負荷 ろ紙 として 51 の抵抗を用いた。このときに発生す 試料 炭素繊維 (負極) 測定器 る電圧を 10 分おきに測定器で測定した。 4.1.2 実験結果および考察 アクリル容器 図 4 に電圧の経時変化を示す。どの条件も多 図3 嫌気条件による微生物電池の実験装置 少の違いはあるが電圧はある値まで上昇し続け, その後徐々に減少し一定の値に留まった。 電圧のピ−ク値の大きさは条件②>①>③である。 セパレーターの違いでは, セロハンが最も大きな値をとなった。セロハンは最も薄いため正極と負極のイオンの交換が行われやすかったと思われ る。高分子膜は近年の微生物電池の研究で用いられているが,水溶液間のイオン交換膜として用いられている。そのた め今回の実験と比較すると水分量が少なくイオン交換が行われにくく発電量が小さくなったと考えられる。 図 5、6 より表 2 を求めた。表 2 より内部抵抗の大きさは条件②<①<③であり,発電力は反対に条件②>①>③で あった。この結果より内部抵抗が小さければ発電力が大きくなることが言える。これも先程と同様にセパレーターの違 いが影響に出ているためである。また内部抵抗は時間が経過することにより,どの条件も値が大きくなっている。特に 高分子膜では変化量が大きい。測定を行っている間に混合試料中の水分が蒸発するため、高分子膜が乾燥しプロトン (H+)が負極から正極に移りにくくなったことが原因であると考えられる。 高分子膜は廃水を利用した微生物電池のように、水溶液中でないと微生物電池に用いて効果を発揮しにくいことがわ かった。セロハンとろ紙は内部抵抗の経時変化量はほとんど変わらないが、始めからの内部抵抗値はセロハンの方がよ く、セロハンを用いた方が微生物電池の性能を上げることができると考えられる。しかしながら、測定終了後ろ紙とセ ロハンは混合試料の有機物と同様に 表 2 内部抵抗と負極の電極表面積当たりの最大発電力 分解されボロボロになり、セパレー 経過時間 ターとして一度だけしか使用できな い状態であった。また高分子膜は、 内部抵抗 乾燥していただけで何度も繰り返し 使用することができた。 負極の電極表面積 当たりの発電力 条件② 条件③ 20h 89.71 75.03 179.81 40h 112.69 97.69 270.19 34.5mW/m2 20h 350 100 300 80 60 条件① ろ紙 条件②セロハン 条件③高分子膜 13mW/m2 条件① ろ紙 条件②セロハン 条件③高分子膜 350 300 電圧(mV) 120 42.5mW/m2 400 400 電圧(mV) 電圧(mV) 140 条件① 250 200 250 200 150 150 100 100 50 50 40 20 条件① ろ紙 条件②セロハン 条件③高分子膜 抵抗 51 0 0 5 10 15 20 25 30 35 経過時間(min) 図4 電圧の経時変化 40 0 0 0 1 図5 2 3 電流(mA) 4 電流−電圧直線(20h) 5 0 1 2 3 電流(mA) 4 図 6 電流−電圧直線(40h) 5 4.2 石炭灰の添加による効果 堆肥化を行う際に、試料に石灰を加えるなどしてアルカリ状態にすることで有機物の分解が促進され促成堆肥ができ ることが知られている 2)。ここで石炭灰も試料に加えることによって試料内がアルカリ性になる。よって本研究では、 産業副産物である石炭灰を用いて微生物電池を作製した。微生物電池は原理でも述べたように有機物を分解した際に発 生する電子を利用し電気エネルギーを得ているので、分解が促進されれば発生する電子が増え電圧は上がると考えられ る。産業副産物である石炭灰を混ぜ入れることで微生物電池に効果があるかを検討した。 4.2.1 実験概要 4.1 における実験と同様に図 3 の実験装置を用いた。アクリル板で作製した容器(10×10×5cm)に混合試料を炭素繊 維とともに空気が入らないよう密に詰めた。これは微生物の嫌気分解を行わせるために空気とあまり触れさせないよう にするためである。混合試料の上にろ紙、活性炭、炭素繊維の順で載せ電極とつなぎ合わせた。負荷として 51 の抵抗 を用い、表 3 の混合試料を用いて微生物電池の電圧を測定した。電圧は測定器を使い 10 分間隔で測定した。また電圧 がピーク値のときの電流-電圧直線を求めるため、電圧がピークの時に異なる 5 つの抵抗(5,51,197,360,470 )で電 圧を測定した。 表 3 実験条件 4.2.2 実験結果と考察 図 7、8 に電圧の経時変化と電流電圧直線をそれぞれ示した。図 7 よ り、条件(2)の石炭灰を加えた方が電 腐葉土 条件(1) 石炭灰なし 条件(2) 石炭灰あり 圧は高い値を維持していた。ここで石 15g - 7 0g 140g 70g 15g 100g 9 0g 400 石炭灰なし 石炭灰あり 時間くらいでピーク値をとっている。 電圧(mV) 150 電圧(mV) 炭灰を加えた方が発電のピークとなる 100 時間が早いことがわかる。これは石炭 灰を加えることによって、有機物の分 れる。また各条件ともに電圧がピーク を示した後、電圧は少し下降するがほ 350 石炭灰なし 300 石炭灰あり 250 200 150 50 抵抗 51 解が促進されそれに伴い電圧が短い時 間で大きな値をとったものだと考えら 水 70g 200 しかし石炭灰ありの条件(2)では約 15 石炭灰 140g 炭灰なしの条件(1)では測定開始約 20 時間くらいでピークとなっており、石 細かく切った刈草 有用微生物群 100 50 0 0 5 10 図7 15 20 25 30 経過時間(hour) 35 0 40 0 電圧の経時変化 1 2 図8 3 4 電流(mA) 5 6 電流−電圧直線 ぼ一定の値を維持している。 表 4 より石炭灰を加えた方が内部抵 表 4 内部抵抗と負極の電極表面積当たりの最大発電力 抗は小さく、最大発電力は大きな値を り電子の発生量が増加したことによる 石炭灰なし 0.347mW 負極の電極表面積 当たりの最大発電力 34.7mW/m2 ものだと考えられる。つまり石炭灰を 石炭灰あり 0.544mW 54.4mW/m 内部抵抗 示していた。これも石炭灰の効果によ 最大発電力 2 加えることで微生物電池の性能を向上 させることができた。 5.好気条件による微生物電池 現在研究されている微生物電池は、ここまで述べた実験のように負極を嫌気状態において有機物の分解を行わせエネ ルギーを得ている。ここでは、有機系廃棄物を処理する方法 測定器 の一つである堆肥化を用いて微生物電池を作製し嫌気条件と 比較した。また堆肥化は家庭でも簡単にできるダンボールコ 抵抗5 ンポストによって行わせた。堆肥化は、微生物の好気発酵に 炭素繊維 (正極) 活性炭 より有機物を分解している。よって好気条件における微生物 ろ紙 電池として性能を評価した。さらに好気条件による微生物電 池にも石炭灰の効果があるか検討した。 5.1 ダンボールコンポストを用いた微生物電池の実験概要 試料 好気分解による堆肥化としてダンボールコンポストを用い て微生物電池を作製した。ここではダンボールを二つ用意し 片方に石炭灰を混入し効果を検討する。ダンボール箱に基材 ダンボール 図9 実験装置の概略図 炭素繊維 (負極) 表 5 追加試料の分量 (腐葉土 500g、ピートモス 2.5ℓ、くん炭 1ℓ)と 1 回目の追加試料を混入し、含水比 追加試料 米ぬか 発酵鶏糞 発酵油かす 刈草 (石炭灰) を 150%に設定した。3 回目を加えた後、 1回目 2回目 3回目 500g 200g 200g 500g 100g 100g 500g 50g 50g 500g - 100g 100g 100g 図 9 のように負極として炭素繊維を試料 の浅いところに埋めその上にろ紙、活性 炭、炭素繊維の順で載せ、5 の抵抗と 500 60 電圧の測定装置に接続させた。電圧は た電圧がピーク値のときの電流-電圧 470 )で電圧を測定した。 30 た図 11 より表 6 を求めた。これより石 300 200 20 5.2 実験結果と考察 図 10 に電圧の経時変化を示す。ま 石炭灰あり 抵抗 5 電圧(mV) に異なる 5 つの抵抗(5,51,197,360, 400 40 電圧(mV) 直線を求めるため、電圧がピークの時 石炭灰なし 50 測定器を使い 10 分間隔で測定した。ま 100 10 0 0 0 5 10 炭灰を加えた方が電圧は大きな値をと ることがわかる。また表 6 に示してあ 図 10 15 20 25 経過時間(hour) 30 35 40 0 2 電圧の経時変化 4 6 電流(mA) 8 10 12 図 11 電流−電圧直線 るように石炭灰を加えた方が内部抵抗 は小さく最大発電力は大きくなった。 表 6 内部抵抗と負極の電極表面積当たりの最大発電力 これまでの実験と同様に石炭灰を加え たからだと考えられる。好気条件でも 石炭灰なし 52.2 0.406mW 負極の電極表面積当た りの最大発電力 40.6mW/m2 石炭灰を加えることで微生物電池の性 石炭灰あり 39.3 1.142mW 114.2mW/m2 内部抵抗 ることにより有機物の分解が促進され 最大発電力 能をあげることがわかった。 また石炭灰有無に関わらず、電圧は測定開始約 10 時間でピークをとりその後徐々に下降していき、約 2 日間で電圧は ほぼ出なくなることがわかる。これは好気条件による微生物電池の特性だと考えられる。ここで嫌気条件との特性が違 う理由として、各条件における微生物の有機物分解の働きが違うことがあげられる。嫌気条件では酸素をあまり使わず にゆっくりと分解が行われていくが、好気条件では酸素を使うことにより爆発的に分解を行っている。そのため有機物 の分解によって発生する電子の量が違い、それぞれの条件で違う傾向が見られたと考えられる。 6.好気条件と嫌気条件の性能評価 好気条件と嫌気条件による微生物電池の実験より、電圧の経時変化に大きな違いが見られた。好気条件では、電圧は 約 10 時間でピーク値を示し、その後発電量が減少し約 2 日間で電圧はほぼ出なくなる。また嫌気条件では、ある一定の 値まで電圧が上がりその後しばらく維持し続けている。 つまり好気条件では最大発電力は大きいが発電の持続性がなく、 嫌気条件では最大発電力はあまり大きな値ではないが発電の持続性はあることがわかった。電池の特性として、電池の 数を増やすことによって電圧や最大発電力は増加する。したがって持続性のある電池の方が性能の向上を目指す上で優 れていると考える。よって嫌気条件による微生物電池の方が電池の性能として優れている。 7.結論 本研究では、 嫌気条件による有機物分解を用いた微生物電池においてセパレーターの違いと石炭灰の添加による効果、 また好気条件による堆肥化を用いた微生物電池において石炭灰の効果を検討し、各条件の電池の特性を比較した。結果 は以下に示した通りである。 (1)セパレーターにセロハンを用いることで最大発電力は増加し性能が向上した。しかしセロハンは一週間でほぼ分解さ れてなくなり、ろ紙もセロハン程までないが分解され穴が空いていた。高分子膜は乾燥するだけで繰り返し使用するこ とができた。 (2)各条件とも石炭灰の添加により性能が向上した。 (3)発電の持続性の点では好気条件よりも嫌気条件における微生物電池の方が、電池として性能は優れている。 今後は、使用した試料が石炭灰を混入した場合に土壌改良材として使用することができるか溶出試験や植物の発育試験 を行う必要がある。 参考文献) 1) 監修:池田篤治 バイオ電気化学の実際−バイオセンサ・バイオ電池の実用展開− p303‐314「微生物燃料電池の最新の進歩」2007 年 文協 p64‐65 2008 年 シーエムシー出版 2) 藤原俊六郎 堆肥のつくり方・使い方−原理から実際まで− 農
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