JAF Motor Sports誌7月号 |特集

特集
入門レースとして人気を集めているナンバー付き車両によるレースは、
イコールコンディションが徹底されているのが大きな特長。同じ道具でライバルに差をつけるのは至難の業だが、
今回はクルマを支えるタイヤの存在に注目してみることにしよう!
レポート&フォト/諸星陽一
なぜナンバー付きレースでは、
タイヤが重要になるのか?
タイヤを生かすセッティングとドライビンクこそがライバルに差をつける
今、参加型モータースポーツの中で最も注目さ
ローズアップされてくるのが、タイヤの存在だ。
を規制することは、参加者のコストを抑えること
れているカテゴリーと言えば、ナンバー付き車両
もちろんレースにおけるタイヤの重要性は、F1で
につながるし、一般走行時の安全性も向上すると
によるサーキットレースが挙げられるだろう。ク
あろうとナンバー付き車両であろうと変わりはな
いうメリットがあるのだ。
ルマを運ぶためのトランスポーターが不要など、
いが、その比重という面で見ればナンバー付き車
そこで今回はスポーツラジアルタイヤならでは
レース入門者にも入りやすいことが受けて人気を
両の方が格段に大きい。
のセッティングノウハウやタイヤマネージメント、
集めている。中には予選落ちが発生するカテゴ
ナンバー付き車両のレースで使えるタイヤは、
そしてドライビングテクニックについて、現役ド
リーもあるほどだ。
当然ながら一般公道を走れるタイヤに限定される
ライバーからプロドライバーまでアドバイスを聞
いてみた。今日からでも使えるセッティングノウ
ナンバー付き車両ということはイコール公道を
が、
特別規則書によって、
さらに一部の競技向けの、
走れるということ。従ってカテゴリーによっても
いわゆるセミレーシングタイプ
(以後、この企画で
ハウとドライビングテクニックを公開することに
異なるが、現状のナンバー付き車両のレースは改
は通称して「セミレーシングタイヤ」と呼ぶこと
しよう。
造はほとんどが不可で、ロールケージなどの安全
にする)
のタイヤの使用を制限するケースが多い。
装備を取りつける程度しかできないことが多い。
そのため、こうしたカテゴリーでは、一般向け
交換できるパーツもレース主催団体が定める指定
のスポーツラジアルタイヤを使うことになる。物
部品に限定というケースが一般的だ。
足りないというユーザーもいるかもしれないが、
そうした規制の中で、ライバルに差をつける
価格が高い一方でライフが短かく、またウェット
セッティング&ドライビングのポイントとしてク
でのグリップ低下も大きいセミレーシングタイヤ
32
2009・7 JAF MOTOR SPORTS
レポーター紹介
諸星陽一
モータージャーナリスト。自動車雑誌の編集部員を経て23
歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、
富士フレッシュマンレースをはじめをするサーキットレースに7
年間、
参戦。自らのレース経験やジャーナリスト活動から得た知
識を生かし、
安全運転講習会のインストラクターなども務めてい
る。AJAJ
(日本自動車ジャーナリスト協会)
会員。
まずスポーツラジアルタイヤの
特性を理解しておこう
一般走行を前提にスポーティでありながらウェットグリップも確保
レース界では、セミレーシングタイヤでもスリッ
と明らかに溝が少ない構造を持っている。
クタイヤでもない、またレイン用のレース専用タ
スポーツラジアルはストレートグルーブ
(タテ
イヤでもないタイヤを、単にラジアルタイヤと呼
溝)
があるデザインが採用されることがほとんどだ
ぶことが多い。
が、
最新のセミレーシングタイヤの場合はストレー
ラジアルタイヤというのはラジアル構造を持つ
トグルーブを用いないデザインとなることが多い。
タイヤの総称。もちろん、スポーツラジアルもS
また最新のセミレーシングタイヤのトレッドを見
タイヤもスリックタイヤもラジアルタイヤの仲間
ると溝で囲まれた部分がないことが分かる。つま
であることには変わりない。ただし、ドラッグレー
り、スポーツラジアルのように完全に独立したブ
ス用など、一部のスリックタイヤはラジアル構造
ロックがないのだ。これはトレッドの剛性を確保
ではなく、バイアス構造を持っている。
するためのデザインだ。
ご存じのように、スリックタイヤは溝のないタ
スポーツラジアルタイヤのトレッドデザインを
イヤ。路面が濡れていないドライ状態ならスリッ
見れば分かるが、セミレーシングタイヤほどの過
クタイヤは圧倒的に高いグリップを得られる。ま
激なデザインは採用されていない。多くのタイヤ
た、スリックタイヤは溝によってトレッドが分割
がストレートグルーブがあり、独立したブロック
されていないので、剛性も非常に高いものとなる。
を持っている。
しかし、
ひとたび路面がウェットになってしまうと、
しかし現在のスポーツラジアルは、どんどん性
タイヤと路面の間にできた水膜を除去することが
能が向上しており、多くの関係者が、ひと昔前の
できなくなり、グリップは極端に落ちる。
セミレーシングタイヤ並みに進歩していると口を
一方、スポーツラジアルタイヤはスリックタイ
揃える。モデルチェンジをするたびに性能がアッ
ヤとは正反対。多くの溝が切り込まれ、トレッド
プするのは当たり前だが、品番が変わらなくても、
には数多くのブロックが存在している。当然、ト
性能向上をしていることもあるのだ。
従ってスポー
レッドの剛性は低いものとなる。これに対し、セ
ツラジアルを有効に使う方法も日々、進化してい
ミレーシングタイヤはスポーツラジアルと比べる
る。そのことだけは常に忘れないようにしよう。
セミレーシングタイヤ
スポーツラジアルタイヤは、
スポーティな性格を持たせ
つつも、ストレートグルーブ
に象徴されるようにウェット
時の排水性など走行安定性
を追求している点が特徴。
それゆえセミレーシングタイ
ヤに比較すれば、
絶対的なグ
リップ性能は劣るが、レーシ
ングフィールドにおけるその
マイナス部分をドライバー
がどう補って行くか。逆に
言えばドライバーの技量が
大きくものを言うタイヤでも
あるといえる。
トレッド面の
違いは
一目瞭然!
そのサーキットで“勝てる”
タイヤの条件を、まず知っておきたい
空気圧やタイヤの減り具合に関する知識がレース戦略を自在にする
ナンバー付きレースでスポーツラジアルを使う
ることは少なく、調整できるのは空気
際、
まず最初に決めなくてはならないのがどのメー
圧と、減り具合だけ。しかし、厳しい
カーのタイヤを使うか?だろう。一番手っ取り早
規制のあるナンバー付き車両のレース
いのは、そのレースで勝っているタイヤを選ぶと
では、これが重要なセッティング手段
いう方法。何も知らないなら、強い道具を選ぶの
になる。
が常套手段だ。
セッティング範囲が極端に狭く、な
しかし、サーキットによって勝っているタイヤ
おかつローパワーのマシンが使われて
が違うこともある。タイヤとサーキットの相性は
いるナンバー付きレースでは、空気圧
なぜ生まれるのだろうか?
は高めにセッティングされていること
様々な要因が考えられるが、そのひとつとして
が一般的。特にヴィッツでは高く、温
あげられるのが、タイヤの外径だ。表示されたサ
間で3∼4Kgf/cm2程度まで上げてい
イズが同じでもタイヤのサイズはメーカーによっ
る選手もいる。
て微妙に異なっている。タイヤの外径が大きくな
一方、ミドシップのエリーゼカップ
ればハイギヤードにしたのと同じ効果、小さくな
のようにマシンが軽量の場合は、あ
ればローギヤードにしたのと同じ効果がある。こ
まり空気圧は高めではないという。FRのロード
ドの山が高く、ブロック剛性が低くなってしまう。
れは新品とユーズドでも同じだ。だから立ち上が
スターもさほど高い空気圧にはしないのが一般的
このため、
ドライの場合はある程度すり減ったユー
り重視のサーキットなら小さな外径、最高速重視
だ。回りにそうしたアドバイスを聞ける人がいな
ズドタイヤを使うことが多い。もちろんスリップ
のサーキットなら大きな外径といったタイヤチョ
い時はまずタイヤガレージで聞いてみよう。一般
サインが見えているようなものではなく、公道を
イスも、ひとつの方法になる。
的な傾向はきちんと把握しているはずだ。
走れる範囲での減り具合であることは言うまでも
タイヤの銘柄が決まってしまえば、あとはでき
またスポーツラジアルは新品の状態ではトレッ
ない。
タイヤのエア圧の設定も重要な要素。ただしある程度のデータは参考にしつつも、
ドライビングスタイルとのマッチングを考えながら数値は決めていきたい。
2009・7 JAF MOTOR SPORTS
33
なおサーキットで減らしたタイヤは熱が入って
となるので厳禁だ。
しまっているので、タイヤの性能が落ちているこ
ただし以上はあくまで一般論。どんな状況のタ
るが、これを利用して前後のグリップバランスを
調整するのもセオリーのひとつ。自分のドライビ
とは知っておきたい。理想は公道でゆっくりと減
イヤがいいかという情報は常にアンテナを張って
ングスタイルに合ったバランス特性を見つけ出す
らしたタイヤだ。道具を使ってタイヤを削るのは
入手するようにしたい。またタイヤの空気圧や摩
ことができれば、しっかりと安定したタイムを出
「タイヤの加工」に当たり、レギュレーション違反
耗具合で、グリップの「いい」
、
「悪い」が出てく
せるようになるはずだ。
予選と決勝。異なる状況で
どのようにタイヤを使いきるか
経験を積んでタイヤをマネージメントする能力を身につけたい
スポーツラジアルもスリックやセミレーシング
もし最初のアタックで満足がいか
タイヤと同じようにトレッドの温度が上がるとグ
ず、もう一度アタックしたいなら、
リップが増す。しかしスリックタイヤやセミレー
次のラップはタイヤをクーリングす
シングタイヤのように劇的にグリップが向上する
るのもいい。2007年にネッツカッ
のではなく、その上がり幅はわずか。また同時に
プ・ヴィッツレースで関西、西日本
最もグリップする状態がそう長くは続かない、と
のダブルタイトルを獲得した平岡達
いうことも多くのドライバーが感じているようだ。
選手は、
「ただしクーリングラップ
ただ、限界を超えたからと言って極端にグリッ
をするためにラインを外して走り、
プが落ちるということはなく、グリップの落ち方
それが原因でタイヤカスを拾って
もゆっくりしたものだ。このため、感覚を研ぎ澄
しまうような状況なら、アタックし
ますことなく漠然と乗っていると、グリップが上
続けた方がまだいい。タイヤカスを
がっていることも逆に落ちていることも気づかな
拾ったら、決していいタイムは出
いまま走ってしまう。これがタイムを縮められな
ません」と断言する。
いざ勝負となればタイヤのことを犠牲にしても仕掛けなければならない場合もある。
ただしタイヤが発するインフォーメションに常に敏感でいることはとても大切だ。
い理由のひとつになるのだ。
また平岡選手は、
「ステアリング操作は蛇角だ
くのドライバーの一致した見方だ。ただし、フォー
予選の場合、多くのスポーツラジアルは、ア
けでなく転蛇する速度も重要。ステアリングの
ミュラの出身ながら今年ヴィッツ関東で開幕2連
ウトラップの次の最初のアタックラップが最もタ
舵角が大きくなれば、当然、抵抗も増えてタイム
勝中の松原亮二選手によれば、
「富士の最終コー
イヤの状態がいいという。ロータスカップでアド
は落ちてしまう。それに曲がる力
(コーナリング
ナーのようにイン側の路面が荒れているような場
バイザーを務めるプロレーシングドライバー、荒
フォース)
はタイヤを切った瞬間に発生するもので
合、サスペンションストロークの短いフォーミュ
聖治選手によれば、
「スポーツラジアルの場合は、
はない、ということも知っておいてほしい。だか
ラカーはインに寄せ切らない方がトラクションが
アウトラップでは無理なウェービングなどは行わ
らコーナリングフォースが最大に発生するように、
かかりやすい場合があるんです。
ずに普通に走る程度でタイヤをまず温める。そし
ゆっくりとステアリングを切り込んでいくことが
でもナンバー付き車両はサスペンションのスト
て次のアタックラップでクリアラップが取れるよ
大切になる。当然、スパッと切るよりも、手前か
ロークがたっぷりとあるので、インに寄せること
うな位置に自車をつけるのが、最もいいタイムを
らコーナリングを始めるというイメージになる」
が可能になる」という。ラインはコーナーのRだけ
出せる方法」と言う。もちろんスリップストリー
とアドバイスする。
ではなく、路面の勾配や荒れ具合にも大きく左右
ムを使えるような状況があればそれを利用するの
走行ラインについては、基本的に駆動方式やカ
されるが、ナンバー付き車両の場合は、フォーミュ
もセオリーだ。
テゴリーによって大きな違いはないというのが多
ラほどシビアになる必要はない、ということだ。
またスポーツラジアルの場合、コーナーで後輪
スポーツラジアルの特性を知る3人の達人にアドバイスを聞いてみた!
を滑らすのはタイムアップに繋がるのかどうか?
といった点は多くの初心者が悩んでいるところだ
ろう。リヤタイヤがまったく滑らないようなグリッ
プ走行に完全に徹した状態では、決してタイムは
出ていない、というのが結論のようだ。
平岡選手は「FFでは大きく滑らすこと自体が難
しい。リヤタイヤにかなりグリップが落ちたタイ
ヤを履いて無理矢理滑らすという手もありますが、
あまり大きな効果は期待できないと思った方がい
い。却って高速コーナーでは滑りすぎてアクセル
を踏んでいけないという状況が起きるはず」とア
2007年、関西、西日本両シリーズ
を制した平岡達選手はヴィッツ・
マイスターの一人。愛媛松山在
住だが、
2006年、
富士で行われた
日本一決定戦も制するなど、サー
キットの攻略法を瞬時に見抜く慧
眼の持ち主。
34
FJ1600からモータースポーツの
キャリアを始めF4、フォーミュラ・
トヨタのドライブの経験もある松
原亮二選手は昨年からネッツカッ
プ関東シリーズに参戦。激戦区
の関東にあって開幕2連勝と、今
年は絶好調をキープしている。
2009・7 JAF MOTOR SPORTS
ロードスタースペシャリストが揃
い、富士チャンでも人気クラスの
ひとつになっているロードスター
カップでこの五月、念願の初優勝
を果たした鈴木哲也選手。タイ
ヤマネージメントの経験が勝利を
運んだと振り返る。
ドバイスする。
後輪駆動車の場合は、高速コーナーで少しだけ
ステアリングを戻す程度の滑らせ方がベストのよ
うだ。こうした走りができるセッティング
(空気圧
やタイヤの減り具合)
を見つけていくことでタイム
を詰めることが可能となる。