力学試験における不確かさ算定のための均質な供試体作製方法の検討

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D - 01
第 45 回地盤工学研究発表会
(松山) 2010 年 8 月
力学試験における不確かさ算定のための均質な供試体作製方法の検討(第 2 報)
不確かさ
室内実験
一軸圧縮試験
(株)興
和
正会員
○鈴木
直文
正会員
真島
淑夫
国際会員
柴田
東
1.はじめに
著者らは,第一報
1)において,一軸圧縮試験(強度,変形特性)における不確かさ算定を行うための一定品質の供
試体を作製する方法を検討した.そこでは,乱れの少ない粘性土試料の力学特性を持つ供試体を目標とし,①飽和度
95%以上で作製可能,②qu=100∼200kN/m2,εf≦5%で作製可能,③強度特性を制御(強度レベル制御)可能,④簡
易的に作製可能,⑤短期間(数日以内)で作製可能,⑥一定の品質で作製可能,⑦量産的に作製可能,といった条件
全てを満足する方法を検討した.その結果,作成者の操作数の違いから,スラリー状の試料を固化させて作製する方
法が,締固め法によって供試体を作製する方法より供試体のばらつきが小さくなることがわかった.その反面,スラ
リー状の試料を固化させて所定の強度特性を得るためには,養生や添加材の添加という操作が必要となり,養生日数
によって供試体のばらつきが増幅される事がわかった.また,添加材を添加した場合には,養生によって強度特性が
変化していくため,一斉試験等では試験実施日の制約ができてしまうという問題が残された.そこで,前述①∼⑦の
条件を満足するような供試体を作製することを目的として,
表−1
均質な供試体作製方法の比較表
スラリー状にした荒木田粘土に,養生による強度特性の変化
締固め法
固化材添加法 今回の方法
を抑制する作用がある排水促進材を添加し,圧縮試験載荷装
飽和度95%以上で作製可能
△
×
○
置によって一定荷重を載荷して供試体を作製する方法を試み
q u=100∼200kN/m2,ε f≦5%で作製可能
○
○
○
た.表-1 に第一報 1)での供試体作製方法と今回の方法との比
強度特性を制御可能
△
△
○
簡易的に作製可能
×
○
○
短期間で作製可能
(養生による強度特性変化なし)
△
×
○
一定の品質で作製可能
△
△
○
量産的に作製可能
×
○
△
較表を示す.
本稿では,排水促進材を添加し,一定荷重を載荷する方法
によって供試体を作製して,①∼⑥の条件を満足することを
確認した結果について報告する.
○:作製可能 △:将来的に作製可能 ×:作製困難
2.均質な供試体作製実験
試料は W=80%(液性限界の 2 倍程度)の荒木田粘土(砂質粘性土[CsS],埼玉県川越産,初期 W=30%)を使用し,
添加材は,初期の締固めエネルギーによって強度特性を変化させる事ができ,その強度を保持する(養生による強度
特性変化を抑制する)特徴がある排水促進材(主原料:石炭灰,スラッジ焼却灰,廃石膏ボード,主要用途:土壌改良)を
使用した.
表−2
供試体作製には三軸試験装置の一部を使用し,ペデスタルに
載荷圧力に耐えうる円筒を取り付けた.試料投入後に三軸キャ
case
ップを円筒に挿入し,供試体上下より排水させながら,三軸圧
1
2
3
4
5
6
7
8
9
縮試験載荷装置によって荷重を載荷させて供試体を作製した.
設定した最終載荷荷重まで載荷した後,荷重を保持したまま沈
下量が安定するまで(約 3 時間)放置し,除荷と脱形を行った.
脱形後の養生は,空気中(20±3℃)で含水変化がないような
確認試験方法一覧表
5
10
15
5
10
15
5
10
15
150
300
600
形で行った.
目標強度特性を満足するcase
1 章に示した条件を満足する方法を確認する事を
関係図であり,図中の赤枠で囲まれた部分が目標と
case1:150kN/㎡,5%
case2:150kN/㎡,10%
case3:150kN/㎡,15%
case4:300kN/㎡,5%
case5:300kN/㎡,10%
case6:300kN/㎡,15%
case7:600kN/㎡,5%
case8:600kN/㎡,10%
case9:600kN/㎡,15%
case4
10
ε f(%)
R2 = 0.7867
case2
case3
case7
5
case6
する qu=100∼200kN/m2,εf≦5%の範囲である.
9 つ の ケ ー ス の 中 で 目 標 範 囲 に 入 る の は case5
○
△
□
○
△
□
○
△
□
※乾土質量比
case1
し,一軸圧縮試験を実施した.
響が少なくなったと判断された時点での qu とεf の
図-1
凡例
15
目的として,表-2 に示す 9 つの方法で供試体を作製
図-1 は,case1∼9 について 3T法 2)にて養生の影
安定した時点
の養生日数
(day)
≧7
3
7
7
3
7
7
3
7
排水促進材
※
添加量(%)
最終載荷荷重
2
(kN/m )
case8
case5
case9
0
0
50
100
150
200
250
q u(kN/m2)
(300kN/m2,10%添加)である.
表-2 に安定した時点での養生日数を示したが,排
図−1
qu とεf の関係図
水促進材の添加量が 10%であれば,養生日数 3 日間という短期間で強度特性変化が少なくなった.これは,一斉試験
等で供試体を使用する際,試験日に制約なく試験が実施可能となることを示唆している.
Examination of practice for making and curing for uncertainty in laboratory testing to determine
properties(the second report)
Naofumi Suzuki, Yoshio Mashima & Azuma Shibata(Kowa Co.Ltd)
153
mechanical
300
また,図-1 中の黒の実線は,排水促進材の添加量 5%と 10%の全ての測定点に対する回帰曲線であり,相関性が良
い結果が得られた.この結果は,さらに検討する余地はあるものの,強度特性を制御できることを示唆している.な
お,添加量 15%は,最終載荷荷重に限らず,添加量が多すぎて粒が団粒化し砂質土に似た破壊形態を示したことから,
回帰曲線の対象外とした.
表−3
供試体の均質性確認実験結果(n=20)
3.供試体の均質性確認の方法
q u(kN/m2)
ε f(%)
E 50(MN/m2)
168.4
161.0
163.6
1.77
0.01
2.1
1.8
2.0
0.09
0.05
17.1
14.5
15.6
0.70
0.05
最大
最小
平均
標準偏差
変動係数
1 章で示した条件のうち,⑥一定の品質の供試体が作製できるかど
うかを確認するため,目標強度特性を満足した表-2 の case5 の方法で
作製した 20 個の供試体を 3 日間養生し,一軸圧縮試験を実施した.
その結果を表-3 に示す.この結果をもとに,供試体の均質性を確認す
表−4
る.確認する方法として,以下の 2 種類を行った.
前回の不確かさ算定時の実験結果 3)
標準偏差
変動係数
a)著者らが報告 3)した一軸圧縮試験における不確かさ算定の際に
q u(kN/m2)
ε f(%)
E 50(MN/m2)
2.64
0.03
0.36
0.08
0.18
0.05
用いた供試体との比較
b)JIS Z 84054)を参考にした供試体の均質性評価
^
S s≦0.3σ
S s:試料間標準偏差
4.供試体の均質性確認結果
^
σ:技能評価のための標準偏差
a)著者らが報告 3)した一軸圧縮試験における不確かさ算定の際に
用いた供試体との比較
試料間分散−試料内分散
Ss=
著者らが,一軸圧縮試験における不確かさ算定を行った際に使用
さ算定のために作製した供試体と比べて 1∼
1/3 程度小さくなっており,より均質な供試体
を作製することができたと言える.
変動
24.2350
34.8250
59.2175
b)JIS Z 84054)を参考にした供試体の均質性
評価
JIS Z 8405:2008 では,技能試験に使用する
試料が均質であることを確認するための方法に
標準偏差が 5%を超えないように設定されたも
のである.Ss(試料間標準偏差)は,2)式で示
自由度
4
15
19
変動要因
試料間
試料内
合計
変動
0.0595
0.1104
0.1699
自由度
4
15
19
表−7
変動要因
試料間
試料内
合計
変動
2.1400
7.2800
9.4200
内分散から求まる.今回の場合,試料内 4 個(r=4),試料間 5 組と
^ (技能評
して分散分析を行った.その結果を表-5∼7 に示す. σ
価のための標準偏差)については,いくつか求め方があるが,こ
分散
0.0149
0.0074
分散
0.5350
0.4853
表−8
qu
εf
E 50
分散比
2.5979
P-値
0.0785
F 境界値
3.0556
分散比
2.0188
P-値
0.1433
F 境界値
3.0556
P-値
0.3914
F 境界値
3.0556
E50 の分散分析結果表
自由度
4
15
19
すように,一元配置の分散分析で求められる試料間分散及び試料
分散
6.0588
2.3322
εf の分散分析結果表
表−6
ついて記載しており,判定は 1)式で行う.1)式
は,試料間標準偏差によって生じる技能試験の
r :併行測定回数(試料内個数)
qu の分散分析結果表
表−5
変動要因
試料間
試料内
合計
・・・・・・・・・・・2)式
r
した供試体の標準偏差と変動係数を表-4 に示す.この中で,変動係
数についてみると,今回の結果は,前回不確か
・・・・・・・・・・・・1)式
σ
30.4
0.368
2.90
分散比
1.1023
Ss,0.3σ一覧表
0.3σ
9.13
0.110
0.870
Ss
1.3650
0.0612
0.1576
判定
均質
均質
均質
こでは著者らが報告
5)した一軸圧縮試験結果における不確かさや室内土質試験結果におけるばらつきを変動係数とし
て示した過去の報告
6)7)を参考に,qu,εf,E50
^を σ
^ qu=30.4,σ
^ εf=0.368, σ
^ E50=2.90 と設定した.
それぞれの σ
^ より小さくなることから,供試体
1)式による判定を行った結果を表-8 に示すが,いずれも試料間標準偏差 Ss が 0.3σ
は技能試験に使用する供試体の水準として均質であると判断される.
5.まとめ
今回実施した供試体作製方法で,乱れの少ない粘性土試料の力学特性を持つ供試体として,①飽和度 95%以上で作
製可能,②qu=100∼200kN/m2,εf≦5%で作製可能,③強度特性を制御(強度レベル制御)可能,④簡易的に作製可
能,⑤短期間(数日以内)で作製可能,の条件を満足することが確認できた.また,条件の1つである,⑥一定の品
質で作製可能かどうかについても,著者らが過去に報告した供試体と比べると,より均質な供試体を作製できること
がわかり,JIS Z 8405:2008 を参考に検討した結果でも,供試体は均質であると判断された.今後は,一斉試験等を
行う事を視野に入れて,均質な供試体を多量に作製できるように,量産可能な作製方法に改良をしてゆく必要がある.
参考文献 1)鈴木直文ら:力学試験における不確かさ算定のための均質な供試体作製方法の検討(第 1 報),第 44 回地盤工学研究発
表会,2009.2)地盤工学会:地盤材料試験の方法と解説−2 分冊の 2−,p589,2009.3)鈴木直文ら:室内土質試験結果における不確かさ
の算定の試み(その4)一軸圧縮試験による変形係数 E50,第 43 回地盤工学研究発表会,2008. 4)日本工業規格:JIS Z 8405:2008 試験所
間 比 較 に よ る 技 能 試 験 の た め の 統 計 的 方 法 ,2008 . 5) 鈴 木 直 文 ら : 室 内 土 質 試 験 結 果 の 不 確 か さ , 地 盤 工 学 ジ ャ ー ナ ル
Vol.2,No.4,339-352,2007.6)下辺ら:室内土質試験データの変動係数について,第 52 回土木学会年次学術講演概要集,pp684-685,1997.
7)Lee.I.K.,White.W.and Ingles.O.G.:Geotechnical Engineering,Pitman,pp60-62,1983.
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