クロム蒸着光学素子の In Situ 炭素汚染除去 In Situ - Photon Factory

Photon Factory Activity Report 2013 #31(2014) B
BL-13B/ BL 調整
クロム蒸着光学素子の In Situ 炭素汚染除去
In Situ Removal of Carbon Contamination from Chromium Evaporated Optics
豊島章雄 1, 菊地貴司 1, 田中宏和 1, 間瀬一彦 1,*, 雨宮健太 1
1
放射光科学研究施設, 〒305-0801 つくば市大穂 1-1
Akio Toyoshima1, Takashi Kikuchi1, Hirokazu Tanaka1, Kazuhiko Mase1,*, and Kenta Amemiya1
1
Photon Factory, 1-1 Oho, Tsukuba, 305-0801, Japan
炭素 K 吸収端領域ではクロム蒸着した光学素子の方が金蒸着した光学素子より反射率が大きく、高次光の
比率が少ない。我々は 8.2×10-2 Pa の酸素を導入しながらクロム蒸着光学素子に非分光放射光を 60 分照射する
という簡単な手法で、炭素汚染をほぼ完全に除去することに成功したので報告する。
図1:BL-13 の配置図。
2 酸素雰囲気下での非分光光照射による振分け鏡
Cr 面の炭素汚染除去
BL-13 の 振 分 け 鏡 チ ェ ン バ ー ( 図 1 参 照 ) に
8.2×10-2 Pa(6.2×10-4 Torr)、BL-13B の後置鏡チェ
ンバー内に 1.6×10-1 Pa(1.2×10-3 Torr)の酸素を導入
し、ID ギャップを 100 mm にして非分光光を BL-13
クロム蒸着振分け鏡、SES200 後置鏡(M3B)、I0
メッシュに 60 分照射した。炭素汚染除去後は4時
間程度でユーザービームタイムを再開できた。
3 振分け鏡炭素汚染除去前後の炭素 K 吸収端領域
での BL-13B 光量スペクトル
振分け鏡炭素汚染除去実験前後の BL-13B におけ
る炭素 K 吸収端領域での光強度を、250~330 eV の
範囲、0.2 eV 刻み、Gr:1000 本/mm、第1後置鏡
(SES200 用)、振分け鏡(Cr 面)の条件で、M3 電
流、I0 電流、光量(シリコンホトダイオードを使
用)を測定した(図2-4)。出射スリットは 100
m、M2 は
4.4°、ID ギャップは 154 mm である。
10
Photon intensity (photons/s)
1 はじめに
現在、真空紫外軟 X 線ビームラインでは光学素子
の炭素汚染による炭素 K 吸収端での光量の低下が世
界的に大きな問題となっている。従来の光学素子の
炭素除去は、0.3-0.4Torr の酸素雰囲気下での DC 放
電[1]、大気圧下での UV 照射によるオゾン洗浄[2]、
あるいは金の再蒸着が主流であった。しかし、いず
れの方法でも
1)チェンバーを再ベークする必要があり労力の
負担が大きい。
2)DC 放電を行なう場合は真空槽内に電極を設
置する必要がある。
といった問題があった。
そこで、我々は 1×10-2 Pa 以下の酸素導入下で光
学素子に非分光放射光を照射することにより光学素
子の炭素汚染を除去する手法[3]を採用し、BL-13A
(図1)のすべての光学素子の炭素汚染を除去した
[4]。また、非分光放射光照射により生成する酸素原
子、酸素イオンが炭素汚染除去に寄与することを示
す結果を得た[4]。しかしながら本手法は、これまで
金蒸着した光学素子にしか応用されてこなかった。
炭素 K 吸収端領域ではクロム蒸着した光学素子の方
が金蒸着した光学素子より反射率が大きく、高次光
の比率が少ない。そこで我々は本手法をクロム蒸着
光学素子に応用し、炭素汚染をほぼ完全に除去する
ことに成功したので報告する。
8.0x10
回折格子:1000本/mm,出射スリット幅:100 m,
IDgap = 154mm, IRDによる測定、I0メッシュ使用
6.0x10
10
4.0x10
10
2.0x10
10
0.0
250
振分け鏡炭素汚染除去前、Cr面使用
振分け鏡炭素汚染除去後、Cr面使用
260
270
280
290
300
310
320
330
Photon energy (eV)
図2:炭素汚染除去前後の炭素 K 吸収端領域での
BL-13B の光量スペクトル。炭素汚染がほぼ除去
されている。クロム蒸着振分け鏡の 266.4eV の吸
収は2次光(533 eV)が酸素に吸収されて生じて
いる。
3
2
振分け鏡炭素汚染除去前、Cr面使用
振分け鏡炭素汚染除去後、Cr面使用
1
0
250
260
270
280
290
300
310
320
330
Photon energy (eV)
図3:炭素汚染除去前後の炭素 K 吸収端領域での
BL-13B の SES200 用後置鏡(M3B)電流。炭素汚
染がほぼ除去されている。
I0 current (nA)
回折格子:1000本/mm,出射スリット幅:100 m,
IDgap = 154mm, I0による測定
0.2
振分け鏡炭素汚染除去前、Cr面使用
振分け鏡炭素汚染除去後、Cr面使用
0.1
0.0
250
260
270
280
290
300
310
320
330
Photon energy (eV)
図4:炭素汚染除去前後の炭素 K 吸収端領域での
BL-13B の I0 電流。炭素汚染除去前の 285.6 eV のピ
ークはグラファイトの C 1s → *吸収に由来する。
炭素汚染除去後は I0 電流値が大幅に増大しているこ
と、285.6 eV のピークが消失していることから、表
面のグラファイトは除去されたと考えられる。炭素
汚染除去後も観測された 290.8 eV、297.7 eV、300.3
eV のピークはメッシュ中の炭素に由来すると思わ
れる。
4 炭素 K 吸収端領域での光量の規格化
真空紫外軟 X 線領域では M3B 電流値あるいは I0
電流値で光量の規格化が行なわれる。そこでクロム
蒸着振分け鏡の炭素汚染除去後の炭素 K 吸収端領域
での BL-13B の光量を M3 電流値あるいは I0 電流値
で規格化した値のスペクトルを図5に示す。このス
ペクトルを用いると M3B 電流値あるいは I0 電流値
から光量を求めることができる。
1.5x10
1.0x10
8
3x10
8
10
5.0x10
M3B電流値で規格化した光量
8
2x10
I0電流値で規格化した光量
9
1x10
0.0
0
250 260 270 280 290 300 310 320 330
8
光量/ I0電流 (Photons/s/pA)
4
4x10
10
Photon energy (eV)
図5:クロム蒸着振分け鏡の炭素汚染除去後の炭素
K 吸収端領域での BL-13B の光量を M3 電流値ある
いは I0 電流値で規格化した値のスペクトル。
5 振分け鏡炭素汚染除去前後の酸素 K 吸収端領域
での BL-13B 光量スペクトル
振分け鏡炭素汚染除去実験前後の BL-13B にお
ける酸素 K 吸収端領域での光強度を、530~540 eV
の範囲、0.2 eV 刻み、Gr:1000 本/mm、第1後置鏡
(SES200 用)、クロム蒸着振分け鏡の条件で、M3
電流、I0 電流、光量(シリコンホトダイオードを使
用)を測定した(図6)。出射スリットは 100 m、
M2 は 3.0°、ID ギャップは 154 mm である。炭素汚
染除去後も光量はほとんど低下しなかった。この結
果はクロム蒸着振分け鏡の酸化がほとんど進まない
ことを示している。
回折格子:1000本/mm,出射スリット幅:100 m,
IDgap = 154mm, SES200用後置鏡(M3B)による測定
振分け鏡炭素汚染除去前の光量、Cr面使用
振分け鏡炭素汚染除去後の光量、Cr面使用
振分け鏡炭素汚染除去前のI0電流(×30)、Cr面使用
振分け鏡炭素汚染除去後のI0電流(×30)、Cr面使用
3.5x10
10
3.0x10
10
2.5x10
10
2.0x10
10
1.5x10
10
1.0x10
10
振分け鏡炭素汚染除去前のM3電流、Cr面使用
振分け鏡炭素汚染除去前のM3電流、Cr面使用
5
4
3
2
5.0x10
1
9
0.0
530
535
Photon energy (eV)
M3 or I0 current (nA)
M3B current (nA)
5
Photon intensity (photons/s)
回折格子:1000本/mm,出射スリット幅:100 m,
IDgap = 154mm, SES200用後置鏡(M3B)による測定
6
光量/M3B電流 (photons/s/nA)
Photon Factory Activity Report 2013 #31 (2014) B
0
540
図6:炭素汚染除去前後の酸素 K 吸収端領域での
BL-13B の光量と M3 電流、I0 電流。炭素汚染除去
後も光量はほとんど変化しない。
6 酸素 K 吸収端領域での光量の規格化
クロム蒸着振分け鏡の炭素汚染除去後の酸素 K
吸収端領域での BL-13B の光量を M3 電流値あるい
は I0 電流値で規格化した値のスペクトルを図7に示
す。クロム蒸着振分け鏡を使った場合、酸素 K 吸収
端領域では M3B 電流で規格化した方がよいことが
わかった。
6x10
9
5x10
9
4x10
9
3x10
9
2x10
9
1x10
9
4.0x10
8
3.5x10
8
3.0x10
8
2.5x10
8
2.0x10
8
1.5x10
8
8
M3B電流値で規格化した光量 1.0x10
7
I0電流値で規格化した光量
5.0x10
0
530
0.0
535
光量/ I0電流 (Photons/s/pA)
光量/M3B電流 (photons/s/nA)
Photon Factory Activity Report 2013 #31 (2014) B
540
Photon energy (eV)
図 7:炭素汚染除去前後の酸素 K 吸収端領域での
BL-13B の光量と M3 電流、I0 電流。炭素汚染除去
後も光量はほとんど変化しない。
7 まとめ
酸素導入下での非分光光照射でクロム蒸着振分け
鏡の炭素汚染はほぼ除去できた。炭素汚染除去後は
4時間程度でユーザービームタイムを再開できた。
また、後置鏡の炭素を除去すると後置鏡電流値を光
量のモニターとして利用することができることがわ
かった。
謝辞
炭素汚染除去実験に協力してくださった本田融さ
ん、浅岡聖二さん、宮内洋司さん(KEK-加速器第
七研究系)、BL-13B のインターロックシステム、
制御系の構築に尽力された小菅隆さん、濁川和幸さ
ん、斉藤裕樹さん,永谷康子さん(KEK-PF)に感
謝します。
参考文献
[1]T. Koide, T. Shidara, K. Tanaka, A. Yagishita, and S.
Sato, Rev. Sci. Instrum. 60, 2034 (1989).
[2] R. W. C. Hansen, et al., Nucl. Instrum. Methods Phys.
Res. A 347, 249 (1994).
[3] W. K. Warburton and P. Pianetta, Nucl. Instrum.
Methods Phys. Res. A 319, 240 (1992).
[4] A. Toyoshima, T. Kikuchi, H. Tanaka, J. Adachi, K.
Mase, and K. Amemiya, J. Synchrotron Rad. 19, 722
(2012).
* mase@post. kek.jp