褥瘡(じょくそう)のケア 原因と好発部位 - 日本のケアをよくしよう!全国

褥瘡(じょくそう)のケア 原因と好発部位、予防ケア、除圧の事例
わたしたちのやりたいケア 介護の知識 50
褥瘡(じょくそう)のケア 原因と好発部位、予防ケア、除圧の事例
褥瘡のケアで大切なのは、
「早期発見と予防」です。
介護施設に入居している高齢者の多くは皮膚が弱く、褥瘡ができや
すい状態にあります。
褥瘡の発見が遅れると、栄養状態のよくない方などは、急激に悪化
していきます。
(1)「特定の場所に
長時間の圧」
>>> 人間の毛細血管内圧
は通常、32mmHg で、
これ以上の圧力が加わる
できるだけ早く発見して、適切に対応することが大切です。
と毛細血管が閉塞状態に
また、褥瘡の発生、再発、悪化をふせぐ予防的なケアも重要です。
なり皮膚組織に血が通わ
これらのことをきちんと行なうには、褥瘡ができるメカニズムとで
なくなってしまいます。
きやすい場所(好発部位)を知ることが必要です。
褥瘡を予防するにはこの
数値以下に保持すること
Ⅰ.褥瘡の原因
が大切です。
褥瘡は、皮膚に長時間にわたって圧が加わり、血流が途絶え、皮膚
が壊死(えし)することで起きるといわれています。
褥瘡の原因は、
「圧迫とズレ」が主因です。
圧が特定の場所に長時間集中的(1)にかからないように『徐圧』
『ズ
レの解消』をケアすることが最も重要となります。
補足)
32mmhg は、指先で軽
人間の毛細血管の内圧は通常、32mmHg。
く押して皮膚が白く残る
これ以上の圧力が加わると毛細血管がつまり、皮膚組織に血が通わ
程度の感覚です。
なくなってしまいます。
褥瘡を予防するにはこの数値以下に保持することが大切です。
介護施設では2時間に1回の体位交換をしているところが多いと
思いますが、2時間に1回の体位交換をすることで、この数値以下に
なると言われています。
圧は体圧測定器(2)で測ります。
測定方法は、右写真の黄色の丸の部分を測定したい下部に当て、測
定器に表示された数値を確認します。
(2)「 簡易式体圧・
ずれ力同時測定器」
>>>
圧迫とズレ以外に褥瘡の発症リスク、悪化を高める要因がありま
す。体圧測定器がない場合は、手の感覚で確かめます。手を体とマッ
トレス等のあいだに差し込んで、引っかからずにすっと抜ける程度の
圧が適当と言われています。
モルテン PREDIA
全国高齢者ケア研究会
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【圧迫とズレ以外に褥瘡の発症リスク・悪化を高める要因】
•身体局所の体圧(圧迫
力)とずれ力を同時に測
○ 湿潤と不潔(多汗、尿、便)
・・・ムレ
定し、最適な姿勢やマッ
トレスの確認など広い
ムレることで皮膚がふやけ、そこにズレや圧が加わると、
活用が可能です。
皮膚が破れたり、めくれたりします。汗や尿、便の細菌が侵入
•体圧(圧迫力)とずれ
し、炎症を起こします。汗、尿、便により皮膚が荒れることも、
力 の 総 合 評 価 を
褥瘡ができやすくなる要因の一つとなります。
[LOW] 、 [MID] 、
[HIGH]の 3 段階で自動
○ むくみ(浮腫)
表示します。
•測定データの一時的
むくみは皮下組織に組織間液が異常に貯まった状態です。
皮膚がはっていますので、少しの外力で簡単に損傷しやすくなり
な固定と保存(最大5
ヶ)ができます
ます。
○ 低栄養状態
たんぱく質(血清アルブミン値;ALB)を褥瘡発生予測の指
標として使うところが多いと思います。血清アルブミン値は
2.8g/dl 以下で褥瘡の危険性が高いとされています。
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《ALB 日本基準;4.1~5.3 dl 以上を保つ》
《ALB 施設基準;3.6g/dl 以上を保つ(低栄養のリスクレベル)》
※ALB 施設基準は、さくら園での基準です。
その他に亜鉛やビタミン A やビタミン C、鉄や銅、カルシウ
ムなども関係してきます。それぞれの役割は、看護師や管理栄養
士に相談してみてください。
栄養状態が充分かどうかは、まず食事摂取量で見ます。あわせ
て体重の変化も見ます。
○ 骨の突出
高齢者は筋肉量がへり、骨が突出してきます。骨の突出により
面ではなく点で圧を受けることになり、皮膚の損傷を受けやすく
なります。
○ 上記以外では、臀部などに皮膚カンジタ症ができ、褥瘡に発展す
る場合もあります。
※ 高齢者は、上記の条件(要因)が複数の要因として褥瘡に発展す
ることが多いのです。さらに、皮膚が薄く・乾燥した皮膚、脱水
状態などが加わり、褥瘡の発症、悪化リスクが高まります。
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Ⅱ.褥瘡の好発部位
着替え、排泄介助、入浴介助などの際、お年寄りの皮膚が赤くなっ
ているのを見つけることがあります。皮膚が赤くなっているのが褥瘡
(じょくそう)の始まりです。
褥瘡をいち早く発見するためにも、できやすい箇所を知っておかな
くてはなりません。
褥瘡の早期発見をするためには、入浴介助、排泄介助での観察が大
切です。
特に、入浴介助の時は全身を観察することがポイントです。
大分県中津市にある、いずみの園の岩崎深雪介護部長は、褥瘡予防
を徹底するために、入浴介助にできるだけ立ち会うようにしていたそ
うです。
(3) 「 仙 骨 ( せ ん こ
つ)」
褥瘡が最も出来やすいのが「仙骨(3)」だと言われています。
>>>盤の中央にある骨。
ついで踵(かかと)、腸骨、大転子部、尾骨、坐骨、脊柱と続きます。
背骨の付け根。尾骨の上
部。骨盤の要とも言われ
仰臥位
る。
肩甲骨
肩甲骨
3
頭部
仙骨
踵
仙骨に褥瘡ができやすいのは、仰向けに寝たとき(仰臥位)、仙骨に
全体重の約 5 割が集中するからです。寝た時に、仙骨に最も体重が
かかりやすいのです。
踵(かかと)にできるのも同じ理由です。足の重みを踵という「点」
で支えるため強い圧がかかり、血流が悪くなって、褥瘡が起こります。
側臥位
腸骨
肩峰突起
肋骨
大転子
膝関節部
くるぶし
麻痺や拘縮があって、横向きに寝ている(側臥位)ときは、腸骨に圧
が強くかかるので、褥瘡ができやすくなります。
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座位
後頭部
肩甲骨
仙骨
坐骨
踵
ベッドや車椅子や椅子に座っているとき(座位)は、座骨や仙骨に褥
瘡ができやすくなります。
座位による褥瘡の要因の多くは、時間や姿勢が原因と言われていま
す。
姿勢については、テキスト 12『食事姿勢』を参照してください。
褥瘡のケアで大切なことは、圧が特定の場所に長時間集中的にかか
らないようにして、再発、悪化、発生を防ぐ予防的ケア、発赤をいち
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早く発見し看護師に報告すること(早期発見)です。
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Ⅲ.褥瘡の原因
① その 1(仙骨(ずっこけ)座り
高齢者の代表的な問題のある姿勢として、仙骨座りと骨盤の傾斜
があげられます。
ずっこけ座りは、仙骨に圧がかかる座り方です。ずるりと椅子か
ら滑り落ちそうな座り方。骨盤が後ろに倒れている、または、寝てし
まっているのが特徴です。この姿勢は、皮膚の下に脂肪のあまりない
仙骨に圧がかかるため、床ずれ(じょくそう)の危険性があります。
下の写真のように、臀部や大腿骨が前方に滑り出る状態です。
他に、前方に滑り出る要因としては、筋力低下や椅子が個々の身体
に合っていないことがあります。
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② その2(骨盤の傾斜による片側への負荷)
車椅子などで、たわみのある座面に座ると、骨盤が傾斜します。
下の写真は座面にたわみのある車いすに座った時の骨盤の状態を示
しています。見ていただくとわかりますが、骨盤が左に傾いていま
す。骨盤がななめになると、傾いた方に体重がかかります。
体重がかかった部分の圧迫が強いと、血液の循環が悪くなり、褥
瘡になります。
骨盤の傾きは、たわんだ座面によるものだけでなく、麻痺などに
よっても生じます。片マヒがある方の場合、マヒがある方に体が傾
きます。その場合、骨盤も傾いています。
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4.除圧(ズレの解消)の事例
① 臥床時の除圧(30 度ルール)
30 度ルールとは、広い面積で体重を受け、かつ反対側の肩や骨
盤側方の骨張った部位への圧迫も回避できる
ギャジアップでは、30度以上にするとズレや局所圧が発生する
ため、30度以下にすると体圧分散されやすいとされています。
② 座り直しによる除圧、ズレの解消
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左の写真は、
『ずっこけ座り』ですがこの状態では、圧は仙骨部に
集中的にかかってしまいます。
(点で圧を受ける)
右の写真は、ズレた背面を直し、骨盤を立てるように座り直す支
援をした後の写真です。この状態での圧は、臀部全体と太ももの裏
で圧を面で捉えていることになります。
(面で圧を受ける)
また、座りなおしの支援をすることで背抜きとしても効果的です。
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③ 仙骨の除圧の事例(ナーセントパット使用例)
座位時や就寝時の除圧の方法の一例として、ナーセントパット
を使った除圧の方法をいくつかご紹介します。
◇ 臥床時
背部と大腿骨の裏に、ナーセントパットを差し込みます。
シーツや衣類のしわを伸ばすことが大切です。衣類のしわを伸ばす
際に、背中をさするように優しくなでることがコツです。微調整をし
て、角度や位置を変えた場合は、その都度確認をするようにします。
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膝関節に拘縮がある場合は、足の重さで下側に両足の荷重がかかる
ため、下側の大腿部にもナーセントパットを入れて、体圧を分散させ
ます。膝関節が重なる場合は、間にビーズのクッションを入れます。
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また、踵(かかと)がつく場合は、広い面で支えるように、クッショ
ンを入れます。
踵(かかと)の場合、ゴソゴソ動かせる方はクッションがずれてしま
うので、ベッドのマットレスを工夫して、足全体で圧を受けるように
する方がよいです。
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