ユーザーへの直言

ソリューション営業 210 人に聞いた
困った客の“傾向と対策”
特集 ユーザーへの直言
パートナーとして付き合いたい
新規客の開拓や既存客のフォローに日々奔走するソリューションプ
ロバイダの営業担当者。ユーザー企業から、不採算になりかねない
ような一方的な値下げを要求されたり、明確なテーマがないまま
に新たな提案を求められたりなどで、彼らは頭を抱えている。シス
テム構築は、ソリューションプロバイダとユーザー企業の協力関係
があってこそできるもの。そこで本誌は、ソリューションプロバイダ
の営業担当者 210 人へのアンケート * とトップ営業へのインタビ
ューを実施。日ごろは「ユーザーの直言」を聞く一方の営業担当者
に「ユーザーへの直言」をあえて語ってもらった。ユーザー企業と良
好な関係を築くためのヒントを探ってみよう。
*
(中井 奨)
10月24日から28日にかけてソリューションプロバイダの営業担当者に調査を依頼。
(1)
これ
までの営業活動で困った客、
(2)
顧客と良好な関係を築くための手段、
(3)
顧客に対して分
かってほしいこと―について尋ねた。
(1)
と
(2)
は選択肢から最大3 つを選んでもらい、
(3)
については自由に記述してもらった。
16 NIKKEI SOLUTION BUSINESS 2005.11.15
図1● 営業担当者がこれまでの営業活動で遭遇した困った客のパターン
(ITサービス業界の営業担当者210人が回答、最大3項目まで選択してもらった)
採算ラインを割り込みかねない価格の値下げを要求された
134
明確な戦略やテーマもないのにもかかわらず新しい提案を要求された
71
既に発注先が固まっているのに、
“当て馬”として商談を打診された
68
何度話を聞いても、
どんなシステムを作りたいのか明確にしなかった
51
購入する意思もないのに、様子見で相談を持ちかけられた
36
製品を納めるだけの“納入業者”としてしか見てくれなかった
営業担当者の肩書きを見て態度を変えてきた
30
7
その他
35
らず新しい提案を要求された」
(回
答数 71)
、
「既に発注先が固まって
いるのに“当て馬”として商談を
打診された」
(同68)
、
「何度話を聞
いても、どんなシステムを作りた
いのか明確にしなかった」
(同 51)
との回答も多い。
から、あえて言わせていただく
営業担当者は、ボランティアで
はなく、あくまでもビジネスとし
て提案活動に励んでいる。にもか
「この間の注文、キャンセルでき
ないか」
「おたくはプロなんだから
げ要求」で、営業担当者は矢面に
かわらず、それに対して価値を認
立たされているのだ。
めてくれないのはあまりにも酷な
何でもできるだろう」
「何かいいこ
アンケートに回答した営業担当
話だ。
「見積もりや提案にはそれな
と(賄賂)はないのか」―。ソリ
者は「お客様の予算は低額である
りの工数がかかる。本当にそのシ
ューションプロバイダの営業担当
ことが多い上に、要求仕様は予算
ステムが必要なのか不明確なまま
者は、いつこんな困った要求をす
内で構築できるレベルではない」
提案させられるのは辛い」と、あ
る客に出くわすか分からない。
と悲鳴を上げる。また、別の営業
る営業担当者は本音を明かす。
本誌が 10 月下旬に IT サービス
担当者は「ぼったくりをしている
質の高いシステムを構築するた
業界の営業担当者を対象に、客と
わけではない。しっかりと精査し
めには、ソリューションプロバイ
の関係に関する緊急アンケート調
た工数と決められた単価を基に、
ダとユーザー企業の協力が不可欠
査を実施したところ、210 人から
費用を請求していることを理解し
だ。ソリューションプロバイダは、
回答を得た。これによると、営業
てほしい」と訴える。過度な値下
客に媚びへつらうばかりではなく、
担当者がこれまでの営業活動で遭
げは、結果としてシステムの品質
時として毅然とした態度で客と対
遇した困った客のパターンでは、
だけでなくモチベーションの低下
峙しなければならない。
「採算ラインを割り込みかねない価
格の値下げを要求された」が 134
をもたらし、互いに不幸な結果に
なりかねない。
以下では、ベテラン営業担当者
へのインタビューなどを基に、困
人と、圧倒的に多い(図 1)。決算
営業担当者を悩ませるのは、値
った客の“傾向と対策”をまとめ
発表でも、業績不振の理由として
下げ要求ばかりではない。
「明確な
た。そして、客との良好な関係を
たびたび目にする「単価の引き下
戦略やテーマもないのにもかかわ
築くための方策を探った。
NIKKEI SOLUTION BUSINESS 2005.11.15
17
特集:困った客の“傾向と対策”
見下して業者扱いする客
最善を尽くせば周りが評価してくれる
「営業の仕事は、人間関係を熟成
この担当者の態度は、明らかに
させていく過程が大切だ」
。キーウ
田中マネージャたちに対して攻撃
ェアソリューションズIT ソリュー
的で見下していた。まさに“主従”
ション事業本部 SI 事業部の田中孝
のような関係に田中マネージャは
一営業マネージャは、営業として
「どうしたらこのお客様とうまく付
の心構えをこう語る。
き合えるのだろうか」と、頭を抱
うしても人間同士の関係を築くこ
「せっかくお知り合いになれたの
キーウェアソリューションズ
ITソリューション事業本部
SI 事業部営業マネージャ
とができない客がかつてあった。
に、このような状況はとても辛い
田中 孝一 氏
ある金融機関の情報システム担当
です」
。田中マネージャは、思い切
者で、田中マネージャが腹を割っ
ってこの担当者に思いをぶつけた。
「田中さんなら一生懸命にやって
て話そうとしても、なかなか心を
ところが返ってきたのは「私は別
くれますよ」と、田中マネージャ
開いてくれず、何かと田中マネー
に辛くない」とつれない返事。最
は新しい担当者に紹介された。実
ジャに辛く当たった。時には競合
後のカードを使い果たした田中マ
は、田中マネージャを新しい担当
他社と比較されて「お前なんかで
ネージャは、いったんこの客への
者に紹介した社員は、田中マネー
は力にならない」と、冷たく言い
訪問をやめた。
ジャが前任者に対して熱心に働き
そんな田中マネージャにも、ど
えていた。
放たれることもあった。ソリュー
数カ月が経過して、田中マネー
かけていたことを、高く評価して
ションを提案しようとしても「お
ジャがこの企業に電話した。する
いたのだった。信頼されているか
前らには関係ない」と、突き返さ
と、
「担当者が変わりました」と告
らこそ、新しい担当者を紹介して
れた。
げられた。
「新しい上司を紹介した
もらえる。
「何も言わなくても、周
いので来ていただけませんか」と
りは見ているんだ」と、田中マネ
も言われた。
ージャはしみじみと感じた。
理不尽なクレームをつける客
客が抱える背景を読む
アイル
ソリューション営業部
ビジネスデザイナー
溝口 孝史 氏
18 NIKKEI SOLUTION BUSINESS 2005.11.15
「この間導入したシステムがまと
この担当者と、システム導入の前
もに動かない、何とかしてくれな
に、念入りに打ち合わせをして仕
いか」
。アイルでソリューション営
様をしっかりと確認していた。
業部ビジネスデザイナーを務める
「なぜこのようなクレームが発生
溝口孝史氏に、あるユーザー企業
するのだろうか」
。溝口氏は不思議
の情報システム担当者からこんな
に思いながらその担当者から直接
クレームが寄せられた。溝口氏は
話を聞いた。すると、システムを
導入した後に、エンドユーザーか
要望が出てくるのは自然の流れだ。
く対応するようにも心がけている。
ら「こんな機能も欲しかったのに
だが、担当者が 1 人でエンドユー
原因が分からなければ、分かるま
なぜないのか」などと、この担当
ザーの要望を受けている負担の大
で何度でも客と話し合う。
者にクレームに近い要望が殺到。
きさを溝口氏は察した。
そのはけ口として、溝口氏に不満
エンドユーザーから寄せられる
ただし、客から到底無理な要求
をされた場合には「できない」と、
要望は、システム担当者だけでは
はっきり伝える。
「後先のことを考
解決できない場合もある。また、
えると、顧客に対してなぜ駄目な
ろいろと言われていることを整理
担当者とエンドユーザーの間で話
のかをきちんと説明しなければな
しましょう。どういう意見が出て
し合いの場が十分に持たれていな
らない」と溝口氏は言う。そして、
いるのか教えてください」と話し
いケースもある。こうした客の事
できないと言うだけでなく、代替
た。システムが使われていれば、
情に配慮しながら、溝口氏はクレ
案を提案することも忘れない。
「お
ームに対応している。クレームに
客様に本当に喜んでいただきたい」
は時間を置かずに、できるだけ早
という思いがそこにある。
をぶつけてきたのだった。
溝口氏は担当者に対して「今い
商談中に怒り出す客
怒りを投げ返せる自信を持て
インフォテリア
プロダクト事業部事業企画室長
油野 達也 氏
にファイルを投げつけたのだ。出
提出した仕様書は修正個所が多
席者たちの顔は青ざめて、その場
かった。確かに情報システム部長
の空気が凍りついたのは言うまで
が怒るのも無理はなかった。だが、
もない。
油野氏は思い切った行動に出た。
実録!こんな客に泣かされた(番外編)
●10倍の数量をオーダーするから値段を半額に下げろと言われた
●情報システム担当者なのに、
自社のシステムを理解していなかった
ERP(統合基幹業務システム)な
どの営業活動に長年経験を積んで
●発注書も出していないのに、
納期だけを勝手に決められた
きたインフォテリア プロダクト事
●決裁権者の意向を無視して、
担当者が勝手に見積もりを求めてきた
業部事業企画室長の油野達也氏が、
●想定外の問題が発生しても
「聞いてない」
と歩み寄ってもらえなかった
今でも忘れられない商談がある。
大阪のある企業との打ち合わせで
のことだ。
●年に1回しか発注しないのに、
何度もややこしい見積もり依頼をされた
●「素人のレベルで説明してほしい」
と言われてもレベルが不明確だった
「こんな仕様書ではダメだ」。ユ
●当社の決算書を見て「御社は利益出てるよね」
と値下げを要求された
ーザー企業の情報システム部長が、
●議事録や提案書を見ずに、
要件定義段階で「契約と違う」
と騒がれた
SE が作成した仕様書を読むと烈火
のごとく怒りだし、テーブルの上
●客の社内のパワーゲームのために、
内示後に急きょ方向性が変わった
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特集:困った客の“傾向と対策”
「そんなに感情的にならなくてもい
言った。結果的に、油野氏の一言で
った」
。この客は、今でも東京に来
いじゃないですか。こっちも一生
場の雰囲気は落ち着きを取り戻し、
た時は油野氏の元を訪れ、良好な
懸命やっているんです」
。油野氏は
次回の打ち合わせにもつなげるこ
関係が続いているという。
立ち上がり、情報システム部長に
とができた。
「あの時何も言わなか
営業担当者はシステム導入に何
対してこう反論した。
ったらSE は気を落としたままだっ
度もかかわった経験から客に助言
「君こそそんなに感情的にならな
ただろう。顧客も怒ったままだと、
できる立場にあると、油野氏は考
くてもいいじゃないか。すぐにも
大人げない印象だけが残り立場が
える。客が年配でも役員であって
う一度見直して今日中に持ってき
なくなる」と、油野氏は振り返る。
も萎縮する必要はない。
「自分のス
てくれないか」
。情報システム部長
また、客に対しても伝えたいことが
キルと一生懸命やっているという
は、逆に油野氏をなだめるように
あった。
「そのお客さんが本当に好
自信があれば、ファイルを投げつ
きだったからできたこと。こんな
けられても、投げ返すことができ
に一生懸命やっていると言いたか
る営業になれる」
。
すべて丸投げしてくる客
事前に客の役割を明確にする
通い続けてようやくたどり着いた商
導入しようとするシステムは、各
談だった。競合もあったが、契約ま
拠点の業務ルールを標準化するため
ではトントン拍子で進んだ。だが、
のもの。丸岡氏は「各拠点の業務の
契約後に“落とし穴”が待ち構えて
リーダー格の方をプロジェクトメン
いた。
バーにしてほしい」と要求したが、
内田洋行
情報システム事業部第1ソリューション営業部
業種ソリューション課SCMソリューション
スペシャリスト
「プロジェクト体制が確立される
なかなか聞き入れてもらえなかっ
こと」
。これが相手の監査役から提
た。そこで、丸岡氏はシステム導入
示された条件だった。丸岡氏は「慎
の目的を監査役とシステム担当者を
丸岡 健 氏
重な人なのかな」と思う程度で、そ
通じて社長に説明してもらうことに
の意味を深く考えておらず、契約は
した。丸岡氏が社長に説明すること
滞りなく締結された。
も可能だったが、あえてそうしなか
内田洋行情報システム事業部第1
ソリューション営業部業種ソリュー
ところが、プロジェクトを開始す
ったのは、監査役とシステム担当者
ション課SCM ソリューションスペ
るためのキックオフミーティング
にもっと当事者意識を持ってもらい
シャリストの丸岡健氏は、中堅・中
で、丸岡氏はがくぜんとなった。プ
たかったからだ。
小の食品業界向けに ERP を販売し
ロジェクト推進体制を決めるにあた
「システム導入は、ソリューショ
続けている。その中で、2004 年に
り、丸岡氏が客に協力を求めたとこ
ンプロバイダと顧客のどちらか一方
受注した中堅食品会社とのやり取り
ろ、
「人がいない」と、その監査役
の問題ではない」と、丸岡は話す。
は今でも忘れられない。
から言われたのだ。
「プロジェクト
この一件から、丸岡氏は、提案書に
この企業との出会いは、2002 年
体制の確立」という条件は、内田洋
は必ずプロジェクトの推進体制につ
に内田洋行が開催したセミナーに遡
行への“丸投げ”を意味するものだ
いて詳細な説明を入れるようにして
る。丸岡氏は、約2 年間この企業に
った。
いる。
20 NIKKEI SOLUTION BUSINESS 2005.11.15
“当て馬”にしようとする客
ユーザー部門との関係を築けば避けられる
「無駄なことはしたくない。やる
からには勝つし、負けると思うこ
に働くような材料を引き出そうと
いうのだ。
とはやらない」。NTT コムウェア
こうした当て馬商談にぶつかっ
IT 営業本部製造流通システム営業
た場合には、
「我々を当て馬にしよ
部サービスビジネスユニットの渡
うとしている情報システム部門で
利謙部長は、自身の営業活動の信
はなく、ユーザー部門といかに親
条をこう語る。勝つ価値のある商
密になれるかが重要だ」と渡利部
談を見極めて、確実に案件をモノ
長は言う。情報システム部門に提
にするのが渡利部長の営業スタイ
案すると同時に、実際にシステム
ルだ。
を使う立場であるユーザー部門に
そんな渡利部長も、客が発注先
を従来から取引があるソリューシ
NTTコムウェア
IT 営業本部製造流通システム営業部
サービスビジネスユニット部長
渡利 謙 氏
も同じようなアプローチで提案を
行い、同じ資料を提出する。
た場合でも、ユーザー部門が「こ
ユーザー部門を味方につけてお
れはもともとNTT コムウェアの案
のに、提案を求められる“当て馬”
けば、万が一競合他社がNTT コム
ではないのか」と、
“援護射撃”を
商談に出くわすことがある。当て
ウェアの提案の真似をして提案し
してくれることもあるという。
ョンプロバイダにほぼ決めている
馬商談では、営業活動上の情報が
競合に伝わると、すべての努力が
水の泡になってしまう。
渡利部長は、当て馬商談の特徴
の 1 つが「我々の提案に対して、
これだけは客に言いたい(1)
●商品の仕入れ原価を知っていたとしても、
営業行為は信頼関係の上に成り立つので、
第三者に口外し
てほしくない
その場では質問がなくても、しば
●良いシステムは、
客とソリューションプロバイダとで一緒に作り上げていくものだという認識を持ってほしい
らく経ってから質問をしてくる」
●当たり前のことだが、
システム開発も運用も人間が行っているということを忘れないでほしい
ことだと指摘する。つまり、客が
●作業コストは契約書を交わした後ではなく、
提案段階から発生していることをきちんと認識してもらいたい
NTT コムウェアの提案書を競合他
●ベンダー選定で担当者はしっかりと意思を持ってほしい。
この会社だと決めたら、
トップに他社を薦めら
社に見せ、競合他社から受けた質
問をNTT コムウェアに尋ねている
というのだ。
この場合、質問の内容はソリュ
ーションの中身についてよりも、
個別製品を比較する類が多いとい
う。競合他社が提供しようとする
製品の良さを強調するような質問
をして、渡利部長たちに回答させ
ることによって、競合他社の有利
れてもぐらつかずにトップに説明してほしい
●見積もりを出す上でボッタクリをしているわけではない。
しっかりと精査した工数と決められた単金を基に
費用を請求していることを理解してほしい
●状況を無視した無理な値引き要求はやめてほしい。特に体制を組んだ後の「後出しじゃんけん」的な
値引き要求は、
リスクを増大させる
●緊急の見積もり依頼や、
営業担当者が外出時に緊急性があるとは思えない内容なのに至急折り返して
ほしい旨の電話をするのはやめてほしい
●これまで付き合ってきたソリューションプロバイダを見てITサービス会社はどこも同じであると考えるのは
やめてほしい
NIKKEI SOLUTION BUSINESS 2005.11.15
21
特集:困った客の“傾向と対策”
とにかく値下げを要求する客
安易に応じると逆に不信を買う
本部営業部第 1 グループ長を務め
思い切って値を下げ競合他社と同
る川本英貴氏は、こうした客に対
等の金額の見積もりを客の担当者
しては「価格にはしっかりとした
に提示した。
根拠があることを説明しなければ
「最初の見積金額は、根拠があっ
ならない。安易に値下げに応じる
た上で算出したものではないのか。
と、逆に信用を失いかねない」と、
うちは、価格よりも、きちんと要
きっぱりと言い切る。
求に見合ったシステムを作ってく
コベルコシステム
ソリューション事業部システムソリューション
本部営業部第1 グループ長
この言葉は、実は川本氏自身の
れるソリューションプロバイダに
苦い経験に基づいている。あるシ
任せたかった」
。担当者からこう言
川本 英貴 氏
ステム案件のコンペがあった時の
われて、川本氏は目が覚める思い
ことだ。コベルコシステムは、ど
がした。客の期待に応えようと値
困った客のパターンで最も回答
うしてもこの案件を受注したかっ
下げをしたことによって、かえっ
が多かったのが、採算割れを起こ
たが、競合他社がコベルコシステ
て客の信用を失う結果になったの
しかねない値下げを要求する客だ。
ムの見積金額よりもはるかに安い
だ。
コベルコシステムでソリューショ
金額を提示している情報を、川本
それ以来、値下げを要求する客
ン事業部システムソリューション
氏はつかんだ。そこで、川本氏は
との交渉の際には、川本氏は価格
の根拠を説明するようにしている。
これだけは客に言いたい(2)
●客にも打ち合わせ開始時間などを守るように意識してほしい。
こちらの待ち時間も費用がかかっている
ことを認識してほしい
「値引きが可能だとしても、オフシ
ョア開発を活用したり、開発する
機能の一部を削って全体の工数を
削減したりするなど、どうすれば
●開発案件に対する過剰な値下げの要求は、
システムの品質低下につながることを理解してほしい
値引きできるのかを顧客に説明し
●本当は内容を理解していないにもかかわらず、
理解をしたそぶりをして提案を依頼することはやめてほしい
て納得してもらうことが必要だ」
●機器選定の段階からではなく、
システムを企画する段階からソリューションプロバイダに参画させてほしい
と、川本氏は話す。
●購入の意思がない場合にははっきりと返答してほしい。注文のキャンセル依頼や見返りを要求するのは
やめてほしい
●客の社内で調整するべき問題をソリューションプロバイダ側に任せられるケースがあり、
非常に困る
●提案に対して納得した場合は、
そのことに対して責任を持ってもらいたい。後から「聞いていない」など
の発言があると困惑する
●「客だから何でもあり」だとか、
「しょせんはメーカーだから無理な要求や理不尽なクレームを言ってもよい
だろう」
という考えを改めてほしい
●ソリューションプロバイダの営業は毎日遅くまで働いて、
一生懸命考えて提案しているのに「ありがとう」
と
言われることが少ない。
もっと評価を上げてもらいたい
22 NIKKEI SOLUTION BUSINESS 2005.11.15
営業担当者は、予算やノルマも
あるため、無理な値下げ要求も受
け入れて受注しようとしがちだ。
これが赤字プロジェクトにつなが
り、自社だけでなく客にも迷惑を
かけてしまうことになる。
「1 つの
システムを作るにあたって、相場
というものがあるし、あまりにも
安いものには何か欠陥があるもの」
と、川本氏は言う。
客との良好な関係を築く秘訣はこれだ!
よき相談相手として認めてくれる
うと、かえって取り返しがつかな
こともある。
いことになる」と話す。客に妙な
クオリカのインダストリアルビ
ジネス事業部の河田博司副事業部
期待を抱かせるよりも、ありのま
まに正直に伝えた方がよい。
長も「受注の確率は面談時間に比
3 番目に多いのが「客から提案を
例する。営業は暇を見つけては足
求められる前に積極的に提案をす
ソリューションプロバイダの営業
を運び、常に接触して相談相手に
る」で、94 人が回答した。
「何かお
担当者は何をすべきなのか。
客との良好な関係を築くために、
なることが大切だ」と強調する。
困りのことはありませんか」とい
今回のアンケート調査の結果に
NTT コムウェアの渡利部長は部下
う問いは厳禁。日立システムアン
よると「何度も客先に足を運んで
に対して、客を訪問した際に「
『次
ドサービスの森下優オープンソリ
じっくり話をする」ことが最も多
はいつ会えるのか』と思われるよ
ューション営業部長は「普段顧客
く、120 人も回答している(図 2)
。
うに」と指導しているという。
が気にしないことでも、気付かせ
まずは、客と顔を突き合わせるこ
2 番目に多かったのが「客に対し
てあげるのが我々の役目」と言う。
とが何と言っても信頼関係の第一
て、できないことなど言うべきこ
営業担当者は知恵を絞った仮説を、
歩になる。
とをはっきり伝える」で、112 人
積極的に客にぶつけてみてはどう
ある営業担当者は「お客様の人
が回答した。客に対して曖昧な返
だろうか。
に言えない愚痴を聞いて、何でも
答をしてしまうと、誤解されたり
相談に乗ってくれると思ってもら
期待を裏切ったりしてしまうこと
えるようになると、商談もスムー
になりかねない。インテックの北
「客からの問い合わせに対して速や
ズになり、納期遅れがあっても我
岡隆之ネットワークソリューショ
かに対応する」
「客の要求を理解す
慢してくれた」とコメントする。
ン第二営業部長は「お客様に『何
る“聞く”能力を身につける」な
このように、足しげく通ううちに
とかなります』とその場で取り繕
どの意見もあった。
その他の回答では、
「仕事以外で
の付き合いができるようになる」
図2●客と良好な関係を築くために重要だと思うこと
(ITサービス業界の営業担当者210人が回答、最大3項目まで選択してもらった)
何度も客先に足を運んでじっくり話をする
120
客に対して、できないことなど言うべきことをはっきり伝える
112
客から提案を求められる前に積極的に提案をする
94
客に関する情報収集を徹底する
90
客の質問に対して即座に回答できるような知識の習得
客の要求はどんな内容でも聞き入れる努力をする
その他
63
24
45
その他の回答
●客の要望をかなえるための社内調整
●ユーザー会を開催して、既存客を囲い込む
●客の要求を理解する“聞く”能力を身につける
●客の立場を理解した上で、何が必要なのか
仮説を立てて提示し続ける
●要件を明確に聞いて双方のメリットを明確にして提案する
●分かっていることについて嘘をつかない
●客からの要望が不可能な場合は、代替案を出す
●客からの問い合わせに対して速やかに対応する
●ゴルフなど仕事以外での付き合いができるようになる
●客の性格、嗜好、方向性をつかみ、的確な提案をする
●客も忙しいので訪問する理由を明確にする
●決定権を持っている人と話をする
S
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