第130回講演会(2014年5月22日,23日) 日本航海学会講演予稿集 2巻1号 2014年4月22日 浮体式 OWC 型波力発電装置の性能推定に対する MPS 法の適用性に関する研究 学生会員○笹原 正会員 南 裕太郎(東京海洋大学大学院) 正会員 増田 光弘(東京海洋大学大学院) 清和 (東京海洋大学大学院) 非会員 増田 光一 (日本大学理工学部) 要旨 港湾区域のような大規模インフラでは物流システムの集中に起因する多量の温室効果ガスの効率的な削減 や、災害時等に際してはその機能の保持および電力供給の自己完結性の向上といった観点から海洋再生可能 エネルギーの効率的な利用が進められている。中でも波浪エネルギーを利用した浮体式波力発電装置は装置 後方の静穏海域の創出が可能であり、港湾区域への導入に適していると考えられる。本研究では、浮体式波 力発電装置の実用化に際して重要な検討項目である台風などの異常気象海象化における装置の安全性を評価 する手法の確立を目的とし、非線形性現象および流体-構造体連成解析に優れる MPS 法を用いた解析手法の提 案を行う。本報では、基礎的な検討として固定式波力発電装置の性能推定に対して MPS 法を適用させ、その 妥当性について計算結果および実験結果との比較検討を行った。 キーワード:海洋工学、波力発電、OWC 型、MPS 法、一次変換効率 1.緒言 そこで本研究では、越塚ら(2)が開発した非線形性 大規模インフラ、特に港湾地域においては、貨物 の強い現象の再現や流体-構造物連成解析に対する および旅客用船舶、さらにそれに伴う海および陸上 適用性の高い計算手法であるMPS(Moving Particle の物流システムが集中するため温室効果ガスの排出 Simulation)法に着目した。しかしながら、OWC型波 量が多く効率的な削減が求められている。また、災 力発電装置の性能推定に対してMPS法を適用させた 害時における必要な機能の保持および電力需給逼迫 例はこれまで存在しないため、その適用性について 時の自己完結性の強化の観点から、海洋再生可能エ は基礎的な検討を行う必要がある。 ネルギー利用の推進が進められている。 本研究では、固定式 OWC 型波力発電装置の性能 本研究では、港湾地域における海洋再生可能エネ 推定に対して MPS 法による数値シミュレーション ルギー利用として、波浪エネルギーを利用する浮体 を行う。OWC 型波力発電装置の空気室内水面変動 式振動水柱型(Oscillating Water Column: OWC型)波 および変動圧力、さらに一次変換効率について計算 力発電に着目した。波力発電は太陽光発電や風力発 結果および実験結果との比較により、本問題に対す 電に比べて発電に係る占有面積が相対的に小さく、 る MPS 法の適用性についての検討を行う。 既設構造物や船舶航行への安全性への影響が少ない 3. OWC 型波力発電装置の性能推定 と考えられる。また、浮体式波力発電装置はその性 質上、波浪エネルギーを吸収するため装置後方に静 OWC型固定式波力発電装置(以下、OWCモデル) 穏海域を創出する浮体式消波堤としての機能を有す の性能推定に対するMSP法による数値シミュレーシ ることから、港湾設備の一部として十分に活用でき ョンを行い、既存の実験(3)との比較により本手法の ると考えられる。さらに、OWC型はその構造上台風 適用性に関する検討を行った。解析対象は、大きさ などの異常海象下における安全性が高いとされてお の異なる 3 種類のOWCモデルの空気室内における (1) り我が国では研究が進められてきた 。しかしなが 水面変動および変動圧力、および波エネルギーの吸 ら、異常海象下における大波浪やそれに伴う海水打 収効率とした。Fig. 1 およびTable 1 に各OWCモデル ち込みおよび波浪衝撃力、さらに係留系の複雑な挙 の諸元を示す。また、本計算における二次元数値水 動といった非線形性の強い現象に対する浮体式波力 槽をFig. 2 に示す。粒子間距離を 0.01[m]とし、総粒 発電システム全体の安全性を評価する手法はこれま 子数は 169,219 個、再現時間を 15.0[sec]とした。入 で確立していない。 射波条件は波高を 0.03[m]として、周期を 0.8、0.9、 50 第130回講演会(2014年5月22日,23日) 日本航海学会講演予稿集 2巻1号 2014年4月22日 1.0、1.2、1.4[sec]と変化させた。なお、本研究では なるため圧力値の上昇が抑えられたと考えられる。 空気室内の自由表面と空気間の相互作用は無視でき そして、Fig. 5 にλ/L a に対する波エネルギー吸収効率 る大きさであると仮定し、空気室内圧力は水面変動 を示す。Fig. 5 より計算結果は実験結果を良好に再 による空気室内体積変動に対して線形的に変化する 現しており、OWC型固定式波力発電装置の性能評価 ものとした。 に対してMPS法を用いることの妥当性を得ることが できたといえる。λ/L a が大きい場合に生じる誤差は 空気室内の空気を適切に再現することで小さくでき ると考えられる。 η/a 3.0 MPS Exp. 2.0 1.0 Fig. 1 Numerical fixed OWC-type model. 0 4.0 12 λ/La Table 1 Dimensions of OWC models. Type L a [m] d 1 [m] d [m] A 0.30 0.22 0.30 B 0.22 0.13 0.30 C 0.40 0.10 0.30 Fig.3 Amplitude of wave level in air chamber (Type A) |P/ρga| 2.0 MPS Exp. 1.0 4.0 0 Fig.4 Fig. 2 8.0 λ/La 8.0 12 Pressure in air chamber (Type A) Numerical water tank for fixed OWC-type 1.0 MPS Exp. 4. 主要な結論 0.5 E 計算結果の代表例としてOWCモデルType Aにつ いての実験結果との比較を行った結果を示す。Fig. 3 に波長λと浮体全長L a の比に対する空気室内部水面 0 変動ηと入射波振幅aとの比を示す。Fig. 3 より改良 4.0 8.0 12 λ/La MPS法による計算結果は実験結果とおおむね一致し Fig.5 ていることがわかる。λ/L a が大きい場合に実験値と Efficiency primary conversion (Type A) の誤差がみられるが、これはType Aは空気室開口部 (1) 大澤弘敬・宮崎剛・鷲尾幸久・堀田平・宮崎武 が大きく流入量が多いため空気室内初期体積に対す る空気室内の水面変動が大きくなり空気室内空気と 昇:波浪エネルギー利用技術の研究開発 ―沖 の相互作用の影響が現れたためであると考えられる。 合浮体式波力装置マイティホエールの開発―, また、Fig. 4 にλ/L a に対する空気室内の圧力の一次振 海洋科学技術センター, 2004. 幅の無次元値を示す。Fig. 4 より計算結果および実 (2) Seiichi KOSHIZUKA, Atushi NODA and Yoshiaki 験結果は全入射波周期にわたり良好な一致を示して Oka: Numerical Analysis of Breaking Waves Using いることがわかる。λ/L a が大きいときは、水面変動 the Moving Particle Semi-implicit Method, Int. J. は大きくなるが単位時間当たりの体積変動は小さく Numer. Mech. Fluids, Vol.26, pp.751-769, 1998. 51
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