02aC02 核融合炉液体ブランケットの高温長寿命化を目指した 共存性

02aC02
核融合炉液体ブランケットの高温長寿命化を目指した
共存性改善に関する研究
Compatibility control on liquid breeder blanket
toward high temperature and long life operation
近藤正聡1 チザールバレンティン2、室賀健夫1、相良明男1
核融合研1、ウクライナ国立科学アカデミー物理機械研究所2
Masatoshi KONDO 1, Tsisar Valentyn2 Takeo Muroga1, Akio Sagara1
NIFS1, Physico-Mechanical Institute of National Academy of Sciences of Ukraine2
1. 緒言 核融合炉の液体ブランケットにおいて、液体増殖材と構造材料の共存性は重要な課題である[1]。液体ブランケットの
燃料増殖材として、リチウム(Li)[2]、鉛リチウム(Pb-Li)[3]、リチウムスズ(Li-Sn)[4]、フリーベ(Flibe)[5]、フリナック(Flinak)[6]やフリ
ナーベ(Flinabe)[7]など様々な提案がされている。現在はこれらの中でも、デモ炉開発や ITER-TBM に向けて Li、Pb-Li、Flibe、
Flinak に関する研究が重点的に行われている。これらの液体ブランケットの高温長寿命化を目指すには、積極的な共存性の改
善が不可欠である。液体金属や溶融塩と構造材料との共存性の改善には大きく分けてふたつの方法が考えられるが、ひとつ
は構造材料の構成元素と反応し不安定な化合物をつくる液体内溶存非金属不純物成分の制御であり [8]、もうひとつは構造材
料の成分調整もしくは表面処理である。本研究では、これらを基礎とした高温の液体増殖材中における低放射化フェライト鋼
JLF-1 の共存性改善に関する研究成果について報告する。
2. 実験
表 1 液体増殖材の不純物濃度 (単位 wppm)
本研究では、液体増殖材として高純度の Li、
Pb-17Li、Flinak を用いた(表1)。また、これらの高純度の
液体増殖材に対して、あえて共存性を低下させる非金属
不純物濃度を増加させたもの(例: リチウムであれば、窒
素と酸素)を用意し[9, 10]、その非金属不純物の影響につ
い て 調べ た 。 試験片は 低放射化フ ェ ラ イ ト 鋼
JLF-1(JOYO-HEAT)[11]であり、化学組成は 9Cr- 0.49Ni1.98W- 0.49Mn- 0.2V- 0.009C- 0.015N - Fe balanced である。
また、JLF-1 のコーティング材料として、ラジカルイオン窒
化処理材[12]、スパッタコーティングによる FeAl コーティ
Fe
Li
0.85
Pb-17Li
2.2
Flinak (46.5LiF- 52
11.5NaF-42NaF)
Cr
0.12
0.17
2.6
W
0.31
0.52
-
特性を評価した。共存性試験は、図1に示す装置を用い
Non metal
Nitrogen: 65
HF<10
H2O: 42.6
(a)
Pot
(Made of
SUS316L)
Cover
gas: Ar
Heater
Specimen holder
(SUS410)
Liquid
Specimens
I.D. 48mm
Crucible
(9Cr steel)
ング材[13]、ディップコーティング処理による Er2O3 コー
ティング材[14]を用意し、これらの皮膜の耐食膜としての
Ni
0.8
1.3
39
Heat
insulation
Specimens
Thermo couple
て静止場条件と攪拌装置を用いた温度差のない流動条
件で実施した。試験温度は、600℃である。
3. 結果および考察
(b)
Pot (316)
Motor for rotate
impeller
各種試験における試験片の重量
損失測定の結果を図2及び図3に示す。Li に Li2O 及び
窒素の濃度を上昇させると、試験片の重量損失は大きく
なり、つまり共存性が低下することが明らかになった。こ
れらの非金属不純物を制御する事により、共存性が改善
できることがわかった。コーティングに関しては、安定な
酸化物である Er2O3 をディップコートした試験片を浸漬し
た結果、その被覆を形成する際に中間層として形成され
Heater
Ar
Thermo couple
Specimens
Crucible
(9Crsteel)
図 1 静止場共存性試験装置(a)
及び攪拌流動場共存性試験装置(b)
36mm 16mm
Li3N 粉末を添加する事により、リチウム中の酸素もしくは
Magnet
coupling
Impeller(Mo)
Liquid
Specimen
holder
(SUS410)
33mm
48mm
Weight loss of specimens (g/m2)
る鉄やクロムの酸化物の化学組成が共存性に大きく影響
することがわかり[14]、耐食性を向上させるためにはコー
ティングプロセスの制御が重要である事がわかった。
Pb-17Li の場合は、前節の Li のように非金属不純物の
測定制御技術が確立されておらず、非金属不純物のポテ
ンシャル評価による共存性評価までは到達できていない。
しかし、試験結果から、Pb-17Li に浸漬した試験片表面に
酸化皮膜は形成されておらず、鉛ビスマスの場合のよう
な高い酸素ポテンシャルによる鋼材表面の酸化とそれに
よる腐食低減[15]は、JLF-1 の化学組成では望めないと思
われる。
静止場試験と流動場試験の結果から、Li と Pb-17Li に
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
Li
Li
Li
(+0.5wt%Li3N) (+0.8wt%Li2O)
(Pure)
(Static)
(Static)
(Static)
250-hour
750-hour
250-hour
水のほか表面水もあわせて、17wt%程度の極めて高い濃
度まで到達する事がわかり、同時に共存性を著しく悪化さ
せる事がわかった。この溶存水分を高温条件の電解精製
により低減する事で、共存性が大きく向上する事がわかっ
た。高純度の Flinak 中では、試験片表面数箇所にピッテ
ィングの後が見られたものの、表面における腐食のメカニ
Weight loss of specimens (g/m2)
溶融塩Flinak中の溶存水分濃度は、実験結果から結晶
ズムが液体金属による腐食と異なるためと考えられる。長
時間試験の結果から、耐食被覆として窒化処理が有効で
あることも明らかになった。
(Pure)
(Static)
750-hour
(Pure)
(Flow)
250-hour
片の重量損失
した試験片表面の金相観察の結果から、腐食した鋼材表
生したと考えられる。
Pb-17Li Pb-17Li
図 2 600℃のリチウムと鉛リチウムへの浸漬による試験
関しては共存性に対する流動場の影響が見られた。浸漬
面から粒がはがれるようなエロージョンコロージョンが発
Li
(Pure)
(Flow)
250-hour
46
12
45
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
Flinak
Flinak
Flinak
(16.9wt%H2O) (42.6wppmH2O) (42.6wppmH2O)
(Static)
(Static)
(Flow)
1000-hour
1000-hour
1000-hour
4. 結論 液体増殖材中の共存性改善を、液体内非金属不純
物濃度の制御と表面処理及び耐食コーティングにより試み
Flinak
(With nitriding
treatment)
(Static)
3000-hour
図 3 600℃の Flinak への浸漬による試験片の重量損失
た結果、それぞれについて大きな効果が得られた。
非金属不純物濃度を減少させることにより、液体内に溶解する鋼材の構成元素の溶解度を低下させることができる。また、表
面処理及びコーティングに関しても、初期のデータが得られつつある。これらの改善策を条件にあわせて組み合わせることに
より、共存性の改善は可能であり、ブランケットの高温長寿命化の達成につながる。
謝辞 本研究は、科学研究費補助金基盤研究(A) 21246141及び19206100, 若手研究(B)21760695, UCFF08-002, UCFF09 -005,
NIFS08-PCFF301, NIFS07-KOBF013により実施いたしました。本研究において、試験片準備にご協力頂きました核融合科学研
究所の長坂琢也准教授と田中照也准教授に謝辞を表します。溶融塩の電解精製及び鉛リチウムの生成にご協力いただきまし
た株式会社三徳 中村英次氏、高田裕章氏、宮本博氏、横山幸弘氏、株式会社美交科学 藤井直樹氏に謝辞を表します。試験
片の窒化処理にご協力いただきました株式会社北熱 政誠一氏に謝辞を表します。
参考文献 [1] T. Muroga et al., JPFR, Vol. 86, No.7 (2010), pp.389-423 [2] T. Muroga T. Tanaka, A. Sagara, Fusion Engineering and
Design 8-11, 203–1209 (2006). [3] E Mas de les Valls et al., J. Nucl. Maters., 376, 353-357 (2008).[4] M.A. F utterer, J. Nucl. Maters
283-287 1375-1379 (2000).[5] A. Sagara et al., Fusion Engineering and Design 49–50, 661–666 (2000). [6] H. Yamanishi, A. Sagara,
Annual Report of National Institute for Fusion Science, April 1999–March 2000, 177 (2000).[7] M.Z. Youssef, Fusion Engineering
and Design 61-62, 497-503 (2002).[8] 近藤正聡: 博士論文, 東京工業大学原子核工学専攻(2006), [9] M. Kondo et al., Fusion
Engineering and Design 84, 1081–1085 (2009). [10] V. Tsisar et al., J. Nucl Maters, under reviewe. [11] H. Ono, R. Kasada, A. Kimura,
J. Nucl. Mater. 329-333, 1117-1121 (2004). [12] M. Kondo et al., Int. cof. of ITC20. [13] A. Rivai, Progress in Nuclear Energy, 50,
560-566 (2008). [14] D. Zhang, Fusion Engineering and Design, under review. [15] M. Kondo et al., Journal of NUCLEAR
SCIENCE and TECHNOLOGY, Vol. 43, No. 2, p. 107–116 (2006).