脂肪抑制併用造影T 1強調画像での表示法に関する検討 (宮崎・他) 513 原 著 脂肪抑制併用造影T 1強調画像での表示法に関する検討 宮崎 功・石崎恵子・小林邦典・加藤匡伸 論文受付 2004年12月22日 論文受理 2006年 1 月30日 杏林大学医学部付属病院放射線部 Code No. 261 はじめに の信号強度によるダイナミックレンジが大きく変化す 近年,脂肪抑制法はシミングおよび脂肪抑制技術の 1∼3) 向上により,広範囲で精度の良い脂肪抑制効果 ることから,表示条件の設定によっては造影効果に相 が 当する輝度差として表示できない可能性がある.そこ 得られるようになった.この撮像法は脂肪成分の存在 で選択的脂肪抑制併用造影T 1強調画像を用いた場合 を判断する場合や,膝や股関節における比較的T1値の の,表示上での造影効果の認識について,表示条件の 長い軟骨のみを高輝度にコントラスト良く描出するう 影響と改善策を検討した. 4) えで有用な手法 である.一方,造影を行う場合に は,造影効果と同等の信号強度である脂肪信号を抑制 1.使用機器 することで造影された病変部を正確に把握できること MRI装置:東芝社製 EXCELART XGS (静磁場強度 から造影には必須の撮像法5)となっている.しかし, 1.5T) 造影前後の脂肪抑制画像によって造影効果を認識する 診断用モニター:EIZO社製 フレックススキャンL685 場合,脂肪に埋もれた腫瘤などは,造影以前から脂肪 に対し高信号で高いコントラストになることや,高信 (自動輝度補正付き) 輝度計:コニカミノルタ社製 輝度計LS-110 号を示す脂肪信号が取り除かれることで,造影前後で Assessment of Image Display of Contrast Enhanced T1W Images with Fat Suppression Isao Miyazaki, Keiko Ishizaki, Kuninori Kobayashi, and Masanobu Katou Department of Radiology, Kyourin University Hospital Received Dec. 22, 2004; Revision accepted Jan. 30, 2006; Code No. 261 Summary The effects of imaging conditions and measures for their improvement were examined with regard to recognition of the effects of contrast on images when T1-weighted imaging with selective fat suppression was applied. Method: Luminance at the target region was examined before and after contrast imaging using phantoms assuming pre- and post-imaging conditions. A clinical examination was performed on tumors revealed by breast examination, including those surrounded by mammary gland and by fat tissue. Results: When fat suppression was used and imaging contrast was enhanced, the luminance level of fat tumors with the same structure as the prepared phantoms appeared to be high both before and after contrast imaging, and the effects of contrast were not distinguishable. This observation is attributable to the fact that the imaging conditions before and after contrast imaging were substantially different. To make a comparison between preand post-contrast images, it is considered necessary to perform imaging with fixed receiver gain and to apply the same imaging method for pre- and post-contrast images by adjusting post-contrast imaging conditions to those of pre-contrast imaging. Key words: fat suppression, contrast medium, luminance, breast cancer 別刷資料請求先:〒181-8611 2006 年 4 月 東京都三鷹市新川6-20-2 杏林大学医学部付属病院 放射線部 宮崎 功 宛 514 日本放射線技術学会雑誌 Table 1 Sequence parameters for the phantom experiment. Pulse sequence 2D spin echo 3D field echo TR(msec) 540 26 TE(msec) 20 3.4 256×256 256×160 30×30 30×30 Filp angle Matrix(frequency×phase) FOV(cm) Slice thickness(mm) Band width(kHz) Scan time(sec) 20 5 5 Ȁ12.4 Ȁ31.3 139 92 Fig. 1 Phantoms containing 0.2 mmol/l (A) , 0.1 mmol/l (B) , 0.05 mmol/l (C) , of Gd-DTPA solution, and contrast enhanced models containing distilled water (D) ,2 mmol Gd-DTPA (E) , and olive oil (F) . 2.方 法 2-1 ファントム実験 ファントムは,モニター上での輝度を測定するため のファントム (以下,輝度測定用ロット) と造影前後を 想定するためのファントム (以下,造影モデル用ロッ ト) の 2 種類を作成した.輝度測定用ロットは直径約 7cm,高さ10cmのポリプロピレン製の円柱容器,3 個 に人体組織と同等のT 1 値 6)であるGd-DTPA水溶液 0.05mmol/l (T1値=1872ms,T2値=1273ms) ,0.1mmol/l (T1値=1187ms,T2値=884ms) ,0.2mmol/l (T1値=732ms, T2値=578ms) を200ml入れた.造影モデル用ロットも 輝度測定用ロットと同じ容器を用い,造影前を想定す る場合 (以下,plain) は容器内を蒸留水 (T1値=5023ms, Fig. 2 Konica-Minolta LS-110 for Contrast Measurement. T 2 値=2006ms) とし,造影後を想定する場合 (以下, CE) はGd-DTPA水溶液 2mmol/l(T 1 値=125ms,T 2 値 = 9 2 m s )とした.これを2 0 0 0 m l のo l i v e o i(T l 1 は推奨最短距離の1014mmとし,測定径は4.8mmで行 値=217ms,T2値=49ms) で満たした,直径26cm,高さ った.取扱説明書による測定確度は10.00candela (以 12cmのタッパウエア内にFig. 1のように固定した.こ 下,cd) /m2以上で測定値の 2%Ȁ1digit,0.01∼9.99cd/m2 のファントムを静磁場中心に目視にて水平に置き, では測定値の 2%Ȁ2digitとなっていた.画像表示は通 plainの撮像は造影モデル用ロットを蒸留水とし,CE 常検査時と同じ室内の明るさ (430ルックス) とし,1 では蒸留水をGd-DTPA水溶液 2mmol/lに入れ替えて撮 日に 1 種類 (種類:2D spin echo (以下,SE) ,脂肪抑 像した.なお,撮像におけるレシーバーゲインは固定 制併用2D SE,3D field echo (以下,FE) ,脂肪抑制併 とした.撮像に用いたシーケンスパラメータはTable 1 用3D FE) ,plain,CEの順で 8 日間かけて行った.各 に示し,脂肪抑制法はchemical shift selective (CHESS) 観察者の条件設定に際しては,設定前にwindow width 法,使用coilは装置内蔵のbody coilとした,ファント (以下,WW) とwindow level (以下,WL) を常にゼロ ムにおける表示条件の設定は放射線技師 7 名で行い, とした.観察時間と観察距離は任意としたが,いずれ モニター上での輝度の測定はコニカミノルタ社製の輝 の観察者においても観察時間は10秒前後で観察距離は 度計LS-110 (Fig. 2) を用いた.これはハンディタイプ 50cm前後であった.ファントム上での測定位置は輝 のデジタル輝度計で,光学系は一眼レフ方式,対物レ 度測定用ロットのほぼ中央とし,測定結果は 7 名の平 ンズFは85mmF2.8,受光素子はシリコンフォトセルで 均値とした.なお表示条件の設定を行った放射線技師 ある.校正基準はミノルタ校正基準とした.測定距離 は全員 1 年以上のMRI検査の経験を有していた. 第 62 卷 第 4 号 脂肪抑制併用造影T 1強調画像での表示法に関する検討 (宮崎・他) 515 2-1-1 脂肪抑制法による輝度への影響 同じであった.測定においては乳腺組織と腫瘤の位置 背景信号に対し各ロットが適正なコントラストにな 関係を明確にするためCEから始め,plainはCEと同一 るように条件設定を行い,造影前後のT1強調画像 (以 位置にて行った.また脂肪内腫瘤における脂肪のみ, 下,T1WI) および脂肪抑制併用T1強調画像 (以下,FS- 信号ムラの影響を排除するため 3 ポイントの平均と T1WI) を表示した.モニター上で輝度測定用ロットの し,他は 1 ポイントとした (Fig. 4) .なお,撮像にお 輝度を測定し,脂肪抑制法による輝度の変化を,造影 けるレシーバーゲインは固定とした. 前後で比較検討した. 2-2-1 腫瘤に対する造影効果 臨床ではファントム実験と異なり,選択した 2 症例 2-2 臨床での検討 の造影効果が異なることが予想できる.そこで表示条 2002年10月から2003年 8 月までに施行した乳房検 件の検討に先立ち,それぞれの造影効果を求め,検討 査22例のうちで辺縁が乳腺組織で囲まれた腫瘤 (以 対象としての妥当性を判断した.造影効果の求め方 下,乳腺内腫瘤) ,診断名は右乳癌,病理診断はinva- は,まず信号強度 (signal intensity:SI) とバックグラ sive ductal carcinoma of the right breast,solid-tubu- ウンドノイズの標準偏差 (standard deviation:SD) を測 lar carcinomaである.組織学的には浸潤性乳管癌の像 定し (Fig. 5) ,それぞれの信号ノイズ比 (signal-to-noise であり,乳頭腺管癌や充実腺管癌の配列が主体で中心 ratio:SNR) を以下のように算出する. 部では繊維性間質を伴い,周囲一部にはscirrhous in- SNR=SI of ROI/SD of background noise vasionも散見された症例と,辺縁が脂肪で囲まれた腫 このSNRを使用し,以下の式にて求めた値を造影効果 瘤 (以下,脂肪内腫瘤) ,診断名は左乳癌,病理診断は とした. invasive carcinoma,medullary carcinoma of the left breastである.組織学的には,腫瘤は極性を示さない 造影効果=SNR (CE) /SNR (plain) 充実性髄様の癌砲巣で周囲に高度のリンパ球浸潤がみ 2-2-2 個々の表示設定による比較 られ,髄様癌の組織であった症例の二つを選択した. 個々の画像で,背景信号に対し腫瘤が適正なコント 両者は病理診断において出血の存在はなく,ダイナミ ラストになるように条件設定を行い,T1WIおよびFS- ックスキャンから得られたtime intensity curveでは, T1WIを表示した.造影効果を目視する場合に重要な 動脈相にピークを持つピーク形成型で,その濃染は中 のは造影前後での,背景に対する腫瘤のコントラスト 心から辺縁まで,ほぼ均一であった.この両者を用い である.したがって腫瘤と背景の輝度を求め,腫瘤の てT1WIおよびFS-T1WIで検討した.本検査は腹臥位に コントラストを造影前後で比較検討した (以下,この て行い,使用coilは,2 turn solenoid coilからなるbreast 表示法を個々の表示設定による表示とする) .また表 coilであった.撮像シーケンスは3D FEで,そのパラ 示条件であるWWとWLについても比較検討を行っ メータはTR=12ms,TE=5ms,filp angle=20˚,matrix た. (frequency×phase) = 256×160,スラブ厚=120mm,実 2-2-3 同一表示設定による比較 効 ス ラ イ ス 厚 = 3mm, ス ラ ブ 分 割 数 =40, 2-2-2のCEで設定した表示条件をplainに適用させ FOV=25cm×25cm,band widthȀ31.3kHzである.脂肪 た.したがって,この表示法では造影効果がある場合 抑制法を用いた場合はTRのみ23msに変更した.造影 のみが,plainとCEの輝度差となる (以下,この表示方 剤はgadopentetate dimeglumine (Gd-DTPA,0.1mmol/kg) 法を同一表示設定による表示とする) .この表示にお を使用し,用手的に速やかに肘静脈より静注し (1 秒 いても,腫瘤のコントラストを造影前後で比較検討し 間に約 2∼3mlの注入速度) ,生理食塩水で後押しを行 た.また造影前後の腫瘤の輝度差を比較し,個々の表 った.Fig. 3は検査の流れのなかで検討に使用した 示設定による表示に対する有効性を検討した. T1WI (②,③) およびFS-T1WI (①,④) のplainとCEを 示す.CEに示す時間は,造影剤注入から撮像中心ま 3.結 果 での時間である.表示条件の設定を行った放射線技師 3-1 ファントム実験 と,測定に使用した輝度計および,その条件は2-1と 3-1-1 脂肪抑制法による輝度への影響 同じである.画像表示は通常検査時と同じ室内の明る 2D SEにおけるplainでの比較は,T 1WIに対しFS- さ (430ルックス) とし,1 日に 1 種類 (種類:乳腺内腫 T 1 WIでの 0.2mmol/lの輝度測定用ロットは3.1倍, 瘤 の T 1 WIと FS-T 1 WI, 脂 肪 内 腫 瘤 の T 1 WIと FS- 0.1mmol/lで3.3倍,0.05mmol/lで3.4倍の高値を示し T 1WI) ,plain,CEの順で行った.各観察者の条件設 た.一方,CEでは両者ほぼ同じ値であった.脂肪抑 定に際しては,設定前にWWとWLを常にゼロとし 制法を用いるとplainの輝度が高くなり,それが原因で た.観察時間と観察距離は任意としたが,2-1とほぼ 造影前後が大きな差となる (Fig. 6) .この傾向は3D FE 2006 年 4 月 516 日本放射線技術学会雑誌 Fig. 4 Region of interest (ROI) for contrast measurement in a clinical case. On the left, a clinical case of cancer (arrow ①) in the mammary gland (arrow ②) is presented. A case of cancer (arrow ③) in adipose tissue (arrow ④) is shown on the right. Fig. 3 Work-flow of breast imaging examination, including the procedures of T 1weighted imaging with pre- and postcontrast injection with (② and ③) and without (① and ④) fat suppression. でも同じであった (Fig. 7) . 3-2 臨床での検討 3-2-1 腫瘤に対する造影効果 乳腺内腫瘤のT1WIが2.5倍,FS-T1WIが2.2倍,脂肪 内腫瘤のT1WIが2.7倍,FS-T1WIが2.5倍となった.す べての造影効果が 2 倍以上で,その差が最大23%であ ることから造影効果の差を考慮することで,4 種類の 画像は比較できると判断した (Table 2) . 3-2-2 個々の表示設定による比較 Fig. 8は個々の表示設定による画像を,Fig. 9は測定 Fig. 5 ROI for measuring signal-to-noise ratio (SNR) . ROI 1 is for signal intensity (SI) , and ROI 2 is for standard deviation (SD) . 結果を示す.Table 3は測定に使用した表示条件であ る.背景に対する腫瘤の輝度変化で造影前後を比較す 18.4cd/m 2 から57.9cd/m 2 に,Dでは5.7cd/m 2 から ると,Aではplainの等輝度からCEの高輝度へと変化 63.8cd/m 2へと輝度差が大きくなった.以上から,個 した.Bでは等輝度から高輝度へ,Cでは低輝度から 々の表示設定による表示で造影効果を識別できない脂 等輝度へと変化した.しかし,DではplainとCEとも 肪内腫瘤のFS-T1 WIのみ有効であると判断した. に高輝度であり変化は認められなかった.表示条件の 比較では,AとBとCのWWとWLはplainとCEに大き 4.考 察 な差は認められない.DのplainのみCEと比較してWW 近年,シミング技術の進歩と脂肪抑制法の改良によ は狭く,WLは低く設定していた. り広範囲で脂肪抑制効果の高い画像が得られるように 3-2-3 同一表示設定による比較 なった.この脂肪抑制法を臨床で用いるとT 1WIにお Fig. 10は同一表示設定による画像を,Fig. 11は測定 いて低輝度であった病変部が高輝度になる場合があ 結果を示す.造影前後での背景に対する輝度変化は, る.これは人体組織のなかで極端にT1値の短い脂肪の AとBとCにおいては個々の表示設定による表示と変わ 信号を抑制し,人体のなかでT1値が最も長い自由水の らない.Dにおいても輝度変化は変わらないが,CEの 信号よりも低くしているため,病変部のT1値が比較的 表示条件をplainに適応することで造影前後のコントラ 長くても脂肪組織の低輝度に対し相対的に高輝度にな スト差を大きくすることができた.腫瘤における造影 るからである.しかし,造影後はその信号形態は一変 前後での輝度差については,AとCのT1WIでは個々の する.造影前に高輝度であった病変部は造影後それよ 表示設定による表示と変わらない.FS-T 1 WIのBは りも造影効果の高い組織や血液等の存在によって相対 第 62 卷 第 4 号 脂肪抑制併用造影T 1強調画像での表示法に関する検討 (宮崎・他) Fig. 6 Comparison of contrast between plain and CE contrast enhancement using 2D SE with and without fat suppression. Table 2 517 Fig. 7 Comparison of contrast between plain and CE contrast enhancement using 3D FE with and without fat suppression. Contrast effect of cancer in the mammary gland and adipose tissue. Cancer in mammary gland SNR(plain) SNR(CE) CE/plain T1WI 53.3 134.3 2.5 FS-T1WI 71.6 157.5 2.2 SNR(plain) SNR(CE) CE/plain 68.7 184.3 2.7 100.7 254.6 2.5 Cancer in adipose tissue T1WI FS-T1WI SNR: signal-to-noise ratio Fig. 8 Comparison of routine display conditions between plain and CE contrast enhancement. A: T1-weighted image of cancer in the mammary gland. B: Fat-suppressed T 1 -weighted image of cancer in the mammary gland. C: T 1-weighted image of cancer in adipose tissue. D: Fat-suppressed T 1 -weighted image of cancer in adipose tissue. 2006 年 4 月 日本放射線技術学会雑誌 518 Fig. 9 Comparison of routine display conditions of plain and CE contrast enhancement. In the graph, A to D are the same as images A to D in Fig. 8. Table 3 Comparison with routine display conditions between plain and CE contrast enhancement. In the table, A to D are the same as images A to D in Fig. 8. Cancer in mammary gland Plain WW CE WL WW WL A 118.9Ȁ15.5 53.9Ȁ5.8 104.7Ȁ10.9 51.1Ȁ5.9 B 104.5Ȁ5.1 48.5Ȁ1.9 117.0Ȁ6.1 56.6Ȁ3.0 Cancer in adipose tissue Plain CE WW WL WW WL C 144.7Ȁ11.4 63.4Ȁ2.9 127.8Ȁ11.9 71.1Ȁ2.9 D 61.2Ȁ5.1 33.1Ȁ1.5 144.2Ȁ12.1 72.2Ȁ5.4 WW: window width WL : window level WW, WL: XȀ1SD Fig. 10 Fig. 11 Comparison with identical display conditions between plain and CE contrast enhancement. A: T 1-weighted image of cancer in the mammary gland. B: Fat-suppressed T1-weighted image of cancer in the mammary gland. C: T1-weighted image of cancer in adipose tissue. D: Fat-suppressed T1-weighted image of cancer in adipose tissue. Comparison with identical display conditions between plain and CE contrast enhancement. In the graph, A to D are the same as images A to D in Fig. 10. 第 62 卷 第 4 号 脂肪抑制併用造影T 1強調画像での表示法に関する検討 (宮崎・他) 519 的に輝度は低下し,造影効果が認識できない 可能性がある. その影響を調べるため,まずファントム実 験を行った.実験では目的部位の輝度が脂肪 抑制法を用いることで,どのように変化する かを検討した.この検討で分かることは,各 ロットで構成される信号帯のなかでの目的部 位の位置により,その輝度も変化するという ことである.すなわちplainのT1WIでは脂肪信 号が最大であり,それとコントラストを付け るべく輝度測定用ロットは低輝度となり,FST1WIは最大の信号である輝度測定用ロットに 対し他が低輝度になるようなコントラストを Fig. 12 形成する.CEではT1WI,FS-T1WIともに造影 Comparison of phantom images between plain and CE contrast enhancement under auto-receiver gain. モデル用ロットの信号が最大になるので,そ れを基準としたコントラストが形成されるよ うになる.なお,ここで用いた 2mmol/lのGd-DTPA水 7,8) しているため,造影効果に一致した輝度差にすること も ができる.したがって造影前後を客観的に比較するこ ので,平衡相でのT 1WIでは最大の信号が脂肪に変わ とが可能である.なお,レシーバーゲインをオートに る可能性もある.この実験でわれわれが問題にしてい すると,造影前後の信号強度変化に伴いレシーバーゲ るのは,FS-T1WIのplainにおいて目的部位が高輝度に インも変動する.特に脂肪抑制法を用いた場合は,高 なることである.つまりplain,CEとも高輝度になる 信号である脂肪信号を抑制しているためplainとCEの ことは,造影効果を判別できない可能性があると考え 信号強度変化が大きく,ゲイン変動も大きい (Fig. たからである. 12) .したがって,脂肪抑制法での同一表示設定によ これを検証すべく臨床では乳房検査にて検討を行っ る表示はレシーバーゲイン固定が必須となる. 溶液はファーストパスにおける血液を想定した 9) た .脂肪抑制法が用いられる多くの部位のなかで乳 造影効果をより客観的に評価する方法としては,サ 房を選択した理由は,造影前後でT1WIとFS-T1WIが得 ブトラクション法が用いられてきた.乳房において られること,辺縁が組織に囲まれている腫瘤,すなわ も,造影前後を連続で撮像できるダイナミックスキャ ち乳房においては乳腺内腫瘤と,ファントムの輝度測 ンによって位置ずれのないサブトラクション画像が得 定用ロットのように辺縁が脂肪に囲まれている腫瘤, られる.しかし,乳房以外で脂肪内腫瘤が存在する四 すなわち脂肪内腫瘤を得ることができるからである. 肢,椎体,骨盤,頸部等の部位では,脂肪抑制画像の 臨床画像において造影効果をplainとCEで比較しなが みで造影効果を判定する場合が多く,同一表示設定に ら判別する場合に重要なのは,背景に対する輝度変化 よる表示が臨床の経験から必要と考えている.今回は を確認することである.これを念頭にFig. 7で検証す 造影効果に対する画像表示を目的にしたが,違う観点 ると,脂肪内腫瘤のFS-T1WIのみplainとCEともに高 での造影効果の評価法として,2-2-1で行ったSNRか 輝度となり造影効果を識別することができなかった. ら求める方法がある.視覚による造影効果の判別が困 この原因はplainとCEの表示条件の違いにある.個々 難な場合は,物理的評価による判断も有用であると考 の表示設定による表示において,腫瘤の辺縁が信号を える. 抑制した脂肪であると,腫瘤はそれとコントラストを MRIの表示において,造影前は微細な形態をコント 最大にするためTable 3のFS-T1WIのplainのようにWW ラスト良く表示する必要がある.しかし,現在多用さ とWLの絞り込みがなされる.CEでは腫瘤の造影効果 れている脂肪抑制法で脂肪内腫瘤を表示すると,造影 が2.5倍となった.これをplainの表示条件で表示する 後と同等の輝度になり造影効果を反映させない場合が と腫瘤の輝度は飽和し内部構造が識別できなくなるた ある.これは造影後だけの脂肪抑制画像で造影効果を め,必然的にWWを広めに,WLを高めに設定するよ 判断した場合に,造影されていない腫瘤も高輝度で表 うになり,結果として異なった表示条件となる. 示されるため造影効果と判定する危険性があることを われわれの検討は,画像表示のメカニズムを明らか 示している.したがって臨床においては腫瘤の辺縁が にし,同一表示設定の必要性を認識することにあっ 脂肪である場合は,同一表示設定を用いて造影前後を た.この表示法は,画像間でのコントラストを一定に 比較する必要があると考える. 2006 年 4 月 日本放射線技術学会雑誌 520 5.まとめ 謝 辞 今回,乳房においてT1WIとFS-T1WIの乳腺内腫瘤と 本研究を進めるにあたり,輝度測定に協力してくれ 脂肪内腫瘤で表示上の造影効果について検討を行っ た放射線技師の方々と輝度計の提供およびご助言をい た.結果,造影前が高輝度となるFS-T1WIの脂肪内腫 ただいたコニカミノルタエムジー株式会社の又野成明 瘤のみ,造影効果を識別できない可能性があった.脂 氏,コニカミノルタメディカル株式会社の池田 孝氏 肪抑制法の適応である脂肪内腫瘤は多くの部位に存在 にこの場を借りて深謝いたします. するので,FS-T1WIによる造影効果の判別が重要とな る.レシーバーゲイン固定と同一表示設定による表示 なお,本論文の要旨は2002年 4 月日本放射線技術学 は,造影前後において造影効果のみ輝度差となる方法 会第58回総会学術大会,2003年 4 月日本放射線技術学 で,脂肪内腫瘤での造影効果の判別には有効であると 会第59回総会学術大会において発表した. 思われた. 参考文献 1) Hasse A, Frahm J, Hanicke W, et al.: 1H NMR chemical shift selective (CHESS) imaging. Phy Med Biol, 30 (4) , 341-344, (1985) . 2)宮崎美津恵:脂肪抑制法の進歩について.INNERVISION, 12 (9) ,58-61, (1997) . 3)土橋俊男,吉澤賢史,槇 利夫,他:spectrally selected inversion recovery pulseを用いた脂肪抑制の検討.日放技 学誌,54 (5) ,646-652, (1998) . 4)Sato K, Hachiya J, Matsumura J: MR imaging of articular (1994) . 6)加藤博和,黒田昌宏,吉村幸一,他:カラギーナンを用い たMRI用ファントム.日磁医誌, 20( 8),365-373, (2000) . 7)Prince MR: Gadolinium-enhanced MR aortography. Radiology, 191 (1) , 155-164, (1994) . 8)加藤丈司,伊藤公一郎,田島なつき,他:Gd−DTPA造影 3D MR angiographyにおける血管描出能と撮像パラメータ の実験的検討.日磁医誌,15 (4) ,115-124, (1995) . cartilage in the knee: Evaluation of cadaver knee by 3D FLASH 9)輿石 剛,磯本一郎,中村和邦,他:脂肪抑制併用Dy- sequence with fat saturation. JJMRM, 19 (4) , 260-268, (1999) . namic MRIによる乳腺腫瘤の良悪性の鑑別について−定量 5)笠井俊文,杉村和朗,内田伸恵,他:転移性椎体腫瘍にお ける脂肪抑制T 1強調MR画像 (Fat-Saturation T 1-Weighted 的評価を用いた鑑別の試み−.日本医放会誌,58 (8) ,433440, (1998) . MR Imaging) の検討.日放技学誌,50 (12) ,1960-1967, 第 62 卷 第 4 号 脂肪抑制併用造影T 1強調画像での表示法に関する検討 (宮崎・他) 521 図表の説明 Fig. 1 ファントム図.輝度測定用ロットAは 0.2mmol/l,Bは0.1mmol/l,Cは 0.05mmol/lのGd-DTPA水溶液.造影モデル用ロッ トDは蒸留水,Eは 2mmol/lのGd-DTPA水溶液.Fはolive oilである. Fig. 2 コニカミノルタ製 輝度計LS-110 Fig. 3 乳房検査の流れと検討に用いた造影前後のT1強調画像 (② と ③) および脂肪抑制併用T1強調画像 (① と ④) Fig. 4 臨床画像での輝度測定の位置.① と ② は乳腺内腫瘤での腫瘤と乳腺,③ と ④ は脂肪内腫瘤での腫瘤と脂肪. Fig. 5 SNRの測定に使用したROI.1 は信号強度,2 は標準偏差を求めるROI. Fig. 6 造影前後における2D SEと脂肪抑制併用2D SEでの輝度の比較 Fig. 7 造影前後における3D FEと脂肪抑制併用3D FEでの輝度の比較 Fig. 8 個々の表示設定における造影前後での画像の比較 A:乳腺内腫瘤のT 1強調画像 B:乳腺内腫瘤の脂肪抑制併用T 1強調画像 C:脂肪内腫瘤のT 1強調画像 D:脂肪内腫瘤の脂肪抑制併用T 1強調画像 Fig. 9 個々の表示設定における造影前後での輝度の比較 グラフ内のAからDは,Fig. 8における画像AからDと同じ. Fig. 10 同一表示設定における造影前後での画像の比較 A:乳腺内腫瘤のT 1強調画像 B:乳腺内腫瘤の脂肪抑制併用T 1強調画像 C:脂肪内腫瘤のT 1強調画像 D:脂肪内腫瘤の脂肪抑制併用T 1強調画像 Fig. 11 同一表示設定における造影前後での輝度の比較 グラフ内のAからDは,Fig. 10における画像AからDと同じ. Fig. 12 オートレシーバーゲインにおける造影前後でのファントム画像の比較 Table 1 ファントム実験のシーケンスパラメータ Table 2 SNRで求めた造影効果の比較 Table 3 個々の表示設定における造影前後での表示条件の比較 Table内のAからDは,Fig. 8における画像AからDと同じ. 2006 年 4 月
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