(沌 NG36 阪大歯学部同窓会報 昭和56年7月25 第59回臨床談話会抄録 講師 宮本善文、藤原 顕、浜田泰三、尾形和彦 「.宮本 演者がかって経験した1症例を提示し、その 治療過程と考え方を話した。 のcheck point及びcheck法についても言及し た。 症例 」土乙欠損、下顎左側臼歯部にブリッジを 含む、有歯列。 主訴:数年前上顎にF.Dを新調するも、会話・ 岨囁時脱落する。 初診時:口腔内所見及び義歯所見 顎骨の吸収は著明でなく、小帯、粘膜 等に特に異常はなく、ごく普通の口腔 内である。義歯は床縁に特記すべき過 不足、不都合はなく、吸着状態も強く Dr.尾形 標準的をF.Dの印象法及びそれに関連する筋 群についてのビデオによる示説 っづいて、B。CCalshe11部の印象に際して頬 部の筋(特に頬筋)が義歯の維持安定に働くか、 又床縁の位置、形態がどのような影響を受け るか、実験データをもとに解説した。それに ょると、同部の頬側筋群は、床縁に対しては 離脱方向に働き、維持安定には寄与しないの はないが落ちてくるほどのものではな ではをいかという結論に達した。又、個人ト い。 レー製作のためのスナップ印象用のトレーの 以上のようを患者に対し、演者は、Tissue・ conditioningと、床縁決定のため、Viscogel 選択が後の床縁決定に重要であることがわか った。 を用いた。Viscogelの働きにより、術者が手で 義歯を口月室内よりとり出そうとしても頭がつ Dr.浜田 いてくる位に、義歯の吸着、維持力は増加し 近年歯科医療の普及成果であろうか、無歯顎 l た。しかし患者の主訴である、会話、食事時 患者が義歯の未経験ということは稀で、むし の義歯の脱落は改善されなかった。そのため、 ろ不調和義歯を再調整又は、再製作すること 演者は同義歯を複製し、顎堤と人工歯及び対 が多い。不適合、校合高径の低下、材質疲労、 合歯との位置関係を模型上にて断面的観察を 破損等がトラブルの大勢をしめている。加え 行い、その結果、嘆合力が岨疇庄耐面より大 て無歯顎の患者は一般に高齢であり、機能や きくはずれていることを発見し、人工歯の位 基準が不安定、不確実で、捉えにくく、又新 置と岨囁圧の方向を考慮して、義歯を新調し しい口腔内環境への適応能力も低下している○ た結果、良好な結果が得られた。このことよ そんな条件が重なってくると、旧義歯を嘩極 り、いかにりっばを印象が採得されたとして 的に利用することによって、効率よく、しか も、人工歯排列時に岨噛庄耐面と人工歯、対 もよりなじみやすい新義歯が製作できる。そ 合歯、片側性平衡校合等の考慮がいかに重要 ういう意味で複製義歯に注目し、複製義歯を であるかを述べた。又、旧義歯及び義歯試適時 使用目的やその意義から再評価し、歴史的変 日 芋司)岬J愚苛 遷を展望した後、アルジネートやシリコーン ことをしばしば経験する。新たに調和された を利用した複製法を実際の臨床例とともに具 嘆合面は、できる限り変化をおさえたい部分 体的に説明した。 であり、新義歯の人工歯材質も悩みの一つで 複製義歯にも種々の用途があって、最終印象 ある。 用トレーとして、あるいは嘆合採得や排列の ガイドとして利用する場合は、口腔内に短時 Dr.藤原 間の滞在ですむが、治療用義歯や移行、暫間 総義歯難症例にも、いろいろを種類があるが、 義歯とする場合には、やや長い装着期間が要 その中でも頻度の高い歯槽骨吸収が著明な故 求される。その延長として新義歯やスペアー に困難を症例について、何故そういう状態に 義歯を考えれば、人工歯の材質的問題さえ解 至ったか、また、それを回避するためにはど 決されれば、口月室内装着期間の時間的を長短 のようにすれば良いかを考えることは重要で だけで各用途とも本質的を違いはをさそうで、 ある。 複製義歯の手法が義歯製作法の大部分をカバ 粘膜負担義歯の状態に至ってしまった場合に ーしてしまうようを期待も出てきた。さらに 考えられることは、その義歯構成が不備を故 難症例では、治療用の義歯を使って、校合面 に破壊的を顎骨の吸収を招来することである。 の調整による噴合高径、校合平面等の整備、 即ち、粘膜負担義歯の基本である、暖めば喫 粘膜面の改良による組織調整、義歯床研磨面 むほど義歯が安定するという要件を軽視して の形態を含む全体のバランスを適切に整える 義歯が製作されている場合が多々見られるこ 作業が遠回りのようで、以後の操作に比較的 とである。その根本的を間違いのもとは、人 良好な結果をもたらすようだ。このようを治 工歯排列の基準となる歯槽項線の決定に際し 療用義歯での改造が進んで、口腔内で初期の て、何の意味もない解剖学的歯槽頂線を基準 目的が達せられれば、後はそれをどう新義歯 点として用いることである。有床義歯のみな に複製していくかという技工面が残される。 らず、補綴物は全て、有歯顎時の形態再現で 新義歯のガイドとしての役目ではなく、でき はなく、新しい口腔環境に適合し、その時点 れば忠実に置換したい。演者は、噴合面の岐 における口腔周囲組織の保全をはかるもので 耗は顎運動の自由を防げない生体にマッチし かすればならない。そのためには、対顎関係 た獲得された形態だと考えておられるようで、 を念頭におき、正しく診断された粘膜分類を 岐合採得や研磨面の形態も、チェアーサイド もとにして設定された岨噛庄耐面の頼舌的中 で短時間に決定するよりも条件の悪い症例で 央部である補綴学的歯槽項線を基準点として、 は来院回数はふえてしまうが、ある時間かけ 義歯構成をはからねばならない。以後4回で て、いわば積分された状態を治療義歯に表現 完成にまで至る私の難症総義歯作製法をスラ していきたいと思っている。嘆合面形態が顎 イドで見ていただくが、簡便にして義歯の安 運動に長い間調和してきたとしても、嘆合高 定をはかり、粘膜負担義歯における破壊的を 径の低下を改善する必要や不適合の修正のた 顎堤吸収の招来しないようにする基本的理念 めに床内面に手を加えたために起る顎位の微 を理解していただければ幸いに存ずる次第で 少を変化でさえ、校合面の再調整に発展する ある。 (森居 記)
© Copyright 2024 ExpyDoc