積雪寒冷地における舗装の耐久性向と補修に関 する研究

積雪寒冷地における舗装の耐久性向と補修に関
する研究
藤岡
1近畿地方整備局
淀川河川事務所
芳征1
毛馬出張所(〒531-0063 大阪市北区長柄東3-3-25)
舗装路面に発生するポットホールは,道路利用者の利便性や安全性を損なうものである.ポッ
トホールの補修は通常,補修用常温混合物によって行われるが,損傷が生じて再度ポットホー
ルを形成することもめずらしくない.本研究では,積雪寒冷地の舗装の維持管理の効率化を目
的とした研究プロジェクトにおいて,補修効果を向上させるため試験施工や補修箇所の調査を
実施してポットホール補修箇所の耐久性に寄与する要因を示した.また,混合物の物理的特徴
を評価するために幾つかの室内試験を実施した.その結果,水の影響を受けやすい箇所で補修
箇所の耐久性が損なわれること,補修用常温混合物は3つの特徴で評価できることが判明した.
キーワード
維持管理,ポットホール,補修用常温混合物
1. はじめに
2. 研究の方針
近年,道路の維持管理の効率化が求められており,日
常的な巡回作業での予防的な補修の重要性が高まってい
る.とりわけ舗装が損傷して路面に生じる小さな穴(ポ
ットホール)の存在は,道路利用者の走行性を損ない,
放置すると交通荷重を受けて大きく成長する.路面に発
生したポットホールの存在は二輪車の転倒事故等,安全
性の観点からも早期の補修が重要である.
ポットホールの発生しやすさと舗装の供用年数との間
には明確な関係は見出されていないが,その発生メカニ
ズム1)から路面の滞水しやすい箇所で発生する傾向が見
られる.また,積雪寒冷地においては降雨時に限らず積
雪時の融雪散水装置が稼働する時期も多くのポットホー
ルが発生している.ポットホールの補修に際しては,一
般的には補修用常温混合物が用いられているが,積雪地
域では融雪散水や車両のタイヤチェーンによる過酷な供
用条件により,補修箇所が早期に破損して再度ポットホ
ールが形成されることもめずらしくない.
本稿はこうした問題に鑑み,国道9号の中で特に山間
部で積雪量の多い兵庫県北部地方の路線を対象として,
産・学・官連携の共同研究プロジェクトにおいて,当該
地域の舗装の耐久性向上に資する舗装の維持管理手法の
構築を目的として幾つか検討を行った中から,ポットホ
ール補修箇所の耐久性向上と補修用常温混合物の物理性
状評価結果についてとりまとめたものである.
ポットホール補修箇所の耐久性向上に向けた研究は以
下の3つの内容で構成されている.
(1)ポットホール補修試験施工
積雪寒冷地に適したポットホール補修用常温混合物や
適切な締め固め方法を検討することを目的として,路面
に擬似的に作製したポットホールに補修用常温混合物を
投入して所定の方法で締め固める.その後,交通開放し
て一定期間観察を行い,補修箇所の損傷の有無を確認す
る.また,複数の締め固め方法で補修の試験施工を行い,
耐久性に寄与する混合物の締め固め密度の測定を行う.
(2)ポットホール補修点検データの解析
国道9号の研究対象としている路線のポットホール発
生状況と補修実態を評価するため,補修時の点検データ
を作成する.点検項目は,発生時期などの時間的要素の
他に発生箇所の道路の構造条件,補修作業のの施工条件
である.補修条件と耐用日数の関係から,耐久性向上に
寄与する施工条件や構造条件について検討する.
(3)補修用常温混合物の室内物理性状試験
補修後の耐久性と関連する物理性状の把握と個々の補
修用常温混合物の特性を評価することを目的として,幾
つかの室内試験で補修用常温混合物の性状評価を行う.
3. ポットホール補修試験施工
(1))補修箇所の耐久性評価
耐久性評価を目的とした試験施工の場所は,①損傷の
実態を把握するため気象条件が厳しいこと,②監視カメ
ラで状況観察が可能であること,③緊急時の締め切りが
可能であること の条件を満たす養父市関宮で実施した.
試験施工の平面図と断面図をそれぞれ図-1,2に示す.
至鳥取
写真-1 作業車による締め固め状況
0.6m
2.0m
2.0m
2.0m
2.0m
2.0m
2.0m
至京都
図-1 試験施工平面図
2.5m
すり付け
1.0m程度
0.5m程度
5% 程 度
5cm未満
すり付け
1.0m程度
写真-2 プレートコンパクタによる締め固め状況
5 %程 度
図-2 疑似ポットホール断面図
締め固め作業の所要時間は,作業車で30秒,プレート
コンパクタで60秒(何れも4箇所あたりの時間)である.
表より,作業車を使用した方が締め固め密度が大きくな
る傾向があると考えられる.
本試験施工は,産・学・官プロジェクトに参画してい
る企業から提供された補修後の耐久性向上が期待できる
補修用常温混合物(全6種類)を用いて補修を実施した.
その結果,調査期間(平成19年2月13日から1ヶ月間)で
車両の走行に支障をきたすような破損は発生せず,混合
4. ポットホール補修点検データの解析
物の耐久性に問題が無いことが確認された.
(2)補修箇所の締め固め特性評価
ポットホール補修作業において重要なのは,短時間で
耐久性が確保できるように常温混合物を締め固めること
である.本検討では,作業方法による締め固め密度の違
いを評価するため,みちの駅ハチ北の敷地内の一角で深
さの異なる疑似ポットホールを作製して,2種類の方法
で締め固めを行い,1週間経過後に密度の測定を実施し
た.これを表-1に示す.
表-1締め固め方法と密度
締め固め密度(g/cm3)
混合物A
混合物B
5cm
8cm
5cm
8cm
ポットホール平均深さ
1.53
1.61
1.55
使用 プレートコンパクタ 1.55
機械 作業車
1.69
1.62
1.66
1.52
冒頭でも述べたように,ポットホール補修箇所は交通
荷重を受けて補修後早期に破損するケースがみられる.
早期破損箇所が増えると,日常の点検パトロールでの補
修作業の負担が大きくなり,維持管理コストの増大を招
く.したがって,損傷状況を正しく理解し,適切な方法
で補修を行うことにより補修箇所の耐久性を向上させる
ことが,日常の維持管理では重要と考える.
そこで,ポットホール発生の実態把握と補修後の耐久
性向上を目的に補修点検表を作成し,平成19年6月から
平成22年2月まで管内で発生したポットホールの点検デ
ータをとった.点検項目を表-2に示す.また,図-4は各
年に発生したポットホール発生数を月別に示したもので
ある.図-4より,年度による多少の違いはあるが,梅雨
時の6月と冬季で特に降雪量の多い1月から3月において
ポットホール発生数が多いことが分かる.
次いで,補修方法や補修時における構造条件によって
補修後の耐用日数に違いが生じるかを評価するため,ワ
イブル劣化ハザードモデルを用いて点検データの解析を
行った.ハザードモデルの詳細は参考文献2に詳述され
ているため割愛させていただくが,本モデルを適用する
ことにより,耐用日数を寿命とみなし,寿命に達する確
率を補修条件や構造条件というパラメータを用いて推定
することが可能となる.図-6は,本モデルの説明力の高
い施工条件・構造条件と生存確率の関係を示している.
表-2 ポットホール補修点検項目(抜粋)
条件
項目
天候,気温,
補修回数
ポットホールの形状
ポットホール内の水,泥の除去
締め固め方法
道路構造(土工部,CO床版部等)
表層の種類(密粒,排水性等)
発生位置(わだち,非わだち部)
平面線形(直線部,)
車線(上り,下り,センター)
融雪散水装置の有無
施工
条件
構造
条件
1.0
生存確率
0.8
80
70
平成19年
平成20年
平成21年
平成22年
発生個数
60
50
0.6
0.4
複数回発生無+融雪散水装置無
複数回発生無+融雪散水装置有
複数回発生有+融雪散水装置無
複数回発生有+融雪散水装置有
0.2
40
30
0.0
0
20
40
60
80
100
経過日数
10
図-6 補修後の経過日数と生存確率の関係
0
4
5
6
7
8
9 10 11 12
発生月
1
2
3
図-4 月別ポットホール発生件数
調査期間中に発生したポットホールの発生地点数と繰り
返し発生回数を図-5に示す.
400
140
ポットホール発生地点数
平均耐用日数(不完全サンプル含む)
平均耐用日数(不完全サンプル除外)
120
100
350
300
250
80
200
60
150
40
100
20
50
0
0
1
2
3
4
5
6
7 8 9
発生回数
耐用日数
160
地点数
20
10 11 33
図-5 ポットホール発生地点数と発生回数の関係
調査期間中の総ポットホール発生件数は404件,199地点
で確認された.図より,1回のみ発生したのは約140地点
で全体の約7割を占める.また,平均耐用日数は,ポッ
トホールの補修を行った後に何らかの方法で再度補修が
行われるまでの日数の平均値を表している.不可全サン
プルとは破損が生じていない補修箇所を表しており,不
完全サンプルの耐用日数は補修日から解析日までの日数
である.図より,同一地点での発生回数が5回以上にな
ると,不完全サンプルを含めても平均耐用日数は短くな
る.こうした箇所では母体の舗装そのものに原因がある
と考えられる.
図-6より,発生回数が複数回の地点で融雪散水装置のあ
る補修箇所では補修後10日の生存確率が50%程度である
のに対し,1回のみ発生している箇所で融雪散水装置が
無い地点では100日経過しても80%以上の補修箇所が生
存している.複数回繰り返し発生している箇所で生存確
率が低いのは,材料や補修方法だけでなく,母体の舗装
そのものにも何らかの原因があると考えられる.
5.補修用常温混合物の室内物理性状試験
市販されている補修用常温混合物は,加熱アスファル
ト混合物と比較して運搬や貯蔵の面で扱いやすいことか
ら,ポットホールや段差等の緊急補修に広く用いられて
いる.これらの混合物の適性を正しく理解し,損傷状況
に応じて使い分けることは,補修の作業性や補修後の耐
久性向上につながると考えられる.
そこで,混合物の物理的な性状を評価することを目的
として,混合物の種類を表-3のように分類し,室内試験
を実施することとした.
表-3 室内試験の混合物の種類
種別
混合物 1
混合物 2
混合物 3
混合物 4
混合物 5
混合物 6
細別
特殊樹脂・改質アスファルト系
カットバックアスファルト系
特殊樹脂・改質アスファルト系
カットバックアスファルト系
特殊樹脂・改質アスファルト系
特殊樹脂・改質アスファルト系
粒度
密粒度
開粒度
開粒度
開粒度
開粒度
密粒度
粒径
13mm
5mm
5mm
5mm
5mm
13mm
(1) 突き固め試験
本試験は,写真-3のモールド内に所定量の混合物を投
入し,突き固めハンマを所定回数自由落下させて混合物
を突き固めて供試体を作製するものである.供試体作製
後,モールドから抜き取り密度の測定を行った.
試験条件2では20℃で作製し,試験前に7日間60℃で養生
した.表より,カットバックアスファルト系の混合物2
と4は供試体の空隙率が開粒度タイプの混合物の中で小
さく,作業性が高い.また,密粒度タイプの混合物1と6
は条件1での試験が可能であり,低温下でも耐水性を確
保している.さらに,特殊樹脂・改質アスファルト系の
開粒タイプの混合物3と5は条件2で一軸圧縮強さが高い
値を示しており,長期的には耐久性が向上する.
表-4 室内試験結果
試験
写真-3 モールドと突き固めハンマの外観
(2)マーシャル安定度試験
本試験は,(1)突き固め試験 で作製した混合物の供試
体を試験開始 30 分前に 60℃の恒温水槽に浸し,試験開
始直前に水槽から取り出し,供試体を載荷装置に固定し
た円弧状載荷ヘッド内に置いて載荷するものである.マ
ーシャル安定度試験は流動や変形に対する安定性を評価
することを目的として広く行われているが,本研究では
水浸後の供試体の耐水性の評価を目的に実施した.
写真-4 裁荷ヘッド(右上)と裁荷装置
(3)一軸圧縮試験
補修用常温混合物の一軸圧縮試験は,混合物の強度特
性の評価を目的とする試験である.所定の条件で作製し
た供試体を一定期間養生した後,一軸圧縮試験機で載荷
して荷重と変位量を記録した.
写真-5 一軸圧縮試験機
室内試験結果を表-4に示す.表中の試験条件1は,低
温時の作業を考慮して供試体を5℃で作製した.また,
種別
混合物 1
混合物 2
混合物 3
混合物 4
混合物 5
混合物 6
突き固め供試体
空隙率(%)
条件 1 条件 2
16.3
13.5
18.9
17.2
24.0
22.1
16.8
23.7
21.4
8.8
7.3
マーシャル
安定度(kN)
条件 1 条件 2
0.522
0.324
E
1.170
E
3.673
E
E
1.956
1.832
2.467
一軸圧縮強さ
(MPa)
条件 1 条件 2
0.202
0.578
0.239
0.841
0.435
1.780
0.124
0.391
1.756
0.707
1.487
5.まとめ
本研究で得た知見を示す.ポットホールの発生原因と
同補修箇所の耐久性には補修用の混合物そのものよりも
水の存在が大きく関係している.同じ箇所で繰り返しポ
ットホールが発生すると補修箇所の耐用日数が短くなり,
5回以上発生する箇所は他の要因がある場合が多く別の
補修方法を検討すべきである.また,補修用常温混合物
には作業性,耐水性,耐久性の観点からその特性を評価
することができ,カットバックアスファルト系は作業性,
密粒度タイプは耐水性,特殊樹脂・改質アスファルト系
の開粒タイプは耐久性が求められる箇所に適用する事が
望ましいと考えられる.同時に,いずれの混合物も低温
で作業性が低下すること,温度条件が高いほど耐水性や
耐久性の発現に影響することから,補修作業時に混合物
を加温することも検討するべきである.
謝辞:本研究は新都市社会技術融合創造研究会「積雪寒
冷地における舗装の耐久性向上及び補修に関する研究プ
ロジェクト」の成果の一部である.研究を遂行するにあ
たりプロジェクトリーダーの京都大学経営管理大学院院
長 小林潔司教授,同サブリーダーの大阪市立大学 山田
優名誉教授をはじめ研究会各位には多大なるご助言をい
ただいた.また,大阪大学 貝戸清之特任講師には点検
データの解析をしていただいた.ここに感謝の意を表す.
参考文献
1) 鎌田修,山田優:水浸ホイールトラッキング実験による橋面
舗装でのポットホールの発生原因とその要因,舗装工学論
文集,土木学会,No.6,pp.196-201,2001
2)Lancaster,T.:The Econometric Analysys of Transion Data,Cambridge
University Press,1990