砲丸投げにおけるステップバック投法 (ステップグライ ド, ステップターン

 砲丸投げにおけるステップバック投法(ステップグライド,ステップターン)の
有効性に関する動作学的研究 一回転投法,オブライエン投法との比較一
専 攻 教科・領域教育学専攻
コース 生活・健康・総合内容系
学籍番号 M08244A
氏 名 船引 規正
I、研究の目的
現在の砲丸投げは,回転投法,グライド投法が
各選手が同じ時間帯に4種類の投てきをおこなっ
二大主流となっている。砲丸投げの記録の変遷と
た。
投法を検討した結果,世界記録を達成していない
3次元座標系は,投てき方向をY軸,それに水
ために注目されなかった2種類の投法を見出すこ
平直行する方向をX軸,垂直方向をZ軸とした。
とできた。著者は,それらをステップグライド投
撮影範囲はX軸3.2m,Y軸3.2m,Z軸2.5mで
法,ステップターン投法と命名した。
ある。3台のホームビデオ(1/60コマ)で撮影し,
デジタイズソフトウェア(Frame−DLASII)で
ステップ・グライド投法
分析をおこなった。分析項目は,砲丸の速度,砲
ステップ・ターン投法
丸の軌跡,パワーポジションヘの移動距離と歩幅,
投嬢逼助角度 ,㎜廣
看投げ選手の接地足 左右左
胴体角度,肩・腰回旋角度,捻転角度,肩・腰平
投撮方向
■
一τ\
均回旋角速度である。
込一.右
㎜.結果と考察
瓶足皆
畠ダ
\篁
グライド投法とステップグライド投法は,パワ
ーポジションの周辺でステップターン投法,回転
図1 ステップグライド投法とステップターン投法
投法にくらべて砲丸の速度の落ち込みがなかった。
ステップグライド投法は,同じ足を二回連続使
回転投法は,砲丸の速度がいったん低下するが,
用するグライド投法とは違い,足を交互に使用す
投げ局面では急激に砲丸の速度が増加し,リリー
る。ステップターン投法は,回転投法にくらべて,
ス時は最速となる。ステップターン投法は,この
動きが単純で回転中のバランスがとりやすい。本
速度の落ち込みが回転投法より少なかった。
研究の目的は,グライド投法,ステップグライド
各動作局面に要する時間,パワーポジションで
投法,ステップターン投法,回転投法の特徴を明
の歩幅を計測した結果,グライド投法は右足接地
らかにし,今後の砲丸投げ記録向上に有効な知見
がおそく,さらに右足の移動距離も短かった。一
を得ることである。
般にグライド投法は右足の引きつけが難しいとい
われるが,実験結果はこれを実証した。
1I.研究の方法
砲丸投げの記録向上に重要なのは,砲丸の初速
被験者は,回転投法を専門とする2名の右投げ
度をあげることである。砲丸の初速度をあげるた
学生エリート競技者である。
めには,身体のr起こし」と「捻り戻し」を利用
投法以外の条件をできるだけ一致させるために
する。
一466一
2選手の実験値を平均するとパワーポジション
「足さばき」と「投てき運動角度」という2つ
での胴体角度は,グライド投法が58度と最も小
の概念を用いて砲丸投げの投法分類をおこなった。
さかった。つまり,グライド投法が最も投てき方
表1 砲丸投げの投法分類
向に対して後方に傾いていた。ステップグライド
投てき
ホップ系投法 ステップ系投法
^動角度
投法の胴体角度も63度と小さくグライド投法に
‘右樹f握手の蛙地固
回転投…去
}o度
ネ上
ついで後傾していた。ステップターン投法と回転
e左右左〕
”印度
ステップターン投法
ステップ
@ (左右去コ
pック
投法の胴体角度は70度と76度であまり後傾して
1醐1度
いなかった。このことからグライド投法とステッ
蜘産
プグライド投法は「起こし」を利用した投法であ
グライド投法
@帖右党
スナッブグライド投…去
竃@
@ f左右左1
横向きホップ投法
横向きスナッブ投法
@ 帖右左,
@ {右左右左〕
舳弓1作勅
本研究の目的は,4投法の特徴を明らかにする
るといえる。
またグライド投法は左腰の先行回旋により大き
ことであった。4投法の特徴を表2に示した。
な捻転角度をつくりだす「捻り戻し」を利用した
表2 4投法の特徴
投法であることがわかった。ステップグライド投
長 序
短 莇
簑傾しや青い.銚をつくサやすい.
同一屍を遠鏡使用する。
T’ク九繭芳への左足民地がはやい。
Tークル中央へ⑰右足蹴納そい.
サーケ凡中央へΦ右足接地榊やい.
サーク:し前方へΦ左足蹴がおそい。
法もグライド投法に次ぐ捻転角度をつくりだして
グライド披詰
いた。一方,回転投法は左足接地時の捻転角度が
ヌテ菅ブ
20度,ステップターン投法は9度であり,本研究
ヌテップ
予循動作がおこない榊い、
予備動作で勢いがつけにくい.
^ーン投法
蛯ォな角速虜を得やすい。
C艇加速する溺ガ糖い。
Oライド捜港
ではグライド投法ほど「捻り戻し」を利用してい
同幅投法
なかった。
鰍を加速する寵昭が長い。
蛯ォ蝸違度を得榊い。
動㈱鴫黎で安定性に欠場一る.
砲丸投げの基本原理であるr起こし」とr捻り
ステップグライド投法は,グライド投法にくら
戻し」において,グライド投法は回転投法をうわ
べて右足の接地ははやいが,左足の接地はおそい。
まわることがわかった。
しかし,足の切りかえ動作を素早くおこなえば,
しかし,男子世界歴代10傑の記録をみるとグ
グライド投法以上の記録を出す可能性がある。ス
ライド投法と回転投法に大差はない。そこで長軸
テップグライド投法の足の切りかえは,回転投法
方向の回旋角速度を分析した。
と同じであり,将来回転投法を目指す選手は,グ
グライド投法の投げ局面の平均回旋角速度は,
ライド投法から投法変更するより,ステップバッ
肩720度/秒と腰440度/秒,ステップグライド投
ク投法,ステップターン投法で足の切りかえ動作
法は肩720度ノ秒と腰545度/秒であった。ステッ
を習得する方が望ましいといえる。
プターン投法は,肩930度ノ秒と腰760度ノ秒であ
り,回転投法の肩945度ノ秒と腰745度ノ秒とほぼ
V.今後の課題
同じ値を示した。
本研究では砲丸と身体動作に関しての外観的な
以上の分析からr起こし」とr捻り戻し」を利
分析をおこなったが,今後は地面皮カの分析,筋
用するグライド投法に対して長軸方向の回転を利
電図学的な分析,エネルギーフローに関する分析
用するのが回転投法であることがわかった。
を加え,各投法の特徴をより明確にしたい。
主任指導教員 後藤 幸弘
1V.総括
指導教員 松下 健二
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