CADセミナーの内容を踏まえて

日本放射線技術学会雑誌
356
臨床技術講座
個人のコンピュータ環境への開発環境導入
−CADセミナーの内容を踏まえて−
原 武史・中川俊明・篠原範充1)・松原友子2)・福岡大輔3)・畑中裕司4)
岐阜大学大学院医学系研究科知能イメージ情報分野
1)岐阜大学産官学融合センター
2)名古屋文理大学情報文化学部
3)岐阜大学教育学部
4)岐阜工業高等専門学校電子制御工学科
はじめに
CADセミナーの内容は,C言語のコンパイル環境と,
画像分科会では,これまでにCADセミナーを18回
OpenGLもしくはMesaGL
(OpenGLの互換ライブラ
行っている.ここでは,プログラミング技術の習得を
リ)
,GLUT
(OpenGL/MesaGLの上位ライブラリ)
が利
目指し,画像処理アルゴリズムの理解から,C言語を
用できれば,Windows,MacOS,Linux系,UNIX系
用いた実践的な演習を行ってきた.多くの場合,大学
のいずれの環境でも利用できることを確認している.
や研修施設でのコンピュータを用いて行っているた
CADセミナーのCD-ROMは作成後,ハードディスク
め,個人の環境で,自宅や職場に持ち帰って実習を続
上にコピーして利用する.
けて行うためには,参加者自身のコンピュータ環境
に,プログラミング環境を導入する必要があり,継続
2.環境構築
した実習や,研究のスタートのための障害となってい
2-1 MinGWを使ってみよう
た.
ここでは,MinGW
(Minimalist GNU for Windows)
本講座では,CADセミナーで行った演習の概要を
を用いて作業を行う.MinGWとはUNIX等で主に使用
紹介し,環境構築と研究スタートの一助となるよう
されているgcc
(GNU Compiler Collection)
をWindows
に,それらをWindows上の無料で利用できる開発環境
上で使用できるように移植したものである.MinGW
で実行するための 2 種類の環境整備の方法を,CADセ
をインストールするだけですぐに,Windowsアプリケ
ミナーを行ったスタッフにより紹介する.
ーションを作成できるC,C++コンパイラが手に入
る.以下に,開発環境の設定とコンパイルに関しての
1.CADセミナーの内容と配布
み簡単に説明する.
C言語を利用したCADセミナーは,初級編と中級編
① 必要なファイル
を主に岐阜大学において開催した.これまでの内容
MinGW-*.*.*.exe:
は,C言語入門
(第 3 回)
,フィルター処理
(第 6 回)
,
MinGW
(http://www.mingw.org/)
2 値画像処理
(第 9 回)
,マンモグラムを題材とした腫
glut-3.7.6-bin.zip:
瘤陰影検出処理
(第12,15回)
,三次元画像処理
(第18
GLUT
(http://www.xmission.com/~nate/glut.html)
回)
である.これらの内容は,配布制限のある画像を
② 環境の設定
除き,画像分科会のウェブページからダウンロードが
・MinGWを
「C:¥MinGW」
にインストールする.事前
1,2)
可能になっている
.CD-ROMのイメージファイル
を利用して,ご自身でCDを作成できるので,ぜひダ
に取得した MinGW-*.*.*.exe をクリックし,
基本的に指示通り行えばよい.
ウンロードして,
「3.実践編」
をお試しいただきたい.
・事前に取得した glut-3.7.6-bin.zip を適当なzipファ
岐阜大学で行われたCADセミナーでは,主にLinux
イル展開ツールで展開する.フォルダ中には,以下
環境で演習を行っている.これは,ファイルの共有と
の六つのファイルが含まれている.
ユーザ管理の容易さが主な理由である.コンパイラに
README.win
はgcc,表示系にはOpenGLを用いている.したがっ
glut.dll
て,CADセミナーで使用したソフトウェアを利用す
glut.h
るにあたっては,個人で実習や研究を行う場合には,
glut.lib
OSの種類はそれほど大きな問題ではない.実際,
glut32.dll
第 62 卷 第 3 号
個人のコンピュータ環境への開発環境導入−CADセミナーの内容を踏まえて−
(原・他)
357
glut32.lib
下のように入力する.このとき対象画像
(chest.raw)
・ g l u t . h を O p e n G L の ヘ ッ ダ が あ る「 C :
は,
「C:¥cad¥no4-3」
内にあることにする.
¥mingw¥include¥GL」
に手動で移動させる.
・glut.dll,glut32.dllを
「C:¥WINDOWS¥system32」
に
C:¥cad¥no4-3 > proc.exe chest.raw 512 512 out.raw
手動で移動させる.
③ コンパイル
・コマンドプロンプトに以下のように表示される.こ
ここでは,CADセミナーで使用した表示用のプロ
こで強調係数の設定を行うことができる.今回は,
グラムおよび画像を用いる.
5 を入力した.
使用するプログラムは,「C:¥cad¥no4-3」,「C:
¥cad¥x8view」
へそれぞれ移動させる.
W=512, H=512, File Opening….: chest.raw
no.4-3は,8bit画像にアンシャープマスクフィルタ
Input kyouchou keisu=5
処理を行うプログラムであり,x8viewは,8bit画像の
表示用プログラムである.
③−1 アンシャープマスクフィルタのコンパイル
・MS-DOSプロンプト画面を開く.
・C:¥cad¥no4-3へ移動する.
・MinGWは基本的にコマンドプロンプトで使用する
ので,
「C:¥mingw¥bin」
にパスを通す設定を行う必
・
「C:¥cad¥no4-3」
内にout.rawが作成されれば,実行は
成功である.
・次にアンシャープマスク処理をした画像である
out.rawを表示する.
「C:¥cad¥no4-3」
のフォルダよりx8view.exeが使用で
きるようにパスを通し,その後,実行する.
要がある.“パスを通す”というのは,コマンドが実
行される際に,そのコマンドに対応する実行ファイ
C:¥cad¥no4-3 > path C:¥cad¥x8view;%path%
ルやバッチファイルがどこにあるかをOSに教える
C:¥cad¥no4-3 > x8view out.raw 512 512
ことである.そこで,コマンドプロンプトに以下の
ように入力する.
・アンシャープマスク処理された画像が表示されれば
成功である.
C:¥cad¥no4-3 > path C:¥MinGW¥bin;%path%
細かいパスの設定が必要な場合があり,少し複雑だ
・次にコマンドプロンプトに以下のように入力する.
が,これでCADセミナーの内容を実行することがで
このとき,
「C:¥cad¥no4-3」
内でコンパイルに使用する
きるようになる.UNIX系の環境のほうが開発をしや
すべてのファイル名を入力する必要がある.フォルダ
すい方には,MsysあるいはCygwinをインストールす
内に実行ファイル
(proc.exe)
が作成されればコンパイ
ることをお勧めする.Msysは,MinGWのgccを使っ
ル成功である.
て開発をする際にconfigureスクリプトを実行するため
に最低限必要なコマンドを提供してくれる環境であ
C:¥cad¥no4-3 > gcc -o proc.exe main.c convolve.c
る.Cygwinに関しては,次節で説明する.
unsharp_mask_un_char.c winproc.c
2-2 Cygwinを使ってみよう
③−2 表示用プログラムのコンパイル
C y g w i n と は , U N I X や L i n u xの よ う な 環 境 を
・C:¥cad¥x8viewへ移動する.
MicrosoftのWindows上で実現するソフトウェアであ
・コマンドプロンプトに以下のように入力する.
る.これにより,gccはもちろん,Makefileを使った
makeが実行可能になる.
C:¥cad¥x8view > gcc -o x8view.exe image.c -lglut32
2-2-1 インストール
-lglu32 -lopengl32
① Cygwinのホームページ
(www.cygwin.com)
からセ
ットアッププログラムsetup.exeをダウンロードす
「C:¥mingw¥bin」
内に実行ファイル
(x8view.exe)
が作
成されればコンパイル成功である.
る.Install or update now!をクリック
(Fig. 1)
.
② setup.exeを実行する前に,インストール先のフォル
ダを作成する.今回は,
「C:¥」
に
「cygwin_package」
と
④ 実行
いうフォルダを作成した.
・C:¥cad¥no4-3へ移動する.
③ setup.exeを実行する.
・proc.exeを実行するため,コマンドプロンプトに以
④「Cygwin Net Release Setup Program」
が立ち上がる.
2006 年 3 月
日本放射線技術学会雑誌
358
Fig. 1 Cygwinのダウンロードページ
Fig. 2 Cygwinのインストール画面
(1)
「次へ」
をクリック
(Fig. 2)
.
⑧ パッケージをダウンロードするサイトを選択する
⑤ インストール方法を選択する
(Choose Installation
(Choose A Download Site)
.どのサイトを選択して
Type)
.今回は,パッケージをダウンロードした後
もよいが,ダウンロードに失敗し再試行する場合,
にインストールするので,Download Without In-
別のサイトを選択すると別のフォルダが作成される
stallingを選択して
「次へ」
.
ため,常に同じサイトを選択するとよい.今回は
⑥ パッケージを保存するフォルダを選択する
(Select
ftp://ftp.u-aizu.ac.jpを選択して
「次へ」
.
Local Package Directory).② で作成した「C:
⑨ ダウンロードするパッケージを選択する.今回の目
¥cygwin_package」
を選択して
(
「Browse」
で任意のフ
的に必要な
「Devel」
「Editor」
「Graphics」
「X11」
の横に
ォルダが選択可能)
「次へ」
.
表示されているDefaultをクリックし,
「Install」
と表
⑦ インターネット接続方法を選択する
(Select Connec-
示されるようにする.上のボタンは
「Curr」
を選択す
tion Type)
.Direct Connectionを選択して
「次へ」
.
る.
「次へ」
をクリックするとダウンロードが開始さ
第 62 卷 第 3 号
個人のコンピュータ環境への開発環境導入−CADセミナーの内容を踏まえて−
(原・他)
359
Fig. 3 Cygwinのインストール画面
(2)
れる
(Fig. 3)
.
⑩ ダウンロードが完了するとDownload Completeが表
示される.途中で失敗すると,Download Incomplete. Try again?と表示されるので,再試行する場
合は
「はい」
をクリックする.すると,⑧ まで戻っ
て同様の操作をすることになる.このとき,セット
アッププログラムをいったん終了しないと,ダウン
ロードするサイトに接続できない場合があるので注
意.
⑪ ダウンロードが完了したら,再びsetup.exeを実行す
るが,⑤ と同様の
「Choose Installation Type」
では,
今度は
「Install from Local Directory」
を選択して
「次
Fig. 4 Cygwinのインストール画面
(3)
へ」
.
⑫ インストール先
(Cygwin実行時,ここが
“ルートデ
ィレクトリ”
となる)
のディレクトリを選択する.
② コマンドラインに「startx」と入力すると,“X-
「C:¥cygwin」
として
「次へ」
(今回は
「Install For」
は
「All
Window”
が起動され,
“ウィンドウ”
が開く
(Fig.
Users」
,
「Default Text File Type」
は
「UNIX / binary」
にした)
.
6)
.
③ Cygwinでの
“ホームディレクトリ”
はWindows上で
⑬ ダウンロードしたパッケージが保存されているディ
はC:¥cygwin¥home¥username
(ユーザ名)
となるの
レ ク ト リ を 選 択 す る( S e l e c t L o c a l P a c k a g e
で,使用するプログラムやデータはここに保存す
D i r e c t o r y ). 今 回 は「 C : ¥ c y g w i n _ p a c k a g e ¥
る.あるいは,ディレクトリ/cygdriveから任意のド
ftp%3a%2f%2fftp.u-aizu...」
に保存されているので,
ライブが参照できるので,これを利用してもよい.
「Browse」
でここを選択して
「次へ」
.
特に,CD-ROMドライブは,「/cygdrive/d」,「/
⑭ インストールするパッケージを選択する.⑨ と同
cygdrive/e」
のようにアクセスできる.したがって,
様に,必要なパッケージの横にInstallと表示される
CADセミナーのCD-ROMを利用する場合には,
ように該当箇所をクリックして
「次へ」
.
CD-ROMを挿入後,該当ディレクトリにアクセス
⑮ インストール終了後,
「完了」
をクリックすると
“デ
して,コピーして利用できる.
スクトップ”
にアイコンが現れる
(Fig. 4)
.
2-2-2 プログラムの実行
3.まとめ
①「Cygwin」
を実行すると,Cygwinの
“ウィンドウ”
が
無料で利用できる開発環境をWindows系コンピュー
開く
(Fig. 5)
.
2006 年 3 月
タにインストールする手法ならびにCADセミナーの
日本放射線技術学会雑誌
360
Fig. 5 Cygwinの最初のウィンドウ
Fig. 6 Cygwinから起動したxtermウィンドウ
演習題材を利用する方法を紹介した.市販されている
セミナーのプログラムを参考に可能であるので,簡単
Visual Cなどの開発環境と比較するとインストール手
な開発環境をインストールしておくことをお勧めす
順が多く煩雑に感じられるかもしれないが,全く無料
る.なお,本稿ではWindows系を中心に取り上げた
で利用できる点は捨てがたい.GUIなど複雑なインタ
が,パスの設定,Makefileの変更など,わずかな変更
ーフェースの構築を目的としていないのならば,
を 行 え ば ,MacOSで の 作 業 が 最 も 簡 単 で あ る .
Cygwin環境を用いてプログラミングを行うことは,
MacOSには,OpenGL/GLUTがすでにインストールさ
プログラミングそのものの勉強になる.これは,ウィ
れており,OSに付属する
「xcode」
という開発環境をイ
ンドウ作成のライブラリ,Windowsのライブラリなど
ンストールすれば,C言語のコンパイラ:gccがインス
を全く用いず,画像処理の数値計算そのものに集中で
トールされるので,miエディタなど自由なエディタを
きるからである.GUIを持ったアプリケーションが全
利用すれば,Linux/UNIX環境と同様に作業ができ
盛であるが,繰り返し作業をする場合や簡単な作業の
る.詳細は,画像分科会のウェブページを参照して
場合には,コマンドライン・ユーザ・インターフェー
いただき,疑問点などあれば掲示板へ残していただ
ス
(CUI)
の魅力もある.画像のヘッダー削除処理な
きたい2).
ど,普段の研究や作業に必要なプログラム作成もCAD
参考ウェブページ
1)CADセミナーのウェブページ:
www.fjt.info.gifu-u.ac.jp/cad-sem
2)画像分科会のウェブページ:
www.fjt.info.gifu-u.ac.jp/img-com
第 62 卷 第 3 号