FCC触媒のロングライフ化による環境負荷低減技術の研究開発

2000.M2.1.1.
FCC触媒のロングライフ化による環境負荷低減技術の研究開発
(FCCロングライフ化グループ) ○関根伸樹、北爪章博、山田英永、渋谷 忠、
永井健司、内藤順子
1.試験研究の内容
国内のFCC装置は、そのほとんどが減圧軽油だけでなく常圧残油などの残油を混合処
理している。残油処理比率はRFCC装置まで含めたトータルで約25%であり、需要構
成の軽質化を考慮すると残油処理比率はますます上昇すると予想される。
FCC装置において残油を処理すると、残油中に含まれる金属、特にバナジウムによっ
て主活性種であるゼオライトの構造が破壊されるために触媒が劣化する。また、残油中に
含まれる金属、特にニッケルの脱水素反応及び残留炭素によりコーク生成量が増大するた
め、FCC装置の再生塔の温度が上昇し、触媒再生時の水熱条件が過酷になるために触媒
が劣化する。こうした触媒劣化による活性低下を補うために新触媒の投入量を増やし、こ
れに伴って大量の劣化触媒の抜き出しが生じる。
このようにして多量に発生する廃触媒は、産業廃棄物としての環境負荷の問題が懸念さ
れている。残油処理比率の増大は、廃触媒量のさらなる増加を引き起こすため、環境負荷
低減のためにもより一層の廃触媒の低減が必要である。
本研究は、残油中に含まれる金属に耐性を持ち、過酷な水熱条件下に耐え、コーク選択
性に優れた触媒を開発し、廃触媒量を現状の 1/3 以下にすることを目的とし、環境負荷の
低減を図る他、触媒使用量及び廃触媒量の減少による精製コスト(新触媒購入費及び廃触
媒処理費)の低減、重質原料油処理時の運転フレキシビリティの増大、廃触媒からの金属
(Ni,V)回収技術の効率向上等の効果が期待できる。
FCC触媒は、ゼオライト、粘土鉱物のカオリン及び活性アルミナ等の添加物とこれら
を結合するシリカバインダーの混合物として構成され、平均 60 ミクロンの球形多孔質体で
ある。そして、触媒の性能は主活性種であるゼオライトの性能に大きく支配される。
幸手第3研究室で開発したHSゼオライトは水熱安定性が従来のUSYゼオライトより
も優れており、こうした性能は脱 Al の手法が大きく関与していると考えられる。また、H
Sゼオライトはマトリックスと相互作用をしやすい骨格外Alを有しており、形成された
相互相は残油中に含まれる金属を捕捉する能力を有していると考えられ、耐メタル性に優
れた触媒を構成する。
そこで、HSゼオライトを中心にしたゼオライトの調製条件の最適化により、さらに水
熱安定性を向上させると共に、相互相の機能を向上させるマトリックス成分の探索により、
耐メタル性のさらなる向上を図る。
また、残油中に含まれる金属、特にニッケルの脱水素反応及び残留炭素によってもたら
されるコーク生成量の増大による触媒再生時の水熱条件の過酷度を緩和するために、触媒
の調製においてマトリックス細孔の制御と酸性質の最適化により、分解反応に起因するコ
ークの生成を抑える。
一方、上記のようにして開発される触媒を実験室レベルで評価するには、実装置内での
触媒劣化挙動を再現できる触媒模擬平衡化手法の開発や残油を用いた触媒評価手法の開発
など、評価技術の改良が必要不可欠である。
触媒模擬平衡化法については、実装置平衡触媒と同様の汚染金属分布を再現できる手法
及び装置を独自技術で既に開発しているが、さらに装置内での触媒の劣化挙動を詳細に検
討し、模擬平衡化条件を確立する。
また、残油を使っての触媒性能評価については、独自技術で開発したベンチプラントの
残油使用時の運転安定性の改良を進めるとともに、評価の迅速化のために残油対応MAT
装置などの新規評価装置の開発を進める。
そこで、本年度は下記項目の研究開発内容を実施した。
1.1 水熱安定性の検討
触媒使用量(廃触媒量)を 1/3 にすることにより生じる滞留時間3倍の過酷な水熱条件
下に耐えうる触媒の開発は、その活性種であるゼオライトの耐久性を高める必要がある。
幸手第3研究室で開発した HS ゼオライトは、水熱安定性に優れており、さらなる水熱安定
性の向上めざし、HS ゼオライトの脱 Al 手法・条件に関する検討を行っている。昨年度ア
ルカリ処理を組み合わせた HS ゼオライトの調製において興味深い知見を得ており、水熱安
定性向上に向け、さらに Al 存在下での酸・アルカリ処理について検討を進めた他、ゼオラ
イト骨格の安定性に影響を与える Na の含有量について検討を行った。
また、HS ゼオライトは従来の USY ゼオライトに比べ優れた性能を有しており、その性能
はメソ孔に起因していると考えられる。そこで、水熱安定性に優れた非 Y 型ゼオライトに
メソ孔を付与することにより、水熱安定性に優れ Y 型ゼオライトに匹敵する性能を有する
ゼオライトを得るために、メソ孔を構築する改質法の検討を行った。
1.2 耐メタル性の検討
触媒の主活性種であるゼオライトの構造を破壊する残油中に含まれるバナジウムは、触
媒使用量(廃触媒)を 1/3 にすることにより、その堆積量は3倍となる。また、脱水素反
応により水素及びコークを生成するニッケルも同様である。これら大量の被毒金属からゼ
オライトを保護し、尚かつ水素及びコークの生成を抑えるには、被毒金属を捕捉し不動態
化する必要がある。
幸手第3研究室で開発したHSゼオライトは、骨格外 Al とマトリツクスで相互相を形成
し、この相互相が被毒金属を捕捉していると考えられ、従来の USY ゼオライト含有触媒よ
りも耐メタル性が優れている。この機能をさらに向上させるために、新たに捕捉能力を有
する金属を導入し、昨年度優れた性能を有する金属種とその導入方法を見出した。
今年度は、さらなるゼオライトの保護機能の向上、水素及びコーク生成の抑制を目的に
昨年度見出した新規マトリックス触媒の金属修飾による改良検討を実施した。
1.3 触媒調製条件の検討
触媒の水熱劣化の要因は、再生塔における高温のスチーム雰囲気であり、再生塔の温度
はコークの燃焼量により決まる。つまり、コークの生成量が温度を支配する。コークの生
成は、残油中の残留炭素、ニッケルによる脱水素反応、原料油の分解反応及びストリッパ
ーにおいてストリッピングしきれなかった油分が主な生成源である。触媒使用量(廃触媒
量)を 1/3 にするとニッケルの堆積量が増加し、これに伴い脱水素反応によってコーク生
成が増加するが、前述したニッケルの不動態化によりコークの生成を抑える一方で、原料
油の分解反応及びストリッピングしきれなかった油分によるコーク生成を抑える検討を進
めている。
一般に、分解反応によるコークの生成はマトリックスの細孔及び酸量が大きく関わって
いると考えられており、当社の研究からもメソ孔がコーク抑制に有効であることを示唆す
る実験結果を得ている。また、触媒の細孔はストリッピング性能に大きな影響を与えると
考えられるため、分解反応及びストリッピング不足によるコークの生成を抑える目的で触
媒細孔の制御に関する検討を開始した。
本年度は、触媒の細孔に影響を与えると考えられる触媒調製における造粒工程の混合ス
ラリーの pH について検討を行った。
1.4 触媒評価技術の開発
FCC触媒をMATあるいはベンチプラントで性能評価するには、あらかじめ実装置の
触媒と同じくらいに強制劣化を行う必要がある。現在行われている強制劣化、いわゆる模
擬平衡化はミッチェル法が主流であり、この方法によって得られる平衡化触媒は、表1−
1に示すように、実装置平衡触媒と比べ異なった部分が多い。
開発した触媒を実験室レベルで正確に評価するには、実装置内での触媒劣化挙動を再現
できる触媒模擬平衡化手法の開発が必要である。昨年度、既に構築している実装置平衡触
媒と同様の汚染金属分布を再現できる手法を改良し、実装置平衡触媒と同様の汚染金属分
布と水熱劣化分布を持つ模擬平衡化条件を確立しており、本年度はさらに検討を進め、触
媒使用量(廃触媒量)を少なくすることにより生じる過酷な劣化状態を再現する模擬平衡
化手法の検討を行った。
表1−1 模擬平衡化触媒と平衡触媒の比較
粒子中の Ni の分布
粒子中のVの分布
メタルの影響度
触媒の劣化度
触媒中のメタルの分布
(ミッチェル法)
模擬平衡化触媒
均一
均一
強い
均一
均一
実装置平衡触媒
表面に多い
均一
弱い
分布を持つ
劣化触媒に多い
2.試験研究の結果と解析
2.1 ゼオライトの改質法の検討
(1)Al 存在下におけるゼオライトの酸・アルカリ処理
USYゼオライトの脱 Al により生じた骨格外 Al をアルカリ処理により骨格に再挿入し、
ゼオライト骨格の再構築による骨格 Al 配列の最適化を試み、HSゼオライトの調製におい
て、HS処理の前処理としてアルカリ処理が有効であることを見出しており、水熱安定性
向上に向け、さらに Al 存在下での酸・アルカリ処理の検討を実施した。
その結果、図2−1に示すように水熱安定性の評価では、すべての前処理操作段階にお
いて従来のUSYゼオライトよりも水熱安定性が向上しており、HS処理を行うとさらに
向上する傾向を示した。酸処理における前処理段階での水熱安定性の向上は、Al の存在 に
関わらず格子定数が変化してないことから、ゼオライト骨格及び骨格外 Al に起因するもの
ではなく、酸に接触することによる別の要因が考えられる。また、Al 存在下で酸処理しH
S処理したゼオライトは、HSゼオライトに比べ水熱安定性の向上は見られない他、分解
反応性において、特にLCO選択性が劣る結果を得ており、Al 存在下での酸処理は全く効
果がないことが分かった。
一方、アルカリ処理は、アルカリにより骨格に Al が再挿入され格子定数が NH 4Y(イオ
ン交換Y型ゼオライト)と同程度となり、前処理段階において酸処理と同様従来のUSY
ゼオライトより水熱安定性が向上し、さらにHS処理するとHSゼオライトと同程度まで
脱 Al され、水熱安定性がHSゼオライトよりもさらに向上しており、酸処理に比べHS処
理の効果が大きく現れている。これは Al の再挿入によりゼオライト骨格が再構築され安定
化した他、HS処理に何らかの影響を与えているものと考えられる。また、分解反応性に
おいても、ガソリン及びLCO選択性に優位性があり、水熱安定性の向上と合わせ有効な
ゼオライトの改質法であることが確認できた。
以上の様に、Al が存在しない場合のアルカリ処理は有効であるが、Al 存在下でのアルカ
リ処理は、分解性能はHSゼオライトと同等ではあるが、HS処理による脱 Al が不完全で
あり、水熱安定性の向上は認められず、Al 存在下での効果は酸処理と同様全くなく、アル
カリ処理によるゼオライト骨格への Al の再挿入は、脱 Al によって生じた骨格外 Al 程度の
量が適当であることが分かった。
優 ← 水熱安定性指数 → 劣
12
2 4 .5 6
格 子 定 数
10
2 4 .5 5
2 4 .5 6
8
2 4 .3 9
2 4 .6 5
2 4 .4 6
2 4 .4 1
6
2 4 .4 2
4
2
0
USY
A
B
C
D
E
F
G
H
酸 処 理
酸 処 理
酸 処 理
A l有 り
酸 処 理
A l有 り
ア ル カ
リ 処 理
ア ル カ
リ 処 理
ア ル カ
リ 処 理
AL有 り
ア ル カ
リ 処 理
AL有 り
HS処 理
HS処 理
HS処 理
HS処 理
図2−1 酸・アルカリ処理ゼオライトの水熱安定性評価結果
(2)アルカリ処理HSゼオライトの Na の影響
前述したように、HSゼオライトの調製において前処理としてアルカリ処理を組み合わ
せたアルカリ処理HSゼオライトは、ゼオライト骨格への Al の再挿入によって骨格が再構
築され安定化することにより、水熱安定性及び分解反応性に優れた性能を発揮しているも
のと考えられる。そこで、ゼオライト骨格の安定性の要因として他に Na の影響が考えられ
るため、アルカリ処理HSゼオライトの Na 含有量の影響について検討を行った。
その結果、図2−2に示す様に、標準の Na 含有量のアルカリ処理HSゼオライトが最も
性能が優れており、Na 含有量が少ないと耐メタル性、水熱安定性共に悪化し、多いと耐メ
タル性が悪化することが分かった。すなわち、現行の調製条件による Na 含有量が最適範囲
にあることを確認した。
■:Na=標準
標準,
標準より少ない,
標準より多い
■:
標準 ◇:
◇:Na=標準より少ない
標準より少ない □:
□:Na=標準より多い
耐メタル性評価
水熱安定性評価
75
Conv ersion / mass%
Conv ersion / mass%
75
70
65
60
70
65
60
740
750
760
770
780
790
800
810
S teaming T emp . / ℃
0
1000
2000
3000
4000
N i+ V / massppm
図2−2 アルカリ処理HSゼオライトの Na の影響
(3)ゼオライトのメソ孔構築方法の検討
ゼオライトの水熱安定性を向上させるには、大別すると通常使用されているゼオライト
を改質し水熱安定性を向上させる方法と、もともと水熱安定性に優れたゼオライトを改質
し分解性能を引き出す方法の方向性が考えられる。本検討は、HSゼオライトがメソ孔を
有し優れた性能を示すことから、後者の方法において分解性能を引き出すための手段とし
てメソ孔に着目し、非Y型ゼオライトのメソ孔構築方法の検討を行った。
その結果、図2−3に示すように、ベースゼオライト(非Y型)のHSに類似した改質
方法では、殆どメソ孔は構築されないが、HS処理に改良を加えた新規改質処理方法にお
いてHSゼオライトを上回るメソ孔の構築を可能にした。これは、非Y型ゼオライトの応
用における大きな進展であり、ゼオライト改質技術のさらなる展開が期待できる成果でも
ある。
ベースゼオライト(非Y型)
ベースゼオライトの新規改質処理
ベースゼオライトの類似 HS 処理
HS ゼオライト(Y型)
細孔容積(cc/g)
0.03
0.02
0.01
0
10
10 0
10 00
10 00 0
細孔径(Å)
図2−3 ゼオライトの改質におけるメソ孔の生成
2.2 マトリックスの改質法の検討
触媒の使用量を減らすことにより大量に堆積する被毒金属からFCC触媒の主活性種で
あるゼオライトを保護し、尚かつ被毒金属の脱水素反応により生じる水素・コークの生成
を抑えるいわゆる耐メタル性を触媒に持たせるために、マトリックスに被毒金属を捕捉す
る金属種を導入する方法を既に確立しており、さらにゼオライトの保護機能及び脱水素反
応抑制機能を向上させるために金属修飾による新規マトリックスの改良検討を行った。耐
メタル性の評価はミッチェル法によりメタル(Ni,V)を含浸担持し、HSゼオライト含有
触媒をベースにMATによる相対比較評価とした。
その結果、図2−4に示すように、改良A新規マトリックス触媒は、現状の3倍のメタ
ル被毒に対しても実装置分解レベルを維持しており、新規マトリックスを上回るゼオライ
ト保護機能を示す結果を得た。また、図2−5に現状の2倍(Ni/V=2000/4000ppm)のメタル
被毒における水素及びコーク生成量を示すが、共に実装置運転レベルを下回る値を示して
おり、脱水素反応抑制機能においても良好な結果を得た。
しかしながら、詳しくは後述するが実装置平衡触媒と同じ劣化分布を持つ模擬平衡化条
件での評価では、ミッチェル法によるMAT評価と異なり、コークの生成量において実装
置運転レベルを上回る結果となっており、さらなる改良検討を実施した。その結果、図2
−5に示すように改良B新規マトリックス触媒において、改良Aマトリックス触媒よりも
優れた脱水素反応抑制機能を示す結果を得た。
評価条件による結果の違いは、ミッチェル法によるメタルの含浸担持は、実装置平衡触
媒と同じ被毒金属量を担持するとメタルの影響度が強すぎるため、実装置平衡触媒の金属
量の 40%位が影響を及ぼすとする便宜的な有効メタル量としてその量を変化させているた
め、高濃度において有効メタル量が変化しているものと考えられる。
MAT Conversion/mass%
75
70
65
改良A
新規マトリックス触媒
60
55
50
45
40
35
30
25
20
実装置分解
レベル
新規マトリックス触媒
現行触媒
0
1000/2000
実装置
7000ppmに相当
2000/4000
2倍
3000/6000
3倍
Ni/V
Mitchell法
触媒上メタル堆積量/ppm
図2−4 MATによる耐メタル性評価結果(1)
水素生成量
0.7
Ni/V=2000/4000ppm
COKE Yield/mass%
Ni/V=2000/4000ppm
0.6
H2 Yield/mass%
コーク生成量
5.5
0.5
実装置運転レベル
0.4
0.3
0.2
0.1
0
4.5
3.5
実装置運転レベル
2.5
1.5
0.5
40
45
50
55
60
65
Conversion/mass%
70
75
40
45
50
55
60
65
70
75
Conversion/mass%
●:改良A新規マトリックス触媒 ○:改良B新規マトリックス触媒
図2−5 MATによる耐メタル性評価結果(2)
2.3 触媒調製条件の検討
触媒の使用量を減らすことにより大量に堆積する被毒金属の脱水素反応によって増加す
るコーク生成を別の分解反応によって生じるコーク生成量を抑えることにより、全体の生
成量を減らす検討を行った。一般に分解反応によるコークの生成は触媒のメソ孔が大きく
関わっていると考えられているため、触媒にメソ孔を付与する目的で触媒調製における造
粒工程の混合スラリーの pH についてその影響度を調べた。
図2−6に標準の触媒調製条件に対し混合スラリーの pH を変化させたときの細孔分布
を示す。混合スラリーの pH の影響はマクロ孔に多少の変化はあるものの、目的とする 100
∼200Åのメソ孔には殆ど変化が見られなかった。また、触媒の反応特性においても全く変
化が見られないことから、マクロ孔は触媒性能に影響を与えないことが分かった。
触媒へのメソ孔の付与は、触媒の調製条件では大きく変えることは難しく、物理的な手
法が必要なのではないかと考えられる。
0.03
標準
標準より低いpH
標準より高いpH
細孔容積(ml/g)
0.025
0.02
0.015
0.01
0.005
0
10
100
1000
10000
細孔径(Å)
図2−6 触媒調製条件における混合スラリーの pH の影響
2.4 触媒評価技術の開発
開発した触媒を実験室レベルで評価するために、実装置内での平衡触媒と同じ状態の平
衡化触媒を模擬的に調製する方法として、図2−7に示す実装置平衡触媒の汚染金属分布
と触媒残留率(水熱劣化分布)の関係の計算値を基に、実装置平衡触媒を再現すべく模擬
平衡化条件の検討を行った。
汚染金属分布と水熱劣化分布の再現は、模擬平衡化触媒調製装置の触媒供給及び被毒金
属供給をプログラム化して行い、水熱劣化強度をスチーム処理時間で調整した。
その結果、実装置平衡触媒と同じ汚染金属分布と水熱劣化分布を同時に持ち、実装置平
衡触媒と同じ活性レベルの模擬平衡化触媒を調製できる模擬平衡化条件を設定することが
できた。さらに、スチーム処理時間を2倍、汚染金属量を2倍にすることにより、実装置
における触媒使用量を 1/2 にしたときに相当する劣化過酷度を再現することができた。
図2−8に触媒使用量を 1/2 にしたときに相当する劣化過酷度におけるHSゼオライト
含有触媒に対する改良A新規マトリックス触媒のベンチプラント評価結果を示す。現行触
媒(HSゼオライト含有触媒)は、触媒使用量を 1/2 にすると大幅な活性低下とコーク生
成の増加を引き起こすが、改良A新規マトリックス触媒は多少の活性低下とコーク生成の
増加に留まっている結果を得ており、この模擬平衡化手法は有効な方法であることを確認
20,000
100
15,000
75
10,000
50
5,000
25
0
残留率(%)
金属堆積量(ppm)
した。
0
14
12
10
8
6
4
触媒劣化時間(weeks)
2
0
図2−7 実装置平衡触媒の触媒劣化と金属分布
80
10
改良新規マトリックス触媒
現行触媒
9
Ni/V=5,000/10,000ppm
水熱過酷度2倍
70
Ni/V=5,000/10,000ppm
水熱過酷度2倍
実装置運転レベル
Coke Yield / mass%
Conversion / mass%
改良新規マトリックス触媒
現行触媒
60
8
7
6
50
5
40
実装置運転レベル
4
4
6
8
10
C/O
12
14
40
50
60
70
Conversion / mass%
図2−8 触媒使用量 1/2 相当劣化過酷度におけるベンチ評価結果
80
3.試験研究の成果
耐久性に優れた触媒の開発は、主活性種であるゼオライトの強化と保護の両面で検討
を進め、ゼオライトの強化においては、過去のPEC研究において見出されたHSゼオ
ライトを中心に、改良も含め改質法の検討を行い、HS処理にアルカリ処理を組み合わ
せた新規改質法を開発し、耐久性の向上を確認した。また、メソ孔の構築を目的とした
改質法を開発し、非Y型ゼオライトの応用に新たな進展をもたらす結果を得た。
一方、ゼオライトの保護においては、残油中に含まれる金属を捕捉する能力を有する
金属の触媒への導入方法を確立しており、さらに金属修飾による機能向上を進めた結果、
被毒金属による脱水素反応の抑制に若干の問題はあるものの、ゼオライト保護機能にお
いては3倍の被毒金属量でも十分に性能を発揮することを確認した。
また、触媒評価技術の開発においては、開発した触媒を実験室レベルで評価するため
に、実装置内の触媒の平衡状態を再現すべく検討を進めた結果、実装置平衡触媒と同じ
金属及び水熱劣化分布を示し、触媒使用量を 1/2 にしたときに相当する触媒劣化過酷度
を再現することができた。
4.まとめ
4.1平成11年度の研究開発
ゼオライト及びマトリックスの改質法を開発し、目標達成には至らないが、アルカ
リ処理を施したHSゼオライトにより水熱安定性を、金属捕捉材の金属修飾により耐
メタル性を向上させることができた。
触媒評価技術の開発は、実装置平衡触媒の劣化挙動の解析により金属及び水熱劣化
分布を再現し、なおかつ触媒使用量を 1/2 にしたときに相当する触媒劣化過酷度を再
現することができた。
4.2今後の課題
4.2.1耐久性に優れた触媒の開発
(1)水熱安定性の向上
USYゼオライトに比べ水熱安定性に優れたHSゼオライトの調製条件の最適化を
進め、HS処理の改良あるいは新たなゼオライト改質法を開発する。
(2)耐メタル性の向上
金属捕捉新規マトリックスの最適化により、ゼオライト保護機能を維持しつつ脱水
素反応抑制機能の向上を図る。
(3)コーク生成の抑制
触媒調製条件の最適化により細孔及び酸性質を制御し、分解反応によるコークの生
成を抑制する。
4.2.2 触媒評価技術の開発
(1)触媒劣化再現法の確立
改良型模擬平衡化装置の金属付着状態を排ガス分析装置を導入し制度を高め、触媒
使用量を 1/3 にしたときの触媒劣化状態を再現する。
(2)開発触媒の実証化検討
実装置における金属被毒による急激な活性低下現象を解明する他、開発触媒を実証
化するために実装置の運転状況を詳細に解析し、実証化方法を構築する。
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