整数計画法を用いた電気機器の非侵入型モニタリングの検証 - 名古屋大学

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平成20年電気学会全国大会, pp. 385-386, March 15-17, 2008, 福岡工業大学
整数計画法を用いた電気機器の非侵入型モニタリングの検証
鈴木康祐,稲垣伸吉,鈴木達也(名古屋大学),中村久栄,伊藤公一(株式会社トーエネック)
Validation of Nonintrusive Appliance Load Monitoring Based on Integer Programming
Kosuke Suzuki, Shinkichi Inagaki, Tatsuya Suzuki (Nagoya University), Hisahide Nakamura, Koichi Ito (TOENEC CORPORATION)
1. はじめに
電気機器ごとの稼働実態は,電力の需要予測や生活アシス
トシステムの構築の上で,非常に有用な情報である。その稼働
状態を推定するシステムは一般に侵入型と非侵入型のモニタリ
ングシステムに分類される。前者は対象とする電気機器のそれ
ぞれに稼働状態を把握する装置を取り付け,機器ごとの稼働実
態を調査する方法である。この方法には,多数の装置を屋内配
線の各所に設置するため,装置そのものや設置工事にかかるコ
Fig. 1. Measurement of overall load current and voltage.
Table 1. Measurment time.
ストが大きいという問題点がある。これに対して,非侵入型モ
ニタリングシステムとは,建物への給電線の入り口などの配線
Date(year / month / day)
Measurement Time
の上流位置での観測情報から,下流の電気機器の稼働状態を把
07/05/29
07/06/05
07/06/10
07/06/26
07/08/12
07/08/14
8:55∼12:59
6:17∼23:00
16:51∼22:59
6:53∼22:15
12:04∼21:55
10:16∼21:33
握するものである。非侵入型モニタリングでは比較的工事のし
やすい配線の上流だけに装置を取り付ければよく,装置や設置
工事にかかるコストを低く抑えることができる。
非侵入型モニタリングシステムに関して,電力のステップ上
の変化に注目した方法
いた方法
(2)
(1)
,ニューラルネットワークなどを用
,隠れマルコフモデルを用いた方法 (3) が提案され
ている。これらに対して筆者らは整数計画法を用いた方法
(4)
subject to 0 ≤ c j (1), . . . , c j (M j ) ∈ Z,
を提案してきた。この方法は複数の動作モードを持つ機器にも
Mj
0≤
対応でき,機械学習を必要としないため新しい機械の導入に強
c j (k) ≤ C j , for j = 1, 2, . . . , N
k=1
いという特徴を持つ。本論文では,夫婦二人暮らしの家庭 6 日
(2)
分の実験データに対し電気機器の稼働状態の推定実験を行い,
提案手法の有用性を検証する。
と い う 整 数 二 次 計 画 問 題 と な り,c1 (1)∼c1 (M1 ), c2 (1)∼
2. 整数計画法による稼働状態推定手法
c2 (M2 ), · · · , c j (1)∼c j (M j ) を求めることで稼働状態モニタリン
グを実現できる。c j (k) は k 個のモードを持つ j 番目の機器が
何台稼働しているかを表す変数である。
このような整数計画問題は,近年の整数計画問題,ソフト
ウェアの発展と計算機の発展により,十分に実用的な速度で解
くことが可能である。
本章では文献
(4)
の手法についてまとめる。ここでは,それ
ぞれ M1 ,M2 ,. . .,MN 個の動作モードを持つ機器 L1 ,L2 ,. . .,
LN が,それぞれ最大で C1 ,C2 ,. . .,C N 台まで稼働しうると
いう状況を考える。そして,電気機器の稼働状態を表す変数と
して c1 (1)∼c1 (M1 ), c2 (1)∼c2 (M2 ), · · · , c j (1)∼c j (M j ) ∈ Z を,機
器 L j を動作モード k で単独に稼働させたときに流れる電流を
i j (k, t), (t = 0, · · · , T − 1) とする。ここで,T は交流電圧の周期
3. 実験条件
提案するモニタリング手法の有用性を検証するため,一般家
であり,i j (k, t) は事前に測定しておく。このように定義すると,
上流配線で観測される電流 ˆi は,機器は並列に接続されている
庭を対象に実験を行った。実験は,夫婦二人暮らしの家庭で,
ことにより
る。L1-N 間,L2-N 間に接続された機器を Table 2,3 に記す。
N
次に,式(2)の i j (k, t) に相当する電流データと検証に用い
Mj
ˆi(t) =
Fig 1 のように,電力会社より単相三線式回路にて受電してい
c j (k)i j (k, t) +
(1)
j=1 k=1
るデータの取得を次のように行った。まず,i j (k, t) に相当する
電流データとして,それぞれの機器の全モードについて単独
と表される。ここで はノイズや電圧変動に伴う電流値の変動
で稼働した時の電流データを収集した。サンプリング間隔は
を表す。以上の条件での稼働状態推定問題は,
25μsec として電流と電圧を同時に 1 分に 1 度計測した。電圧
の符号が負から正に変化した時刻を t = 0 として,電源周波数
60Hz の1周期に相当する長さを電流データとして切り出した。
稼働状態推定の整数二次計画問題を解くにあたっては,ILOG
⎛
⎜⎜⎜
minimize E = ⎜⎜⎜⎝ˆi(t) −
N
Mj
j=1 k=1
⎞2
⎟⎟⎟
c j (k)i j (k, t)⎟⎟⎟⎠
Table 2. Household appliances and modes(L1).
j
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
Appliance
Fluorescent lamp
(Japanese room)
Fluorescent lamp
(dining room)
Fluorescent lamp
(room)
Fluorescent lamp (sink)
Incandescent lamp (entrance)
Incandescent lamp
(lavatory)
Incandescent lamp
(lavatory(mirror))
Incandescent lamp
(bathroom)
Incandescent lamp
(toilet)
air fan (lavatory)
air fan (bathroom)
air fan (toilet)
air fan (room)
air fan
(above stove burner)
Washing machine
Table 4. Inference performance.
k
1
2
1
2
1
2
1
1
1
Operation mode
50W
68W
50W
68W
50W
68W
On(50W)
On(60W)
On
RMS curr.[A]
0.5
0.7
0.6
0.9
0.5
0.7
10.2
0.5
1.0
1
On(100W)
1.1
1
2
1
Weak
Middle
On(54W)
8.0
11.6
0.6
1
1
1
1
1
On
On
On
On
On
0.2
0.2
0.2
0.4
1.6
1
15A
2
13A
3
9A
4
5A
5
4A
6
Idling 1
7
Idling 2
* The modeds A and B are originally same but the waveforms
differs because the directions of the plug connection are inverted.
4.2
3.5
2.2
1.3
1.1
0.3
0.2
Date
(year / month / day)
Accuracy
rate (L1)
Accuracy
rate (L1’)
Accuracy
rate (L2)
07/05/29
07/06/05
07/06/10
07/06/26
07/08/12
07/08/14
89.98%
67.6%
25.47%
77.36%
52.34%
63.42%
96.67%
85.49%
64.08%
90.35%
64.36%
73.16%
93.11%
99.6%
100%
97.18%
100%
91.0%
では正答率が著しく低くなってしまった。L2 に接続された機
器が各々波形に特徴を持った機器であるのに対し,L1 に接続
された機器は消費電力のわずかに異なる蛍光灯や白熱灯などで
あるため,その波形に違いがほとんどない。そのため互いの区
別が難しく誤答にいたったと考えられる。トースターとドライ
ヤーでも,お互いを取り違えての誤答が発生した。これらの機
器は,いずれも電力の大部分を抵抗器での熱の発生に費やす機
器であり,電流波形も近い形となっている。そのため,互いの
区別が難しく,誤答に至ったと考えられる。そこで,誤答の多
かった蛍光灯についてそれらを機器を消費電力ごとににひとま
とまりとして扱う方法をで実験を行った。つまり,例えば和室
Table 3. Household appliances and modes(L2).
j
1
Appliance
Microwave
oven
k
Operation mode
RMS curr.[A]
1
beggining
2.2
2
rice mode
14.8
3
milk mode
14.4
3
500W
9.7
2
Toaster
1
1000W
10.2
oven
2
500W A*
5.4
3
500W B*
5.4
3
Air Conditioner
1
On
10.2
4
Vacuum
1
Strong
13
cleaner
2
Middle
10.7
3
Weak
7.4
5
Television
1
Bright
1.3
2
Regular
1.1
3
Dark
0.8
6
Hair Dryer
1
Hot(High)
11.7
2
Hot(Low) A∗
6.3
3
Hot(Low) B∗
6.3
4
Cool A∗
1.1
5
Cool B∗
1.0
7
Refrigerator
1
Mode1
2.0
2
Mode2
1.5
3
Mode3
1.1
4
Mode4
0.9
5
Mode5
0.8
6
Mode6
0.6
7
Mode7
0.4
* The modeds A and B are originally same but the waveforms
differs because the directions of the plug connection are inverted.
社の最適化ソフトウェア ILOG CPLEX 10.2 使用し,厳密解
を求めた。ILOG CPLEX は,PC/AT 互換機(CPU: Intel(R)
Core(TM)2 Quad CPC 2.67GHz,RAM: 3.25GB)上で動作さ
せた。
4. 実験結果
ここで,
「正答」とは「ある時刻において実際の稼働状態に
一致する推定結果を出力すること」を意味し,正答ができなこ
とを「誤答」とする。
各日程の正答率を Table4 に記した。本実験において,L2 で
は各日程 90 %以上の正答率を得ることができた. しかし,L1
の蛍光灯 (50W) の稼働が推定されたとしても,
「蛍光灯 (50W)」
の一つが稼働したものとして推定結果を読み替えた。これによ
り,Table 4 の L1’ のように消費電力が同じ蛍光灯についてお
互いを取り違えての誤答は減少した。
計算時間は検証用データを推定するのに, 各時刻で L1 は平
均 165.12msec,L2 は平均 199.96msec であった。リアルタイム
ではないが,十分に実用的な速度で計算できているといえる。
5. おわりに
本論文では,整数計画法を用いて電気機器の稼働状態を推
定する手法を提案し,一般家庭が保有する配線設備と電気機器
を対象にして稼働状態の推定実験を行い,提案手法の有用性を
示した。今後は,実験結果で述べた課題と共に,計算時間の削
減,より多くの電気機器を用いた実験,電気機器の稼働状態か
ら生活様式や行動パターンをモデル化する手法について,研究
を行う予定である。
文 献
(1) G. W. Hart: “Nonintrusive appliance load monitoring”, Proceedings of
the IEEE, Vol. 80, No. 12, pp. 1870–1891 (1992)
(2) 由本勝久,中野幸夫,天野好輝,ケルマンシャヒ バフマン:「建
物の外から電気機器の使用実態を把握するモニタリング装置への
ニューラルネットワークの応用」, 電学論 C, Vol. 122, No. 8, pp.
1351–1259 (2002)
「隠れマルコフモデルに基づいた
(3) 中村久栄,伊藤公一,鈴木達也:
電気機器の稼働状況モニタリングシステム」,電学論 B,Vol.126,
No.12,pp.1223-1229(2006)
(4) 江上司,稲垣伸吉,鈴木達也,中村久栄,伊藤公一:
「整数計画法
を用いた電気機器の非侵入型稼働状態モニタリング」,平成 19 年
電気学会全国大会,pp.15-17 (2007)