Japan Translation Journal No.250 Japan Translation Federation − CONTENTS − Report 巻頭言 .......................................................... 1 社団法人日本翻訳連盟機関誌 2010 年 11 月 /12 月号 20 周年記念 JTF 翻訳祭開催によせて ∼翻訳で切り拓く日本の未来 −需要開拓と新技術− 東 郁男 JTF 会長、(株)翻訳センター 代表取締役社長 経営者の声................................................... 2 現場の声 ...................................................... 3 翻訳者の声................................................... 4 Honrenso ほんれんそう No. 148 ................................. 5 Information 翻訳環境研究会報告 .................................... 7 <ほんやく検定>合格者発表 ...................... 9 <ほんやく検定>合格者プロフィール ..... 10 法人会員プロフィール............................... 12 個人会員プロフィール............................... 13 図書紹介 .................................................... 14 ニューフェイス ......................................... 14 事務局だより ............................................. 15 社団法人日本翻訳連盟 〒 104-0031 東京都中央区京橋 3-9-2 宝国ビル 7F TEL ■ 03-6228-6607 FAX ■ 03-6228-6604 発行人■東 郁男(会長) 編集人■野上 員生 E-mail ■ [email protected] URL ■ http://www.jtf.jp/ JTF は 1981 年に任意団体として発足し、 業譲渡や、今年に入っての米アップル社 1990 年に経済産業省からの公益法人認可 「iPad」発売による電子書籍ビジネスの活 を受けた、産業翻訳業界における最も歴史 況、日本国内の複数企業による将来の社内 ある団体のひとつです。発足以降、会員の での英語公用化宣言など、語学サービスを 皆様の産業翻訳に対する熱意に支えられ、 取り巻く環境やその需要は、JTF が設立 今年、20 周年という節目の年を迎えるこ された 20 数年前とは明らかに変化してき とができました。あらためまして、発足初 ていると感じています。 期からこれまでご尽力頂いた皆様に深く感 従来の翻訳需要に対し、クライアントが 謝いたします。 満足できるサービスを提供するだけでな そして、記念すべき第 20 回目にあたる く、受注産業である産業翻訳業界がクライ 今年の JTF 翻訳祭は、従来の規模をはる アントに対して新たな翻訳ニーズを提案 かに超え、メイン会場での講演・パネルディ し、win-win の関係をもって、従来にはな スカッションと「翻訳業界・支援ツール分 い翻訳需要を生み出していくことも、近い 科会」と題した分科会で合計 23 のセッショ 将来、必要になってくるのではないでしょ ンの開催を計画しております。 うか。 プログラムの概要をご紹介しますと、メ 今年の JTF 翻訳祭が、私たち産業翻訳 イン会場の基調講演では、日本通訳翻訳学 業界の新しい需要の創造や開拓を考えるい 会副会長・事務局長の水野 的氏をお招きし いきっかけを提起する場となるよう、また、 て、 「翻訳研究と実務の接点」と題し、具体 これまでの産業翻訳業界を振り返り、次世 例を交えながら翻訳理論と実践について論 代に繋がる交流が深まる場となるよう、関 じていただきます。2 つのパネルディスカッ 係者一同、丁寧に準備してまいります。ご ションでは、 「英語公用語化と翻訳の未来」 参加頂くことで、ご自身のこれまでと産業 と題し、今後の日本において翻訳者/翻訳 翻訳の将来を照らし合わせて振り返る一日 業界が担っていく社会的役割について議論 となれば幸いです。どうぞご期待ください。 し、 「強い翻訳者から学ぶ∼いかにしてお http://www.jtf.jp/jp/festival/festival_top.html 客様の満足を得るか∼」では、パネリスト に各技術分野で活躍している『強い翻訳者』 にご参加いただき、翻訳業界の活性化に繋 がる議論を展開していただきます。 また、翻訳業界分科会では、翻訳会社・ 翻訳者・クライアントがそれぞれの技術領 域別に分かれて現状と今後の需要について 議論し、今回、本格的には初の試みとなる 支援ツール分科会では、ローカライズに携 わる幅広い立場の方々にご参加いただき、 新技術についての考察、ツールの活用法な どについて、デモンストレーションを交え て議論していきます。 ここ数年の英会話スクールの相次ぐ事 1 Report Japan Translation Journal No.250 【経営者の声】良書、良作との出会いを求めて、間もなく 10 年 水科 哲哉 合資会社アンフィニジャパン・プロジェクト 代表社員 弊社は日韓共催ワールドカップイヤー い!」と思い立ち、原著者の J.K.ロー す。なぜなら、映像翻訳や出版翻訳では、 の 2002 年、日本人向けの外国語学習テ リングの代理人を口説き落としたのは有 原語を解釈する語学力もさることながら、 キストの企画・編集プロダクションとし て創業しました。その翌年から事業領域 名な話です。 弊社にも似たようなエピソードがあり、 母国語である日本語の表現力も等しく、 いやそれ以上に問われるからです。 を拡張し、映像翻訳、出版翻訳に参入。 韓国国防部(日本の防衛庁に相当)の外 出版翻訳を志望されている方に対して おかげさまで来年には 10 年目を迎えよう 郭団体が企画・制作した大作ドキュメン は、まずトライアルも兼ねてリーディン ト『38 度線』 (販売はジェイ・ブイ・ディー) グをお願いしています。リーディングと と、イタリアのインターネット小説の邦 訳版『僕らは、ワーキング・プー』(アン トニオ・インコルバイア、アレッサンドロ・ リマッサ著、世界文化社)は、どちらも 私自身の働きかけによって日本で陽の目 を見た作品です。さすがに売れ行きは『ハ リポタ』にはとうてい及びませんが、自 分が心底惚れ込んだ作品を、自社で日本 語化できる時の喜びは格別のものがあり ます。あいにく昨今は、中小の映画配給 会社や出版社の倒産が相次いでいますが、 そんなご時世だからこそ、弊社は果敢に 攻めの姿勢 を貫くことで現状を打破し ようと考えています。 「是が非でも我々が 日本語版制作を手掛けたい!」と思える 良書、良作にめぐり合いたいからです。 近頃は、翻訳に携わる者のはしくれと しての自戒も込め、翻訳批評の大家であ る別宮貞徳先生の『誤訳迷訳欠陥翻訳』、 『こんな翻訳に誰がした』 (共に文芸春秋) を読んでいます。すでにご存じの方も多 は、原書を通読して、各章のあらすじや 読後感、講評をレジュメにまとめる仕事 です。そのために必要なスキルは、原著 の全体的な構造を読み解き、大意をかい つまんで説明できるだけの作文能力。あ る程度、私自身の経験則を生かしたテン としています。 翻訳対象作品はフィクション、ノンフィ クション問わずさまざま。特に弊社の場 合、編集プロダクションとしての機能も 完備しているため、場合によっては本文 DTP、ならびに表紙やブックカバーのデ ザインにも関与します。その典型例が、 昨年発行された『マイケル・ジャクソン 全 記 録 1958 ∼ 2009』 ( エ イ ド リ ア ン・ グラント著、ユーメイド)や、今年の初 夏に手掛けた『NASA のチームビルディ ング』(チャールズ・J・ペレリン著、アチー ブメント出版)などです。 受注獲得に当たっては、各国の映像コ ンテンツや出版物の情報を随時キャッチ。 「これは面白そう」と思った作品があれば、 サンプル DVD や原著を入手し、後述す るレジュメ(サマリー、シノプシスとも 呼びます)を作成。映画配給会社やビデ オメーカー、出版社などに翻訳企画とし て持ち込んでいます。言い換えると、版 権ビジネスにも少々関わっているわけで す。 もしかすると一部には「貴社の事業ス タイルは、翻訳会社の領域から逸脱して いるのでは?」と眉をひそめる方もおら れるかもしれません。しかしながら、静 山社社長の松岡佑子さんが『ハリー・ポッ ター』シリーズの原著を読んで感動し、 「何 がなんでも自分で翻訳して日本で広めた いかと存じますが、別宮先生はバベルプ レスの『翻訳の世界』 (『e トランス』の 前身)誌上で、百編以上の欠陥翻訳を取 り上げた方です。別宮先生が定義した理 想の翻訳とは、 「原作者の言わんとすると ころを正確につかんで、それを自分なり の立派な日本語(あるいはその他の国語) で表現したもの」 。私もまったく同感で 募集職種 ● 翻訳者 / QA チェッカ 募集言語 ● 和文英訳 / 英文和訳 / 英文中訳 / 英文独訳 / その他 募集分野 ● 医療・医薬・医療機器 / 半導体関連 / 化学分析 / その他 IT 関連 プ ロ の 仕 事 が こ こ に あ る! 報酬、待遇等委細は面談にて。 勤務形態、資格等は職種によって異なります。 詳細は、弊社ホームページでご確認ください。 十印はローカライズ、翻訳、マニュアル製作、通訳といった コミュニケーションの橋渡しに総合的にかかわるアジアのトップ企業です。 h t t p ://www.t o- i n .c om /ja わたしたちが現在向かっている、 アジアから世界への飛躍を 応募もこちらのホームページからできます。 一緒ににめざしていく有能な人材を求めています。 お問い合わせ とおいん 株式会社 十印 東京都港区芝1-12-7 芝一丁目ビル 〒105-0014 2 プレートに沿って作成してもらいますが、 いざ仕上がりを見てみると、しっかりし た出来映えのレジュメに落とし込める人 は、総じて日本語の語彙の引き出しが豊 富です。きっと普段から、さまざまな映 画やドラマ、本に分け隔てなく親しんで いるからではないでしょうか。 <http://www.infini-jp.net/> 応募に関するお問い合わせは、VM(外注管理)部まで お願いいたします。 T EL 03- 3455- 8715 Report Japan Translation Journal No.250 【現場の声】翻訳者正社員制を実施して 松尾 彩子 (株)コンテックス 翻訳サービス部 ■翻訳サービス部の設立 当社は製造メーカや技術研究所への技 術者派遣と実験・設計などの請負を事業 の柱としていましたが、顧客である技術 者や研究者の方々から、技術文書の翻訳 や通訳などのご相談を受けるようになっ たことがきっかけで、翻訳・通訳サービ ス事業を開始しました。 わたくしは同部の設立から数年後に翻 訳者として入社しましたが、当時、顧客 の要望は非常に多岐にわたっていまし た。書類を翻訳した後で、その書類を持っ て通訳者として会議に同席し、さらに議 事録を作成したり、翻訳と平行して製品 マニュアルを製作するため製品の写真撮 影に出かけたり、海外での発表を控え た方のために原稿を読み上げて練習用の テープを作ったこともありました。顧客 と一緒に仕事を進めることが多かっただ けでなく、翻訳の成果物も「文書として 完成している状態」を常に求められてい たことから、DTP を含む様々な技術を身 につける必要がありました。このような 経緯から「顧客がすぐに使える翻訳を!」 をモットーに、当社では翻訳者は正社員 制を採用しています。 ■翻訳者は正社員 管理職者兼プロジェクト管理者 1 名を 中心に、4 名の翻訳者が在籍しています。 翻訳者は引き合いから納品の翻訳工程を中 心として活動しますが、よりよいサービス を展開するための営業開発や顧客訪問も支 援的に行ないます。営業活動に加わること によって、顧客にとって役立つ「翻訳のあ り方」を体感でき、収益性などを考えた翻 訳の進め方を社内翻訳者同士で構築できる ようにするためです。 翻訳者が顧客訪問を行い、受注した案 件を社内で翻訳・チェックし、プロジェ クト完了後のフォローも行うコンパク トな業務サイクルを展開しています。ア ウトソーシングや外部への依頼に伴う情 報・認識の共有や金銭の処理といった手 順を省略することで、品質や収益性に意 識を集中できることは大きな運営的なメ リットです。秘密保持契約を取り交わし た案件の場合では、社外に情報を開示す ることなく相当程度の量を短期間に翻訳 できることや、顧客が社内翻訳者に直接 接触できることなどが、顧客の安心と信 頼につながっているようです。 ■社員制の課題 コンパクトであるがゆえの課題もあり ます。 受注量がオーバーフロー気味で短納期 の場合にフリーランス翻訳者に翻訳を依 頼することがあり、この場合はスピード と品質の両立が必須になります。納品が 早くても品質が不足であれば、社内チェッ クの見込み時間をオーバーする結果を招 き、プロセス全体でみればスピードとい う要件も満たされなくなります。このよ うな理由から、当社に協力いただいてい るフリーランス翻訳者数はごく少数です。 一方で、業務運営のフレキシビリティを 高めるために、信頼のおけるより多くの フリーランス翻訳者と仕事をしていくこ とも重要な課題と捕らえており、スピー ドと品質をどのように維持・向上させて いくかを模索している段階です。 その次の課題としては、営業活動と翻 訳作業のバランスがあります。営業活動 を中心としているのはコーディネーター 1 名なのですが、翻訳工程の負荷が高ま るとチェック業務を兼任することがあ り、一時的に営業活動がマヒすることが あります。受注ペースと作業バランスを どのように図るかも課題です。 業界としては少数派の翻訳者社員制を 採用して 17 年が経過しました。今後の 戦力増大に向けて社員制を維持するのか を含め、当社に関心を寄せていただけれ ば幸いです。最後に、この夏に入社した 翻訳者からの一言をご紹介いたします。 ■翻訳者からの一言 入社して 3 ヶ月が経とうとしています。 翻訳会社の正社員としての仕事は、扱う 分野が幅広く、商品としてのレイアウト や訳文の完成度が問われます。一番の良 さは、他の翻訳者と一緒に仕事が出来る 点です。経験豊富なチェッカーから貴重 なフィードバックやアドバイスをいただ き、自分が訳出した訳文を客観的に見る ことができます。また、客先回りや展示 会の見学などを通して、現場で専門知識 を養う機会があることも良さの一つです。 ■プロフィール 1997 年入社。現在は課長職。クリー ンルーム内での作業や同僚のエンジニア に伝授された CAD 系ソフトを操作して の図面翻訳も経験あり。お客様から直接 言葉をかけていただけるのが醍醐味。 3 Report Japan Translation Journal No.250 【翻訳者の声】それが届く場を探して 山本 ゆうじ 言語・翻訳コンサルタント 英語胆を鍛える UTX、翻訳ソフト、実務日本語 いているのはあじけなく、筆が荒れてく 私は、山口県下関市の出身で、英語や 海外とは何の縁もない環境で育ちました。 AAMT(アジア太平洋機械翻訳協会)で、 ユーザー辞書共通形式 UTX の策定をする るものです。私は、気晴らしに怪談や SF などの掌篇を書いています。字数制限の ただ維新のゆかりの地であることから、 なぜ攘夷なのか、なぜ下関戦争をしたか、 ワーキング グループのリーダーも務めて います。翻訳メモリーの標準形式 TMX や、 中で推敲を重ねると、文章を書く楽しみ を再確認できます。また美術検定 1 級を なぜ維新で革命ではないのか、といった Microsoft などが採用する用語形式 TBX 目指して勉強中です。その関係で、イタ ことは子供心に不思議でした。日本の受 験教育に常々疑問を抱く一方、世界とい を策定する、LISA という標準化団体があ ります。AAMT では LISA と連携して、 リア語もちょこちょこ勉強しています。 うものを自分の目で見てやれと、高校生 のときに奨学金を頂いたのを幸い、留学 シンプルかつ実用的な辞書・専門用語集 の形式である UTX の標準化と、医学・法 翻訳祭で会いましょう 翻訳者には独立独歩の方が多いようで したのが最初の海外経験です。異文化理 律などの専門辞書の無料提供をしていま すが、個人では組織に対しては弱者とい 解を目的とする教育組織 UWC イギリス 校で、世界 70 か国の生徒と 2 年間、勉学 す。普及までの道のりは長いですが、オー プンな辞書知識の共有は、翻訳の自動化 う立場になりがちです。また、翻訳学と しての学問、仕事の現場、支援技術開発 と生活をともにしました。授業について いくには英語力が不足していたので、必 以外に、多くの可能性を秘めています。 < ネットで「UTX」を検索 > のそれぞれがすっぱり分断されているの が現状です。SNS や翻訳祭など、翻訳者 死で勉強しました。クラス参加の度合い 翻訳ソフトは正しく使えば、手作業よ と関係者が、意見と情報を積極的に交換 は評価対象ですが、肝を鍛えるためにも、 授業では、機会があれば常に発言できる り早いだけでなく正確に用語適用できま す。そのためには用語集を整備し、それ する場がもっと広がればと思います。翻 訳者の方はどんどん交流の場に参加され ように、頭の中で英文を準備していまし た。そのころはまだ、英語をリアルタイ ムで処理できていなかったわけです。そ に基づく辞書を調整することが条件です。 また技能を習得する必要もあります。翻 訳支援の自動化を真剣にお考えで、開発 るとよいのでは。また翻訳そのものと、 翻訳者の技能について、より明確で客観 の経験と、合計 4 ヶ月の休暇中にヨーロッ パを野宿しながら鉄道旅行したのが、文 化と言語に対する興味を育てました。そ の後、未来的であるとの売り文句にのせ られて、筑波大学の比較文化学類で学び 部門をお持ちか、少数精鋭のインハウス 翻訳者をお持ちの企業の方はご連絡くだ さい。翻訳ソフトについては 「食わず嫌い」 のまま、未だに多くの点が誤解されてい るようですが、翻訳ソフトの真の力をお 向上につながるはずです。JTF さんには その点で期待しています。 ました。さらに、シカゴ大学で「近代」 と江戸の美意識「いき」について修士論 文を書きました。シカゴでは、英語の文 体と作文技法など、非常に多くのことを 学びました。この経験は、実務日本語に も反映されています。帰国してから、翻 訳を仕事として始めました。私の翻訳人 生について、詳しくはこちらでどうぞ。 http://goo.gl/7QVH 今も翻訳は受注していますが、企業向 けの翻訳支援技術の提供もしています。 また SDL Trados の公式講習の講師も務 めています。 『通訳翻訳ジャーナル』など の翻訳関連雑誌、英語教育雑誌、ウェブ サイト、メルマガなどに、記事を 200 件 以上執筆しました。トピックは、ネット 検索、電子書籍、文字入力、英語学習法、 役立つポッドキャスト、オーディオブッ ク、 ス ケ ジ ュ ー ル 管 理、SDL Trados、 そ の 他 の 翻 訳 メ モ リ ー ツ ー ル、 辞 書・ Word・翻訳ソフトの活用などで、多くの 記事がこちらから読めます。 http://goo.gl/LXN7 見せできます。 また、日本語の表記を合理的に再考す る「実務日本語」を提唱しています。ク ライアント各社バラバラの表記にうんざ りしていませんか? 日英翻訳では、日 本語のあいまいさに悩まされていません か? 2011 年初めごろに、実務日本語に ついての書籍を出版する予定で鋭意執筆 中です。しかし、実務的な文章ばかり書 4 的な評価基準ができれば、翻訳者の地位 12 月の翻訳祭では、パネリストと分科 会の講師をさせていただきます。山口県 出身者として、ユニクロの英語公用語化 は感慨深いものがあります。分科会では、 翻訳ソフト、UTX、実務日本語のそれぞ れと、それがどのようにかかわっている かをご紹介します。そのときに皆様とお 会いできればと思います。 http://www.jtf.jp/jp/festival/festival_top.html 私へのご連絡、mixi、ブログ、Twitter などはこちらからどうぞ。 http://cosmoshouse.com/go.htm Honrenso Japan Translation Journal No.250 No.148 英語漫筆(24) 前置詞(2) 山崎 義昭 翻訳者 前置詞(2) ◆ in 「∼の変化」を change of oil prices のように書く例を頻繁にみます が、 change に限らず 「上下の変動」を表わす場合の前置詞は in です。 - We are more affected by a basic structural change in the market than by the Japanese. - More forecasters consider a 4% advance in real GDP easily attainable in 1979. - There was a sudden drop in temperature. - Since the growth in real spendable income per family has been eroding, trends in consumer spending bear close watching. なお、change of では、次例のように「∼を取りかえる」意味とな ります。 Wash out the excess iodine with three or four changes of 95% alcohol. After several changes of trains he arrived at the out-of-the-way village. ◆「恵まれる」を表わす in But I don’t see what you have to complain of—your mother is so wonderfully lucky in her servants. She seems possessed of every quality requisite to make me happy in a Wife. 私に妻を得たことを幸せに思わせる。 ◆「吹き出る」を表わす in When my poor James was in the small-pox, did I allow any hireling to nurse him? 「可愛そうにジェームスに疱瘡が出た時」 It had been early summer last time, of course, with the trees in leaf ◆ in と at He had a friend who lost his money in a bank. 「銀行に投資をして元も子もなくした」 場所を表わす場合に、at とすべきを in としますと思わぬ意味に なってしまいます。"lost his money at a bank" としますと「銀行で 金を(置き忘れる、落とすなどして)紛失した」という意味にな ります。 ◆ in と with The patient … scrawled a note on his arm in felt-tip marker. with であれば「手段」ですので、ペン、鉛筆など道具を表わしま すが、in ですと「インキ、鉛」などの材料を表わします。in felttip marker も「フェルトペン」ではなく「マジックインキ」を意 味していますので、冠詞もついていません。 ◆同格を表わす of … his fool of a mother was sending him to a co-educational school. 「あの間抜けな母親ときたら息子を男女共学の学校に入れよう とするんだよ」 … a young ox of a farmer’s son had struck me on the chest with a blow of such short-armed ferocity that I was convinced my heart had stopped beating. 「若い種牛みたいな農家の息子が恐ろしいショートパンチを僕 の胸に食らわしたんだ、間違い無く心臓が止まったと思ったよ」 The Kingdom of Denmark(デンマークという王国)のような前置 詞 of を用いた「同格」表現の他に次のようのようなものがありま す。 Tokyo, the capital of Japan The British Columbia forestry company McMillan-Bloedel A British physician, Sir Thomas Lewis The British scientist Thomson The fact that man is mortal(死は避けがたいという事実) and the birds in song. 「前回は初夏で、もちろん木は芽吹き、鳥が囀っていた」 ◆「として」に当たる in produced in evidence the first thing in jewel thieves the newest thing in parasols It is important to stress the word balance; repair by regeneration continues in parallel with development of fibrosis and plays a critical 証拠として提出された 宝石ドロとして第一級 パラソルとしては最新型 次のジョークは in「として」、in「着用して」の両義を利用して面 白味をだしています。 “I’d like to see something cheap in a straw hat.” “Certainly, sir. Try this one on, sir, and the mirror’s on your left.” 客:麦藁帽子で安いものが見たいんだが。 店主:これでいかがでしょう。鏡は左手です。 (内心:これを被っ て鏡を見てごらん。人間の安物がすぐ分かるよ。) role in the development of the cirrhosis. 「バランスという言葉を強調しておくことが大切である。とい うのは、再生による修復が繊維症と並行して進んでいる一方で これが肝硬変への進展に重大な役割を果たしているからであ る」 ◆「着くと直ちに」ではない On arrival On arrival.... は「∼に着くや否や」、 「∼に着くと直ちに」という意 味であると解釈されておりますが、これは単に「時点」を示して おり、「即時」を強調するのは適当でありません。 5 Honrenso They on cooling recombine to give gels. 「冷やすと再結合してゲルを生じる」 It seemed upon further inquiry that there was little reason. 「さらに良く調べてみると」 この構文で「直後に」の意味を表わすには次の文例のように、はっ きりとそれを表わす必要があります。 Immediately upon his arrival at Strasbourg, He entreated assistance from the Magistrature. ◆部分を表わす on Where did you get money to pay on a radio? 「ラジオの月賦の金をどう工面したんだ」 Both methods improve the melting rate and save appreciably on the amount of fuel required. The brothers figured they needed another big strike if they were ever to save Placid and Penrod Drilling Co.—a Hunt partnership operating the world’s largest offshore drilling fleet—from the 23 banks that were trying to collect on their total loans of $1.5 billion. Save the box after unpacking. ですと、包装箱を捨てずに後日のため に「取って置く」の意味ですが、save on ですと、一部を使わない、 つまり「節約」の意味になります。collect も on がなければ「全 額回収」ですが、collect on では「回収できる部分から少しでも回 収しようとしている」銀行となります(このような用法の on は「副 詞」ですが、便宜上前置詞の項で触れました) 。 ◆有利・不利・不利益/困惑を表わす on He had two solid inches on his older brother and at least fifteen more pounds of muscle.「たっぷり2インチは背が高い」 She hung up on me. 「ガチャンと切った」 He walked out on his wife.「妻をすてた」 He never cheated on me.「不実なことをしたことはない」 The lights went out on us. 「明かりが消えてね(困ったよ)」 They were screaming and weeping and yelling at Joe to get up, to please not die on them. 「 (あんたが死んでは子供たちが困るの)どうか死なないで」 ◆注意や関心を惹くための to Not Robert — Bob to friends Japan Translation Journal No.250 借入れの返済を凍結することで銀行と合意に達したことを発表 した」 pending が曖昧に「∼を懸案として」と理解されているようですが、 前置詞として until と同義と考えてよいもので、「∼の完了を待っ て」 、「∼の解決を待って」など意味に「含み」があります。それ を考えて全体としてわかりよい訳文にする必要があるでしょう。 ◆ with Acidic drugs were back-extracted into 0.45 M NaOH, acidified with 6 M HCl and re-extracted with isopropyl ether. The final extract was washed, evaporated and reconstituted with mobile phase. 誤った訳:最終抽出物を洗浄し、蒸発後移動相と再形成した。 正しい訳:蒸発後移動相で溶解した。 extracted with ether を「エーテルとともに抽出した」というような 訳は、with の意味もさることながら、化学分析について知識が欠 けていることが誤訳の大きな原因でしょう。これは「エーテルで (溶解して)抽出した」の意味です。 with についてやはり誤訳の多いのが、 「付帯的説明」に用いられ る場合です。 Clopidogrel drug substance is stored under the following conditions with the scheduled analyses issues. 誤った訳:原体は、予定した分析用放出を伴い下記の条件で保 存する。 正しい訳:原薬は下記の条件で保存し、スケジュールに合わせ 分析用に払い出す。 issue は release とも言い、保管場所より出庫することを意味しま す。「出庫」「払い出し」などの日本語が当てられます。with のこ うした用い方は「重文」を「単文」に代えることにより文章を簡 潔で引き締めたものにする効果を生みます。 Each value is expressed as mean with vertical lines indicating s.e. 誤った訳:各値は平均として、標準偏差を示す縦線とともに示 す。 正しい訳:各測定値を平均値で表わし、s.e.(標準誤差)を縦 線で表わす。 Purging is of no benefit in patients without residual disease and in patients with disease refractory to treatment. Purging can be favoured 「友人とはロバートでなくボブなんだ」 Not Tom, if you don’t mind — Mr. Jones to you. in malignant disease with the argument, that reinfusion of malignant 「トムでなくジョーズと言ってくれたまえ」 誤った訳:残留疾患のない患者、さらに難治性疾患の患者では 除去のベネフィットはない。除去は、悪性細胞の再注入になん cells would never be of any benefit. ◆ pending We announced earlier this month that we have reached an agreement らベネフィットがないという場合には悪性疾患に適している。 正しい訳:残留疾患のない患者、難治性疾患患者では(悪性細 with our principal banker to leave repayment of our outstanding term loan on an on demand basis from 31 March 1998 pending 胞の)除去に効果はない。除去は悪性疾患に有利であると思わ れるが、 (一方に)悪性細胞を患者に再注入しても何ら効果は ないとする議論もある。 discussions with the bank and other parties concerning the future of the Company. 「当社は今月初め、当社の将来をめぐる銀行その他関連当事者 との協議が完了するまで 1998 年 3 月 31 日以降の要求払い定期 6 Information Japan Translation Journal No.250 JTF 翻訳環境研究会報告 キー映画の字幕が初めて日本語に翻訳され ることになった。最初の頃は字幕の文字数 も試行錯誤で決められていき、最終的に映 像を楽しみながら無理なく読める文字数と して、4 文字 / 秒という数字が目安となっ ************************************** 平成 22 年度第 5 回 JTF 翻訳環境研究会 平成 22 年 9 月 9 日(木)14:00 ∼ 16:40 【開催場所】剛堂会館ビル 【テーマ】「今、求められる映像翻訳者と は?」 【講師】水谷 美津夫氏(映像翻訳者) ************************************** アカデミー賞受賞作品の名場面集が映写 され、映画館にいる様な雰囲気の中で第 5 回研究会が始まった。映像翻訳は一見、華 やかなようだが、文字数や言葉遣い、短納 期などの様々な制約の中で、万人にわかり やすい翻訳をしなければならないという過 酷な作業を行わなければならないという。 講師の水谷氏に、映画と映像翻訳について 「いろは」から講義してもらった。 映画と字幕の歴史 映画には 115 年の歴史がある。最初は 無声映画だったが、字幕テロップの時代 を経て 1930 年に「モロッコ」というトー た。また、一度に表示する字幕の文字数は 約 12 文字 ( 最大 14 文字まで ) x 2 行まで と決まった。 字幕・映像翻訳の歴史と需要 1980 年代半ばに一般家庭にもビデオが 急速に普及し、海外のドラマが大量に輸 入された。また、90 年代になると BS の WOWWOW 放送が始まり、楽しむ映画の 字幕翻訳の需要が高まった。さらに 2000 年代になりビデオが DVD に変わり、2000 年代半ばからは、劇場用の映画の吹き替え 需要が高まっている。今後は、洋画も字幕 ではなく吹き替えで楽しむ時代が来るかも しれない。 この間、映像翻訳のツールとして SST が導入され、非常に便利になった。SST を使えば、翻訳とセリフの長さとが合って いるか、映像と翻訳がマッチしているかど うかなどの確認が行える。ただ、この便利 なツールのおかげで納期も短縮され、現在 は映画 1 作品の納期は 1 週間から 2 週間 程度となっている。 映像翻訳の実際 日本語と英語の一番大きな違いは自称詞 ( 私、僕など ) と他称詞 ( あなた、君など ) である。英語ではそれぞれ、"I" と "You" の一語であるが、日本語では自称詞が何で あるかにより人物のキャラクターが大きく 左右されるため気をつけなければならな い。また、会話する相手や状況によっても 変わるため、注意を要する。日本語の自称 詞は約 110 通りあると言われている。一 方で他称詞も同様に 100 通り以上の言い 方があるが、他称詞の場合はさらに複数形 も含まれてくるため、200 通り以上となる。 例えば、I love you. という短い言葉を訳 すときにも、100 通り以上ある選択肢の中 から自称詞、他称詞を決め、さらに同じよ うに 100 通りの訳があると言われている love の訳を決めなければならない。人物 のキャラクターと会話の相手、その場の状 況などから一つの訳を選択する。このよう な作業をすべての台詞について行わなけれ ばならない。翻訳者は、英語という記号か らその言葉の先にある環境をイメージして 最適な翻訳をしなければならない。いかに イメージできるかが重要である。 そしてさらに字幕の長さという制 約 が 入 っ て く る。 例 え ば、I saw him yesterday in San Francisco. という台詞が 2 秒で話された場合、字幕は 8 文字までし か乗せることができない。 「サンフランシ スコ」という地名だけで 8 文字使ってし まう。この場合は地名はできる限り縮め る。サンフランシスコの場合は「シスコ」 で通じるのでシスコにしてしまう。その他 の情報は、話の流れの中で重要な事柄のみ を残し、他は切り捨てる。I が重要なのか、 him なのか、San Francisco という場所な のかによって、 「昨日シスコで見た」なのか、 「俺はシスコで見た」なのか、シスコが重 要でなければ「昨日あいつを見た」とも訳 せる。 洋画を見ながら、この訳は何となく変だ なとか、私ならこう訳すのにと思ったこと があるが、実はすべての台詞が計算され尽 くして訳されているということを知り浅は かな自分の思いを反省した。ジャンルを問 わず様々な映画を翻訳しなければならない 字幕翻訳者には、幅広い知識と好奇心が必 要であり、何よりも映画、映像コンテンツ が好きであるかどうかが問われるというこ とだ。 報告:早舩 由紀見(個人翻訳者) 㩷䉣䊛䉝䉟䉲䉟䊷ᩣᑼળ␠ 䇾㪋㪌㪍㪄㪇㪇㪎㪋㩷ฬฎደᏒᾲ↰Ყ䇱㊁㪋㪈㪄㪈㪄㪏㪇㪌 㩷㪫㪜㪣㩷㪑㩷㪇㪌㪉㪄㪍㪎㪈㪄㪎㪈㪏㪇䇭㪝㪘㪯㩷㪑㩷㪇㪌㪉㪄㪍㪎㪏㪄㪈㪉㪎㪍 㩷㩷㩷㩷ᔕవ䋺㫋㫉㫀㪸㫃㪗㫄㫀㪺㪄㫁㪸㫇㪸㫅㪅㪺㫆㫄 㩷㩷㩷㩷䇭䇭䇭㩷㩷㩷㩷㩷㫀㫅㪽㫆㪗㫄㫀㪺㪄㫄㪼㪻㫀㪺㫊㪅㪺㫆㫄 㩷㪫㪜㪣㩷㪑㩷㪇㪌㪉㪄㪍㪎㪈㪄㪎㪈㪐㪊㩷㩷㪝㪘㪯㩷㪑㩷㪇㪌㪉㪄㪍㪎㪏㪄㪈㪉㪎㪍 㩷㪬㪩㪣㪑㩷㪿㫋㫋㫇㪑㪆㪆㫎㫎㫎㪅㫄㫀㪺㪄㫄㪼㪻㫀㪺㫊㪅㪺㫆㫄㪆 㩷㩷㩷㩷㪬㪩㪣㩷㪑㩷㪿㫋㫋㫇㪑㪆㪆㫎㫎㫎㪅㫄㫀㪺㪄㫁㪸㫇㪸㫅㪅㪺㫆㫄㪆 㑐ㅪળ␠䋺䉣䊛䉝䉟䉲䉟䊷䊜䊂䉟䉾䉪䉴䋨ᩣ䋩 ޣቛ⠡⸶⠪㓸ޤ 䊶㩷㪠㪫㑐ㅪ䊨䊷䉦䊥䉷䊷䉲䊢䊮⠡⸶䋨⸶䋩 㩷㩷㩷䋨㪪㪛㪣㩷䊃䊤䊄䉴䉁䈢䈲㪫㪤㪉䈪⠡⸶น⢻䈭ᣇ䋩 䊶㩷ක≮ᯏེ䈍䉋䈶ක≮㑐ㅪ⠡⸶䋨⸶䋩 䇭㩷䋨㪪㪛㪣㩷䊃䊤䊄䉴䈪⠡⸶น⢻䈭ᣇ䇯 䇭䇭㩷䊃䊤䊄䉴䉕↪䈚䈭䈇ක⮎ຠ㑐ㅪ⠡⸶น⢻䈭ᣇ䋩 7 Information Japan Translation Journal No.250 ************************************** 平成 22 年度第 6 回 JTF 翻訳環境研究会 開できるのが E コマースで、そのために 必要となるのが、商品説明や取引のメール 平成 22 年 10 月 14 日(木)14:00 ∼ 16:40 【開催場所】剛堂会館ビル など、比較的短い文章の翻訳である。また 別の需要としては、ブログやツイッターな 【テーマ】「ウェブを活用した翻訳需要の開 拓∼クラウド時代の翻訳ビジネスモデルを 語る∼」 ど、個人的なメディアの翻訳需要がある。 こうした翻訳はそれほど専門性も高く なく、個人や中小企業が顧客となるため、 【講師】古谷 祐一氏(GMO スピード翻訳 株式会社 常務取締役) ************************************** あまり高額だと翻訳の依頼は来ない。しか しある程度の品質は求められ、グローバル 市場に対応するために 24 時間対応の受注 2008 年の日本の翻訳市場規模は約 2000 −納品が必要となる。 前述したように、こうした需要に応え 億円。このところ目立った成長はない。し かし、クラウド時代ならではの方法で顧客 を開拓することで、業界の成長を実現する られるポジションをとっている企業はほと んどない。まさに業界内の「ブルーオーシャ ン(競合が存在しない市場)」だといえる。 ことは可能であると、古谷氏は語る。以下 に氏の講演の概要をまとめた。 そして、GMO スピード翻訳が開拓してい るのも、このブルーオーシャンなのである。 ○新たに生まれている翻訳需要 成長が見えない日本の翻訳市場で、ど ○需要開拓のためのウェブ戦略 当社は、この市場を開拓するために、イ のようにすれば勝ち残れるのか。それを考 えるためにはまず自社の業界におけるポジ ションを知る必要がある。 たとえば、 「高価格−低価格」「専門分野 が得意−不得意」の 2 軸でマトリックスを つくり、自社がどこに位置するかを考えて みる。すると、 日本の翻訳会社の多くが、 「高 価格」かつ「専門分野が得意」というポジ ションに位置していることがわかる。 【書 記注:研究会会場で、出席した翻訳会社の 方々に、自社のポジションを匿名で記入し てもらったところ、実際にそのポジション に企業が集中した。 】 逆に言うと、それ以外のポジションは ガラ空きということになる。しかし、その ガラ空きのポジションにこそ新たな需要が ンターネット上で事業を展開している。個 人や中小企業などの顧客がウェブサイトを 通して発注し、登録翻訳者が責任をもって 納品する(第三者によるチェックや編集は 行わない)。24 時間、365 日、インターネッ トを経由して受注から納品までを自動化す ることで、最短 30 分納品、2100 円から という低価格を実現した。 実際にこの事業を始めたところ、 「ラブ レターなどの個人的な手紙、ビジネスレ ター、論文など、実に様々な内容の依頼が 来る。圧倒的に和文英訳が多い」(ゲスト として登壇した、登録翻訳者・印田知実さ んのコメント)。従来、翻訳会社が対象と していなかった需要が、確かに存在してい ることが証明されたと言える。 生まれている。 新たに生まれている需要の一つは、グ ローバル・マーケットプレイスにおける短 文の翻訳需要だ。この先人口が縮小に向か ○既存の翻訳マーケットから拡大する そして、もう一つ、新たに開拓できる 市場がある。それは既存の翻訳マーケット う日本では、中小企業も海外の市場を開拓 する必要がある。少ない初期投資で海外展 の延長線上に存在する部分である。 情報の機密性を非常に重視する大手優 8 良企業は、そもそも情報資源を外注に出す (翻訳会社に依頼する)ということに対し ての抵抗感がある。そこで、自社グループ 内に派遣会社や翻訳会社を抱え、情報を外 に出すことなく翻訳を行うのである。こう した内製化された翻訳需要を、翻訳会社は 開拓できるのではないだろうか。 情報の機密性に敏感な企業は、翻訳会社 が ISO やプライバシーマークを取得して も満足しない。だが、非常に高度な情報管 理・機密性保持の技術があれば話は変わっ て来るはずだ。 この点について、クラウドコンピュー ティングの時代は追い風となる。クラウド コンピューティングでは、機密性保持のた めの技術が培われていく。それを活用する ことで、いまは翻訳会社に発注されていな い優良企業からの注文を獲得できるのでは ないだろうか。 翻訳市場の底辺にある需要と、トップ にある需要、この二つを開拓していくこと で、翻訳業界を成長させ、盛り上げていけ る可能性がある。 報告:東方 雅美(個人翻訳者) Information Japan Translation Journal No.250 第 53 回 JTF <ほんやく検定>合格者発表 平成 22 年 7 月 24 日(土)に実施さ れた第 53 回 JTF <ほんやく検定>の 結果が発表されました。 【実用レベル・英日翻訳】 ■ 1 級(1 名) 阿部 菜穂子(茨城県) ■ 2 級(16 名) (非公開:3 名) 幸野 哲也(東京都) 上田 佐知子(東京都) 小野 了平(埼玉県) 近藤 充彦(東京都) 矢代 淳一(東京都) 高坂 由紀(青森県) 下 隆全(埼玉県) 高橋 誠(東京都) 平賀 緑(京都府) 佐藤 圭(神奈川県) 河野 大介(東京都) 谷本 真幸(愛知県) 岡部 和成(東京都) ■ 3 級(77 名) (非公開:21 名) 川内 真咲(愛知県) 小林 靖(埼玉県) 浅山 元信(青森県) 阿部 亜也子(東京都) 大平 真市(東京都) 谷川 敬一郎(兵庫県) 関 佳代子(香川県) 西村 さおり(神奈川県) 蔵重 晴子(東京都) ハーディング 香枝(U.K.) 三島 邦彦(埼玉県) 北丸 綾子(U.K.) 宮本 章夫(神奈川県) 益田 智之(東京都) 井澤 尚子(京都府) 篠原 大司(千葉県) 隅田 希望(石川県) 関川 勇三(埼玉県) 渡邊 正文(神奈川県) 大橋 美帆(U.S.A.) 尾崎 智幸(北海道) 古賀 裕巳(佐賀県) 林 敦子(東京都) 竹村 秀行(東京都) 山田 志穂(東京都) 高井 さつき(北海道) デシュムク 陽子(福岡県) 並木 均(千葉県) 池田 陽子(千葉県) 堤 義暁(大阪府) 北島 哲(新潟県) 中山 修(茨城県) 田代 ゆき生(東京都) 大月 裕史(東京都) 永冨 邦子(山口県) 大路 菜央(京都府) 神前 尚子(U.K.) 長谷川 新(兵庫県) 磯部 英貴(神奈川県) 橋口 舞耶(東京都) 森 美砂(神奈川県) 大西 浩之(神奈川県) 小野 亜希子(愛知県) 窪田 静香(東京都) 小峰 大輔(東京都) 松原 海美(神奈川県) 山内 康秀(東京都) 山崎 裕子(兵庫県) 原田 晶(埼玉県) 小林 由香(兵庫県) 稲塚 利江(岡山県) 鈴木 英雄(東京都) 西川 弘美(石川県) 櫻井 千夏(神奈川県) 高木 祐輔(東京都) 野村 えりか(東京都) 【実用レベル・日英翻訳】 ■ 1 級(0 名) 該当者なし。 ■ 2 級(2 名) 表 惠子(大阪府) 井澤 尚子(京都府) ■ 3 級(33 名) (非公開:8 名) 重松 裕(東京都) 岡安 恵子(東京都) 西村 さおり(神奈川県) 益田 智之(東京都) 大橋 美帆(U.S.A.) 林 敦子(東京都) 椙山 泉(愛知県) 松田 幸治(東京都) 大関 厚央(埼玉県) デシュムク 陽子(福岡県) 中村 泰洋(愛知県) 植村 理子(U.K.) 小笠原 雅美(埼玉県) 高橋 誠(東京都) 平賀 緑(京都府) 渡邊 倫子(東京都) 石川 恭子(東京都) 河野 大介(東京都) 田中 三貴(東京都) 谷本 真幸(愛知県) 松原 海美(神奈川県) 比舍 博(京都府) 吉田 紋子(広島県) 小林 由香(兵庫県) 小磯 佐千子(大阪府) 【基礎レベル】 ■ 4 級(28 名) (非公開:10 名) 渡辺 真子(東京都) 中村 千加(カナダ) 菊地 清香(静岡県) 松浦 千尋(東京都) 小川 真一(埼玉県) 大塚 綾子(大阪府) 北島 佑起(東京都) 嶋田 拓也(東京都) 田中 喬(京都府) 長谷川 佳子(石川県) 風間 瞳(静岡県) 遠藤 直(東京都) 江夏 暁(神奈川県) 菊地 沙織(神奈川県) 藤井 智子(東京都) 山本 真珠(兵庫県) 土屋 奨護(埼玉県) 櫻井 千夏(神奈川県) ■ 5 級(30 名) (非公開:16 名) 菊地 清香(静岡県) 小川 真一(埼玉県) 秋山 直子(東京都) 嶋田 拓也(東京都) 黒岩 鯉美(東京都) 大森 俊輔(京都府) 松本 瑠奈(埼玉県) 樋口 早苗(東京都) 土屋 陽子(埼玉県) 町田 超(長野県) 岩崎 伸子(兵庫県) 稲葉 優(埼玉県) 藤井 智子(東京都) 加藤 綾(千葉県) 9 Information Japan Translation Journal No.250 法人会員プロフィール 株式会社 トータルナレッジ 〒 102-0075 東京都千代田区三番町 7-5 コーポ麹町 202 TEL: 03-5276-9726 FAX: 03-5276-9727 Email: [email protected] URL: http://www.tkinc.co.jp/ 1. 当社の翻訳事業部の誕生 当社はソフトハウスとして 1985 年 11 月に誕生しました。この秋で丁度満 25 年となります。設立の頃はいよいよバブ ル景気が始まろうとしており、世の中に PC が登場したこともあって、コンピュー ター業界の将来はバラ色に輝いて見えま した。振り返ってみれば懐かしい時代で す。そんな中で、 たまたまあるコンピュー ター・メーカーからその分野のソフト のマニュアルの日本語化を依頼され、そ のお手伝いをしたことが翻訳業務を行う きっかけとなりました。 本格的に IT 翻訳を事業の一つとし、 翻訳事業部を誕生させたのは 1997 年で す。その後語りつくせぬほどの苦労があ りましたが、おかげ様でお客様から継続 的にご発注をいただけていることは幸い です。2007 年には当社と同様な歴史を 持つ翻訳会社の株式を買収し、商圏・翻 訳能力を大幅に増やすことができまし た。当社の翻訳分野は殆どが IT 関係で すので、必要があれば当社の開発部門に 校閲を依頼するなど協力体制を組めるこ とが強みの一つとなっています。 12 翻訳対象はマニュアルのみならずスク リーン、メッセージ、ヘルプ等ソフトウェ アに関連するあらゆる部分に及びます。 また、翻訳作業以外にも実機での稼働テ スト等ソフトの日本語化、商品化に関す る業務は幅広く取り扱っています。 2. 翻訳黎明期のエピソード 黎明期にはいろいろな失敗もありまし た。インターネットもあまり普及してい ませんでしたから、その知識も貧弱でし た。翻訳者から上がってきた「応募して くださった方には、景品にクッキーを差 し上げます。 」という、まったく前後に 不似合いで、おかしな文章に首をひねり ました。今だったらすぐに正しい意味が 理解できたでしょう。これは、アクセス すると「Cookie」が送信されるという注 意文だったのです。 その頃はあまり競合他社のない MRI (Machine Readable Information)、PII (Program Integrated Information) が仕 事の中心でした。前後関係もなく、単独 で「to」と出てきますと、まったくどう していいか分からず、素直に「へ」と訳 したこともありました。しかし、これは ビルドされて製品になれば、「 」to「 」 と表示され、「から」と訳すべき箇所で あること分かりました。 「BY:」、「FOR:」 など、同様のものがたくさんあり、今も 時々悩みの種となりますが、少しずつ慣 れてきました。失敗や悩みも「財産」に なっていると思います。 3. 現在の課題 この 15 年、翻訳メモリー・ソフトの 普及とパソコンの性能 / 容量の飛躍的向 上により、翻訳者は「PC 上で」翻訳を 行うことが可能となり、オンライン辞書 の利用や Web を活用して用語を調べる こともできるようになりました。 特に翻訳メモリーの普及は過去の翻訳 資産を有効活用できる半面、過去の誤訳 が完全一致やファジーのメモリーとして 再利用される危険が常にあります。また、 新規翻訳箇所で新たな誤訳が発生するこ ともあるでしょう。 翻訳はまだまだ人への依存度の高い作 業です。そうである限り、誤訳や不正確 な訳をすべて駆逐することは難しいこと です。できる限り品質を高めるには、ベ テラン翻訳者による丁寧な翻訳、複数回 の校閲など、どれもコストが嵩む要素を 抱えています。 加 え て、「 大 ボ リ ュ ー ム 」、「 短 納 期 」 に応える体制の維持など、取り組むべき 課題として捉えています。 4. 将来の方向性 世界の政治・経済の情勢を考えると、 今後のアジア各国の位置づけは無視でき ないものとなり、中国語をはじめとする アジア各国の言語の翻訳の必要性が飛 躍的に増すという予測の下、当社は、中 国語の翻訳も手がけ始めました。まだボ リューム的には微量ですが、今後に期待 を持っています。その場合、翻訳のジャ ンルについては現在の IT 分野だけで良 いのか、他の分野が必要な場合、どのよ うにその専門知識を獲得するのか、将来 の方向性について現在ビジョン作りの最 中です。 Information Japan Translation Journal No.250 事務局だより ■現在の会員数は、賛助会員 3 社、法人 会員 138 社、個人会員 358、合計 499(前 年同期比± 0%)です。 ■第 53 回 JTF <ほんやく検定>(7 月 24 日実施)の受験者数は 668 名を数 えました。 (前年同期比▲ 3%)合格率 は基礎レベル 5 級 53%、同 4 級 39%、 英 日 翻 訳 1 級 0.3%、 同 2 級 4%、 同 3 級 21%、日英翻訳 1 級 0%、同 2 級 1%、同 3 級 20% でした。 ■トラブル防止委員会が中心となって、 翻訳事業者専門職務賠償責任保険につ い て、 約 1 年 間 検 討 を 行 っ て き ま し たが、ようやく当連盟の制度としてス タートすることになりました。近日中 に法人会員の皆さまにご案内が届くと 思います。是非、加入をご検討してみ てください。 ■ 20 周年記念 JTF 翻訳祭(12 月 13 日、 アルカディア市ヶ谷)はパンフレット も準備され、本誌および JTF ウェブサ イトでも詳しくご案内しておりますよ うに、いよいよランディング体勢に入 りました。皆さまのご参加、ご協力を よろしくお願いいたします。 (中野 善之) ●● 読者の声 ●● JTF 個人会員・林格さん 翻訳の仕事と翻訳業界に対して思うと ころがある。「ほんやく検定」英日特許分 野で 2 級に認定されたことを機に、2002 年、JTF の個人会員になった。特許書類 の英和翻訳を、特許事務所に勤めたとき に始めてから 40 年になる。60 歳で退職 後は在宅で翻訳を続けている。法人会員 である会社数社からほぼコンスタントに 仕事をいただいていたが、ここ 2 年、不 景気のためか、依頼は限りなくゼロに近 い。新しい会社を開拓すべく 10 社のト ライアルに挑戦したが、合格は 1 社のみ。 大手法人会員のトライアルで、一ヶ月後 に合否結果を連絡とあるが、ないので結 果連絡をうながすと、「身長」に検討し た結果不合格でした、とメール 1 通で終 わり。誤字・脱字のうるさいこの世界で ため息がでる。多数の応募があるのだろ うと想像もするが、プロならトライアル 解答を「いちべつ」すれば合否はわかる はずだ。なぜ、一ヶ月から二ヶ月も待た されるのか。検定は 1 級に認定されない と仕事に結びつかないのか、法人会員で あっても 1 級を取得する個人会員にトラ イアルを課す必要があるのか、と考える 一方で 40 年翻訳実績を積んできてもま だ「2 級」しか認められないのかと落ち 込んでしまう。検定の資格は実力に加味 されないのか。国内の翻訳会社で大手と まではいかなかくとも中堅会社が会員で ないのが多いのはいかなることか。翻訳 業界の動向について JTF のサイトで発表 されているが、もっと実務に即した事項 を知りたい今日この頃である。 15
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