第39回骨折治療学会 2013年6月久留米

2013年6月28日-29日
第39回骨折治療学会
2013年6月28日から29日にかけて久留米で開催された、第39回骨折治療学会へ出かけて参りま
した。 今回は外傷治療に積極的な、久留米大学の主催でした。大腿骨転子部骨折は私のここ数年
の研究対象の一つです。昨年に引き続き今年も大腿骨転子部骨折が主題として取り上げられ、幸い
発表の機会を得ました。今年のディスカッションを通して疑問に感じたことは、3D-CTで骨折型
を分類することで、内固定材を変更する必要があるのかないのか、という点です。当科では転子部
骨折を一貫してJapanese PFNAで内固定してきており、術後成績も安定していると自負しておりま
すが、施設によっては大転子後方骨片があるようなものにはtrochanter stabilizing system 付きの
DHSをチョイスしているようでした。
主題02
大腿骨転子部骨折­1 座長:佐々木健陽(西宮渡辺病院)
AO分類31A3に代表される不安定型大腿骨転子部骨折を集めたセッション。ネイルを用いている
施設では、Japanese PFNAのLongまたはロングガンマネイルを使用しているよ
うでしたが、インプラントが長くなると転子部の固定性が本当に上がるのか、と
いう点で意見が分かれました。私自身はせいぜいスタンダードのJapanese
PFNAで治療しており、それ以上長いインプラントを使用する必要性を感じてお
らず、多少異論あり。プレート系ではDHSにlocking trochanter stabilizing
plateを用いている施設がありましたが、(使う以上は)本来問題にするべき大
転子部の骨癒合に関して、あまり言及されていなかったように思います。同部の
固定が本当に必要なのかは、まだ議論の余地があります。ガンマネイルで積極的
にワイヤリングを行っている施設の報告もありましたが、径0.9mmのワイヤーで
締結しているとのこと、ちょっと固定性に疑問を感じました。しかし独自にパッ
サーを作ってワイヤリングの侵襲を低減しているようで、これには興味があります。ワイヤリング
に関してはネイルの挿入前に行っている施設もあり、これに関しては骨把持で固定してネイルを挿
入すればワイヤリング不要では、というもっともな指摘あり。ショートネイルの下端骨折を経験し
たためロングネイルを使用しているという施設もありましたが、これに関しては径9mmで統一して
一切トラブルなしの当院の成績を考えると、私としては承服しかねます。
主題04
大腿骨転子部骨折­2 座長:堅山道雄(草加病院)
頸基部骨折関連を集めたセッション。頸基部骨折を「骨幹部型」と「骨頭型」に分類し、「骨幹
部型」では予後不良なので、高齢者で転位していればBHAを勧めるという発表あり。頸基部骨折は
整復とラグスクリューの設置位置がきわめてシビアである、という認識はほぼ共通していました。
しかし一方では、骨折線の一部が関節包内にある頸基部骨折は、解剖学的整復が極めて困難との指
摘がフロアからあり。ところで「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン」が改定され第2版とな
ったそうですが、この中で頸基部骨折の定義が「骨折線が近位前方で関節内に、遠位後方で関節外
にまたがるもの」と変更されているようなので注意が必要です。
主題06
大腿骨転子部骨折­3 座長:西村典久(コープおおさか病院)
3D-CT に関する発表を集めたセッションで、私がトップバッターでした。術前に3D-CTで評価
することで、術後のテレスコーピング量をある程度予測できるというのが要旨でした。会場からの
質問は、大転子後方骨片の有無が判るのは同感だが、それによって治療法が
変わるのか、というもの。現状では変わらないが、大転子と小転子を含む大
きな骨片(正田先生のいわゆるGL型)に関してはワイヤリングなどを検討
中とお返事しました。兵庫県立西宮病院の正田先生はGL型は従来安定型と
されてきたが、不安定型と考えるべき、とのいつものお考えで私も同感。済
生会西条病院の白形先生は2-partをCHS、3-partをCHS+プレート、4-part
をSFNと、骨折型によって治療法を変えている由。単純X線のみでは46例中
8例で過小評価されており、3D-CTが有効とのこと。また香川県立中央病院
の田村先生は術後の整復位評価に術中3Dイメージ(CTではなく)を用いる
学会報告 ー第39回骨折治療学会ー!
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2013年6月28日-29日
2013年6月28日-29日
第39回骨折治療学会
第39回骨折治療学会
有効性を報告。ネイル挿入孔からエレバを入れて、側面像での髄内型を髄外
型に整復している点がユニークと思いました。昨年から気になっていたこと
で、いまだに演者間で意見のばらつきが有る点は、本当に骨折部のover
reduction (A-P 像でcalcar 部・側面像で前方皮質をover lapさせる)まで行
う必要があるのか、という点です。側面像で髄内型となっている場合は、少なくとも解剖型までは
整復する必要がある、というあたりまでは徐々にコンセンサスを得つつあるようでした。
ヌーンタイムレクチャー1 CTC(Cross Trochanteric Compression) Nail
System による大腿骨転子部骨折の治療 最上敦彦(順天堂附属静岡病院)
座長:白濱正博(久留米大学)
順天堂同期入局の最上先生が講演するため、義理堅い私は聴きに行きました。
2月に聴いたCTCのコースとほぼ同じ内容でしたが、途中からスポンサーである
キスコのVTRを20分以上流していて、「手抜き感」あり。逆斜骨折・大転子骨片
の転位例・頸基部骨折・転子下骨折には適応なしとのことですが、そういうイン
プラントに使い道はあるのか? ネイルに大転子骨片を制動するシステムを合体
させたい、という点には私も同意します。
パネルディスカッション 「多発外傷」
座長:新藤正輝(帝京大学)、白濱正博(久留米大学)
非常にまとめにくいパネルディスカッションで座長も苦労していましたので、全員の発表を聴い
ての印象を私なりにまとめてみます。1980年代までは早期から最終的な固定を行うearly total
care : ETCが主流でしたが、1990年代からdamage control surgery : DCSの概念が導入され、
2000年代に入ってからはETC vs DCSの図式となってきた由。最近の報告ではARDSの発症率や死
亡率に差はなく、入院期間で(当然ながら)ETC有利ということのようです。また高齢者では多発
外傷に限らず単発であっても、開放性骨折からの出血だけで出血性ショックを来しうることを十分
認識し、早期から輸血を行うべきだという点でコンセンサスが得られているようでした。多発外傷
での「windows of opportunity」は、各種炎症反応が低下してくる受傷後5日から10日くらいまで
とされているようですが、各機関ともあまりそれにこだわらず早期から可能な治療を積極的に行う
方針のようでした。また多発外傷例であっても大腿骨にはリーミングを行い至適径のネイルを入れ
ること、肺挫傷などがあってためらわれる場合はノンリーミングではなく創外固定を行い、後日リ
ームドネイルを入れるという施設が多いようでした。そして多発外傷の緊急手術は、手術内容と手
術時間をあらかじめ決めて手術室へ入り、「血がさらさらしてきたら撤退する」というのが良いと
のこと。
特別講演2
ドクターヘリによる空からの救急医療10年
坂本照夫(久留米大学病院高度救急センター)
座長:永田見生(久留米大)
日本のドクターヘリ導入に貢献した先生の講演で、久留米大学が国土交通省をはじめとする官庁
と粘り強く交渉しながらこのシステムの普及に努めた経緯がよくわかりま
した。未だに欧米諸国と比べてドクターヘリの数が少ない由、今後も増や
していく方針とのことでした。このシステムが普及することで、3次救急を
擁する大病院の医療圏が拡大の一途をたどると、術後フォローアップが
(行う意志があっても)十分行われない症例が増加することになると思い
ます。私としてはその点が多少気になりました。
学会報告 ー第39回骨折治療学会ー!
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