2013年、証券業界を占う ~新たな業務運営モデルの整備 - Accenture

2013年、証券業界を占う
~新たな業務運営モデルの整備
世界経済、金融市場が非常に不安定な状況にある中、資本市場の中核であ
る証券会社も厳しい状況に直面している。証券会社各社は津波のように押
し寄せる各種金融規制へ対応し、企業として収益を確保していくため、顧客
サービスを中心としたサービス提供を強化するとともに、成長市場への参入
やコスト構造改革などを含めた「事業再構築」を進めていく必要がある。
事業再構築に際しては、これまでの事業運営を抜本的に見直し、商品横断、
部門横断、拠点横断で事業運営していくことが不可欠である。また、事業運
営を見直す際、証券会社単独だけではなく、銀行を中心とするグループ企業
との密な連携も今後の成長のカギとなろう。
山本 浩史
1994年アクセンチュア㈱入社
本稿では、証券ビジネスの新たな業務運営モデルに関して、検討に際しての
要点等、事例紹介も含めて考察したい。
金融サービス本部
マネジング・ディレクター
証券・資本市場グループ担当
[email protected]
不安定な経営環境
投資銀行ビジネス機能の
2013 年 現 在、引き 続 き 世 界 の 金 融 位置づけの変化
最後はユニバーサルバンキングを指
向するタイプであり、スケールメリッ
市 場 は 非 常 に 厳 し い 状 況 に あ る。 最 も 厳し い 状 況 に あ る 証 券 ホール トを活かして、総合金融サービスとし
グローバルベースのデレバレッジ(家 セールビジネス(投資銀行ビジネス) て様々の顧客に対して、様々な商品・
計 部門のデレバレッジ、企業部門の
において、グローバ ル のプレイヤー
サービスを提供するタイプである。JP
デレバレッジ、政府部門のデレバレッ
達は、3 つ の方 向 性で 事 業 の 再 構 築
モルガンチェースやシティバンク等が
ジ)が進む中、経済環境は非常に不
を進めているように見受けられる。
これに該当する。
安定な状況にある。欧州危機は引き
続きグローバル経済を不安定にさせ
るとともに、欧 州における金融取引
税の導入など、政治的な動きも金融
機関の経営に対して大きな影 響を与
えることが予想される。さらにバーゼ
ルⅢ、ドットフランク法、EMIR(欧 州
市場インフラ規制)等の金融規制は
今 後 強まるのみである。このような
1 つ目はウェルスマネジメント強化に 3 つの方向 性のいずれもバンキング
注力する流れであり、最近ホールセー
ビ ジ ネスと セット の 事 業 再 構 築 で
ル部門の大幅な事業縮小を実施した
あり、投資銀行ビジネス(証券ホール
UBS などが典型例として挙げられる。 セールビジネス)単体のみで事業再
ウェルスマネジメントの顧客に対する 構 築 を 試 み る金 融 機 関 は 限 定 的 で
魅 力 的 な 商 品 提 供 の 観 点 から 投 資 ある。この流れは日本の証券会社(特
銀行ビジネスの商品提供機能を活用
に銀 行系証券)にとっても示唆が 得
するケースである。
られると考える。
状況下、金融機関の経営者は、様々
2 つ目はコーポレートバ ンキング を 業務運営モデルの再定義
な経営課題に直 面しており、特に金
指向する流れであり、企業や事 業向
事業再構築に際して各金融機関は業
融・資本市場の中核である証券会社
けのファイナンスニーズに対して投資
務運営モデル(オペレーティングモデ
は最も困難な状況にある。
銀行ビジネスの商品・サービスを活用
ル)の再定義を実 施している。業務
していくタイプである。RBS、ソシエ
運営モデルは以前より議論されてい
テジェネラルなど、強力なコーポレー
るテーマであるが、昨今はより広 範
トバンキング機能を保有するスーパー
かつ抜本的な業務運営モデルの見直
リージョナルプレイヤーが該当する。
しを行うケースが増えている。
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図表 1 某ユニバーサルバンクにおけるオペレーティングモデル策定の際のオプション例
オペレーティングモデルオプション(地域の観点は割愛)
集中型モデル
サイロ型モデル
ハイブリッド型モデル
IT
IT
ビジネス
顧客
PB
IT
ビジネス
IB
CRM/ディストリビューション
ビジネス
PB
IB
PB
CRM/ディストリビューション
CRM/ディストリビューション
CRM/ディストリビューション
IB
清算・決済
清算・決済
清算・決済
カストディ
データマネジメント
資産保全
資産保全
プロダクトコントロール
CRM/ディストリビューション
商品&
トレーディング
清算・決済(例: 資金管理)
業務
オペレーション
全社機能
カストディ(例: 保護預かり、口座管理)
データマネジメント(例:マスタ&リファレンスデータ)
…
グループ内シェアードオペレーション
グループ内シェアードオペレーション
主計・財務
主計・財務
法務
& コンプライアンス
法務
データマネジメント(例:マスタ&リファレンスデータ)
グループ内シェアードオペレーション
主計・財務
& コンプライアンス
法務
& コンプライアンス
人事
人事
人事
全社シェアードサービス
全社シェアードサービス
全社シェアードサービス
• 高い相乗効果/コスト効率性
• 部門横断的なノウハウ活用の極大化
メリット
プロダクトコントロール
決済&クリアリング
…
データ
マネジメント
清算・決済
• 統一されたアプリケーションアーキテクチャ
• 顧客別、ビジネス別、商品別のケーパビリティの
確保・強化
• 期待効果とリスクのバランスがとれたシェアード
オペレーション
• 各拠点のマネジメントチームによる明確な
アカウンタビリティ/ライン管理
• コモディティ型のシェアードオペレーションと
固有要件を満たしたビジネスラインオペレー
ションの融合
• 統一されたアプリケーションアーキテクチャ
デメリット
• ビジネスの柔軟性の低下
• 重複投資の発生
• 各種連携に際しての明確な役割定義の必要性
• 複雑な意思決定および企画プロセス
• スケールメリットの欠如
• 成長局面におけるサイロ構造を構築する動き
• 部門ごとに異なるアプリケーションアーキテクチャ
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最近の業務運営モデルの再定義の取
機能単位での業務集約の強まり
り組みでは、顧客重視・効率性 重視
の観点から、既存運営モデルの各種
図 1 は某ユニバーサルバンクの 業務 デルを志向するかは、効率性と機 動
運 営 モ デル 検 討 の 際 に 定 義 さ れ た 性のバランスで決 定されるが昨今は
サイロを如何に打ち破るかが重要な
ハイレベルオペレーティングモデルの
商品投入・マーケット参入等のスピー
議論の 1 つとなっている。各種サイロ
オプションである。
ドの機 動性よりもコスト効率性が重
ておく必要がある。どのタイプのモ
視されている。
の例としては、エンティティ間(銀行
1 つ目の「 集 中 型 モ デル」 はリテ ー
と証券)、拠点間(東京とロンドン)、
ル(PB=Private Bank)、ホールセール ソーシング戦略の重要性
部門間(エクイティ部門と金融市場部
(IB=Investment Bank) の 横 断 で、
業務運営モデルの再定義においては、
門)、チャネル間(営業 店とダイレク
トチャネル)、などが存在する。
例えば、ホールセールビジネスはこれ
まで相対的に利幅の大きいビジネス
であったが昨今の厳しい価格競争の
中、いかにコスト優位性を確保でき
るかが競争優位上重要となっており、
サイロ横断での業務効率化が不可欠
となる。また、顧客中心の収益機会
機能単位に極力業務運営を集約化し
各機能のソーシング戦略も非常に重
たモデルであり、効率化を追求する
要になる。図 2 はソーシング 戦略 の
一方、機動性には欠ける。
「サイロ型モデル」はリテール、
2 つ目の
ホールセールのビジネスラインを分離
例えば、ソーシング 戦略 の事例とし
したモデルである。柔軟性が 高い反 て、欧 州の 某 銀 行ではデリバティブ
面、 機 能 集 約 が 限 定 的 と な るた め 規制強化に伴う OTC デリバティブ 取
コスト効率が相対的に低くなる。
発掘に際してもサイロ横断での取り組
最後 の「ハイブリッド型モデル」は、
みが重要となってくる。
上述の 2 つのモデルの折衷案である。
バランスが良いモデルではあるも一
方、バランスを確保するために運営上
の責任・役割分担等を明確に定義し
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5 種類のオプションとオプション選定
の判断基準を示したものである。
引の CCP 対応に際して、顧客との OTC
取引の清算サービスのソーシング 方
法を検 討した。結 論として自社での
サービス提 供はコスト的に見合わな
いと判断し、外部サービスを活用し
たサービス提供モデルを構築した。
図表 2 ソーシング戦略のオプションと判断基準
オプション
成果の確実性
サービス提供
者のインセン
ティブ
人員削減への
インパクト
リスク移転
混乱の可能性
ビジネス
成果への貢献
将来の要件に
対する柔軟性
適切なスキル
の開発
知識移転の
必要程度
低
-
低
なし
低
低
低
低
なし
低
低
低
なし
低
低
低
低
低
高
高
中
低
中
中
中
中
中
高
高
高
高
中-高
高
中-高
高
高
低
中
高
高
高
中
低
低
高
1. 自社調達
2. リソース支援
3. コソーシング
4. アウトソーシング
5. ジョイントベンチャー
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環境変化に対してスピーディに対処
可能な業務運営の実現
わせていないことが多い。例えば上司
業務運営モデルは環境変化に応じて
のカルチャーに対してその許容度は
が複数存在するダブルレポーティング
変化し続ける。また外部環境の変化 低い。
の み ならず 組 織 の 硬 直 化 を 避 ける
ためにも運営モデルは数年サイクルで
変えていくことが望ましい。従って、
効果的な業務運営を実現するために
は、経営インフラと組織・人材の柔軟
性が重要となる。全社の経営インフラ
経営環境が不安定な中、今後のビジ
ネスで重要になることは、環境変化に
合わせて事業運営モデルを見直すと
ともに、変化に強い組織カルチャー・
人材を育成していくことである。
とは経営管理指標・業績評価基準と また、今後のビジネス運営に必要な
そ れを 支 える 管 理 会 計 の 仕 組 みで 人材は多種多様であり、多種多様な
ある。組織運営単位が変化しても経
人材を有機的に融合していくために、
営管理指標の集計単位を柔軟に変え
これまで以 上に如何に人材をマネジ
ることのできる管 理 会 計インフラが
メントするかが問われることになる。
必要となる。後者の 組 織・人材の柔
軟性は日本の金融機関にとって大き
なチャレンジである。
日 本 の 金 融 機 関 の 場 合、 歴 史 的 に
軍隊のような階層的組織で事業を営
んできたため、海外金融機関で見受
けられるマトリクス型の 組 織 運営に
適応可能な組織カルチャーをもち合
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