N - 国立環境研究所

神奈川県環境科学センター
N-(1,2-ジ メ チ ル プ ロ ピ ル )-N-エ チ ル チ オ カ ル バ ミ ン 酸
S-ベンジル
S-Benzyl N-(1,2-dimethylpropyl)-N-ethylthiocarbamate
(別名:エスプロカルブ)
3-(4-ク ロロ -5-シ クロペ ンチル オキシ-2-フ ルオロフェニ
ル )-5-イ ソ プ ロ ピ リ デ ン -1,3-オ キ サ ゾ リ ジ ン -2,4-ジ オ ン
3-(4-Chloro-5-cyclopentyloxy-2-fluorophenyl)-5-isopropylidene-1,3-oxazolidine-2,4-dione
(別名:ペントキサゾン)
N,N-ジ エ チ ル -3-(2,4,6-ト リ メ チ ル フ ェ ニ ル ス ル ホ ニ ル )
-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボキサミド
N,N-Diethyl-3-(2,4,6-trimethylphenylsulfonyl)-1H-1,2,4-triazole-1-carboxamide
(別名:カフェンストロール)
ジチオりん酸 O,O-ジエチル-S-(2-エチルチオエチル)
O,O-Diethyl S-2-(ethylthio)ethyl phosphorodithioate
(別名:エチルチオメトン又はジスルホトン)
ジ チ オ り ん 酸 S-( 2,3-ジ ヒ ド ロ -5-メ ト キ シ -2-オ キ ソ
-1,3,4-ジアジアゾール-3-イル)メチル-O,O-ジメチル
S-(2,3-Dihydro-5-methoxy-2-oxo-1,3,4-thiadiazol-3-yl)methyl
phosphorodithioate
(別名:メチダチオン又は DMTP)
O,O-dimethyl
, , -ト リフルオロ-2,6-ジ ニトロ-N,N-ジ プロピル-p-トル
イジン
, , -Trifluoro-2,6-dinitro-N,N-dipropyl-p-toluidine
(別名:トリフルラリン)
N-メチルカルバミン酸 1-ナフチル
1-Naphthyl N-methylcarbamate
(別名:カルバリル又は NAC)
4-ア ミ ノ -6-(1,1-ジ メ チ ル エ チ ル )-3-(メ チ ル チ オ )-1,2,4トリアジン-5(4H)-オン
4-amino-6-(1,1-dimethylethyl)-3-(methylthio)-1,2,4-triazin-5(4H)-one
(別名:メトリブジン)
1250
【対象物質及び構造式】
esprocarb C13H23NOS
Cas.No. 85785-20-2
pentoxazone C17H17ClFNO4
110956-75-7
cafenstrole C16H22N4O3S
CAS.No. 125306-83-4
ethylthiometon
298-04-4
methidathion C6H11O4N2PS3
Cas.No. 950-37-8
trifluralin C13H16O4N3F3
1582-09-8
carbaryl C12H11O2N
Cas.No. 63-25-2
【物理化学的性状】
分子量
C8H19O2PS3
metribuzin C8H14N4OS
21087-64-9
log Pow
水溶解度
(mg/L)
265.4
4.9
4.60
エスプロカルブ
353.8
115
1.3
4.26
ペントキサゾン
350.5
2.5
3.21
カフェンストロール
274.4
-25
62
6.4
4.02
エチルチオメトン
302.3
40
157
2.20
メチダチオン
335.3
49
97
0.2
5.34
トリフルラリン
201.2
142
416
2.36
カルバリル
214.3
126
1050
1.70
メトリブジン
神奈川県化学物質安全情報提供システムによるデータベース、国立環境研究所
化学物質データベースなどを参考にした。
融点
(℃)
沸点
(℃)
135
1251
【毒性、用途】
ADI
要求感度
急性毒性(LD50)
(µg/L) (mg/kg/日) ラット経口(mg/kg)
A
1.25
0.005
2000
エスプロカルブ
除草剤
B
0.079
0.069
ペントキサゾン
除草剤
B
0.072
0.003
カフェンストロール
除草剤
>5000
B
0.33
0.0014
4
エチルチオメトン
殺虫剤
B
0.011
0.0015
20
メチダチオン
殺虫剤
A
0.01
0.024
10000
トリフルラリン
除草剤
B
0.01
0.02
230
カルバリル
殺虫剤
A
0.025
0.0125
1100
メトリブジン
除草剤
神奈川県化学物質安全情報提供システムによるデータベースなどを参考にし
た。
用途
魚毒性
§1
分析法
(1)分析法の概要
水試料は固相抽出カートリッジを捕集管として吸着捕集し、カートリッジを
乾燥さ せてから吸着した物質を溶出し、内部標準物質を添加して LC/MS で分
析する。
(2)試薬・器具
【試薬】
アセトン
メタノール
酢酸アンモニウム
蟻酸
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
ジウロン d 体(DCMU-d6)100ppm
【器具】
固相抽出用カートリッジ
溶出、濃縮用試験管
:和光純薬製ダイオキシン分析用
:関東化学製 LC/MS 用
:関東化学製特級
:和光純薬製特級
:関東化学製残留農薬試験用
:和光純薬製残留農薬試験用
:関東化学製残留農薬試験用
:和光純薬製残留農薬試験用
:関東化学製残留農薬試験用
:関東化学製残留農薬試験用
:関東化学製残留農薬試験用
:関東化学製残留農薬試験用
:Dr. Ehrenstorfer 製
:バリアン製、Abselut NEXUS Jr. 200 mg
:GL-SPE 濃縮管 透明 0.5&1.0 mL
(3)分析法
【試料の採取及び採取試料の前処理】
採取した試料水には蟻酸を数滴滴下し、微酸性にしておく。あらかじめアセ
トン 10 mL、精製水 10 mL を通過させた固相抽出用カートリッジ(注 1)に試料
水 500 mL を毎分 10 mL で全量通液して捕集する。さらに精製水 10 mL を通液
1252
し て お く。 SS 分が多 い 試料 はアセトン で 洗浄した石英繊維 濾紙で濾過 し、 濾
紙は精製水、アセトンそれぞれ 5 mL で洗浄し、洗液は試料水に加えて固相抽
出する。精製水を同様に処理した固相抽出カートリッジを空試験用とする。
【試験溶液及び空試験溶液の調製】
水質試料を抽出した固相抽出カートリッジに窒素ガスを 1 L/min で 40 分通気
して十分に乾燥させてから(注 2)メタノール 5 mL で溶出させる。内標準溶液
(DCMU-d6 1 µg/mL メタノール溶液)5 µL を加えたものを試験溶液とする。
空試験用のカートリッジを同様に処理したものを空試験溶液とし、
LC/MS/MS-SRM(selected reaction monitoring)モードで分析し定量する。 (注 3)
【標準溶液の調製】
標準試薬をメタノールに溶解し 1.0 mg/mL の標準原液を調製する。この標準
原液を適宜メタノールで混合希釈して混合標準原液を調製する。この混合標準
原液を適宜希釈して検量線作成用標準溶液とする。各濃度の標準溶液には、内
標準物質として DCMU-d6 を 1.0 ng/mL の濃度となるよう添加する。
そ れ ぞれの 物質の感度は大 きく異なるため 、混合標準 原液中 の濃度 は 使用す
る機器にあわせて物質ごとに変えた方がよい。
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
混合標準原液
(µg/mL)
0.02
1.0
0.2
2.0
0.2
20
0.1
1.0
【測定】(注 4、5)
(LC)
機種
カラム
溶離液
カラム温度
注入量
標準物質の混合例
検量線用標準溶液
(ng/mL)
0.20
0.14
0.10
0.04
10
7.0
5.0
2.0
2.0
1.4
1.0
0.40
20
14
10
4.0
2.0
1.4
1.0
0.40
200
140
100
40
1.0
0.70
0.50
0.20
10
7.0
5.0
2.0
0.01
0.50
0.10
1.0
0.10
10
0.05
0.50
:Waters ACQUITY UPLC
:ACQUITY UPLC BEH-C18 2.1 × 50 mm
:A:水(0.005%蟻酸、5 mM 酢酸アンモニウム)
B:メタノール
0 → 5 min
A:90 → 10 B:10 → 90 linear gradient
5 → 8 min
A:B=10:90
8 → 9 min
A:10 → 90 B:90 → 10 linear gradient
9 → 10 min A:B=90:10
0.2 mL/min
:40 ℃
:5 µL
(MS)
機種
イオン化法
0.02
1.0
0.20
2.0
0.20
20
0.10
1.0
:Waters Quattro Premier XE
:ESI-positive
1253
キャピラリー電圧:3 eV
イオン源温度 :120 ℃
脱溶媒温度 :450 ℃
脱溶媒ガス :900 L/hr
コーンガス
: 50 L/hr
コリジョンガス : 0.2 mL/min Ar
モニターイオン
266.4 > 91.0
エスプロカルブ
371.1 > 286.2
ペントキサゾン
351.5 > 100.0
カフェンストロール
275.2 > 88.9
エチルチオメトン
303.3 > 145.1
メチダチオン
336.3 > 252.2
トリフルラリン
202.2 > 145.1
カルバリル
215.3 > 187.1
メトリブジン
DCMU-d6
239.4 > 78.1
コーン電圧
25
14
15
8
15
18
15
35
25
コリジョンエナジー
25
18
16
12
8
20
20
20
24
〔検量線〕
標準物質の標準液 5 µL を LC/MS に注入して分析する。得られた標準物質の
ピーク面積と内標準物質のピーク面積の比から検量線を作成する。
〔定量〕
試験溶液 5 µL を LC/MS に注入して分析する。得られた物質のピーク面積と
内標準物質のピーク面積の比を検量線に照らして定量する。
〔濃度の算出〕
水質試料中の濃度 Caq(ng/L)は次式から算出する。
Caq(ng/L)=(A - Ab)×v/ V
A :検量線から求めた測定物質濃度(ng/mL)
Ab:空試験溶液の測定物質濃度(ng/mL)
v:最終液量(mL)
V :試料液量(L)
〔装置検出下限(IDL)〕
本分析に用いた LC/MS(Waters Quattro Premier XE)の IDL を下表に示す(注 6)
物質名
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
IDL(ng/mL)
0.003
0.12
0.031
0.32
0.016
2.6
0.015
0.20
試料量(mL)
500
最終液量(mL)
5.0
1254
IDL 換算値(ng/L)
0.035
1.2
0.31
3.2
0.16
26
0.15
2.0
〔測定方法の検出下限(MDL)、定量下限(MQL)〕
本測定方法における検出下限及び定量下限を下表に示す(注 7)。
空試験の結果は全項目不検出であった。
物質名
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
MDL
(ng/mL)
試料量
(mL)
最終液量
(mL)
0.0065
0.13
0.031
0.42
0.091
20
0.013
0.25
500
5.0
MDL 換算値
(ng/L)
MQL 換算値
0.065
1.3
0.31
4.2
0.91
200
0.13
2.5
0.17
3.4
0.79
11
2.3
520
0.32
6.5
(ng/L)
注解
(注 1)
(注
(注
(注
(注
未洗浄のカートリッジからは対象物質のイオン化を阻害する物質が
溶出する。洗浄は十分に行う。
2) 水分が残っていると溶出率が低下する。乾燥の終点はあらかじめカー
トリッジの重量を測定しておき、乾燥後の重量と比較することで確認す
ることができる。
3) 試験溶液が着色するなどクリーンアップが必要と考えられる場合は、
試験溶液を 1 mL、あらかじめアセトン、ヘキサン各 5 mL で洗浄し乾燥
させたシリカゲルカートリッジ(Waters Sep-Pak plus silica)に付加し、窒
素ガスを通気して乾燥させ、50%アセトン/ヘキサン 5 mL で溶出、窒
素ガスを吹き付けてほとんど乾固させ、メタノール 1 mL に転溶したも
のを試験溶液とする。
4) LC/MS の条件は、本測定に使用した機種(Waters Quattro Premier XE)
特有のものである。
5) 機種によっては APCI の方が高感度である。とくにペントキサゾン
は当機ではアンモニアが付加した正イオンが観察されたが別の機種
(Applied Biosystems API3000)では APCI で水素脱離の負イオンが生成し
た。またトリフルラリンのフラグメントイオンは m/z=252 より 294 の方
が強度が高かった。使用機種にあわせてモニターするイオンを変更する
必要がある。
1255
(注 6)
装置検出下限(IDL)は、「化学物質環境実態調査実施の手引き」(平成 18
年 3 月)に従って、下表のとおり算出した。
装置検出下限(IDL)の算出
物質名
エスプロカルブ ペントキサゾン カフェンストロール エチルチオメトン メチダチオン トリフルラリン カルバリル
試料量(mL)
500
500
500
500
500
500
500
最終液量(mL)
5
5
5
5
5
5
5
注入液濃度(ng/mL)
0.01
0.5
0.1
1.0
0.1
10
0.05
装置注入量(μL)
5
5
5
5
5
5
5
結果1(ng/mL)
0.0124
0.522
0.100
1.07
0.100
8.28
0.0450
結果2(ng/mL)
0.0128
0.529
0.105
0.937
0.104
9.61
0.0550
結果3(ng/mL)
0.0139
0.534
0.097
0.868
0.098
9.75
0.0495
結果4(ng/mL)
0.0139
0.512
0.109
0.886
0.102
8.40
0.0463
結果5(ng/mL)
0.0115
0.545
0.087
0.982
0.108
8.60
0.0456
結果6(ng/mL)
0.0128
0.485
0.091
0.807
0.100
9.52
0.0436
結果7(ng/mL)
0.0119
0.457
0.090
0.921
0.0958
9.92
0.0456
平均値(ng/mL)
0.01275
0.5120
0.09703
0.9243 0.1011
9.154
0.04721
標準偏差(ng/mL)
0.000911 0.0306
0.00827
0.0846 0.00411 0.697
0.00386
IDL(ng/mL)
0.0035
0.12
0.031
0.32
0.016
2.6
0.015
IDL試料換算値(ng/L)
0.035
1.2
0.31
3.2
0.16
26
0.15
S/N
19
20
27
25
39
11
42
CV(%)
7.1
6.0
8.5
9.1
4.1
7.6
8.2
※IDL=t(n-1,0.05)×σn-1×2
標準物質(IDL 測定)
1256
メトリブジン
500
5
0.5
5
0.617
0.676
0.574
0.521
0.540
0.597
0.546
0.5815
0.0534
0.20
2.0
26
9.2
(注 7) 測定方法の検出下限(MDL)及び定量下限(MQL)は、「化学物質環境実態調査
実施の手引き」(平成 18 年 3 月)により、下表のとおり算出した。
測定方法の検出下限(MDL)及び定量下限(MQL)
物質名
試料
試料量(mL)
標準添加量(ng)
試料換算濃度(ng/L)
最終液量(mL)
注入液濃度(ng/mL)
装置注入量(μL)
エスプロカルブ ペントキサゾン
500
0
0
5
0.02
5
操作ブランク平均(ng/L)①
0
無添加平均(ng/L)②
0.2
結果1(ng/L)
0.190
結果2(ng/L)
0.214
結果3(ng/L)
0.218
結果4(ng/L)
0.197
結果5(ng/L)
0.233
結果6(ng/L)
0.224
結果7(ng/L)
0.232
平均値(ng/L)
0.2156
標準偏差(ng/L)
0.0166
MDL(ng/L)
0.065
MQL(ng/L)
0.17
S/N
25
CV(%)
7.7
※MDL=t(n-1,0.05)×σn-1×2
※MQL=σ n-1×10
500
2.5
5
5
0.5
5
0
0
5.88
6.22
5.72
6.00
6.63
5.97
6.53
6.135
0.339
1.3
3.4
33
5.5
カフェンストロール エチルチオメトン メチダチオン トリフルラリン
500
0
0
5
0.08
5
0
0.8
0.795
0.731
0.854
0.805
0.648
0.846
0.874
0.7932
0.0797
0.31
0.79
10
10
河川水
500
5.0
10
5
1
5
0
0
11.1
10.1
10.4
10.4
9.07
11.6
12.3
10.71
1.06
4.2
11
12
9.9
500
1.5
3
5
0.3
5
0
0
3.63
3.17
3.81
3.75
3.45
3.52
3.82
3.593
0.234
0.91
2.3
54
6.5
500
250
500
5
50
5
0
0
489
431
509
538
431
565
526
498.2
51.7
200
520
13
10
カルバリル
メトリブジン
500
0
0
5
0.03
5
0
0.3
0.325
0.305
0.388
0.382
0.314
0.340
0.333
0.3408
0.0322
0.13
0.32
17
9.5
500
2.5
5
5
0.5
5
0
0
6.58
6.66
6.09
6.57
7.72
7.24
7.81
6.954
0.648
2.5
6.5
12
9.3
① 操作ブランク平均:
試料マトリックスのみが無い状態で他は同様の操作を行い、測定した値の平均値。
② 無添加平均:
MDL 算出用試料に標準品を添加していない状態で含まれる濃度の平均値
§2
解
説
【分析法フローチャート】
固相抽出
500 mL
NEXUS Jr.
10 mL/min
乾 燥
溶 出
N2
メタノール 5 mL
1 L/min × 40 min
1257
LC/MS/MS-SRM
ESI-posi
【標準物質のタンデムマススペクトル】
対 象 物 質のうち ペン トキサ ゾンは アンモニア が付 加 した[M+NH4]+イオン、
その 他の物質は[M+H]+の 擬分子イオンを生 じた。測定はそれぞ れのイオンを
プレカーサーイオンとしてタンデムイオン化を行い、生じたフラグメントイオ
ンを選んで定量用モニターイオンとした。各物質のタンデムマススペクトルを
示す。
1258
【添加回収率実験結果】
河川水、海水試料 500 mL に混合標準原液 20 µL を添加して、【試料の採取及
び採取試料の前処理】及び【試験溶液及び空試験液の調製】に従って処理した。
無添加の試料を処理したものとの定量値の差から回収率を算出した。回収率と
変動係数(C.V.)は下表に示すとおりであった。括弧内の回収率は試験溶液と同
じ共存物質を含む標準溶液による数値である。このように共存物質を含むと測
定イオンに増感又は減感が見られ、その程度は試料によって違い、濃縮率が大
きくなると顕著になる傾向があった。1000 mL の試料を 1 mL まで濃縮して濃
縮率を 1000 倍にすると、見かけ上の回収率が 160 %を超えるものがあり、多
くは 120 %を超えた。内標準に用いた DCMU-d6 のイオン化が阻害されている
のも原因だが、影響の程度は様々で内標準物質を変えても回収率の改善は見ら
れなかった。総 じて海水からの回収率が低い。検討に用いた海水の pH は 8.4
であった。次項の分解性スクリーニング試験で示すが、アルカリ性で分解しや
すい物質は特に回収率が低くなったと考えられる。
添加回収率(%、n=5)
河 川 水
C.V.(%)
回収率(%)
添加量(ng)
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
0.40
20
4.0
40
4.0
400
2.0
20
94.6
94.4
114
73.6
116
89.0
96.2
88.6
( 94.2)
( 92.2)
( 99.0)
( 85.9)
(102 )
( 86.7)
( 83.0)
( 97.6)
5.2
9.3
9.3
12
11
13
4.5
6.2
海 水
C.V.(%)
回収率(%)
78.7
51.5
54.3
50.6
93.7
70.9
88.8
84.2
(88.9)
(77.5)
(96.9)
(82.3)
(98.3)
(69.2)
(89.6)
(96.8)
4.1
4.5
4.6
17
7.1
14
2.3
5.0
【分解性スクリーニング試験】
pH5、7、9 に調整した精製水 500 mL に混合標準原液 50 µL を添加し、一度
に 100 mL ずつ固相抽出、溶出して分析し、回収率を求めた。結果を下表に示
す。pH が高い場合にペントキサゾン、カルバリルの回収率が大きく低下した。
その他の物質も明るく pH が高い場合に低下傾向が見られるので、試料水は採
取したら速やかに蟻酸を滴下して微酸性とし冷暗所に保存する必要がある。
分解性スクリーニング試験結果
1 時間後
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
初期濃度(ng/L)
2
100
20
200
20
2000
10
100
pH5
84
83
101
88
102
92
103
100
pH7 pH9
84
84
82
43
100
96
96
98
97 103
99
78
104
75
100 100
1259
5 日後
暗所
明(屋内)
pH5 pH7 pH9
pH7
83
77
78
73
81
69
2
42
99 100
74
98
74
74
89
68
89
89
84
72
94
81
74
60
101 104
9
87
99
95
98
97
【クロマトグラム】
標準物質
操作ブランク
1260
河川水
2007 年 7 月採取
河川水 500 mL に混合標準原液を 20 µL 添加して処理したもの
1261
【検量線】
最も 感度が高い エスプロカルブは LC/MS にメモリーが残 った。濃度ゼロの
標準、操作ブランクにも IDL と同程度のピークが観察された。
1262
【試料の保存性】
添加回収率の検討に用いた試験溶液を 15 ℃に保たれた LC サンプルトレー
に置き、数日ごとに分析し定量値の変化を調べた。下図は初日の値を 100 とし
た場合の変化を示したものである。このようにばらつきは大きくなるものの定
量値が大きく低下する項目はなく、保存性はおおむね良好であった。
保存日数が測定値に与える影響
【環境試料の測定例】
2007 年 7 月と 12 月に神奈川県内それぞれ 8 カ所の河川水を採取して測定し
た結果、最大濃度はエスプロカルブ 30 ng/L、カフェンストロール 16 ng/L、
メチダチオン 7.1 ng/L、カルバリル 13 ng/L であった。ペントキサゾン、エチ
ルチオメトン、トリフルラリン、メトリブジンは検出されなかった。7 月の検
出 物 質は すべて の 試 料から 検出さ れたが 、 12 月 に は 不検 出の 試料もあ った。
【HPLC による測定】
本法で用いた UPLC は 15000 psi 程 度の高圧制御が可能な LC システムと粒子
が細かくて細いカラムによる測定を行うのでピークがシャープで高感度分析が
可能である。通常の HPLC では IDL が数倍高くなることが予想される。UPLC
で の IDL 測 定 濃 度 よ り 2 倍 高 濃 度 の 標 準 溶 液 を 用 い て 繰 り 返 し 測 定 を 行 い
HPLC 用のカラムでの IDL を求めたところ、大きいもので 4 倍程度の値になっ
たが、ほとんど変わらないものもあった。いずれもトリフルラリンを除けば要
求感 度を 十分満た したので、HPLC でも測定 は可能 と考 えられる。 HPLC 測定
で用いた条件などは以下の通りである。測定時間は 2.5 倍、ピークの幅は 2 倍
程度になった。
機種
カラム
溶離液
:Waters ACQUITY UPLC
:化学物質評価研究機構 L-カラム ODS3 µm 1.5 × 150 mm
:A:水(0.005%蟻酸、5 mM 酢酸アンモニウム)
B:メタノール
0 → 10 min
A:90 → 10 B:10 → 90 linear gradient
10 → 17.5 min
A:B=10:90
17.5 → 18 min
A:10 → 90 B:90 → 10 linear gradient
18 → 25 min
A:B=90:10
0.1 mL/min
1263
カラム温度 :40 ℃
注入量
:5 µL
物質名
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
IDL(ng/mL)UPLC
IDL(ng/mL)HPLC
0.003
0.12
0.031
0.32
0.016
2.6
0.015
0.20
0.004
0.29
0.032
1.0
0.075
6.1
0.019
0.14
HPLC 用カラムによる IDL 測定時のクロマトグラム
【評価】
本法の回収率は 73.6 ~ 116 %であった。よって河川水試料を用いて算出した
MDL に相当する、水試料中濃度エスプロカルブ 0.06 ng/L(要求感度 1250 ng/L)、
ペントキサゾン 1 ng/L(同 79 ng/L)、カフェンストロール 0.3 ng/L(同 72 ng/L)、
エチルチオメトン 4 ng/L(同 330 ng/L)、メチダチオン 0.9 ng/L(同 11 ng/L)、
トリフルラリン 200 ng/L(同 10 ng/L)、カルバリル 0.1 ng/L(同 10 ng/L)、メ
トリブジン 3 ng/L(同 25 ng/L)レベルの検出が可能であると考えられる。ト
リフ ルラ リン以外 の 7 物 質は要求感度を十分満 たしているが 、LC/MS の感度
が低いトリフルラリンを同時分析するのは困難であった。トリフルラリンを要
求感度を満たすレベルで検出するには、濃縮率を上げてクリーンアップし、単
独で測定することが必要と思われる。
【試料の送付方法】
試料水の pH が高いと分解が進む傾向があるので、蟻酸を数滴添加し pH を 7
以下にして冷蔵して送付する。
1264
開発担当 神奈川県環境科学センター
〒 254-0014 平塚市四之宮 1-3-39
tel(0463)-24-3311 fax(0463)-24-3300
e-mail [email protected]
調査研究部 長谷川 敦子
1265
Esprocarb
Pentoxazone
Cafenstrole
Ethylthiometon
Methidathion
Trifluralin
Carbaryl
Metribuzin
Determination of pesticides in the river water by LC/MS/MS
A simple analytical procedure has been developed for the determination of pesticides
(esprocarb, pentoxazone, cafenstrole, ethylthiometon, methidathion, trifluralin, carbaryl and
metribuzin) in river water by liquid chromatography-tandem mass spectrometry
(LC/MS/MS) coupled with solid-phase extraction. Ionization mode is positive ESI
(electrospray ionization). Precursor ions are [M+H]+ and [M+NH4]+ (pentoxazone) . Five
hundred mL of river water with formic acid (pH < 7) is passed through the solid-phase
extraction cartridge (NEXUS Jr.), 10 mL/min. After drying with pure nitrogen (1 L/min ×
40 min), the pesticides in the cartridge are eluted with 5 mL methanol, DCMU-d6 is added
as an internal standard, subsequently determined by LC/MS/MS. The degradations are
found in some pesticides added water samples which are stored over 5 days under natural
light or dark, pH7 and 9, have to keep pH low with formic acid after sampling. The
recoveries from water sample, relative standard deviations (RSD) and the method detection
limits (MDL) are 74 - 116%, 4.5 - 13% and 0.06 (esprocarb) - 200 (trifluralin) ng/L,
respectively. Using this method, the concentrations of pesticides in river water sampled at 8
sites in Kanagawa prefecture were determined. The maximum concentrations were 30 ng/L
(esprocarb), 16 ng/L (cafenstrole), 7.1 ng/L (methidathion) and 13 ng/L (carbaryl).
Pentoxazone, ethylthiometon, trifluralin and metribuzin were not detected.
Flowchart
sample
river water
500 mL
collection
SPE cartridge
10 mL/min
drying
N2 1 L/min
40 min
1266
extraction
LC/MS/MS
methanol
5 mL
DCMU-d6
tandem
ESI-posi
物質名
エスプロカルブ
ペントキサゾン
カフェンストロール
エチルチオメトン
メチダチオン
トリフルラリン
カルバリル
メトリブジン
分析法フローチャート
備
考
LC/MS/MS-SRM
ESIposi
水試料 500mL
固相抽出
10 mL/min
NEXUS Jr.
乾 燥
N2
LC/MS/MS-SRM
ESI posi
溶 出
メタノール
5 mL
カラム:
ACQUITY
BEH-C18
UPLC
長さ
50 mm
内径
2.1 mm
検出下限
<水質> ng/L
エスプロカルブ 0.06
ペントキサゾン 1
カフェンストロール 0.3
エチルチオメトン 4
0.9
メチダチオン
トリフルラリン 200
0.1
カルバリル
メトリブジン 3
1267