小中一貫教育で行っている「食育」 西尾市立寺津中学校 栄養教諭 榎本 美晴 西尾市立寺津小・中学校では‘03 年度から小中学校の 9 年間を緩やかな4・3・2制に移行し、‘04年度には文部 科学省の研究開発学校に指定され、小中一貫教育に取り組んでいる。小学校では’99年度から生活・総合的な 学習の時間を利用して食育を行ってきた。この成果を生かし、‘04年度に小中学校の 9 年間を通して学ぶ教科と して「生涯にわたって健康的な生活を営もうとする態度を育てる」ことを目標に「食育」を新設した。 <小・中学校の概要> 寺津小学校 生徒数: 418名 各学年 2∼3クラス 寺津中学校 生徒数: 209名 各学年 1∼3クラス ※ 学区内 2つの保育園があり、保・小・中の連携は伝統となっている。 ※ 2世帯同居世帯 44%、3世帯同居世帯 56%であり、祖父母同居家庭が多い。 食育を進めるにあたってもこうした地域性を生かしながら進めている。ここでは発達段階の特徴を踏 まえた食育の授業実践を紹介します。 1 食育科を導入した背景 残食を減らすために「食」に焦点をあてた教育に取り組み始めた。 私が同小中学校に赴任した‘98年当時、生徒の食べ残しが多く、特に野菜嫌いが目立った。翌’99年か ら、なんとかこの残食を減らせないかと「食」に焦点をあてた教育に取り組み始めた。その一つとして食と農の 距離を縮めることとした。こうしたことが給食の食べ残し改善に役立つと考えた。また、学校だけではなく、家庭 の食生活の改善にもつながるとの思いで取り組みを進め、この成果を生かし、9年間を通して系統的に学ぶ 教科「食育」の新設に至った。 2 食育科の内容 (1)「 4・3・2制 」をとり学年ごに体験、学習、実践を行う。 (2)各ステージの特徴を踏まえた授業実践 ○ 小学校第2学年 テーマ 「 やさいだいすき 」 ○ 小学校第5学年 テーマ 「 米作りから考えよう 安全・安心な食事 」 ○ 中学校第3学年 テーマ 「 世界の食の将来について考えよう ~ 自給率から分かること ~ 」 小1~4年生 感覚や知識の体得期(ファーストステージ) 小5~中1年生 知識や問題解決力の習得期(セカンドステージ) 中2~3年生 問題解決力や生き方の獲得期(サードステージ) ・ファーストステージでは、人間として備えなければならない感覚と基本的な知識や技能を 体験や反復練習等で身につける。 ・ セカンドステージでは、 専門的な知識や技能に触れ、自己を見つめ、他者と関わることで、 問題の解決方法を学習する。 ・ サードステージでは、広い視野に立ち、知識や技能を総合的に活用し、学びの成果を実践 するとともに、自己の生き方を探る。 ★ファーストステージ・小学校第2学年 テーマ 「 やさいだいすき 」 単元 夏やさい だいすき ① 単元の目標 心 収穫の喜びを感じるこ とで 野菜作りに関わる 人への感謝の気持ちを育 実践力 知識・理解 好き嫌いなく進んで野 夏野菜の葉や茎、花、実、 菜を食べようとすること 味の違いを理解することがで ができる。 きる。 てる。 実践した学習の内容 支援の内容 「野菜大好き」の歌を作り、毎時間授 ○ 嫌いな野菜についての 業の始めに振りを付けて歌うことにし アンケートをとった。 1 つ 資 料 など 結果 た。 か ・クラスの半数近くの児 む 童が嫌いな野菜に「な す・ピーマン・にんじ ん・ゴーヤ」をあげて いた。理由は「苦いか ら」が多かった。 野菜大好きの歌 た 1 夏野菜の苗を購入し、栽培した。 ○ 栽培指導は野菜作り し か に詳しい児童の祖父母に 2 野菜の成長を野菜日記にまとめた。 講師になってもらった。 め る ・ 水や草取り、支柱た 3 クイズ形式で野菜の葉、花の色や形、 て、肥料やり、カラ 実のでき方を学んだ。 スよけの工夫など ○ 4 五感、心を働かせて野菜を味あう。 グループを作って野菜 五感( 目・鼻・耳・口・舌 )で 味あう。 5 家庭のアイデア料理の紹介し、作って を味わせた。 ○ 保護者に生徒の苦手な 野菜を使ったおすすめ料 理を作ってもらった。 もらい、試食した。 い 1 「野菜パーティー」を行った。 か ○ メニューは児童が簡 単にできる料理を考 す ・ ○ 野菜たっぷりピザ作り えた。 野菜の栽培活動により、野菜の生育の大変さを実感し、野菜に愛着を示し食べ物を大切に思 成 う気持ちが育まれ、野菜嫌いを克服する児童が増えた。また調理活動の経験から家庭で料理の手伝 果 いをする児童が増加した。 ★セカンドステージ・小学校第 5 学年 テーマ「 米作りから考えよう 安全・安心な食事 」 単元 ごはんを主食とした献立を考えよう ② 単元の目標 心 実践力 日本の伝統的な米食を ごはんに合ったバラン ごはんに合ったバランスの 大切にしていこうとする スのよい献立をたて、調 よい献立の立て方を理解する。 気持ちを高める。 理することができる。 「6 つの基礎食品群の分け方」 実践した学習の内容 1 各自テーマを決め、米について調べ学 つ 知識・理解 支援した内容 もち米の食べ比べを む 行った。 1 ごはんに相性のよいおかずを考えた。 ○ 2 ごはんとみそ汁の作り方や工夫を学 各家 庭で の ごは ん とみそ汁の作り方や んだ。 工夫についての聞き し 取り調査を行った。 3 ごはんとみそ汁の調理実習を行った。 ○ め る など 玄米・胚芽米・白米・ か か 料 ○ 調べ学習を生かし 習を行った。 た 資 ごは んと み そ汁 を 作り、栄養バランスを調 4 6 つの基礎食品群に分類し、定着を図 った。 べた。赤・黄・緑に分け る 方 法で 野菜 不 足を 確 認させた。 ○ 毎日 の献 立 を活 用 した。 1 クラスのおすすめ献立を作成し、給食 の献立に活用した。 ○ 献立のこだわり決 めた。 ・ 6 つの基礎食品群 い か ごはん・さけの塩焼き・お浸し(ほうれ す ん草・にんじん・ピーナッツ・かつおぶ し)・野菜たっぷりみそ汁(大根・ねぎ・ 豆腐・にんじん・油揚げ・わかめ・豚肉・ みそ)、みかん がそろっているこ と。 ・ 野菜がたっぷりと れる。 ・地元の旬の食材を使 う。 ○ 単元のはじめにごはん、パン、麺のうちすすんで食べるものを尋ねたところ、ごはんが 50% であったが単元終了後のアンケートでは 70%に増加した。 成 ○ 身近な給食を教材として繰り返し学習することができたため、6 つの基礎食品群の分類学習の 定着が図れた。 果 ○ これまでの学習を振り返りながら授業を進めることができたことも効果的であった。 ○ 米作り、献立づくり、調理実習という一連の体験活動により、日本の米食を中心とした伝統的 食生活実践に繋がった。 ★サードステージ・中学校第 3 学年 テーマ「 世界の食の将来について考えよう~自給率から分かること~ 」 単元 食卓から世界の食を探る ③ 単元の目標 心 実践力 知識・理解 食料生産に携わる世界 地産地消の意義を踏ま 日本の食料輸入が世 や地元の人々に対する感 え、健康で安全な食品を 界の環境問題と結びつ 謝の気持ちを高める。 選択することができる。 いていることを知ると ともに、食料自給率を 高める「地産地消」の 取り組みについて理解 できる。 「6 つの基礎食品群の 分け方」 実践した学習の内容 1 輸入大豆と国産大豆を使った豆腐の 支援した内容 資 料 など ○ 国産大豆を使用 した豆腐と輸入 食べ比べを行った。 大豆を使用した つ 豆腐を用意した。 ※「国産大豆 か ・大豆の味がして甘い む ○ グループごとに 配り、試食し、味 輸入大豆 や風味について ・甘みが少ない」などの感想 話し合わせた。 国産は輸入の2倍 の価格であること を知らせた。 1 地元の商店やスーパーマーケットな ○ 地産地消につい どで売られている輸入食品についての て東海農政局の講 た 調査を行った。 演を開いた。 か ※ 「 バランスよく輸入、輸出を行っ め たほうがいいが、必要最低限に抑えら る れていることが大切である。」などの ○ 感想 2 地産マップの作 成 地元の農水産物についての調査を行 い、地産マップを作成した。 1 い 地産地消推進のため 「地元の食材 ○ 地元農産物流通 を取り入れた学校給食」の実施をし が確率されていな た。 いため、生徒が直 か 接、農家に出向き、 す 低農薬で安全な農 加工食品の表示 産物であるかを確 認し、野菜の提供を してもらった。 ○ 生徒が生産者と直接ふれ合うことでより「野菜を作ってくれた人や給食を作ってくれる調理員 成 さんに感謝 して給食を食べたい」という心の変化がみられた。 果 ○ 単元開始前のアンケートで「地域の産物を使用するべきだと思いますか」と尋ねたところ、使 用するべき と答えた生徒は35人中10人であったが単元終了後では、27人に増えた。 ○ 単元終了後のテストではほぼ全員が日本の食料自給率を「約40%」と答えることができた。 ○ 日本の食料自給率低下の要因について「魚を中心とする和食から肉を中心とする洋食に変って きたこと、ファーストフードに代表される簡便な加工食品に頼るようになってきたこと」と答 えている。 ○ 自給率が低下するとどのような問題が起こるのかの質問には ① 世界戦争により輸出国との貿易が途絶えてしまうことと食料不足になること。 ② 洋食化が進み、日本の伝統食がなくなってしまうこと。 ③ 高脂肪、高カロリーの偏った食生活による生活習慣病の増加などがあげられた。
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