2004 第14号 - 茨城県

茨城県政策情報誌 ふぉるむ
茨
城
県
政
策
情
報
誌
ふ
ぉ
る
む
平
成
十
六
年
第
14 号
Volume 14
2004年・第14号
CONTENTS
ふぉるむ
ランダムトーク
●地域資源の再発見と再評価
−「スローフード」からアグリトゥリズモまで
早稲田大学 教育学部/助教授 工藤 裕子 ………… 1
特 集 「地域再生について」
●地域再生の推進について
内閣官房 地域再生推進室/副室長 御園 慎一郎 ………… 2
●地域経済活性化プラン −地方自治体と地域企業と世界経済を結ぶ9つの提言−
PHP総合研究所 第二研究本部/本部長 永久 寿夫 ………… 9
●茨城県の地域再生構想について
企画部地域計画課 …………14
●建設業が農業経営に参入 −東頸城農業特区言−
新潟県東頸城郡浦川原村 建設農林課/課長補佐 山崎 剛 …………18
●多分野の公的サービスの民間開放に向けて
−外部委託等による雇用の創出−
足立区政策経営部政策課 …………24
政策提言
●アイディアオリンピック提案紹介 ……………………………………………………………28
政策研究報告
●人口減少社会について
企画部企画課政策研究グループ …………40
●規制インパクト分析(RIA)の導入について
企画部企画課政策研究グループ …………44
施策紹介
●構造改革特区を活かしたまちづくり
−金砂郷町幼保一体的運営特区の取り組み−
金砂郷町企画財政課長 高沢 信 …………48
●茨城県におけるESCO(エスコ)事業の取組について
企画部企画課政策研究グループ …………53
ラ
ン
ダ
ム
ト
ー
ク
地域資源の再発見と再評価
−「スローフード」からアグリトゥリズモまで
最近「スローフード」という言葉をしばしば
聞く。「スローフード」とは、食を通じて地域、
その歴史や固有の文化、伝統を再評価し、生活
の質、ライフスタイルの多様性などを重視、さ
らに食を超え、生活の全領域において地域の歴
史、文化、伝統などの諸資源を再発見・再評価
し、生き方を再考、新しいライフスタイルを提
案するものである。
スローフードはいまや世界的な運動である
が、北イタリアのピエモンテ州ランゲ地方のブ
ラ市において1980年、バローロワインの愛好協
会が創設されたのがその発端であった。当初、
ワインの販促、観光振興を主たる目的としてい
たが、次第に地域の食材・食文化の普及啓蒙、
さらに文化活動へと傾いてゆく。地域の特産物
を再評価する必要性の認識から86年に「アルチ
ゴーラ」、89年には「アルチゴーラ・スローフ
ード」と改名、国際化への第一歩を記す。会員
の一部は、当時ローマのスペイン広場に出店を
計画していたマクドナルドに対する反対運動を
支援、これが一般に広く知られるところとなり、
スローフードはファスト・フードに対抗する運
動という誤解を生んだ。既に15ヶ国に設立され
ていたスローフード協会は1989年12月、パリで
国際スローフード協会設立大会を開き、「スロ
ーフード宣言」を行う。これが世界的なスロー
フード運動の始まりとされる。
同宣言は、食が生活の一部であるのみならず、
生き方、ライフスタイルの問題であること、食
を消費者の立場からのみならず、生産という行
為、立場に注目し、生産者、産地のバラエティ
を認め、旬や食の行事を再評価すること、食に
対する意識、責任を高め、知識の取得、学習に
工藤 裕子
早稲田大学
教育学部/助教授
努めること、農業形態の開発を通じて貧困地域
の経済発展に貢献すること、などをうたう。食
を通じて五感の喜びを回復、再評価すること、
そのために味覚の教育が必要であることも強調
される。グローバル化によって失われつつある
郷土料理を再発見すること、食に限らず、生活、
環境、景観など地域に固有の諸資源について、
地域に固有の価値を再発見し再評価することが
必要、とする。
しかし、スローフード発祥の地イタリアにお
いても急速な都市化、高度情報化が進み、人々
のライフスタイルが大きく変化している。この
ためスローフードが再評価され、環境を重視し
自然に回帰する旅、祖先たちがかつて生活して
いたような農村環境の中で、地域資源を再発
見・再評価、自分を再考する場を提供するアグ
リトゥリズモ(農家もしくは農業企業が経営す
る宿泊などの施設)が人気を博している。その
教育的・啓蒙的な効果も指摘されており、スロ
ーフードの教育的要素を伝える場として、地域
に固有の歴史、伝統、文化を体感、体験する場
として、単なるヴァカンス以上の意味、意義を
有している。
翻って日本政府のうたう地域再生は、構造改
革特区などの諸政策とともに、規制緩和をはじ
め行政改革、制度改正の突破口としての期待が
強く、地域に固有の資源の再発見・再評価とい
う最も重要な視点が脆弱という感をぬぐえな
い。地域再生の鍵は、人々が自ら地域の資源・
価値を再発見・再評価すること、そして、それ
を信じて具体的な生産活動に展開させてゆく
人々の情熱である。
地域資源の再発見と再評価−「スローフード」からアグリトゥリズモまで
1
特 集
「地域再生」
特
集
●
地
域
再
生
地域再生の推進について
内閣官房 地域再生推進室/副室長
御園 慎一郎
●
1 はじめに
2
2 地域再生本部の設置
政府においては「官から民へ」「国から地方
首相の発言を受け、10月24日に地域経済の活
へ」という基本的な考え方に基づいて構造改革
性化と地域雇用の創造を、地域の視点から積極
を推進しているところである。昨年10月17日の
的かつ総合的に推進するため、首相を本部長と
経済財政諮問会議において、小泉首相が、構造
し、全閣僚で構成される地域再生本部が設置さ
改革の芽が出てきた今こそ地域の再生に取り組
れ、金子行政改革・規制改革担当相が地域再生
む絶好の時期であるとして、「地域が自ら考え、
担当相に任命された。同日の第1回の本部では、
行動する、国はこれを支援する」という形を基
具体的な進め方として、それぞれの地域自らが
本に、地域再生に本格的に取り組むこととし、
意欲を持って、自然環境、地場産業・技術、伝
しっかりとした体制を整備したいと発言したこ
統、観光資源等を活用し、例えば、地域の基幹
とで地域再生の取り組みが始まった。地域を限
的な産業の再生・事業転換、新規産業の創出等
定して規制改革を実施する構造改革特区が成果
の地域の再生のための計画を策定し、地域経済
をあげているところだが、国がメニューを示す
の活性化と地域雇用の創造に取り組むことが必
のではなく、地域が主体的に取り組んで国が支
要であることや、国は、このような地域の再生
援するという構造改革特区の方式を取り入れな
のための計画の策定を推進するとともに、「現
がら、規制改革にとどまらずに権限委譲や補助
場である地域の視点」でその実現を支援するた
金改革など幅広い支援措置を対象にすることで
め、ワンストップで地域の要望を受けとめ、当
地域の再生を図ろうとするものである。
該地域についての規制緩和や権限委譲、各種の
施策の利便性の向上や施策等の連携等により、
効率的かつ総合的な支援を行うこととし、平成
15年中に地域再生のための基本指針を策定する
こととした。
地域再生の推進について
3.地域再生のための
基本指針の策定
しい街づくりを進めることにより、地域の活性
化を図ろうとする構想や、「鹿島経済特区推進
プロジェクト構想」として、コンビナートの高
度産業間連携推進に係る各種補助施策の重点配
昨年12月19日の第 2 回本部では、本部による
分を行う等の支援措置により、素材産業の再生
総合調整のもと政府、地方公共団体、民間事業
に向けた今後の方向性を示す取り組みを進める
者等各関係者が一丸となって地域再生に向けた
構想など10件の構想が提案されているほか県内
取り組みを着実に遂行するため、今後の地域再
市町村から14件の構想が提案されている。
生を進める上での基本的な指針として、地域再
れぞれの地域再生構想にはいくつかの支援措置
生に関する基本的な考え方(地域が主体的に取
が含まれているため、寄せられた地域再生構想
り組み、政府は支援する)、地域再生の取り組
を実現するためには約1500件を超える支援措置
みの方針、今後のスケジュール(地方公共団体
の実現が必要となるが、内閣官房に置かれた地
や民間事業者から本年1月15日までの間に、施
域再生推進室が各省庁と調整して検討された。
そ
策の利便性の向上や施策の集中、連携等の支援
募集において約100件の提案があった補助金
措置についての提案を募集し、 2 月下旬に政府
施設の有効活用、例えば、廃校の農村体験施設
としての対応を決定する)等について基本指針
への転用や日立市のシビックセンターに中心市
を定めた。
街地活性化のための商業施設貸付等を行えるよ
特
集
●
地
域
再
生
●
うにするなどの補助金施設の有効活用につい
て、小泉首相から各省庁が政府全体の取り組み
4.地域再生構想の募集と
地域再生プログラム
として一体的に推進するよう対応するよう指示
が出されるなど、前向きに検討された。その結
果、予算との関係の考慮など地域再生の観点の
みでは結論を出すことができない約626件を除
年末年始をはさんだ短期間のうちに、392の
いた1557件のうち、半数を超える782件は現行
主体から(内訳は、地方公共団体299、NPO法
で実施可能なことが確認されたほか、新たに、
人や民間企業等93)、673の地域再生構想の提案
地域限定措置として23件、全国措置として118
が寄せられた。地域再生構想においては、構造
件の合計141件が地域再生のための支援措置と
改革特区とは異なって、規制改革のみならず補
して決定された。支援措置の中には、人づくり
助金にかかわる施策の利便性の向上や施策の集
のための地域再生伝道師や地域再生マネージャ
中といった手段を組み合わせることが可能なた
ーの導入、政策金融の利便性の向上などの新た
め、総合的な政策になっていることが特徴であ
な取り組みも盛り込まれている。(このほか地
る。例えば、茨城県からは、
「つくば広域都市圏
域再生プログラムの概要については別添資料を
活性化プロジェクト」として、国家公務員宿舎
参照されたい。)
の空室を創業支援施設として活用する等の支援
措置により、国の機関の独立行政法人化の動き
やつくばエクスプレス開通を契機に、これまで
蓄積されてきた資源のリニューアルとあわせ新
地域再生の推進について
3
5.地域再生計画の
作成・認定に向けて
特
集
●
地
域
再
生
●
時最新の情報を公開しているので参照された
い。
今後は、地方公共団体が地域限定措置・全国
措置の支援措置を含む地域再生計画を作成し、
政府は 5 月に申請を受け付け、6 月に最初の認
定を行う予定にしている。
地域再生計画の作成に当たって地方公共団体
において留意する点は、地域再生が「地域が自
ら考え、行動する、国はこれを支援する」とい
う基本的な考え方にたって行われるべきことで
あって、地域経済の活性化と雇用の創造のため
に自分たちの地域の資源をどのように生かすか
というのが出発点でなければならないというこ
とである。地域再生推進室でも、今回の支援措
置や情報提供を通じて地方公共団体の取り組み
を支援していくが、今回の支援措置がどのよう
なものであるかとか、その支援措置を受けるた
4
jp/singi/tiikisaisei/index.html)上においても随
めにどうすればいいのかといったような、はじ
めに支援措置ありきという考え方は不適当であ
る。
まず地域の資源からスタートすれば、例え
ば、茨城県の場合、地域の再生に活用できる資
源に恵まれていることにすぐに気づくはずで、
日本最大のサイエンスパークである筑波学園都
市があるし、都市に近いのに海や山に恵まれた
農業県であるし、アントラーズや水戸芸術館は
地域の枠を超えて日本の文化・スポーツの拠点
になっている。あとはこのような資源をどのよう
に活かしていくかであって、地方公共団体がそ
のために自ら考え、行動するのであれば、国と
してもできる限りの支援をするつもりである。
内閣の最重要課題である地域再生をより一層強
力に推進するため「地域再生タウンミーティング」
を3月13日を皮切りに集中的に開催しているとこ
ろである。なお、HP(http://www.kantei.go.jp/
地域再生の推進について
地域再生推進のためのプログラムの概要
特
集
1.はじめに
●
地
域
再
生
全体としては景気は着実に回復しているものの、
景気改善の状況には地域差
●
地域の産業構成や輸出競争力の違い
構造変化の進展
深刻な問題に直面
少子高齢化
地域産業の衰退
海外へ生産移転
雇用悪化の懸念
公共投資の縮減
中心市街地の空洞化
構
造
改
革
の
必
要
性
地域の歴史や文化、味覚や風土を発見する観光
成
功
事
例
食の安全ニーズの高まりに対応した産地直送販売
インターネット等の情報通信網や各種基盤整備に支えられながら、
独自の優れた技術力を活用
地域の持つ可能性や潜在力に着目した
「プラス思考の構造改革」の推進が必要
「プラス思考の構造改革」
地域再生の推進について
5
2.地域再生の推進の意義及び目的
特
集
●
地
域
再
生
●
⃝「自助と自立の精神」「知恵と工夫の競争による活性化」を尊重しつつ、
政府が一丸となって創意工夫ある取組みを全面的に支援
⃝文化的・社会的なつながりによる地域のコミュニティーの活用や、民間
事業者の健全なビジネス展開を通じ十分な雇用を実現
⃝地域における産業、技術、人材、観光資源、自然環境、文化、歴史など
地域が有する様々な資源や強みを知恵と工夫により有効活用
3.地域再生の実現に向けた考え方と今回の取組の概要
考え方
地域再生の実現
6
民間の知恵や創意工夫を
最大限活用
地域の意志決定の裁量拡大
⃝地域におけるヒト・モノ・カネ、ノウハウ等の好循環の実現
←地域の主体的な取組を阻害している制度等の改善や循環を
加速する支援措置
⃝新たな資源の発掘・育成
←人材・ノウハウ等の面における積極的・総合的・横断的サポート
経済財政諮問会議、都市再生本部、食料・農業・農村政策推進本部
観光立国関係諮問会議、総合科学技術会議、産業再生機構等、
各種関係機関等と緊密な連携
地域再生の推進について
取組の概要
(1)地域主導による資源の有効利用
⃝補助対象施設等の有効活用 ⃝地域主導による公物管理の実現
⃝アウトソーシングの促進 ⃝PFI事業の積極的活用
⃝地域を活かす視点からの制度の改善等
(2)地域の視点に立った雇用対策の推進
特
集
●
⃝地域再生雇用支援ネットワーク事業の創設 ⃝ジョブカフェの整備
(3)地域再生の担い手育成等のためのノウハウ等の支援
⃝「地域再生伝導師」の導入 ⃝地域再生マネージャー制度の導入
⃝「地域再生支援チーム」の設置 ⃝地域づくり支援室などアドバイザー機能の強化
地
域
再
生
●
(4)地域の基幹産業の再生
⃝建設業の新分野進出など経営革新の促進 ⃝農林水産業の再生
⃝都市と農山漁村の共生・交流の推進 ⃝中小企業の挑戦・再生の支援等
⃝コミュニティ・サービス事業の活性化支援
(5)地域観光の活性化等
⃝案内標識に関するガイドラインの策定 ⃝良好な景観・まちなみ形成の実現
⃝「−地域−観光」を推進する「ひと」
「情報」の充実
⃝地域交通の再生 ⃝「エコツーリズム」の推進
(6)地域のIT化・バリアフリー化
⃝地域イントラネット基盤施設整備事業等の拡充
⃝移動通信用鉄塔施設整備事業の補助対象拡充
⃝ロボット実証実験における特定実験局開設 ⃝管理用光ファイバーの地域再生への活用
⃝駅・まちバリアフリーに関する総合的な構想の策定 ⃝駅・まちバリアフリー関連の情報の提供
(7)地域再生実験の促進
⃝ICカード、パークアンドライド、公共交通・観光活性化連携システム、カーシェアリング等
各種実験の実施
⃝バイオマスタウン構想(仮称)の実現に向けた取組み ⃝地域通貨モデルシステムの導入支援
(8)支援施策の連携・集中
⃝「まちづくり交付金」等の積極的活用
⃝地域再生雇用支援ネットワーク事業による集中的な支援
⃝環境と経済の好循環のまちモデル事業の実施
(9)政策金融等の利便性の向上
⃝日本政策投資銀行の低利融資
⃝中小企業向け政府系金融機関による「金融環境変化対応資金」の融資条件の緩和に向けた取組み
⃝コミュニティ・ファンドの形成支援
(10)地域再生の推進に資する法案
9本の法案については地域再生の視点からも今通常国会で早期成立を図る。
地域再生の推進について
7
4.
地域再生推進のために政府が実施すべき政策に関するプログラム
特
集
●
地
域
再
生
(1)地域再生の支援措置の提案募集、検討
平成15年度、平成16年1月実施済み、平成16年6月目途
(今後のスケジュールについては、6月の提案募集の状況を勘案して決定)
(2)提案募集に基づき講じることとする支援措置
地域限定 23件
全国対応 118件 → 可能な限り早期に詳細を公表
●
5.地域再生計画の認定に関するプログラム
(1)地域再生計画の認定 ※特区の認定と一体的に進める
→①地域限定の支援措置の適用
②円滑・確実な実施のためのフォローアップ等
(2)地域再生計画の認定申請スケジュール等
→平成16年5月を目途
(今後のスケジュールについては、5月の申請状況を勘案して決定)
8
(3)地域再生計画の認定申請に当たっての基本的な事項
→申請主体、計画記載事項、民間事業者の意見聴取等
(4)地域再生計画の認定基準
・地域再生の推進の意義及び目標と合致していること
・地域限定又は全国措置いずれかの支援措置を講ずるものであること等
・地域経済の活性化と地域雇用の創造に、必要不可欠な支援措置であること
・民間事業者等の提案等適切な意見聴取を行っていること
・計画の実施が適切な経済的社会的効果を及ぼすものであること
・計画が円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること
(5)関係行政機関の長による同意の手続き
(6)認定しなかった場合、不同意の場合の理由の通知
(7)地域再生計画のフォローアップ
6.その他
(1)法令解釈事前確認制度
(2)地方公共団体、民間事業者等から苦情処理・相談等
地域再生の推進について
特 集
「地域再生」
特
集
●
地域経済活性化プラン
永久 寿夫
−地方自治体と地域企業と世界経済を結ぶ9つの提言−
PHP総合研究所
第二研究本部/本部長
地
域
再
生
●
内閣府の発表によれば、2003年10月∼12月期の
規制緩和を行う特例措置(構造改革特区)を設け、
実質GDPは前期比1.6%(名目0.4%)増、年率
地域の新たな試みに側面援助をしてきたが、今後
換算で6.4%(名目1.7%)増とバブル崩壊後最高
はそれを全国に拡大するとの方針を打ち出してい
の水準を示した。海外の景気回復、特に中国の景
る。特例の「拡大」ではなく、
「一般化」すべき
気に対応するかたちで輸出関連産業の活動が活発
という議論はあるとしても、地域経済の活性化が
化し、設備投資が増えたことが主因である。メデ
日本経済全体を回復させるカギであるという認識
ィアでも、海の彼方からの需要の波に乗って、瀕
がうかがえる。
死状態からV字回復をした企業がいくつも紹介さ
PHP総合研究所では、自治体が地域経済活性
れている。
「重厚長大」産業から「軽薄短小」産
化に取り組む際の参考として、昨年9月に「地域
業まで、大企業からその下請けである中小企業に
経済活性化プラン――地方自治体と地域企業と世
至るまで、海外需要の恩恵にあずかっている企業
界経済を結ぶ9つの提言」を発表した。提言は3
は多様である。
つの戦略とそれに基づく9つの施策から構成され
しかし、その一方で、大企業が生産拠点を海外
ている。ここで簡単にその内容を紹介したい。
に移転あるいは生産調整をしたために、需要が減
少し、高度な技術やノウハウ、優秀な製品をもち
ながらも、それを活かしきれずに「景気回復」を
横目でみざるをえない中小企業もいまだ少なくな
戦略的な地域産業政策を打ち立てる
い。こうした企業がその潜在力を発揮できなけれ
ば、景気回復もたしかなものとはならないのでは
ないか。
第一の戦略は、
「戦略的な地域産業政策を打ち
才気ある自治体は、地元の悩める中小企業の潜
立てる」である。当たり前といえば当たり前の
在力を顕在化させるため、同業・異業他社をコー
ことだが、これまで自治体の産業政策といえば、
ディネイトし、地域発の新たな商品づくりやプロ
企業誘致(工場団地やインキュベート施設提供
ジェクトをサポートするなど、ベンチャー育成も
などの「施設整備」や補助金など)
、地場産業の
含めて、新たな試みに挑戦している。国もまた、
振興、地元中小企業への制度融資などの経営支
地域経済の活性化を促すため、地域限定で特定の
援、あるいは技術支援や経営診断といったもの
「地域経済活性化プラン」―地方自治体と地域企業と世界経済を結ぶ9つの提言―
9
責任を確保することにもなる。
が中心であり、それらは必ずしも有機的に結合
特
集
●
地
域
再
生
●
されてはいなかった。しかも、国からの補助金
つぎに「地域企業へのコンサルティングの実
などに依存する部分が大きく、結果的に、生産
施(施策2)
」である。これまでも自治体は地域
性や効率よりも「事業執行」というアウトプッ
企業に対して、さまざまな情報提供や援助を行
トに焦点があたっていた。
ってきた。しかし、これだけでは事業が成功す
こうした問題を克服するためには、単独の企
る確率は高いものにはならない。そこで自治体
業、特に大企業や大規模工場だけに焦点をあて
が専属のコンサルタントを雇用し、地域企業に
るのではなく、規模の大小を問わず、一定数の
よる新規・既存事業に対してコンサルティング
企業や機関、情報、技術、人材が集約された比
を行う。地域の産業活性化に大きな貢献ができ
較優位のある分野を地域の産業基盤としてとら
ると思われる事業については、さらに実現可能
え、その産業基盤における各企業の経営状況な
性調査(Feasible Study=FS)を行い、次に示す
らびに国際的な競争力・発展性を調査・研究し、
「地域企業活性化基金の設立(施策3)」によっ
て事業の発展を促すのである。
自治体の産業政策として戦略目標と支援メニュ
「地域企業活性化基金」とは、地域の金融機関、
ーをつくる必要がある。
10
具体的には、まず「投資と地域経済発展の循
企業、コンサルタント、住民等からの出資と人
環モデルの作成(施策1)」を行うことである。
材によって設立する地域企業向けの投融資機関
これまで自治体による経済政策の地域経済への
である。自治体による融資制度はすでにあるが、
貢献については明確に検証されることがあまり
企業は事業展開の実現可能性が十分に把握でき
なく、その正当性に関する客観的な判断ができ
ず、また融資ということからリスク回避を行っ
なかった。そこで、投資・融資とそれによる効
たり、大胆な活動を避ける傾向があった。そこ
果(企業収益、税収、雇用創出、企業移転、付
で、前述したFSで収益性が認められ、ビジネ
随的な環境整備)をリストアップし、地域経済
スとして発展性が見込まれる事業については、
発展の連関を実証的にシミュレーションする。
この基金から主に投資を行い、同時に、専門的
これによって地域産業政策のロジックが明確に
な能力をもつ人材をその事業に派遣し、事業の
なり、費用対効果も計算できるようになる。同
成功をはかるのである(施策2、3のイメージ
時にこれは、政策の正当性と住民に対する説明
は図1を参照)
。
図1
コンサルタント雇用費用
人材
自治体
(FS以降、成功した場合)
出資・人材
コンサルタント雇用費用
公募
企業
投資・融資の
プロモーション
有望案件
コンサル
FS
コンサルティング
投資・融資
配当・利子・返済
「地域経済活性化プラン」―地方自治体と地域企業と世界経済を結ぶ9つの提言―
地域経済
活性化基金
企業・金融機関
コンサル・住民
配当
に、もう一方で海外からの企業誘致を前提とし
グローバルな地域経営を考える
た機能集積と生活空間を組み込んだ産業クラス
ターを形成することである。
またウェブサイトについては直接投資や企業
第二の戦略は「グローバルな地域経営を考え
進出のための情報提供にとどまらず、海外需要
る」である。グローバルな地域経営とは、地域
と地域企業を結ぶ「ビジネスマッチングサイト
の企業が国境を越え、ダイレクトに外国企業と
の構築(施策5)」もはかる。この際、外国企
の交流を深めながら経済活動を展開することで
業からのアクセスを容易にするために、各国の
ある。これまでも、アジア諸国への投資や技術
有名ビジネスサイトに現地語の情報として載せ
移転が行われ、地域によっては空洞化が進み、
る。こうしたことは中小企業では荷が重いので、
グローバルな展開は地域経済にはマイナスとと
載せる情報については自治体が取りまとめ、翻
らえられてきた側面がある。しかし、マクロで
訳の費用なども自治体が負担する。引き合いが
見た場合、現在、アジア地域との輸出入はとも
あった場合、その事業化については、すでに述
に増加しており、機械産業では国際的水平分業
べたコンサルタントなどが積極的に関与するシ
すら成立しつつある。さらに、日本への直接投
ステムを設ける(施策4、5のイメージは図2
資という、これまでとは逆の流れも大きくなり
を参照)。
か、活況を呈する東アジア経済との効果的な結
「東アジア地域における信用補完機関の常設
合をはかることは、これからの地域経済にはプ
(施策6)」も重要である。東アジアにはインフ
ラ整備、資源開発等の大掛かりなプロジェクト
ラス要因となる。
具体的には、「海外からの直接投資の促進
がいくつも存在するが、信用補完がないために
(施策4)」をはかるため、海外出先機関ならび
実現に至らないものが少なくない。東アジア各
にウェブサイトに、直接投資を求める企業や企
国ならびに国際的金融機関が、それらのプロジ
業進出を求める産業の情報を提供すると同時
ェクトに対して信用補完をするような機関を創
図2
進 出
企業
企業
企業
日本
投資
情報
企業
企業
企業
産業クラスター
取り引き
マッチングサイト
出先機関
●
地
域
再
生
●
また自治体が取り組むべき施策ではないが、
つつある。日本経済が総じて停滞傾向にあるな
X国
特
集
企業
自治体
「地域経済活性化プラン」―地方自治体と地域企業と世界経済を結ぶ9つの提言―
11
特
集
設すれば、日本企業への需要が高まるとともに、
職員を専任職とする別枠の人事システムと目標
企業もまたリスクを心配せずに、事業に参画す
管理を徹底した評価システムを導入するのであ
ることが可能となる。そうなれば日本各地の中
る。これによって、迅速な意思決定のもとで専
小企業の生産活動も活発化するはずである。
門的な政策・施策の実行が可能となる。
また、中小企業が海外展開をはかる際にもっ
●
地
域
再
生
とも大きな障害となるのが、海外における情報
収集のむずかしさ、慣習や法律、言語の違いな
モノではなくヒトに投資をする
の大学などに、たとえば東アジアでビジネス展
●
開するための基本的な知識と語学を教育する
第三の戦略は、「モノではなくヒトに投資を
12
どである。こうした問題を解決するには、地域
「対東アジア人材養成プログラムの設置(施策
する」ことである。グローバルな視点に立ち、
8)」を行い、自治体や企業が人材を派遣する。
戦略的な地域産業政策を展開していくために
あるいは各企業に教員を派遣し、具体的なコン
は、現在の自治体職員の力だけでは必ずしも十
サルティングを行うことも考えられる。
分とはいえず、外部の専門家を活用したり、内
さらにこのプログラムを発展させ、「地域版
部で専門家を養成するなど、新しい方法で人材
東アジア留学生スカラシップの設立(施策9)
」
の開発を行っていかなくてはならない。同時に、
や空いている公共住宅の提供を通じて東アジア
また、その新しい人材の力を効果的に発揮させ
などからの留学生の受け入れを促し、言語はも
るシステムもつくっていかねばならない。
ちろん日本に関する知識、慣習、法律などを学
80年代から進められてきた行政改革によっ
ばせ、地域と東アジア諸国とを結ぶかけはしに
て、自治体では「コスト削減」=「人員削減」
育てることも考えられる。プログラムを修了し
という概念が定着し、人的投資は「悪」である
た留学生をその地域の企業に雇い入れることも
という思い込みがある。しかし、新しい政策を
一つであるが、帰国留学生と地域企業との間に
展開するためには、それにふさわしい人材が不
交流窓口を常設することによって、地域企業の
可欠であり、地域産業の活性化が達成されれば、
海外展開のパートナーとすることも可能となる
人材への投資は施設建設やその維持に比較する
と「格安」となる。
具体的には、まず「首長直轄組織の設置と専
(施策8、9のイメージは図3を参照)
。
提言の内容を総括すれば、地域の特性と海外
の経済動向をみながら、専門家の知識と知恵、
任者の育成(施策7)」を行う。地域産業政策
地域の金融機関や教育機関を組み込み、戦略的
の担当に民間企業経験者を採用したり、自治体
な地域経済政策を打ち立てるということであ
職員を民間企業に出向させ民間のノウハウを学
る。自治体はもちろんその政策立案の主体であ
ばせる。あるいは学位取得のための留学制度を
ると同時に、そのプロセスにおいては、事業主
もうけるなど、戦略的な人材育成や登用を行う
体としてよりも、企業、金融機関、専門家、教
のである。そして、地域産業に関する戦略プラ
育機関、住民といった地域の各主体間を結ぶコ
ンを打ち立てる首長直轄の「地域経済活性化本
ーディネイターとしての機能を果たしていかな
部」を自治体内部に設置すると同時に、その本
くてはならない。
部ならびに事業の実施機関に、専門家となった
「地域経済活性化プラン」―地方自治体と地域企業と世界経済を結ぶ9つの提言―
図3
東アジア各国
留学生
特
集
人材
留学費用
・住居
ビジネス
チャンス
●
留学
地域の大学
東アジア留学生スカラシップ
対東アジア戦略人材養成プログラム
出資
自治体
交流窓口
地
域
再
生
●
出資
ビジネスチャンス
国内留学
企業
人材・コンサルティング
連携・協力
との関係が間接的なものとなり、地域密着型の
自治体の規模は問題ではない
政策が十分にとれない場合もあるが、基礎的自
治体間の調整を行うことや、地域の公立大学に
対する働きかけなど、広域自治体だからこそで
ここで紹介した提言は自治体が地域経済活性
化をはかるうえでの理念型であり、各自治体が
実際に政策・施策を考える上では、当然ながら、
きる政策分野があり、その機能には大きな期待
がかかる。
現在、PHP総合研究所では、地域経済活性
地域の特性を活かし、独自のものを考えていか
化のためのより具体的な提言を行うべく、斬新
なければならない。さらに、実行の段階では、
な試みに取り組んでいる自治体の活動を取材中
規制などの障害や予期しない問題が生じ、思う
である。その内容は随時、インターネット等を
ような展開ができないこともある。それを克服
通じてご紹介するとともに、その内容を分析し、
するには臨機応変な対応が必要となる。
また、「地域経済活性化プラン」で想定した
自治体の規模は中核市程度であるが、いくつか
の現地調査を通じてわかったことは、ある程度
の規模は必要ではあるが、一般の市程度の規模
であれば、十分に実現可能ということである。
首長に柔軟な発想と決断力、職員にやる気さえ
あれば、むしろ小さな自治体のほうが適切な政
策が打ち出せ、行動もすばやく、チャンスを逃
さない。
「地域経済活性化プラン第二弾」としてまとめ、
今年中に発表する予定である。
*「地域経済活性化プラン」プロジェクトメンバー
真田幸光(愛知淑徳大学教授)
永久寿夫(PHP総合研究所第二研究本部長)
西澤正樹(パス研究所社長)
前田宏子(PHP総合研究所研究員)
南 学(静岡文化芸術大学助教授)
*「地域経済活性化プラン」事務局
土井系祐(PHP総合研究所研究プロデューサー)
電話:03-3239-6222 /Email:[email protected]
都道府県などの広域自治体は地域の中小企業
「地域経済活性化プラン」―地方自治体と地域企業と世界経済を結ぶ9つの提言―
13
特 集
「地域再生」
特
集
●
地
域
再
生
茨城県の地域再生
構想について
企画部地域計画課
●
1 はじめに
わが国経済は、現在、景気の持ち直しが見ら
れるが、少子高齢化の進行、国際化の進展、情
14
2 本県における構想の概要
本県が提案した構想の概要については、以下
のとおりである。
報通信技術の高度化等構造的な変化が生じてお
全県域を対象として観光農業を振興するため
り、地域経済においてもこれらの課題への対応
の構想である「温泉施設を活用した観光農業推
が求められている。
進プロジェクト」のほか、以下は地域を特定し
こうした中、政府においては「官から民へ」
た構想である。
「国から地方へ」という基本的な考え方に基づ
まず、地域資源を活かした交流拡大のための
いて施策を推進しているところであり、昨年10
構想として「茨城グリーンふるさと交流圏魅力
月24日に地域経済の活性化と地域雇用の創造
アップ・プロジェクト」、「霞ヶ浦レイクツーリ
を、地域の視点から積極的かつ総合的に推進す
ズム推進プロジェクト」、「鬼怒・小貝川 花と
るため地域再生推進本部を設置し、12月19日に、
水の交流圏形成プロジェクト」、「カシマスポー
地域自らが意欲を持って、自然環境、地域の産
ツ交流空間創造プロジェクト」の4件。
業・技術、観光資源、文化・歴史等を活用した
それから、特区構想を補完し首都圏の拠点と
地域の再生を図ろうとする取組みに対し、規制
なる先進の都市づくりを推進するための構想と
緩和や権限委譲、各種の施策の利便性の向上や
して「つくば広域都市圏活性化プロジェクト」、
施策等の連携により、効率的かつ総合的な支援
「ひたちなか地区の土地活用及び港湾利用推進
を行うこととした「地域再生のための基本指針」
プロジェクト」、「『鹿島経済特区』推進プロジ
を策定して、各地方自治体等から地域再生構想
ェクト構想」の3件。
の提案募集を行った。
これに対し、本県においても、地域経済の活
園芸農業を振興するための構想として「いば
らき常総大地における大規模園芸産地の育成」
、
性化や地域雇用の創造を図るため10件の構想を
さらに、高齢者・障害者誰もが快適に暮らせる
提案したところである。
街づくりのための構想として「県央地域ユニバ
茨城県の地域再生構想について
ーサルデザイン推進プロジェクト」の合計10件
である。
また、市町村においても、山方町の廃校を活
・公営住宅を住宅用途として目的外使用すること
を認めるとともに、その手続きを事後報告とす
る公営住宅の目的外使用承認の柔軟化措置
用して都市と農村の共生・交流を推進する「廃
・組合等施行土地区画整理事業のうち都市基盤
校利用と都市交流プロジェクト」やつくば市の
整備公団施行分の地方負担に対する起債措置
●
「市内公共交通を補完する新たな交通システム
の整備」など、11市町村(4市町による共同提
全国措置
案を含む)が14件の構想を提案した。
・市民農園で生産された農作物の販売を可能と
する措置
・地域振興施設を設置運営する第三セクター設
3.地域再生プログラムの
決定と今後の展開
特
集
地
域
再
生
●
立のための出資金について地域再生事業債と
して適用する措置
・コミュニティバスの許可に関する基準の弾力
化措置
本県をはじめとして多くの地方公共団体等が
地域再生構想を提案し、全国で392の団体等か
ら673の地域再生構想が提案され、1,557件の支
援措置の要望が寄せられた。
これに対し、国では去る2月27日に地域再生
のためのプログラムを決定し、補助金で建設さ
・業務核都市基本構想の変更手続きの際に予備
調査を不要とする措置
・高速道路を有効活用するスマートICの整備
促進措置
・高圧ガス保安法で貯槽以外の高圧ガス設備開
放検査周期を変更設定できる措置
れた廃校校舎の転用の弾力化や地域通貨モデル
システムの導入支援など地域限定措置として23
また、市町村においては、14構想62件の支援
件、道路使用許可・道路占有許可の手続き改善
措置の要望に対し、地域限定措置2件、全国措
や地域再生業務を民間に委託する「地域再生マ
置4件の合計6件が支援措置項目として盛り込
ネージャー制度」の導入など、全国措置として
まれている。その内容としては以下のとおりで
118件の合計141件の支援措置項目をプログラム
ある。
化したところである。
本県提案の10構想101件の支援措置の要望に
地域限定措置
対しては、地域限定措置が3件、全国措置が6
・既存の公共施設(廃校校舎等)を交流拠点施
件の合計9件が支援措置項目として盛り込まれ
設として転用する際に増築、改築等するリニ
ている。その内容としては以下のとおりである。
ューアル事業について地域活性化事業債の対
象とする措置(山方町)
地域限定措置
・既存の公共施設(廃校校舎等)を交流拠点施
・廃校校舎等の転用に伴う財産処分における国
庫納付金の免除措置(山方町)
設として転用する際に増築、改築等するリニ
ューアル事業について地域活性化事業債の対
全国措置
象とする措置
・コミュニティバスの許可に関する基準の弾力
茨城県の地域再生構想について
15
今回のプログラムでは、全体として地域再生構
化措置(つくば市)
特
集
●
地
域
再
生
・コミュニティ・ファンドの創設にあたり出資等
想を実現するための支援措置項目が少なく、また
を行う際に地方債を発行する場合の償還金利子
補助金の要件緩和・集中など国の予算と関係する
の地方交付税算入措置(潮来市他3町共同)
ものはプログラム化されたものがほとんどなかっ
・コミュニティ・サービス事業を行うNPO等
た。地域再生推進室においては、これらについて
の活動を活性化させるための経費を地方交付
引き続き関係省庁と調整を進め、平成17年度の概
税に算入する措置」(潮来市他3町共同)
算要求には反映していくとしている。
・高速道路を有効活用するスマートICの整備
本県としては、このような状況を踏まえつつ、
事業主体との調整を図るなど地域再生計画の申
促進措置(友部町)
●
請に向けた検討を進めるとともに、市町村の計
今後、国においては、5月に地域再生計画の
認定申請を受付し、6月に地域再生計画の認定
画申請の促進を図るなど地域経済の活性化が図
られるよう取組んでいきたいと考えている。
を行う予定である。
茨城県の地域再生構想
茨城グリーンふるさと交流圏
魅力アップ・プロジェクト
温泉施設を活用した観光農業
推進プロジェクト
(県全域)
16
自然や歴史など地域資源を活かした都市農
村交流を促進するため、地域間の連携や交流メ
ニューを増やすなど地域全体の魅力向上を図り、
グリーンツーリズムの拠点地域を形成する。
温泉施設を設置し地域の活性化を図ってい
る市町村において、温泉と周辺の農業資源を活
用した都市農村交流や観光などの取組みを促
進し、一層の地域活性化を図る。
ひたちなか地区の土地活用及び
港湾利用推進プロジェクト
ひたちなか地区への企業立地を一層推進す
るための環境整備を行うとともに、港湾における
手続きの簡素化やコストの低減化による使いや
すい港づくりを進めることにより、国際港湾公園
都市づくりを推進する。
つくば広域都市圏
活性化プロジェクト
国の機関・公団等の独立行政法人化や平
成17年秋のつくばエクスプレス開通を機に筑
波研究学園都市のリニューアルと合わせ新
しいまちづくりを進めるとともに、つくばエクス
プレスの沿線開発を進め、つくばの拠点性の
一層の向上を図り、県南地域の発展を先導
する都市地域を形成する。
県央地域ユニバーサルデザイン
推進プロジェクト
桜の郷地区を含む当地域は保健・福祉・医療
の集積が進んできているため、ユニバーサルデ
ザイン、バリアフリーへの取組みを強化・支援する
ことにより、高齢者・障害者を含めた誰もが安心
できる街づくりを促進する。
いばらき常総大地における
大規模園芸産地の育成
『鹿島経済特区』推進プロジェクト構想
(コンビナート地域の再生)
首都圏における新鮮な青果物供給の大規模
産地とするため、畑地基盤等の整備の促進、新
規就農者の受け入れ、農産加工施設の整備の
促進等、青果物生産出荷体制の拡充を図る。
鹿島臨海工業地帯の国際競争力を高めるため、
世界に通用する競争力の高いコンビナートへの
構造転換を進め、素材産業を中核とした多様な
産業集積群の形成を図り、
コンビナートの再構築
を目指す。
鬼怒・小貝 花と水の交流圏
形成プロジェクト
鬼怒川・小貝川の沿岸において、つくばエ
クスプレスの整備効果を活かして、
自然歴史
芸術・文化などの地域資源を活用した市町
村間のネットワーク化を図り、
自然の魅力あふ
れる首都圏の新たな広域交流圏を形成する。
茨城県の地域再生構想について
カシマスポーツ交流空間
創造プロジェクト
霞ヶ浦レイクツーリズム
推進プロジェクト
霞ヶ浦の地域資源と圏央道等の広域交通ネ
ットワークの整備効果を活かし環境共生型の新
たな文化を創造・発信する首都圏におけるレクリ
エーションゾーンを形成する。
サッカーなどスポーツの盛んな地域性を活かし、
スポーツ合宿や各種大会の開催などスポーツに
よる交流拡大と集客力向上のため、
より一層魅
力的なスポーツ交流空間の創造を図る。
地域再生に係る市町村の提案概要
市町村名
構 想 名 称
事 業 内 容
社会資本を活用した交通渋滞緩和策
国道,高速道路の有効活用による市内渋滞緩和
・国道の3車線化
・高速道路利用料割引
市独自財源確保策
教育,福祉等の市独自財源の確保
・使途を特定した市独自の宝くじ発行
・電源立地特別交付金の市財源化
国庫補助により整備した施設の有効利用
利用頻度が低下している国庫補助により整備された施設の有効利用
・新都市拠点整備事業による施設を商業テナント等として活用
・地方卸売市場施設整備事業による施設の転用
公共交通機関の支援により市民の交通手段の確保
バス事業者に対する税減免措置による公共交通手段の確保
地方債の適用拡大による公共施設の機能維持方策
各種公共施設の補修・改修による有効活用
ひとづくり・ものづくり・地域づくり構想
人材育成,産学連携によるものづくり地域の実現
・大学,工業高校等における現場実習の強化
・中小企業の研究開発に対する支援
・企業ニーズに合致した職業能力開発
・社会システム型製品の実証実験誘致による地域企業技術力の向上
・産学連携支援
廃校利用と都市交流プロジェクト
廃校を活用した都市農村交流
・町による廃校の改修
・改修施設をNPO、民間企業に貸与し野外活動や体験活動、コミュ
ニティビジネスなど都市農村交流拠点として事業を展開。
歴史的たたずまいを活かした地域づくり
行政と住民が一体となって、歴史的資源を活用したまちづくりを総合
的に進める。
・伝統的建造物群保存対策調査の実施
・街並みの骨格となる都市計画の推進
・有形文化財登録の推進
五霞町
複合型産業拠点形成プロジェクト
新4号国道と今後見込まれる圏央道ICなどの整備効果を活かして、
商業・流通・業務など新たな複合型産業拠点の形成を図り、町の活性
化を推進する。
・大規模商業施設の整備
・地域生活者の利便性の向上・定住化
取手市
市民とのパートナーシップによる協働行政運営
プロジェクト
市職員に準じた資格を付与した者に窓口業務等を担当させて、市民と
行政の相互理解を進め、効率的で柔軟性のある行政への転換を図る。
・市職員でない者にも、一定の資格要件を満たした者に対し、諸証明
発行業務等を委託する。
友部町
物流拠点の立地優位性を最大限活用した地域振興
総合物流センターを常磐自動車道や北関東自動車道の交通網を活かし
て、広域的な物流拠点として機能させ地域経済の活性化と地域雇用の
創造を図る。
・企業進出の促進(流通加工、販売機能等を併設施設の立地促進)
筑波研究学園都市のリニューアル及びつくばエ
クスプレスを活用した地域活性化構想
筑波研究学園都市における研究・交流機能の充実による地域再生とつ
くばエクスプレスを活用により地域の活性化及び新事業の創出、産学
官連携による新産業の創出を図る。
・「つくば」魅力アップ
・ベンチャー創業、民間企業の立地促進
市内公共交通を補完する新たな交通システムの
整備
市内の公共交通を補完する新たな運行システムの整備充実を図り、地
域産業経済の活性化と市民生活の利便性の向上を図る。
・病院、結婚式場、私立学校など民間が独自に運営している送迎バス
を有機的・機動的に運行する。
行方ふるさと圏創生プロジェクト
産業や商店街活性化のため、商業・サービス業の分野を中心とした地
域密着型の新事業、コミュニティ・ビジネスの創出を図る。
・中間支援組織(民間による公益的専門的組織)の設置
・コミュニティ・ファンドの形成
・専門的アドバイザーの派遣
日立市
山方町
真壁町
つくば市
潮来市
玉造町
麻生町
北浦町
茨城県の地域再生構想について
特
集
●
地
域
再
生
●
17
特 集
「地域再生」
特
集
●
地
域
再
生
建設業が農業経営に参入
−東頸城農業特区−
山崎 剛
新潟県東頸城郡浦川原村
建設農林課/課長補佐
●
平成14年12月、県安塚地区振興事務所と郡内
水稲の単作地帯であり、ほ場のほとんどは棚田
6町村の代表者で東頸城特区研究会を立ち上げ、
だ。水田の整備率は21%にとどまり、一戸当た
地域資源を活用した地域振興計画を策定した。
りの耕作面積は75aほどの規模である。
その計画を実現するため、平成15年4月4日特
区申請し同4月21日に一次認定を受けた。
地域資源を生かした地域振興を目指し、一次認
定では「様々な法人が農業に参入できる、農業特
18
大規模農業には適さない地域であるが、日本一
おいしいといわれる魚沼コシヒカリで有名な魚沼
郡とは隣接しており、当郡も新潟コシヒカリの産
地となっている。
区」と「様々な人が市民農園を開設できる、市民
しかしながら、1985年と2000年の耕地面積を
農園特区」を、二次認定では「農家が濁酒を製造
比較すると38%も減少している。専業農家は
し提供できる、どぶろく特区」を受けた。
7%しかいない。後継者がいると答える農家は
こうしたいくつかの取り組みの中で、今回は企
25%である。
業が農業に参入できる農業特区について紹介する。
2)地域の産業の活力が低下
現在地域内では、建設業は公共工事量の減少
1.東頸城農業特区の背景
に伴い、雇用環境が悪化している。農業につい
ては、離農、担い手不足や高齢化による生産活
動の停滞や耕作放棄地が増加してきている。
1)農業離れが進み農地が荒れる
郡内の産業に従事するウエイトが高いのは、
東頸城郡には、3つの町と3つの村がある。こ
建設業と農業である。景気の低迷や農業環境の
こは新潟県でも典型的な中山間地域で、過疎・高
厳しさを反映して、これら産業の活力が低下し
齢化が著しい。1985年と2000年の国勢調査人口を
ている。この地域の多くの住民の生活に直結す
比較すると約25%減少している。高齢化率は35%
る深刻な問題である。
を超えた。
自然環境も厳しく全国有数の豪雪地帯である。
農業では米以外の作物もいろいろ模索してい
るが、気象条件や土質などの関係もあり、なか
また、地すべり防止指定区域面積は全体の48%に
なかこれといったものが見つからないのが現状
なる。1/20以上の急傾斜地は62%を占めている。
である。
建設業が農業経営に参入 −東頸城農業特区−
3)県の中山間地域産業連携特区構想が発端
新潟県では、中山間地域の振興を図るため、東
頸城をモデルに中山間地域産業連携特区構想を策
業や観光業なども連携してその環境を活用し、
地域振興を図っていこうというものである。
現在、東頸城郡6町村は共同で、越後田舎体
定し、その構想を基に特区第一次募集に応募した。
験という事業を行っている。都会の人からこの
そこで6町村では、この特区制度を活用した
地域に訪れてもらい、交流人口を増やそうとい
地域振興策を研究し、具体的な地域経済活性化
うのが、そのねらいである。農業を中心にして
を盛り込んだ特区計画認定申請書を作成して申
インストラクターを養成し、体験メニューを用
請することを目的に、平成14年12月から「東頸
意して広域に行っているが、さらにそれを発展
城郡特区研究会」をスタートさせた。
させようということも、この根底にある。
この研究会は県安塚地区振興事務所と、郡内
6町村代表者で運営することとした。そして、
この計画を達成するために、別表の4つの目
特
集
●
地
域
再
生
●
標と6つの事業を掲げている。
県の地域機関の職員と町村職員、建設業等の民
間企業とNPO法人など郡内の多くの住民に参
加を呼びかけた。
3.なぜ建設業なのか
その活動は、特区制度の説明と意見交換のほ
か「産業、交流、福祉、教育、新エネルギー」
の5部会による具体的な振興策の検討を行った。
その結果、①農業を中心に活性化すべきで、
1)地域産業を元気にしたい
東頸城には建設業が多い。地滑り地帯で災害
農地や棚田の保全が必要 ②働く場所がない女
の発生が多いことや、遅れていた道路などの社
性や高齢者の職場を創出すべき ③地域への入
会基盤整備が昭和40年代以降急激に進められて
り込み客を増やし、体験交流型観光の育成と拡
きたことによる。
大が必要という三つの意見にまとめられた。美
しかし、最近公共事業が減ってきたため、建
しい自然環境や棚田が失われてしまうことによ
設業の先行きが不透明となってきた。建設関係
り、地域自体も維持できなくなってしまう。そ
の企業が生き残るには、社会情勢に応じた変化
のため、それらの地域資源を生かし活性化しよ
が必要になってきた。
うという考えからである。
そうした中、農業に参入したいという企業が
現れた。建設業者が農業生産法人を立ち上げた
いというのである。
2.東頸城農業特区の内容
2)建設業者のメリット
(1)年間を通した仕事量の確保
同研究会の検討結果を踏まえ6町村では、従
建設業者の農業参入希望の理由は、仕事量
来型の公共事業や企業を外から誘致する活性化
の少ない時期に従業員の仕事量を確保したい
策ではなく、地域内部からの発意により、地域
ということからである。しかも、この地域に
資源を活用する振興策を意図した「東頸城農業
合った仕事は、農業しかないだろうという考
特区計画」を策定した。それは、農業を振興す
えからの決断である。
ることにより地域の環境を保ち、そして、建設
特に冬場、建設業の仕事の少ない時期には、
建設業が農業経営に参入 −東頸城農業特区−
19
従業員を休ませるという方法もとってきたが、
特
集
●
地
域
再
生
●
現在借地した農地は約3haで、浦川原村と大
農産物等の加工品も手がけることで、年間を
島村の数カ所に分散している。2年目となる今
通した雇用環境の改善が図られるというねら
年は、水稲の栽培面積を増やすほか、山菜の栽
いがある。
培も行う。
また、従業員には農家が多く、農業をする
ことに対しての抵抗は少ない。
当初、農業生産法人を立ち上げ、忙しい時
には従業員が建設業から農業の方へ動くとい
う考えであったが、特区制度ができたことに
もともと小池保信社長が農業に関心をもって
いたことから、様々な本を読み水稲を中心とし
た特色のある農業を実践しようと、有機無農薬
栽培の米作りに約0.7haの土地を借りた。
「今、米は大規模に作ってこそ経営が成り立つ。
よって、二つの会社の中で従業員を行き来さ
棚田で作るからには、高付加価値化が必要。ま
せるより、一つの会社でやりくりする方がは
た、様々な食材があふれる中、確かなものを提
るかに合理的であることから、特区による農
供したい」と無農薬の米作りに取り組んだ。
業参入を希望したものである。
「周りが山や木々で囲まれている山間地域の棚
田だからこそ、周辺農地から農薬などの影響を
(2)建設業の機械やノウハウが生かせる
受けない取り組みができる」という発想だ。
建設業者は、地域の土地を熟知している。
様々な土木工事を中心とした仕事を手がけて
きたことで、地滑りや湧水などの状況やその
20
2)遊休農地の活用
小池社長が昭和40年代に、桑園造成の工事を大
土地の癖といわれるような情報を持っている。
島村で行ったが、その土地は、現在使われなくな
また、ほ場や農道なども自ら整備している
り、荒れた状況になっていた。造成工事を手がけ
ことから、農地への愛着も強い。
この地域では、未整備地の棚田が多いが、
た者としては、見るに見られない状況である。
そこを、もう一度農地によみがえらせたいと取
建設業者なら自ら使いやすいように田ならし
り組んでいる。今年からは桑園を畑地に変えて、
や農道の整備も容易にできる。自ら行うこと
山菜を中心とした畑作を行う予定だ。
により、経費の削減にもつながる。建設機械
や人材をそのまま活用できるのである。
また、昔道路工事をしたとき、いいわき水があ
ることを知っていた小池社長は、その周辺の田ん
地域の中で仕事をしていることから、直接
ぼが荒れたのを見て、その水田に水を引き、イワ
地域住民との関わりがあり、信用があるとい
ナの養殖を始めた。現在5つの池にイワナを、2
うのも大きい。
つの池にそれぞれタニシとエビを飼っている。地
元にある資源を組み合わせ、活用したものだ。
将来的には、農家レストランにもつなげたい考
4.特区参入企業の取り組み
えだ。
3)建設業者と地元有志が新会社設立
1)有機無農薬栽培に取り組む
頸城建設株式会社は、従業員約60人、地域の
中では中堅クラスの建設会社である。
建設業が農業経営に参入 −東頸城農業特区−
特区参入2つ目の企業は、ファーストファーム
株式会社である。本体となる有限会社蓑和土建が
8割、自営業の地元有志5人が残り2割を均等に
出資して新たに立ち上げた会社だ。
蓑和章社長は地元建設会社蓑和土建の常務で、
元浦川原村役場の職員でもある。ほかの4人は、
旅館経営、土地家屋調査士、酒造業、農業・畜産
業と年齢も職業もまちまちである。
このほとんどが、かつてともに地域づくりや社
会教育活動に関わった仲間である。特区がきっか
けで再び集まるようになり、観光牧場を核にした
計画がまとまってきた。
に、ほかの業者が大量の建築廃材を主とした産業
廃棄物を埋めてしまった。幸い、水の汚染はない
と保健所の検査で証明されている。
荒れ放題だった土地の草刈りや整地をし、元の
牧草地に蘇ったのが昨年の11月である。
12月には森林組合の委託を受け、周辺の杉林の
整備も行った。
「ここを皮切りに、地元の遊休地や休耕地を復
旧し、これ以上の荒廃を防いで、美しい景観と機
能保全の一役を担いたい。そして、この自然を活
4)農業と他産業との複合経営を目指す
確保した土地は高台の見晴らしの良い場所にあ
る5haの、元牧場だった所である。
特
集
●
地
域
再
生
●
用した農業と他産業とを組み合わせ、また地域と
連携した生産基盤をつくりたい」と、地域との連
携も視野に入れている。
ここに羊や山羊、ポニーなどの小動物を飼い、
実際に触れることができる牧場をつくる。ほかに
果樹や野菜園の経営、酒米の栽培、加工品の製
5.特区認定を受けて
造・販売、農家レストランや市民農園も手がけて
いく。また、アニマルセラピーや市民ギャラリー
も計画している。
この構想を「ファーミーランド構想」と名付け
た。ファースト(1番)
、ファーム(農場)ファ
ミリー(家族)の三つを兼ねている。
特区による地域活性化の取り組みがまだ始まっ
たばかりであるが、地域にとっても6町村の自治
体にとってもメリットが出てきた。
一つには、過疎化・高齢化に苦しむ中山間地域
農業、畜産、製造、観光など様々な業種の組み合
の新たな農業の担い手としての一面である。今ま
わせをすることによって、この地域にはなかった、
で受け手の無かった山間地の水田を、特区参入企
農業を核とした新たな取り組みをスタートさせた。
業が受けてくれたことにある。当村では、農業振
この牧場すぐ近くには上越地方随一規模を誇る
興公社が農地保有合理化事業を行っているが、山
約9haの観光ぶどう園がある。年間約3万人が訪
間地域の農地については、受け手がないため保有
れる。お互いの相乗効果も期待できる。
合理化事業に乗せることができず、それが、遊休
化につながっていた。頸城建設では今後、農作業
5)基本は地域を守ること
蓑和社長は「昼間は高田平野が広がる先に、妙
高山や日本海が見え、反対側には棚田があって、
眺望は抜群。夕日も夜景も星空もすばらしい」と
環境の良さをアピールしている。
実はこの土地は、これまで2つの畜産会社が牧
場経営に失敗した土地で、二社目は牧場の土まで
売った。競売にかけても買い手がつかなかった間
の受託も行う考えでいる。
もう一つには、新たな地域経済の活性化を担う
ことである。
ファーストファームでは、農地だけでなく山林
の保全も始めた。様々な作業には、定年退職とな
った高齢者も加わり、生き甲斐対策としての効果
も出てきた。
資本力のある企業が参入すると、一農家では夢
建設業が農業経営に参入 −東頸城農業特区−
21
特
集
であったことが現実に向かう。さらに、この地域
この取組みは成功するという保証は何もな
では、今まで考えられなかった新たな農業の切り
い。しかし、成功すれば地域に及ぼす影響は、
口が生まれた。
非常に大きい。自治体も特区参入企業もこれか
特区はそんな新たな一面も作ってくれた。
らが正念場である。
●
地
域
再
生
田植え前の頸城建設従業員
FFC重機作業
収穫の様子
FFC整地作業
●
22
FFC農地に茂った雑草の刈り取り
建設業が農業経営に参入 −東頸城農業特区−
東頸城農業特区とは
地 域 の 現 状
過疎化・高齢化の
急速な進展
人口はS60の3/4
高齢化率は35%
農業後継者(担い手)
の不足
若い農業専従者は7%
農業後継者は25%
公共事業の現象景気
低迷・雇用悪化
耕作放棄地・
遊休農地の拡大
地域産業の活力が低下
農地はS60の3/4
年間100haが遊休化
特
集
●
地
域
再
生
●
何とかしなければ
◆美しい自然環境や棚田が失われてしまう
◆地域が維持できなくなってしまう
特区を活用して地域の活性化を図ろう!
23
農を中心に据えた地域環境を保全・活用する産業の連携と
複合循環型産業システムの構築による地域活性化特区
東頸城農業特区計画
4つの目標
担い手の確保
による農地の
遊休化防止と
国土の保全
地域の環境と
資源を活用し
た複合型産業
の育成
新たな雇用の
確保と新規定
住の促進
グリーン・ツー
リズム産業の
育成と拡大
6つの目標
リース式
農業特区
農家の市民農園
開設特区
特定農業者の
どぶろく特区
ワイン・焼酎
製造販売事業
農園付き住宅販
売新規定住特区
古民家・廃校活
用農家民宿特区
建設業が農業経営に参入 −東頸城農業特区−
特 集
「地域再生」
特
集
●
地
域
再
生
多分野の公的サービスの
民間開放に向けて
−外部委託等による雇用の創出−
足立区政策経営部政策課
●
足立区の経営戦略
足立区は、これまでも先駆的、積極的な行政
24
足立区構造改革戦略
この「足立区構造改革戦略」は、平成12年度
改革で知られ、今なお、「足立区構造改革戦略」
末に策定した「行政改革指針」をより強固なも
による休むことのない経営改革に取り組んでい
のとするため、改革すべき領域や課題を明らか
ます。
にし、課題解決、成果実現のための具体的方法
「足立区の構造改革戦略」は、平成14年度か
とスケジュールを示したものです。
らの3ヵ年計画として、単に財政的視点にとど
3つの構造改革の中心は、区政の構造改革に
まらず、区政運営のあらゆる部門、領域にわた
あり、区政の構造改革を推進することにより、
り既存の構造を元から改革するための指針を示
財政の構造改革が進み、これら区政、財政の構
したものです。
造改革の波及効果により、構造的な問題点を克
行政執行のあり方をより自律的に転換し、説
服し、社会の構造改革につなげていくことを目
明責任、自己責任を徹底する、民間の経営手法
指すものです。この3つの構造改革を三位一体
を大胆に活用する、民間や区民自身による改革
のものとして相乗的に改革が進むように取り組
を前面に出し、庁内組織・制度を区民参画の仕
んでいます。
様に改める…など、従来の改革の手段や枠組み
「区政の構造改革」では、経営、管理、現場
を超えて、「区政の構造改革」、「財政の構造改
の3つのシステムを改革の対象とし、「民間経
革」
、「社会の構造改革」という3つの構造改革
営手法の導入と自律型組織への転換」、「区民等
を実践しています。
の参加と協働の働きかけ」の2つの面を中心と
する改革を進めています。
「財政の構造改革」では、財政運営の改革は
もちろんのこと、官活の選択的採用や民活の全
面的採用を打ち出し、アウトソーシングの拡大、
NPO等の協働を積極的に進め、今以上に「区
多分野の公的サービスの民間開放に向けて −外部委託等による雇用の創出−
民等との協働による開かれた区政の展開」を図
外部委託の推進について
っています。
「区民等との協働による開かれた区政の展
開」、これを広げることは、「社会の構造改革」
を目指すものです。この「戦略」は、単に行政
民間への業務委託については、技能労務系職
サービスの民間開放ということではなく、民間
員の退職不補充に伴う外部への業務委託、給食
経営手法の導入を進める一方で、区民との協働
調理の民間委託を進めてきました。学校給食に
を大きな柱としており、民間企業、NPO等の
ついては、既に全学校で民間委託となっており、
多様なサービスの供給主体と並立しながら住民
多くの区民雇用の創出の場となっています。ま
ニーズをしっかりと把握した行政の新しい姿を
た、区内60園の保育園中、既に26園が給食調理
目指すものです。
の民間委託を実施しており、16年度にはさらに
平成16年度は、3ヵ年計画の最終年次にあた
6園が実施する予定です。また、体育施設の中
り、改革の集大成を内外に示す時期となります。
では、代表的なものとして、区内3ヶ所の温水
改革のリーダーの自負のもと、揺ぎない覚悟で
プールなどの管理運営等も地元企業、地元経営
取り組んでいます。
者に業務を委託しています。
特
集
●
地
域
再
生
●
このように「民間にできることは民間」にま
かせていこうという取り組みは、従前から、行
政の簡素化・効率化を進めることを主な目的と
25
公的サービスの民間開放による雇用創出
NPO等
寄付
雇用
賃金
相互に評価
官民パートナー
評価
サービスの購入
寄付
相互に評価
公共活動領域の開放
官民パートナー
区 民
寄付
納税
雇用
評価
賃金
サービスの購入
公共サービスの提供
区役所
評価
企 業
公共活動領域の開放
相互に評価
官民パートナー
多分野の公的サービスの民間開放に向けて −外部委託等による雇用の創出−
特
集
●
地
域
再
生
●
して進めてきましたが、これらの取組は片時も
し(16年度∼19年度の4年間で428人の職員数
忘れず行わなければなりません。
削減を目標)、この中でも、行政責任領域を精
しかし、当区のみならず、他の自治体も例外
査しながら、「委託の推進」、「協働の推進」、
ではないと思いますが、財政状況は厳しく、こ
「指定管理者制度の積極的な導入」等について、
れまで以上の行政運営の効率化は必然のもので
積極的な取組を図るものとしています。
あり、それとともに厳しい雇用情勢を背景に、
新たな雇用創出という課題も生じているのが今
日の状況です。特に中小の企業が多い当区では、
区内業者の活用を図ることも大きな課題であ
特 区 構 想
り、様々な課題を抱えながらの区政運営を迫ら
れています。
このような状況を踏まえながら、平成15年8
26
その他の取組として、各種の規制緩和に関す
月に「外部委託推進ガイドライン」を策定しま
る、国の特区構想などがあります。当区では、
した。この「ガイドライン」は、さらに多様化
人材、福祉、教育、環境、ITと幅広い分野で、
する区民ニーズに適確に対応し、安全、安心、
43項目の具体的な提案をしました。
安らぎのあるまちづくりを進めるため、公共サ
これは、住民に身近な行政分野について、で
ービスの新たな担い手として期待されるNPO
きる限り多面的に規制改革を実施したいとの考
等住民団体との協働を推進していくことも取り
えから、「生活創造特区」という言葉を創出し
込みながら、地方分権時代にふさわしいまちづ
提案したものです。様々な規制を緩和すること
くりを進めていくことを基本とし、新たな分野
で、区民の皆さんに、規制改革された社会を体
での委託の推進を図ることを目的としています。
感していただき、生活の質の向上を図り、あわ
それとともに、区民等との協働の推進を図る
せて地域経済・社会の活性化や雇用の創出を図
こと、国等における各種の規制緩和の動きを敏
ることを狙った構想です。
感に察知すること、委託方法などの工夫を図り
当区は、ハード面での大きな特色はありませ
重ねること等、職員への喚起の目的をもあわせ
んが、住民組織の熱心な活動という風土ともい
持つものです。
うべき特徴を有しています。NPO法人、ボラ
なお、平成15年9月には、地方自治法が改正
ンティア団体、各種区民活動団体を含めれば、
され、公の施設の管理運営を株式会社など民間
およそ2,500団体、延べ70,000人以上もの区民が
企業にも任すことが可能となりました。今後、
自主的な活動を行っており、大きな特徴です。
手続きのルール化等を検討のうえ、各施設の特
これらの区民の力を生かし「公民のパートナ
徴などを精査しながら、計画的に進めていく予
ーシップ」をさらに進めていきたいと考えてい
定です。
ます。前述の給食調理委託等による区民雇用創
この法律の改正の趣旨は、従前の管理委託制
出以外にも、図書館の館長にはすべて民間人を
度から指定管理者制度への早期の移行を求めて
登用するほか、区内にある住区センター(公民
いるものであり、区民・団体・企業等の活用を
館のようにもの)46館は、区民が自主的に管理
図りながら進めていきます。
しており、公園も118園について自主管理が行
また、時を同じくして、定員適正化指針も示
われ、公園内の清掃、草刈などを行っています。
多分野の公的サービスの民間開放に向けて −外部委託等による雇用の創出−
「生活創造特区」は、こうした当区の人間力
今後の展望
の特性を活用し、生活領域で多面的な改革を展
開して、新たな生活を創造し、雇用の創出を図
ることを志向したものです。
既に昨年、この考えに基づく2つの特区構想
当区は、これまでも行政改革として民間委託
の認定を受けて取り組んでいます。そのひとつ
の推進、職員の削減に取り組んできましたが、
は、人材ビジネスを活用した雇用創出特区であ
これまでの成果に満足することなく、民間やN
ります。これは当区役所内で、官(ハローワー
PO等の参入をさらに促進しながら、「自己進
ク)と民(人材ビジネス会社)が情報を共有し
化する自治体」をめざしていきます。
ながら共同で職業紹介や相談を行うものです。
区では、現在、区民との協働による新しい基
平成15年の11月に開設以来多くの利用者がお
本構想の策定作業を進めており、この6月には
り、雇用の創出につながるものと期待していま
議会へ提案する予定であります。この「構想」
す。もうひとつは、障害福祉センターにおける
は、様々な区民・団体・企業と区が協働して、
給食調理の民間委託を可能としたものです。
住み・働き・学び・活動する「力強い足立区」
特
集
●
地
域
再
生
●
をめざすことを基本理念とし、自治基本条例の
制定も含め、協働のしくみづくり、協働に基づ
く「新しい公共」の創出、区経済の活性化等が
盛込まれる予定です。
27
区民等との協働による開かれた区政の実現
安心できる子育て
元気で明るい高齢化社会
便利で快適なまち
産業の活性化
手続きの利便性
豊かな環境
新しいサービスの創出
積極的な協働の実践
財政の建造改革
構
造
改
革
戦
略
1.経常収支率80%以下
2.実質単年度収支の黒字
3.財源不足の解消
・適正な定数管理
・中期財政計画
区政の建造改革
1.自律型組織への転換
2.区民等の参加と協働の働きかけ
3.民間経営手法の導入
新 た な 取 組
協
働
型
基
本
構
想
の
策
定
協
働
プ
ラ
ン
の
策
定
区
政
透
明
化
計
画
外
部
委
託
推
進
ガ
イ
ド
ラ
イ
ン
定
員
適
正
化
指
針
生
活
創
造
特
区
の
実
現
指
定
管
理
者
制
度
へ
の
取
組
公
民
パ
ー
ト
ナ
ー
シ
ッ
プ
N
P
O
活
動
等
の
支
援
公
有
財
産
有
効
活
用
多分野の公的サービスの民間開放に向けて −外部委託等による雇用の創出−
政
政策
策提
提言
言
おもしろ理科先生派遣隊
創設事業の提案内容について
企画部新線・つくば調整課/課長補佐
鈴木 誠
ば、科学的な色に染められていくに違いない。
1 勝手な思い込み
そして、この両者を引き合わせることができ
れば、科学技術立県を標榜する茨城にとって大
きな財産になるに違いない。
例えば、理科の教員、科学的研究機関等の研
以上のような勝手な思い込みが、「おもしろ
究員など、科学(あるいは理科)に関する業務
理科先生派遣隊創設事業」への提案へとつなが
に従事している相当数の方が、その持っている
ったものです。
科学的知識を子供達に伝えたいと思っているに
28
違いない。そのような思いは、OBの方だって
現役の方々と同様にあるいはそれ以上に持って
いるに違いない。
白いキャンバスのような子供達だって、その
政
策
提
言
ようなプロから直接、楽しく学ぶことができれ
イメージ図
派遣要請
県(またはNPO)
学校、子供会など
派 遣
登 録
派遣 依頼
理科教員OBなど
科学研究所OBなど
出前講座
おもしろ理科先生派遣隊創設事業の提案内容について
子 供
て選考するかということも大切です。エント
2 理科離れから
科学小僧の誕生へ
リーは自薦でも構いませんが、第三者がきち
んと選考すべきです。
(2)ものを創り出すのに必要なのは道具や資金
理科離れが指摘されていますが、少子化、あ
るいは都市化の進行は、これからの子供達にと
ばかりではありません。夢と情熱と努力です。
って自然体験、科学体験の機会が少なくなるこ
苦労しながら我が国の科学技術の最前線で活
とにつながり、理科離れはますます進むことが
躍されたOBの方々のノウハウをもう一度、
懸念されます。経験のないところに強い興味は
今度は次代を担う子供達に伝えていただくこ
わきません。
とが、もの余りの時代には必要であると思い
ます。そしてそれがOBの方の生き甲斐にも
私たちが豊かで文化的な生活を享受できるの
つながると確信します。
は、科学技術の進展の結果であることから、私
たちは理科離れがどれほど問題かということを
もっともっと認識すべきです。先人が開発した
科学技術の恩恵の真っ直中で生活している私た
ちにとって、その科学技術の継承者不足、ある
いは継承者の力量不足があっては問題です。
そこで、科学技術立県を標榜する本県として
は、「おもしろ理科先生派遣隊事業」などをき
29
っかけに茨城独自の理科離れ策を打っていくこ
とが必要ではないでしょうか。
そして、多くの科学小僧が誕生して新しい世
界を作ってくれることを期待します。
政
策
提
言
3 お願い
この事業に対しては、県当局のご理解により
平成16年度予算措置がなされたところですが、
今後この事業を進めるうえで考慮頂きたい点を
二点上げさせて頂きます。
(1)今回の事業を円滑に進めるためのポイント
はいくつかあると思いますが、子供達への伝
え手であるインストラクターをどのようにし
おもしろ理科先生派遣隊創設事業の提案内容について
政
政策
策提
提言
言
ユニバーサルデザインの考え方
によるまちづくり、ものづくり、
サービスづくりについて
1 ユニバーサルデザインの
考え方
30
水戸土地改良事務所/係長
吉成 淳一
2 ユニバーサルデザイン推進室
の設置による事業の推進
ユニバーサルデザイン(UD)は、1990年に
事業や行政をUDという横糸で結んで施策を
米国ノースカロライナ州立大学ユニバーサルデ
実施することにより、UD立県としてより効果
ザインセンター所長(当時)のロン・メイス氏
的かつ効率的に「すべての人が自由で安全に活
が提唱したもので、障害を持つ人や子供に利用
動し、いきいきと楽しく生活できるアメニティ
しやすいデザインは、一般の大人にとっても便
空間いばらき」の創造を図ることができる。
利なはずだという考え方が基本になっており、
「できる限り最大限すべての人に利用可能であ
るように製品、建物、空間をデザインすること」
政
策
提
言
という定義になっている。つまり、障害者や高
齢者、子供、男女、外国人など、それぞれの違
いを越えて、すべての人が暮らしやすいように、
(1)基本理念(コンセプト)の策定
(2)基本理念に基づく今後3∼5年間の行動計
画の策定及び計画の推進
(3)UD普及のためのパンフレットや事例集等
の作成・配布
まちづくり、ものづくり、サービスの提供など
(4)ホームページでの紹介
を行っていこうとする考え方である。
(5)講演等によるUDの考え方の普及(人々の
意識への浸透)
講演会・シンポジウム・フォーラム・イベ
ント・職員研修等の実施
(6)計画の推進
県の取り組みの進行管理、市町村・事業
者・NPO・県民等の活動支援
ユニバーサルデザインの考え方によるまちづくり、ものづくり、サービスづくりについて
3 すべての人にやさしい
まちづくり
(2)満足度の高い行政・顧客サービスの提供
(3)分かりやすい行政情報・防災情報等の提供
(4)UDの視点からのニュービジネス創造研究
会の設置・運営
(1)自由に活動し、安心して生活できる環境の
整備
まちのUD地図の作成、歩行空間・公園・
屋外案内表示・商店街の整備等まちづくりの
推進
6 すべての人の
社会参加の促進
(2)利用しやすい建物・施設の整備
UDを取り入れた建築設計の普及、建物・
施設内案内表示・住宅・商店・就業環境等の
(1)高齢者・青少年・障害者・健常者・男女が
共に創るいばらきプランの策定・推進
(2)家庭や学校における幼児期からの社会参加
整備
(3)移動しやすい交通システムの整備
旅客施設の整備、利用しやすい交通機関の
導入、公共交通の円滑化
及び人権教育の推進、社会参加を促進する環
境整備、指導者・専門家・アドバイザーの育
成、学術研究の促進
4 すべての人が使いやすい
ものづくり
31
(1)産学官共同のUD製品開発研究会の設置・
運営
(2)人材・情報ネットワーク構築、製品企画・
開発の促進、製品表示方法の検討
(3)UD商品の情報提供・普及促進、製品の紹
介・啓発
5 すべての人に配慮した
サービス・情報の提供
(1)県民や顧客の視点に立ちUDの考え方に基
づく、共通な又は業種別のサービスの指針や
チェック項目等の作成
ユニバーサルデザインの考え方によるまちづくり、ものづくり、サービスづくりについて
政
策
提
言
政
政策
策提
提言
言
「誰にでも優しい茨城県」に向けて
∼「ユニバーサルデザイン」の
考え方を取り入れよう∼
政
策
提
言
田尾 紘子
最初に「ユニバーサルデザイン」を意識した
り、エレベーターを降りてすぐの階層案内図に
のは、茨城県庁が移転して間もなくのころ、移
は課名が表記されたりと改善されてきている
転後初めて来られたと思われる方のこんな行動
が、当時は今ほど詳細な案内表示ではなかった
だった。
のである。
その方は、2階から上の階に昇るエレベータ
初めて訪れた場所で自分が最初に取る行動を
ーの扉が開くとすっと入られた。私も後に続き
思い浮かべると、まず案内表示を探している。
同じエレベーターに入った。
32
企業局総務課/主事
エレベーターの扉が閉じようとしたとき、階
大概、案内表示は目的地についてすぐ目に付
くところにある。
を指定するボタンをじっと見られていたその方
電車の駅であれば降車後上を見れば、「↑○
が、おや?といった表情をされ、「7階には止
○口」等といった表示が天井から吊り下げられ
まらないのですか?」と慌てておっしゃられた。
ている。百貨店であれば入り口を入ってすぐの
私たちが入ったエレベーターは高層階用のエ
壁に案内図が表記されていることが多い。
レベーターで、15階より下の階には一部の階を
除いて止まらない。
そのときは扉が閉まりきる前だったので、低
層階用のエレベーターがあることをご案内する
この大概、というのは「ユニバーサルデザイ
ン」を考慮するに当たって重要なことのひとつ
だと私は思っている。
ことができたが、その後も上の階へ行こうと思
っていた方が下の階へ行くエレベーターに乗り
込みそうになったり、「○○課は何階にあるの
でしょうか?」といった質問をされたりといっ
たことが何度かあった。
「ユニバーサルデザイン」という言葉につい
て、少し触れておく。
アメリカでロナルド・メイス氏が提唱したも
ので、その定義は「出来うる限り最大限、すべ
ての人に利用可能であるように製品、建物、空
前述の例では、案内表示のわかりづらさが問
間をデザインすること」。
題になっていたと思われる。今はエレベーター
つまり、能力あるいは障害のレベルに関わら
周りには低層階、高層階についての案内表示あ
ず、高齢者や障害者、妊婦、子供等すべての人
「誰にでも優しい茨城県」に向けて ∼「ユニバーサルデザイン」の考え方を取り入れよう∼
が使用できるように製品、要素、空間をデザイ
ンすることをいう。
対象をすべての人としているのは、「全ての
人が事故や老化等により障害者になりうる」と
1人から家族へ、家族から地域へ、地域から
県へ、県から国へ。そうして少しずつでも「ユ
ニバーサルデザイン」の考え方を広めていけれ
ば、とそう思っている。
いうのが発想の原点だからである。
そして、「誰にでも公平に利用できる」、「使
う上で柔軟性に富む」
、「簡単で直感的に利用で
きる」、「必要な情報が簡単に理解できる」、「単
純なミスが危険につながらない」、「身体的な負
担が少ない」、「接近して使える寸法や空間にな
っている」の7つを原則としてあげている。
前述した大概というのは、ここでは一般的な
共通した事項、という意味合いで使わせていた
だいた。
共通事項が多ければ、それだけ直感的に理解
することが容易になるのではないだろうか?
例えば、エレベーターの扉の上部に「↑」
「↓」という点灯表示があれば、誰でも「↑」
が点灯すればエレベーターは上の階へ昇り、
33
「↓」が点灯すれば下の階へ下ると認識してい
ると思う。
このような共通した標識は、道路標識に顕著
である。
ただし、この例では視覚に障害のある方に対
応できていない。「ユニバーサルデザイン」の
観点で考えていけば、当然音声案内、もしくは
点字等の対策が必要となってくるだろう。
ここまでは案内表示に絞って話を進めてきた
が、「ユニバーサルデザイン」はありとあらゆ
ることに関係しており、突き詰めればきりはな
い。
個人の力だけでは対応しきれないのが現実で
あると思うが、せめて自分の身の回りで気がつ
いた事だけでも自分のやれる範囲でかまわない
ので実践していきたい。
「誰にでも優しい茨城県」に向けて ∼「ユニバーサルデザイン」の考え方を取り入れよう∼
政
策
提
言
政
政策
策提
提言
言
「いばらきを遊ぼう(仮称)」の作成
農林水産部農産課/主事
(地域の魅力を生かした新たな趣味提案マガジンの作成)
提案のきっかけ
週休2日制も浸透している現在においても、
34
提案内容
提案の具体的内容しては、季刊誌として「い
なかなかうまく余暇を利用できている人は少な
ばらきを遊ぼう(仮称)」の発行を行い、いろ
いと思われます。結婚して夫婦で何か新しい共
いろな趣味・遊びを茨城の素材と絡めて提案し
通した趣味を持ちたいと考えている人、定年後
ていこうというものです。冊子のイメージとし
に向けて何か始めてみたいと考えている人、友
ては、「るるぶ」とか「まっぷる」といった、
達同士で何か新しい遊びを発見したいと考えて
きちっとしたものでなく、「TokyoWalker」の
いる人などは非常に多いと考えられます。
ようなラフな雑誌をイメージしました。
そういった状況の中、これから新しいことを
政
策
提
言
松長 宏一
題名には「いばらき」の名を入れますが、他
始めてようとしている各世代の取組みを、海、
県の人などより広くの購買を求めるため、あま
川、山、湖といった多くの遊びの素材や施設を
り「いばらき」を前面に出しすぎずに、新しい
有する茨城の魅力とマッチングさせ、県内外の
ことをはじめる上で、茨城の素材や施設でバッ
人の潤いある生活をバックアップするととも
クアップしてくというスタンスで作成します。
に、県の観光施設等の活性化、県のイメージア
冊子の発行は年4回くらい、季節に合ったレジ
ップを図っていけないだろうかと考え、この提
ャーなどを取り上げていくのがよいのではと考
案をさせていただきました。
えました。
【企画例としては】
・つくば山からはじめよう
・サラリーマンのためのサーフィン教室
・めざせアスリートゴルファー
・始めようスカイスポーツ
・いばらきうまいもんどころ紀行
「いばらきを遊ぼう(仮称)」の作成
・霞ヶ浦を釣り上げろ(ブラックバス編)
この提案の課題
・0からの川下り(はじめようラフティング)
・○○さんのキャンプ入門
・めざせそば打ち職人
・県内のイベントのスケジュール表
冊子のターゲット層を絞り込んでいく必要が
・ロックフェスティバルへ行こう!
あると思われます。どの世代をメインのターゲ
など
ットとしていくのか。男、女どちらをメインに
考えていくのか。老若男女全てをターゲットと
していくのか。この部分はもっと検討していく
必要があると思われます。
予算・販売方法等について
最後に
現在、県の予算が非常に切迫していること、
県では雑誌の作成のためのノウハウや時間・人
員の配置も十分に充てられないと考えられるた
め、大手出版会社に企画を持ち込み県職員と一
自分も最近になって再確認したことですが、
体となり企画を構成していくのがよいのではと
茨城県ほど遊ぶ素材を沢山有した県はなかなか
考えられます。発行についても出版社で行い、
無いと思います。その素材を十分に生かすこと
関東全域の書店で販売し、金額は500円以下に
ができれば、県内外の多くの人のこれからの潤
抑えてもらい、週刊誌と一緒の場所に置いても
いある生活づくりや、他県にない茨城県のイメ
らうことを想定しました。
ージづくりにつながって行くのではと思いま
県としては、ホームページや広報誌「ひばり」
35
す。
等の県の広報で紹介を行うことや、場合によっ
政
策
提
言
ては、出版社が行う広告費の一部を助成したり、
県内の民間の施設からの広告等も掲載し、広告
料を収めてもらい、それを雑誌の広報費等に使
用するといったことも検討できればと考えまし
た。
また、県内の各施設からの割引券などを織り
込むことが出来ればより販売促進にもつながる
と考えられます。
「いばらきを遊ぼう(仮称)」の作成
政
政策
策提
提言
言
公共事業改革に対応した
関連産業の支援施策について
土浦土木事務所/主事
富樫 仁彰
ければ、改革が地域経済の発展に寄与しないば
概 要
かりか悪影響を及ぼす恐れもある。公共事業改
革と事業費縮減を進めていくに当たり、地域
(経済)に対して責任ある施策を行う必要がある。
公共事業関連産業(主に建設業等)を支援す
るため、従来通りの存続を図るのではなく、経
営基盤の強化・他産業へのシフト等を促す体
制・環境を整備する。
内 容
36
関連業者の経営基盤の強化を図ることを基本
背景及び課題
政
策
提
言
とし、場合によっては他産業へのシフトを図る
ため、土木部と雇用を伴う関連部署(商工労
働・農林水産・生活環境・福祉部等)で連携し、
建設業従事者は全国で660万人程度と推計さ
需要が見込まれ進出可能な分野への転換を模索
れており、建設業は就業人口の1割を占める基
する(事業者・従業員レベル共に)。意欲ある
幹的な産業である。県内の事業所数構成比では
者に対しては情報提供、研修、職業訓練等を行
建設業は約14%となっており、全国的にも比率
うことにより、新分野への進出・転進や雇用創
が高くなっている。今後、公共事業費の縮減・
出を図る。
産業構造転換等の流れの中で、建設業等及び地
域経済への影響は必至である。
執行体制については、担当部署において各部
署との調整、企画立案、情報提供等を行い、現
本県の行財政改革大綱、財政構造改革プラン
場の出先機関等が窓口として関連業者・従事者
でも公共事業費の縮減・重点化が求められてい
に対応する等が考えられる。利用者・有識者等
る。このような量的・質的な取り組み・改革が
の意見を反映させながら、よりよい体制作りを
行政側のものに留まることなく、自立を基本と
進めていく。(参考:長野県の建設産業構造改
しながら相手(産業)側にも立って進められな
革支援委員会等)
公共事業改革に対応した関連産業の支援施策について
施策実施に伴う効果
公共事業改革及び事業費の縮減が関連産業及
び地域経済への打撃になることを極力抑えると
共に、経営基盤の強化や新たな産業への進出等
を図ることで、本県産業の活性化・雇用対策へ
と繋がる。
終わりに、今後更に地方分権が推進されるに
従い、地域としての自己決定・自己責任が求め
られてくる。今回の土木分野に限らず各分野の
施策・取り組みにおいて、単に行政サイドのも
のに終わらせることなく、自立を基本として相
手方の立場にも立って進めることが、地域政策
の責任ある担い手として必要であり、県民福祉
の向上に資するものと考える。
37
施策のイメージ
<支援制度>
情報提供
建設業等
研修・講習
商工・農林
《基盤強化》
職業訓練
福祉等
補助・融資
等
《進出・転進》
公共事業改革に対応した関連産業の支援施策について
政
策
提
言
政
政策
策提
提言
言
いばらき自動車生産販売
総合基地づくり
1 はじめに
38
伊佐間 久
2 本県の自動車産業立地に
おける優位性
○ 港湾振興室に2年間ほど在籍し、いばらき
○ 茨城県は、4つの高速道路の整備進展、海
の港の利用促進のため、北関東に立地してい
上輸送における港湾利用などから首都圏にお
る数多くの輸出入関連企業を訪問させていた
ける自動車の流通面で大きな優位性を持って
だいた。
いる。
○ その際に、感じたことの一つは、「栃木県
には日産、ホンダ、いすゞ、群馬県には富士
重工など自動車の生産拠点があるのに、なぜ
茨城県には1社もないのか。」ということで
政
策
提
言
企画部企画課/企画員
ある。
○ 資源を持たない日本は、輸入した原油や鉱
・ダイムラー・クライスラー社が日立港から
国内販売向け自動車を輸入している。
・日産自動車では、北海道向け自動車を日立
港と常陸那珂港から輸送している。
・日立建機とコマツが、建設機械を常陸那珂
港から輸出している。
物資源等を、高度な技術を利用して、一流の
○ さらに、生産拠点を考える上でも、常陸那
機械製品や電気製品に加工し輸出することに
珂工業団地、茨城中央工業団地、友部の流通
より外貨を稼ぎ発展してきた国である。
団地、北浦の複合団地など、高速道路や港湾
○ それが、90年代以降、安い生産コストや市
場としての魅力から、国内の製造拠点が東南
アジア、さらに中国へとシフトし続けている。
に近く、立地条件の良い土地を数多く有して
いる。
○ 自動車産業では、完成車や大型重量部品の
このような中で、比較的国内に製造拠点が残
流通には港湾利用が不可欠であり、これまで
り、日本の輸出力を主に支えているのは自動
内陸部に生産拠点を持っていた企業も臨海部
車産業である。
(及びその周辺)へのシフトが期待できる。
○ このため、製造拠点の誘致や販売拠点、流
通拠点の総合基地化を図ることにより、本県
の雇用確保,税収増加が見こまれると思う。
いばらき自動車生産販売総合基地づくり
子加速器や、つくばの研究所が貢献でき
3 具体的な戦略
ることから、燃料電池車の開発基地とし
ても発展可能性をアピールしていく。
(1)プロジェクトチームの発足
○ 県庁内の関係各課及び民間から一騎当千
(3)大型優遇措置の適用
○ ある程度、誘致の見通しが内部的につい
の人材をスカウトして、3∼5年間と期間
た段階で、思いきった優遇策(大型補助金、
を限定して組織をつくり、自動車メーカー
大型の減免措置など)を講じていく。
や販売会社、関連会社を集中訪問し、情報
収集の上、誘致活動を進める。(ただし、
(参考:三重県のシャープ液晶工場の誘致
事例)
自動車は巨大産業であり、工場の閉鎖・移
転は地域全体の盛衰にかかわる問題であ
り、情報を集めることはかなり困難と思う
が。)
(2)自動車総合基地化に向けた設計図の作成
○ 茨城県として誘致活動にあたり、自動車
メーカーや関連企業にアピールするための
設計図を作成する。
39
○ 設計図の案
・ひたちなか地区を巨大な自動車展示販売
場にする。(国内メーカーはもちろん海
外メーカーなどあらゆる車を展示販売で
きるような場所に整備し、自動車安全運
政
策
提
言
転センターを試乗場所としても活用す
る。
)
・常陸那珂港の中央埠頭にできる港湾関連
用地は自動車のオークション会場や保管
場所として、活用していく。
・茨城中央工業団地や友部の流通センター
には、東日本に生産拠点がないトヨタ自
動車などを誘致できないか検討してい
く。
・自動車も新たに水素ガスを利用した燃料
電池車が誕生してきており、燃料となる
水素を海水から取り出しやすく、また燃
料電池の開発研究には東海村の大強度陽
いばらき自動車生産販売総合基地づくり
政策研究報告
政
策
研
究
報
告
40
人口減少社会について
企画部企画課政策研究グループ
1 はじめに
2 人口減少社会の到来
日本の人口は、平成18年(2006年)をピーク
人口減少の大きな要因は少子化である。1人
に減少に転じ(国立社会保障・人口問題研究
の女性が生涯において最終的に平均何人の子ど
所)、日本社会は、人口減少という、かつて経
もを産むことになるかを表す合計特殊出生率
験したことのない新たな局面を迎えることにな
は、図からも明らかなようにこの30年間ほぼ一
る。日本は戦後一貫して人口増加が続き、豊富
貫して下がり続け、平成14年には、全国で1.32、
な労働力の投入や需要の拡大等を通じて高い経
茨城県は1.38と過去最低を記録している。これ
済成長を実現してきた。この中で、社会保障を
は、直接的には未婚化・晩婚化の進展や夫婦の
中心とする公的部門も、若者が多く高齢者が少
出生力の低下によるものであるが、その背景と
ないという人口構造を前提に、経済成長率も高
しては、結婚や子を持つことの利益が結婚や子
い時代に基本的な骨格が構築されてきた。今後
育てに係る費用を下回ること、社会的には、仕
の人口減少は、こうした前提を突き崩すもので
事と育児を両立しにくい社会・家庭環境や夫婦
ある。急速に進む少子化による人口減少社会に
関係、結婚に対する社会的な強制力の低下、自
おいては、若年労働力の減少による経済の停滞、
立を妨げる親子関係、将来不安の高まりなどが
年金・医療・福祉等の社会制度の破綻をはじ
指摘されている。また、女性の高学歴化と就業
め、経済社会の各分野に様々な影響を及ぼすこ
率の上昇に伴う経済力の上昇、年金・医療・介
とが予想される。そうした課題にどのように対
護等の老後の社会保障が充実する一方で、児童
応をしていけばよいのか、今後、議論を深めて
手当・保育サービス等の子育て支援が依然とし
いく必要がある。そこで、今回は、近く到来が
て遅れていることなどもその背景とされている
予想される人口減少社会における諸問題を整理
ところである。
し、今後の政策形成や将来展望の基礎を提供す
る。
人口減少社会について
合計特殊出生率の推移
2.6
2.4
2.31
2.35
全国
2.30
茨城県
2.2
2.09
2.14 2.13
2.0
2.00
1.87
1.86
1.91
1.8
1.75
1.76
1.64
1.6
1.53
1.49
1.54
1.4
1.42
1.2
1.43
1.45
1.39
1.44
1.38
1.42
1.34
1.47
1.40
1.36
1.33
1.38
1.32
1.0
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
S35 S40 S45 S50 S55 S60 H2
H7
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14
政
策
研
究
報
告
41
合計特殊出生率が人口を維持する水準である
2.08を下回ると、人口はやがて減少し始めること
となる。国立社会保障・人口問題研究所が推計し
た日本の将来人口は、平成12年(2000年)の1億
2,693万人から、平成18年(2006年)の1億2,774万
人をピークに減少しはじめ、平成62年(2050年)
には1億59万人にまで減少し、65歳以上の高齢者
は約3割と世界に先駆けて高齢化が急速に進行す
ることが予測されている。
同じく茨城県の人口は、平成12年の298万6千
人から、平成17年(2005年)∼平成22年(2010年)
をピークに300万7千人となり、平成42年(2030
年)には、277万4千人にまで減少すると見込ま
れている。
人口減少社会について
ると予測されており、働き手3人で2人を扶養す
3 人口減少社会の影響
る計算になる。
国民負担率が過度に高まると、可処分所得が低
下し、現役世代の労働意欲が減退することに加え
(1)マクロ経済への影響
戦後の繁栄を支えた大量生産システムや年功序
列の終身雇用、公共事業を中心とする経済政策は、
企業の競争力も低下し、経済活力が低下する可能
性がある。
平成16年年金制度改正案の中では、厚生年金の
人口増加と経済拡大を前提としていたが、人口減
最終保険料率が現行の13.58%から平成29年度以降
少社会においては、第1に経済の停滞が予測され
は18.30%に引き上げられるなど、持続可能な制
る。なぜ、経済が停滞するのか。
度構築に向け、議論がなされているところである。
GDP(国内総生産)は1年間に国内で生産さ
れた価値の合計であり、1人の労働者が1年間働
政
策
研
究
報
告
くことによって生み出される価値、すなわち労働
人口減少社会では、租税収入が伸び悩み、高齢
生産性に労働者数をかけたものである。そしてそ
化による年金、福祉、医療関係の支出の増加も見
のGDPの増減が経済成長率であるので、経済成
込まれることから、厳しい財政状況が予測される。
長率は労働力人口の増減率と労働生産性の上昇率
さらに、施設の維持管理や更新のための費用も
の和となる。
人口が減少すると労働者数も減少する。仮に労
42
(3)行政の変化
増加するため、新たな社会資本整備は、限定され
たものにならざるを得なくなってくる。
働生産性が昨年と今年で変わらず、労働力人口が
一方、多様化する行政ニーズに対し、きめ細か
1%減少したとすると経済成長率はマイナス1%
に対応することが困難になるため、県民、企業、
である。一方、労働生産性が技術の進歩によって、
NPO等との連携・協働により施策を推進するこ
1%上昇したとしても、労働力人口が1%減少す
とが一層重要になってくる。
れば、経済成長率はゼロとなる。
このように、人口、特に労働力人口が増加から
減少に転換することは、労働生産性の上昇がなけ
(4)地域コミュニティの弱体化
人口が減少すると、特に過疎地域においては、
れば、経済成長に対してマイナスに働くことにな
生活を支え合ったり、共有地などを管理したりす
るのである。
る機能が果たせなくなる集落が現れてくる。一方、
既存の都市空間の再編を進めることにより、職住
(2)社会保障制度への影響
が近接し、高齢者を含めたすべての人にとって暮
少子高齢化の進行により、年金、医療、福祉等
らしやすく、環境への負荷が小さい都市構造をつ
の社会保障分野における現役世代の負担が増大す
くり上げるチャンス(国土交通省)が到来する可
る。日本の行財政及び社会保障制度は、経済が高
能性もある。
い成長を続け人口構成が若かった時代に確立され
たものであり、経済の低成長や人口動態の変化に
非常に脆弱な構造となっている。生産年齢人口に
対する高齢者人口の比率は2000年の26%(働き手
4人で1人を扶養)から2050年には、67%に達す
人口減少社会について
4 人口減少社会への対応
人口の減少とともに労働力人口が減少してい
5 おわりに
人口減少は、これまでみてきたように、経済
く中でも、労働生産性がある程度上昇すれば、
社会に非常に大きな影響を与えるため、地域の
GDPの縮小は相対的に緩やかなものとなり、
将来像についても、全く新しい視点から検討す
経済厚生の水準をみる上での基本的な指標とな
ることが必要になるものと考えている。例えば、
る1人当たりのGDPは拡大し、個々人の生活
「自己責任・自己決定の原則の社会」、「多様な
が豊かになっていく可能性がある。また、1人
選択が可能になる社会」、「選択と集中による施
当たりの資産も増加し、これが有効に使われれ
策の推進」といった視点である。
ば、国民一人ひとりにとってより豊かな社会を
実現することも可能であろう。
このように、人口減少の下でどの程度の経済
次回は、こうした点にも十分留意して、今回
述べた課題に対する対応方策等について、考え
てみたい。
成長を達成できるかは今後の政策努力によると
ころが大きいと言える。
(次号に続く)
例えば、これまで十分に能力が活用されてい
政
策
研
究
報
告
ない女性や高齢者の就業を促進し、労働力人口
を確保するとともに、知識・技術集約的な分野
43
への労働移動を進めたり、1人あたりの教育投
資を増やすことなど、労働力の質を向上させる
ことが必要になろう。
また、将来需要が見込まれる燃料電池やロボ
ットなどの先端的な技術開発の推進や、健康福
祉、環境機器等の新産業分野を育成していくこ
とが重要である。
さらに、第二の人口と言われる交流人口の拡
大を図り、地域を活性化していくことは持続的
な発展のために重要な課題であり、交流の基盤
となる陸・海・空の広域交通ネットワークや高
度情報通信基盤の整備が着実に進展する本県に
おいては、本格的に、人・物・文化・情報の交
流を促進し地域の連携を進めていくことが重要
である。
人口減少社会について
政策研究報告
規制インパクト分析
(RIA)の導入について
企画部企画課政策研究グループ
ついて、その概要を紹介したいと思います。
政
策
研
究
報
告
1.はじめに
政府は、透明性が高く公正で信頼できる経済
社会の実現を図るとともに、経済活性化による
2 規制インパクト分析
(RIA)とは
持続的な経済成長を達成し、多様な選択肢の確
保された国民生活を実現するため、積極的に規
44
制改革に取り組んできました。
規制インパクト分析(RIA)とは、規制が
民間事業者や消費者、政府等に与える影響を費
まず平成7年には「規制緩和推進計画」を策
用便益分析や社会経済インパクト分析、費用対
定し、規制緩和の目的、基本指針、計画の推進
効果分析などの手法を用いて体系的に分析する
方法などを示した上で、具体的措置として11分
手法のことで、日本においてはまだあまり普及
野1091事項を盛り込み、平成10年の「規制緩和
していない手法ですが、欧米では政府が導入し
推進3か年計画」においては、15分野624事項
ようとする規制案のインパクトを事前にシミュ
の規制緩和措置を盛り込みました。
レーションし評価するためのツールとして活用
さらに政府は、平成13年に「規制改革推進3
され、一定の成果を上げています。
か年計画」を策定するとともに、平成15年には
費用便益分析は、規制に伴なう費用と便益を
特定の地域に限り、地域の特性に応じて規制を
測定し貨幣評価を行った上で、便益が費用を上
緩和する「構造改革特区制度」をスタートさせ
回る場合には規制を正当化するもので、社会経
ています。
済インパクト分析は、一般均衡分析を規制政策
着実に進みつつある規制緩和および規制改革
効果の計測に応用したものです。また、費用対
ですが、こうした規制や規制緩和の影響はどの
効果分析は、施策等の実施に伴ない発生する費
ように計測・評価されるのでしょうか。
用や便益について、必ずしも全てを貨幣価値で
ここでは、政策評価の1つとして規制等の影
表示することなく比較する手法です。
響を評価する手法である規制インパクト分析
1980年以降、各国で新規および既存の規制を
(Regulatory Impact Analysis=以下RIA)に
評価するため、さまざまなタイプのRIAが実
規制インパクト分析(RIA)の導入について
施されてきました(表1参照)。なかでも、イ
①規制の目的、背景、問題点
ギリス、アメリカ、カナダではRIAが制度化
②考えられる代替手段
されていて、分析はおおむね次のような項目か
③影響分析(費用便益分析)
ら構成されています。
④意見聴取
⑤結論(実施及び見直し)
表1 各国のRIAの分析タイプと開始年について
国
オーストラリア
カナダ
分析タイプと開始年
費用便益分析 1985年
「社会・経済効果分析」 1977年、一般的な効果分析 1986年、
費用便益分析と費用対効果分析 1992年
フランス
特に雇用、財政への影響に取り組んだ一般的な効果分析、
1996年における単年計画
ドイツ
1984年に提案された費用便益分析および予算コスト分析
日 本
許認可の便益テスト 1987年、
規制当局が必要とみなした一般的な効果分析 1988年
イギリス
事業コスト評価制度を1985年に導入。リスク評価および事業コスト分析を
含む規制評価制度を1996年に導入
アメリカ
インフレ影響評価制度を1974年に導入。費用便益分析を1977年に導入
1981年に拡大、1993年に改訂
出典:「世界の規制改革 下 OECD編 山本哲三・山田弘監訳 日本経済評論社」
の簡素化
3 RIAの事例
○液化石油ガス器具等の製造事業者等の表示
(マーク表示)(旧二種液化石油ガス器具等に
ついての新たな義務)
通商産業省(現経済産業省)は、平成11年に
○検査記録の作成及び保存の義務づけ(旧第二
改正された液化石油ガスの保安の確保及び取引
種液化石油ガス器具等製造事業者に新たな義
の適正化に関する法律(以下「液石法」)の影
務)
響について試行的にRIAを行っています。
液石法は、規制により液化石油ガスによる災
害を防止するとともにその取引を適正にするこ
とを目的とした法律ですが、技術水準等の向上
○国による検定制度並びに登録及び型式承認制
度の廃止並びに民間第三者機関による適合性
検査の創設
○検査業務への民間活力の活用
により安全性や保安水準が向上し事故の発生件
数も減少してきたことから、法律の全般的な見
直しが行われました。分析では、
の5つの項目に関して、政府、製造事業者、
消費者等の関係主体にかかる費用と便益を定性
的な評価も含め分析し(表2)、結論として、
○液化石油ガス器具等の製造事業者の承認事項
法の改正を実施することとしています。
規制インパクト分析(RIA)の導入について
政
策
研
究
報
告
45
表2 液石法改正に係る便益と費用の分析
変更の内容
関係主体
政 府
①液化石油ガス器具等の製造事業者の承認事項 ②液化石油ガス器具等の製造事業者等の表示
③検査記録の作成及び保存の義務づけ
の簡素化
(マーク表示)
(旧第二種液化石油ガス器具等製造事業者に
(旧第二種液化石油ガス器具等についての新たな義務)
新たな義務)
便益
・行政による処理費用の低減(人件費等)
費用
・要求事項に関する基準を設定するための費用
(当初のみ)
認定検査機関 便益
承認検査機関
(旧指定検査機関)
費用
製造事業者等
政
策
研
究
報
告
販売事業者
消費者
・製造事業者等のうち試験設備を持たない者等
に対するサービス提供の拡大の可能性
・マーク費用の増大が製品出荷価格を上昇させ
る可能性
・申請書類準備に係る費用の減少(人件費等)
試算 ①販売等に係る例外承認
:約2.4万円/件
②輸出等特定用途に供する第二種液石
器具等の製造承認:約3.9万円/件
・行政側の処理期間の短縮による逸失利益の低減
・記録作成・保存に係る費用の増大が製品出
荷価格上昇につながる可能性
費用
・費用減少が製品出荷価格低下につながる可能性 ・現行第二種製品にマークを表示するための費
用が増大(人件費、材料費等)
(ただし、現在自主的にマーク表示している
企業には追加費用は基本的に発生しない)
・現行第二種液化石油ガス器具製造事業者につ
いては、新たに記録保存作業費用が発生(た
だし、現行でも同様の記録を作成・保存して
いる事業者については追加費用は発生しない)
便益
・製品出荷価格低下の可能性
・製品出荷価格が上昇する場合、小売価格を上
昇させる可能性
・製品の安全性確認に要する費用が低下
・製品出荷価格が上昇する場合、小売価格を上
昇させる可能性
費用
・製品出荷価格低下する場合、小売価格低下の
可能性
・マーク確認に要する費用が追加
・製品出荷価格上昇の可能性
・製品出荷価格上昇の可能性
便益
・小売価格低下の可能性
・安全な製品を識別するための費用が低減
・適合性の確認がなされないまま市場に出回っ
た製品による事故等のリスクの減少
・製品の安全性の向上につながることが見込ま
れる
・小売価格上昇の可能性
・小売価格上昇の可能性
変更の内容
④国による検定制度並びに登録及び型式承認制度の廃止
並びに民間第三者機関による適合性検査の創設
⑤検査業務への民間活力の活用
便益
・行政による申請処理費用の低減(人件費等)
(ただし、実質的な審査は従来
から第三者機関が行ってきたため、減少額はそれほど大きくないと予想)
・監督措置(事業計画の認可、事業報告の届出等)が簡素化され、処理
に係る費用が軽減(人件費等)
費用
・要求事項に関する基準を設定するための費用(当初のみ)
・適合性評価を行う第三者機関の認定基準を設定するための費用(当初のみ)
・機関の数が増えれば、認定及び監督業務費用は増大
関係主体
政 府
認定検査機関 便益
承認検査機関
(旧指定検査機関)
・既存の機関については、監督措置(事業計画の認可、事業報告の届出
等)が簡素化され、当該手続きに必要な費用が軽減
・新規参入する機関については、検査ビジネスによる収益の可能性
費用
製造事業者等
販売事業者
消費者
・第三者機関にも検査記録の作成・保存が義務
づけられることにより、費用が発生
便益
費用
46
・現行のマークを一定程度統一するための検討に ・作成・保存すべき記録等についての基準を策
必要な費用(当初のみ)
定するための費用(当初のみ)
・既存の機関については、新規参入が起きれば、収益が減少する可能性
・競争により検査サービス価格が低下
便益
<型式承認及び登録の届出化>
・規制の簡素化により申請準備の費用が低減
試算 ①登 録:約52万円/件
②型式承認:約0.6万円/件
・政府における申請処理期間中の逸失利益の低減
<検定(国)が適合性検査(認定検査機関)化>
・規制の簡素化により申請準備の費用が低減
試算 約0.3万円/件
・政府における申請処理期間中の逸失利益の低減
・海外の製造事業者は、日本市場への輸出費用が低下
・検査サービス供給者が増加することにより、選択の幅が広がり、サー
ビスの質の向上、価格の下落の可能性
・手続き期間の短縮(本サービスの提供者が従来は1だったものが複数
化することが予想)されるため、その期間の逸失利益の低減
費用
・費用減少が製品出荷価格低下につながる可能性
・海外の製造事業者の参入障壁が下がることが参入の増加につながれば、
競争により製品出荷価格低下につながる可能性
・検査サービス価格が低下する場合、製品出荷価格の低下につながる可能性
便益
・製品出荷価格低下の可能性
・製品出荷価格低下の可能性
費用
・製品出荷価格低下する場合、小売価格低下の可能性
・製品出荷価格低下する場合、小売価格低下の可能性
便益
・小売価格低下の可能性
・小売価格低下の可能性
費用
規制インパクト分析(RIA)の導入について
・小売価格上昇の可能性
また、近年公共事業の費用便益分析において
適用の検討が進められている便益帰着連関表も
作成されており、費用や便益について二重計算
や脱漏が避けられています(表3)。
表3 液石法改正に係る費用便益分析において試行的に作成した便益帰着連関表
①液化石油ガス器具等の製造事業者の承認事項の簡素化
政 府
必要情報の特定、基準の設定
−A
簡素化に伴う行政費用の低減
+B
認定検査機関 製造事業者等
販売事業者
消費者
合 計
−A
+B
申請書類作成費用の減少
+C
行政側の処理時間の短縮に伴う逸失利益減少
+D
製品出荷価格低下の可能性
−E
小売価格低下の可能性
+C+D−E
−A+B
+C
+D
+E
0
−F
+F
0
+E−F
+F
−A+B+C+D
販売事業者
消費者
合 計
②液化石油ガス器具等の製造事業者等の表示(マーク表示)
政 府
認定検査機関 製造事業者等
マーク表示費用の増加
−A
−A
製品にマークが付いているかの確認費用
−D
製品の安全性確認費用が低下
+G
適合性の自己確認がなされないまま市場に
出回った商品による事故等のリスクの減少
+B
製品出荷価格上昇の可能性
小売価格上昇の可能性
現行の多様なマークを一定程度統一する
ための検討に必要な費用
−D
+H
+G+H
+E
+E
−B
+C
0
−C
−F
−F
0
−F
−A+B
−B+C
−D+G
−C+E+H
−A−D+E
−F+G+H
(出典:「政策評価の現状と課題」∼新たな行政システムを目指して∼ 平成11年8月政策評価研究会 通商産業省大臣官房政策評価広報課)
めの有用なツールであることから、地方公共団
4 おわりに
体においても規制の評価のみならず施策の効果
測定等に積極的に活用することが望まれます。
政府の総合規制改革会議は、第三次答申(平
成15年12月)で、規制に関する基本ルールの見
直しの1つとして、規制影響分析(RIA)の
参考文献
「世界の規制改革 上・下 OECD編 山本哲三・山田弘監
訳 日本経済評論社」
導入を推進し平成16年度から試行的に実施する
「政策評価の現状と課題」∼新たな行政システムを目指して∼
平成11年8月政策評価研究会 通商産業省大臣官房政策評価広報課
こととしています。
「規制緩和白書 これまでの規制緩和の歩みと規制改革の展
望 2000年版 総務庁編」
もとよりRIAは政策評価の1つの手法であ
りそこで用いられる費用便益分析等は、政策効
果を合理的かつできる限り定量的に把握するた
政
策
研
究
報
告
「近年の規制改革の経済効果―利用者メリットの分析」
政策効果分析レポートNo.1 経済企画庁調査局
「規制効果分析の導入を 山本哲三 日本経済新聞 経済教
室(平成15年10月29日)」
規制インパクト分析(RIA)の導入について
47
施 策 紹 介
構造改革特区を活かしたまちづくり
−金砂郷町幼保一体的
運営特区の取り組み−
高沢 信
金砂郷町企画財政課長
リも“うまい米”として高く評価されています。
1.はじめに
「そば工房」や「こめ工房」など特産物を味わ
える町の施設は、連日多くのお客様にご利用い
ただいているところです。
48
金砂郷町は茨城県の北部に位置し、地形は南
さて、本町の人口は、近年民間業者による宅
北に長く、南部は平坦な水田地帯で、北部は山
地開発が進み、人口減少にやや歯止めがかかっ
林が多い畑作地帯となっています。「金砂大祭
ていますが、出生数は、昭和30年代以降減少を
礼」や「常陸秋そば」で知られていますが、久
続け少子高齢化が進んでいます。
慈川に近い町の南部地区で生産されるコシヒカ
金砂郷町の就学前児童数等の割合
総人口に占める割合
昭和50年
昭和60年
平成7年
平成12年
就学前児童数
6.2%
(10.9%)
5.8%
(8.0%)
5.2%
(6.0%)
4.7%
(5.7%)
老年人口(65歳以上)
18.3%
(8.4%)
18.3%
(10.2%)
25.7%
(14.2%)
27.1%
(16.6%)
2 金砂郷町の子育て支援
施策について
施
策
紹
介
( )内は茨城県全体
応が必要と考えられます。町としては、子育て
に関する多様なニーズに対応するため様々な取
り組みをしていますが、「金砂郷町幼保一体的
運営特区」の取り組みもその一環であります。
少子化によって、今後、地域の多くの分野で
担い手不足となり、経済的社会的基盤の維持が
現在、金砂郷町には、4つの幼稚園、1つの
保育所があります。
困難となることも予想され、様々な角度から対
構造改革特区を活かしたまちづくり −金砂郷町幼保一体的運営特区の取り組み−
こどもセンター
久米幼稚園
金砂郷町保育所
郡戸幼稚園
金砂幼稚園
金郷幼稚園
地域子育て支援センター
※金砂幼稚園は平成16年4月から金郷幼稚園と統合し廃園
金砂郷町こどもセンターは、幼稚園と保育所
た、今後の少子化傾向のなかで同じ地域に、二
とが遊戯室や職員室を共用する合築施設とし
つの制度に基づく二つの施設を維持し続けるこ
て、幼保の交流事業などを取り入れながら平成
とは、財政上の課題も大きいことが合築施設を
12年4月に運営を開始しました。
選択する要素となったことは否定できません。
また、同時にこの施設内に「地域子育て支援
運営の実態としては、施設の共用による交流
センター」を設置し、幼稚園児・保育所児以外
はあるものの、制度の違いから同一施設内にあ
の未就学児と保護者を対象に施設開放、育児講
りながら、同じ年齢の子どもでも幼保それぞれ
座、育児相談などを実施し、子育て支援のため
のクラスに別れ異なった活動を行うなど、二元
の体制を整備してきました。
的運営となっていました。現在、こどもセンタ
こどもセンターは、幼稚園及び保育所の老朽
ーの幼児数は、幼稚園で定員を下回り、保育所
化に伴う建て替えに併せ、幼保の制度の違いに
でも保育士1人当たりの標準的な受け持ち幼児
かかわらず、地域の子どもたちが一緒に生活し、
数を下回るクラスもありますが、現行制度では
双方の利点を活かした保育ができるようにする
幼保同一のクラスにすることは不可能であり、
観点から、「幼稚園と保育所の施設の共用化等
幼児同士のふれ合う機会が減少し、また組織の
に関する指針」に基づき建設したものです。ま
非効率も生じていました。
49
保育室
遊戯室
広場
子育て
支援室
保育室
乳児室
調理室
園児室
保育室
保育室
保育室
職員室
沐浴室
ほふく室
園児室
多目的ホール
園児室
■共用施設 ■金砂郷町保育所 ■
■金砂幼稚園 □子育て支援センター
構造改革特区を活かしたまちづくり −金砂郷町幼保一体的運営特区の取り組み−
施
策
紹
介
3 金砂郷町幼保一体的
運営特区の概要
(1)ねらいと事業の内容
特区導入のねらいは次のとおりです。
①少子化のなかで幼児同士のふれ合う機会を
確保し、豊かな人間性や社会性を育む。
地域の特性に応じて、区域を限定した規制緩
②幼稚園・保育所合築施設の利点を最大限に
和を行い、地域の活性化を図るため「構造改革
活かし、組織の効率的な運営をすることに
特別区域法」が制定されました。幼保一体化に
より多様な子育てニーズに対応する。
ついても多くの規制緩和の提案が行われ、「幼
保の合同活動」が規制の特例措置に掲げられた
ことから、平成15年7月及び10月、金砂郷町こ
どもセンターにおける二つの事業について、
「金砂郷町幼保一体的運営特区」として2次に
わたり申請を行い認定されたところです。
認定を受けた「金砂郷町幼保一体的運営特区」の二つの事業は次のとおりです。
①幼稚園における幼稚園児、保育所児等の合同活動事業
50
(平成15年8月29日認定、事業開始:平成15年10月1日)
(規制の根拠となっている法令等)
幼稚園設置基準第5条第1項
幼稚園には、専任の教諭を置かなければならない。
→ この基準により「専任の教諭」は保育士を兼ねることができないとさ
れているので、幼稚園において保育所児が合同で活動することは許さ
れない。
(特例措置の内容)
幼児数の減少により、幼児が他の幼児と共に活動する機会が減少し、幼児の
社会性の涵養が困難となっていると認められる地域において、認定を受ければ、
幼稚園の学級定員の範囲内で保育所児等を含め保育し、合同で活動することが
できる。
施
策
紹
介
構造改革特区を活かしたまちづくり −金砂郷町幼保一体的運営特区の取り組み−
②保育所における保育所児と幼稚園児の合同活動事業
(平成15年11月28日認定、事業開始:平成16年4月1日)
(規制の根拠となっている法令等)
幼稚園と保育所の施設の共用化等に関する指針について(通知)
保育上支障のない限り、その施設について相互に共用することができる。
→ この通知により施設の共用をすることはできるが、保育所において幼
稚園児との合同活動を許したものではない、と解すべきとされている。
(特例措置の内容)
幼児数の減少などで適正規模の集団保育が困難と認められる地域における
「幼稚園と保育所の施設の共用化等に関する指針」によって設置された施設で、
かつ保育士が幼稚園教諭の資格を併有する等、一定の基準を満たした場合で、
認定を受ければ、保育所において幼稚園児が合同で活動することができる。
金砂郷町こどもセンターでは、今回の認定を
これまで取り組めなかった教育・保育活動も可
受け、構造改革特区としては、全国で初めて幼
能となってくるものと思われます。保護者の方
保一体的運営の取り組みを開始したところです。
には、預かり保育の利用により社会参画の機会
51
を増やしていただけると考えています。
(2)平成15年10月から取り組んでいる内容
幼稚園の5歳児クラスで、週3日、午前8時
(4)特区導入の効果
30分から11時の給食前まで、保育所の5歳児が
平成15年10月から合同活動を実施した5歳児
合同の活動を実施しています。年度途中という
においては、クラス定員を大きく下回っていた
こともあり段階的、弾力的な運営となっていま
ため交流の範囲が狭かったが、実施後は仲間も
す。
増え、幼保の区別のない交流が広がってきてい
ます。
(3)平成16年4月から取り組む内容
また、幼稚園と保育所が同じ施設内でも、保
今回の構造改革特区の導入にあわせ、本町の
護者や職員の間に制度の違いに基づく意識の壁
全部の幼稚園で「預かり保育」を実施すること
があったが、一体化の推進により、徐々にその
にしました。また、一部幼稚園しか実施してい
壁が薄れてきているという話も聞かれるように
なかった3歳児保育を全幼稚園で実施します。
なりました。運営の面では、施設の共用部分
こどもセンターでは、平成16年4月から幼稚
(遊戯室等)を事前調整の必要が無く使用でき
園、保育所双方で合同活動ができることになり、
るようになるなど、効率化されている面もあり
実質的に“短時間保育児”と“長時間保育児”
ます。
の区分となります。集団の編成に自由度が増し、
大きな効果としては、年度途中で保護者の就
構造改革特区を活かしたまちづくり −金砂郷町幼保一体的運営特区の取り組み−
施
策
紹
介
こどもセンターの1日<3歳児から5歳児>
7:30
保
育
所
8:30
早
朝
保
育
幼
稚
園
11:30
※16年4月∼予定
13:30
昼
寝
登
園
開
始
︵
合
同
活
動
︶
昼
食
職または離職というような家庭環境の変化があ
っても、クラス替えなどが必要なく安定した保
育環境を保つことができることです。
降
園
︵お
合や
同つ
活
動
︶
遊
び
16:00
18:00
残
留
保
育
降
所
預かり保育の幼
稚園児は保育所
児と合同活動
と感じました。
私は、特区の導入にあたり事務局として関係
部局の調整役となりましたが、職員や保護者の
一部に、一体的運営に反対する意識が根強くあ
(5)今後の課題
52
ることを感じました。それは、長年続いてきた
一体的運営特区の認定とは関わりなく幼保の
制度を当たり前のものとして受け入れ、その制
制度の違いは存在しており、一体的運営を行う
度が生まれてきた背景、前提がすでに地域の実
ことで事務がより煩雑となる面が多く今後の事
情に合わない面が生じているにもかかわらず、
務効率化が課題です。また、幼保の保育日数や
その制度を変えることは、自分たちの拠り所を
保育時間の違いによる子どもへの影響を最小限
失うという意識ではないかと思います。
に抑える必要があり、また幼保混合クラスとし
もっとも、構造改革特区も、国が地方から言
たときの保育の方針にも留意する必要がありま
われて部分的に直すだけで、国が自ら何も変え
す。
られないことを示す制度だ、という見解もある
ようです。
しかし、今、地方の小さな町でも、構造改革
4 構造改革特区を今後の
まちづくりに活かすために
特区の導入により、これまで自分たちでは越え
られなかった制度の壁を越え、新しい視点でま
ちづくりを進めていける可能性がでてきたと思
います。
施
策
紹
介
金砂郷町では、幼保一体化を目指す特区に取
金砂郷町においても、特区を導入できる分野
り組みましたが、この過程で本当に多くの分野
が他にもあると考えていますが、まず、意識の
で規制があることを改めて思い知らされ、また、
改革から始める必要があると思っています。
自分たちがその規制にしばられていることに一
種の安心感を抱いてしまっているのではないか
構造改革特区を活かしたまちづくり −金砂郷町幼保一体的運営特区の取り組み−
施 策 紹 介
茨城県におけるESCO(エスコ)
事業の取組について
企画部企画課政策研究グループ
供するESCO事業が広まりつつあることを踏
1.はじめに
まえ、こうした省エネルギービジネスを推進す
べく、公的部門への率先的導入等、事業認知の
確立と積極的活用を促進する。」と位置付けて
エネルギー資源の大部分を海外に依存する我
います。
が国にとって、エネルギーの安定供給を図るこ
本稿では、新しい省エネルギーの手法である
とは最も重要な課題です。また、地球温暖化問
ESCO事業の仕組みや特長と、現在取り組ん
題、とりわけ温室効果ガスの大部分を占めてい
でいる県立医療大学におけるESCO事業の概
るエネルギー起源の二酸化炭素の排出をどう抑
要についてご紹介したいと思います。
53
制していくかも大変重要な課題となっています。
このため茨城県においても、こうした課題に
積極的に対応するため、平成14年 7 月に県のエ
ネルギー政策の指針となる「エネルギープラン」
2 ESCO事業とは
を策定し、省エネルギーの推進や新エネルギー
の導入促進に取り組んできました。
また平成15年 2 月には、県自らが省エネルギ
(1)ESCO事業の概要
ーに積極的に取り組むため「ESCO推進プラ
ESCO(Energy Service COmpany)事業
ン」を策定し、このプランに基づき本年 1 月に
とは、1970年代にアメリカで生まれた民間ビジ
は、県立医療大学において全国で 3 番目となる
ネスで、欧米においては省エネルギー推進手法
ESCO事業を導入するため参加事業者の公募
の中心的存在として位置づけられています。
を開始したところです。
アメリカではその市場規模は10億ドルに達す
ESCO事業とは、オフィスや病院等を対象
に、エネルギー消費の抑制と光熱水費の削減を
るといわれ、イギリスでも潜在的な市場規模は
15億ポンドといわれています。
同時に実現する新たなビジネスであり、昨年10
具体的には、省エネルギーに専門のノウハウ
月に策定された政府のエネルギー基本計画にお
を持つ事業者が、ビルや工場等の省エネルギー
いても、「包括的な省エネルギーサービスを提
化に必要な「技術」「設備」「人材」「資金」な
茨城県におけるESCO(エスコ)事業の取組について
施
策
紹
介
どのすべてを包括的に提供するサービスで、そ
事業者が保証(パフォーマンス契約といわれて
のための費用を省エネルギーによる経費削減効
います。)します。
果によって賄うとともに、省エネルギー効果も
県の利益
ESCOサービス料
(委託料)
県の利益
光熱水費
光熱水費
光熱水費
対策前
契約終了後
契約中(7∼12年程度)
図 ESCO事業のイメージ
(2)ESCO事業の契約方式
業者に支払うもので、顧客側の初年度の負担は
ESCO事業は、省エネルギー化に関する建
設資金を顧客が確保するのかESCO事業者が
54
大きいものの、サービス開始以降のメリットの
多くを顧客が享受できます。
提供するのかによって、契約形態がギャランテ
一方、シェアド・セイビングス契約方式では、
ィード・セイビングス契約(自己資金型)とシ
省エネルギーに係る改修工事等の資金について
ェアド・セイビングス契約(民間資金活用型)
ESCO事業者が(金融機関等から調達し)提
の2つに分類されています。
供し、顧客側はサービス開始以降、改修によっ
ギャランティード・セイビングス契約方式
て実現する節減額から一定割合を、改修工事費
は、省エネルギーに係る改修工事等の資金につ
用や当該費用の調達に係る金利分等としてES
いて、省エネルギーによって実現する節減額を
CO事業者に支払います。
原資として顧客側が確保し、一時にESCO事
ギャランティード・セイビングス契約
シェアド・セイビングス契約
融資
ESCO
ESCO
金融機関
返却
支払
施
策
紹
介
パフォーマンス契約
支払
パフォーマンス契約
融資
顧 客
金融機関
顧 客
返却
図 ESCO事業の契約方式
茨城県におけるESCO(エスコ)事業の取組について
○期待されるESCO事業導入の効果(県の利
3 県立医療大学における
ESCO事業
益)
年間の光熱水費削減見込額5,300万円のうち、
契約期間内においては、ESCO事業者に支払
1 でも述べたとおり、茨城県では平成14年度
うサービス料を除く700万円を県のメリットと
にESCO推進プランを策定いたしました。プ
して保証させ、契約期間終了後には、ESCO
ラン策定にあたっては、延べ床面積が2,000m 2
サービス料を支払う必要がなくなることから、
以上の90の県有施設のうち、書類調査により省
光熱水費削減見込額5,300万円が県の利益とな
エネルギー効果の見込める20施設について簡易
ります。
診断(ウォークスルー調査)を行い、その中か
ら最もESCO事業の導入に適する 2 つの施設
○業者選定の方法
について、詳細診断を行いました。そのうちの
いわゆる公募型プロポーザル方式を採用しま
1つが、今回ESCO事業を導入することとな
した。事業参加希望事業者は、募集要項に示す
った県立医療大学です。
実現すべき省エネルギー率等の条件を満たした
以下では、県立医療大学におけるESCO事
提案を県に提出し、県は最も優れた提案を外部
有識者を含む委員会における審査を経て選定し
業の概要についてご紹介いたします。
ます。
主な条件としては、省エネルギー率は13%以
○事業スキーム
県立医療大学は、設備規模が大きく改修資金
も多額になることが予想されることから、初期
上、二酸化炭素の排出削減率が10%以上として
います。
55
投資を低く抑えるためシェアド・セイビングス
契約方式(民間資金活用型)ESCO事業を採
○想定契約年数
契約年数は、事業者の提案によって異なりま
用しました。
なお、シェアド・セイビングス契約方式によ
すが、おおむね 7 ∼12年と見込んでいます。
るESCO事業を都道府県で実施するのは、全
国で大阪府、埼玉県についで茨城県が 3 番目と
○事業スケジュール
事業のスケジュールは以下のとおりですが、
なります。
平成15年度以内に最優秀提案事業者を選定し、
さらに詳細協議を経て平成16年の 9 月頃には契
○光熱水費削減見込額
ESCO推進プランにおける詳細診断によれ
約を締結します。その上で、省エネルギー改修
ば、年間5,300万円以上(削減率:27%以上)
工事等を行い平成17年 4 月からESCOサービ
削減できるものと見込んでいます。
スが開始される予定となっています。
なお、県立医療大学における平成11年∼13年
の 3 ヵ年の平均光熱水費の額は、約1億9,300
万円となっています。
茨城県におけるESCO(エスコ)事業の取組について
施
策
紹
介
平成16年 1 月
3月
ESCO事業提案の公募開始
審査委員会にて最優秀提案1件及び優秀提案数件選出
∼最優秀提案を行った事業者と契約に向けた詳細協議∼
9月
契約締結
∼省エネ改修工事∼
平成17年 4 月
ESCOサービス開始
○想定される省エネルギー改修工事の一例
4 今後の取組み
・コージェネレーションシステム(自家発電
による電力と熱の供給)の導入
・蛍光灯のインバータ化、高輝度誘導灯の導
入
以上のようにESCO事業の導入は、省エネ
・各種ポンプや空調機のインバータ化
ルギーによる環境負荷の低減と経費の削減を実
・室外機への水噴霧
現するとともに、ESCO事業という新たなビ
ジネスの育成にも寄与することが期待されてい
※インバータ化とは、交流電力50/60Hzの
ます。
周波数を自在に変化させ、機器の適正制御
56
を行うこと。
茨城県としても、県立医療大学におけるES
CO事業を是非とも成功させ、病院や庁舎等他
の施設についても積極的に導入を検討していく
とともに、市町村や民間企業においても導入が
参考:ESCO事業導入の目安
進むよう努めてまいりたいと考えています。
・竣工後 7 ∼ 8 年以上経過した施設
・病院、宿泊施設など24時間熱需要のある施設
・当面改築計画が無い老朽化した施設
・具体的な導入可能性の目安としては
延床面積 5,000m2以上
省エネ可能率 3 %以上
改修工事費 10百万円以上
単純改修年 11年以下
施
策
紹
介
茨城県におけるESCO(エスコ)事業の取組について
編集後記
今回のふぉるむでは、人口減少社会や規制インパクト分析など企画課で取組んできた研究成
果の一部を披露させていただきました。
間違いなく訪れるであろう人口減少社会をどう乗り越えていくのか。大いに議論しながら、
地域再生や構造改革特区といったツールを自在に活用して地域間競争に打ち勝っていきたいも
のです。(T.H)
「ふぉるむ」編集担当を今回の号で離れることになりました。原稿の御執筆に快く協力下さっ
た執筆者の方々をはじめ多くの方々に改めて感謝申し上げます。おかげさまで、「ふぉるむ」
14号を発行できたことを嬉しく思います。今後は読者として「ふぉるむ」の発刊を楽しみにし
ております。(T.K)
提言論文・ご意見等送付先
企画部企画課政策研究グループ
TEL
029−301−2523
FAX
029−301−2539
Email [email protected]
送付方法 Eメールもしくはファックスによる送付
又は直接持参願います。
茨
城
県
政
策
情
報
誌
ふ
ぉ
る
む
茨城県
茨城県政策情報誌 ふぉるむ
2004年3月発行
本誌は古紙配合率100%再生紙を使用しています。
平
成
十
六
年
第
14 号