三菱自動車工業株式会社 通称名 ギャラン フォルティス 車両型式 トランスミッション型式 DBA−CY4A F1CJA(2WD) W1CJA(4WD) エンジン型式 適用時期 出 典 資 料 2007.8 ∼ 新型車解説書 No.1036Y30 整備解説書 上巻 No.1036Y00A 整備解説書 下巻 No.1036Y00B 電気配線図集 No.1036Y70 4B11 Ⅰ オートマティック・トランスミッションの構造・機能及び故障診断 1 概 要 卓越した低燃費,更なるイージ・ドライブと Fun・to・Drive を実現すべく採用した。 CVT は「トルク・コンバータ」と「スチール・ベルト&プーリによる無段変速機構」 を組み合わせ「高性能な走 り」と「低燃費」を実現させている。走行状態に応じてローからオーバ・ドライブまで無段階に快適な変速比 を自動選択し,アクセル操作に応じた変速ショックのない,滑らかでドライバの意図に合った走りが実現で きる。 参考 このトランスミッションは「ギャランフォルティス」 「ギャランフォルティススポーツバック」 「デリカ D:5」 「アウトランダー」 「RVR」 に採用されている。(一部制御や終減速比など車両ごとに異なる) トランスミッション形式 トルク・コンバータ F1CJA(2WD),W1CJA(4WD) 形式 3 要素・1 段・2 相 ストール・トルク比 1.83 ロックアップ トランスミッション・タイプ 変速比 有 前進自動無段(スチール・ベルト式)・後退 1 段 前進 2.349 ∼ 0.394 後退 1.750 シフト位置 P−R−N−D+6 速スポーツ・モード 終減速比 6.120 制御方式 電子制御 機能 オイル・ポンプ フルード 変速制御 有 ライン圧制御 有 セレクト制御 有 ロックアップ制御 有 自己診断機能 有 フェイルセーフ機能 有 アイドル・ニュートラル制御 有(車種別装備) 形式 ベーン式ポンプ 駆動方式 エンジン,スプロケット及びチェーンによる駆動 銘柄 三菱純正ダイヤクイーン CVT フルード J4 容量(L) 約 7.8 − 273 − 三 菱 2 構造・機能 1) 構成部品の配置(図Ⅰ− 1,2) 図Ⅰ− 1 外観図 図Ⅰ− 2 断面図 − 274 − 三 菱 2) 構成部品の構造・機能 ⑴ 変速機構 スチール・ベルトの構造(図Ⅰ− 3) 約 400 個のスチールのコマと 12 枚重ねのスチール・リ ング 2 セットで構成されている。このスチール・ベルト の特徴はゴム・ベルトなどが引っ張り作用により動力を 伝達するのに対して,スチールのコマの圧縮作用によっ て動力が伝達される。スチールのコマが動力伝達を行う には,プーリの斜面との間に摩擦力が必要となる。 圧縮により動力を伝達するスチールのコマと,それに必 要な摩擦力を維持するためのスチール・リングとが役割 を分担している。このためスチール・リングの張力は全 体で分散して受け持たれ,かつ応力変動も少なく耐久性 図Ⅰ− 3 スチール・ベルト に優れている。 プーリ及びスチール・ベルト(図Ⅰ− 2) 溝幅が軸方向に自由に変化できる一対のプーリと,スチールのコマを間断なく連ね両側に多層のスチール・ リングでガイドされたスチール・ベルトにより構成されている。スチール・ベルトとプーリの巻付半径によ り,ローの状態(変速比 2.349)からオーバ・ドライブの状態(変速比 0.394)まで連続的無段階に変化し,この 溝幅はプライマリ及びセカンダリ・プーリの油圧によりコントロールされている。 プライマリ,セカンダリ・プーリ共に 11°の傾斜面をもつ固定プーリと可動プーリにより構成され,可動 プーリ側の背面に油圧室(プライマリ又はセカンダリ・チャンバ)をもっている。可動プーリは,ボール・ス プラインにより軸上をしゅう動でき,プーリの溝幅を変える働きをしている。エンジン負荷(アクセル開度), プライマリ・プーリ回転速度とセカンダリ・プーリ回転速度(車速)を入力信号として,プライマリ,セカン ダリ・プーリの作動油圧を変化させプーリの溝幅を制御している。 ⑵ 前後進切り替え機構(図Ⅰ− 4) トルク・コンバータとプライマリ・プーリの間に遊星歯車(プラネタリ・ギヤ)式の前後進切り替え機構を設 置している。 P・N レンジ エンジンからの駆動力はフォワード・クラッチ及びリバース・ブレーキが解除されているためインターナ ル・ギヤ及びプラネタリ・キャリアが空転し,プライマリ・プーリには伝達されない。 D レンジ エンジンからの駆動力はフォワード・クラッチが締結されているためフォワード・クラッチを介してサン・ ギヤを正転させる。このためプライマリ・プーリは正転し,駆動力は正転された状態で出力される。 R レンジ エンジンからの駆動力はリバース・ブレーキが締結されているため,プラネタリ・キャリアが固定されサ ン・ギヤが逆転する。このためプライマリ・プーリは逆転し,駆動力は逆転された状態で出力される。 − 275 − 三 菱 図Ⅰ− 4 前後進切り替え機構 3) 油圧制御系統(図Ⅰ− 5) ⑴ 油圧制御 油圧制御機構は,オイル・ポンプ駆動チェーンを介してエンジンにより駆動されるベーン式オイル・ポンプ, ライン圧及び変速を制御する油圧コントロール・バルブ,入力信号により構成されている。 図Ⅰ− 5 油圧制御系統 − 276 − 三 菱 ⑵ 主な構成部品の機能概要 構成部品 機 能 マニュアル・バルブ 各シフト・ポジションに応じて,クラッチ作動油圧を各クラッチ・ブレーキ に配送する トルク・コンバータ・レギュレータ・バルブ トルク・コンバータへの供給油圧を調圧する クラッチ・レギュレータ・バルブ 運転状態に応じ,クラッチ作動油圧を調圧する プレッシャ・レギュレータ・バルブ オイル・ポンプからの吐出圧を走行状態に応じた最適な圧力(ライン圧)に調 圧する レシオ・コントロール・バルブ ステッパ・モータとプライマリ・プーリのストローク差に応じてプライマ リ・プーリ油圧室(チャンバ)へのライン圧油量を制御する ロックアップ / セレクト切り替えソレノイド・ バルブ セレクト・スイッチ・バルブ ロックアップ・ソレノイド・バルブの制御圧をロックアップの締結,解除を 行う場合と前後進クラッチ(フォワード・クラッチ及びリバース・ブレーキ) の締結,解除を行う場合に切り替える制御をする ライン圧ソレノイド・バルブ プレッシャ・レギュレータ・バルブを制御する ロックアップ・ソレノイド・バルブ ロックアップ・コントロール・バルブを制御して,ロックアップ油圧及びセ レクト時の油圧を制御する ステッパ・モータ レシオ・コントロール・バルブを制御して,変速比を制御する セカンダリ・バルブ セカンダリ圧ソレノイド・バルブの圧力によりセカンダリ圧を調圧する セレクト・コントロール・バルブ セレクト時に締結する,フォワード・クラッチ圧及びリバース・ブレーキ圧 を調圧する ロックアップ・コントロール・バルブ トルク・コンバータの締結圧,非締結圧を調圧する セカンダリ圧ソレノイド・バルブ セカンダリ・バルブを制御してセカンダリ圧を調圧し,ベルト・クランプ力 を制御する 4) シフト・メカニズム(図Ⅰ− 6) ⑴ アップ・シフト ・ステッパ・モータによりプーリ・レシオ・リンケージが左へ移動する。それにより,プーリ・レシオ・リン ケージに連結しているレシオ・コントロール・バルブが左へ移動することによりライン圧回路が開き,プラ イマリ・プーリ油圧室(チャンバ)にはライン圧が掛かり増圧される。 ・セカンダリ・バルブは上側に移動しドレーン圧回路を開けるため,セカンダリ・プーリ油圧室(チャンバ)の フルードが排出される。 ・変速が進みプライマリ・プーリの位置が変わることにより,レシオ・コントロール・バルブが徐々に右へ動 きプライマリ・プーリへの油圧供給が制限されると変速完了となる。 ⑵ ダウン・シフト ・ステッパ・モータによりプーリ・レシオ・リンケージが右へ移動する。それにより,プーリ・レシオ・リン ケージに連結しているレシオ・コントロール・バルブが移動することにより,プライマリ・プーリ油圧室 (チャンバ)のフルードが排出される。 ・セカンダリ・バルブによりライン圧回路が開いているため,セカンダリ・プーリ油圧室(チャンバ)へフルー ドが流入する。 ・変速が進みプライマリ・プーリの位置が変わることにより,レシオ・コントロール・バルブが徐々に左へ動 きプライマリ・プーリへの油圧排出が制限されると変速完了となる。 − 277 − 三 菱 図Ⅰ− 6 変速時の油圧及びバルブの動き 5) 電子制御系統 ⑴ 制御システム図(図Ⅰ− 7) 図Ⅰ− 7 制御システム図 − 278 − 三 菱 ⑵ センサ一覧表 センサ名称 機 能 プライマリ・プーリ回転センサ プライマリ・プーリ(入力軸)の回転速度をパルス信号として出力する セカンダリ・プーリ回転センサ セカンダリ・プーリ(出力軸)の回転速度をパルス信号として出力する パルス信号は CVT−ECU により車速に変換される タービン回転センサ アイドル・ニュートラル制御を行うためのタービン回転速度をパルス信号と して出力する(アイドル・ニュートラル制御装備車両のみ) CVT 油温センサ CVT フルードの油温を検出する プライマリ圧センサ プライマリ・プーリに掛かる圧力を検出する(10 年型から廃止) セカンダリ圧センサ セカンダリ・プーリに掛かる圧力を検出する インヒビタ・スイッチ セレクタ・レバーの位置を接点式スイッチで検出する シフト・スイッチ Ass'y スポーツ・モード時の要求をセレクタ・レバーの接点式スイッチで検出する パドル・シフト・スイッチ パドル・シフト・スイッチの操作状況を検出する 参考 タービン回転センサはアイドル・ニュートラル制御装備車両のみ。 プライマリ圧センサは 10 年型から廃止。 ⑶ 制御概要 電子制御機構は各種センサ,アクチュエータとそれを制御する CVT−ECU から構成されている。 CVT−ECU は,各種センサ情報から車両状況を演算し,各ソレノイド・バルブを駆動して以下の制御を 行っている。 ・変速制御(INVECS−Ⅲ,スポーツ・モード) ・ライン圧制御 ・N(P) ⇔ D(R) 制御 ・直結制御 ・アイドル・ニュートラル制御 ・エンジン・CVT 総合制御(CAN 通信) ・自己診断機能 ⑷ 変速制御(図Ⅰ− 8) ドライバの意思,車両の状況に合わせた駆動力を得られる変速比を選択するため,車速やアクセル開度など の車両走行状態を検出し,CVT−ECU にて最適な変速比の選択と到達するまでの変速のさせ方を決定して いる。そして,その指示をステッパ・モータに出力し,プライマリ・プーリへのライン圧の流出入を制御し プライマリ・プーリの可動プーリの位置を決め,変速比を制御する。制御においては INVECS−Ⅲ制御を採 用しており,走行状態や運転操作に対して最適な変速比となるよう制御される。 図Ⅰ− 8 変速制御 レシオ・パターン 最適の変速比となるようにあらかじめ設定したレンジごとのレシオ・パターンに基づいて変速比を制御する。 − 279 − 三 菱 ⒜ D レンジ(図Ⅰ− 9) 変速比の最ローから最ハイまでのすべての変速領域で変速する。 ⒝ スポーツ・モード(図Ⅰ− 10) セレクタ・レバー又はパドル・シフトによりスポーツ・モードを ON にすると,固定された変速線(変速比) が設定される。アップ・シフト,ダウン・シフト操作することにより,設定された変速線上を段階的に変速 し,M/T 車の様な変速が可能になる。変速段数はスポーティ走行に最適な 6 速としている。 図Ⅰ− 9 D レンジ 図Ⅰ− 10 スポーツ・モード ⑸ ライン圧制御(図Ⅰ− 11) 高精度にライン圧制御及びセカンダリ圧制御を行うことで,フリクションを低減させ燃費の向上を図ってい る。 図Ⅰ− 11 ライン圧制御 通常油圧制御 アクセル開度,エンジン回転速度,プライマリ・プーリ(入力)回転速度,セカンダリ・プーリ(出力)回転速 度,ストップ・ランプ・スイッチ信号,インヒビタ・スイッチ信号,ロックアップ信号,電圧,目標変速比, 油温,油圧から運転状態に応じた最適なライン圧及びセカンダリ圧を設定する。 セカンダリ圧フィードバック制御 通常油圧制御及びセレクト時油圧制御の際,油圧センサを用いてセカンダリ圧を検出し,フィードバック制 御を行うことで,より精度の高いセカンダリ圧を設定している。 ⑹ N(P) ⇔ D(R) 制御 N(P)⇔ D(R)レンジ間の操作時,アクセル開度,エンジン回転速度,セカンダリ・プーリ(出力)回転速度 から,セレクト時のショックを和らげるために,最適な作動油圧に制御される。 − 280 − 三 菱 ⑺ アイドル・ニュートラル制御(図Ⅰ− 12,13):装備車両のみ D レンジ停車中に発生する駆動力(クリープ力)を低減させるため,D レンジでの停車中にフォワード・ク ラッチへの供給圧を低下させて燃費を向上させる。 図Ⅰ− 12 アイドル・ニュートラル制御 図Ⅰ− 13 タービン回転センサ ⑻ 直結制御(ダンパ・クラッチ制御) (図Ⅰ− 14) 運転状態に応じてきめ細かく,かつ低回転から直結作動を制御することで,速度の低い領域からショック・ フリーの直結作動を行っている。低回転領域では振動を低減しつつ燃費を向上させるため,スリップ直結を 採用している。 図Ⅰ− 14 直結制御 ⑼ エンジン及び CVT 総合制御(CAN 通信) 変速フィーリング向上及びエンジン回転速度低下防止などの制御を行うため,CAN 通信を用いてエンジン ECU と CVT−ECU の間でエンジン出力制御信号の相互通信を行い,車両の走行状態に応じたリアル・タイ ム連携制御をしている。 − 281 − 三 菱 CVT−ECU はエンジン ECU へ急減速信号,ロックアップ中信号,トルク・ダウン要求信号などの情報を送 信すると共に,エンジン ECU からトルク・ダウン許可 / 禁止信号,ロックアップ許可 / 禁止信号,アクセ ル開度などの情報を受信している。 6) トランスミッション・コントロール ⑴ 概 要(図Ⅰ− 15) トランスミッション・コントロールはレバー操作方式を採用しており以下の特徴がある。 ・シフト・ゲート形状や各シフト・ポジションでの操作力を適正にチューニングし,確実かつ滑らかな操作 感を実現。 ・シフト・ロック機構(ブレーキ・ペダルを踏んでいない場合に P レンジから操作できない)は電磁ソレノイ ドを用いた電気コントロール式を採用した。 ・キー・インタロック機構は従来から実績のあるケーブル・コントロール方式を採用している。 図Ⅰ− 15 セレクタ・レバー Ass'y ⑵ シフト・ロック機構(図Ⅰ− 16) 次の構成部品から成り立っている。 名 称 シフト・ロック強制解除スイッチ 機 能 シフト・ロックを強制的(機械的)に解除する シフト・インジケータ・バルブ シフト・インジケータのセレクタ・レバー位置表示部を照らす シフト・スイッチ Ass'y スポーツ・モード時のセレクタ・レバー作動を検出 シフト・ロック・ソレノイド シフト・ロック機構を ON/OFF する シフト・ロック・コントロール・リレー シフト・ロック・ソレノイド電源回路を ON/OFF する P ポジション検出スイッチ 「P」レンジを検出する − 282 − 三 菱 シフト・ロック作動説明 以下の条件がすべて成立した場合,シフト・ロック・ソ レノイドに通電され,セレクタ・レバーを P ポジション からほかのポジションに操作することが可能である。 ・イグニション・スイッチ:ON ・ P ポジション検出スイッチ:ON(セレクタ・レバーが P ポジションにある) ・ストップ・ランプ・スイッチ:ON(ブレーキ・ペダル が踏み込まれている) 図Ⅰ− 16 シフト・ロック回路 ⒜ シフト・ロック状態(図Ⅰ− 17) シフト・ロック状態ではシフト・ロック・ソレノイドに通電されておらず,セレクト操作した場合にはロッ ク・レバーがレバー・ピンの動きを拘束しているため,プッシュ・ボタンを押すことができず,セレクト操 作ができない。 ⒝ シフト・ロック解除状態(図Ⅰ− 18) イグニション・スイッチ ON でブレーキ・ペダルを踏むと,シフト・ロック・コントロール・リレーに通電 されリレーが ON する。これによりシフト・ロック・ソレノイドに通電されて,ロック・レバーが図のよう に動くため,セレクト操作が可能になる。 ⒞ 強制解除ボタンによる解除(図Ⅰ− 19) シフト・ロック機構が正常に作動しなくなった場合は,シフト・ロック解除ボタンをキー状のもので押し込 むことでロック・レバーが図のように動くため,セレクト操作が可能になる。 図Ⅰ− 17 シフト・ロック状態 図Ⅰ− 18 シフト・ロック解除状態 − 283 − 図Ⅰ− 19 強制解除ボタン 三 菱 3 点検・整備 1) 自己診断機能 ⑴ ダイアグノシス機能(図Ⅰ− 20) CVT−ECU は各センサからの入力信号,アクチュエー タからの出力信号を監視し,信号系統に異常が発生した 場合に異常現象を記憶し,外部診断器を介してダイアグ ノシス・コードを出力するダイアグノシス機能を搭載し ている。 CVT システムに関係するダイアグノシス・コード分類 表に掲載された項目に異常が発生した場合,マルチ・イ ンフォメーション・ディスプレイ内のインフォメーショ ン画面に図(A)を表示する。 図Ⅰ− 20 インフォメーション画面 マルチ・インフォメーション・ディスプレイ内のイン フォメーション画面に図(A)を表示し続けるときはダイアグノシスの出力を点検する。 参考 マルチ・インフォメーション・ディスプレイ内のインフォメーション画面が図(B)を表示しているときは, CVT 油温が高油温状態であることを示している。(約 140℃で表示,約 137℃で非表示) ⑵ ダイアグノシス・コードの読み取り・消去 ダイアグノシス・コードの読み取り・消去は外部診断器を用いて実施する。 ⑶ ダイアグノシス・コード分類表 注意 トラブル・シューティングを進める際,コネクタなどを切り離した状態でイグニション・スイッチを ON に すると,ほかのシステムにおいてダイアグノシス・コードが記憶されることがある。トラブル・シューティ ング完了後,全システムのダイアグノシス・コードを確認しコードが出力されているときは,外部診断器を 用いてコードを消去する。 ダイアグノシス・コード No. 診断項目 P0703 ストップ・ランプ・スイッチ異常 P0705 インヒビタ・スイッチ異常 P0710 CVT 油温センサ異常 (09 年型まで) P0711 CVT 油温センサ機能異常(10 年型から) P0712 CVT 油温センサ異常 (短絡) (10 年型から) P0713 CVT 油温センサ異常 (断線) (10 年型から) P0715 プライマリ・プーリ回転センサ異常 P0720 セカンダリ・プーリ回転センサ異常 P0725 エンジン回転異常 P0740 ロックアップ・ソレノイド異常 P0741 ロックアップ機能異常 P0745 ライン圧ソレノイド異常 P0746 油圧制御系機能異常 P0776 セカンダリ圧ソレノイド機能異常 P0778 セカンダリ圧ソレノイド異常 P0815 パドル・シフト UP スイッチ異常 P0816 パドル・シフト DOWN スイッチ異常 P0826 シフト・スイッチ Ass'y 異常 − 284 − 三 菱 ダイアグノシス・コード No. 診断項目 P0840 セカンダリ圧センサ異常 P0841 ライン圧センサ機能異常 P0845 プライマリ圧センサ異常(09 年型まで) P0868 セカンダリ圧低下 P0882 システム電源電圧異常(短絡) (10 年型から) P0883 システム電源電圧異常(断線) (10 年型から) P1637 メモリ・バックアップ異常 P1706 スロットル信号異常 P1710 車体速度信号異常 P1723 回転センサ系機能異常 P1740 ロックアップ / セレクト切り替えソレノイド異常 P1745 変速比変化率監視 P1773 ABS 異常 (10 年型から) P1777 ステッパ・モータ異常 P1778 ステッパ・モータ機能異常 P1796 アイドル・ニュートラル制御異常(アイドル・ニュートラル制御搭載車両のみ) P1797 G センサ / ブレーキ液圧センサ異常(アイドル・ニュートラル制御搭載車両のみ) P1902 エンジン系統異常 P2765 タービン回転センサ異常(アイドル・ニュートラル制御搭載車両のみ) U0001 CAN 通信回路異常 U0100 CAN タイム・アウト・エラー(エンジン) U0121 CAN タイム・アウト・エラー(ASC) U0141 CAN タイム・アウト・エラー(ETACS) U1415 コーディング未実施 U1417 誤コーディング・データ受信 ⑷ フェイルセーフ機能 各センサ,スイッチ及びソレノイド・バルブなどの信号に異常が発生した場合,運転性をなるべく損なうこ となく制御させる機能である。CVT−ECU に各センサ類の異常信号が入力された場合のフェイルセーフ制 御は表のようになる。 項 目 制御内容 プライマリ・プーリ回転センサ アクセル開度とセカンダリ・プーリ回転(車速)に応じた変速制御を行う。また,スポー ツ・モード機能を禁止し,D レンジとして制御する。 セカンダリ・プーリ回転センサ アクセル開度に応じた変速制御を行う。また,スポーツ・モード機能を禁止し,D レン ジとして制御する。 タービン回転センサ及びアイドル・ ニュートラル制御関連 アイドル・ニュートラル制御を禁止する。 インヒビタ・スイッチ D レンジとして制御する。 CVT 油温センサ フェイルセーフ用固定値により制御する。 プライマリ圧センサ プライマリ圧フィードバック制御を停止し,フェイルセーフ用固定値によりライン圧制 御を行う。 セカンダリ圧センサ セカンダリ圧フィードバック制御を停止し,フェイルセーフ用固定値によりライン圧制 御を行う。 ライン圧ソレノイド・バルブ ライン圧ソレノイド・バルブを OFF 状態にし,ライン圧を最大油圧とする。 セカンダリ圧ソレノイド・バルブ セカンダリ圧ソレノイド・バルブを OFF 状態にし,セカンダリ圧を最大油圧にする。 ロックアップ・ソレノイド・バルブ ロックアップ・ソレノイド・バルブを OFF 状態にし,ロックアップを解除する。 ステッパ・モータ ステッパ・モータのコイル A ∼ D をすべて OFF 状態にし,異常発生直前の変速比を保 持する。 − 285 − 三 菱 項 目 制御内容 ロックアップ / セレクト切り替えソ レノイド・バルブ ロックアップ / セレクト切り替えソレノイド・バルブを OFF 状態にし,ロックアップ 制御を禁止する。 バックアップ電源 バッテリからの制御用メモリ・バックアップ電源が CVT−ECU に供給されなかったと きに,エンジン・トルクを制限してトランスミッションを保護する。 パドル・シフト・スイッチ パドル・シフト操作を禁止する。 シフト・スイッチ Ass'y スポーツ・モード操作を禁止する。 2) 車載状態の点検 ⑴ CVT の学習初期化要領 目 的 CVT Ass'y,エンジン Ass'y,バルブ・ボデー Ass'y を交換した場合には,学習値を初期化する必要がある。 その際の初期化要領を以下に示す。 初期化要領 ①セレクタ・レバーを P レンジにシフトし,イグニション・スイッチを LOCK(OFF)位置にした後,ダイア グノシス・コネクタに外部診断器を接続する。 ②イグニション・スイッチを ON 位置にした後,セレクタ・レバーを R レンジにシフトする。 ③ブレーキ・ペダルを踏みながらアクセル・ペダルを踏み込む。(エンジン停止)その状態でダイアグノシス・ コードの消去を実施する。 本作業実施により学習値初期化と同時にダイアグノシス・コードも消去される。ダイアグノシス・コードが なくても実行可能である。 ⑵ CVT 油圧制御の学習要領 目 的 学習値初期化時は,CVT 学習値が未学習のためシフト・クオリティが悪化する場合がある。その際には以 下の要領で再学習を実施する。 注意 整備解説書を参照してエンジンのアイドル学習を事前に実施しておくこと。 学習要領 手順 1 2 3 項 目 油温冷却 冷態時での学習 温態時での学習 内 容 なるべく気温の低い場所に車両を停止すると共にエンジンを停止さ せ CVT 油温が外気温と同じ温度になるまで放置する ⑴油温計測 外部診断器により CVT 油温を計測する(外気温と同じ温度であるこ とを確認する) ⑵ライン圧&変速制御学習 20 秒間 D レンジでアイドル放置する ⑶直結制御学習 D レンジで 40 ∼ 50 ㎞ /h で 5 秒以上定常走行する ⑴油温調整 CVT 油温を 80℃まで上昇させる 寒冷地などで CVT 油温が 80℃まで上昇しない場合,可能 な限り油温を上昇させること ⑵直結制御学習 D レンジで 40 ∼ 50 ㎞ /h で 5 秒以上定常走行する ⑶ CVT 劣化度数のリセット 目 的 CVT−ECU は CVT フルード劣化度をカウントしている。CVT フルード交換後は CVT フルード劣化度数を クリアする。 リセット方法 MUT−Ⅲ (外部診断器)のスペシャル機能から CVT フルード劣化度数をクリアする。 − 286 − 三 菱 3) 外部診断器の活用による点検・整備 オートマティック・トランスミッション(A/T)系統に 不具合が発生し,外部診断器によりダイアグ・コードが 確認された場合には,ダイアグノシス・コード別故障診 断の手順に従って点検・整備を行う必要がある。ここで は,以下に示す回転センサ系統異常,シフト・ロック機 構系統異常を例として点検・整備方法を説明する。 ⅰ) 回転センサ系統異常 ①症状:マルチ・インフォメーション・ディスプレイに図 図Ⅰ− 21 マルチ・インフォメーション・ ディスプレイ表示 (カラー液晶) のような警告灯が表示がされる。(ダイアグノシ ス・コード:P0715,P0720,P1723 に関連)エン ジン警告灯も点灯(ダイアグノシス・コードなし) (図Ⅰ− 21,22) 変速していない。加速不良。 ②故障内容:プライマリ回転センサ,セカンダリ回転セン 図Ⅰ− 22 マルチ・インフォメーション・ ディスプレイ表示 (2 色液晶) サ間の短絡。 ③点検方法:外部診断器を使用する場合 ⅱ) シフト・ロック機構系統異常 ①症状:P レンジからセレクタ・レバーを操作できない。ダイアグノシス・コードなし。 ②故障内容:P ポジション検出スイッチ回路の断線 ③点検方法:外部診断器を使用しない場合 − 287 − 三 菱 回転センサ系統異常(図Ⅰ− 23) 図Ⅰ− 23 回転センサ系統異常 ⒜ 症 状 走行すると変速状態がおかしく,しばらくするとマルチ・インフォメーション・ディスプレイに警告表示さ れる。(図Ⅰ− 21,22) フェイルセーフ機能により変速比が固定される。エンジン警告灯も点灯するが,エンジン ECU にダイアグ ノシス・コードは発生していない。 ダイアグノシス・コード 判定条件 P0715 プライマリ / 入力軸速度センサ ・セカンダリ・プーリ回転速度 1000r/min 以上かつ,プライマリ・プーリ回転速度 300 r/min 以下を 5 秒間継続。 ・プライマリ・プーリ回転速度 1000r/min 以上から急に 300r/min 以下になってから 0.1 秒後。 ・エンジン回転速度とプライマリ・プーリ回転速度との比較によりプライマリ・プーリが異 常と認められるとき。 P0720 セカンダリ / 出力軸速度センサ ・プライマリ・プーリ回転速度 1000r/min 以上かつ,セカンダリ・プーリ回転速度 150 r/min 以下を 5 秒間継続。 ・CVT 演算車速が 20km/h 以上から急に 5km/h 以下となってから 0.1 秒後。 ・エンジン回転速度,プライマリ・プーリ回転速度,車体速との比較によりセカンダリ・ プーリ回転センサが異常と認められるとき。 P1723 プーリ回転センサ機能異常 ・プライマリ・プーリの回転変動大(1 秒間) ・セカンダリ・プーリの回転変動大(1 秒間) 参考 P1710:車体速度異常,P0741:ロックアップ・クラッチ(OFF 固着)が同時に出力されることがある。 − 288 − 三 菱 ⒝ 原因説明 CVT はプライマリ・プーリ回転センサ,セカンダリ・プーリ回転センサの情報をもとに実変速比を算出し ている。停車中はセンサ情報に変化がないためダイアグノシス・コードは発生しない。運転すると上記ダイ アグノシス判定条件をもとにそれぞれのセンサ信号を比較してダイアグノシス・コードを発生させ,マル チ・インフォメーション・ディスプレイに警告表示を行う。 注意 同時に変速比が指定の値になるようにステッパ・モータを駆動して変速比を固定する。IG−OFF で一度警告 表示は消灯するが,変速比は故障状態のままとなる。 ⒞ 点検方法(外部診断器を使用する場合) 注意 ダイアグノシス・コードの確認は外部診断器を用いなければできない。 ①ダイアグノシス・コードを確認する。 外部診断器を接続して CVT システムのダイアグノシス・コードを確認する。 P0715,P0720,P1723 が出力されている。 場合によっては,P1778(ステッパ・モータ機能異常)も出力される。 ⇒いずれのダイアグノシス・コードの点検手順からでもトラブル・シュートは可能だが,今回は P0715 を取 り上げて記載する。ほかのコードによるトラブル・シュートは整備解説書を参照すること。 ②サービス・データの確認 アイテム 01:プライマリ・スピード・センサ信号 測定条件:D レンジ運転状態 標準値:エンジン回転速度とほぼ一致する 正常:一過性不具合の点検を行う。 異常:③へ ③コネクタ点検(図Ⅰ− 23) ・B−108:プライマリ・プーリ回転センサ・コネクタ ・C−45 :CVT−ECU コネクタ ・A−14 :中間コネクタ 判定:各端子の接触状態,及び内部での線間ショートがないことを確認する。 正常:上記ハーネス間の断線・地絡の点検を行う。 プライマリ・プーリ回転センサの異物付着や破損を確認する。 異常:コネクタを修正する。 − 289 − 三 菱 シフト・ロック機構系統異常(図Ⅰ− 24) 図Ⅰ− 24 シフト・ロック機構系統異常 ⒜ 症 状 IG−ON 状態,及びエンジン始動状態でも P レンジからほかのレンジに操作できない。 シフト・ロック解除ボタンを押すことでほかのレンジを選択することができる。 ダイアグノシス・コードは発生していない。 − 290 − 三 菱 ⒝ 原因説明(図Ⅰ− 25) シフト・ロック・ソレノイドは,IG−ON 又はエンジン 始動状態にすることで電源が供給され,ブレーキ・ペダ ルを踏むことでコイルに通電され ON する。ソレノイド が ON することでロック・レバーが解除されて,P レン ジからほかのレンジにセレクトすることが可能となる。 P ポジション検出スイッチ回路が断線しているため,シ フト・ロック・ソレノイドが作動せず P レンジ以外へ操 作することができない。 図Ⅰ− 25 回路図 ⒞ 点検方法 ①シフト・ロック機構の点検 下表の点検手順に従い点検を実施する。 正常:一過性不具合の確認を行う。 異常:推定原因部位の点検⇒②へ 点検手順 点検条件 1 ブレーキ・ペダルを 踏まない 2 ブレーキ・ペダルを 踏む 3 ブレーキ・ペダルを 踏まない 4 ブレーキ・ペダルを 踏む 5 シフト・ロック解除 ボタンを押し込む 6 ブレーキ・ペダルを 踏まない / 踏む イグニション・ス イッチ LOCK 又は ACC 確認内容(正常状態) セレクタ・レバーを“P”位置から ほかの位置に操作できない 異常があった場合の推定原因 ・シフト・ロック・リンクの異常 ・電気回路の異常 ・キー・インタロック機構の異常 ・電気回路の異常 ・キー・インタロック機構の異常 ・シフト・ロック・リンクの異常 ・電気回路の異常 イグニション・ス イッチ ON セレクタ・レバーを“P”位置から ほかの位置にスムーズに操作でき る セレクタ・レバーを“R”から“P” 位置にスムーズに操作できる ②電気回路の異常点検 回路図(図Ⅰ− 24)を参考にして C−30 コネクタ端子において点検を行う。 正常:一過性不具合の確認を行う。 異常:CVT セレクタ・レバー Ass'y を交換する。 − 291 − ・シフト・ロック・リンクの異常 ・電気回路の異常 ・シフト・ロック・リンクの異常 三 菱 Ⅱ フル・オート・エアコン・システムの構造・機能及び点検整備 1) 概 要(図Ⅱ− 1) フル・オート・エアコン・システムは,ブロワ,ヒータ及びエバポレータを一体化して大風量,低騒音化を 図った HVAC(Heater・Ventilation & Air・Conditioning) を採用した。脱臭機能付クリーン・エア・フィル タを採用しており,花粉やダニなどを除去すると共に VOC などの臭いも低減し,室内の空気をきれいで快 適に保つことを可能にしている。 図Ⅱ− 1 エアコン・システム 項 目 仕 様 ヒータ・コントロール形式 ダイヤル・タイプ 暖房能力(W) 5700 冷房能力(W) 5500 コンプレッサ形式 MSC90CAS 冷媒 種類 HFC134a 封入量(g) 500 ± 20 コンプレッサ・オイル種類 SUN PAG56 − 292 − 三 菱 2) 構造・機能 ⑴ HVAC《Heater・Ventilation & Air・Conditioning》 (図Ⅱ− 2) ・再熱防止ダンパを兼ねたエア・ミックス・ダンパを採用し,冷房性能の向上を図った。 ・A/C 凝集水のドレン・ポートをエバポレータの後方に配置し,異物によるドレンの詰まりを抑制した。 ・エバポレータ温度を検知するフィン・サーモ・センサを採用しコンプレッサの焼き付きに繋がるフロスト運 転の抑止を図った。 図Ⅱ− 2 HVAC ⑵ コンプレッサ(図Ⅱ− 3,4) ・オイル・セパレータ内蔵の高効率コンプレッサを採用し, コンプレッサ稼働率を低減することで燃費の向上を図っ た。 ・温度ヒューズ付きマグネット・クラッチを採用すること で,コンプレッサ・ロック時マグネット・クラッチ内に 組み込まれた温度ヒューズがコンプレッサとの摩擦熱で 溶断することによりドライブ・ベルトの破損を防いでい る。 ・11 年型からは従来の 2 段プロファイル式コンプレッサか ら,3 D プロファイル式コンプレッサに変更して小型, 高効率化を実現した。 ・新型コンプレッサの冷媒温度スイッチは,従来のケース に穴を開けて直接冷媒温度を測定する方式から,ケース には穴を開けずに壁温を測定する方式に変更し,冷媒漏 れのリスクを低減した。 − 293 − 図Ⅱ− 3 2 段プロファイル・コンプレッサ 三 菱 図Ⅱ− 4 3D プロファイル・コンプレッサ ⑶ ヒータ・コントローラ(図Ⅱ− 5) 吹き出し口切り替えダイヤル,風量調整ダイヤルをAUTO 位置にした場合,自動で A/C スイッチが ON になる。 また,この機能をカスタマイズによりキャンセルするこ とができるようにした。 3) A/C−ECU ヒータ・コントロール・パネルの設定や外気,室内温度, 日射量などの情報をもとに最適な制御を行う。 ⑴ 吹き出し口温度制御 エンジン水温とエバポレータ温度の補正を行うことで吹 図Ⅱ− 5 ヒータ・コントロール・パネル き出し口温度を安定させ,エアコンの制御性向上を図っ た。 ⑵ クーリング・ファン回転速度制御 冷媒圧力と車速に応じてクーリング・ファンの回転速度を制御して車外騒音の低減とオルタネータ負荷の低 減を行い燃費向上を図った。 ⑶ MAX・COOL,MAX・HOT 制御 吹き出し口と風量の設定がオート位置で,設定温度を 18.0℃(MAX・COOL)又は 32.0℃(MAX・HOT)に した場合,自動的に下記の制御を行う。 制御対象 エア・ミックス・ダンパ MAX・COOL MAX・COOL 位置 MAX・HOT MAX・HOT 位置 備考:*印はカスタマイズ機能 吹き出しモード FACE 位置 FOOT 位置 により自動制御のキャン 風量 最大 最大 セルが可能 内外気切り替えダンパ 内気循環* 外気導入* A/C スイッチ ON * OFF * − 294 − 三 菱 ⑷ アイドル・アップ制御 CAN 通信にて A/C−ECU とエンジン− ECU 間で通信を行い,吹き出し口温度とエバポレータ温度に応じ てエンジンのアイドル・アップ回転速度を 2 段階に制御し,夏場の冷房性能確保と中間期の燃費向上を図っ た。 ⑸ 冷媒漏れ検知制御 A/C−ECU は,外気温度(外気温センサ)から冷媒の熱膨張を推測し,冷媒圧力(A/C プレッシャ・センサ) と比較して,冷媒量(漏れ)を検知している。冷媒量,又は冷媒圧力が異常と判断された場合はコンプレッサ を強制的に OFF して,A/C システムの破損を防止する。 参考 異常が発生した場合は A/C インジケータが点滅する。 ⑹ エア・バッグ展開時(衝突時)保護制御 エア・バッグの展開を検知した場合,A/C システムを停止させ,二次不具合(モータ類の脱落による受傷) などを防止する。 ⑺ 強制 DEF 制御 吹き出し口を DEF 位置に切り替えた場合,自動的にエアコンを ON し,内外気切り替えダンパを自動的に 外気導入にして,ウインド・ガラスの曇りを早く取るように制御する。 ⑻ カスタマイズ機能 ユーザの好みに合わせ,下記の機能の調整が可能である。なお,調整した機能はバッテリを外しても記憶さ れている。 ・内外気自動制御 内外気切り替えスイッチを長押し(約 10 秒)することで,内外気自動制御をキャンセル復帰させることが できる。 ・A/C 自動制御 A/C スイッチを長押し(約 10 秒)することで,A/C 自動制御をキャンセル又は復帰させることができる。 3 点検・整備 1) ダイアグノシス機能 A/C−ECU はシステムの点検を容易にするため,次の機能をもっている。 ・ダイアグノシス機能 ・サービス・データ出力 ・アクチュエータ・テスト ⑴ ダイアグノシス・コード一覧表 コード No. 診断項目 B1000 操作部との通信エラー B1003 モード・ダイヤル SW エラー B1018 温調ダイヤル SW エラー B1021 ファン・ダイヤル SW エラー B1031 フィン・サーモ・センサ系統(ショート) B1032 フィン・サーモ・センサ系統(断線) B1034( ETACS−ECU が出力) 外気温センサ系統(ショート) B1035( ETACS−ECU が出力) 外気温センサ系統(断線) B1079 A/C 冷媒漏れ ダイアグノシス・コード出力時の サービス・データ − 内気循環:室温 外気導入:外気+ 10℃ 20℃ − − 295 − 三 菱 コード No. ダイアグノシス・コード出力時の サービス・データ 診断項目 B10C0 室温センサ系統(ショート) B10C1 室温センサ系統(断線) B2214 操作パネル異常 B223B 操作パネル誤組み付け U0019 バス・オフ(CAN − B) U0141 ETACS−ECU・CAN タイム・アウト 25℃ U0151 SRS・CAN タイム・アウト U0155 コンビネーション・メータ CAN タイム・アウ ト U0168 WCM/KOS・CAN タイム・アウト U0184 オーディオ CAN タイム・アウト U1415 コーディング未完了 U0245 MMCS・CAN タイム・アウト − ⑵ ダイアグノシス・コードの読み取り・消去方法 ダイアグノシス・コードの読み取り・消去は外部診断器を用いて実施する。 ⑶ サービス・データ一覧 アイテム No. 点検項目 点検状態 正常時の表示内容 17 エンジン回転速度 − 正しいエンジン回転速度を表示 19 外気温センサ − 外気温と外部診断器表示温度が同じ 20 エア・サーモ・センサ − エバポレータ後ろの温度と外部診断器表示 温度が同じ 21 室温センサ − 室温と外部診断器表示温度が同じ 23 設定温度 − エアコン設定温度を表示 24 水温センサ − 冷却水温度と外部診断器表示温度が同じ 26 車速 − 車速を表示 コンプレッサ ON ON コンプレッサ OFF OFF 27 コンプレッサ駆動要求 28 エアコン・スイッチ 29 冷媒漏れ判定 − 正常 34 アイドル・アップ要求 − アイドル・アップ要求信号を表示 35 リヤ・ヒータ・スイッチ・ランプ * − リヤ・エアコン・パネルのヒータ / クーラ 切り替えスイッチ状態を表示 36 PTC ヒータ 1* 37 PTC ヒータ 2* − PTC ヒータ状態を表示 38 PTC ヒータ 3* 45 内外気切り替えダンパ(目標値) − 内外気切り替えダンパ目標位置を表示 46 内外気切り替えダンパ − 内外気切り替えダンパ位置を表示 55 M/M 用ポテンショ・メータ − 吹き出し口切り替えダンパ位置を表示 56 M/M 用ポテンショ(目標値) − 吹き出し口切り替えダンパ目標位置を表示 57 異常低圧判定 − 正常 60 リヤ・デフォッガ・スイッチ エアコン・スイッチ ON ON エアコン・スイッチ OFF OFF リヤ・ウインド・ デフォッガ・スイッチ ON ON リヤ・ウインド・ デフォッガ・スイッチ OFF OFF 61 圧力センサ − 冷媒圧力を表示 63 A/M 用ポテンショ・メータ − エア・ミックス・ダンパ位置を表示 − 296 − 三 菱 アイテム No. 点検項目 点検状態 正常時の表示内容 67 日射センサ * − 日射量を表示 68 ブロワ・モータ − ブロワ・モータ状態を表示 69 ブロワ・モータ(目標値) − ブロワ・モータ目標値を表示 73 冷媒圧力 − 冷媒圧状態を表示 74 コンデンサ・ファン − コンデンサ・ファン回転状態を表示 76 温調ダイヤル位置 − 温調ダイヤル位置を表示 77 A/C パネル仕様 − A/C コントロール・パネル・タイプを表示 78 風量調節ダイヤル位置 − 操作部の風量出力値を表示 79 吹き出し口切り替えダイヤル位置 − 吹き出し口切り替えダイヤル位置を表示 80 風量調整ダイヤル操作フラグ − 風量調整ダイヤルを操作したときに ON 81 エアコン・スイッチ操作フラグ − エアコン・スイッチを操作したときに ON 82 温調ダイヤル操作フラグ − エアコン・スイッチを操作したときに ON 83 DEF 位置フラグ − 吹き出し口切り替えダイヤルを DEF 位置 に操作したとき ON 84 内外気切り替えスイッチ操作フラ グ − 内外気切り替えスイッチを操作したときに ON 87 リヤ DEF スイッチ操作フラグ − リヤ・ウインド・スイッチを操作したとき に ON 88 リヤ DEF スイッチ・ランプ − リヤ・ウインド・スイッチ・インジケータ 状態を表示 89 エアコン・スイッチ・ランプ − エアコン・スイッチ・インジケータ状態を 表示 90 内外気切り替えスイッチ・ランプ − 内外気切り替えスイッチ・インジケータ状 態を表示 91 コンプレッサ駆動フラグ − コンプレッサが駆動するとき ON 92 ワイパ作動フラグ − ワイパが作動するとき ON 93 IG 位置情報 − イグニション・スイッチ位置状態 94 電源電圧 − 電源電圧表示 95 IOD フューズ装備判定フラグ − IOD ヒューズ状態 96 ロックアップ解除要求 − ロックアップ解除要求状態 97 オルタネータ使用率 − オルタネータ使用率表示 98 リヤ PTC ヒータ * − リヤ PTC ヒータ状態表示 99 グロー・プラグ * − グロー・プラグ状態表示 100 システム起動時間累計 − システム起動時間累計表示 101 コンプレッサ使用回数 − コンプレッサ使用回数表示 102 リア・デフォッガ使用回数 − リヤ・デフォッガ使用回数表示 103 内外気切り替えモータ駆動時間 − 内外気切り替えモータ駆動時間表示 104 モード・モータ駆動時間 − 吹き出し口切り替えモータ駆動時間表示 105 温調モータ駆動時間 − エア・ミックス・モータ駆動時間表示 106 室内高温状態継続時間 − 室内高温状態継続時間表示 107 室内低温状態継続時間 − 室内低温状態継続時間表示 108 外気高温状態継続時間 − 外気高温状態継続時間表示 109 外気低温状態継続時間 − 外気低温状態継続時間表示 110 最高外気温度 − 最高外気温度表示 111 最低外気温度 − 最低外気温度表示 112 最高水温 − 最高水温表示 113 エンジン高回転時間 − エンジン高回転時間表示 114 最高エンジン回転速度 − 最高エンジン回転速度表示 115 高冷媒圧運転時間 − 高冷媒圧運転時間表示 116 高圧カット回数 − 高圧カット回数表示 − 297 − 三 菱 アイテム No. 点検項目 点検状態 正常時の表示内容 117 最高冷媒圧力(kPa) − 最高冷媒圧力表示 118 エアコン使用率 − エアコン使用率表示 119 コンプレッサ稼働率 − コンプレッサ稼働率表示 120 省エネ制御稼働率 − 省エネ制御稼働率表示 121 内気使用率 − 内気使用率表示 122 エアコン操作回数 − エアコン操作回数表示 123 内外気操作回数 − 内外気操作回数表示 124 モード・ダイヤル操作回数 − モード・ダイヤル操作回数表示 125 ファン・ダイヤル操作回数 − ファン・ダイヤル操作回数表示 126 温調ダイヤル操作回数 − 温調ダイヤル操作回数表示 127 FACE モード使用率 − FACE モード使用率表示 128 B/L モード使用率 − B/L モード使用率表示 129 FOOT モード使用率 − FOOT モード使用率表示 130 D/F モード使用率 − D/F モード使用率表示 131 DEF モード使用率 − DEF モード使用率表示 132 ファン OFF 使用率 − ファン OFF 使用率表示 133 ファン 1 − 2 段使用率 − ファン 1 − 2 段使用率表示 134 ファン 3 − 4 段使用率 − ファン 3 − 4 段使用率表示 135 ファン 5 − 6 段使用率 − ファン 5 − 6 段使用率表示 136 ファン 7 − 8 段使用率 − ファン 7 − 8 段使用率表示 137 温度 1 − 7 段使用率 − 温度 1 − 7 段使用率表示 138 温度 8 − 10 段使用率 − 温度 8 − 10 段使用率表示 139 温度 11 − 13 段使用率 − 温度 11 − 13 段使用率表示 140 温度 17 − 19 段使用率 − 温度 17 − 19 段使用率表示 141 温度 20 − 22 段使用率 − 温度 20 − 22 段使用率表示 142 温度 23 − 29 段使用率 − 温度 23 − 29 段使用率表示 143 PTC ヒータ 1 使用回数 * − PTC ヒータ 1 使用回数表示 144 PTC ヒータ 2 使用回数 * − PTC ヒータ 2 使用回数表示 145 PTC ヒータ 3 使用回数 * − PTC ヒータ 3 使用回数表示 146 ファン LO 駆動時間 − ファン LO 駆動時間表示 147 ファン M1 駆動時間 − ファン M1 駆動時間表示 148 ファン M2 駆動時間 − ファン M2 駆動時間表示 149 ファン HI 駆動時間 − ファン HI 駆動時間表示 150 リヤ PTC ヒータ・カウンタ * − リヤ PTC ヒータ・カウンタ表示 備考:*画面に表示はあるが使用しない。 ⑷ アクチュエータ・テスト一覧表 アイテムNo. 点検項目 駆動内容 備 考 エンジン作動状態でない場合は作 動しない 2 アイドル・アップ要求 アイドル・アップ要求信号 5 内外気切り替えダンパ 内外気切り替えダンパ用モータ移動位置 6 エア・ミックス・ダンパ エア・ミックス・ダンパ用モータ移動位置 7 ブロワ・モータ ブロワ・モータ回転量 8 吹き出し口切り替えダンパ 吹き出し口切り替えダンパ用モータ移動位置 10 コンデンサ・ファン コンデンサ・ファン回転量 エンジン作動状態でない場合は作 動しない 11 エアコン・スイッチ A/C スイッチ選択位置 エンジン作動状態でない場合は作 動しない − 298 − 三 菱 アイテムNo. 点検項目 駆動内容 備 考 12 リヤ・デフォッガ・スイッチ 13 ロックアップ解除要求 − 画面に表示はあるが使用しない 14 PTC ヒータ − 画面に表示はあるが使用しない リヤ・ウインド・デフォッガ・スイッチ選択 エンジン作動状態でない場合は作 位置 動しない ⑸ 端子電圧一覧表 端子 No. 点検項目 点検条件 正常状態 1 パワー・トランジスタ(DRAIN) 風量調整ダイヤル:最大風量 0 ∼ 2V 2 パワー・トランジスタ(GATE) 風量調整ダイヤル:最大風量 バッテリ電圧 9 A/C コントロール・パネル(入力) − − 10 A/C コントロール・パネル(入力) − − 13 バッテリ電源 常時 バッテリ電圧 14 アース 常時 0V 15 IG1 電源 イグニション・スイッチ:ON 16 A/C プレッシャ・センサ入力 整備解説書参照 17 室温センサ センサ部温度:25℃(4.0 kΩ) 19 センサ・アース 常時 0V 20 A/C プレッシャ・センサ電源 イグニション・スイッチ:ON 5V 21 フィン・サーモ・センサ・アース 常時 0V 22 フィン・サーモ・センサ センサ部温度:25℃(4.0 kΩ) 24 内外気切り替えダンパ用モータ − − 25 内外気切り替えダンパ用モータ − − 26 内外気切り替えダンパ用モータ − − 27 内外気切り替えダンパ用モータ − − 28 エア・ミックス・ダンパ用モータ − − 29 モータ電源 − − 30 吹き出し口切り替えダンパ用モータ − − 31 吹き出し口切り替えダンパ用モータ − − 32 吹き出し口切り替えダンパ用モータ − − 33 吹き出し口切り替えダンパ用モータ − − 34 エア・ミックス・ダンパ用モータ − − 35 エア・ミックス・ダンパ用モータ − − 36 エア・ミックス・ダンパ用モータ − − バッテリ電圧 整備解説書参照 2.1 ∼ 2.7V 2.1 ∼ 2.7V 2) 車上整備 ⑴ ブロワ・リレーの点検(図Ⅱ− 6) バッテリ電圧 点検端子 非通電時 端子 1(+) 端子 2(−) 正常状態 導通なし 3−4 導通あり (2 Ω以下) 図Ⅱ− 6 ブロワ・リレー − 299 − 三 菱 ⑵ ブロワ・モータの取り外し ブロワ・モータを外す際は,エア・ミックス・ダンパ用 モータ / 吹き出し口切り替えダンパ・モータ / 内外気切 り替えダンパ用モータを取り外す。 ⑶ ブロワ・モータの点検(図Ⅱ− 7) 図のようにバッテリ電圧を印加したとき,モータが回転 し異音が出ていないことを確認する。 図Ⅱ− 7 ブロワ・モータ 3) 外部診断器及び車載故障診断装置の活用による点検・整備 ⅰ) ブロワ・モータ系統異常 ①症状:ブロワが作動しない。ブロワの風量変更ができない。 ②故障内容:ブロワ・パワー・トランジスタ(DRAIN) ∼ A/C−ECU 間の断線 ③外部診断器を使用する場合 − 300 − 三 菱 ⑴ ブロワ・モータ系統異常(図Ⅱ− 8) 図Ⅱ− 8 ブロワ・モータ系統異常 症 状 ブロワ・モータがファン切り替えダイヤルを操作しても 1 段∼ 6 段まで作動しない。7 段,8 段目では最大風 量で作動する。(場合によっては 1 ∼ 5 段まで作動せず 6 ∼ 8 段目で最大風量で作動する) 原因説明 A/C−ECU はパワー・トランジスタの制御において,ブロワ・モータの回転速度を検知しながら制御を行っ ている。 ブロワ・モータから A/C−ECU への検知回路が断線しているため,回転速度の制御ができず,ファン切り 替えダイヤルの 7 段目,8 段目のみ(場合によっては 6 段目でも作動する)で最大風量としてパワー・トラン ジスタを駆動している。 点検方法(外部診断器を用いる方法) ①ダイアグノシス・コードを確認する。 − 301 − 三 菱 正常:②へ 異常:DTC 別点検を行う。 ② C−138 パワー・トランジスタ・コネクタの点検 コネクタの状態を確認する 正常:③へ 異常:コネクタ修正 ③ C−138 パワー・トランジスタ・コネクタでの抵抗測定 コネクタを切り離しハーネス側で測定 端子 No.1 ∼ボデー・アース間の抵抗 正常値:導通あり(2 Ω以下) 正常:④へ 異常:不具合箇所の修正 ④ C−36A/C−ECU コネクタの点検 コネクタの状態を確認する 正常:⑤へ 異常:コネクタ修正 ⑤ C−137 ブロワ・モータ・コネクタ No.1 端子∼ C−36A/C−ECU コネクタ No.1 端子間のハーネス断線点検 上記部位の断線点検を行う。 正常:⑥へ 異常:不具合箇所の修正 ⑥ C−138 パワー・トランジスタ・コネクタ No.4 端子∼ C−36A/C−ECU コネクタ No.2 端子間のハーネス断 線点検 上記部位の断線点検を行う。 正常:⑦へ 異常:不具合箇所の修正 ⑦パワー・トランジスタ交換 ブロワ・モータが正常に作動するか確認する。 正常:終了 異常:A/C−ECU を交換する。 − 302 −
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