生産性を高める

業務効率向上のススメ
生産性を高める
仕事術
職場や業務に
ムダが あれば、
生産性が低く なる。
特に、経営陣や管理職が
時間を使えば 、
ムダなことに
会社は
組織の体をなさなくなる 。
やるべき人が、やるべきことをやり、
生産性を高め、自己実現を目指す。
させるために、
それこそが会社本来の目的のはずだ。
業務効率を向上
何をすればよいのか 。
仕組みづくり、事務効率化、整理術。
三つの観点から、その方法論を探る。
6
2009. JUN. MiT
7
MiT 2009. JUN.
仕組みづくり
ルーチンワークに多大な時間を奪われるほどムダなことはない。
取材・文/今野靖人 写真/川本聖哉
といった程度のことです。
しかしそれだけで、
アップし、それぞれに用意した手順に従う
えます。
事に注力するべきなのではないかと私は考
は任せ、経営者は経営者にしかできない仕
クリエイティブな仕事に割ける時間が増えて、おのずと生産性が向上する。
業務を取り巻く環境を整理してタイムロスを無くせば、
整理 「
の 仕組み」
を構築 して
効率改善
「作業系」は極限まで省力化
「考える系」に力を注ぐ
「あれをやらなくちゃいけなかったな」
とか、
私は五つの会社を経営していますが、毎
「これはどうやるんだっけ」といったことで
いる、ものをつくっているという会社があり
ための経営」をするには、単にIT化や機
限られた人 材でどれだけ成 果を 出せる
【いずみ・まさと】1974年生まれ。
マサチューセッツ工科大学スローン経
営 大 学 院エグゼグティブコース修
とりの行動を最大化させるか」を考えなけ
そのために非常に有効なのは、マニュアル
を講じることをお勧めします。
業系」の仕事を徹底的に効率化する手立て
することも不可欠。ここでもやはり、「作
ダな忙しさ」につながっている要因を排除
ればなりません。そのためには、経営者の
械化を図るだけではなく、「いかに一人ひ
かが厳しく問われるこの時代で「生き残る
了。 日本初の商標登録サイト「ト
レードマークストリート」を立ち上げ
た後、ファイナンシャル教育の必要
みならず社員全体の業務を見渡して、「ム
シング)
、
『「仕組み」整理術』
(ダイ
ヤモンド社)
。
トゥエンティワン)
、
『お金の脳トレ』
(ダイヤモンド社)
、
『成功する「投資
力」の磨き方』
(ソフトバンクパブリッ
い、金融学習協会理事長も務める。
著書に『お金の教養』
(大和書房)
、
『「仕組み」仕事術』(ディスカヴァー・
性を感じ日本ファイナンシャルアカ
デミーを設立。ほかに不動産ポータ
ルサイト、カフェ等、5社の経営を行
日本ファイナンシャルアカデミー
(株)
代表取締役
泉 正人
日 午 後6時には確 実にその日の仕 事を 終
仕組みといっても決して大掛かりなもの
ますが、いかがなものでしょうか。企業の
マニュアルの整備と活用で
社員の業務も効率化
奪われる時間が激減します。
ば頭の中もクリアになり、
「考える系」の仕
そのよ うにして目 前の業 務を 整 理すれ
冊の本を読み、毎月のように海外への視察
ングなど、将来のリターンを生み出すこと
事に集中するための状態がもたらされます。
「考える系」に大きく二分できると思いま
につながる企画を意味し、経営者はそこに
旅行にも出かけています。なぜそんなこと
すが、そのうちかなりの部分を占める、頭
あてる 時 間を 捻 出することに最 大 限の努
「考える系」の仕事とは、新事業のプランニ
を使わない「作業系」の業務を完全にルー
力を払うべきなのです。
ができるのか。仕事というのは「作業系」と
チンワーク化し、短時間でこなせる仕組み
ではなく、パソコンのツールでスケジュール
トップは、会社で唯一将来の売上を創造で
社長が自ら営業をしている、経理をして
を一元的に管理するとか、交通費の精算の
きる存在です。ほかの人に任せられる仕事
を確立しているからです。
よ うな定 期 的に反 復される 作 業をリスト
profile
とはありません。それどころか、
年間300
わらせ、
「忙しい」という言葉を口にするこ
change
8
2009. JUN. MiT
を 整 備すること。 私の経 営する日 本ファ
イナンシャルアカデミーでは、「作業系」の
業 務に 関 する 何 百 種 類 ものマニュアルを
データベースとして全社で共有し、それさ
え読めば、アルバイト一人でもセミナーを
運 営でき、 今 日 入った 社 員でも 顧 客への
メールの一斉配信ができる、といった体制
が整っています。もしうまくいかなければ、
そのスタッフの能力に問題があるのではな
く、マニュアルが悪い、というのが我々の考
え方。 不 備な点があればその都 度 更 新さ
れていくマニュアルは、会社にとっての大き
な資産として位置づけることができます。
私の会社には、「あれはどうやるんです
か?」と質問してはいけないルールがあり
ます。マニュアルを 読めば誰でもできる 作
業に関して人に尋ねることは、質問をする
側とされる側にとって、二重の時間のロス
となるからです。業務の効率化によって生
まれた時間は、当然、社員が新しい企画を
立案したりする「考える系」の仕事にまわ
されることになります。
ルーチンワークを「自動化」「統一化」「一
元化」して、誰がいつ何度やっても同じよう
に成果が出せるこうした手法を、私は「仕
組み整理術」と呼んでいます。仕組みをつ
くり 上 げるにはそれなりの手 間を 要しま
すが、一度できてしまえば、後は自動的に
整 理された状 態が維 持できる。 生 産 性を
高めるためにこれほど手っ取り早い手段は
ないのです。
MiT 2009. JUN.
9
”
“
経営者は経営者にしかできない
仕事に専念すべし
事務作業には
「死角」がある
事務効率化
デスク周りをアシスタントパートナーにすれば、
ミスは未然に防がれ、仕事は効率化できると提言するオダギリ展子氏。
「スーパー事務員」が勧めるノウハウとは?
の質を上げるための「私流仕事術」をご紹
介します。
デスク周りの
アシスタントパートナー
ムダやロスの少ない職場環境をつくるに
は、まず個人が身の回りからムダを無くさ
なければいけません。そのために私が提案
2009. JUN. MiT 10
取材・文/滝本 喬 写真/川本聖哉
くし、ミスの無い職場をつくることは、組
︻おだぎり・のぶこ】メーカー勤務を
経て、特許事務所で外国特許出願
事務に携わり、事務業務のリスクヘッ
しているのが、デスク周りを自分の「アシス
仕 事を 始めよ うとしたのに肝 心の資 料
タントパートナー」にすることです。
が見 当たら ず探しまわる。あるいは取 引
しょうか。これでは仕事に対する気勢も削
そんな 経 験 をした 人 は 多いのではないで
先の担 当 者の連 絡 先がぱっと 出てこない。
Oがついに明かしたヒミツテク」を配
信するほか、セミナーなどで活躍中。
著書に『オフィス事務の上手なすす
め方』(同文舘出版)
、
『ミスゼロ、ムダ
ゼロ、残業ゼロ!』(幻冬舎)
、
『フォー
マット書類術』(青春出版社)など。
化と質のアップを研究してきた。メー
ルマガジン「スーパー事務員 NOKK
ジや効率化のノウハウを身につける。
その後、派遣スタッフとして貿易事務
を担当。 独自の視点で業務の効率
ここではスムーズに業務を遂行し、仕事
甚大です。また、企業としての信用にも大
オダギリ展子
織の長にとっては重大なテーマです。
ぐシステムを構築しておくことが非常に重
スを出さないために、一つひとつの仕事を
その後、 貿 易 事 務の仕 事に就いてから
事務効率化コンサルタント
きくかかわってきますので、ミスを未然に防
残業ゼロを実現 する
事務作業の効率化 で
事 務 作 業を 効 率 的に運 用したい。そう
私がかつて勤めた特許事務所は、リスク
要になってくるのです。
がなかなか実 現するのが難しいよ うです。
ヘッジの意識がとても高い職場でした。特
いった要望をお持ちの企業は多いようです
一般的に「効率化」というと、組織ぐるみで
許事務という業種から、一つのミスが事務
所の 存 続 問 題 に まで 発 展 す る 可 能 性 が
システム改革に取り組むといった話になり
がちですが、
「事務の効率化」は、実は「ミス
丁寧にこなしていったことが、結果的に事
あったからです。そうした職 場においてミ
仕事上のちょっとしたミスで発生するム
の防止」と密接な関係にあるのです。
ダ、例えば、ミスの訂正や処理に費やす時
て小さいものではありません。一つひとつの
も、特許事務所での経験を活かしつつ、私
務の効率化につながったのです。
ロスを見れば軽微なものなのかもしれませ
なりにアレンジをして編み 出 されたのが、
間、それらにかかるエネルギーのロスは決し
んが、それが1年間積み重なればどうでしょ
事務作業には「死角」があります。その
現在の私のノウハウです。
組織全体に換算すればどうでしょうか。会
死角にはムダが潜んでおり、このムダを無
うか。また、100人や1000人規模の
社や職場単位で考えれば、経済的な損失は
profile
efficiently
がれてしまいます。
自分の不在時に届けられた書類などは、
取りかかりやすくするため、
デスク周りから
の小 さい電 話 伝 言メモも 紛 失しがちです
ようにしておくだけで差がでます。サイズ
カ所にまとまる
「探す」
「迷う」
「調べ直す」といった、非生
が、小さな空き箱に入れてスタンディングタ
受 領した順にきちんと
産 的な 作 業をあらかじめ取 り 除いてしま
イプにすればすぐに取り出せ、デスク上の
そうならないために重要なのは、仕事に
うことです。
省スペースにも役立ちます。
1
「探す」
「迷う」
「調べ直す」を発生させな
いために、
私が提案しているのが次に挙げる
B
D
「デスク周りの3原則」です。
自分宛の書類を受け取る決裁箱やトレイを
● 設置する
文具や道具は使用頻度と利き手に合わせて
● 置き場所を決める
必要な情報はデスクマットの下に入れて、す
● これらの3原則を徹底することで、仕事
に対して快 適な環 境づくりを 築き 上 げる
ことができます。
デスク周りをアシスタントパートナーに
するといってもやることは簡単です。そう
やって自分自身のデスク周辺をきちんと整
えておくことで余 計な 時 間を 使わずに済
み、仕事の効率や質は確実にアップするは
ずです。
事務作業を工夫すれば
ムダやロスは省ける
事務の効率化に必要な要素は、整理整
頓は当然のこと、ファックス、コピー、ファ
イリング、書類整理、パソコン・メールなど
多種多様です。普段、職場で何気なくこな
している事務作業を工夫することで、ムダ
やロスは省けるのです。
ファックスがよい例です。職場で一般的
に使われるA4サイズの用紙をファックス
で送信する際、上部の余白部分に宛先や新
たな 情 報を 書 くケースがあり ます。 とこ
ろが受信した用紙の上部余白には、発信元
の企業名などが出るので、これと重なって
読めなくなります。ファックスを送信して
も相手に情報がきちんと伝わらないという
ことです。
書 類のファイルも同様です。 一つのファ
イルが一 杯になって次のファイルに移る場
合、そのファイルが何日付で完了したのか
を示すメモを付けておく。そうでないと別
11 MiT 2009. JUN.
C
”
事務の質が
職場全体の仕事の質を
左右する
“
A●
B 処理中の書類は1案件ごとに識別番号を記
●
入してクリアホルダーへ。1案件の量が多い場合
は三段トレイ、少ない場合はボックスファイルに保
管。処理の段階ごとに上から下、
もしくは左から右
へ移し替えていく。識別番号の表示位置にも工夫
E
ぐに見られるようにしておく
C ボックスファイルの隙間に書類が入り込んで書
●
類が紛失することのないように、ボックスファイル
D 中でファイルがしなっ
同士をクリップで留める ●
て底に沈まないために、書類の量が少ない場合
は厚紙を一緒にはさむ。書類紛失を防ぐ工夫も
E ファイリングした書類は、四隅のどこを
必要 ●
カッ
トしたかによって、進捗状況が分かるようにして
F 期限日を付せんに記入し、ファ
おくと効率的 ●
イルからわざとはみ出るように貼付して管理
A
F
G
H
J
れはとても怖いことだと思います。少しの
した。情報の管理・共有化を考えると、こ
イルから抜け落ちてしまったことがありま
にそういう事例が起き、最新の情報がファ
実際、私が貿易事務に携わっていたとき
どうしたらいいかを職場で話し合うことが
の作業の流れの中で、問題を解決するには
に何をしなければいけないかを確認し、そ
す。そのうえで、この業務を実施する場合
し、問題点や困っていることを洗い出しま
実際に事務作業の共用フォーマットをつ
くるに当たっては、業務に応じたチェック
項目など、記載事項を検討したほうがいい
でしょう。
また、私がお勧めしたいのは、職場の全
い間に持ち出される可能性があります。そ
ファイルや資料に関しては、自分の知らな
また、オフィスでは、皆で共有して使う
員で共有できる事務作業のフォーマットを
事務作 業 を
フォーマット化する
ているものなのです。
つながる「引き金」は、身近なところに隠れ
肝心です。
ても 効 果はありません。まず業 務を 見 直
しかし、ただ漫然とフォーマットをつくっ
つくることです。
I
注意を払えば済むとはいえ、ムダやミスに
まう恐れがあります。
込んでしまい、そのまま情報が埋もれてし
の人が、新しい資料を古いファイルに綴じ
G 封筒詰め作業をするにも、
●
あらかじめA4用紙が
きっちりと三つ折りできるラインを入れたシートをつ
H 毎日の電話
くっておけば、時間が短縮できる ●
の取り次ぎ。電話伝言メモも逐一「○○さんへ」
などと書いていては時間のムダ。あらかじめ宛先
別のメモ用紙をつくっておいて、ストックしておくと
I ●
J ●
K 綿棒の空き容器にちょっと
した工
便利 ●
夫を加えて使う収納グッズ。こうした細かいことの
積み重ねによって、残業ゼロは必ず実現できる
K
ういった場合に備えてファイル・資料の持
ち出し管理表を用意しておくと便利です。
ファイル番号や持ち出し日、持ち出す人
の氏名、所属部署、返却予定日、返却した
ときの返却日、返却者名を書くようにして
おく。それらの実践が、情報の管理につな
がるのです。
これはほんの一例で、各業務について事
務作業をフォーマット化することで、職場
の効率はかなり改善されます。
会 社の中では、 経 営 層になればなるほ
ど、事務仕事を雑事として軽視しがちです
が、小さなアイディアと工夫次第で膨大な
時間の短縮が可能になります。そして、そ
の結果、大幅なコストの削減を実現できる
のです。
私はある派遣先の会社で、前々任者が月
に100時間残業をしていたのを、ここで
紹介した事務作業の効率化によって、ゼロ
にすることができました。事務の質が職場
全 体の仕 事の質を 左 右する。それほど 事
務仕事は奥が深いのです。
効 率 化 とはミスの防 止はもちろんです
が、目標はもっと先にあると私は考えてい
ます。ムダのない快適な職場環境を確立す
ることで、個人が余裕を持って生活を楽し
める。つまり「ワーク・ライフ・バランス」
を実現することができます。
こういう時代だからこそ、職場の長は仕
事術を真剣に考える必要があるのではない
でしょうか。
2009. JUN. MiT 12
整理ベタな人間に
大きな仕事はできない
整理術
経営幹部の能力にかかわる重要な問題だ。
そこで問われるのが「整理力」
。
常に臨戦状態でいるために集中力を高める。
ビジネスは「常在戦場」
。
「 整理力」
坂戸健司
新産業開発研究所(有)代表取締役
【さかと・けんじ】1955年広島県
生まれ。武蔵野美術短期大学卒業。
大学卒業後、広告業界に入り、多く
のナショナルクライアントの広告戦
略、販売促進の戦略を学ぶ。その
後、郷里の広島に戻り、新産業開発
研究所
(有)
を立ち上げる。広告ディ
レクター、ビジネスプランナー、
エディ
トリアルディレクター、
人材コンサルタ
ントなど多 様な顔を持つクリエイ
取材・文/滝本 喬 写真/川本聖哉
坂戸氏の手帳にも「整理力」は表れる。膨大な
量の情報を整理し、情報を収納するだけでなく、
活用するための工夫が施されている
迅速 な経営判断のための
「いい仕事」をするには、職場の環境が大
事です。この環境を整えるのが 整
「理する
力 、
」つまり「整理力」です。整理とはモノ
や情報を「収納する」のではなく「いかに
活用するのか」がポイントで、欲しいものが
欲しいときに、さっと出てくるということ
です。
私は「 整 理ベタに大 きな 仕 事はできな
い」と考えています。整理ができない人と
いうのは総じて、職場において、もしくは
ティブワーカーとして活躍。「仕事
をスムーズに進めるには整理力が不
可欠」と個性的な整理術を実践し
てきた。著書に
『メモの技術』『整理
の技術』(いずれもすばる舎)
、
『すご
い! 整理術』
『「発見力」の磨き方』
(いずれもPHP研究所)など。
13 MiT 2009. JUN.
業務遂行のうえで、モノ・情報を活用でき
る態勢になっていません。
例えば、 雑 然とした机です。 本 人は忙
しく仕事をしているつもりでしょうが、こ
ういう人にはワンランク上の仕事をするこ
とはできないでしょう。 机がゴチャゴチャ
profile
adjustment
していたら、次にやるべきことが見えてこ
ないからです。
「 次 」の見えない人には判 断ができない
問題は、経営幹部が自分たちは立場上、
多様に気持ちが変化していることを、ある
いは、そうならなければならないことを認
きないと「これでいく」という覚悟が持て
員と同じです。しかし一方で、目標や課題
幹 部も 組 織の一 員という 点では一 般 社
識していないところにあります。
ず、自信も仕事を推進するパワーも生まれ
を掲げて推進するリーダーであり、部下を
し、したがって決断もできない。決断がで
ません。結果として、失敗を恐れ、新しい
育てる 教 育 者、アドバイスを するサ ポ ー
ター、命令権者でもあるわけです。
仕事に挑戦できなくなります。
経 営 幹 部がこれでは困 り ます。 経 営に
幹部がそういったそれぞれの立場や役割
一緒くたの「未整理状態」で情報を流して
関する決断ができない。そうならないため
ビジネスは「常在戦場」です。いつも臨
いるのが現実です。このため、部下の頭に
の目で情 報を 咀 嚼・ 整 理し、 関 連 部 署に
戦状態でいるためには、自らを落ち着かせ
はいろいろな情報が詰め込まれて、混乱を
に、いかに整理をするのかが経営幹部に求
集 中 力を 高める 環 境が求められます。 机
まねく。さらにこの情報はそのままのかた
指示するといいのですが、多くは何もかも
の整理が象徴するように、整理とは自分を
ちでさらなる 下の層にも 下りていくから、
められているのです。
整えて集中力を高めることであり、経営幹
末端まで正確に届かないことになります。
そのときどきで、
「情報を流す側」と「受け
とです。一方的に情報を流すのではなく、
です。これは情報の整理にも指摘できるこ
整理は「戻す」
「分ける」
「捨てる」が基本
部の能力が問われる問題なのです。
多様な立場においての
情報伝達とは
経営の中枢にいる幹部には、日々、膨大
な量の情報が集まってきます。これを取捨
選択し、必要な情報を必要な部署に的確
に伝えるのも「整理力」です。
私がこれまで多様な企業とかかわってき
た経験からすると、こうした情報は前線に
きちんと 伝わっていないことが多いように
思います。 組 織の神 経 系 統でもある 情 報
の流れが停滞すると、会社における生産性
は著しく阻害されます。
取る側」の相互でやり取りをして、相手に
きちんと理解されているかを確認する。こ
れが「戻す」です。同様に、その部下に不必
業する時間」
「発想する時間」を決めて、こ
とができるので、頭の整理が進み、考えやア
と、絶えず脳の必要な部分を活性化するこ
る。そうやってそれぞれの時間を設定する
る時間帯は「発想する時間」として活用す
使い、通勤時間など、それ以外の一人でい
どのルーチン業務に費やす「作業時間」に
考える。 午 後は打ち合わせや営 業 活 動な
用の資料や懸案事項などについてじっくり
午前中、頭がすっきりしている時間帯を
れを自分の中で習慣化するのです。
通じますが、1日のうち「考える時間」
「作
あります。「頭の中を整理する」ことにも
するためには「型をつくる」という方法が
業務において、考えやアイディアを整理
段取りの向上のために
「整理力」を身につける
ことが重要です。
を自 覚し、 情 報の整 理・ 伝 達に対 応する
とを、あるいは持たなければならないこと
営幹部は、自分が複数の「立場」を持つこ
ケーションを密にするということです。 経
「戻す」
「分ける」
「捨てる」とはコミュニ
ることも必要なのです。
る。つまり、情報を分けたり、捨てたりす
要な 情 報を 与えて混 乱させないよ うにす
「考える時間」にあてて、プレゼンテーション
”
“
整理は
「余裕のある時間」
をもたらし
生産性の確保を実現させる
2009. JUN. MiT 14
イディアをまとめやすくなります。
経営幹部の中にはいつもバタバタと忙し
く 動きまわっている人がいます。いかにも
「仕事熱心」という印象を与えますが、実
は仕 事の全 体 像が見 渡せていないために、
作業の段取りをつけられないで無闇に飛び
出したものは戻す
3 伝えた情報は部下から戻してもらい、
●
コミュニケーションをとる
まわっているだけ。そんな例は少なくあり
とにかく「1カ月」1「年 と
」いったように
「ミニ締切り」を設けて、その期限を過ぎた
ものは捨てる。基準は人や仕事によって異
なりますが、
「一定期間、目を通さなかった
ものは捨てる」が原則です。
私は、次のような「整理のサイクル」を自
分に課しています。
毎日 分、その日の資料を整理して、必要な
にとって重要な業務なのです。
の手段です。そしてこれこそが、経営幹部
時間」を手にして、生産性を確保するため
間がない。整理はそういった「余裕のある
出せる。 時 間 管 理も 万 全でムダな空き 時
探しものがなくなり、情報もすぐに取り
第で、整理は苦でなくなります。
目で探せるよ うにする。こうした工夫 次
恵を絞り、キャビネットを開けたとき、一
組みを 考える。 書 類や資 料の並べ方に知
たり、見た目にもきれいで中身の分かる仕
にラベルやタイトルを付けたり、色分けし
ないといけません。ケースやキャビネット
作業」を組み込むことです。整理は楽しく
カギは、毎日の行動の中に「整理という
グの仕方を見直す
● 年に2回、盆と正月にこれまでのファイリン
なものはすべて処分する
● 毎月1回、それまでの資料をチェックし、不要
● 1週間分の資料を整理分類する
類。いらないものは即捨てる
ものはすぐ取り出せるようにファイルに分
● 10
ません。目の前の仕事に追われ、仕事の進
め方や優先順位が分からないのです。
仕事の段取りをつけるのも「整理力」で
解決できます。この場合、仕事の最終的な
到達点を見極め、そこに至る作業をシミュ
レーションすると効果的です。そうすれば
いつ何をするべきなのかが整理され、ムダ
な動きを避けられます。ただ、すべてをシ
ミュレーションすると、身動きが取れなく
必要のないものは捨てる
机の中身を整理する要領で、経営層は、教育者としての立場、命
令権・人事権を持つ立場など、複数ある自分の立場を整理し、それ
ぞれの立場で結束しなければいけない。立場を分けないまま、すべ
ての考えを部下に伝えると、情報が詰め込まれ過ぎて混乱する
なることもあるので、段取りは8分ほどに
机(情報・書類)の整理
目的や頻度ごとにものを分ける
立場の整理
1 自分の立場を分ける
●
2 情報を取捨選択し、
●
それぞれの立場から
それぞれの部下に伝える
立場を整理する「結束力」
とどめておくことが肝要です。
継続するコツは
「整理のサイクル」
整理は、テクニックです。整理を上手に
やろうと思えば、このテクニックを学んで
いけばいいのです。厄介なのは、
一度は整理
しても、これがなかなか続かないこと。
「忙
しい」など理由はさまざまですが、整理を
継続するコツは、自分の「整理のサイクル」
をつくることです。
その基本は「不要なものは捨てる」
。なか
には「持っているだけでなんとなく安心する
資料」もあるでしょう。これがクセ者です。
15 MiT 2009. JUN.
2
●
1
●
チーム
部下
立場を分けた複数の自分
自分
3
●