第 3回 : QMS の文書 - ISO推進者会議

連 載 /ステップアップ ISO 9001
連載
ステップアップ ISO 9001
-ISO 認証取得の資源投入をムダにしない QMS の運用と審査-
第3回
QMS の文書
規格解説 講師は語る
エム・アンド・エス・クオリティーガーデン
-4.2 文書化に関する要求事項のポイント-
1.文書化のマネジメント
多くの経営書はマネジメントのサイクルを“Plan-
Control-Review”と表現している。規格 4.2.3 項の「文
書管理」は“Document Control”であって,もっと大き
福田
渚沙男
ようであるべきか」の規範はない。しかし,その内容に
ついてわざわざ ISO が国際規格を定めるのは,QMS を
「国際的な統一基準で評価することを可能にする」ため
である(ISO 9001 序文 0.1)。
評価を可能にするためには QMS がどのように構築さ
な「文書化のマネジメント」の中の 1 つの機能である。
れ運用管理されているのかが目に見えるようになってい
規格はこれについては明確な要求を出していないが,実
る必要があるし,結果として顧客の満足が得られている
際には「文書管理」以上に「文書化のマネジメント」が
(適合製品だけが供給されている)ことが記録によって
重要である。
確認できるようにもなっていることが望ましい。規格は
文書化に関しては TC176 が指針(ISO/TC176/SC2/
この目的のために,最小限度に絞ってではあるが,文書
N525R)を出しており,その中で,文書化のおもな目的
化に関していくつかの要求をしている。QMS について
を次の 3 つであるとしている。
国際基準の認証を維持しようとするならばこれらは「必
a)情報の周知(Communication of information)
要条件」であるから,きちんと対応する以外の選択肢は
b)適合の証明(Evidence of conformity)
ない。前述のガイダンスには,
c)知識の共有(Knowledge sharing)
「文書が存在しなくても,それ以外の手段によって客
規格が文書化を要求しているのは主に b)のためであ
観的証拠を形成させることは可能である。しかし,規
るが,品質マネジメントシステムの有効性の観点からは
格が特に指定している場面では,客観的証拠を形成さ
a)と c)に関してどのような方針で文書化を行うかとい
せるために必要と考えられる記録(文書)を前もって
う「文書化のマネジメント」が重要になる。
決めておくことが組織にとっての義務となる」
と記述されている。ただし,維持すべき文書の形式や内
2.
“適合の証明”のための文書化
品質マネジメントシステム(QMS)には,本来「どの
52
容を規格が具体的に要求しているわけではないから,ど
のように工夫して,“適合の証明”を効率的に果たすかは,
組織のほうで適宜に計画((7.1d)項など)すればよい。
3.
“知識の共有”と“情報の周知”のための文書化
一貫性のある仕事(ムラのない仕事)をするためには,
用させること,その後の経験や研究を生かして内容を改
訂していくことなどに関する一連の「プロセスの管理」
が必要だし重要である。
ポイントになるところで過去の情報など(知識)を上手
方針や目標は,設定の背景などを含めて適切に文書化
に使うことが絶対に必要である。規格は,たとえば
することで周知(communicate)されることが確実にな
7.5.1b)項などでそのことを要求している。情報とは意
る。課題や意識を共有させること,通達などで重要事項
味のある(meaningful)データをいい,情報を適切な媒
を徹底させることなどについても同様である。こうした
体(medium)に保持させることによってその内容を伝
“情報の周知”のための文書化については,内容の適切
達可能,あるいは人を超え時を超えて利用可能にしたも
性・妥当性のレビューを的確に行うこと,発行の時期を
のが文書(document)である。なお“document”はた
失しないようにすることなどについての管理が重要にな
だの「書いたモノ」ではなく,内容的に検証済みの「公
る。
式文書」というニュアンスが強い言葉であることにも注
QMS の有効性を高めるには「文書のマネジメントプ
ロセスの戦略的管理」にもっと光をあてる必要があるこ
意しておきたい。
知識共有のための文集化については,情報を集めるこ
とを再度強調しておきたい。
(Susao FUKUDA)
と,ないし開発すること,それらを適切に文書化して利
実践ガイド
自社の規模に合わせた文書体系の構築
前田建設工業㈱
情報システムサービスカンパニー
1.はじめに
品質マネジメントシステムを構築し維持管理していく
千葉
喜一
記録管理の事例を紹介する。
上で避けて通れないものの 1 つに文書管理がある。文書
2.品質マネジメントシステムの構築
管理に関する規格要求事項はごくあたり前のような内容
文書化に関する規格要求事項を整理すると表 1 のよう
であるが(文書管理にかぎったことではないが),いざこ
になる。文書化・記録例欄に記載しているように“文書
れを運営していくと,さまざまな問題に直面する文書や
化された手順”として品質マニュアルと規定類を 4 つ,
記録作成に追われ,本来業務に支障が出かねない状況に
記録類を 20 前後,さらに“組織が必要と判断した文書”
陥ってしまい,結果として期待したほど ISO の導入効果
を整備すれば,規格要求を満たす最低限の品質マネジメ
が実感できないといった悩ましい状況に直面している事
ントシステムの文書体系ができる。
例を多々目にする。一般論ではあるがはじめに品質マネ
「品質レベルは ISO 導入前と導入後でそれほど変わ
ジメントシステムの構築事例を紹介し,つづいて文書・
っていない。負担だけが増えた」と感じるその多くは,
53
連 載 /ステップアップ ISO 9001
表1
文書化に関する規格要求事項一覧
4.2.1 品質マネジメントシステム文書化要求内容
1.品質方針及び品質目標
2.品質マニュアル
3.“文書化された手順”
1) 文書管理
2) 記録の管理
3) 不適合製品の管理
4) 内部監査
5) 是正処置
6) 予防処置
※組織が必要と判断した文書
4.規格が要求する記録
1) マネジメントレビューの記録
2) 教育・訓練,技能,経験の記録
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
13)
14)
15)
16)
製品実現プロセスの結果の記録
製品への要求事項レビュー結果の記録
設計・開発へのインプットの記録
設計・開発のレビュー結果の記録
設計・開発の検証結果の記録
設計・開発の妥当性確認の記録
設計・開発の変更のレビュー結果の記録
供給者の評価結果の記録
プロセスの妥当性確認の記録
トレーサビリティの記録
顧客所有物の紛失,破損に関する記録
校正又は検証に用いた基準の記録
過去の測定結果の妥当性評価の記録
校正及び検証の結果の記録
17) 内部監査の結果の記録
18)
19)
20)
21)
合否判定基準適合の記録
不適合製品の処置の記録
是正処置の結果の記録
予防処置の結果の記録
22) 組織が必要と判断した文書(記録)
項番 文書化(規定)・記録例【小規模企業】
4.2.1 a)
①品質マニュアル(品質方針)
4.2.1 b)
4.2.1 c)
わかるようにすることであると考えればよい。
品質マネジメントシステムの文書化について要点を
まとめると,以下のようになる。
②文書・記録管理規定
(1) 品質マネジメントシステムの文書体系とその内容の
③不適合製品管理規定
④内部監査規定
程度は,自社組織の規模や業務・活動,従業員の能力
⑤是正・予防処置規定
を考慮したものにする。また,よほどのことがないか
4.2.1 d) ※1 方針管理規定,製品実現規定など
4.2.1 e)
5.6.1
①MR 記録書
②教育計画書
6.2.2 e) ③教育実施記録
④資格経験台帳
7.1 d)
7.2.2
⑤要求事項レビュー記録書
7.3.2
※設計レビュー記録書
7.3.4
⑥設計レビュー記録書
7.3.5
⑦設計検証記録書
7.3.6
⑧設計妥当性記録書
7.3.7
⑨設計レビュー記録書(設計変更)
7.4.1
⑩供給者評価記録書
7.5.2 d) ⑪プロセス妥当性確認記録書
7.5.3
7.5.4
⑫顧客所有物記録書
7.6 a)
⑬測定機器管理台帳
7.6
7.6
⑭監査計画書
8.2.2
⑮監査記録書
8.2.4
⑯検査記録書
8.3
⑰不適合製品記録書
8.5.2
⑱是正処置記録書
8.5.3
⑲予防処置記録書
※2 品質計画書,購買条件書,苦情記
4.2.1 d)
録書など
4.2.2 品質マニュアル作成に関する要求事項
a) 品質マネジメントシステムの適用範囲
b) 文書化された手順を参照できる情報
c) プロセス間の相互関係
4.2.3 文書管理で要求されていること
以下の管理を規定する“手順”の作成要求(例②に対応)
a) 文書を承認する。
b) 文書をレビューする。必要に応じて更新・再承認する。
c) 文書の変更の識別,現在の改訂版の識別
d) 適切な版が必要な時必要なところで使用可能な状態にする。
e) 読みやすく,容易に識別可能な状態にする。
f) 外部文書の識別と配付管理をする。
g) 廃止文書の誤使用防止と識別をする。
4.2.4 記録の管理で要求されていること
・読みやすく容易に識別可能で検索可能であること。
・記録の識別,保管,保護,検索,保管期間,廃棄に関する“手順”の作成要求(例②に対応)
ぎり規格の要求事項の範囲内(表 1)にとどめる。
“組織が必要と判断した文書”も当初は最小限にとど
める。品質マネジメントシステムのレベルアップは,
この当初のシステムが組織内に十分浸透したのち順次
追加していくとよい。この段階で,目的が不明確なま
まいたずらに“必要と判断した文書”を増やすことが,
過大なシステムとなる最大の要因となる。
図 1 は品質マネジメントシステム文書体系の事例(中
規模以上)である。先頭に●がついている文書が ISO
9001 が要求する文書・記録である。これに,作成者や
作成時期,提出先/配付先,保管場所,保管期間など
の情報を追加するとより一覧性が増し,使いやすいも
のとなる。
(2) 規定類は,それを使う側の立場に立って,読みやす
く理解しやすいものにする。そのため長文で難解な文
章の羅列は避け,フローチャートや一覧表を活用する
と効果的である。このことは,読まなくても見ればわ
かる理解しやすい手順書になる上,ページ数を大幅に
削減でき,品質マネジメントシステムの全体像を見通
す上でも重要なことである。
図 2 はフローチャート式の事例で,フロー図のみで表
現しきれないものを一覧表で補足している。誰がいつ
何をするのか,どの記録帳票を使うのか,誰の確認や
承認が必要なのかが一目瞭然となっている。同様の内
54
規格要求以上の過大なシステムになっていることが考え
容を文章形式にすることを考えると,読みやすさや理
られる。
解のしやすさの点でその差は歴然である。
ISO 9001 に取り組む以前から,すでに規格が要求す
(3) 記録帳票は,ISO 9001 の要求事項に適合している
る顧客満足を達成する一定レベルの品質を確保している
ことの客観的証拠を示すものであるため,規格要求事
はずである。品質マネジメントシステム構築の第一歩は,
項との対応が容易にわかるようにしておくことがポイ
現状の品質レベルがどのようにして確保されているのか
ントである。フローチャートと帳票は密接な関係をも
を規格要求事項に沿って整理して文書化し,誰が見ても
っているため,フローチャートで示した手順のとおり
QD-09
(
QM-00
)
F/B
QD-01
QD-02
2
9
2
QD-03
QD-04
/
QD-05
QMS
/
QD-06
QD-07
/
QD-08
QMS
/
QD-09
QD-10
QD-11
12
33
(1)
(2)
図1
文書体系図【中規模企業以上】
に実施したことを実証するため,フローチャートで表
現したキーワードと帳票の欄の名称とを合致させる必
要がある。
図2
業務フロー図
3.文書管理・記録の管理
文書管理では,文書発行時の承認,レビュー,最新版
また,規定類と同様,使う側の立場に立って,短時間
文書,外部文書,廃止文書の管理について規定されてい
で迷うことなく的確に記入できるように工夫すること
る。ここで注意したいのは規格の c)項である。厳格な文
も大切である。とくに製品実現に関連する記録は日常
書の発行管理や配付管理(受領管理)を要求されている
的であり,作成に負担がかからないような工夫が必要
わけではないので,過度な手順とならないようにするこ
である。記録の作成に思わぬ時間がかかるようであれ
とが大切である。
ば,本来業務に支障をきたすばかりか後追いの記録作
記録については,ISO 9001 の適合性を証明する記録
成に走ったり,形式的な ISO になったりしてしまう危
の管理について「読みやすく,容易に識別可能で,検索
険がある。
可能であること。記録の識別,保管,保護,検索,保管
期間,廃棄を明確にすること」と規定されている。
55
連 載 /ステップアップ ISO 9001
以上の規格要求事項を満足させるためには,一般的に
次のような運用上の負担が発生する。
確実になるため,規格要求事項 4.2.3 c) d) e) f) g)項のほ
① 文書の制定・改訂のたびにコピー版を作成し,必要
とんどの内容は,IT 活用で運用負荷が大幅に軽減する。
部署へ配付しなければならない。
図 3①,図 4 は文書台帳・記録台帳に相当するもので,
② 文書・記録の決裁(承認)に時間がかかる。決裁に
文書台帳・記録台帳として意識的に維持管理する必要は
まわっている文書・記録の状態が見えない。最悪の場
なく,該当する文書・記録を必要に応じて制定・改訂す
合,紛失する場合もある。
れば自動的にメンテナンスされ,常に最新版の文書台帳
③ 対象部署の文書・記録は必要のつど取り寄せないと
として維持される。この電子文書台帳上で必要な文書を
見ることができない。あるいはコピー版を必要部署へ
開けば,図 3②のようにその内容(原本)が表示される。
配付しなければならない。
図 5③も同様に,業務発生ごとに必要な記録を作成す
④ 分析のためのデータはそのつど収集し,加工しなけ
ればならない。
れば,自動的に業務別の記録台帳が維持されていくこと
になる。文書・記録の内容を見たい場合には,この電子
⑤ 文書・記録の保管場所が思いのほか必要になる。
以上のような負担を軽減するためにさまざまな工夫が
必要となるが,ここでは 1 つの方法として IT(情報技術)
台帳上でそれを開けば,その原本(図 5④)が表示され
る。
②承認のスピードが向上する。
を活用した事例を紹介する。文書管理に関する規格要求
電子メールを利用することで,決裁を得るために文
事項は,IT の特性上それを利用するだけで満足する内容
書・記録の原本をもちまわる必要がなく,また,図 5③
が多々ある。上記①~⑤に対比した形で,以下①~⑤に
の状態欄でもわかるように決裁状況を一望できるため,
IT の活用効果を述べる。
未決裁のまま放置されたり,決裁文書が紛失したりする
①文書・記録の原本を全員で見ることになる。
こともなくなる。決裁者が地理的に離れている場合には,
コピー版を配付したり,最新版の入れ換えや差し替え
をしたり,旧版の回収などをする必要がない。必要な時,
必要なところで誰でもその文書・記録(原本)を見るこ
図3
56
とができる。最新版や外部文書,廃止文書の識別管理が
とくに有効である。
③対象部署の文書・記録およびその状態(図 5⑤)をい
ながらにして把握できる。
マネジメントシステム標準類 (文書台帳)
きる。
⑤文書・記録の保管スペースを削減できる。
以上の電子化の効果は,事例のような電子メールやワ
ークフローを組み合わせた電子管理システムではなく,
手軽な電子掲示板や共有のファイルサーバーを利用する
ことでもかなり期待できる。その効果を確認しながら,
徐々にステップアップすることも可能である。
図4
4.電子管理上の留意点
記録台帳 (規則別)
IT を利用する場合,考慮しておかなければならない点
このことは品質マネジメントシステムの運用状態を容
がいくつかある。その代表的なものをあげてみる。
易に把握することが行使できるということを意味してお
(1) 電子化によって文書や記録の管理が容易になり管理
り,各立場の責任権限の状況を見ることができ,IT を利
負荷が軽減する反面,管理に重点を置きすぎると品質
用する最大のメリットということができる。
マネジメントシステムの運用が堅苦しくなってしまう。
④データが電子化されていて,「8.4 データの分析」で要
管理する側,管理される側のいずれにとっても有益と
求されているような項目についてリアルタイムで集
なるような運用の配慮が必要である。管理一辺倒では
計可能なため,集計に追われることなく分析に注力で
なく,品質マネジメントシステムのウィークポイント
図5
製品実現記録 (業務別記録台帳)
57
連 載 /ステップアップ ISO 9001
を浮き彫りにする手段としての電子化を考える必要が
も考えられる。保存期間に合わせた記録媒体の選択や
ある。
維持管理の方法を決めておく必要がある。
(2) データの消失,停電や故障などによって「4.2.3 d」
必要なときに,必要なところで使用可能な状態にある」
を維持できない事態を考慮しておく必要がある。たと
5.おわりに
えば原本は発行部署が紙で管理し,電子データが利用
スリムな品質マネジメントシステムの構築と運用管理
できない事態が発生したら一時的にコピー版を必要部
の有効な手段として電子管理システムの事例紹介をした
署へ配付するなど,不測の事態への備えが必要である。
が,外部審査や内部監査などによって不本意な「背伸び
不足の事態への備えはその影響に見合う程度にするこ
システム」へと変貌しないように,ISO 9001 規格要求
とはいうまでもない。
事項のねらいを正確に理解し,無理のない有効な品質マ
(3) 上記の不測の事態に備え,データのバックアップ体
ネジメントシステムへと改善していくことが大切である。
(Kiichi CHIBA)
制を整備する。
(4) 電子データは永久保存を保証するものではない。電
子データは永久保存可能と考えがちであるが,保存期
間によっては問題となる場合がある。たとえばフロッ
ピーディスクを例にした場合,保存期間は 3 年程度が
限界と考えた方がよい。それ以上になると,記録媒体
の劣化などによってデータを読みとれなくなる可能性
が出てくる。CD や DVD なども同様である。また,技
術の進歩によって読み取り装置自体が変わってしまい,
記録媒体はあっても中身を取り出せないといった事態
QM
58
ISO 9001 2000
参考文献
[1] 岩本威生(2001):『ISO 9001:2000 解体新書』,日本規格協
会。
[2] 細谷克也(2001):『品質マネジメントシステム要求事項の解
説』
,日科技連出版社。
[3] 細谷克也編著,西野武彦著(2003):『超簡単!ISO 9001 の
構築』
,日科技連出版社。
[4] 細谷克也編著,青木昭,西野武彦,松本健著(2004):『ISO
9001 プラス・アルファでパフォーマンス(業績)を向上す
る』
,日科技連出版社。
文書管理をディスカッションする
ISO 推進者会議
自社に合った文書体系をつくろう
K.N
「文書管理」について,まず文書作成上の問題を
出していきましょう。
H.K
昔から JIS マークを取っていたため,ある程度の
ディスカッションメンバー
K.N (QMS 主任審査員)
テーマリーダー
H.K (文具メーカー)
T.H (建設業)
K.S (自動車部品メーカー)
M.I (建設コンサルタント業)
T.M (船舶用機械メーカー)
U.M (QMS コンサルタント)
システムがありました。そこに ISO で必要な文書をつく
S.I
A.S (建設コンサルタント業)
りましたが,相当重く乗せてしまったところがあります。
T.Y (土木業)
(食品メーカー)
S.N (エンジニアリング業)
今まで旧文書で動いていたのになぜまたつくるのか,と
いう現場の反発も大きい。全社的文書の必要性をあまり
に規格をあてはめる方法の 2 つの選択肢がある。
わかってもらえません。
H.K
T.H
当社でももともと例規体系があったので,ISO の
勉強期間が限定されると,社外のプロ,コンサルにそっ
要求事項に該当する文書をピックアップして構成しよう
くり頼んでしまう。コンサルは契約期間内に審査登録し
としました。そこで例規を読んでいくと,現実にはでき
なければならないから,ひな型を押しつける場合が多い。
ないような立派なことが書いてある。これをそのまま審
そして社内でいざ運用になると困る。
査対象文書にされてはと,抜きずりをした。すると,原
U.M
本と抜きずりをしたものができてしまい,二重構造にな
ます。審査員から指摘されたら,そこで必要なものを付
ってしまいました。
け加えていく。運用を通して改善していき,削る部分は
K.S
うちも ISO 9001 でシステム構築する時,もとの
勉強からスタートしなくてはならないのに,その
私は「ないものはつくらない」コンサルをしてい
削って,運用できる部分は運用していって発達させる。
当社も 94 年版で取得の際,普段の仕事をフロー
文書体系を資産として使うのか,それを捨てて新しくつ
S.I
くるのか,考えました。過去の資産をうまく使うと非常
にして規格にあてはめていきましたが,結局はどんどん
に格好はいいですが,かえって作業の工数がかかります。
増えて重くなっています。2000 年版で文書の要求が軽く
それで,使えそうな部分をピックアップし,文書は新規
なったし,徐々に文書体系を見直したいと思っています。
につくりました。結果的に二重にならなかったのです。
T.H
M.I
生かせるものはとりあえず生かしてみて,そこに
っては 10 種類も使わなければなりませんでした。2000
規格をあてはめていく方法のほうが,現場は受け入れや
年版移行の時に,一度すべて捨ててつくり直しました。
すいかもしれません。足りないところを付け足していけ
今度は部門ごとに組み直し,その部門はこれ 1 冊を見れ
ば,楽にできるのではないでしょうか。
ばいいというようにしました。ずいぶん軽く,見やすく
T.M
なりました。
私が以前つとめていた会社では,過去のさまざま
当社には 40 種類ほどの手順書があり,部門によ
なノウハウが残されていました。たとえば設計に関して
K.N
は,デザインレビューも前からやっていて,型式試験み
って,それを動かしてみる。運用していく中で,必要が
たいに新しい開発品は必ず主管レベルの人が集まってレ
あれば変えていくことが共通した考えですね。
いろいろなアプローチがありますが,まずはつく
ビューするなど,会社独自の規定があります。そういう
ものを ISO 9001 にあてはめていくつくり方のほうがい
いのではないかと思います。
K.N
過去を一掃して再構築をする方法と,今ある文書
「使いやすい文書」しか定着しない
M.I
当社の ISO の審査登録の動機は役所の入札に参
59
連 載 /ステップアップ ISO 9001
加するためでした。それが経営者の考えで,どんな文書
なものは書けない」といわれて,それで終わりの場合が
でもよかったのです。しかし現場にしてみれば,これま
多いでしょう。そういうところをうまく付き合っていく
でもきちんと仕事は流れていたのに,なぜこんなものを
ことが,文書管理にかぎらず,システム運用の問題点の
使うのか。
1 つではないかと思います。
ISO は道具であって,それをどのように使うかは,使
うちは事務局の私が会社のすみずみまで仕事を知って
うほうが決めること。だから,この文書ではまずいとい
いるわけではないのに,1 人で文書をつくりました。さ
うのならいってもらう。使う人が使いやすい文書をつく
て実績を残さないと本審査を受けられないので運用しよ
って,それをあとの人につないでいく。そういう目的意
う。すると,現場の職人から反発がある。事務局や推進
識をもたせてやっていかないと,置いてあるだけになっ
責任者がいくらいっても,トップダウンで,経営者の熱
てしまうのではないでしょうか。
意が現場まで伝わらなければうまく回らない。
U.M
運用面で自組織に合ったものになっているのか。
しかし,QC サークル活動を導入し,問題が解決され
「この文書はマネジメントシステムと関係ないから,管
つつあります。QC サークルはトップダウンではなくて
理していない」という場合がある。たとえば就業規則に
ボトムアップです。何年かつづけてきて,「今の文書は使
慶弔規定が入っていて,社員の父親が亡くなった時に何
いにくいから,こう直そう」という話題が出るようにな
日休めるかを調べる。しかし,はたして該当する文書の
ってきました。これはいいことだなと思っています。最
適切な版が,必要な時に必要なところで使用可能な状態
初はトップダウンでも下まで浸透しなかったという問題
か。運用は,そういう自分たちの身近なところから見て
があった。しかし,ボトムアップで QC サークルをやっ
いくべきではないか。
て,少しずつ経営者の考えていること,あるいはコミュ
T.M
当社は 40 名ほどの小さな会社ですが,とにかく
とっつきにくい文書になっています。伝票を少なくする
てきました。
とか,削るような方向で効率よいシステムに変えていき
K.N
たいと思っています。ISO の趣旨に反しない程度に,目
としていますが,「適切性の確認」について,どんな意味
的を達成する範囲内で変えていきたい。そうしなければ,
づけをしていますか。
何のための ISO なのかわからなくなってしまう。
A.S
規格では,文書は発行する前に適切性を確認する
内部監査や外部審査の指摘で文書を改定して,そ
うちは土木業界でいう KKD,カンと経験とどん
の時はこれで適切だと思って発行しますが,運用してい
ぶり勘定で仕事をしてきたところがあり,文書は全然な
ると,ほかの規定や実際の仕事と合わないという声があ
かった。ですから,マニュアルは規定の裏返しで,要領
る。そうやって実際に動かしながら,たとえば製品をつ
などで運用するような形にしました。たとえば,最初は
くるのに支障がないか,それを確認して改定しています。
品質計画書に何もかも書いていましたが,今は「施工計
K.S
画については施工計画書による」とする。そういう方法
次に承認という 3 段階でした。起案者の作成した文書を
で使いやすくしてきています。
第三者の目で見て,内容が適切かどうかをしっかり確認
T.Y
当社は公共事業の土木が中心です。現場で役所に
するのが確認者の仕事である。承認者は,確認者がちゃ
提出する書類と ISO に関連する書類の整合性がまだう
んと確認したかどうかを見る。だから,責任が一番重い
まくいっていないところがあります。現場監督とか現場
のは確認者である。
A.S
で働いている方に ISO について理解を深めてもらうの
60
ニケーションの必要とか,いろいろな共通認識が生まれ
94 年版の時は,文書の起案をすると,確認して,
しかし,2000 年版は起案,承認です。承認者が内容の
が一番でしょうが,それもなかなかむずかしい状況です。
適切性をしっかり確認して承認しているか,ある意味で
T.M
のめくら判で押しているかはわからない。
現場の人に「書いてください」といっても,「こん
S.N
文書にも階層があり,その階層ごとにマネジメン
トがある。まずいえることは,文書をつくったというこ
とは,そこに必要性があったという事実があります。文
書の適切性は,その階層のマネジメントの問題ですから,
その階層のマネージャーが承認したということは,適切
性があると判断したことになると思います。
T.M
適切性という言葉は意味がわかりにくいので,品
質マニュアルでは使わないほうがいい。「実際の仕事と
要求事項との差がないようにする」とか,そんな言葉で
はどうでしょう。
U.M
私も以前,勤務先で品質マニュアルをつくった時,
していない。それでここまでは終わっていますと画面で
「適切性」という言葉は使いませんでした。審査で適切
見せたことはありますか。
かどうかの観点から文書を承認するということはどこに
M.I
書いてありますかといわれたら,ここにこう書いてある
ない(笑)ので,終わったものをもってきて審査員に見
ことがそうですよと答えていました。
せています。今,社内でもそこが問題になっています。
K.N
先ほど話があったように,これでちゃんと仕事が
ある物件について,今はどの段階か。その担当者が上司
できるかを確認して発行する。そういうシンプルな話だ
から「ISO で管理しているでしょう」と聞かれる。「も
と思います。適切性,妥当性という観点で,レビューを
ちろんやっています」と答える。ところが,書類は何も
行う。そこを的確に行うことが大事ですね。
ない。
S.N
T.H
私がある審査員にいわれたことは,「文書管理は
実際,途中の段階できちんと書いている資料は少
うちは建設業で,関東一円で常に 100 以上の現場
会社の根本だろう。資料を“死料”にしてはダメだ。“活
があります。現場と管理部門での管理書類のやりとりの
料”,生きたものにする」――なるほどと思いました。
ために,ウェブシステムをつくりました。誰でも見られ
る共用のサーバーの中に,すべての文書を入れています。
電子媒体か,印刷物か
A.S
パソコンの中に文書を入れておいて,最後にアウ
承認も全部電子承認です。その中に ISO のシステムに入
る文書もあり,審査の時には画面で見せています。
K.N
最近はパソコンの画面を見せて審査を受ける組織
トプットし,品質記録として管理する。しかし途中の段
が多くなっています。ただし,品質保証体系図,工程フ
階で,審査の際「この書類はありますか」といわれた時,
ロー,プロセスフローのような重厚長大なフロー図にな
審査員にパソコンを見せてオーケーをもらえるのでしょ
ると,パソコン画面では見ることができない。いざ使お
うか。
うとすると,印刷したり,拡大したりしなければ使えな
M.I
当社では,マニュアルなどの文書は電子データが
いという弊害があります。紙がいいとか,電子ファイル
本物で,紙にプリントしたら二次文書だとしています。
がいいという話ではなく,やはりその組織の業種,業態
ですから,外部審査の時はパソコン画面を示しています。
に合った方法が必要で,画一的にはならないのではない
A.S
かと感じています。
うちでも文書関係は電子媒体で管理しています。
そうではなく,たとえばまだ工程の途中の段階のものに
S.N
ついて,この件に関する設計審査についての文書を見せ
活用できるように管理していくか。また,どうやって外
てくださいといわれた時に,パソコンの中にあって印刷
部からのアクセスを排除するか。社会一般的な流れとし
電子化された文書をいかに見やすく,誰でもすぐ
61
連 載 /ステップアップ ISO 9001
て,文書管理はそういうセキュリティの問題のようなと
役所でも,CALS(Continuous Acquisition and Life-cycle)
ころに重点が移ってきているのではないでしょうか。
などで電子提出を求められるケースもありますが,まだ
また,文書管理というと保管場所の問題がありました。
いかにスペースを有効に使うか。どうファイルを整理す
T.M
るか。しかし,電子化すれば,全部サーバーに入れてお
りが同じレベルになればいいのかもしれませんね。
けばいい話で,別に捨てる必要はなくなります。
T.H
M.I
当社は文書管理の方法として,背表紙の色などを
共有していなければならないのでむずかしい。私どもの
規定しています。しかし,最初から電子データで管理し
業界では国土交通省が音頭を取って,建設 CALS という
ていれば,それを外部審査で見せてもいい。そうすると,
ものを広めようとしていますが,なかなか足並みがそろ
省スペース,ペーパーレス化にもなる。
わないようです。
K.S
T.M
文書と記録の話が混在しているのではないでしょ
顧客も電子化してもらって,メーカーとのやりと
そうですね。ただ,その場合には同じシステムを
配付文書の授受管理などはどうなりますか。当社
うか。記録の場合は改ざんされてはいけないということ
の場合,マニュアルや規定類を改定すると,最新版を紙
があります。途中のものを電子化された状態で見せ,審
で「管理文書」という赤いハンコを押して配付していま
査員に記録か文書かとたずねられた時に,これは記録で
す。コピー文書は管理文書ではない。管理文書を配付す
すというのか,文書ですというのか。
る時は,受領した部門長の日付印をもらい,同時に旧版
電子化は否定しませんが,記録はたとえば PDF に変
を回収しています。でも,事業所が散らばっている会社
えるとか,何かして簡単には変えられないような形で保
や,本社と工場が離れている会社はたいへんかもしれま
管する。文書なのか,記録なのかが整理できていなけれ
せん。
ばいけない気がします。
K.S
T.H
とくに受領確認はしていないですね。
うちの場合は,最終権限をもっている人間が判を
イントラネット上,電子媒体で配付しています。
押した時点で,内容はフリーズされます。ただ,電子化
T.M
というと,とたんに皆さん厳密に考え出しますが,紙で
け取れるシステムがあるらしいですね。それで授受管理
運用していた時はどうだったのか。たとえば部下に判を
をしている話も聞いたことがあります。
預けておいて,必要があれば押せるようにしていた。し
M.I
かし,電子化というと非常に厳密に考えはじめる。行き
いますが,見たという確認は取れていません。変わった
過ぎもあると思います。
ということはわかっても,何が変わったかまでは見てい
S.N
ないのではないかと思います。
逆に,うちでは紙ベースだと管理者がめくら判を
パソコンの画面を開くと,「見た」という情報が受
うちもイントラネット上で,改定情報を発信して
押すようなこともありました。ですから,それを徹底的
A.S
にチェックしてくれて,いいことではないかと思うので
だけでなく,推進室からの連絡事項として,「何月何日付
す。
でこういう変更をした」
ことを別に載せています。ただ,
K.N
62
ごく一部です。
会社によって本当にきっちりと IT 技術を駆使し
当社は文書を改定すると,最新文書の版を載せる
それでも読まないとなると,推進室としては方法がない
て管理しているところもあれば,承認された文書とその
ですね。
前段階のものでホルダーを分けるような運用ルールを決
T.H
めて管理しているところもあるようです。
を講じて,その周知徹底のために印刷したものを配付し
T.M
ほかに電子化での問題はありますか。
ています。やはり,きちんと見る人とまったく見ない人
T.H
まず外部文書というか,外へ提出する記録類はそ
がいて,結局再発してしまうことがあります。これは ISO
の時点で紙になるので,基本的には電子化できません。
の文書管理以前の話かもしれませんが,文書管理がもの
たとえば,品質クレームがあれば再発防止の処置
をそろえて管理することだけで終わることなのか。本当
に品質のつくり込み活動に生かせるところまでを文書管
理というのか。
K.N
その方法が電子媒体でも印刷物でも,それがちゃ
んと伝わって理解されるかという心配がありますね。あ
まりパーフェクトなイメージを追求しすぎると,運用に
縛られてしまう。極端に走らず,いったん決めたルール
でも必要があれば変えていけばいいのではないでしょう
か。
文書管理を生かして組織全体の経験知に
K.S
文書管理をやってよかったことは,たとえば帳票
れていませんでした。メモ帳のようなものに個人のノウ
ハウが書いてある。それはそれでいいかもしれないが,
それをオープンにして,社内教育にも使えるようにする
ですね。当社では従来,統一されていないものもありま
とか,いろいろ方法があるはずです。
しが,ISO 9001 の導入で規定ができ,帳票も決められ
K.N
情報や知識の共有という観点ですね。
た。誰でも同じ帳票で仕事をするようになり,文書が個
M.I
設計者は自分のノウハウを誰かに教えると,自分
人もちではなくなる。
の地位を脅かされるという危険性を感じていたようです。
S.N
だいぶ改善されてきたと思いますが,なかなかやってく
個人もちにせず,いかに表に出してもらうか。私
の職場では,引出しのついた棚を置くのをやめました。
れない。
何がどこにあるのかを見えるようにして仕事をすると,
A.S
資料や文書がどんどん増えていく様子が見える。そこを
れば,最高の技術のチェックリストができる。その運用
効率化して,働きやすい仕組みにしていく。そこがポイ
によって,みんな同じレベルのチェックが可能になる。
ントだと思います。
M.I
A.S
うちのような設計会社は,設計者が個人で管理し
らないことが多々ありました。その人はわかっていて仕
ているものが多く,あとになって「設計書はどこにやっ
事をしても,それが記録として残っていない。記録が残
たかな」となってしまう。ISO を導入してからは,ファ
れば,ほかの人でも作業ができる。作業の標準化にも使
イル 1 冊に一連の文書も記録も入っていて,経過も追い
える。そのためにも,やはり記録や文書は残しておかな
かけられる。最後の納品の時に慌てなくてもよくなりま
ければならないと思います。知識として残っているもの
した。
を文書化するためにも,ISO を利用できると思います。
T.M
そういう人がチェックリスト作成に参加してくれ
私どもでも経験知というか,1 人の人間しかわか
わが社でも,作業標準などは今まであまり整備さ
ISO 推進者会議(IPC:ISO Promoter committee)へのご入会は随時受け付けています
(会期は 8 月から翌年 7 月までの 1 ヵ年,年会費:30,000 円/1 名)
お問合せ先:日科技連・ISO 研修事業部
IPC 担当:波田野
崇(TEL.03-5379-1233)
63
連 載 /ステップアップ ISO 9001
一口アドバイス
QMS 主任審査員
篠原
健雄((財)日本科学技術連盟 嘱託)
今回のテーマは文書管理です。文書管理に悩まされる
次に,これまで使っていた品質文書と ISO のための文
組織は多いと思います。今回のディスカッションにはそ
書の関係が問題になります。EMS(環境マネジメントシ
んな悩みが現れていて,また組織によって文書管理に対
ステム)の文書の場合は,あまり系統だった文書体系が
する考え方が異なっていることもあり,非常に興味深い
組織内にあることは少ないですが,QMS の文書体系は
ものでした。
一般的に組織内に存在している場合が多いと思われます。
最初に H.K さんの意見にあるように自組織の QMS を
QMS を導入しようと考えた時点で,社内の品質文書が
「重い(システムが重い)
」と考えている,あるいは審査
まったく使いものにならないのであれば,それを捨てて
でそのような指摘をされた組織は多いと思いますので,
新たに構築することをお薦めします。しかし,まがりな
「システムが重い」ということに少し着目してみましょ
りにも使えていてあまり問題ないのであれば,それを捨
う。
てるのはもったいないことです。そのような時は,規格
「システムが重い」とはどのようなことをいうのでし
をどう解釈すれば自組織のシステムが規格を満足するか
ょうか。何となくイメージはわかるような気がするけど,
を考え,また何が足りないのかを確認して,適用除外で
どんなものかといわれると説明しにくいのではないでし
きなければその部分だけ追加するようなものでいいと思
ょうか。システムが重いとはどのようなことかを説明で
います。K.S さんが述べているように「過去の資産をう
きないと,どうしたら重いシステムでなくなるかはわか
まく使う」ことはたいへんな作業になりますので,あま
りません。
りお薦めできません。現在使っている文書を分解して,
私の審査の経験では,システム文書がかなりのボリュ
ームがあり,「内容がわかりにくい」とか「必要なことを
これも H.K さんの意見にありますが,「コンサルがひ
探しにくい」のであれば重いシステムというのではない
な型を押しつける」ケースはかなり多いようです。この
か,と思います。これにはいくつかの原因があるはずで
場合は,コンサルを受ける側がよほどしっかりしないと,
す。たとえば,文書の作成者が規格をよく理解していな
規格が何を要求しているかよくわからないままシステム
くて,自分のわからない言葉をそのままシステム文書に
文書だけできあがってしまい,結局使いものにならない
記載してあるとか,文書の階層が複雑で,何段階かの文
システムになることがよくあります。まず,要求事項を
書を追跡しないと自分の必要な情報が得られない,など
自組織の特徴に合わせて徹底して理解することが大事で
があるようです。前回のディスカッションに「規格要求
す。
「この要求事項を実施しないと,どんな問題が発生す
にあまりこだわるな」との意見がありましたが,規格要
るか」を検討するのも規格を理解する 1 つの方法として
求事項をよく理解して何が自組織に重要かを見きわめ,
有効です。ちょっとでも疑問に思ったら,コンサルと徹
重要な部分をしっかりと,それほどではない部分は軽く
底的に議論しないとコンサルを依頼する価値がありませ
書いてあるシステム文書がいいのではないでしょうか。
ん。
◆◆◆
64
規格に合わせて再度組み立てるのは大変な作業です。
ISO では継続的改善を求めています。最初はあまり感
心しないシステムであっても,T.M さんがいうように
ステムが膨大になるだけです。もっともリスクの少ない
「ISO の趣旨に反しない程度に,目的を達成する範囲内
方法をとればよいでしょう。また審査員側も,まだ成熟
でシステムを変えていく」ことがもっとも重要でしょう。
していないシステムの審査では,レアケースに対処でき
◆◆◆
ていないケースを捉えて,「文書管理の手順に不備があ
る」などという指摘は実害がなければ避けるべきだと思
文書管理の問題ですが,文書管理は基本的に承認の管
います。
理と最新版の管理が重要です。
◆◆◆
ディスカッションで数人の方が述べているように,最
近は電子媒体での文書管理が増えています。このような
最後に文書管理をどう生かすかについての議論があり
場合は,最新版の管理はわかりやすいですが,承認の管
ました。文書管理とは,品質方針や品質目標等を文書化
理がむずかしいです。
して周知徹底したり,最新情報の共有化や作業の手順化
によって業務を確実に実施したりするためのツールとし
最新版管理は結論からいうと,使ってよい文書以外は
使用できないようなシステムにすることがもっとも有効
て使える大事なものです。文書管理がうまくいかないと,
でしょう。どんな方法をとっても,必ずミスは出てきま
QMS 全体への影響が大です。皆さんも文書管理をもう
す。たとえば,電子媒体上で管理をしていても,それを
一度見直して,その目的を十分に達成できるように頑張
コピーしてもっていたら最新版を使わないことも考えら
ってください。
(Takeo SHINOHARA)
れます。このようなケースをシステム的に排除できれば
ベストですが,レアケースを考えていても,それこそシ
6
6
7
63,000
(
URL http://www.juse.or.jp/ TOP
TQM
57,750
)
Tel:03-5378-9814
2005
Fax:03-5378-9842
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