平成19年度 第2号ニュース - 熊本労災病院

平成1
9年度 第2号
Lm,05
【発行者】
熊本県八代市竹原町1
670
熊本労災病院リハビリテーション科
【編集発行人】
福田 猛
発行日 平成1
9年9月20日
【目 次】
P1 :研修会報告
P2・3:特集・低栄養について
P4 :各部門報告
第1回八代地域リハ従事者研修会報告
熊本労災病院機能訓練室にて
平成19年度第1回八代地域リハ従事者研
修会が熊本労災病院機能訓練室にて開催さ
れた。今回は熊本労災病院の山本慎一氏(理
学療法士)、
中津勲氏(理学療法士)を講師と
して「高齢者筋力向上トレーニングにおけるリ
スク管理について」の講演があった。高齢者
のトレーニングにおいては健康面の把握が重
要であり、
運動実施の前や途中における中止
基準を理解しておく必要があると述べられ
た。
また血圧の正確な測定法について実技を
交え指導して頂いた。
血圧管理
疼痛については初めに疼痛の原因や疼痛
がもたらす悪循環について述べられた。そし
てその対処法を運動前・中・後にわけ、
軽度と
重度の疼痛の場合それぞれについて対応を
詳しくまとめられていた。また疼痛の評価方
法についていくつか述べられ、
それぞれの評
価方法・特徴を詳しく説明された。
疼痛の評価
アンケート結果
・
・
・
−1−
血圧管理の重要性を考えさせられました。
個々までの管理が出来ず、バイタルサインに
追われ管理できていないと感じました。特に
疼痛管理に関して曖昧なことが多かったので
勉強になりました。
筋力向上についてよくわかり、事業所でスキ
ルアップの向上に使用したいと思いました。
高齢者の栄養不良の要因と現状
熊本労災病院 栄養管理室 室長 藤井しのぶ
高
齢者では、慢性的なエネルギーや蛋白質補給不足、あるいは疾患や損傷などによる生理的ストレスが
負荷されて、蛋白質・エネルギー低栄養状態(protein energy malnutorithion:PEM)の栄養不良
に陥る危険性が高いといわれています(表1)。
高
齢者の場合、ほとんどが複数の慢性的疾患を抱えていることや潜在している病態が現れること、そし
て既往疾患と栄養状態が複雑に絡み合うことなどから、高齢者が罹患しやすい病気に安易にかかって
しまいその結果栄養不良となります。また、各種生体反応の機能低下によって自覚症状に乏しく認知機能
の低下が加わることで、身体症状も現れにくくなり、高齢者自身の訴えとしても聞かれない場合が多くあ
ります。そのため、家族やケア現場のスタッフが気付かないうちに重症化してしまっている場合もありま
す。
家
庭や社会環境などの要因が関与したり、高齢者独特の長年の食習慣や嗜好などの問題が影響していた
りと、知らず知らずのうちに栄養不良を招いてしまっていることもあります。
消化・吸収能力や唾液分泌の低下、歯や咀嚼・嚥下能力の低下など食物の摂取障害をもつ場合も多く、
食欲不振に陥っている高齢者も数多く見受けられます。 高齢者の場合には特に《栄養や食事を取り巻く
環境》が、全身健康状態やその余命までをも大きく作用し、病状の悪化やADLの低下、QOLの低下を
招いてしまいます(表2)。
効果的な栄養不良改善のために、栄養不良のリスク者を早期に発見し、リスクの軽減と解消のために適
切な対策《栄養ケア》を実施していくことが必須となります。
※厚生労働省の研究によると、
血清アルブミン値と体重減少率を指標にして栄養状態を調べたところ、
入院
患者や入所および在宅療養者の約3割∼4割に低栄養の高齢者が確認されています〔図1〕
《表1 PEMの分類》
《図1 低アルブミン血症(≦3.5g/dl)の出現》
マラスムス
摂取エネルギー
不 足
(%)
45
クワシオコール
変化なし
35
摂取たん白質
不 足
不 足
30
体 重
減 少
変化無または増加
20
体脂肪・筋組織
消 耗
正 常
内臓たん白質
正 常
減 少
栄養不良になった期間
慢 性
急 性
男性
女性
40
42.8
39.4
34.7
31.6
25
15
10
6.7
5
0
※高齢者で多くみられるのはこの混合型で、血清アル
ブミン値の低下や体重減少が見られます。
入院
在宅
10.4
外来
0.7 0.2
検診
松田朗他:厚生省(現厚生労働省)老人保健事業推進等
補助金研究「高齢者の栄養管理サービスに関する研究」
報告書による
《表2 高齢者の低栄養にかかわる身体的機能変化と生活・精神的要因》
(身体的機能変化)
(生活・精神的要因)
①食欲の低下
②噛む力(咀嚼力)・飲み込む力(嚥下力)
の低下で結果的に硬い物や繊維質の食品
を避けるようになり、肉・野菜・果物など
が不足しやすくなる。
③唾液分泌の減少
④消化液の分泌量の低下
⑤腸の働き(蠕動運動)の低下
⑥味覚の低下、結果的に味付けの濃いもの
を好むようになり、糖 分・塩分 の 摂 取 量
が多くなる。
⑦嗜好の変化など
①食習慣や食事のリズム
−2−
②家族構成や家族環境(食事の準備・買い
物・調理などの確保に関して)
③精神・心理的問題(食欲低下や食事拒否な
ど)
④薬剤使用や副作用の有無(食欲低下や副
作用の問題)
不足しがちな栄養素
《表2》のとおり、一般的には特に良質たんぱく質・脂溶性ビタミン・鉄分・カルシウム・必須脂肪
酸・食物繊維などが不足しがちになります。たとえエネルギーの摂取や三大栄養素(糖質・蛋白質・脂
質)は食事から十分摂れたとしてもビタミンやミネラルの微量栄養素は高齢になると利用障害などによっ
て潜在性の栄養欠乏状態に陥ってしまうことが少なくないので注意が必要です。
ビタミン・ミネラル欠乏症については以下のとおりです。
ビタミンの作用及び欠乏症
名 称
主な生理作用
欠 乏 症 状
ビ タミンA
プロビタミンA
成長促進、
上皮組織の維持、
視覚機能、 夜盲症、
乾燥性眼炎、
角膜軟化症
制がん作用
発育停止
ビ タミンD
プロビタミンD
カルシウム、
リンの吸収、
骨の石灰化、
血中カルシウム濃度の維持
くる病、
骨軟化症、
骨及び歯の発育不全
ビ タミ ンE
抗酸化剤、
生体膜の機能維持
動物の不妊症、
神経機能異常
ビ タミンK
血液凝固因子の生成、
骨の石灰化
血液凝固障害、
出血性骨形成不全
ビタミンB1
糖質代謝、神経・消化器・心臓・血管系の機能調整
脚気、
多発性神経炎、
食欲減退
ビタミンB2
生体内酸化還元反応、
発育促進
成長停止、
口角炎、
口内炎、
脂漏性皮膚炎、
貧血
ビタミンB6
脂質・アミノ酸代謝
小球低色素性貧血、
舌炎、
口角炎
ビタミンB12
赤血球生成、葉酸代謝、蛋白質・核酸合成、脂質・糖質代謝
悪性貧血、
脂肪肝
ニコチン酸
抗ペラグラ因子
ペラグラ
パントテン酸
CoA(コエンザイムA)の構成成分
肢端紅痛症、
焼足症候群
葉
ヘモグロビンの生成、
核酸・アミノ酸代謝
貧血、
舌炎、
口内炎
ピ オチン
糖質・脂質・アミノ酸代謝、
抗卵白障害因子
皮膚炎、
脱毛、
疲労感
ビ タミンC
コラーゲンの生成、
薬物代謝、
鉄吸収促進
壊血病、
出血傾向、
薬物代謝活性低下
酸
ミネラルの作用及び欠乏症
名 称
主な生理作用
欠 乏 症 状
鉄(Fe)
酸素運搬、
造血
鉄欠乏貧血
銅(Cu)
ヘモグロビン合成
低色素性貧血、
毛髪や皮膚の色素脱失
亜鉛(Zn)
たんぱく質代謝
成長減退、
味覚異常、
腸性肢端皮膚炎症
マンガン(Mn)
脂肪代謝、
酸素の活性化
成長遅延、
軽度の皮膚炎、
血糖上昇
ヨウ素(l)
甲状腺ホルモン
甲状腺肥大症、
成長障害
コバルト(Co)
ビタミンB12の構成成分、造血
悪性貧血(ビタミンB12欠乏症)
クロム(Cr)
糖・脂肪代謝
耐糖能異常、
高コレステロール血症
セレン(Se)
過酸化物分解・ゲルタチオン酸
克山病(心臓疾患)、
成長障害、
肺肉萎縮症
成長障害、
神経症状
モリプデン(Mo) 酸化酵素の分解
スズ(Sn)
成長遅延
酸化還元触媒
参考文献:財団法人長寿科学振興財団(長寿ネット)
低栄養で生じる病態:松本敏文・井上裕
静脈・経腸栄養ガイドライン:日本静脈・経腸栄養学会
−3−
ケアネット:高齢者ケア技術マニュアル
栄養学(人体の構造と機能):医学書院
栄養ケアマネジメントマニュアル:川西秀徳監修
現地指導部門
支援センター現地指導部門では八代市におけ
る「やつしろ元気体操教室」への支援と、今年
度は新たに氷川町のサロンにて「膝痛・腰痛予
防体操」への支援を行っています。
また、筋ベル会の方々に向けたスキルアップ
研修として「ボランティアリーダー養成講座」
を実施しました。
今後も地域に密着した支援や講演を考えてい
きたいと考えております。どうぞ宜しくお願い
します。
6月4日 ボランティアリーダー養成講座
相談部門
情報部門
今号では、
本年度第1回に行われた研修会(高齢
者筋力向上トレーニングにおけるリスク管理につい
て)の報告を載せております。 また、
今日介護予防の現場で重要視されている高
齢者の栄養不良の要因と現状、
不足しがちな栄養
素について詳しく載せています。
次号は、
高齢者の栄養状態の評価・判定方法、
食
事について記事を載せていきたいと思います。今後
とも宜しくお願い致します。
相談事例集
これまでに皆さんから頂いた相談の依頼内容の
一部をご紹介します。
(平成19年4月以降)
①利用者に対する腰痛予防や運動指導依頼につい
て「技術支援」を実施しました。
②利用者に対する四肢の機能訓練について「技術
支援」を実施しました。
上記2件については、
当院・訓練室にて相談依頼者
(担当職員)へ理学療法士による「技術支援」
・
「資
料提供」を行ないました。
*当支援センターでは、
このような地域リハに関する
疑問に対して、
直接指導(技術支援)や資料の紹
介(情報提供)など具体的で分かり易い対応(支
援)を行っています。
*相談を依頼される方は専用の相談書式にてFAX
で下記までに申し込みをお願いします。
FAX:0965(33)8823(八代地域支援センター総務)
−地域支援センターをお気軽にご利用下さい。お待
ちしています。
−
八代地域支援センター:相談担当(田中政敏)
広域支援センターへの相談・問い合わせ先
広域支援センターへの相談・問い合わせ先
期 日
テーマ
10月31日 「現場で役立つ口腔ケア」
12月6日
「現場での摂食・嚥下へのア
プローチ」(仮)
∼八代地域リハ広域支援センターでは
相談窓口(担当:田中)を設置していますので、
お気軽にご利用下さい。∼
FAX : 0965−33−8823(地域リハ広域支援センター総務)
: 0965−32−4405(病院代表)
T EL : 0965−33−4151(病院代表) 内線342
(取扱時間 9:00∼16:00)
E−mail : [email protected]
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