生態系15~29ページ(PDF形式:1525KB)

c.他の動物との関係
本種は魚食性であり、水面で餌と捕獲することから、魚類のうち表層を遊泳
する種が餌となっていると考えられる。表層を遊泳する種として、コノシロ、
マアジが確認されており、これらがミサゴの餌となっていると考えられる。
6.7-15
図 6.7-9( 1)
ミサゴの確認状況
6.7-16
図 6.7-9( 2)
ミサゴの確認状況
6.7-17
2)海域生態系の典型性(ワカメ・ツルアラメ、メバル・コノシロ)
①調査の手法
a.調査すべき情報
ワカメ・ツルアラメ、メバル・コノシロの生態等を把握するため、次の事項
を調査した。
・生
態
・分布状況
・他の動植物との関係
b.調査の基本的な手法
調査の基本的な手法は、現地調査による生物の分布や生育、生息環境の状態
(植生の構造や生物種の分布)の確認、文献その他の資料による生物の生態等
の整理、解析とした。
現 地 調 査 の 手 法 は 、 表 6.7-9 に 示 す と お り で あ る 。
c.調査地域・調査地点
調査地域は、
「 植 物 」、
「 動 物 」と 同 様 に 、植 物 、動 物 に 係 る 環 境 影 響 を 受 け る
おそれがあると認められる事業実施区域及びその周辺とした。
調査地点は、
「 植 物 」、
「 動 物 」と 同 様 で あ る(「 6.5
植 物 」、
「 6.6 動 物 」参 照 )。
d.調査期間等
現地調査の調査期間は、1年間とした。現地調査の時期は、植物、動物の生
育 、生 息 の 特 性 を ふ ま え て 適 切 な 時 期 に 設 定 し た 。現 地 調 査 の 実 施 日 は 、
「 植 物 」、
「 動 物 」 と 同 様 で あ る (「 6.5
植 物 」、「 6.6
動 物 」 参 照 )。
海 域 生 態 系( ワ カ メ・ツ ル ア ラ メ 、メ バ ル・コ ノ シ ロ )の 調 査 内 容 は 表 6.7-9
に示すとおりとした。
6.7-18
表 6.7-9
水域典型性の現地調査の手法
調査項目
調査地点
調査方法
植
物
海藻の種類、 [定量調査]
生育量
潮間帯および潮下帯そ
れぞれ 1 箇所において
50cm の 方 形 枠 を 置 き 、 枠
内の海藻類をスクレイパ
ー で か き 取 り 採 取 し た 。採
取 し た 海 藻 類 は 10% ホ ル
マ リ ン で 固 定 し 、種 別 個 体
数と湿重量を測定した。
護 岸 -1~ 7
(洞海湾)
護 岸 -8、 9
(響灘)
(図 6.5-1)
調査日
4季
平成 21 年 4 月 27、28 日
平成 21 年 7 月 13、14 日
平成 21 年 10 月 6、15 日
平成 22 年1月 18、19 日
[定性調査]
調査側線の任意の地点
で潮間帯の上部から海底
ま で 目 視 観 察 を 行 い 、出 現
種を記録した。
動物相、
分布状況
動
物
[ 丸 稚 ネ ッ ト に よ る 採 集 ] 洞 海 湾 、響 灘
丸 稚 ネ ッ ト ( 網 目 : (図 6.6-1)
NGG54)を 表 層 で 10 分 間 曳
網 し 、種 別 に 個 体 数 を 計 数
した。
○ネットによる採集
平 成 21 年 4 月 22 日
平 成 21 年 7 月 10 日
平 成 21 年 10 月 5 日
平 成 22 年 1 月 29 日
[捕獲法]
小 型 底 引 き 網( 間 口 8m、
長 さ 12m 、 魚 捕 部 の 目 合
1.2cm)を 15 分 間 曳 網 し て
採集し、ホルマリン固定
後 、種 の 同 定 、個 体 数 の 計
数を行った。
○捕獲法
平 成 21 年 4 月 22 日
平 成 21 年 7 月 10 日
平 成 21 年 10 月 5 日
平成 21 年 12 月 11 日
[目視観察]
定 点 に 潜 水 し 、一 定 の
時 間 内 ( 10 分 ) に 確 認 さ
れた魚類の種類と個体数
を記録した。
6.7-19
護 岸 -1、2、4、 ○ 目 視 観 察
6~ 9 の 7 地 (平 成 21 年 4 月 28 日
平 成 21 年 7 月 14 日
点
平成 21 年 10 月6、15日
(図 6.6-1)
平成 22 年1月 18、19日 )
②調査の結果
a.ワカメ
ⅰ.生
態
既 存 文 献 等 に よ る ワ カ メ の 分 類 ・ 形 態 、 生 育 環 境 、 生 活 史 な ど を 表 6.7-10
に示す。
表 6.7-10
分類・形態
ワカメの生態
4 ) ~ 1 7)
褐藻目コンブ科
1~ 3m の 大 き さ で 、 成 熟 す る と 基 部 に 葉 状 体 と 異 な っ た 分 厚 い ひ だ を 持 つ
成実葉(メカブ)が形成される
生育環境
潮 間 帯 下 部 か ら 水 深 15m ま で の 外 海 、 内 湾 の 岩 礁 上 。 濁 度 が 高 い 海 域 で は
生育水深が数 m までのところもある。
好 適 栄 養 度 は 、 富 栄 養 域 と 貧 栄 養 域 の 中 間 で 、 COD で 表 す と 3mg/L で 以 下
で あ り 、 生 育 限 界 は 3.7mg/L で あ る 。
生 活 史 別 の 水 温 条 件 は 以 下 の と お り で あ り 、南 限 の 冬 季 の 水 温 は 14℃ で あ
る 。冬 季 の 水 温 が 10 度 以 上 の 地 域 で は 1℃ の 上 昇 に よ っ て 生 育 量 が 減 少 す る 。
ワカメの生育段階
初夏
成実葉形成
温度にあまり関係がない
遊走子放出
14℃ → 22℃ 、 盛 期 17~ 20℃
配偶体(糸状体)の生長
17~ 20℃ 、 23℃ 生 長 中 止
配偶体の休眠
25~ 30℃
配偶体の成熟
20℃ 以 下 に 降 下
秋
幼芽の生長
17℃ → 10℃ 、 盛 期 15℃ 前 後
冬
成葉の生長
13℃ → 5℃ 、 盛 期 10℃ 前 後
夏
生活史
水温条件
1 年 生 で あ り 、春 か ら 夏 に か け て 成
熟 期 に な る と 、茎 の 下 部 に 成 実 葉 が 形
成され、そこに遊走子嚢が形成され
る 。放 出 さ れ た 遊 走 子 の 遊 泳 力 は 小 さ
く 、短 時 間 で 落 下 付 着 す る 。そ の 後 分
裂がはじまり、雌雄の配偶体になる。
配 偶 体 は 夏 季 ま で 伸 長 し 、真 夏 に は 休
眠 状 態 と な る 。秋 か ら 初 冬 に か け て 成
熟 し 、造 精 器 、生 卵 器 が で き る 。造 精
器から放出された精虫は卵と受精し、
芽 胞 体 を 形 成 す る 。芽 胞 体 は 発 芽 し 葉
体 と な る 。 幼 芽 は 3~ 5 カ 月 で 成 体 と
なる。
成熟葉体
雌雄配偶体
春季
若い藻体
冬季
夏季
秋季
幼体
雄性配偶体
雌性配偶体
発芽体
6.7-20
卵細胞
ⅱ.分布状況
繁 茂 期 の 春 季 に お け る 本 種 の 被 度 を 図 6.7-10 に 示 す 。本 種 の 被 度 は 、排 水 口
地 点 の 護 岸 -4 で 5 % 以 下 で あ る こ と を 除 け ば 、 10 ~ 20 % と な っ て い る ( 図
6.7-11)。
ワ カ メ の 生 育 は 、表 6.7-10 に 示 し た よ う に 水 質( 濁 り 、COD)、水 温 な ど に 制
限を受ける。これらの水質、水温の現況をみると、排水口周辺でワカメの生育
が 少 な い 原 因 と し て 、濁 り の 増 加 、夏 季 お よ び 冬 季 の 水 温 の 上 昇 が 考 え ら れ る 。
図 6.7-10
春季におけるワカメの生育状況
備考)網掛けは生育へ影響を与えるとされる範囲を示す。
図 6.7-11
ワカメの生育に関連のある水質の現況
6.7-21
ⅲ.他の動植物との関係
ワカメの生育する洞海湾湾口部の護岸には、テングサ類、アオサ、イギス等
の小型海藻類が生育している。響灘ではサンゴモ類、ユカリ等の小型海藻類の
他に、ホンダワラ類のノコギリモク等の大型海草も生育している。
ワカメの生育する藻場は、ゴカイ類を中心に、ヨコエビ・ワレカラ類の生息
場所となっている。ゴカイ類、ヨコエビ・ワレカラ類は海藻類、付着藻類、デ
トリタスを餌として護岸付近の藻場で生息するとともに、メバル、ウミタナゴ
等の魚類の餌となっている。また、メバル、メジナ、イシダイの幼稚魚の成育
場 と し て 機 能 し て い る ( 写 真 6.7-6)。
写 真 6.7-6
繁茂したワカメとメバルの稚魚
6.7-22
b.ツルアラメ
ⅰ.生
態
既存文献等によるツルアラメの分類・形態、分布、生育環境、生活史などを
表 6.7-11 に 示 す 。
表 6.7-11
分類・形態
ツルアラメの生態
4 )、 6 )、 1 2 )、 1 8 )、 1 9 )
褐藻目コンブ科
長 さ 0.3~ 1m に な り 、 葉 に は シ ワ が あ る 。 根 は 長 く 、 ツ ル の よ う に 岩
の上を匍匐する。
分
布
生育環境
日 本 海 沿 岸 に 限 ら れ 、北海 道 小 島 か ら 平 戸 付 近 まで 、お よ び 朝 鮮 半 島 。
潮間帯の低潮線付近から潮下帯にかけての岩上を主とするが、深い場
所にも生育する。
最 低 水 温 期 (2 月 )の 水 温 は 6~ 13℃ 、 最 高 水 温 期 (8 月 )の 水 温 は 24~
27℃ 。
生活史
海中でみられる藻体は本種
胞子体である。胞子体は多年
性 で あ り 、遊 走 子 を 放 出 す る 。
放出された遊走子は岩などに
付 着 し て 発 芽 し 、雄 性 配 偶 体 、
または雌性配偶体となる。配
偶体から放出された精子が卵
に到達し受精することで有性
生殖を行う。発芽した芽胞体
が胞子体へ生長する。
6.7-23
ⅱ.分布状況
本 種 の 被 度 を 図 6.7-12 に 示 す 。ツ ル ア ラ メ の 被 度 は 、響 灘 で は 春 季 の 護 岸 9
を 除 け ば 4 季 を と お し て 30~ 70% と 高 い 被 度 を 維 持 し て い る 。洞 海 湾 湾 口 部 の
護 岸 1~ 護 岸 7 に は 出 現 し て い な い ( 図 6.7-13)。
ツ ル ア ラ メ の 生 育 制 限 要 因 と し て は 、 表 6.7-11 に 示 し た よ う に 水 温 が あ る 。
調 査 地 域 の 水 温 と ツ ル ア ラ メ の 生 育 状 況 を み る と 、水 温 が 夏 季 に お い て も 27℃
を超えることがない響灘でのみ生育している。また、知見は得られなかったも
のの、内湾よりも外海に面した環境に生育する種であることから、波の強さ、
栄養塩類、透明度等の要因も分布に影響すると考えられる。
図 6.7-12
ツルアラメの生育状況
備考)網掛けは生育へ影響を与えるとされる範囲を示す。
図 6.7-13
ツルアラメの生育に関連のある水温の現況
6.7-24
ⅲ.他の動植物との関係
ツルアラメは、響灘の護岸でサンゴモ類、ユカリ等のスギノリ類、ホンダワ
ラ 類 の ノ コ ギ リ モ ク 等 と と も に 生 育 し て い る ( 写 真 6.7-7)。
ツルアラメの生育する藻場は、ワカメの場合と同様にゴカイ類を中心に、ヨ
コエビ・ワレカラ類の生息場所となっている。ゴカイ類、ヨコエビ・ワレカラ
類は海藻類、付着藻類、デトリタスを餌として護岸付近の藻場で生息するとと
もに、メバル、ウミタナゴ等の魚類の餌となっている。また、幼稚魚の成育場
として機能しており、調査地域においても、メバル、メジナ、イシダイの幼魚
が生息している。また、夏季にはイカ類の卵塊もみられ、産卵場としての機能
も有している。
写 真 6.7-7
響灘で繁茂するツルアラメ
6.7-25
c.メバル
ⅰ.生
態
既存文献等によるメバル、コノシロの形態、分布、習性、繁殖等に関する知
見 を 表 6.7-12 に 示 す 。
表 6.7-12
項
メバルの生態
20 ) ~ 26 )
目
生
態
生息場所
・藻場、沖合の岩場に群れて生息する。
・ 仔 魚 は 10m 層 前 後 に い て 2 ~ 4 月 に 内 湾 へ 移 動 す る 。
・3~5月に定着生活に移り藻場を中心に生活する。
・ 12 月 頃 水 温 が 10℃ を 下 回 る と 深 み へ 移 動 し 越 冬 す る 。
水
温
適水温
仔 稚 魚 期 : 9~ 14℃ 、
成 魚 期 : 8~ 28℃
産
卵
・ 卵 胎 性 で あ り 12 月 全 長 4~ 4.7mm の 仔 魚 を 出 産 す る 。
食
性
・動 物 食 性 (小 型 甲 殻 類 の 卵 や 幼 生 、Paracalanus、ワ レ カ ラ 類 、
小型甲殻類を、等脚類・端脚類・多毛類などを成魚は魚類・
端 脚 類 ・ エ ビ ・ カ ニ 類 ・ 巻 貝 な ど )。
ⅱ.分布状況
本種は藻場、岩場に生息する種である。調査地域では稚魚、成魚など各生育
段階の個体が確認されており、護岸やその近傍の海域、護岸の隙間、捨て石、
消波ブロック等を周年にわたって利用している。
また、現地調査によると、仔魚の発生時期に相当する 1 月は、排水口近傍で
は 、 本 種 の 生 息 が み ら れ て い な い ( 表 6.7- 13)。 こ れ は 図 6.7-14 に 示 す よ う
に 、排 水 口 近 傍 の 水 温 が 温 排 水 に よ っ て 上 昇 し 、生 育 に 適 す る 水 温 の 9℃ ~ 14℃
よりも高いためと考えられる。
6.7-26
表 6.7- 13
現地調査によるメバルの確認地点、時期
洞海湾湾口部
響灘
海 域 -3
海 域 -4
海 域 -5
海 域 -6
4月
○
○
○
○
7月
○
○
○
○
10 月
○
○
○
○
1月
○
○
水深
12m
11m
4m
4m
海 域 -7
海 域 -8
海 域 -9
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
6m
12m
11m
○:出現したことを示す。
ⅲ.他の動植物との関係
か いあし るい
パ
ラ
カ
ラ
ヌ
ス
メ バ ル は 、稚 魚 期 に は 動 物 プ ラ ン ク ト ン の 橈 脚 類 の 幼 生 、Paracalanus 属 な ど
を 餌 と し 、ワ カ メ 、ツ ル ア ラ メ 等 の 海 藻 類 を 隠 れ 場 、餌 場 と し て 利 用 し て い る 。
本種は、成長に伴って餌の種類が次第に大型化し、海藻類の葉上に生息するワ
レ カ ラ 類 、ゴ カ イ 類 等 か ら ヨ ツ ハ モ ガ ニ 、ヒ メ ケ ブ カ ガ ニ 等 の カ ニ 類 、ナ ベ カ 、
チャガラ等を捕食するようになる。
写 真 6.7-8
洞海湾湾口部のメバル
6.7-27
図 6.7-14
冬 季 に お け る 排 水 口 周 辺 の 水 温 分 布 ( 小 潮 、 平 成 22 年 1 月 22 日 )
6.7-28
d.コノシロ
ⅰ.生
態
既存文献等によるメバル、コノシロの形態、分布、習性、繁殖等に関する知
見 を 表 6.7-14 に 示 す 。
表 6.7-14
項
コノシロの生態
1 0 )、 20 ) ~ 27 )
目
生
態
生息場所
・弱過栄養域に生息
・内湾および外海の沿岸近くに多く、成魚は中層に生息。
・近海魚で大きな回遊をしない
・洞海湾では湾内を一生の生育場とする
水
適水温
産 卵 期 : 12~ 27℃ 、
温
成 魚 期 : 14~ 22℃
産
卵
・産卵期は4~6月で、卵は日没1~2時間に産み出される。
・卵はほとんど無色透明の球形分離浮性卵。
食
性
・動物プランクトン、植物プランクトン
ⅱ.分布状況
コノシロは、沿岸・内湾域の中層から表層に生息するとされている。出現状
況 は 、 図 6.7-15 に 示 す と お り で あ る 。
小型底曳網による捕獲はなかったものの、4 月と 7 月に洞海湾及び響灘の両
海域で卵と稚仔魚が丸稚ネットの表層曳きにより捕獲された。
本調査では、成魚は捕獲されなかったが、本種は近海魚であることや過去に
当該海域において捕獲されていることから、両海域を周年利用していると考え
られる。
現 状 に お け る 排 水 口 周 辺 の 水 温 分 布( 図 6.7-16)に よ る と 、排 水 口 か ら 半 径
約 100m の 範 囲 で は 表 層 の 水 温 は 28℃ を 超 え 、表 6.7-14 に 示 し た 産 卵 期 や 成 魚
期の生息適温を上回っており、排水口近傍には分布していないと考えられる。
コノシロ(魚卵)
コノシロ(稚仔魚)
2,000
1,600
3
60,000
個体/1,000m
個体/1,000m
3
80,000
40,000
20,000
1,200
800
400
0
0
海域-1
海域-2
海域-1
春季
海域-2
春季
図 6.7-15
コノシロの出現状況
6.7-29