(補遺) ZEBを巡る国際動向 下記のうち、英国、米国については、田辺委員、稲塚委員、久世委員(代理:竹内 氏)、栗山委員(代理:遠藤氏)、野浦委員(代理:寺野氏)及び事務局などにより、 9月上旬に現地調査を行った。 1.英国 (1)ゼロカーボン住宅・建築物の政策目標 ○ 2006 年 12 月、英国政府は、建築分野における抜本的な低炭素化対策の第一歩 として、 「2016 年までにすべての新築住宅をゼロカーボン化する」との目標に ついて、パブリック・コンサルテーションを開始。 ○ 2008 年3月、財務大臣は、非住宅建築物についても、 2016 年までに新築の学校をゼロカーボン化 2018 年までに新築の公共施設をゼロカーボン化 2019 年までにすべての新築非住宅建築物をゼロカーボン化 との野心的目標を発表。 図.ZEH、ZEBのタイムライン すべての新築住 新築の公共施設 宅、新築の学校を をゼロカーボン化 ゼロカーボン化 ZEH、ZEBのタイムライン 2016年 2018年 すべての新築 非住宅建築物を ゼロカーボン化 2019年 ○ ZEH、ZEBの実現に向けて明確な目標を立て、まずは具体的な規制強化の スケジュールを示すことで、技術開発などは市場により自然と進むという、英 国の温暖化対策全般に通ずる基本的考え方がここでも貫かれている。 (2)政策目標の背景・根拠 ○ ゼロカーボン住宅(ZEH) 2006 年に政策目標を決定したが、2016 年に特段の根拠があったわけでは なく、10 年以上先の目標では、世の中に対するシグナルにならないと考 えた。 政策目標を決定した後の検討で、省エネ性能の向上とオンサイトの再生可 能エネルギーだけではZEHは達成不可能と評価されたが、その後も目標 を放棄したり目標年を先延ばしするのではなく、オフサイトの措置を導入 するなど、当初の目標は揺るぎない政治的なものとなっている。 また、2006 年当時は、自治体で、国の省エネ基準の上乗せ規制を行うと 33 ころが増え、国で統一した強化基準を作ってほしいという要望もあり、Z EHに向けた規制強化が受け入れられやすい環境であった。 ○ ゼロカーボン非住宅建築物(ZEB) ZEBについても、2019 年という期限に特段の根拠はなく、建築物の省 エネ基準が3年ごとに見直されていくことから、 2010 年、2013 年の基準 強化の後、2016 年、2019 年で一気に達成させるというサイクルが考慮さ れて決定された。 (3)建築物省エネ基準 ○ 英国では、建築基準法(Building Regulation)において、新築及び増改築時 における建築物の省エネ基準を義務化している。 ○ 2002 年基準は、部位別熱貫流率基準、外皮の平均熱貫流率基準、炭素指標基 準(単位床面積あたりのCO2排出量)の3つから選択可能であったが、2006 年の改訂により省エネ基準は炭素指標基準に統一された。 ○ 省エネ基準は定期的に強化が図られており、2002 年の部位別熱貫流率基準に 基づき、一般的な住宅や標準的な気象データ、使用パターン等を想定して算出 した暖房用エネルギー消費量は、1990 年基準に比し 50%強化された(出所: 英国エネルギー白書)。 ○ また、2002 年と 2006 年の炭素指標基準を比較すると、2006 年基準に基づく一 般的な住宅を想定した場合のCO2排出量(暖冷房、換気、給湯、照明)は 2002 年基準に比し 20%強化された(出所:英国地方政府資料)。 (4)ZEH達成に向けた今後の段階的な省エネ基準の強化 ○ 英国政府はZEHの達成に向け、2006 年省エネ基準に比して、省エネ基準で 規定しているCO2排出量を 2010 年以降は 25%、2013 年以降は 44%削減と なるよう基準強化を図り、2016 年以降は省エネ基準で規定していないCO2 排出量(家電製品、厨房等)も含めてネット・ゼロとなるよう基準を強化する 方針を示している。 ○ ZEHの実現には、省エネ基準で規定しているCO2排出だけでなく、家電製 品など省エネ基準で規定していないCO2排出の削減が課題となっている。 34 CO2排出量(2006年基準比) 図.ZEH達成に向けた段階的な省エネ基準の強化 100% 2006年省エネ基準 25%削減 75% 44%削減 56% 100% +α(約50%)削減 0% 2006年 2010年 2013年 2016年 ZEH 約-50% 省エネ基準で 規定している CO2排出 暖冷房、換気、 給湯、照明 省エネ基準で 規定していない CO2排出 (家電製品、厨房等) (5)ZEHに向けた指針作り ○ 2006 年 12 月、地域・地方政府省は、「Code for Sustainable Homes」(以下C SH)を公表し、省エネ性能に関し6段階の評価軸を設定。CSHは、法的規 制の将来の方向性を示すシグナルとしての位置づけであり、評価軸は 2010 年、 2013 年、2016 年の基準強化と対応している。 図.CSHと基準強化年の対応 CSHの評価軸 2006年省エネ基準 との比較 基準強化年 1(★) 10%削減 2(★★) 18%削減 3(★★★) 25%削減 2010年~ 4(★★★★) 44 %削減 2013年~ 5(★★★★★) 100 %削減 6(★★★★★★) ゼロカーボン住宅 2016年~ ○ 非住宅建築物については、英国グリーンビルディング協会(UKGBC、建設 関連業界の企業がメンバーとなる非営利団体)から「Making the case for a Code for Sustainable Buildings」が、2009 年3月に公表された。この中で、 ZEBに向けた将来の道筋を示すため、非住宅建築物についても、CSH同様 の指針が作られるべきことが提言されている。 (6)ZEHに向けた対策のプライオリティー ○ 英国では、ヒエラルキー・アプローチにより、3つのステップについて、次の プライオリティーでZEHを目指すこととしている。 35 図.ZEH達成に向けた対策のプライオリティー 第3段階 その他許容される措置(HEMS導入、近隣に おける再生可能エネルギーの開発や既存ビル の改修によるクレジット、オフサイトの低炭素エ ネルギーの開発等) 第2段階 炭素排出基準の達成(オンサイトでの太陽光、 太陽熱、コジェネ等によるエネルギー供給、バ イオマス等低炭素の地域熱供給の活用) 第1段階 省エネ性能の向上(建築物の断熱性能・パッ シブ性能、暖房、給湯等の建築設備の省エネ 性能) ○ 第3段階の Allowable solutions として、以下の7つの方策が提案されており、 このうち5つの方策がオフサイトの措置となっている。 (オンサイトの措置) オンサイトの措置による炭素排出基準の超過達成 高効率な機器・制御 (オフサイトの措置) オフサイトの低炭素エネルギー開発への投資 系統連携しているオフサイトの低炭素の電力供給 既存ストックに対する低炭素の熱供給 既存ストックの改修 Section 106 に基づくクレジット ・ Section 106 は、地方政府の地域計画局と地域開発を行うデベロッパ ー等との間における、低炭素型の地域開発の合意事項に関する規定。 低炭素に関する追加的な投資について、クレジットが認められる。 36 図.Allowable solutions の方策 オンサイトの措置によ る炭素排出基準の 超過達成 オフサイトの低炭素エ ネルギー開発への投資 既存ストックに対する 低炭素の熱供給 既存ストックの改修 系統連携している オフサイトの低炭素の 電力供給 高効率な機器・制御 Section 106に基づく クレジット (7)ZEHのバウンダリー ○ 2006 年省エネ基準相当の住宅について、省エネ基準で規定されているCO2 排出量(暖冷房、換気、給湯、照明)を 100 とすると、省エネ基準で規定され ていないCO2排出量(家電製品、厨房等)は約 50 となる。 ○ 両者を合わせた住宅全体でのCO2排出量(計約 150)のうち、70 以上を建築 物・設備の省エネ性能の向上とオンサイトでの再生可能エネルギーの活用等に よりまかなうことが必要としている。 ○ 言い換えると、英国では、ZEHの達成に必要なCO2排出削減量の半分以上 を、オフサイトの措置等により削減可能となる。 図.ZEHのバウンダリー CO2排出量 CO2排出削減の基準 2006年省エネ基準で規定されている CO2排出を100とした場合 2006年省エネ基準で規定されている CO2排出を100とした場合 約50 100 省エネ基準で 規定されていない CO2排出 約80未満 省エネ基準で 規定されている CO2排出 70以上 オフサイトの措置等 省エネ性能の向上と オンサイトの再生可 能エネルギー利用 (注釈)英国政府等へのヒアリングに基づく。基準値はおおよそのイメージ。 37 ○ これは、再生可能エネルギーの供給を増やす効果はあるものの、他の再生可能 エネルギーの導入義務とダブルカウントとなるおそれもあり、環境NGOは目 を光らせている。 ○ また、オフサイトの措置まで考慮することにより、住宅の建設許可の手続きが、 官民双方において極めて複雑になることも課題の一つとなっている。 (8)ZEBの実現可能性と今後の方針 ○ ZEBの実現可能性 ZEB(非住宅建築物)の実現可能性については、政府、業界団体、設計 会社、研究所ともに、省エネ性能の向上とオンサイトの再生可能エネルギ ー利用のみでは実現が困難と認識している。 ○ 今後の方針 2019 年までに達成するという目標は不動である模様。 ZEBに関しては、基準強化のステップや省エネ性能の向上とオンサイト の再生可能エネルギー利用で達成すべきレベルなど、細かな数字の議論に は至っていないが、基本的には住宅と同様のアプローチになる見通し。 2009 年末を目途に、非住宅建築物についてパブリック・コンサルテーシ ョンを実施する予定である。 (9)産業界の反応 ○ 建設業など業界団体が、地方の中小企業も含め、どこまでこの規制強化を深刻 に受け止めているかは不明。 ○ 英国グリーンビルディング協会(UKGBC)は、政府のZEH、ZEBの目 標達成に向けて積極的に協力している。なお、UKGBCは、ロンドン近辺の デベロッパーや建設業者が中心メンバーとなっている。また、大手設計事務所 も政府目標に概ね賛同している。 ○ 規制強化が、ビジネスチャンスにつながるという考えに基づいているものと考 えられる。 (10)ZEH、ZEBに向けた重要技術 ○ 英国では、気候条件やエネルギー消費特性から、設備・機器の効率改善や制御 の高度化よりも、まずは設計の工夫により負荷を如何に減らすかという点に傾 注している。 38 図.高断熱や自然換気、日射取得等を採用した 英国建築研究所(BRE)内の省エネ建築物 ○ また、英国ではこれまで各戸へのガスパイプラインの敷設が進んでおり、欧州 大陸に比し、地域暖房が普及していないが、ZEH、ZEBをきっかけに地域 暖房(バイオマス)の導入を積極的に進めようという動きがある。 (11)ZEH、ZEBのモデル建築物 ○ 英国建築研究所(BRE)の敷地内にあるイノベーションパークは、現在7棟、 建築中2棟のZEH又はZEHに近いモデル建築物が展示されている。建築中 の1棟はチャールズ皇太子の寄贈。 ○ BREは敷地を有料で提供し、ハウスメーカー、設計会社等が建築コストと土 地の賃料を負担している。展示を目的としており、実際に居住はしていない。 ○ 英国内はもとより海外からの視察も多く、ZEH、ZEBのPRに大きく貢献 している。 図.BREイノベーションパークのモデル建築物 THE KINGSPAN LIGHTHOUSE (CSH レベル6) THE BARRATT GREEN HOUSE (CSH レベル6) 39 CSH レベル6の証書 (12)省エネ性能評価制度(EPC) ○ 住宅・建築物の省エネ性能評価制度(EPC:Energy Performance Certificate) は、新築、売買、賃貸借時に建物オーナーに対して、省エネ性能評価書の取得 と取引相手への提示を義務づける制度。2006 年から施行されており、市場に 浸透しつつある。 ○ 当該建築物のエネルギー性能を設計段階による予測値に基づき評価し、A∼G の7段階で格付けする。評価・格付けは、エネルギー使用パターン等は標準化 され、25 の用途(オフィスビル、店舗など)、20 の活動(執務室、倉庫など) ごとに行なわれる。 ○ Dランク(100 点)は既存建築物の平均、Bランク(50 点)は 2006 年省エネ 基準レベルに相当する。また、Aランク(0点)はネット・ゼロエミッション を示し、A+ランクはゼロ・エミッションをさらに上回るレベルを意味する。 ○ ただし、EPCで対象としているCO2排出は、省エネ基準で規定している暖 冷房、換気、給湯、照明からのCO2排出のみ。 図.EPCの評価書(サンプル) A+ランク A ランク(0点) B ランク(50点) D ランク(100点) 注釈) :ゼロエミッションをさらに上回る :ネット・ゼロエミッション :2006年省エネ基準レベル :既存建築物の平均値 ①省エネ基準で規定しているCO2排出のみ対象 ②平均値は1995年までの約30年間のエネルギー消費データ に基づき設定 (13)省エネ性能表示制度(DEP) ○ 省エネ性能表示制度(DEP:Display Energy Performance)は、運用時のエネ ルギー消費についてベンチマークにより省エネの度合いを格付けする制度。公 共施設については、施設入り口などへの掲示が義務づけられている。 ○ 建築物の運用管理の指標となり、EPCと同様に、A∼Gの7段階で評価・格 付けされる。 40 ○ Dランク(100 点)は既存建築物の平均に相当する。また、評価書には過去3 年間の履歴も記載される。 ○ EPCと異なり、省エネ基準で規定していないCO2排出(OA機器、厨房な ど)も含めた評価。 図.DEPの評価書(サンプル) D ランク(100点) 注釈) :既存建築物の平均値 ①省エネ基準で規定していないCO2排出も対象 ②平均値は1995年までの約30年間のエネルギー消費データ に基づき設定 (14)カーボン・リダクション・コミットメント(CRC) ○ 主として業務部門を対象とした英国独自のキャップ・アンド・トレード制度で あり、2010 年4月から試行が開始される。建築物の運用時の排出を減らすス キーム。約 5,000 企業が対象となる。 ○ 制度参加者のCO2排出削減の努力の程度(①排出総量の削減割合、②排出原 単位(売上高比率)の削減割合、③早期取組の度合いで評価)により制度参加 者をランク付けし、これを企業名つきで公表する。 ○ クレジットは全量オークションされるが、その歳入全額は、上記順位に応じて 制度参加者に還元される。 41 図.CRCの概要 42 2.米国 (1)ZEBの政策目標 ○ エネルギー自立安全保障法(2007 年)において、以下を目的とする「Net-Zero Energy Commercial Buildings Initiative」を規定した。 2030 年までに、米国に新築されるすべての業務用ビル 2040 年までに、米国の既存の業務用ビルの 50% 2050 年までに、米国のすべての業務用ビル をZEBとするための技術・慣行・政策を開発・普及する。 ○ オバマ大統領も、選挙期間中に以下の目標を立てることを公約。 2030 年までに米国に新築されるすべてのビルをカーボン・ニュートラル、 ゼロ・エミッション化 今後 10 年間で新築ビル、既築ビルのエネルギー効率をそれぞれ 50%、25% 向上 2025 年までにすべての連邦政府の新築ビルをゼロ・エミッション化 5年以内にすべての連邦政府の新築ビルのエネルギー効率を 40%向上 ○ DOEは、2025 年までに市場で競争力を有するZEBの技術開発を目指した 「ビルディング技術プログラム」を推進(ZEHの目標年次は 2020 年)。 ○ 米国では、ZEBの目標達成に向けて、政府による研究開発と規制強化をうま くバランスさせながら、進めていくという考え。 (2)ZEBに向けた研究開発予算 ○ DOEは、7年前(2002 年)から ZEB に向けた研究開発の目標を明確化し、 官主導で研究開発を進めている。 ○ 省エネ・再生可能エネルギー関連の 2009 年度予算は約 2,200 億円で、2000 年 度に比して倍以上に増えている。このうち、ビル関係の研究開発予算は 300 億円程度。 43 図.米国の省エネ・再生可能エネルギー関連予算の推移 2,500,000 $2.2B ビル関係の研究開発 US$ (in thousands) 2,000,000 $300M(約15%) 1,500,000 $1.0B 1,000,000 500,000 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 (3)ZEBに向けた重要技術 ○ DOEのビルディング技術プログラムでは、特に以下の研究開発に注力。 照明(固体素子照明) 外皮・躯体(窓、断熱材) HVACシステム、給湯器 総合設計・統合制御 図.米国で注力されている研究開発(例) 次世代窓 (高断熱、熱貫流率の動的制御) 太陽光の動的制御 (日射取得/日射遮蔽、採光等) ヒートポンプ 給湯器 ○ また、米国では、今後スマートグリッドの進展に伴い、設備・機器が外からの 制御をいつでも受け入れられる状態(ネットワークモード)とすることが必要 となり、待機電力消費が大幅に増大する可能性が示唆された。 44 (4)建築物の省エネ基準 ○ 米国では連邦政府が規範となる省エネ基準を策定し、州レベルで義務化してい る。 ○ 非住宅建築物の規範的な省エネ基準である「ASHRAE Standard 90.1」(米国暖 房冷凍空調学会)は3年程度毎に改訂(最近では 1999 年、2001 年、2004 年、 2007 年)。 ○ 「ASHRAE Standard 90.1」は定期的に基準強化が図られており、1999 年と 2004 年の基準を比較すると、2004 年基準に基づく一般的な住宅を想定した場合の エネルギー消費量は 1999 年基準に比し 10%程度強化された(出所:米国政府 資料)。 ○ また、2004 年と 2007 年の基準を比較すると、2007 年基準に基づく一般的な住 宅を想定した場合のエネルギー消費量は 2004 年基準に比し5%強化された (出所:New Building Institute(非住宅建築物のエネルギー性能に関する専 門組織))。 (5)ZEBに向けた今後の省エネ基準の強化 ○ 米国では、英国のように、いつまでにどれだけの規制強化を行うかという明確 な予定は示していない。 ○ しかし、これまでも建築物の省エネ基準は定期的(3年程度毎)に強化されて おり、市場に対し中長期的な規制強化の方向性は示されている。 ○ 2009 年6月に下院を通過したワックスマン・マーキー法案の中では、法案成 立時に「ASHRAE Standard 90.1」を現行基準(2007 年基準)に比して 30%強 化し、2016 年から 50%強化することとしている。さらに、2016 年以降も3年 に1回以上は基準を改訂することとし、改訂に際しては、その時点で技術的に 達成可能な最も厳しいレベルの基準を採用することとしている。 ○ カリフォルニア州では、連邦政府と同様に 2020 年までにすべての住宅をZE H化、2030 年までにすべてのビルをZEB化する方針を法律(AB1103)の中 で掲げており、規制強化のシグナルは明確に示されている。 (6)ZEBのバウンダリー ○ 米国における現時点でのZEBの定義は、建築物・設備の省エネ性能向上とオ ンサイトの再生可能エネルギーを活用することとしており、オフサイトの措置 は排除されている。 ○ ただし、米国の政府、国立研究所等との意見交換においては、都市部における ZEB化の困難性から、オフサイトにおける措置の活用を含め、今後における ZEBの定義の見直しの可能性が示唆された。 45 (7)ZEBの実現可能性 ○ DOEと再生可能エネルギー国立研究所(NREL)は、2007 年 12 月に、Z EBの実現可能性について技術的検討を行い、4,820 の全米各地の既存ビルを 2025 年時点の最新建築技術(Max Tech)で建て替えた場合、棟数ベースで 62%、 延床面積ベースで 47%がZEBを達成し得るとの評価を公表。 図.ZEB実現可能性の評価結果 Max Techの概要 89 90 76 80 70 60 60 50 57 55 20 10 • 照明の電力消費の50%削減:昼 光照明等 50 47 40 30 • 躯体の断熱性能の向上(現行基 準に比し概ね3割程度強化) 75 66 • コンセント消費の25%削減:高効 率機器の採用 31 22 14 11 8 0 0 3 0 0 0 Wa Off reh ic e Al l / pr ou se ofe (no ss i on nre al f rig era ted Re ) Ed tail uc (e x atio clu n din gm Pu a ll ) blic ass em bl y Re Se rvi li gi ce ou sw ors hip Lo dg Fo ing He od al th Se rv i Ca Pu ce re bli c I np ord a ti ent er and s af et y He alth Fo od ca s al re es (ou tpa tie n t) Va can t Oth Sk i ll e er dn urs Re ing fri g Lab era o rat te d ory Wa reh ou se Percent of floor area able to reach ZEB goal 100 • 空調機器:ヒートポンプのCOP の30%向上、ボイラー効率の 20%向上、空調動力の削減(形 式により17∼20%)、換気動力 の回収率(形式により24∼40%) • 冷凍設備の30%効率向上 • 太陽光発電システムの導入:屋 根面積の50%、セル効率2倍 (8)ZEH、ZEBの実証 ○ DOE傘下の国立研究所では、同一敷地内に複数のモデル住宅(ZEHに近い 住宅、通常の省エネ性能の住宅、改修した住宅)が建設され、様々な気候条件 の下、実測値を踏まえた、省エネ効果や費用対効果が評価されている。 ○ 建設費はすべて施主の負担で、国立研究所が技術アドバイスだけ与え、通常よ り 50%省エネとなる新築ビルの建築や通常より 30%省エネとなる既築ビルの改 修を進めるなど、民間資金を活用した支援を行っている。国立研究所は、運用 段階の省エネも指導している。 46 図.CAMPBELL CREEK のモデル住宅 (9)省エネ性能ラベリング:ENERGY STAR ○ ENERGY STAR は、環境保護庁(EPA)とDOEが共同で開発した、製品、機 器、住宅、業務用ビルを対象とする任意の省エネ性能ラベリング制度。 ○ 業務用ビルの ENERGY STAR(2001 年導入)は、実際の運用時のエネルギー消費 をベンチマークし、米国全体の上位 25%に入るとラベルの認証が与えられる。 認証には、最低1年間の実績データが必要となる。 ○ ENERGY STAR の取得件数は、2007 年の 1,500 件から 2008 年の 3,000 件に倍増 し、急速な普及を見せている。 ○ ENERGY STAR の取得と不動産価値の上昇について相関関係があるとの研究も報 告されている(約3%の賃料上昇)。 ○ カリフォルニア州では、2009 年夏期から、建築物の売買・賃貸借に際して、 ENERGY STAR 制度に基づく省エネ性能評価結果の提示を義務化している。 図.ENERGY STAR のラベル 47 (10)建築物のエネルギー消費データベース:CBECS ○ DOEは、1979 年から、非住宅建築物のエネルギー消費関連データを定期的 (4年程度毎)に収集し、データベース化(CBECS:Commercial Buildings Energy Consumption Survey)。 ○ 1回につき約8億円の予算をかけて、全米約 6,000 の既築ビルを対象にデータ 収集を実施。 ○ 14 種類の建物用途について、床面積や建築年、断熱構造などの建築物の基本 情報、燃料別のエネルギー使用量に加えて、営業時間や従業員数、省エネ機器 の保有状況、コンピュータの保有台数など、建築物の使用状況に関するデータ も収集している。 ○ データベースはウェブ上で一般に公開されているほか、業務用ビルの ENERGY STAR のベンチマークにも用いられている。 図.CBECSの概要 建物用途(14種類) 主な収集データ 床面積 建築年 階数 営業時間 従業員数 建築用途(主用途) 気候区分 空調機の種類 省エネ機器の保有状況(断熱、高効率照明他) コンピュータの保有台数 エネルギー消費機器の燃料種別 屋上と外壁構造の詳細 エネルギー使用量(電気、都市ガス、燃料、地域 冷暖房) 等 Education Food Sales Food Service Health Care Lodging Mercantile Office Public Assembly Public Order and Safety Religious Worship Service Warehouse and Storage Other Vacant 48 3.フランス ○ 環境グルネル懇談会(2007 年 10 月)において、「2020 年までにすべての新築 建築物をエネルギー・ポジティブ(エネルギー生産量が消費量を上回る)建築 物とするよう義務づける」と発表。 ○ ただし、この政策目標を達成する具体的な手段については、述べられていない。 4.EU ○ 2009 年2月、欧州議会は、気候変動に関する将来の包括的な政策提案を採択。 その中で、 「新規の商業・公共建築物については 2020 年までにネット・ゼロ・ エネルギーとする」との目標を打ち出した。 ○ また、EUでは、2008 年より、建築物のエネルギー性能に関する指令(EP BD:Energy Performance of Buildings Directive)の改正が進められてお り、その中でZEH、ZEBに関する検討も行われている。 欧州委員会による改正案(2008 年 11 月)では、加盟各国に対して、ZE H及びZEBの開発・普及に向けた国家計画の策定を要求。 欧州議会による修正案(2009 年4月)では、加盟各国に対して、2019 年 以降すべての新築住宅・建築物をZEH、ZEBとするよう要求。 最終的には、欧州理事会、欧州議会、欧州委員会の共同決定により確定す る。現時点(2009 年9月)では見通しは立っていない。 5.World Business Council for Sustainable Development(WBCSD) ○ WBCSDは、2006 年3月に、2050 年までにすべての新築建築物をゼロエネ ルギー化することを提言。 ○ これを受けて、Energy Efficiency in Buildings (EEB) Project を実施(プ ロジェクト期間:2006∼2009 年)。本年4月、報告書がとりまとめられた。 ○ 6地域(欧州、米国、日本、中国、インド、ブラジル(世界のエネルギー消費 の2/3を占める))における 4 用途(戸建て住宅、集合住宅、オフィスビル、 店舗)について、シミュレーション分析を行い、以下の最適なポリシーミック スを提案。 −建築基準の強化と透明性向上のためのエネルギーラベル −エネルギー効率化の投資促進(税や補助金によるインセンティブ) −統合的なデザインと革新の推進 −省エネルギー行動を可能にする次世代技術の開発と利用 −省エネルギーのための人材育成 −エネルギーに関する意識向上のための活動 ○ 6地域での業務・家庭部門の削減ポテンシャル(2050 年における BAU シナリ オとの差)として、以下を試算。 49 40%の省エネ:投資回収期間5年未満の対策を講じた場合(年間で平均 1500 億ドルのコスト) 52%の省エネ:投資回収期間10年未満の対策を講じた場合(年間で平均 3000 億ドルのコスト) ○ 日本のオフィスビルのケース・スタディも実施。この中で、投資回収期間5年 未満の最新の設備・機器を導入した場合、現状より 51%のCO2排出削減が 可能と試算。 50
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