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日皮会誌, 89 (13):939-941,
1979 C昭44)
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小児の急性発疹症
中 尾 亨
小児期において,発疹を来す疾患は数多く存在する
栄養失調状態にあるものは,抗体の産生がわるく,体
が,今回は,小児に最も多く認められるウイルス性発疹
液性免疫も細胞性免疫も低下しており,このような状態
症を中心として,最近の知見をおり室ぜて話を進めてゆ
のところへ麻疹感染があれば,重症化するということは
きたい.
当然に考えうるところである.
ウイルス性発疹症の診断には,疫学的背景などを念頭
以上のようなアフリカにおける麻疹と同様の状況か,
に入れて,既知のウイルス性疾患の病像を熟知しておく
免疫抑制剤,抗癌剤の普及により免疫低下状態にある長
ことである.
期生存者か麻疹に感染し,麻疹の病像が変貌するといっ
I. 麻疹
たことが増加しつつある.
木症は,ワクチyの普及により減少,そして痘唐と同
巨細胞肺炎(giant
じように地球上から姿を消すことも考えられるが,現在
られた疾患であるが,本症が麻疹ウイルスによっておこ
は小児期における重要な疾患である.
ることが認められたのは,
熱帯の発展途上国においては,麻疹は依然として小児
である.
(7)死因として大きな割合をしめている.そして,その臨
cell pneumo
「a)は,古くから知
1959年Endersら2)によって
麻疹ウイルスの感染により,多核巨細胞の形成される
床像が先進国のそれと異なることである,
ことは, in vitro において認められるが,同様のことは
気道,結膜,消化管などにおけるカタル症状か著しい
生体の気道粘膜上皮においてもおこる.しかし,このこ
ことと,発疹の様相が異なるわけである1),すなわち,
とは一過性であるが,免疫抑制状態にある生体において
早期においては,先進国の麻疹とかわりはないが,発疹
は,この状態が存続するぽかりでなく,進行して巨細胞
は早期に融合の傾向が強く,ある場合には紫色あるい
は暗紫色にまで色調は進展し,こののち落屑がはじま
肺炎に進展する,
この巨細胞肺炎の愚児は,麻疹の発疹を認めることは
る.
少なく,また,麻疹患者との接触も明らかでないことが
落屑は,多かれ少なかれこの地方の小児においてはす
多い,著者らは,最近4年7ヵ月のネフローゼ症候群患
べてに認められ,落屑化の程度は,発疹の暗色化のひろ
児においてステロイドホルモンの長期使凡その後サイ
がりに比例し,発疹が暗紫色までなると広範囲の落屑が
クロフォスファマイド併用により疾患自体は軽快した
おこる.
が,肺炎により死亡し,剖検により巨細胞肺炎であるこ
落屑後は,数週問持続する種々の程度の斑状の色素脱
とか判明し,巨細胞の電子顕微鏡写真により多数の麻疹
失が認めらる.
ウイルスヌクレオキャプシッドが認められた.この患児
わが国においても,麻疹はかつては命とりの疾患であ
も麻疹患者との接触は明らかでなく,発疹も出現しなか
り,失明の原因の一つでもあった.
った.すなわち,麻疹はopportunistic
このように麻疹が重症化することの背景には,頭性あ
るいは潜在性の栄養失調症の状態にこれらの子供がある
ことである.
infectionの様
相を呈してきている.
麻疹不活化ワクチンの接種をうけたものが,その後自
然麻疹の感染をうけて発症する異型麻疹は,不活化ワク
麻診罹患により細胞性免疫が抑制されることは,古く
チンの使用廃止にっれて近年減少しているが,しかし,
から知られていた.すなわち,ツベルクリソ反応の陰転
時に遭遇することがある.異型麻疹は,発疹の出現順序
すること,麻疹罹患によりネフローゼ症候群が軽快する
か自然麻疹と異なり,手足などの末端より出現し,小水
ことなどである.
厄紫斑などを来すので,本症が念頭にない場合には診
札幌医科大学小児科教室
Tooru Nokao : Acute exanthema
断に迷うことがある.肺炎を伴うので,肺炎の存在を認
in children。
め,本症が念頭にあれば臨床的に診断はむつかしくな
940
中尾 亨
1,ヽ.
が少なく,仲々入手が困難である.
II・ 風疹
一方,大阪大学微生物研究所高橋教授ら1)5)によって
本症は,最近,わが国に大流行して,その合併症など
開発された水痘生ワクチンは,モの安全性,有効性が確
がさらに明らかにされた,風疹で最も問題となるもの
認され,病棟内に水痘が発生した場合においても,この
は,妊婦が本症に罹患して,種々の奇形を有する先天性
ワクチソ接種によってhigh
風疹症候群の患児が生れることである.
より免れるか,あるいは極めて軽症に経過することかで
妊娠4ヵ月以後の風疹罹患は,先天性風疹症候群患児
きるので,すぐれたワクチンと考えられる.
出生の危険はないが,4ヵ月以内においても100%に奇
IV・ 新らしいウイルス性発疹症
形児が出生するとはかぎらない.先天性風疹症候群にお
従来の古典的ウイルス性発疹症に加えて,ウイルス学
risk にあるものは水痘罹患
いては,低出生体重(sraall-for-date)・,眼奇形,心奇形
の進展につれて判明した発疹症は数多い.これは,多く
が主な徴候であるが,
はエソテロウイルスによるものであり,概要を示すと表
1964年に全米に大流行して多数の
先天性風疹症候群患児が出生したが,その子供たちが10
のようである.
年経過して,長期追跡調査の結果が発表された3).ウィ
表 小児期における主な新しいウイルス性
発疹症の概要
ルス学的に確められた先天性風疹症候群患児を対象とし
ているが,2歳以後に顕著となる徴候としては,聴力障
病 原
害,精神運動発達遅延,言語障害,歯牙,骨の異常,さ
らには高率に若年性糖尿病に進展することである,
エコー 9
発疹は主に風疹様,顔面
に多い.髄膜炎を伴うこ
が多いと
エコー 16
発疹は風疹様,解熱時ま
精神運動発達遅延は,その程度において高度なものが
多いことが注目される.
臨床的特徴
たは解熱後に出現,顔面,
躯幹に多い,成人は小児
より重症(Boston
exanthem)
先天性風疹症候群出生の予防のためには,ワクチソ接
種か必要である.風疹ワクチンは,弱毒生ワクチンであ
り,人工流産を行う前に妊婦にワクチンを接種し,その
エコー 25
風疹様,顔面,躯幹に多
い
コクサッキーA16
手,足,0,脊部,膝の
水泡疹(手足口病)
コクサッキーB5
紅斑丘疹性,髄膜炎を伴
うことが多い
その他のコクサッ
キー,エコー,ア
デノウイルス
感冒症状,髄膜炎が主で
発疹はまれ
'-ソテロウイルス
71
手足ロの発疹,しばしば
髄膜炎を伴う
胎児にウィルスが移行することか認められているので,
妊娠初期のものに対しては禁忌である.
ワクチソ接種は,中学生,高校生などの年代の女子な
どが主な対象となるが,ワクチン自体にも,また,接種
対象などについてもさらに検討の余地かあるであろう.
III・ 水痘
水痘と帯状庖疹は,今日では同一ウィルスによってお
こる疾患であると考えらているが,一般的に,水痘は年
B型肝炎ウイルス
長になればなるほど重症化する傾向にある.
四肢に対称性,顔面など
に紅斑丘疹,リンパ節腫
脹,肝炎(Gianotti病)
今日,水痘が大きな問題となっていることは,ステロ
肺炎マイコプラズ
マ
イドホルモンや抗癌剤の投与をうけて,免疫機能が低下
斑状丘疹,尊麻疹様,肺
炎に併発
している個体が水痘に罹患した場合に,重症化して,し
ばしば致死的になることである.すなわち,白血病やネ
V・ 急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(MCLS,川崎
フp−ゼ症候群患者が疾患自体は軽快してきている状態
病)
にかかわらず,水痘に罹患して死亡することが稀ではな
本症は,独立した疾患単位として確立したものとみて
χzゝ.
よいであろう.臨床像は,本症の診断の手引きにある
この治療,予防には,速効的な高度免疫グロブリン
(zoster immune
globulin, ZIG)が有効であるが,
が,発疹はその特徴の一つをなすものであるが,臨床像
ZIG
全体より本症の診断は比較的容易である.
は受動免疫であるので速効性かあるが有効期間は短い.
本症は,未だ原因は不明であり,心疾患を後遺症とし
ZIGは,帯状庖疹より回復した患者より採血して作製
てのこすことで疾患としては追跡調査が必要である.近
されるものであるが,現在,
年,本症は増加の傾向にあり,原因の究明,予防対策が
ZIGを供給して下さる方
941
小児の急性発疹症
望まれる。
たします.
本講演の機会を与え下さいました久木田教授に感謝い
文
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