人皮膚グロームスのアドレナリン作動神経支配について

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日皮会誌:88 (6),
411-413, 1978 (昭53)
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森嶋 隆文
花輪
滋
石川 豊祥
遠藤 幹夫*
要 旨
のアドレナリン作動神経支配の様相を検索することにし
人皮膚グp−ムスの自律神経支配の一端を蛍光法
た.
(Falck & Hillarp)をもって検索したところ,
Suquet-
材料並びに研究方法
Hover管には極めて特有なアドレナリン(モノアミソ)
爪甲下悪性黒色腫の診断のもとに切断された34歳,
作動神経支配がみられることを知った.すなわち,アド
男の右第1指末節の尖端部から掌面にかけて正常外観を
レナリン作動神経はあたかも糸巻きに巻いた糸のように
呈する皮膚片を採取し,これを被験材料となした.切除
Suquet-Hoyer管を囲縮して鞘のように翻密に分布して
後,直ちに皮膚片を2分割し,1は普通染色標木用に,
いる.また,これら神経は正常皮膚の動脈にみられると
他のIは既述の方法6)6)に従ってドライアイスで冷却し
同様に,中膜筋層に相当するグロームス細胞層内に貫入
たイソペソタソ中に浸漬・凍結し,
せず,外膜に位置してvaricose
日間凍結乾燥した後,
axon ramificationsの状
態を示す.
-35°Cで減圧下に7
60%の湿度を保つように調製した
ホルムアルデヒドガスで80°C,1時間処理し,減圧下に
パラフィンに包埋した.厚さ10μの連続切片を作成し,
周知の如く,人の指趾,掌鴎,耳,眼険,頚部,前額
蛍光顕微鏡(Nikon
FL
型)下に観察した.検鏡に際
部,口唇部などの皮膚にはグロームスと呼ばれる特殊な
し,暗視野油浸コンデンサーを用い,紫外線光源として
動静脈吻合が存在し,末梢血流循環調節や体温調節を司
Toshiba SHL-200高圧水銀灯を,光源側にはY-51フィ
っている.グロームス装置のうち,特徴的な構築を示す
ルター,二次側にはBフィルターを使用した・
のはSuquet-Hoyer
正常皮膚標本を本法で観察すると,メラノサイトおよ
canal とも呼称されている吻合血管
動脈部である1)2)すなわち,管腔は狭く,内弾性板を
びアドレナリン作動神経は緑色特異蛍光を発するが,
欠き,中層は今日,電顕的芦に平滑筋細胞由来とされて
蛍光起因物質は前者ではDOPA
いる,4∼6層のグロームス細胞とからなり,さらに,
compounds,後者ではノルアドレナリンといわれてい
or DOPA-containing
その周囲には豊富な神経支配が認められる.
る.なお,ホルムアルデヒドガス無処置標本で自家蛍光
このようにグp−ムスの基本的構造は吻合血管と神経
の局在をみると,角質層は黄色,膠原線維は緑色,真皮
装置とからなるといえる.
および動脈弾性板の弾力線維は光輝性の緑色の蛍光を発
Suquet-Hoyer管の支配神経
に関し,神経染色3)や電顕的観察2)によって無髄神経の
し,エクリン汗腺では順粒状,オレソヂ色の自宗蛍光が
存在が指摘され,また特異的コリンエステラーゼ染色4)
認められる.
の結果からコリン作動神経に属することも確認されてい
結 果
る.人皮膚グlコームスにおけるアドレナリン(モノアミ
グp−ムスの組織学的特徴ならびに解剖学的位置を把
ソ)作動神経支配の存在も予想されるとはいえ,これに
握するためにHE染色標本をみると,真皮網状層下層で
関する研究はいまだ乏しいように思われる.そこで,
エクリン汗腺の高さあるいはやや上方に,特有な構造を
蛍光法(Falck
示すSuquet-Hoyer管,小動脈,小静脈,神経線維重の
& Hillarp)を用いて人皮膚グロームス
断面が1つのunitをなして存在する。Suquet-Hoyer管
*日本大学医学部皮膚科学教室(主任 森岡貞雄教
授)
Takatumi Morishima, Shigeru Hanawa, Toyonaga
Ishikawa and Mikio
Endo : Adrenergic nerve
innervation of the human
昭和53年1月19日受理
cutaneous glomus
別刷請求先:(〒101)東京都千代田区神田駿河
台1-8-13 駿河台日大病院皮膚科 森嶋隆文
は一層の内被細胞で被われた狭い管腔をもち,内弾性板
を欠き,中層は4∼6層の類上皮細胞様のグロームス細
胞からなる.これらグロームス周囲に,しばしばVaterPacini小体が認められた.
蛍光顕微鏡下では緑色特異蛍光を発するアドレナリン
作動神経の特徴的な支配の様相からSuquet-Hoyer管の
羽2
西嶋降水まか
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図2 グp−ムスの横断面,蛍光法 ×50
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エクリン汗腺
413
ダロームスのアドレナリン作動神経
存在を容易に見出すことができた.図1は注入動脈か
さて,正常皮膚標本を本法で観察すると,アドレナリ
らSuquet・Hoyer管に至る部の縦断面を示す.注入動脈
ン作動神経の分布は渡銀法による神経染色の結果と異な
(a)では正常皮膚の動脈と同様に内弾性板に一致して
って極めて限られた範囲にのみみられ,動脈や起毛筋に
弾力線維の自宗蛍光を認め,外膜にはある一定の間隔を
これらを証するにすぎない.既述した如ぐ),動脈では
もってアドレナリン作動神経が支配している.一方,
中膜筋層を貫通することなく,外膜に=一致してノルアド
Suquet-Hoyer管(a-V)に移行すると,突如として管腔
レナリソに由来すると思われる緑色特異蛍光を発し,と
は狭小となり,内弾性板は消失し,外膜に相当する部に
ころどころ瘤状を呈するアドレナリン作動神経が一定の
アドレナリン作動神経の分布が顕著となる.図2および
間隔をもって叢状に分布している.さて,今回観察した
図3はSuquet-Hoyer管(a-V)の横断面および接線方向
Suquet-Hoyer管を支配するアドレナリン作動神経と正
の断面を示すが,アドレナリン作動神経はあたかも糸巻
常皮膚の動脈のそれと比較してみると,
きに巻いた糸のように吻合血管を囲僥して鞘の如く分布
ramificationsを示すこと,中膜筋層内に貫通しないこと
している.これらアドレナリン作動神経は中膜筋層に相
は共通の所見であるが,そめ差違は分布の密度にある.
当するグp−ムス細胞層内に貫入せず,特殊な終末神
varicose axon
すなわちSuquet-Hoyer管周囲のアドレナリソ作動経
経装置を形成することはなく,いわゆるvaricose
axon
はあたかも糸巻きに巻いた糸のようにこれを囲続して鞘
ramificationsの状態を示す.吻合血管静脈部あるいは小
0ように棚密に分布している.その様相は戸沢論文3)に
静脈(v)にアドレナリン作動神経支配は観察されず,
引用されているMassonの原図にまさに一致している.
また知覚神経線維束内,
先人が記したコリンエステラーゼ染色の結果4)を考慮
Vater-Pacini小体やMeissner
小体にこれら神経の混在は証しえなかった.
に入れると,人皮膚のグロームスは正常皮膚の動脈と同
考 按
様にコリソ作動神経とアドレナリン作動神経の二重支配
蛍光法(Falck
をうけているものと考えられ,事実Henningsen"は,
&
Hillarp)は蛍光抗体法のように蛍
光物質をラペルするのではなく,組織中に存するカテ
ラットのglomus
コールアミソおよびセロトユンならびにモれらの前駆物
ことを明らかにしている.
質であるDOPAおよび5-hydoxytryptophanをホルムア
以上のように,内弾性板を欠くこと,中層がグローム
caudale では二重神経支配がみられる
ス細胞からなること,豊富な自律神経の支配をうけてい
鏡下に観察する方法である,本法を用いることによって
ることなどの解剖学的特徴からSuquet-Hoyer管は環
組織中のモノアミソ類の局在ないし走行が細胞あるいは
境の変化に応じて完全に閉塞可能となるものと思われ
る 献
ルデヒドガスの処理によって蛍光物質に変えて蛍光顕微
細胞下レベルで形態学的に追求可能となった6).
文
1)
Lever,χV.F.
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2)
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誌,
4)
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of the fluorescence
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