再生可能エネルギー利用コンプレッサーレス空調の潜熱処理システム - 19 -

空気調和・衛生工学会 東北支部 第3回 学術・技術報告会 論文集
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A-6
再生可能エネルギー利用コンプレッサーレス空調の潜熱処理システム
○結城 了介,佐藤 英樹(三建設備工業)
Latent Heat Processing System of Compressor less Air Conditioning with Renewable Energy
Yuki Ryosuke, Sato Hideki(Sanken Setsubi Kogyo Co., Ltd.)
キーワード:潜熱顕熱分離空調、デシカント空調機、地中熱、太陽熱
はじめに
温室効果ガスの削減や東日本大震災以降の省エ
ネルギーに対する意識の向上を受けて、建物の主
要なエネルギー消費源である空調設備の省エネル
ギーは益々重要な課題となっている。
潜熱顕熱分離空調システムは空調エネルギーの
削減と快適性を両立出来るシステムとして着目さ
れている。この空調システムは低エクセルギー熱
源を有効に活用することがポイントとなる。顕熱
処理システムは低エクセルギー熱源水を利用した
放射空調システムが提案され、快適性と省エネル
ギー性が実証されている 1)2)。潜熱処理システム、
特に除湿システムにおいて低エクセルギー熱源水
が利用出来れば、更なる省エネルギーが期待出来
る。低エクセルギー熱源水を利用した潜熱処理シ
ステムとして、デシカントコイルを用いた除湿シ
ステムが提案されている 3)。低エクセルギー熱源
水として再生可能エネルギーである地中熱や太陽
熱を利用すれば、熱源動力を必要としないコンプ
レッサーレス空調システムの構築が可能となる。
弊社つくばみらい技術センターの天井放射空調
エリアに地中熱と太陽熱を利用したデシカントコ
イル除湿システムを導入し、実用検証を行ってい
る。本報ではデシカントコイル除湿システムの概
要と実用性能について報告する。
1. デシカントコイル除湿システム
1.1 システムフロー
実証システムは、弊社つくばみらい技術センタ
ー ( 茨 城 県 つ く ば み ら い 市 )2F 執 務 エ リ ア ( 約
190m2)の潜熱処理システムとして設置した。対象
エリアの顕熱処理は天井放射空調システムを採用
し、夏期はオープンループ方式地中熱、冬期は太
陽熱を直接熱源として利用する。
図-1 に 2F 執務エリアの潜熱処理システムのフ
ローを示す。外気は予冷コイルにより冷却除湿し
た後、デシカントコイルユニットで除湿し、2F
潜熱処理システム(補助)
PAC
SHEX
予冷コイル
排気
350m3/h
廊下
外気
天井放射パネル
2F 執務エリア
(在室定員20人)
アトリウム
地下水
太陽熱温水
排気
デシカントコイルユニット
給気
500m3/h
図-1 2F 執務エリア潜熱処理システムフロー
室内
排気
デシカントコイル×2
排気ファン
給気ファン
予冷
外気
B
冷水(還)
再生
排気
処理
空気
四方向ダンパ
×2
冷水(往)18℃
温水(還)
温水(往)55℃
三方バルブ×4
図-2 デシカントコイルユニットフロー
執務エリアの床下チャンバー内に給気する。執務
エリアとアトリウムを挟んで隣接する廊下から室
内排気を取り、デシカントコイルの再生空気とす
る。冷水は地下水と熱交換器を介して製造し、予
冷コイルとデシカントコイルの除湿プロセスに供
給する。デシカントコイルの再生プロセスには太
陽熱温水を供給する。気象条件により太陽熱温水
が得られない場合は、デシカントコイルユニット
に代わり、空冷パッケージと顕熱交換器で構成さ
れた潜熱処理システムを運転する。
1.2 デシカントコイルユニット
図-2 にデシカントコイルユニットフロー、表-1
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表-1 デシカントコイルユニット機器仕様
機器名
デシカント
コイル
給気ファン
排気ファン
切替ダンパ
切替バルブ
仕様
熱交換器 フィンチューブ型
外形寸法 2 6 4 ×6 0 0 ×1 0 2 mmH
フィンピッ チ 1 .8 mm
材質
フィン: Al, チューブ: Cu
吸着材
ゼオライト系吸着材
塗布量
3 kg
消音ボックス付送風機
3 φ 2 0 0 V×1 3 8 W×8 0 0 m3 / h ×1 2 2 Pa
消音ボックス付送風機
3 φ 2 0 0 V×1 3 8 W×8 0 0 m3 / h ×1 2 2 Pa
四方向ダンパ
外形: 8 5 0 mmφ 、接続2 5 0 φ
電動三方ボールバルブ
2 0 A Lポート
数量
2
1
写真-1 デシカントコイル外観
1
2
4
にデシカントコイルユニット構成機器の仕様、写
真-1 にデシカントコイルの外観、
写真-2 にデシカ
ントコイルユニットの外観を示す。
デシカントコイルはゼオライト系吸着剤が塗布
された市販品を用いた。デシカントコイルユニッ
トは 2 台のコイルで構成されたバッチ方式であり、
除湿と再生のプロセスを交互に繰り返すシステム
である。プロセスの切換えは空気流路がコイル前
後に配置した四方向ダンパ、冷温水流路がコイル
出入口に配置した各 2 台の三方バルブで行う。除
湿と再生のプロセス切換え時に発生する熱ロスを
抑制するため、コイル出口の三方弁、及びダンパ
の動作開始時間にディレー時間を設定した。
1.3 運転条件
表-2 にデシカントコイル除湿システムの運転
条件設定値を示す。各条件はデシカントコイルの
除湿性能の検証結果 3)を踏まえて設定した。冷水
熱源には年間約 16℃の地下水を利用し、冷水温度
は 18℃に設定した。温水温度は要求除湿能力を確
保するために必要な再生温度として 55℃とした。
処理風量は在室定員より 500m3/h とし、再生風量
は処理対象エリアの正圧を維持するため、処理風
量より小さく、再生能力を低下させない風量とし
て 350m3/h に設定した。
2. 検証結果
夏期代表日(2013 年 8 月 29 日)の実測値を以下
に示す。
2.1 運転条件
写真-2 デシカントコイルユニット外観
表-2 運転条件設定値
冷温水
風量
入口空気 バッチ時間
条件
(min)
処理
工程
(℃)
(L/min)
(m 3 /h)
除湿
18
20
500
予冷外気
23℃
14g/kg'
5
再生
55
20
350
室内排気
28℃
11g/kg'
5
外気とデシカントコイル入口空気(除湿側:予冷
外気、再生側:室内排気)の温湿度の経時変化を図
-3、デシカントコイル入口の冷温水温度と流量、
空気温湿度と風量の平均値を表-3 に示す。
デシカントコイル入口の冷温水温度と流量はほ
ぼ一定で、平均値は、冷水温度 19.3℃、温水温度
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35
外気温度
30
24
18
22
16
20
14
予冷外気(除湿入口)
予冷外気温度(除湿入口)
20
18
外気湿度
15
16
10
14
5
室内排気湿度
(再生入口)
予冷外気湿度
(除湿入口)
0
8:00
10:00
12:00
14:00
時刻
16:00
絶対湿度(g/kg')
温度(℃)
25
絶対湿度(g/kg')
室内排気温度(再生入口)
10
4
13:00
18:00
処理空気(除湿出口)
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
時刻
図-5 処理空気絶対湿度の経時変化(定常 1 時間)
表-3 運転条件測定値(平均値)
入口空気
(g/kg') (m 3 /h)
(℃)
除湿
19.3
22.5
22.4
14.2
492
再生
54.1
21.0
29.7
14.2
344
温度(℃)
冷温水
(℃)
(L/min)
20
18
絶対湿度(g/kg')
8
6
処理
工程
予冷外気(除湿入口)
14
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
処理対象エリア
処理空気(除湿出口)
予冷外気(除湿入口)
8:00
処理対象エリア
12
10
12
図-3 運転条件(温湿度測定値)の経時変化
16
12
10:00
12:00
14:00
16:00
18:00
時刻
10
図-6 処理空気温度の経時変化(全運転時間)
8
6
処理空気(除湿出口)
4
8:00
10:00
12:00
14:00
16:00
18:00
図-4 処理空気絶対湿度の経時変化(全運転時間)
54.1℃、冷水流量 22.5L/min、温水流量 20.3L/min
であった。デシカント除湿プロセス入口の予冷外
気の温度は平均 22.4℃、絶対湿度は 14.2g/kg’で
あった。再生空気となる室内排気の温湿度平均値
は 29.7℃、14.2g/kg’となり、処理対象エリアの温
湿度平均値(27.4℃、11.3g/kg)よりも高い値となっ
た。これは隣接するアトリウムや吸込口のある廊
下側の空気条件の影響と判断された。
2.2 デシカントコイル処理空気
デシカントコイルの処理能力は処理空気の絶対
湿度と処理空気温度で評価した。必要外気
(25m3/h/人)と在室人員の潜熱負荷を処理して、室
内湿度条件を満足させるためには、処理空気の絶
温度(℃)
時刻
30
29
28
27
26
25
24
23
22
21
20
13:00
処理外気(除湿出口)
予冷外気(除湿入口)
13:10
13:20
13:30
13:40
13:50
14:00
時刻
図-7 処理空気温度の経時変化(定常 1 時間)
対湿度は 8g/kg’以下が要求される。
デシカントシステムの除湿プロセスでは高温と
なる再生側の熱影響や吸着熱によって処理空気温
度が高くなる場合がある。処理空気温度は室内の
顕熱負荷とならないように室内温度以下で給気す
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2.5
2.23
再生可能エネルギーのみを熱源とするデシカン
トコイル除湿システムは、圧縮機を使用するヒー
トポンプ熱源の除湿システムに対して、消費電力
は 40%以下となり、大幅な省エネルギーが可能と
なることが示された。
2.10
消費電力(kW)
2.0
1.5
1.0
0.81
0.5
0.0
A
B
HPデシカント PAC+SHEX
C
デシカントC
システム
[備考]
1)AとBは500m3/hの運転での8月の平均消費電力
2)AとBは圧縮機とファンの消費電力
3)Cは代表日定常運転時の搬送動力の流量按分算定値
4)Cは搬送動力(地下水・太陽熱系の1・2次側含む)
図-8 除湿システム消費電力の比較
ることが求められる。
処理空気絶対湿度の経時変化で全運転時間を図
-4、定常運転時 1 時間を図-5、処理空気温度の経
時変化で全運転時間を図-6、定常運転時 1 時間を
図-7 に示す。処理空気の絶対湿度と温度はバッチ
方式の処理により、バッチ時間間隔で周期的に変
動しながら推移した。絶対湿度と温度の変動幅は
定常運転中ほぼ一定であり、絶対湿度の変動幅は
平均 4g/kg’、温度変動幅は平均 2.9℃であった。
定常運転時の絶対湿度平均値は 7.5g/kg’で、評価
基準とする 8g/kg’以下であった。処理空気温度の
平均値は 24.5℃、処理対象エリアの平均温度
(27.3℃)以下であった。運転開始時も含む全体平
均値は絶対湿度 7.8g/kg’、温度 24.7℃であった。
4. まとめ
デシカントコイル除湿システムは、地中熱利用
の 18℃冷水、太陽熱利用の 55℃温水によって潜
熱顕熱分離空調システムで要求される除湿性能を
確保出来ることが確認された。これらの再生可能
エネルギーを利用した天井放射空調システムの快
適性や省エネルギー性は実証されている。再生可
能エネルギーのみで潜熱顕熱分離空調システムが
成立することが示され、同時に熱源動力を必要と
しないコンプレッサーレス空調システムが実現可
能であることも示された。
地中熱や太陽熱は低エクセルギー熱源であり、
更なる効率的運用を検討する必要である。また、
60℃以下の低温温水が利用可能なデシカントシ
ステムは利用熱源についても幅広く検討し、有効
活用を図る必要がある。
1)
2)
3)
3. 潜熱処理システム消費電力の比較
除湿システムによる消費電力の比較を図-8 に
示す。除湿システムは本報告の 2F執務エリアに
実際に導入したシステムを対象とした。消費電力
は運用実測データに基づいて算定した。システム
A は市販のヒートポンプデシカントユニット、B
は地下水による予冷外気を利用した空冷パッケー
ジと顕熱交換器で構成した除湿システム 4)、C は
本システムである。
4)
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2014.3.18 (株式会社ユアテック 本社)
- 22 -
参 考 文 献
塩谷正樹・桑原亮一・草野舞子・何原一平:再生
可能エネルギーを活用した建築設備改修に関す
る研究(第 3 報)放射空調システムによる室内温熱
環境,空気調和・衛生工学会大会学術講演論文
集(2011),pp.2373~2376
桑原亮一・塩谷正樹・草野舞子・何原一平:再生
可能エネルギーを活用した建築設備改修に関す
る研究(第 4 報)年間エネルギー消費量,空気調
和・衛生工学会大会学術講演論文集 (2011) ,
pp.2377~2380
結城了介・佐藤英樹:低エクセルギー熱源水を利
用したデシカント外気処理システムの検討 汎用
デシカントカイルの除湿性能検証,空気調和・衛
生工学会大会学術講演論文集(2012),pp.2921
~2924
佐藤英樹・戸室泰洋・桑原亮一・塩谷正樹・草野
舞子:再生可能エネルギーを活用した建築設備
に関する研究(第 6 報)潜熱処理システムの運転
検証結果,空気調和・衛生工学会大会学術講演
論文集(2012),pp.805~808
空気調和・衛生工学会 東北支部 第3回 学術・技術報告会 論文集
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A-7
冷暖房とロードヒーティングへの地中採熱技術の適用
第 1 報:システムモデルの策定と導入コスト
○赤井仁志,草刈洋行(㈱ユアテック),一瀬茂弘,宇佐美勇気(中部電力㈱),二宮秀與(鹿児島大学)
Performance Assessment of Cooling and Heating, Road-heating System by Ground Thermal Energy,
Part 1: Study on Modeling and Performance of Initial Cost
AKAI Hitoshi, KUSAKARI Hiroyuki (Yurtec Corporation), ICHINOSE Shigehiro, USAMI Yuuki
(CHUBU Electric Power Co., Inc.) and NIMIYA Hideyo (Kagoshima University)
キーワード:地中熱利用、モデルシステム、冷暖房、ロードヒーティング、ランニングコスト
1.はじめに
高効率な地中熱利用ヒートポンプシステムを冷暖房設
備やロードヒーティング装置に適用することにより、業
務用建物の大幅な省エネルギー化が期待できる。しかし、
空気熱源ヒートポンプシステムに代表される従来のシス
テムに対して、地中熱利用ヒートポンプシステムでの地
中熱交換器(採熱管)の施工費用が高価となるため、シ
ステム設計にあたっては経済性を十分に検討する必要が
ある。そこで、実存する事務所ビルが、中部・東海地方
の各所に建った場合を想定して、地中熱利用ヒートポン
プシステムを冷暖房とロードヒーティングに適用する手
法の考察を行った。
町にある施設は、融雪というより、むしろ路面の凍結防
止を目的に稼働させる場合が多い。なお、想定する場所
は、三重県津市、長野県長野市、下諏訪町、大町市、飯
山市、軽井沢町、岐阜県岐阜市である。ただし、津市と
岐阜市は、気象条件からロードヒーティングの考察は行
わない。
3.モデルシステムの策定
イニシャルコストやランニングコストの経済試算をす
る冷暖房とロードヒーティング等のシステムを、表-1~
表-3 の通り策定した。
表-1 冷暖房のモデルシステム
Case
熱源設備(冷暖房)
備考
2.システムの適応と建物・ロードヒーティング概要
AC1
高効率空冷HPチラー
ベースケース
対象とした建物とロードヒーティングの概要は、つぎ
AC2
寒冷地対応型空冷HPチラー
の通りである。
AC3
地中熱利用HPチラー(Close)
【冷暖房】
AC4
地中熱利用HPチラー(Open)
構造と階数:SRC 造 4 階建て
表-2 ロードヒーティングのモデルシステム
延床面積:4,100 ㎡
建築面積:1,359 ㎡
Case 熱源設備(ロードヒーティング)
備考
【ロードヒーティング】
RH1
電熱線
ベースケース
ロードヒーティング布設面積:445 ㎡
RH2
融雪専用空冷HP
想定単位面積当たりの熱負荷:250W/㎡
RH3
地中熱利用HPチラー(Close)
空気熱源ヒートポンプと地中熱利用ヒートポンプ等を
RH4
地中熱利用HPチラー(Open)
冷暖房とロードヒーティ
表-3 ロードヒーティング熱源を冷房に利用するモデルシステム
ングに適応したケースの
熱源設備
ほか、冬季はロードヒーテ
Case
備考
ロードヒーティング
暖房
冷房
ィング、その他の季節は冷
MX1
高効率空冷HPチラー
電熱線
ベースケース
房設備に適用することを
HP
通常:高効率空冷
チラー
前提としたケースのモデ
MX2 地中熱利用HPチラー(Close) 高効率空冷HPチラー 13時~16時:地中熱利用HPチ
ルシステムを策定した。ロ
ラー+高効率空冷HPチラー
ードヒーティングが布設
軽負荷時:地中熱利用HPチラー
MX3 地中熱利用HPチラー(Open) 高効率空冷HPチラー
されている長野県下諏訪
HP
重負荷時:高効率空冷
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2014.3.18 (株式会社ユアテック 本社)
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チラー
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4.地盤条件
地中熱利用ヒートポンプ(Close)の土壌条件は、立地
箇所の地盤柱状図の土質に深さの加重平均をして、表-4
の通りとした。密度と比熱は、U 字管の場合、ほとんど
採放熱に影響を与えないので、同じ値とした。
なお、長野市で立地する場所の柱状図が見あたらなか
ったために熱伝導率を、1.0 W/ (m・K)〔火山灰・泥相当〕
、
1.5 W/(m・K)〔砂相当〕と 2.0 W/(m・K)〔砂礫〕の 3 つ
の値を想定して試算した。
図-2 日平均値(24 時間集計値)熱負荷と AMeDAS 標
準気象データにより得られた熱負荷の降順図
表-4 各地の地盤条件
津市
下諏訪町
大町市
飯山市
軽井沢町
岐阜市
土壌熱
土壌密度 土壌比熱
伝導率
[kg/㎥] [kJ/kg・K]
[W/m・K]
1.5
1.9
1.5
1,500
2.0
1.6
1.6
1.9
5.ロードヒーティングの熱負荷条件の検討
2011 年 12 月 1 日から翌年 3 月 31 日まで間で、
外気温
度と投入熱量(熱負荷)の相関を実測データから検討し
た。外気温度を統計処理して、1 時間ごとの値を日平均値
にすることで、図-1 の相関を得た。ここで得られた回帰
式をもとに熱負荷を算出した。
AMeDAS 標準気象データから回帰式で求めた熱負荷
と実測した熱負荷の日平均値(24 時間集計値)を、降順
図で比較したものが、図-2 である。実測値と推計値に大
きな乖離がなかったことから、他地区でも同様の方法を
用いてロードヒーティング熱負荷を求めた。
6.イニシャルコストの試算
コストの試算にあたり、地中熱利用ヒートポンプ
(Close)の地中採熱管の長さの検討を行った。国土交通
省「官庁施設の熱源設備における地中熱利用システム導
入ガイドライン(案) 」で、設計時の地中採熱管の採熱量
に、60.0W/m の値が示されており、この値を用いた。ロ
ードヒーティングの場合、フィードバック制御を行って
いないこともあり、熱負荷に対する危険率を 0.0%、2.5%、
5.0%の 3 段階で地中採熱管の長さを出して、コストを求
めた。下諏訪町の熱負荷を、危険率を 5.0%境界に色分け
した降順図が図-3、採熱管長が表-5 である。
ロードヒーティングの各モデルシステムのうち、長野
市でのイニシャルコストを表-6 に示す。
図-3 危険率 5.0%の降順図での区分(下諏訪町)
熱負荷[kW]
表-5 危険率の違いによる採熱管長(下諏訪町)
0.0%
危険率
95kW
最大熱負荷
2.5%
72kW
5.0%
66kW
1,583kW 1,208kW 1,100kW
採熱管の長さ
採熱管1本の長さを
16本
13本
12本
100mとした場合の本数
表-6 ロードヒーティングのイニシャル(長野市)
RH1
外気温度[℃]
11,053
図-1 ロードヒーティング熱負荷と外気温度の相関
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2014.3.18 (株式会社ユアテック 本社)
- 24 -
RH3
危険率 危険率 危険率 RH4
0.0%
2.5%
5.0%
6,806 29,311 23,394 23,394 24,286
RH2
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A-8
冷暖房とロードヒーティングへの地中採熱技術の適用
第 2 報:運用コストと経済的評価
○宇佐美勇気,一瀬茂弘(中部電力㈱),赤井仁志,草刈洋行(㈱ユアテック),二宮秀與(鹿児島大学)
Performance Assessment of Cooling and Heating, Road-heating System by Ground Thermal Energy,
Part 2: Study on Performance of Running Cost and Economic Evaluation
USAMI Yuuki, ICHINOSE Shigehiro (CHUBU Electric Power Co., Inc.), AKAI Hitoshi, KUSAKARI
Hiroyuki (Yurtec Corporation) and NIMIYA Hideyo (Kagoshima University)
キーワード:地中熱利用、HASP、冷暖房、ロードヒーティング、ランニングコスト、経済評価
1.冷暖房の熱負荷条件の検討
ランニングコストに算出の前に、三重県鈴鹿市に建つ
当該建物での内部発熱や空調設備・換気設備等の使用ス
ケジュールを反映させて、HASP(動的熱負荷計算・空
調システム計算プログラム)によるシミュレーションを
実施した。実際の空調熱負荷と HASP のデータを照合し
て差異を詰めることにより、同じ建物が他地域に建った
場合を試算する条件として適応させた。
しかし、実際の建物では氷蓄熱ビルマルチエアコンを
使用しており、正確な空調熱負荷が把握できない課題が
あった。また、事務室での照明、人体、機器の内部発熱
が変化しており、例えば建築環境・省エネルギー機構
(IBEC)発行の『建築物の省エネルギー基準と計算の手
引』の値と空気調和・衛生工学会 建築・空調シミュレー
ション法小委員会での調査結果の値に乖離が生じており、
図-1 MX2・地中熱利用 HP(Close)と空冷チラー組合せ
値の設定に難しさがあった。さらに、実際の建物の外壁
の断熱は、
現場硬質発泡ウレタンフォーム吹付・25 ㎜で、
長野県内の寒冷地に建つ場合を想定した場合、そのまま
で良いかなどの考察があった。
2.ロードヒーティング熱源を冷房に利用するシステム
ロードヒーティング熱源を冷房に利用するシステムモ
デルは、
「第 1 報:システムモデルの策定と導入コスト」
に記述したとおりである。本システムは、ロードヒーテ
ィングに使用した地中熱利用ヒートポンプシステムを、
夏季の冷房の一部として有効活用することを考慮したも
のである。熱源の接続と制御では、直列方式と並列方式
が考えられたが、空調設備では一般的な図-1 と図-2 の通
り並列方式とした。
図-2 MX3・地中熱利用 HP(Open)と空冷チラー組合せ
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2014.3.18 (株式会社ユアテック 本社)
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空気調和・衛生工学会 東北支部 第3回 学術・技術報告会 論文集
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3.ランニングコストの試算
各ケースで選定した熱源機の性能線図等に従い COP
を求め、ランニングコストを算出した。適応した電気料
金は、高圧業務用電力 FR(季節別)で、単価は夏季の通
り。基本料金の単価は、力率割引を考慮していない。ま
た、ロードヒーティングの従量料金単価は、融雪用メニ
ューがないとして、高圧業務用電力の単価を用いている。
基本料金
1,759 円/kW
従量料金 夏季(7~8 月) 11.65 円/kWh
その他季節
10.70 円/kWh
ロードヒーティングで、RH3 の地中熱利用(Close)の消
費電力量の比較を図-3 に示す。長野市で、危険率が高い
ほど消費電力量が小さいのは、チラー台数が増え、地中
採熱等の効率が向上したためである。
図-4 と図-5 は、基本料金と従量料金を含んだ長野市と
大町市のロードヒーティングの 1 年間のランニングコス
ト(電気料金)の比較である。ここでは、RH4 の地中熱利
用(Open)に、ロードヒーティング熱負荷がある時間帯に、
便宜的に井水ポンプ動力として 5.5kWh を加算した値を
用いている。結果として、RH3 の地中熱利用(Close)のラ
ンニングコストが安価となった。
4.経済評価(経年累積コスト)
ロードヒーティングシステムのうち、RH3 と RH4 の
Case に補助金 1/3 を受けた場合の 20 年間の経年累積コ
スト比較をした。この結果のうち、長野市を図-6、大町
市を図-7 に示す。図-6 の長野市の土壌熱伝導率は、砂相
当の 1.5W/(m・K)の Case を載せた。
外気温度の違いによるロードヒーティング熱負荷やチ
ラーCOP 等から、気候条件によってシステムごとのイニ
シャルコストとランニングコストが異なる。5~8 年間だ
と空気熱源ヒートポンプが有利である。これ以上の期間
では地中熱利用ヒートポンプにメリットがある。地中熱
利用(Close)は、地中採熱管の施工費が低落しており、今
後、短期間の回収が可能になると予想する。
図-3 各地のロードヒーティング RH3 の消費電力量
図-6 ロードヒーティング 20 年間の累積コスト
(長野(RH3:1.5W/(m・K))
・補助金有り)
図-4 ロードヒーティングのランニングコスト(長野)
図-7 ロードヒーティング 20 年間の累積コスト
(大町・補助金有り)
図-5 ロードヒーティングのランニングコスト(大町)
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