時間選好率、危険回避度、そして喫煙習慣: 喫煙する人としない人は同じ

2007/02/10
第6回行動経済学ワークショップ
時間選好率、危険回避度、そして喫煙習慣:
喫煙する人としない人は同じ人、違う人?
京都大学大学院経済学研究科 助教授
依田 高典
1
1. 時間、危険に関する選好と喫煙行動の先行研究
・ 喫煙者は、非喫煙者よりも、近視眼的な時間割引をする。
(Mitchell 1999、Bickel et al. 1999、Odumu et al. 2002、Baker et al. 2003、Reynolds et al. 2004、
Ohmura et al. 2005など)。
・ 喫煙本数が多い喫煙者ほど、またニコチン摂取量が多いほど()、割引率が
大きい。
(Reynolds et al. 2004、Ohmura et al. 2005)
・ 他方で、危険選好研究では、必ずしも喫煙者が非喫煙者よりも衝動的な確
率割引をするとは限らない。
(Mitchell 1999、Reynolds et al. 2003、Ohmura et al. 2005)
・ 本論文は、Fagerström Test for Nicotine Dependence (FTND)に基づき、
喫煙習慣度を3段階に分け、時間選好率と危険回避度を測定する。
(Heatherton et al. 1991)
2
2. 時間選好率または危険回避度の測定の先行研究
・ 時間選好と危険選好のアノマリーは同じ構造を持っているが、 時間選好と
危険選好の相互作用の性質は解明されていない 。
(Prelec and Lowenstein 1991、 Raclin and Siegel 1994)
・ 時間や危険に関する選好パラメータを測定し、喫煙、飲酒、未保険、危険
資産投機などの危険愛好的な行動との関連性を検証した。
( Barsky et al. 1997)
・ しかしながら、従来の研究は、時間選好と危険選好を別々に測定。時間選
好と危険選好の総合的測定の試みは数少ない。
(Rachlin et al. 1991、Keren and Roelofsma 1995、Anderhub et al. 2001、Yi et al. 2006)
・ 本論文は、表明選好離散選択モデル分析(Stated Preference Discrete
Choice Model, SPDCM)を用いて、被験者レベルで時間選好率と危険回避
度を同時に測定するという点で、革新的な研究。
3
3. 本論文の2つの主要な結論
第一に、喫煙習慣と時間選好率、相対的危険回避度の関係を調べた。
• 喫煙者全体の方が、非喫煙者全体よりも、時間選好率が高い。特に、喫煙
者の中では、高度喫煙者が一番時間選好率が高い。非喫煙者の中では、過
去喫煙者の方が、生涯非喫煙者よりも、時間選好率が低い。
• 喫煙者全体の方が、非喫煙者全体よりも、危険愛好的である 。特に、喫煙
者の中では、高度喫煙者が一番危険愛好的である。非喫煙者の中では、過
去喫煙者の方が、生涯非喫煙者よりも、危険回避的である。
第二に、喫煙習慣と男女差のどちらが選好の違いに関係するのかを調べた。
• 喫煙者の男女の選好の差であるが、時間選好率の平均値の差は存在す
るとは言えない 。また、非喫煙者の男女の選好の差であるが、時間選好率、
危険回避度共に平均値の差は存在するとは言えない。
• 喫煙者、非喫煙者の選好の差であるが、男性、女性共に、時間選好率、相
対的危険回避度の平均値の差が存在すると言える。
4
4. サンプル・データの抽出
第一段階データ抽出
全サンプル
非喫煙者
(1)生涯非喫煙者
(2)過去喫煙者
喫煙者
(1)高度喫煙者(H)
(2)中度喫煙者(M)
(3)低度喫煙者(L)
サンプル数
10,816
7,632
6,089
1,546
3184
671
1,340
1,173
モニタ調査会社に登録している成人日本人(登録総
数22万人)を対象に、アンケート調査を行った。サン
全サンプル比率
サブ・サンプル比率
女性比率
平均年齢
プルの抽出は、次のように三段階に分けて行った。
----51%
40.0
71%
56%
14%
29%
6%
12%
11%
--80%
20%
--21%
42%
37%
56%
60%
38%
40%
38%
38%
43%
39.7
38.4
45.1
40.6
43.4
40.8
38.8
第一に、登録モニタの中から約1万人をランダムに
抽出し、現在非喫煙者(生涯非喫煙者、過去喫煙者)、
現在喫煙者(高度、中度、低度喫煙者)に分類。
第二段階データ抽出
全サンプル
非喫煙者
(1)生涯非喫煙者
(2)過去喫煙者
喫煙者
(1)高度喫煙者(H)
(2)中度喫煙者(M)
(3)低度喫煙者(L)
サンプル数
1,022
406
203
203
616
205
206
205
全サンプル比率
--40%
20%
20%
60%
20%
20%
20%
サブ・サンプル比率
----50%
50%
--33%
33%
33%
女性比率
34%
50%
66%
35%
23%
15%
23%
30%
平均年齢
41.1
40.7
40.2
41.3
41.3
44.2
40.4
39.3
サンプル数
692
288
139
149
404
125
127
152
全サンプル比率
--42%
20%
22%
58%
18%
18%
22%
サブ・サンプル比率
----48%
52%
--31%
31%
38%
女性比率
35%
50%
65%
37%
25%
18%
21%
34%
平均年齢
40.2
39.6
36.1
42.8
40.7
43.8
39.9
5
38.8
第二に、5つのサブカテゴリーからそれぞれ約200
人を抽出し、喫煙行動に関する質問を行った。
第三段階データ抽出
全サンプル
非喫煙者
(1)生涯非喫煙者
(2)過去喫煙者
喫煙者
(1)高度喫煙者(H)
(2)中度喫煙者(M)
(3)低度喫煙者(L)
第三に、第二段階回答者の7割から、時間選好、危
険選好に関するアンケートへの回答を得た。
4. 喫煙者の喫煙習慣度の分類
我々は、現在喫煙者の喫煙習慣度を分類するために、 Fagerström Test for
Nicotine Dependence(FTND)を実施した。FTNDとは、次のような6問の回答結
果に応じて、高度喫煙者(H)、中度喫煙者(M)、低度喫煙者(L)に分類した。
問1 朝起きてからどのくらいで最初のたばこを吸いますか。
1.5分以内(3点) 2.6~30分(2点) 3.31~60分(1点) 4.60分以上(0点)
問2 寺院や図書館、映画館など、喫煙を禁じられている場所で禁煙することは、あなた
にとって難しいことですか?
1. はい(1点) 2. いいえ(0点)
問3 一日の喫煙の中で、どちらが一番やめにくいですか?
1. 朝の最初の一本(1点) 2. その他(0点)
問4 あなたは一日に何本たばこを吸いますか?
1.10本以下(0点) 2.11-20本(1点) 3.21-30本(2点) 4.31本以上(3点)
問5 一日のうち、起きてから数時間のほうが、他の時間帯に比べて多く喫煙しますか?
1.はい(1点) 2.いいえ(0点)
問6 あなたは、病気でほとんど一日中寝込んでいるようなときも、喫煙しますか?
1.はい(1点) 2.いいえ(0点)
0〜3点 ニコチン依存度 弱、4〜6点 ニコチン依存度 中、7点以上 ニコチ
ン依存度 強
6
4. 喫煙者の喫煙習慣度の分類
その結果、1万人中からランダム・サンプルした喫煙者の喫煙習慣度の比率
は、高度喫煙者(21%)、中度喫煙者(42%)、低度喫煙者(37%)であった。
第一段階のサンプリングの喫煙者の女性比率は40%と、 2005年現在の日本
人成人喫煙者女性比率23%よりも高めであったために、喫煙者の性比の割付
に関しては、日本人成人喫煙者の女性比率23%が再現されるように、喫煙習
慣度の比率を考慮して、第二段階の喫煙者の女性比率は高度喫煙者(15%)、
中度喫煙者(23%)、低度喫煙者(30%)とした。
7
5. コンジョイント分析
我々は、被験者の時間選好と危険選好を同時に測定するために、692名に対
して、表明選好法の一種であるコンジョイント分析を実施した。コンジョイント
分析では、財を様々な属性の束(プロファイル)から成り立っているものと見な
し、属性ごとの評価を行うことが可能である。
本調査で使用する選択肢、属性および水準は、次の通りである。
選択肢1は、賞金10万円、当たりの確率100%、待ち時間なしとした。
選択肢2は、賞金額、当たりの確率、待ち時間を問題ごとに変化させた。
賞金額は、15万円、20万円、25万円、30万円。
当たりの確率は、40%、60%、80%、90%。
賞金が貰えるまでの待ち時間は、1ヶ月後、半年後、1年後、5年後。
直交計画法によりプロファイルを作成し、質問は一人あたり8問ずつ設けた。
従って、総サンプル数は、生涯非喫煙者(1112)、過去喫煙者(1192)、高度喫
煙者(1000)、中度喫煙者(1016)、低度喫煙者(1216)である。
8
設問例
賞金額
賞金がもらえる待ち時間
当たりの確率
選択肢1
10万円
今すぐ
100%
↓
選択肢2
25万円
1ヶ月後
80%
↓
選択する選択肢に○
9
6. 割引・期待効用関数
選択肢jの効用をVj(利得j、遅滞時間j、確率j) と置く。経済学では、通常、指数
関数型時間選好を持つ割引効用、確率に関する線形性を持つ期待効用を用
いる。
割引効用:exp(-t*遅滞時間j)*効用(利得j)
期待効用:確率j*効用(利得j)
以上から、Vjを書き直せば、
Vj(利得j、遅滞時間j、確率j)
=exp(- t*遅滞時間j)*確率j*効用(利得j)
となる。
10
6. 割引・期待効用関数
ここでは、効用を利得のr乗とおく。このような効用関数を相対的危険回避度
一定型と呼び、相対的危険回避度は1- rと定義される。
両辺の対数をとると、
lnVj(利得j、遅滞時間j、確率j)=- t*遅滞時間j+ln確率j+ r *ln利得j
を得る。
不忍耐とは時間選好率tが正であり、近視眼的であればあるほど、 tは大きく
なる。危険回避的とは相対危険回避度1- rが[0,1]であることであり、危険回避
的であればあるほど、 1- rは大きくなる。
11
7. ミックスド・ロジット(ML)・モデル
従属変数が離散的な場合の手法として標準的な条件付ロジット(CL)・モデル
では、誤差項が独立かつ同一に分布すること(IID)を仮定するために、経済
分析上制約的な無関係な選択肢からの独立性(IIA)が課されてしまう。そこで、
我々は、IIA仮定を緩和したミックスド・ロジット(ML)・モデルを用い、個人間の
選好の多様性、制約されない需要代替パターンを表現する。
MLモデルでは、係数βが分布を持つと仮定し、CLモデルの選択確率をβの
分布に関して積分した形で表現される。CLモデルの選択確率Lniは、各説明
変数のパラメータをβ、個人nが選択肢iから得る効用のうち観察可能な部分
をVni、選択肢の数をJとすると、
Lni ( β ) = exp(V ni ( β )) / ∑ j =1 exp(V nj ( β ))
J
となる。
MLモデルの関数型はβの密度関数をf(β)とおくと、
Pni =
となる。
∫
J
⎡ exp(V ( β )) /
⎤ f ( β )d β
exp(V
(
β
))
∑
ni
nj
j =1
⎢⎣
⎥⎦
12
7. ミックスド・ロジット(ML)・モデル
効用関数は、選択肢jの観察された変数をxniとzni、αを固定された係数、μを
平均0の誤差項、εni をIIDの極値分布を持つ誤差項とすると、
U ni = α ' x ni + μ ' z ni + ε ni
となる。ここでは、効用関数はパラメータに関して線形(Linear-in-Parameter)
であると仮定している。
MLモデルは、解析的に解くことができないため、シミュレーションを用いるβ
がf(β|θ)という分布を持つ場合、分布から引き出されたβをβ’と書くことにし、
ドローの回数をRとする。
f(β|θ)からβ’のドローを行うことで、そのβ’のもとでの標準ロジット・モデル
の選択確率Lni(β)を計算できる。このシミュレートされた確率の平均値は、
R
ˆ
Pni = 1 / R ∑ r =1 Lni ( β r )
となり、真の確率Pniの不偏推定量となる。
13
7. ミックスド・ロジット(ML)・モデル
シミュレートされた対数尤度関数(SLL)は、当該選択肢が選択された場合に
1、選択されていない場合に0をとるインジケータ関数dniを利用して、
SLL= ∑ n=1 ∑ j =1 d ni ln Pˆnj
N
J
となる。このシミュレートされた対数尤度関数の最大値を与えるθがシミュ
レートされた最尤推定量となる。
MLモデルでは、ベイズの定理に基づいて、実際の選択データをもとに、個人
レベル別にパラメータの条件付分布の計算を行うことができる。回答者nの選
択プロファイルynを所与としたβの事後確率分布は、
h( β | yn ) =
P(yn | β ) f ( β )
∫ P(y
n
| β ) f ( β )d β
となる。
14
7. ミックスド・ロジット(ML)・モデル
実際のMLモデルの推定では、2つのパラメータが正規分布に従うようにする
ことで、選好の多様性が表現可能になる。シミュレートされた最尤(Maximum
Simulated Likelihood)法で推定を行い、100回のハルトン・ドローを用いた。
回答者に8回繰返し質問するためデータをパネル・データとして見なしてラン
ダム・イフェクト分析を用い、パラメータのドローが8回繰返し利用されると仮
定する。
MLモデルの推定で用いる変数は、次の通りである。
ランダム・パラメータ
TIME= -t (∴時間選好率は-TIME)
RISK=r (∴相対的危険回避度は1-RISK)
15
8. 記述統計
全喫煙者 高度喫煙者(H) 中度喫煙者(M) 低度喫煙者(L) 全非喫煙者 生涯非喫煙
選択肢1の選択率
遅滞時間(月)
確率(ln確率)
利得(ln万円)
過去喫煙
64.1%
63.9%
63.6%
64.9%
64.1%
63.6%
64.5%
サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値
10.232
9.972
10.311
10.384
11.011
10.941
11.078
-0.232
-0.243
-0.235
-0.221
-0.228
-0.228
-0.227
12.370
12.371
12.373
12.366
12.355
12.350
12.361
注:サンプル平均値は選択された選択肢2のもの
16
9. 喫煙行動別推定結果
推定結果には、ランダム・パラメータが正規分布することを仮定
し、パラメータ毎に平均と標準偏差が出力される。
さらに、推定結果は全喫煙者(高度喫煙者、中度喫煙者、低度
喫煙者)、全非喫煙者(生涯非喫煙者、過去喫煙者)の別に掲載
されている。
全喫煙者
高度喫煙者(H)
Sample No.
3232
1000
LL Max
-1664.532
-512.547
LL(0)
-2240.2517
-693.1472
Pseudo R2
0.257
0.261
Coeff./S.E.
Coeff./S.E.
TIME(MEAN)
RISK(MEAN)
TIME(S.D.)
RISK(S.D.)
-0.0664
0.0068
0.9104
0.0714
0.0398
0.0061
0.3030
0.1622
***
***
***
*
-0.0693
0.0133
0.9557
0.1408
0.0388
0.0121
0.5526
0.2003
中度喫煙者(M)
低度喫煙者(L)
全非喫煙者
生涯非喫煙者
過去喫煙者
TIME:平均値は全てt値が統計的に有意である。標準偏差は過
1016
1216
2304
1112
1192
去喫煙者を除いてt値が統計的に有意である。
-525.702
-624.071
-1220.735
-587.972
-630.015
RISK:平均値は全てt値が統計的に有意である。標準偏差は低度
-704.238
-842.867
-1597.011
-770.780
-826.231
喫煙者と過去喫煙者を除いて少なくとも10%水準でt値が統計的
0.254
0.260
0.236
0.237
0.237
に有意である。
Coeff./S.E.
***
***
***
***
-0.0611
0.0115
0.9230
0.1295
0.0347
0.0110
0.4028
0.2405
注:上段は推定値、下段は標準誤差。***1%水準有意、**5%水準有意、*10%水準有意。
Coeff./S.E.
***
***
***
*
-0.0669
0.0105
0.8496
0.1102
0.0423
0.0091
Coeff./S.E.
***
***
***
-0.0447
0.0054
0.6999
0.0785
0.0222
0.0062
0.0442
0.4203
0.2793
0.1476
Coeff./S.E.
***
***
***
***
-0.0516
0.0084
0.7619
0.1076
0.0321
0.0082
Coeff./S.E.
***
***
***
-0.0390
***
0.0064
0.6461
***
0.1152
0.0126
0.0103
0.0288
0.6368
0.3312
0.1533
***
17
10. 喫煙習慣の別に見る時間選好率、相対的危険回避度
時間選好率(/月)
相対的危険回避度
全喫煙者
0.0664
0.0896
高度喫煙者 中度喫煙者 低度喫煙者 全非喫煙者 生涯非喫煙者 過去喫煙者
0.0693
0.0611
0.0669
0.0447
0.0516
0.0390
0.0443
0.0770
0.1504
0.3001
0.2381
0.3539
時間選好率
・ 喫煙者全体の方が、非喫煙者全体よりも、時間選好率が高い。
・ 喫煙者の中では、高度喫煙者が一番時間選好率が高い。
・ 非喫煙者の中では、過去喫煙者の方が、生涯非喫煙者よりも、時間選好
率が低い。
相対的危険回避度
・ 喫煙者全体の方が、非喫煙者全体よりも、危険愛好的である(ただし、双
方とも、相対危険回避度は危険回避的範疇に分類) 。
・ 喫煙者の中では、高度喫煙者が一番危険愛好的である。
・ 非喫煙者の中では、過去喫煙者の方が、生涯非喫煙者よりも、危険回避
的である。
18
11. 喫煙習慣の別に見る選好の同一性テスト
全喫煙者 対 全非喫煙者
喫煙者内(高度喫煙者 対 中度喫煙者 対 低度喫煙者)
非喫煙者内(生涯非喫煙者 対 過去喫煙者)
注:臨界値はχ2(d.f.=4,p=0.05)
検定統計量
15.851
4.424
5.496
臨界値
9.488
9.488
9.488
結果
選好同一性は棄却できる
選好同一性は棄却できない
選好同一性は棄却できない
・ 全喫煙者と全非喫煙者の間では、時間選好率と危険回避度のような選好
には、統計的に有意な差異が存在する。
・ 喫煙者の中では、喫煙依存度の高低の別で、時間選好率や危険回避度
のような選好には、統計的に有意な差異が存在するとまでは言えない。
・ 非喫煙者の中では、過去喫煙の有無の別で、時間選好率や危険回避度
のような選好には、統計的に有意な差異が存在するとまでは言えない。
・ 従って、時間選好率と危険回避度のような選好に影響を与えるのは、現在
喫煙の有無である。
• ただし、ここで検証された現在喫煙者と現在非喫煙者の選好の差が喫煙
の原因なのか、結果なのか、別の真因が存在するのか、さらなる分析が
19
必要である。
0.110
0.105
0.100
0.095
0.090
0.085
0.080
時間選好率
非喫煙者
140
120
100
80
60
40
20
0
時間選好率
20
0.80
0.75
0.70
0.65
0.60
0.55
0.50
0.45
0.40
0.35
0.30
0.25
0.20
0.15
0.10
0.05
喫煙者
0.00
-0.05
-0.10
-0.15
-0.20
-0.25
-0.30
-0.35
-0.40
-0.45
-0.50
-0.55
-0.60
• MLモデルを用いて、パラメ
ータを正規分布させている。
• 全喫煙者、全非喫煙者、
TIMEとRISKの標準偏差は統
計的に有意である。
0.075
0.070
0.065
0.060
0.055
0.050
0.045
0.040
喫煙者
0.035
0.030
0.025
0.020
0.015
0.010
0.005
0.000
-0.005
-0.010
-0.015
-0.020
-0.025
12. 個人レベル別選好パラメータの条件付分布表
相対危険回避度
非喫煙者
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
相対危険回避度
• ここでは、TIME、RISKの
条件付パラメータ分布を掲
載している。
• こうした選好には個人間
多様性が非常に大きい。
13. 条件付パラメータの喫煙習慣、性別比較
条件付パラメータの分布をもとに、喫煙習慣の別、男女の別に、
喫煙者
非喫煙者
時間選好率、相対危険回避度の平均値の差を検定した。
時間選好率(/月)
相対的危険回避度
男性
女性
男性
女性
平均 先ず、喫煙者の男女の選好の差であるが、Welch-tテストの結
0.0668
0.0652
0.0435
0.0454
標準偏差果、時間選好率に関して、平均値の差は存在するとは言えな
0.0240
0.0256
0.0118
0.0098
い。
平均 他方で、非喫煙者の男女の選好の差であるが、
0.0813
0.1042
0.2975
0.3115
Welch-tテスト
標準偏差の結果、時間選好率、相対危険回避度の平均値の差は存在
0.0859
0.0752
0.1607
0.1616
するとは言えない。
Welch-t value
p value
時間選好率(/月)
0.5500
0.5820
喫煙者: 男性 対 女性
相対的危険回避度
2.5520
0.0110
次に、喫煙者、非喫煙者の選好の差であるが、
Welch-tテスト
の結果、男性、女性共に、時間選好率、相対危険回避度の平
時間選好率(/月)
1.4370
0.1510
非喫煙者: 男性 対 女性 均値の差が存在すると言える。
相対的危険回避度
0.7390
0.4600
時間選好率(/月)
13.7415
0.0000
男性: 喫煙者 対 非喫煙者
相対的危険回避度
15.1068
0.0000
時間選好率(/月)
7.4194
0.0000
女性: 喫煙者 対 非喫煙者
相対的危険回避度
13.4714
0.0000
以上から、選好の差と強く関係しているのは、性別の差ではな
く、喫煙習慣の有無であることが判った。
21
FIN
22
付録1 習慣的行動の相互依存関係の分析
4つの習慣的行動の相互依存関係を測定する。
•
喫煙
•
飲酒
•
パチンコ
•
競馬
実証方法:
第一段階:MLモデルを用いた時間選好率、危険回避度の測定
第二段階:行動間の内生生を考慮した2段階プロビット・モデルによる測定
1. 誘導型を外生変数についてプロビット推定し、予測確率を求める。
2. 予測確率を行動変数の代理変数として、構造型をプロビット推定する。
期待される結論:
1. 4つの習慣的行動の相互依存関係の有無、強度はどうか。
2. 時間選好率、危険回避度など個人属性の影響はどうか。
23
喫煙と飲酒の間には、高度に有
意な正の相互作用が存在する。
.321 ***
-TIME 1.027 ***
1-RISK -.685 ***
AGE -.205 **
TOBACCO
-TIME -.518 ***
1-RISK .550 ***
AGE .535 ***
ALCOHOL
.175 ***
喫煙とパチンコの間には、弱いが有
意な正の相互作用が存在する。
.200 *
-TIME .444 ***
1-RISK -.300 ***
GENDER -.331 ***
AGE -.368 ***
.090 **
-.218 ***
.180 *
.294 ***
飲酒と競馬の間には、弱いが有意な
.403 ***
正の相互作用が存在する。
PACHINKO
HORSE RACING
.706 ***
-TIME .717 ***
1-RISK -.441 ***
GENDER -.675 ***
AGE -.561 ***
Note1: *** significant at the 1% level, ** significant at the 5% level, * significant at the 10% level.
パチンコと競馬の間にも、高度に
喫煙と競馬、飲酒とパチンコには相互作
Note2: Figures
are elasticities.
有意な正の相互作用が存在する。
用があるとは言えない。
Note3: The
interaction from tobacco to horse racing and the effects of time and risk preferences
on alcohol are statistically significant but of unexpected signs.
時間選好率、危険回避度は、喫煙、パチ
ンコ、競馬に、予想通りの影響を与える。
24