vol.31

2014 年
監 修/東海大学医学部専門診療学系皮膚科学
責任編集/福岡大学医学部皮膚科学教室 編 集/高木皮膚科診療所 東海大学医学部専門診療学系皮膚科学
三重大学大学院医学系研究科皮膚科学
教 授
教 授
院 長
准教授
准教授
小澤
今福
高橋
馬渕
山中
明
信一
英俊
智生
恵一
先生
先生
先生
先生
先生
Promising Leader's Research in Psoriasis
PET/CT による無症候性関節症性乾癬患者の検出と
その臨床的特徴について
−日本人乾癬患者における PsA 移行の予測因子は何か?−
髙田 智也
高知大学医学部皮膚科学講座 助教 先生
特別企画
乾癬の治療、今考えること
福岡大学医学部皮膚科学教室 教授 今福 信一
Academic Meetings on Psoriasis
先生
馬渕 智生 先生
東海大学医学部専門診療学系皮膚科学 准教授 Report
Information
第18回 大韓乾癬学会
第78回 日本皮膚科学会東部支部学術大会
第65回 日本皮膚科学会中部支部学術大会
第66回 日本皮膚科学会西部支部学術大会
第44回 日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会総会学術大会
日本研究皮膚科学会 第39回年次学術大会・総会
vol.
31
Promising Leader's Research in Psoriasis
PET/CT による無症候性関節症性乾癬患者の
検出とその臨床的特徴について
−日本人乾癬患者における PsA 移行の予測因子は何か?−
髙田 智也 先生
高知大学医学部皮膚科学講座 助教 全身治療を行っていない PsV 患者 1 6 名中、6名(3 7.5%)に
研究の意義と位置づけ
関節症性乾癬(psoriatic arthritis:PsA)は、乾癬患者に、
リウマチ因子陰性の関節炎や指趾炎、腱鞘炎などが生じる疾患
である。その発症頻度は報告により多少異なっており、海外で
は乾癬患者全体の15%程度1)、国内では7%程度 2)と想定され
ている。PsAはそのほとんどが尋常性乾癬(psoriasis vulgaris :
PsV)からの移行であり、PsAの早期発見における皮膚科医
の役割は大きい。PsAの診断にはClASsification criteria for
Psoriatic ARthritis(CASPAR)の診断基準が用いられること
が多いが、この基準では大前提として現在関節炎を有すること
が必須項目となっており、自覚症状のない早期のPsA(無症候
性PsA)はこの診断基準ではPsAと診断することができない。
以前よりこれらの無症候性PsAの早期診断には種々の画像検査
(超音波・MRI・骨シンチグラフィー等)が有効であると報告さ
れており、高知大学ではFluorodeoxyglucose positron emission
tomography/computed tomography(FDG-PET/CT)を 用 い て
乾癬患者の関節炎の評価を行っている。PET/CTは症状のあ
る症候性関節炎のみでなく無症候性関節炎の検出が可能であり
(図1)、さらにFDGの集積パターンから滑膜炎と付着部炎の
(図2)。
鑑別も可能である 3)
おいて無症候性付着部炎が認められ、罹患関節部位としては
股関節周囲(5 0%)が最も多く、次いで四肢末端関節(3 3%)
で あ っ た。 ま た PsA の 臨 床 的 予 測 因 子 と さ れ る 爪・ 頭 部・
臀部乾癬の合併率は無症候性 PsA 患者群でそれぞれ 6 6.7%、
1 0 0%、8 3.3% であり、PsV 患者群(3 0%、7 0%、3 0%)に比べ、
高い傾向が認められた。一方、血液検査による炎症反応に関
しては無症候性PsA患者とPsV患者群で差は見られなかった。
今後、無症候性PsA患者が、FDG集積のないPsV患者とどの
ような相違点があるかを検討することで、日本人乾癬患者にお
けるPsA移行の高リスク群の特徴を明らかにしたい。
ゴールまでに残された課題
日本人の無症候性PsA患者における臨床的・血液学的特徴を
解析することで、PsVからPsAへの移行の予測因子を解明した
いと考えている。その結果は、どのような乾癬患者において早
期からの関節炎の検索が必要かの判断を可能にすると考える。
関節リウマチと比べ、関節炎の自然軽快も多い PsA におい
ては PET/CT で検出した無症候性関節炎が、症状として出現
せず消失する場合も想定される。そのため、無症候性 PsA 患
者の経時的かつ長期的な臨床的・画像的観察が必要であり、
さらにPsA へ移行する群とPsA を発症しない群での違いにつ
研究により得られた成果
いての解析も重要な課題と考える。
現在、我々は PET/CT で検出し得た無症候性 PsA 患者の臨
床的・血液学的特徴について解析を行っている。その結果、
図 1 PET/CTによる症候性/無症候性関節炎の検出
両膝関節の症候性関節炎
1)Radtke MA, et al. : J Eur Acad Dermatol Venereol. 2009 ; 23(6): 683-691.
2)森田明理 : 皮膚病診療 2014 ; 36(4): 290-296.
3)Takata T, et al. : J Dermatol Sci. 2011 ; 64(2): 144-147.
図 2 PET/CTによる滑膜炎と付着部炎の鑑別
左膝関節の滑膜炎
(関節リウマチ)
左腸骨稜の無症候性付着部炎
PET画像による全身の
関節炎の検出
PsA患者の代表的PET/CT画像
左膝関節の付着部炎
(PsA)
特別企画
乾癬の治療、今考えること
福岡大学医学部皮膚科学教室 教授
皮膚科医として毎日診療していると、いろいろなことに気
がつく。乾癬という病気を特徴付ける最も大きな要素は、正
常な皮膚と病変部の境界が極めて明瞭で、罹患していない皮
膚は健常である点だと思われる。そして、乾癬の局面は「縮ん
で」治る(図)。湿疹の局面のように全体が「色褪せて」変化す
るのではなく、大型の局面がいくつかの小さな局面に別れて
いって、ちょうど日本庭園の飛び石のようになってから消失
していく。勝手にstep stone appearance と名付けているこの
現象も、その他の皮膚疾患には見られない極めて乾癬に特異
度の高い所見である。
外用療法による色素沈着と皮疹の再発
さて、外用治療をすると色素沈着の中に飛び石状の局面が残
る。では一見治ったような色素沈着面は一体どうなっている
のか。研究によると、少なくとも外用1ヵ月で治ったように見
える局面もまだ健常な皮膚にはなっていないようである。そ
して局面型の乾癬の再発は、殆どの場合にこの色素沈着の範囲
内に再び飛び石として生じてきて、既存の病変がなかった部分
(色素沈着外)には見られにくい。つまり、乾癬の病変は普遍的
な皮膚の病気ではなく、限局性のクローナルな病変で、同部の
皮膚が背負う性質だとも考えられる。あちこちの部分に生じ
る蕁麻疹やその他のrashとは全く異なるのである。われわれ
は色素沈着部位にビタミンD3 を外用し続けると再発を抑制で
きることを見出した(論文投稿中)。
乾癬とメタボリック症候群
一方で、乾癬は 2 0 代以後の肥満の男性に多く発症しやすく、
メタボリック症候群と極めて深い関係がある。メタボリック
症候群の本質は肥満だが、この肥満も TNF-αをはじめとし
た炎症性サイトカインが、肥大化した脂肪組織で慢性に作ら
れる病態であることが解明された。乾癬は、持って生まれた
炎症を起こしやすい性質 and/or 肥満という慢性炎症に基づく
病態で、いつも CRP が高く「無差別な(選択的ではない)」炎
症性の全身疾患であると思われる。
乾癬患者の発症背景因子
われわれの教室では乾癬患者を全例登録していて、現在そ
の数は 9 0 0 例を超える。大きな集計で見ると重要な「病態」は
積算されて浮き彫りになり、逆にそうでないものは「個体差」
としてノイズの中に消える。2 0 0 例を超えると傾向は殆ど変
わらず、大きな数は嘘をつかず、直感が正しいかどうかを裏付
けてくれることを学んだ。集計結果から、男女比、身長体重、
IgG や抗核抗体、リンパ腫の発生頻度などを考えると、乾癬に
は獲得免疫(T 細胞や B 細胞)が関与している証拠がどこから
も出てこないと教えてくれる。現在、獲得免疫の関与がはっ
きりしているリウマチや SLE などの疾患は、いずれも女性に
図
今福 信一 先生
乾癬における局面の変化
治療前
治療後
多く、肥満を合併せず、γグロブリン量が増加して、自己抗体、
免疫複合体などが出現し、B 細胞性リンパ腫の発症頻度が高
い。これは特定の T/B 細胞クローンが起こしている疾患で
あることを物語る。しかし、乾癬はこのどの性質も有しない。
現在は Th1 7 仮説が有力であるが、われわれの統計は、乾癬に
はリンパ球は関係なく、単に好中球が暴走しやすい自然免疫
の疾患であると言いたげに見える。そして、IL-1 7 や IL-2 3
は案外と好中球の大事な「餌」であり、これを潰すから乾癬が
よくなるだけかもしれない。これは抗 IL-1 7 抗体がリウマチ
に効かないこととも符合する。
乾癬の治療方針
さて、本題の乾癬の治療である。乾癬は全身性の炎症性疾
患である。と同時に皮膚病変は明瞭に限局して生じる。外用
治療で色素沈着が残るのは、その部分のクローナルな性質が
残存しているからだろうか。一方、生物学的製剤で寛解する
ときには色素沈着を残さず、全く普通の皮膚として寛解する
場合も多い。これは乾癬の内因である無差別な炎症性の性質
を裏側から消してしまうからだと思われる。減量すると乾癬
が改善することは多く証明されていて、メタボリック症候群
を伴う患者で目指すべきはまず減量であると思われる。
しかし、乾癬は innate な「無差別」な炎症であり、基本的に
治らない。当科の集計では、治癒した患者を顧みると、急性
発症してきた滴状乾癬の病型か、典型的な乾癬でないもので
あった。したがって、私は患者には乾癬は治らないと説明す
る。乾癬の病態をよく理解することで「現実的な夢」を描いて
あげるのが、生身の人間の医師の仕事であると信じているか
らである。患者が歩むのがたとえ足元が険しい断崖の道でも、
遠くを見渡して一緒に手を引いてあげれば不安は少ないだろ
う。道程(病態・経過)を理解し、具体的な足元(治療)に習熟
することで、険しい道も患者は安心して歩き、何事もなかった
かのように死ねる、「上善水が如し」の医療を目標に研鑽して
いきたいと思っている。
Academic Meetings on Psoriasis
東海大学医学部専門診療学系皮膚科学 准教授 馬渕
智生 先生
Report
第18回大韓乾癬学会
The 18th Annual Meeting The Korean Society for Psoriasis
(会長:Prof. Joo-Heung Lee / Bear-Hall、ソウル、韓国/ 2014年 9 月13日)
隣国、韓国ソウルでも大韓乾癬学会の年次総会が開催された。会期は 1 日で会場も 1 会場であるが、海外からの演者を招待しての特別講
演、教育講演、一般演題と濃い内容の学会が毎年開催されている。今年は、信州大学の奥山隆平教授が「Complication of keratinocyte
regulation in psoriasis」というテーマで特別講演された。また、退官講演と銘打たれ大韓乾癬学会名誉会員である東海大学の小澤明教授
が「The Korean Society for Psoriasis & me」というテーマで講演された。
韓国では、口演言語はハングル語(外国人は英語で可)であるがスライドはすべて英語で作成されている。英文成書・教科書を使用して医
学教育されているためである。そのため、われわれ日本人でも発表内容を理解することが可能である。大韓乾癬学会は日本からの演題応募
を歓迎してくださっているので、興味を持たれた方は、ぜひ参加・発表をご検討いただきたい。
Information
第78回
日本皮膚科学会東部支部学術大会
[会場]ホテル青森、青森県青森市
[日時]2014年10月 4 日 ( 土 ) ~5 日 ( 日 )
[URL]http://www.cs-oto.com/east78/
第66回
日本皮膚科学会西部支部学術大会
[会場]アルファあなぶきホール、香川県高松市
[日時]2014年11月 8 日 ( 土 ) ~9 日 ( 日 )
[URL]http://www.cs-oto.com/wjda66/
会 長:弘前大学大学院医学研究科皮膚科学講座
教授 澤村 大輔 先生
事務局長:弘前大学大学院医学研究科皮膚科学講座
准教授 中野 創 先生 ■シンポジウム3
【分子標的薬と皮膚科診療】
座長:山梨大学医学部皮膚科学講座 教授 島田 眞路 先生
浜松医科大学皮膚科学講座 教授 戸倉 新樹 先生
演者:高木皮膚科診療所 院長 高橋 英俊 先生
「乾癬における生物学的製剤-各製剤の特徴とその使い分け-」
第65回
日本皮膚科学会中部支部学術大会
[会場]ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター、
大阪府大阪市
[日時]2014年10月25日 ( 土 ) ~ 26日 ( 日 )
[URL]http://www.jdac2014.jp/
会 長:関西医科大学皮膚科学教室 教授 岡本 祐之 先生
事務局長:関西医科大学皮膚科学教室 病院准教授 水野 可魚 先生 会 長:香川大学医学部皮膚科学教室 教授 窪田 泰夫 先生
事務局長:香川大学医学部皮膚科学教室 学内講師 森上 徹也 先生 第44回 日本皮膚アレルギー・
接触皮膚炎学会総会学術大会
[会場]仙台国際センター、宮城県仙台市
[日時]2014年11月21日 ( 金 ) ~ 23日 ( 日 )
[URL]http://jsdacd44.jp/
会 長:東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野 教授 相場 節也 先生
事務局長:東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野 准教授 山﨑 研志 先生
日本研究皮膚科学会
第39回年次学術大会・総会
[会場]ホテル阪急エキスポパーク、大阪府吹田市
[日時]2014年12月12日 ( 金 ) ~ 14日 ( 日 )
[URL]http://www.cs-oto.com/jsid39/
会 頭:大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学教室 教授 片山 一朗 先生
事務局長:大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学教室 准教授 室田 浩之 先生
10月29日は世界乾癬デーです〈 World Psoriasis Day 29 October〉
乾癬情報提供冊子『Psoriasis』バックナンバー
Vol.
責任編集
27
今福 信一 先生
(福岡大学)
28
高橋 英俊 先生
(旭 川医大)
29
山中 恵一 先生
(三重大学)
30
馬渕 智生 先生
(東 海大学)
31
今福 信一 先生
(福岡大学)
Promising Leader's Research in Psoriasis と Special Information for Calcipotriol※ のテーマ
『抗菌ペプチドLL-37 は乾癬における角化細胞のToll 様受容体9の発現と機能を増強する』
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科皮膚科学分野 助教 森実 真 先生
『米国における乾癬の組み合わせ療法』
『尋常性乾癬を伴わない汎発性膿疱性乾癬の大半はIL-36 受容体阻害因子欠損症(DITRA)であるー汎発性膿疱性乾癬の疾患概念のパラダイムシフトー』
名古屋大学大学院医学系研究科 皮膚病態学分野 准教授 杉浦 一充 先生
『保湿剤あるいはカルシポトリオールの使用がNB-UVB光線療法中の紫外線照射に対する皮膚感受性に与える影響 無作為化二重盲検ネガティブコントロール・パイロットスタディー』
『転写因子 PTTG1は表皮角化細胞における TNF-αの産生を促進し、尋常性乾癬の表皮バリア不全に関与する』
筑波大学医学医療系皮膚科 講師 古田 淳一 先生
『局在性慢性尋常性乾癬の治療における非レーザー、ターゲット型UVB光線療法単独および
ソラレンゲルまたはカルシポトリオール軟膏との併用の有効性および安全性』
『カルシポトリオールのIL-17A/IL-22刺激時に正常ヒト表皮角化細胞より産生されるcathelicidin antimicrobial peptide に対する影響』
浜松医科大学医学部皮膚科学講座 特任助教 坂部 純一 先生
『難治性の尋常性乾癬に対する外用療法の工夫
ーステロイドローションとビタミンD 3軟膏との1日1回併用療法の有用性ー』
『PET/CTによる無症候性関節症性乾癬患者の検出とその臨床的特徴について−日本人乾癬患者におけるPsA移行の予測因子は何か?−』
高知大学医学部皮膚科学講座 助教 髙田 智也 先生
特別企画 『乾癬の治療、今考えること』
福岡大学医学部皮膚科学教室 教授 今福 信一 先生
※ 各号の責任編集の先生による文献抄訳/要約
2014 年 9 月作成
GT9-1409P
DOV TC 038A