食品安全への取組状況別でみた FSSC22000 認証取得ポイント はじめに 「今、食品業界で注目の「FSSC22000」とは」 (平成 23 年 7 月 26 日総合インフォ ーメーション掲載)ではFSSC22000がなぜ注目を浴びているのかを、業界構造からみて きました。今回は、実際にFSSC22000の認証取得活動に向けて、具体的にどのような活 動をしていくべきかを考察していきたいと思います。 FSSC22000の大きな特徴は、 ①ISO22000:2005とPAS220:2008を組み合わせた規格であること ②「食品安全を向上させて消費者の信頼を向上させるためのグローバルな食品安全規格の統一」 を目標の1つとして掲げて発足したGFSIが承認した規格であること になります。したがって、FSSC22000を取得するためにはISO22000の要求事項 とPAS220の要求事項を満たすことが求められます。 しかし、食品業界では、これまでにHACCPをはじめとする多くの食品安全規格が発行され ており、すでに何らかの食品安全マネジメントシステムを持っているのが一般的です。ここでは、 便宜上、 1.HACCP手法のみを取り入れている企業 2.ISO9001(品質管理マネジメントシステム)のみを取り入れている企業 3.ISO22000を取得している企業 4.特に食品安全マネジメントシステムを持たない企業 に分けて考察していきたいと思います。 1.HACCP手法のみを取り入れている企業 HACCPは、1990年代中盤のO157食中毒事件を契機に日本でも急速に注目された手 法です。 “製造工程を分析し、各工程で予想されるハザードを抽出、特に重要なポイントを管理す る”という手法は、最終検品による安全性の確保が主流であった従前の手法に革新を起こしまし た。この手法は食品安全確保にあたって普遍的に有効なものだと考えます。また、1995年の 食品衛生法の改正を機に、総合衛生管理製造過程の承認制度に組み入れられるようになり、先進 的な取組みをする工場のほとんどがこの手法を取り入れることになりました。 しかし、2000年代に入るとHACCP手法を採用している工場なのに安全性に問題のある 製品が製造されたり、産地や消費期限が偽装されるという問題が生じてきました。これはHAC CP手法に欠陥があったのではなく、その運用の方法に問題があったためです。HACCP手法 は、その前提として衛生環境を整える必要があり、これがないと十分な機能を発揮しません。ま た、そこで働く人の衛生管理、企業のモラルなどはHACCP手法ではどうしても管理しきれな い部分がありました。このことは、今後FSSC22000に取り組む際にも大きな参考となり 1 ます。HACCP手法を採用している企業は、すでにISO22000の要求事項の大半を満た しているといえます。欠けているのは、HACCPシステムが最大限の効果を上げられるように するための一般衛生管理システムと、これらを効果的に運用するマネジメントシステムなのです。 そこで、これらを整備するとともに、既存のHACCPシステムをブラッシュアップし、システ ムに組み込むこと必要となります。 2.ISO9001(品質管理マネジメントシステム)を取得している企業 ISO9001の目的は、顧客の要求を満足する製品を製造しつづけるシステムを構築するこ とですが、食品製造業の場合、顧客の要求事項の中に当然「安全」が含まれています。また、製 品実現の項目は工程管理の発想に基づいていますので、HACCP手法ほど技術的なものではな いにしても、ある程度の危害管理を行っているといえます。企業によってはISO9001の製 品実現の項目にうまくHACCP手法を組み合わせたシステムを構築しているところもあります。 また、ISO9001は汎用性の高い規格であるため、同じISO9001を取得している企業 でも内容には差があります。いいかえれば、自社の現状に最も適したシステムになっているので す。そこで、まず見直すべきなのは、一般衛生管理のシステムが現在の食品工場に求められる水 準であるか、すなわちPAS220の基準を満たしているかを確認します。次に、HACCP手 法がどれくらい浸透しているかを見ていきます。この場合、具体的なHACCP文書の有無では なく、フローダイアグラムや工程分析を行っているか、危害をどの程度予測しているか、また、 危害原因物質を除去する工程を管理しているか(加熱殺菌や金属探知機による異物除去等)とい うようなHACCP手法を構築できる土台がどの程度できているかを確認します。その上でHA CCPの原則に基いてシステムを構築していくことになります。 3.ISO22000を取得している企業 ISO22000は、ISOの中では新しい規格であり、FSSC22000の大半を構成し ています。このため、更新審査の際にPAS220の要求事項を確認することによって比較的容 易にFSSC22000に移行することが可能です。しかし、建物の構造や立地条件、工程の問 題から必ずしも要求項目を満たすことができないものが出てくることが予想されます。しかし、 PAS220は適用除外が認められていること、危害混入防止の指針は示されていても、その管 理手段や程度は各企業に任されているものが多いことから、工夫によっては対応策を講じること は可能です。必要以上にPAS220を難しいものと捉えずに、むしろ食品を製造する工場にと って当たり前の規格と考えて取り組むとよいと思います。 (PAS220への対応は機会を改めて 解説したいと思います) 4.特に食品安全マネジメントシステムを持たない企業 これまで特に食品安全マネジメントシステムを構築していなかった企業は、工場の築年数がか なり経っている、顧客から取得を推奨されたことがなかったなどの理由により、取得を見合わせ ていたのではないかと考えます。しかし、工場の建て替えや新ラインを設置した場合、または世 代交代による新管理体制を構築した場合には、作業環境や条件が全く異なってきます。それに伴 い顧客の注目度や要求水準も異なってくるので、このような機会に取得を検討される企業が多い 2 です。新たに習得するものが多いという負担はあるものの、HACCP手法や食品安全マネジメ ントシステムは、日々変化を続けているものであり、従来の慣習や思い込みが少ない分、形骸化 した文書作成のような弊害を被ることもなく、素直に浸透していくのではないかと思います。ま た、食品工場である以上、SSOP(衛生標準作業手順)や、そのような名称でなくても何らか の食品安全の基準が存在していると思います。これらを活かしつつ再構成や補完をしていくこと で、単に工場や設備を新しくするだけでなく、従業員の意識や社風を変えることも可能になるの ではないかと考えます。 おわりに 【FSSC22000取得に際して新たに取り組むもの】 PAS220に準拠 HACCPシステ マネジメントシ した一般衛生管 ム ステム 理 ①HACCP手法のみを取り入れている企業 ● ②ISO9001(品質管理マネジメントシステム)を取得してい る企業 ● ③ISO22000を取得している企業 ● ④特に食品安全マネジメントシステムを持たない企業 ● ● ● ● ● 食品製造工場は、扱っている製品や立地環境などによって条件が異なってきますが、共通して いえることは、 「どんなに施設や設備を充実させても食品である以上100%安全という言葉はな い」ということです。それは、自然界のものである以上、原材料の危険性が皆無ではない上に、 これに人の手が加わるからです。したがって、築年数や規模を必要以上に意識することなく、求 められる水準と自社の現状とのギャプを正確に把握し、水準に至らない部分を改善していけば食 品安全マネジメントシステムは構築できます。 平成 23 年 8 月 19 日(金) カムイブレインスコンサルタント㈱ チーフコンサルタント **************************************************** 育つ、自慢の社員・自慢のチーム カムイブレインスコンサルタント株式会社 〒432-8061 静岡県浜松市西区入野町 9745-1KSビル 202 号 Tel:053-415-1033 Fax:053-415-1034 URL:http://www.kamui-brains.com/ 3 浅田 泰晴
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