第35回日本リウマチ・関節外科学会シンポジウム ヒアルロン酸 と 再生医療 日時 2007年11月9日 (金) 会場 品川プリンスホテル アネックスタワー 座長 演 題・演 者 FGF2とデキサメタゾンは弾性軟骨細胞の ヒアルロン酸産生を増加させ軟骨形成を促す 関矢 一郎 先生 久保 俊一 先生 京都府立医科大学大学院医学研究科 運動器機能再生外科学 教授 石黒 直樹 先生 名古屋大学大学院医学系研究科 機能構築医学専攻運動・形態外科学 教授 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・軟骨再生学 准教授 ヒアルロン酸による関節組織の遺伝子発現変化 高橋 謙治 先生 京都府立医科大学大学院医学研究科運動器機能再生外科学 講師 機械的振動とヒアルロン酸が三次元培養軟骨細胞に与える影響 竹内 良平 先生 横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学 准教授 ヒト体性幹細胞の三次元培養組織に対する力学刺激と ヒアルロン酸による組織リモデリング、再生 中田 研 先生 大阪大学大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻器官制御外科学 講師 軟骨細胞ヒアルロン酸阻害モデルにおける回復過程解析 西田 佳弘 先生 名古屋大学大学院医学系研究科機能構築医学専攻運動・形態外科学 講師 共催:第35回日本リウマチ・関節外科学会/科研製薬株式会社/生化学工業株式会社 現 在ヒアルロン酸は、関節の痛みや炎症を和らげるための関節内 注射として広く用いられている。しかし、その生物学的効果につ いて、どこまで期待できるのか、それによって次世代の医療にどうつな げていくのかといった問題が残されており、これを本シンポジウムの主 題として据えた。 今回、再生医療に対して、ヒアルロン酸にはどのような役割があるの か、5人の演者に発表していただいた。 久保 俊一 先生 京都府立医科大学大学院医学研究科 運動器機能再生外科学 教授 石黒 直樹 先生 名古屋大学大学院医学系研究科 機能構築医学専攻運動・形態外科学 教授 演題・演者 p.2 FGF2とデキサメタゾンは弾性軟骨細胞のヒアルロン酸産生を増加させ軟骨形成を促す 関矢一郎 先生(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・軟骨再生学 准教授) p.3 ヒアルロン酸による関節組織の遺伝子発現変化 高橋謙治 先生(京都府立医科大学大学院医学研究科運動器機能再生外科学 講師) p.4 機械的振動とヒアルロン酸が三次元培養軟骨細胞に与える影響 竹内良平 先生(横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学 准教授) p.5 ヒト体性幹細胞の三次元培養組織に対する力学刺激とヒアルロン酸による組織リモデリング、再生 中田 研 先生(大阪大学大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻器官制御外科学 講師) p.6 軟骨細胞ヒアルロン酸阻害モデルにおける回復過程解析 西田佳弘 先生(名古屋大学大学院医学系研究科機能構築医学専攻運動・形態外科学 講師) 1 FGF2とデキサメタゾンは弾性軟骨細胞の ヒアルロン酸産生を増加させ軟骨形成を促す 関矢 一郎(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・軟骨再生学 准教授) 線維軟骨細胞をFGF2とヒドロコルチゾンを含有する培養液を用 軟骨細胞はHAS2とHAS3、特にHAS3を強く発現し、これがHA いて二次元培養すると、軟骨細胞が増殖し培養液がゲル化する。 合成に最も寄与していると考えられた。 この軟骨細胞を含むゲル状の培養液を鼻に注入すると弾性軟骨 が形成されると矢永らは報告している。 矢永式軟骨再生法の再現 しかし、この方法にはいくつかの不明な点が含まれる。すなわち、 矢永式軟骨再生法が再現されるかどうかを、再分化培地で弾性 ①ゲル化した培養液の主成分は何か、②このゲル状基質を産生す 軟骨細胞を培養して得られたゲル状培地をマウス皮下のポケットに る細胞は軟骨に再分化することによるものか、③弾性軟骨だけでは 移植し検討した。最初はゲル状だが、2週間後には軟骨様の硬さに なく、硝子軟骨細胞や間葉幹細胞を用いても培養液がゲル化する なり、 トルイジンブルーで紫に染まるような基質産生が認められた。4 のか、④他の軟骨分化を誘導するような培地を用いてもこのことが 週 間 後にはⅡ型コラーゲンを発 現し、8週目ではelastica van 可能かどうかである。これらのことを確かめるために、弾性軟骨細胞 Gieson染色陽性の弾性線維を認めた。8週間経過したものは、ポ (小耳症の副耳由来) 、硝子軟骨細胞(変形性膝関節症由来) 、 ジティブコントロール (弾性軟骨細胞) に劣らないような基質産生、染 滑膜幹細胞(前十字靭帯損傷で得られた滑膜由来) を使って検 色性を示した (図2) 。 討を行った。 これは培地内に豊富に産生された細胞外基質が軟骨細胞の散 逸を防ぐとともに、三次元環境を保持するscaffoldを形成したため ゲル化した培地の主体 と考えられる。HAに富む細胞外基質に包埋された軟骨細胞の移 いずれの細胞も形は紡錘形をしており、細胞の形に大きな違い 植は、骨格発生過程での間葉凝集に類似するとも考えられる。 はみられないが、3種類の培地における各細胞の培養の結果、弾 性軟骨細胞と再分化培地(DMEM10% FBSにデキサメタゾンと まとめ FGFを添加) の組み合わせが最も細胞増殖率が高く、細胞の重層 弾性軟骨細胞にFGF2とコルチコステロイ ドを作用させて得られ 化が顕著にみられた。 たゲル化した培地の主体はHAであった。一方、硝子軟骨細胞や コンドロイチン4硫酸およびコンドロイチン6硫酸濃度は、いずれの 間葉幹細胞を用いても培地はゲル化しなかった。三次元培養で軟 細胞でも再分化培地を用いると経時的に上昇傾向を示した。また、 骨分化を誘導する培地を用いて二次元培養しても、培養液のゲル 弾性軟骨細胞を再分化培地で培養すると、ヒアルロン酸(HA) が 化は起らなかった。 著明に産生されたが、硝子軟骨細胞、滑膜幹細胞のHA産生量 は、弾性軟骨細胞ほどではなかった (図1) 。 軟骨特異的な遺伝子の発現 RT-PCRを用いて軟骨特異的な遺伝子の発現を解析したとこ ろ、弾性軟骨細胞では、HA合成酵素のうちHAS1は発現せず、 HAS2とHAS3が発現していた。再分化培地で21日間培養すると、 HAS2のみの発現が維持され、軟骨関連遺伝子の発現から弾性 図1 図2 2 ヒアルロン酸による関節組織の遺伝子発現変化 高橋 謙治(京都府立医科大学大学院医学研究科運動器機能再生外科学 講師) 変形性膝関節症(膝OA) に対するヒアルロン酸(HA) の関節内 によるNO産生が抑制され、特に滑膜で有意に抑制された (図3) 。 注入療法に関しては、メタアナリシスにより、膝OAの症状を有意に 以上の結果から、HA治療効果のメカニズムの一因として、OA 改善することが明らかにされている。ここではHAの効果発現メカニ 軟骨細胞のアポトーシス抑制と滑膜および半月組織におけるNO産 ズム解明のために、ウサギ前十字靱帯切離(ACLT)OAモデルを 生抑制が考えられた。 用いて行った我々の研究を紹介する。 膝OA軟骨下骨由来骨芽細胞に対するHAの効果 MMP-3、TIMP-1、IL-1βの遺伝子発現に及ぼす影響 膝OAにおけるサイトカインやプロテアーゼの発現動態に関して ACLT OAモデルを用い、ACL切離後4週から分子量90万の は、関節軟骨あるいは滑膜において詳細に報告されているが、軟 HAを週1回、5週間、関節内に投与したところ、HA投与群では非 骨下骨においてはまだ十分ではない。我々は、膝OAの病態を解 投与群と比較して有意にOAグレードの進行が抑制されていた。そ 明するには、軟骨、滑膜と併せて軟骨下骨にも焦点をあてることが こで各OAグレードにおけるMMP-3 mRNAの発現を調べたところ、 重要と考え、膝OAの人工関節手術時に軟骨下骨と骨棘を採取、 滑膜ではOAが進行していない群 (グレード1、2) において、HA投与 単離した骨芽細胞をHA添加培養液中で培養し、HAのIL-6、 で発現が抑制された。なお、軟骨においてはHA投与による発現抑 MMP-13、RANKLなどの遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。 制は認められなかった。 その結果、IL-6の遺伝子発現は軟骨下骨、骨棘いずれにおい IL-1β mRNAの発現を調べたところ、MMP-3と同様にグレード てもHA添加により有意に抑制され、MMP-13の遺伝子発現は、 1および2において非投与群と比べてHA投与群でその発現が抑制 軟骨下骨においてHA投与により有意に抑制された。RANKLの されていた。一方、TIMP-1の発現については、滑膜・軟骨ともに 遺伝子発現は、HA投与により軟骨下骨、骨棘いずれにおいても 群間に差は認められなかった。 有意な変化はみられなかった。 以上のことから、HAの治療効果のメカニズムの一つとして、初期 以上はまだpreliminaryな研究ではあるが、HAの関節内投与が OA滑膜組織におけるMMP-3およびIL-1β遺伝子発現の抑制が 膝OA軟骨下骨にも作用する可能性を示している。 示唆された (図1) 。 図2 アポトーシスおよびNO産生に及ぼす影響 同モデルを用いて、OA関節軟骨のアポトーシスおよび一酸化窒 素 (NO) 産生に及ぼすHAの影響について検討したところ、肉眼的 なOAグレードはHA投与群、PBS投与群、非投与群の順に軽度 で、HA投与によってOA進行が抑制されていた。軟骨細胞のアポ トーシスの割合を各群間で比較すると、PBS投与群、非投与群と 比較してHA投与群では有意に低下していた (図2) 。 また、滑膜、半月、軟骨を組織培養し、LPSで刺激するとNO産生 が亢進するが、 これにHAを添加すると、いずれにおいてもLPS刺激 図1 図3 3 機械的振動とヒアルロン酸が 三次元培養軟骨細胞に与える影響 竹内 良平(横浜市立大学大学院医学研究科運動器病態学 准教授) 三次元培養軟骨細胞に対して、メカニカルストレスの一種である 染色では、振動を加えることでインテグリンおよびその裏打ちタンパク 振動を加え (矩形波、振幅500nm、周波数100Hz、培養翌日から毎 であるパキシリン、FAK、さらに細胞増殖に影響を与えるシグナル伝 日24時間) 、その影響がヒアルロン酸(HA) を加えることで、どのよう 達経路にあるMAPKなどの発現強度が増した。その発現強度は振 に変化するかを調べた。 動とHAをそれぞれ単独で加えた群と比べると、振動とHAの両方を 加えた群で高かった (図2) 。 軟骨細胞数の経時的変化 このことから、振動刺激が細胞に与える影響は細胞膜に存在する ブタ足関節より採取した関節軟骨から軟骨細胞を単離し、アテロ メカノレセプターであるインテグリンを介して細胞内に伝達され、 コラーゲンゲルに混ぜ、 Ⅰ型コラーゲンスポンジに吸着させて培養し、 MAPK経路を活性化して核にシグナルを伝達することが示唆され 顕微鏡で観察した。スポンジは1週目は透過性が高かったが、しだい た。さらに、近年、軟骨細胞増殖に関係があることが示されたβ-カテ に透過性が低下したことから、軟骨細胞間の基質産生が亢進したと ニンの発現は、振動のみを加えた群とHAのみを添加した群とで同 考えられた。 クリスタルバイオレット染色にて生細胞数をカウントすると、 等の発現強度が認められ、両方を加えることで更に発現が増強され 培養2週目まで経時的に増加し、2週目の細胞数は培養開始時の た (図2) 。 約3倍であった。振動群と非振動群を比較すると、振動群で培養軟 また、電子顕微鏡で軟骨細胞表面を観察すると、 コントロール群の 骨細胞数は有意に増加した。しかし、振動群と非振動群それぞれ 細胞表面は比較的スムーズであったが、振動とHAを加えた群では、 の中では、HA添加の有無による細胞数の変化に差はなかった。 表面から伸びる長い突起状の構造物が形成されることが観察され 培養液中のコンドロイチン4硫酸、コンドロイチン6硫酸産生量 との接着性が増加し、細胞骨格を形成するアクチンフィラメントがより 軟骨基質産生の指標として考えられるコンドロイチン4硫酸異性 活発に伸びて接着斑を形成したことによると考えられた。さらに、細 体の産生量をHPLC法にて分析した。4硫酸異性体は経時的に増 胞周囲には細胞外基質様の高密度の構造物の産生も認められた。 加し、 特に振動とHAを加えた群で産生量が高かった (図1) 。コンドロ 力学刺激とHAという組み合わせは、今後の軟骨再生の研究に イチン6硫酸も同様に、経時的に増加し、振動とHAを加えると、高い 新しい可能性を生み出すことが期待される。 産生量が得られた。 免疫組織学的検討 た。これは振動刺激を加えた影響で軟骨細胞と細胞を取り巻く基質 まとめ 振動刺激はインテグリンを介したMAPK経路を活性化し、軟骨細 コラーゲンスポンジ上には軟骨細胞層が形成され経時的に層の厚 胞の分化、増殖に影響を及ぼすことが明らかにされた。さらに、その さが増した。培養後1週間では、コントロール群(振動なし、HAなし) 作用はHAを添加することで増加した。 に比べ、HA添加群および振動を加えた群でさらに厚い細胞層が形 HAは軟骨細胞に対するメカニカルストレスの効果を増強させると 成された。2週目でも、コントロール群に比べて、振動とHA添加群で 考えられる。 軟骨基質の産生と細胞分化が極めて良好であり、またTypeⅡコラー ゲンの生産量も非常に高かった。スポンジ上に形成された軟骨層の 図2 細胞数とスポンジ内の細胞数との比は約2:1であった。蛍光抗体 図1 4 ヒト体性幹細胞の三次元培養組織に対する 力学刺激とヒアルロン酸による組織リモデリング、再生 中田 研(大阪大学大学院医学系研究科外科系臨床医学専攻器官制御外科学 講師) 力学刺激とヒアルロン酸(HA) の作用をヒト滑膜由来幹細胞を たが、HAを添加すると抑制された。 用いた三次元培養にて検討した。 その他、Ⅲ型コラーゲン、TGF-β1、HAS2、CD44などは、HA 添加により遺伝子発現が増強した。 方法と組織学的所見 培養液中のHA濃度は、刺激5日目と15日目でやや上昇したが、 ヒト滑膜由来幹細胞をアテロコラーゲンのscaffold中に分散さ HA添加によりさらに上昇した。また、HA添加によってグリコサミノ せ、培養5日目から0.5Hzの力学刺激(5kPaまたは20kPa) を1日1 グリカン (GAG)濃度も上昇することが分かった。 時間、5日間または15日間与えた。なお、5kPaは変形量3 ~ 5% の弱い刺激、20kPaは変形量10 ~ 20%の非生理的で過大なス 組織のリモデリング トレスである。 組織のリモデリングは、マトリックス分解が先に進み、続いて組織 この力学刺激によって組織が壊れ、細胞が漏れ出すということ の合成や再構成、マトリックスが再構成されると考えられている。 はなく、電子顕微鏡で観察すると、細胞はコラーゲンscaffold中の すなわち、生体内で力学刺激を受けると、MMP-1とMMP-3の ゲル内に埋まっているものからコラーゲンスポンジに接着しているも 遺伝子発現が亢進して分解が進み、次にsox9、 Ⅱ型コラーゲン、 ア のまであった。 グリカンの遺伝子発現が増加することによってマトリックス合成が促 これにHAを添加し、5kPa、20kPaの力学刺激を与えた群では、 進されることがうかがわれる。そこにHAを加えると、組織リモデリン 細胞周囲マトリックスがやや増加していた。このことから力学刺激 グの初期における分解が遺伝子発現レベルで抑制され、さらに、 とHAを加えることにより細胞のアグリゲーションと軟骨マトリックスの HAS、CD44やTGF-βの遺伝子発現を増加させてHAやGAGの 蓄積が認められることが分かった (図1)。 合成を促進させることにより、組織の合成や再構築を亢進すると 考えられる (図2)。 遺伝子発現 DNA量は、5kPa刺激群と20kPa刺激群、そしてHA添加の有 まとめ 無では大きな差はなく、アポトーシスについてもこの刺激条件では このようにHAは、ヒト滑膜由来幹細胞による三次元組織培養 変化は認められなかった。 において、 メカニカルストレスによるリモデリングを促進する可能性が RT-PCRマイクロアレイを用いて骨軟骨関連遺伝子の発現量 あることから、力学刺激とHAは、組織のリモデリングを促進させると を定量化すると、アグリカンの遺伝子発現は5kPa、20kPaの力学 考えられる。 刺激を加えた群でHAを添加することで増強され、sox9の遺伝子 発現も増強された。Ⅱ型コラーゲンの遺伝子発現量は5kPaの低 刺激群でHAの添加なしでも増加したが、HAを添加することによっ てさらにそれが増強された。Ⅸ型コラーゲンの遺伝子発現につい ては有 意 差を認めなかった。MMP-1とMMP-3については、 20kPa刺激群で、HA添加なしで遺伝子発現の増強が認められ 図1 図2 5 軟骨細胞ヒアルロン酸阻害モデルにおける 回復過程解析 西田 佳弘(名古屋大学大学院医学系研究科機能構築医学専攻運動・形態外科学 講師) ヒアルロン酸 (HA) 依存性の細胞周囲マトリックスは、細胞を保護 度を上げると、細胞周囲マトリックスに新たに合成されるPG量が用 し、また成長因子などを保持して細胞分化に関与するなど、さまざま 量依存的に増加した。 な役割を担っている (図1) 。本研究では、軟骨細胞周囲のHAを中 組織培養においても、HA6添加を繰り返すと、PG量が減少して 心としたマトリックスをヒアルロニダーゼまたはHAオリゴ糖(6糖、 くる。しかし、OP-1の添加によってその減少を妨げると、軟骨表層 HA6) で処理して除去した後のマトリックス回復過程を解析した。さ および深層において、 ともにHAの染色性が増強した (図3) 。 らにその回復過程を細胞増殖性サイトカインの1つであるOP-1 (BMP-7) を用いて検討した。 まとめ 関節軟骨細胞は、HA合成酵素であるHAS2が中心となって、 アグリカンとHAS2の上昇 CD44、アグリカンと協調しながら細胞周囲マトリックスを形成するこ 単離した軟骨細胞をヒアルロニダーゼやHA6で処理すると、細 とが分かった。また、マトリックス形成が一旦阻害されても、HAS2、 胞周囲マトリックスに存在するHAが消失し、マトリックス形成が抑制 CD44、アグリカンを中心とした回復能があれば再形成が可能であ される。しかし、ヒアルロニダーゼやHA6を除去すると、徐々に細胞 ることも示唆された。 周囲マトリックスにHAが増加し、 マトリックス形成が回復してくる。 したがって、軟骨細胞自体にマトリックス形成の再生能力が残っ そこで、mRNA発現をRT-PCRで調べてみると、回復過程にお ていれば、HAもしくは細胞増殖性サイ トカインを添加することで、細 いて、HAS2が約2倍に上昇し、アグリカンも上昇していることが分 胞周囲マトリックスが形成される。ただし、進行したOAの軟骨細胞 かった (図2) 。つまり、 アグリカンとHAS2のmRNA発現上昇が協調 など、その回復能力がない場合には、再生能を増強できる何らかの してマトリックスの形成回復に働いていると考えられる。 添加物を加えなければマトリックス形成は難しいと考える。 OP-1による増強作用 このマトリックス形成回復に対するOP-1添加の影響をHA6と OP-1を同時に投与して、同様にmRNAの発現を調べた。その結 果、CD44において差異は認められなかったが、 HAS2あるいはアグ 図2 リカンにおいてはOP-1を使うことによって、発現量がより増加した。 次に細胞周囲マトリックス、軟骨細胞から離れた軟骨マトリックス および培養液中に流れ出たマトリックスの3分画で、 それぞれ新たに 合成されたプロテオグリカン (PG) 量を測定した。HA6を投与した場 合では、コントロールと比べて細胞周囲に新たに合成されたPGは 少なかった。しかしOP-1を投与することで、細胞周囲のPG蓄積量 が増加したことから、OP-1によりHA合成が増加し、細胞周囲に蓄 積するPG量が増えたのではないかと考えられた。また、OP-1の濃 図1 図3 6 第35回日本リウマチ・関節外科学会シンポジウム ヒアルロン酸と再生医療 【発 行】科研製薬株式会社 2008年6月作成 ARD212-08F-10-CO1
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