プレコートメタル用塗料の最近の技術動向 (168KB) - 日本ペイント

プレコートメタル用
塗料の最近の
技術動向
SUMMARY
Pre-coated metal is steel or another metal that has
already been painted, and it is completed as the final
product by being bent and constructed. Compared with
Recent technology of paint
for pre-coated metal
post-coated metal, it is an environmentally-friendly
painting system. Both stable high quality and painting
efficiency are achieved, and it requires less thinner as it
is painted. The use of pre-coated metal as a building
material is expected to expand its application to the
reforming market, since it is lightweight and easy to
construct. In the electrical appliance market, most
products are made of pre-coated metal, and a review of
painting system is demanded based on environmental
aspects.
要旨
解
説
プレコートメタル(PCM)はその言葉通り、あら
かじめ塗装された鋼板であり、加工して組み立てられ
プ
レ
コ
ー
ト
メ
タ
ル
用
塗
料
の
最
近
の
技
術
動
向
最終製品とされる。その塗装(コイルコーティング)
は、成型後に塗装するポストコートと比較すると平板
で塗装するため品質の安定化が得られるとともに塗着
効率の良さ、シンナー使用量が少ないなど環境にもや
さしい塗装システムである。
PCMは屋根材、サイディング材などの建材用途に
おいては軽量、施工の簡便さからリフォーム市場への
拡大も期待できる。一方、家電用途では主要家電製品
のほとんどがプレコート化されているが、特に環境面
から塗装系の見直しなどが要求されている。
このような状況において、最近のPCM用塗料の技
術トレンドは「環境」「機能」「意匠」である。この3
つのキーワード別に概略を報告する。
1.はじめに
日本ファインコーティングス株式会社
池永 良樹
Nippon Fine Coatings Co., Ltd.
YOSHIKI
プレコート方式はポストコート方式に比較して特に
IKENAGA
環境面での利点が大きく現代の工業用塗装としてニー
ズが高まっている。プレコート方式には以下の利点が
ある1)。
①塗装時の塗料ロスが少ない
②スプレー塗装に比べ高粘度塗装でありシンナーの
使用量が少なく、焼付け時に揮発する有機溶剤量
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料そのものの防食機能でクロム系防錆顔料に匹敵する
も少ない
非クロム系防錆顔料はないが、補助防錆顔料の添加、
③焼付け炉の容量が少なく加熱に対するエネルギー
樹脂・架橋剤面からの工夫により検討を実施してい
消費が少ない。排気処理もしやすい
る。
④膜厚分布が均一で高品質が得やすい
⑤高速塗装が可能
⑥保管スペース、輸送費の削減が可能
表1 クロムフリー系での防錆機能の狙い
PCM用塗料の拡大のために最近求められている技
機能
術トレンドが「環境」「機能」「意匠」である。特に
クロム防錆顔料
クロムフリー防錆顔料
3 Ⅲ)
CrO42−(Ⅵ)→ Cr2O(
沈着皮膜
沈着皮膜の形成により、
の形成
Zn、Alの溶出を抑制する
「環境」面では、重金属フリー化がPCMの主要顧客で
ある家電メーカーの自主規制以降、RoHS指令も発効
され対応が不可欠となっている。また同じ取り組みは
シリカ系
防錆補助剤
(リン酸金属塩)
メッキからの溶出
金属
難
溶
性
皮
膜
酸化作用
酸化作用による適度なメッ
酸化作用
による不
キ金属の溶出とその金属酸
Al → Al(OH)3 or Al2O3
動態皮膜
化化合物および上記難溶性
2 or(ZnCrO4)
Zn → Zn(OH)
の形成
皮膜による保護層の形成
建材用メーカーでも見られるようになり、建材用塗料
でも同様に対応していく必要がある。
大気汚染防止法改正に伴うVOC(揮発性有機化合
物)規制対応についてはプレコートシステムとしての
家電用クロムフリー塗料については家電メーカー規
取り組みが必要であり、カラー鋼板メーカーとの協働
格に適合するもの、あるいは実用上問題ないものが得
が必要である。
られておりすでに商品化されている(表2)
。
カラー鋼板の塗膜に「機能」を付与するニーズも大
表2 加工用クロムフリー塗料の性能
きい。屋根用塗料に遮熱機能を、壁用塗料には雨ダレ
SST 500時間 評価結果
汚染防止機能を、塗膜に環境対応機能などを付与しよ
下塗り
開発品
クロム
プライマー
平面部
白錆
ブリスター
10
10
10
10
カット部
白錆
ブリスター
∼ 2mm
∼ 1mm
∼ 3mm
∼ 1mm
10
10
うとするものである。
「意匠」を塗膜に付与させることも、顧客のニーズ
に対応し市場拡大を図る大きなテーマである。塗膜に
微小な縮み模様を付け独特の風合いを持たせたり、後
塗装との組み合わせで意匠に深みを与えることが検討
されている。日本ファインコーティングス(株)では
2T加工部
ブリスター
「ネオテイストカラーショー2006」を開催して住宅の
意匠提案を実施し、PCMが屋根・サイディング材の
端部の評価
新製品へ波及することに寄与している。
素材:0.4mm厚 GI Z08相当
前処理:クロムフリー前処理
Top:フレキコート 5000
下バリ 最大フクレ幅
上バリ 最大フクレ幅
12
フクレ幅(mm)
10
2.
「環境」対応について
2001年10月にヨーロッパでゲーム機から規制値以上
8
6
4
のカドミウムが検出されてから、国内家電メーカーを
2
中心に化学物質管理体制が構築されるようになった
0
開発品
クロムプライマー
。さらに2006年7月にはEUにおいてRoHS指令が施
2)
行され、家電用塗料には六価クロム、鉛などの重金属
建材用途にも建材メーカーの自主規制から数年以内
を含有することができなくなった。家電製品に大量に
に商品化の必要性が高まると考えられ、暴露実験を中
使用されているPCMにおいても当然対策が求められ、
心に検討を進めている。非クロム系防錆顔料を用いた
プライマーの長期暴露では良好なものも得られている
各種検討が行われた。ここでは、防錆顔料に含有され
(図1・表3)
。
る六価クロムフリー化への対応状況を概説する(表1)
。
ここでは詳細は省くが塗装前処理のクロムフリー化
ストロンチウムクロメートをはじめとする六価クロ
ム含有顔料は、その優れた防食機能から下塗り塗料、
も上記の塗料の検討と併せて実施されており、すでに
裏面塗料に多く使用されてきた。その酸化作用と不働
家電用途には上記クロムフリー塗料と組み合わせて実
態皮膜の強固さで優れた防食機能を発現する。現在顔
用化されている。
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解
説
プ
レ
コ
ー
ト
メ
タ
ル
用
塗
料
の
最
近
の
技
術
動
向
《CCTサイクル条件》
CCT2500時間(300サイクルオーバー) SST 1h
0.5% NaCl
平面・カット部
Dry 4h
60℃、30%RH
Wet 3h
40℃、85%RH
亜鉛めっき
ガルバリウム
クロムフリー プライマー クロムプライマー クロムフリー プライマー クロムプライマー
CCT2500時間端面部
亜鉛めっき
ガルバリウム
クロムフリー プライマー クロムプライマー クロムフリー プライマー クロムプライマー
図1 耐食性CCT評価
の付加価値を高めていく検討がなされている。代表的
表3 建材用クロムフリープライマーの耐食性性能
屋外建材用 耐食性データまとめ
(SST2000H、CCT300サイクル、沖縄曝露2年)
なものとして、一液型低汚染塗料と遮熱塗料について
概説する。
SST2000H
試験方法
SST2000H
メッキ種
GI
解
説
SST2000H
プ
レ
コ
ー
ト
メ
タ
ル
用
塗
料
の
最
近
の
技
術
動
向
GL
評価部
レベル
平面部
≒
カット部
端面
クロムフリー
プライマー
<
≒
加工部
<
平面部
≒
カット部
端面
クロムフリー
プライマー
加工部
≦
≪
表4 機能性PCM鋼板用塗料
・耐熱塗料
・抗菌塗料
・防カビ塗料
・帯電防止塗料
クロム
プライマー
3. 1 1液型低汚染塗料「ニッペキノーコート
クロム
プライマー
1250SC」
建材用、特に壁材としてPCM鋼板が使用される場
≦
合、排気ガスや煤煙の汚れが塗膜表面に固着し非常に
CCT300サイクル
試験方法
メッキ種
レベル
評価部
CCT300
サイクル
CCT300
サイクル
GI
GL
端面
クロムフリー
プライマー
≒
≒
加工部
<
平面部
≒
カット部
≦
端面
見苦しくなることがある3)。その対策として塗膜表面
≒
平面部
カット部
クロムフリー
プライマー
≦
に親水性を付与し雨水などによりその汚染物質(親油
クロム
プライマー
性)を洗い流してしまう機能を塗膜に持たせた(図2)。
汚染物質
水滴
クロム
プライマー
実曝露沖縄2年
メッキ種
評価部
実曝露
沖縄2年
GI
GL
カット部
端面
親水性表面
親油性表面
レベル
平面部
実曝露
沖縄2年
水滴
≒
加工部
試験方法
・遮熱塗料
・耐汚染性塗料
・脱ホルムアルデヒド塗料 など
≒
クロムフリー
プライマー
≒
≒
図2 親水性塗膜による汚染洗浄効果
クロム
プライマー
従来は親水化剤あるいは添加剤などの安定性の面か
加工部
≒
ら2液または3液型となっており、塗装時には煩雑な
平面部
≒
作業が必要であった。この1液化には親水化剤の塗料
カット部
端面
クロムフリー
プライマー
加工部
≒
≒
中での安定化(加水分解抑制)と、塗膜表面での塗膜
クロム
プライマー
親水化の早期発現(低雨ダレ汚染性)のための加水分
≒
解速度促進の両立が課題であったが、図3に示した技
術を開発し、1液型の市場導入を開始した。図4に開
発品の雨ダレ汚染性と塗膜親水性のテスト結果を示し
3.
「機能」付与について
た。
塗膜に各種の機能(表4)を付与させてPCM鋼板
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本塗料の出荷量は年々増加しており、資源・エネル
技術課題:親水化剤の塗料中における加水分解抑制と
塗膜表面での加水分解速度促進の両立
ギー低減への取り組みが市場でも認められてきてい
る。
塗料
アプローチ
-SiOR
-SiOH
塗膜
加水分解速度の抑制
・低反応性変性シリケート
・阻害因子の排除
4.「意匠」への取組み
加水分解速度の促進
・触媒種
・表層濃化による増加
塗膜に意匠性を付与し、従来の単調なPCM鋼板と
は異なる外観を呈することで顧客の広範囲なニーズに
図3 1液型へのアプローチ
対応する検討も進んでいる。ここでは、大柄縮み塗料、
高輝度メタリック塗料、ハンマートーン調塗料につい
て概説する。
4. 1 大柄縮み塗料「ニッペシルキーR-1、R-2」
塗膜の表層と下層で硬化速度を異なるように設計し
て、塗膜硬化時にその速度差で縮み模様を形成させよ
うとするものである。クリヤータイプ(R-1)とエナ
低汚染塗膜
従来塗膜
従来塗膜
メルタイプ(R-2)があり、さらに骨材の添加などで
低汚染塗膜
縮み柄に変化を付けることも可能である。低光沢であ
図4 1液型低汚染塗料の雨ダレ汚染テストと塗膜親水化
り凹凸感もあることから、重厚味のある外観を得るこ
解
説
とができる。エナメルタイプでは耐候性も優れており、
3. 2 遮熱塗料「ニッペキノーコート80」
屋根材などへも適用可能である(図6)。
PCM鋼板は屋根材に多く使用されているが、塗膜
〔硬化初期〕
〔硬化後期〕
に太陽熱遮断機能を付与することで、室内温度の上昇
を抑制することが可能となり、快適性の向上や倉庫の
トップ
場合には貯蔵性の向上、さらには空調エネルギーの低
減につながり省エネルギー対策としても有効と注目を
ベース
集めている4)。近赤外線領域の反射率の大きい着色顔
料を使用し、従来塗料と同一色(可視光スペクトルは
流動層
素材
素材
表層が硬化収縮
下層の収縮歪みを表層が
吸収し、縮みを形成
同一)であっても熱線源としての近赤外領域の反射率
を高くすることができ、内部に侵入させない機能を保
持している5)。一例としてグレー色の場合、日射反射
率(800∼2100nm)は従来塗料が21%に対して遮熱塗
料は53%である(図5)。実際の室内温度で10℃近く
差がある報告もある。
図6 大柄縮み塗料
(グレー色の例)
紫外 可視
日射反射率
近赤外
(350∼2100nm)
反射率(%)
100
ニッペキノーコート80
80
60
4. 2 高輝度メタリック塗料
ニッペキノーコート80
:39%
従来塗料
:23%
上塗り塗料をクリヤータイプにしてその中にアルミ
顔料、パール顔料などを配合するものである。従来の
40
着色顔料との併用系に比較して、優れた輝度感と高意
20
0
300
匠感を得ることができる(図7)。
日射反射率
従来塗料
600
900 1200 1500 1800 2100
波長(nm)
(800∼2100nm)
ニッペキノーコート80
:53%
従来塗料
:21%
図5 遮熱塗料キノーコート80の日射反射率
31
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プ
レ
コ
ー
ト
メ
タ
ル
用
塗
料
の
最
近
の
技
術
動
向
た。本カラーショーではこのようなトレンドを背景に
メタリッククリヤー層 10∼17g/m2
「メタリックモダン」をコンセプトに金属らしさ、金
ベースコート
(防錆顔料入り) 20∼33g/m2
化成処理層
GL原板
大粒径アルミ顔料
属意匠感を追求した意匠提案を実施した。縮み塗料、
ハンマートーン調塗料と高輝度メタリック調との組み
アクリルビーズ
合わせ、あるいは印刷柄、鋼板エンボス(凹凸成型)
図7 高輝度メタリック塗料
とも組み合わせて種々の提案を実施した(図9、10、
11)。
4. 3 ハンマートーン調塗料(ノンシリコン系)
PCMでは以前からハンマートーン調の意匠は製造
されているが、傷つきに強い点からも根強い人気があ
る。しかしシリコン系添加剤を使用しているため、塗
装ラインにおいてシリコンダストによる塗装異常に留
意する必要があった。今回、非シリコン系でのハンマ
ートーン調意匠発現が低表面張力剤の開発により可能
となった(図8)
。
ハンマートーン調意匠「ニッペキノーコート78A」
低表面張力添加剤によりハンマートーン調意匠が発現する。
解
説
Wet塗膜
Dry塗膜
図9 ネオテイストカラーショー2006①
低表面張力剤
プ
レ
コ
ー
ト
メ
タ
ル
用
塗
料
の
最
近
の
技
術
動
向
加熱時塗膜
表面張力の不均一化に
より凹凸が形成される
凹凸模様(ユズ肌調)形成
図8 ハンマートーン調塗料
4. 4 「ネオテイストカラーショー2006」
住宅用外壁材市場においては、窯業系サイディング
や吹き付け塗装が主流を占めており、金属サイディン
グ材のシェアは意匠性や高級感が劣るため数%に留ま
っている。日本ファインコーティングス(株)は日本
ペイント(株)デザインセンターと協力して住宅外装
調査を実施、その結果を基に「ネオテイストカラーシ
ョー2006」を開催し、意匠提案を行った。
外装トレンドはトラディショナル中心からシンプルモダン傾向へ
図10 ネオテイストカラーショー2006②
住宅外装調査の結果、最近の住宅外観はシンプルで
モダンなデザイン傾向にある。さらには「深化、発展
本カラーショーには鋼板メーカー、建材メーカー、
するシンプルモダン」へと進んでいる。本物らしさを
ハウスメーカーなど500人を超える来場者があった。
求める傾向、住宅デザインにマッチする建材としてよ
り金属らしい意匠感が求められていることが認められ
メタリック意匠を「映える」∼「なじむ」の3つの質感により表現
1)煌(きらめき)
ハードでクール
な冴えた光のイ
メージゾーン。
映え栄えときら
めく衣装表現を
目指した
2)輝(かがやき)
原点のメタリッ
クをベースにさ
らに豊かで細や
かなリアリステ
ィックな輝きの
イメージゾーン
2)彩(いろどり)
しっとりと深み
のある質感で、
工芸のような美
しさを表現、独
特の光彩で新し
い金属質感を目
指した
図11 ネオテイストカラーショー2006③
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5.おわりに
PCMの生産量は国内では大きな拡大は見られない
が、全世界の生産量は2000年以降増加傾向にある。プ
レコート化の進んでいない自動車分野でもトラックの
あおり板やバントラック側板、オイルフィルターなど
に使用されており、さらに他部位への拡大も期待でき
る。PCMに使用される素材は、溶融亜鉛メッキ鋼板、
アルミ亜鉛合金メッキ鋼板6)、アルミニウム、ステン
レスなどが中心であるが最近ではマグネシウムを含有
した耐食性に優れるメッキ鋼板も検討されている。塗
装方法も一般的なロールコーターに加えて種々検討さ
れておりさらなる付加価値の向上が見込まれる7)。プ
レコート方式は、環境対応、品質の安定化、合理化の
面から現代のニーズに適合したシステムであり、さら
なる需要の拡大が期待できる。
解
説
引用文献
1)池永良樹、日本鉄鋼協会 環境・エネルギー工
プ
レ
コ
ー
ト
メ
タ
ル
用
塗
料
の
最
近
の
技
術
動
向
学部会 材料の組織と特性部会 合同シンポジ
ウム講演要旨集、P41、
(2005)
2)日経エコロジー、P26、July2005
No73
3)日本ペイント(株)
、塗料の性格と機能、P501、
日本塗料新聞社(1998)
4)三 木 勝 夫 、 井 原 智 彦 、 塗 装 工 学 、 4 0 ( 8 )、
(2005)
5)永 田 隆 博 、 水 谷 啓 太 、 石 原 良 治 、 特 許 第
3468698(2003)
6)吉田啓二、大居利彦、山下正明、石川博司、大
熊俊之、塗装工学、38(6)
、192(4)、(2003)
7)金井洋、塗装工学、41(4)
、151(23)、
(2006)
33
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