2016.9割の日本人が間違っている 「リーダーシップ」の本質(第1回

2016.9割の日本人が間違っている 「リーダーシップ」の本質(第1回)
DIAMOND Onlline 2013.7.4.松田悠介・藤沢久美対談
(傍線:吉田祐起引用)
集団を統率するリーダーが評価されるのは、日本の大企業だけ……?全米就職ランキングで人
気の教育系NPOの日本版、ティーチ・フォー・ジャパンを20代で立ち上げた松田悠介さん。同じ
く20代で日本初の投資信託評価会社を起業し、マルチな活躍をしている藤沢久美さん。今まで
なかった組織を生み出したおふたりに、これからのビジネスパーソンに求められるものをうかが
った!(全3回:撮影 宇佐見利明)
日本人は能力が高いが、働く哲学が欠けている
松田 僕はNPO法人である、ティーチ・フォー・ジャパンの活動を通して、すべての子どもたち
に21世紀を生き抜く力を身につけてもらいたいと考えています。
これからさらにIT化が進んだり、外国から労働者が入ってくることで、いまの子どもたちが大
人になるころには、働く環境が大きく変わっているはず。藤沢さんは中小企業を中心に現場での
取材されていますが、将来、ヒジネスマンにはどのような能力が必要になるとお考えですか。
藤沢 日本人は、すでに高い基礎能力を持っています。あえていうなら、能力の新しい使い方
が必要になるということでしょうか。
松田 新しい使い方とは?
藤沢久美(ふじさわ・くみ)
国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の
投資信託評価会社を起業。99年同社を世界的格付け会社
に売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に
参画。2013年、代表に就任。03年社会起業家フォーラム
設立、副代表。07年ダボス会議を主宰する世界経済フォー
ラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。法政大学
大学院客員教授、情報通信審議会委員など公職も多数兼
務。NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターを3
年間務め、その間、全国の中小企業やベンチャー企業の取
材を行ってきた。同時に、様々なテレビ・ラジオ・雑誌等を通
じて、これまでに1000社を超える全国各地の全国の元気
な企業の経営者のインタビューと現場の取材を行い、各種
メディアや講演を通じて発信している。
藤沢 なぜ自分は働くのか、この仕事を通して何を実現したいのかという意識が希薄な気がし
ます。せっかく能力があっても、働く目的や哲学が明確でないと、空回りしやすく、能力を全開で
きないし、さらに能力を高めることが難しくなります。
松田 たしかに目的意識は大事ですよね。
藤沢 北海道に、「六花亭」と いう洋菓子メーカーがあります。六花亭は業績がずっと好調でし
-1-
たが、数年前に同じ北海道の「花畑牧場」が生キャラメルなどのブームを背景に急成長して、そ
の影響で売上は激減。これまでの方針を、大きく転換せざるを得なくなったとき、 社員のほうか
ら「通販をやりましょう」というアイデアが出てきて、大きな新規売上をあらたにつくることに成功
したそうです。
なぜこの話をしたのかというと、六花亭の社員は目的意識を強く持っていたから、 社員自ら解
決策を考え出せたと思うんです。私が取材にうかがった際に、社員のみなさんは、「私たちの仕
事はお菓子作りではなく、幸せを日本中に広げること」と口々に言っていました。そうした意識を
持っていると、持てる力をどのように発揮すればいいのかということが自然に見えてくるんです
ね。
松田 社長や上司からの指示待ちではなくて、自ら考えて動けるのはそうした目的意識 がある
からなんですね。
身につけるべき能力は目的を明確にすれば見えてくる
藤沢 ほかにも事例はたくさんあります。たとえば、お弁当で急成長中の「玉子屋」さんっていう
会社があるんですが…。
松田 配達の車を見かけたことはあります。
藤沢 大田区を拠点としたお弁当屋さんで、都内を中心に7万食を製造・販売しています。そこ
の社員のみなさんは「俺たちはただの弁当屋じゃない。働くお父さんたちに安くて栄養満点のお
弁当を提供することで、日本経済を支えているんだ」と言っていました。
松田 お弁当で日本経済の支援ですか。スケールが大きい…。
藤沢 社員のみなさんは本気でそう考えているので、日替わり弁当430円という値段なんです
けど、これ以上高くなるとその分、お父さんのお小遣いが減っちゃうからって(笑)がんばってい
るんです。
材料はお米や野菜などは国産を使ったりこだわってるんですが、廃棄率を 0.1%以下に抑え
ていたり、もう企業努力がすごいんですよ。
松田 お父さんの味方なんですね。
藤沢 社員さんは、今の能力を発揮するだけでなく、さらに能力を磨こうとする意識も高いんで
す。じつは玉子屋さんには、いわゆる過去「やんちゃ」だった人も多いんですが、これまで一度も
本を読んだことがなかったのに、自ら営業の本を読んで勉強を始めたりするんで す。これも目
的意識がなせるわざです。
松田 なるほど。大切なのは、これからどのような能力を身につけるかということより、何のた
めの働くのか、という目的意識ということですね。それが明確になっていれば、六花亭や玉子屋
さんの社員の方たちのように、自然と「自分が何を学べばいいのか」とか「自分は何をしたらい
いのか」が見えてくるわけですね。
元ヤンキー社員がドイツ語で学会発表
藤沢 せっかくなので、もう一つ、事例を紹介したいと思います。愛知県豊橋市にある 「樹研工
業」という会社をご存じですか。
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松田 いえ。不勉強で、すいません。何の会社ですか。
藤沢 プラスチック加工の会社です。同社は採用が先着順で、一番早く会社に来た人を合格さ
せるユニークな会社ですが…。
松田 え、採用が先着順?
藤沢 そうなんです。でも、注目したいのは、「世界一をつくろう」という会社の目標です。同社
の製品は世界で高く評価されていて、ヨーロッパからメルセデス・ベンツやスウォッチの人が視
察にやってきます。社員のみなさんも世界を相手にしているという意識が強いから、なかにはド
イツ語を勉強して学会発表している方もいる。
じつはこの会社の社員さんは玉子屋さんと同じく元やんちゃな人も多く、いまでも駐車場には
それ風の車が停まっていたりするんです。公道で走ると注目を浴びちゃうような(笑)
松田 そんな人がドイツ語を操る…。
藤沢 そうそう。中身は人一倍向上心が強いビジネスマンなんですね。働く目的とか哲学が、
人を育てるんです。
松田 その話、すごく共感します。僕はハーバードに留学するために、英語を死に物狂いで勉
強しました。必死になって勉強できたのも、いつか自分で理想の学校をつくりたいというビジョン
ができて、そのために必要な知識をハーバードで身につけようと思ったから。目標ができると、
人って頑張れますよね。
チームの能力を最大化する「サーバント・リーダーシップ」とは?
松田悠介(まつだ・ゆうすけ)
全米で就職ランキング第1位になったティーチ・フォー・アメリカ
(TFA)の日本版「ティーチ・フォー・ジャパン(TFJ)」
創設代表者。1983年生まれ。
大学卒業後、体育科教諭として中学校に勤務。体育を英語で
教える Sports English のカリキュラムを立案。その後、千葉
県市川市教育委員会 教育政策課分析官を経て、ハーバード
教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修
士号を取得。卒業後、外資系コンサルティングファーム
PricewaterhouseCoopers にて人材戦略に従事し、2010
年7月に退職、現在に至る。世界経済会議 Global Shapers
Community メンバー。経済産業省「キャリア教育の内容の
充実と普及に関する調査委員会」委員。
松田 社員がいきいきと働いている会社って、他に何か共通点がありますか?
藤沢 社長にリーダーシップがあるということでしょうか。リーダーシップといっても、いわゆる
「俺についてこい」的なリーダーシップではありません。群れを率いるリーダーというより、チー
ムを機能させるためのリーダーといったほうが近い。
松田 チームが最大のパフォーマンスをあげられるように尽くすリーターシップのことを、「サー
バント・リーダーシップ」といいますよね。
-3-
藤沢 そう、それです。日本ではなぜか自分が先頭に立って引っ張るタイプが優秀なリーダー
だと思われていて、メンバー一人一人の力を引き出すためにサポートするタイプのリーダーが
あまり評価されません。
松田 ウイリアム斉藤さんが、日本はみんなが同じ行動をする「集団行動」は得意だが、それ
ぞれが固有の能力を発揮して全体として機能する「チーム活動」は苦手だとおっしゃっていまし
た。サーバント・リーダーシップが日本で評価されにくいのも、日本ではチーム活動より集団行
動が重視されているからかもしれませんね。
藤沢 中小企業のある社長は、「従業員は一人一人個性がある。不要な人は一人もいない。社
員が何色に光るのかを見つけ出して、それぞれに輝く場を提供してあげることが経営者の役割
だ」と力説していました。人は一人一人違うという認識を持っていれば、自ずとサーバントリーダ
ーになるはずですが、日本ではまだ少数派かもしれません。
なぜ中小企業には優秀なリーダーが多いのか
松田 中小企業の社長にサーバント・リーダーシップを持った人が多いのは、何か理由がある
のでしょうか。
藤沢 地域密着であることが大きいと思います。中小企業の社長は「地域の雇用を守るのは自
分たちだ」という意識が強く、そう簡単に社員のクビを切りません。だから人を入れ替えるのでは
なく、いまいる人たちの力を引き出すことで会社を成長させようという発想を持っています。放っ
ておいても優秀な人材がやってくる大企業のリーダーとは、根本的に考え方が違います。
松田 勉強になりますね。私たちはリーダーシップやマネジメントを学ぶときについ大企業のほ
うを向きがちですが、むしろ中小企業を参考にしたほうがいいかもしれませんね。
藤沢 そう思います。これまで1000人以上の中小企業経営者の方にインタビューしましたが、
経営を超えて生き方について学びたくなるような方ばかり。社会貢献への意識とか、雇用を守る
ということに関しても、真剣に考えている方がほとんどでした。
松田 そもそも藤沢さんは中小企業にフォーカスしているのはなぜですか。
藤沢 原点は自分の起業です。私は20代で自分の会社をつくりました。当時は一般の方が入
手できる金融情報が少なく、そのせいで損失を出している人が大勢いました。その状況を変え
たいと思って投資信託の評価会社を立ち上げたのですが、金融機関の人から「どうせ零細 企
業でしょ」という態度をとられて、悔しい思いをしました。
その後、NHKから誘われて中小企業を紹介する番組のキャスターになったのですが、現場
で取材すると、高い志を持っている経営者が本当に多かった。それ以来、中小企業の社長イン
タビューが私のライフワークの一つになっています。
”が中小に最適な生存戦略
“戦わない経営”
松田 リーダーシップの他に中小企業の社長から学べるものがあるとしたら、どんなことでしょ
うか。
藤沢 取材して面白かったのは、「うちは戦わない」という社長が多いことでした。意外でしょ?
松田 はい。だって戦って勝たないと会社が存続できないじゃないですか。
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お互い20代で起業したという共通点があり働き方について話が盛り上がった
藤沢 私もそう思ったんです。でも、よく話を聞いて納得しました。ある社長は、「ライバルを打
ち負かして他人のものを奪っても、いつかしっぺ返しを食らう。会社を着実に成長させるなら、他
社から市場を奪うのではなく、新しい市場をつくる戦略が必要」とおっしゃっていた。まさにその
とおりです。
松田 「戦わない」というと楽をするように聞こえますが、けっしてそういう意味ではないのです
ね。ブルーオーシャンを常に探すということですね。
藤沢 新しい市場の創造は、ある意味では自分との闘い。市場で他社と競争するよりしんどい
面があると思います。
松田 僕たちもいま、日本の教育界になかった新しい仕組みを広げようとしているので、その
苦しみはよくわかります。ますます中小企業の経営者にシンパシーを感じそうです。
(取材・文 村上敬)
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ヨシダコメント:
対談されているお二人は「20代で起業したという共通点」をお持ちの方々。キャリアといい、ご
発言といい、ヨシダごときが口を挟む余地なありません。若い将来のある人たちへお送りします。
全3回の対談記事ですが、気付いたのが2回目の掲載でしたので、遅ればせながらのものにな
りました。
No.1(1-300) No.2(301-400) No.3(401-500)
No.4(501-700)
No.8(1101-1300) No.9(1301-1500) No.10(1501-1700)
-5-
No.5(701-900)
No.7(996-1100)
No.11(1701-1900) No.12(1901-2000)