大型小売店舗が周辺の小売店舗に与える影響 ~イオン発寒店を事例とした GIS による解析~ 指導教員 柳井 清治教授 1.はじめに 流通業界はこれまで、郊外大型店の大量立地で急 速に過当競争の状態になっている。特に地方都市の 商店街は、長引く消費の低迷もあって衰退に歯止め が掛からない状態になっている。 従って、 「大規模小売店立地法」が改正され、都市 機能のコンパクトなまちづくりを目指すこと、中心 市街地の衰退を防ぐことを目的に周辺地域のまちづ くりへの影響を懸念される床面積 10,000 ㎡を超え る商業施設を対象に届出をすることとなっている。 最近、道庁への出店計画書の届出をみると大半が 既設で新設は慎重な姿勢が見受けられる。少子高齢 化の進展により、市場が縮小する中で大型店の進出 には様々な問題がある。 本研究では、2006 年に新しく出店したイオン発寒 店をモデルとし大規模小売店が札幌などの大都市に 進出した場合、地域の既存の商業、また、消費者に どのように影響を及ぼしているか検証し、既存の店 舗、地域住民に対する調和のあり方を考察すること を目的とする。 2.調査対象地 2-1 対象とする店舗 札幌市西区発寒 8 条 12 丁目 1 番地に位置するイ オン発寒ショッピングセンターを本研究の調査対象 地とする。 (図-1)対象とする店舗は発寒イオンから 5km 圏内の第一種大規模小売店(店舗面積 3,000 ㎡ 以上)、第二種大規模小売店(店舗面積 1,000 ㎡以上) に該当するスーパー、住居余暇、衣料の専門店とし た。 図1:調査対象地 A4104080 吉田 敬幸 2-2 対象とする範囲 出店計画書には商圏範囲が記載されており、その 商圏範囲に従って調査対象地を決めた。ここでは、 イオン発寒店から半径 5km 圏内及び対象とする店 舗の商圏範囲と重なったエリア(○条▲丁目間隔) を調査範囲とした。 3.調査方法 3-1 修正ハフモデル分析 イオン発寒店の集客度と周辺にある小売店舗に与 える影響を検証するため修正ハフモデル分析(距離 抵抗係数λを 2 に固定)によるシュミレーションを 行った。(図-2) このモデルは店の店舗面積、店舗から住宅地(○条 △丁目)までの距離を式に代入し、イオン発寒店に 対しての購買率を算出し、その周辺地域の集客数(利 用客)の行動を予想するものである。 なお、このモデルは店舗面積が大きく、かつ住居 から近い店ほど行きやすいことを前提としており、 また、対象とした店舗(店舗面積、テナント面積、 駐車場台数)や住所のみを考慮し、その他のものは 考慮しなかった。 公式 Pij=購買率 Sj=自店jの売場面積 Tij=自店jから住居iまでの距離 Σ=影響度を求めたい店舗を足す。 λ(距離抵抗係数)=2 図2:ハフモデル分析の公式 3-2 イオン発寒店及びその周辺店舗の情報収集 イオン発寒店と 5km圏内に位置するスーパーの 店舗情報(店舗面積,販売種)を電話,店舗、市役所 などよる直接聞き取り調査とインターネットを用い て収集した。さらに、GIS を用いて住所から対象と なる店舗の距離を算出した。 4.結果と考察 イオン発寒ショッピングセンターの商圏は西区、 北区、手稲区、中央区、石狩市までに及んだ。 対象とする店舗数は食料品スーパー28、家具専門店 11、家電専門店 3、総合スーパー5 店舗になり、全 店舗の商圏範囲と重なった合計世帯数は 34,6344 世 帯(平成 19 年度札幌市国勢調査データ)となった。 図 3:イオン発寒店の最寄品(食品)購買率 最寄品1店舗あたりの集客数(平均) 20000 世 帯 数 15000 10000 5000 0 1000~3000㎡(26店) イオンがある場合 3000㎡以上(9店) イオンがない場合 図 4:既存店舗の最寄品(食品)影響度グラフ 図 5:イオン発寒店の買い回り品(住居、衣料)購買率 買い回り品1店舗あたりの集客数(平均) 20000 15000 世 帯 10000 数 5000 図 3 にイオン発寒店の最寄品(食品)購買率を示し た。イオン発寒店周辺には 1,000~3,000 ㎡の店舗 面積の食料品スーパーが大半だった。この食料品ス ーパーが多いことはイオン発寒店の集客できる世帯 数が少なくなり、29,152 世帯と全体の 8%となった。 全体の店舗数が多いため、イオン発寒店がない場 合とある時とを比較しても影響が少ない結果となっ た。(図-4) 次に図 5 にイオン発寒店の買い回り品(住居、衣 料)の購買率を示した。イオン発寒店周辺には専門 店がいくつか点在しており、食料品スーパーほど多 くは無いが個々の店の店舗面積は大きいものばかり であった。イオン発寒店からみると集客世帯数は競 合店舗が少ないため 49,820 世帯で全体の 14%とな った。 図 6 のグラフでイオン発寒店がある時とない場合 で比較しても影響が少ない結果となったが、最寄品 (食料)よりはグラフに差がみられた(図-6)。これ は、食品スーパーよりも店舗数が少なく、1 店舗あ たりの店舗面積が大きいためと考えられた。 今回、調査対象地としたイオン発寒店の出店位置 は駅周辺であり、既存店舗の規模、都市全体の規模 を考えると札幌市街においては大きな影響を与える までにいたらないと思われる。実際にイオン発寒店 から 5km圏内にある既存の店舗の 2005 年、2007 年との月平均売上高(日本スーパー名鑑)の数値を 比較してみると、影響は軽微なものであった。これ らのことから、 「大規模小売店立地法」の施行にあた っては店舗面積(1,0000 ㎡)以下に固執するのでは なく、その地域の商業集積の規模や立地場所から判 断し弾力的に運用していくことが望ましいと考えら れる。 5.まとめ イオン発寒店が立地した西区は人口密度も低く、 工業団地にあった所だけに他の区と比較して、大型 店は少ない。小売店舗のほとんどが食料品主体のス ーパーで、イオン発寒店の影響もさほど大きなもの ではないと結論づけられた。ただ、イオン発寒店は 2006 年 10 月の開設であるため、日も浅くまだ影響 も軽微に現れている可能性もある。今後、さらに継 続的にその影響を注視していく必要がある。 [参考資料] PASCOホームページhttp://www.pasco.co.jp/ 0 1000~3000㎡(6店) イオンあり 3000㎡以上(15店) イオンなし 図 6:既存店舗の買い回り品(住、衣)影響度グラフ 北海道庁ホームページhttp://www.pref.hokkaido.lg.jp/ 市役所ホームページ http://www.city.sapporo.jp/city/
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