色素の分子構造から考える膠原線維染色の理論考察

280
89
色素の分子構造から考える膠原線維染色の理論考察
色素の分子構造から考える膠原線維染色の理論考察
○磯﨑 勝(小田原市立病院)
○磯 勝(小田原市立病院)
[はじめに] 膠原線維染色は,病理特殊染色の中でも頻
おり疎水性値は膠原線維を染める色素の群に比して低い
度の高い染色である.この染色は,肝臓の線維化の状態
ことが解った.また,膠原線維を染め出す色素群は分子
や腎糸球体基底膜あるいは弾性線維を染め出す染色と組
量が大きくトリフェニルメタン骨格を有し疎水性値が高
み合わせた対比染色として用いられているが,その染色
いことが解った.
原理については不明な点が多い。今回,膠原線維染色に
[考察] 膠原線維染色で用いられる色素の多くは有機構
用いられる各色素の分子構造を解析し類似する構造や性
造を基本とした酸性色素である.これらの色素は基本と
質を比較することにより新しい視点から染色理論を考察
なる骨格が疎水性分子で構成されていることが明確にな
してみたので報告する.
った.疎水性の高い色素は親水化するために強い親水性
[材料と方法]
基のスルホン酸基が備わっていることが理解できる. こ
1. 膠原線維染色に用いられる色素の分子量,分子構造
のような疎水部と親水部をもつ物質は両親媒性物質と呼
および官能基を調べ藤田による計算法に基づき疎水性値
ばれている.両親媒性物質であるということは組織への
親水性値を算出する.
吸着機構が親水部分が受けもつ化学的結合と疎水部が受
2. 算出された値より,親水・疎水バランス
け持つ疎水性相互作用などによる2つの機構があること
(hydrophillipophil balance: HLB)を算出する.
が明確であり膠原線維染色に用いられる色素群はすべて
3. 得られた値より膠原線維染色の染色原理を考察する.
このような異なる2つの吸着機構を有しどちらが優位に
[結果] 膠原線維染色で用いられる色素は,全てスルホ
働くのかは分子構造の疎水・親水のバランスが影響して
ン酸基を有していた.細胞質などを染め出す赤色色素は
いるものと考えられた.連絡先 0465-34-3175
すべての色素でナフタレン環またはベンゼン環を有して