コージェネレーションシステムの余剰電力買取 による供給力確保

修士論文概要(2014 年 2 月 12 日)
SSI-MT79123196
コージェネレーションシステムの余剰電力買取
による供給力確保
北海道大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻
システム融合情報学講座 システム統合学研究室
松林英輝
可能な,図 1 に示す評価モデルを提案する。評価モデ
1
はじめに
ルは需要モデル,信頼度評価モデル,コスト評価モデ
ルの 3 つのサブモデルで構成される。
東日本大震災以降,原発停止に伴う電力不足が社会
本研究の評価手法は,大きく 2 つに区切ることがで
的な問題となっている。電力と熱エネルギーを同時に
きる。
まず,
前半は余剰電力買取価格を提示した際の,
生成可能なコージェネレーションシステム(以降 CGS
CGS を設置する需要家の導入設備容量と運転スケジ
と呼ぶ)は,自然エネルギー発電とは異なり気候に左
ュールの決定である。また,その結果から需要家から
右されない安定した発電が可能であり,その余剰電力
誘導可能な余剰電力量も算出できる。これは需要モデ
の活用は供給力不足の有効な解決策の一つとして位置
ルに相当し,詳細は 3 章で述べる。後半は,前半の結
づけられている。
果を用いて,余剰電力買取を含めた Utility の電源構成
一方で,CGS の設置・運用主体は需要家であり,そ
の供給信頼度と電力供給コストに関する評価である。
の導入量や発電量は需要家の価値判断に委ねられ,政
これらはそれぞれ信頼度評価モデル,コスト評価モデ
策決定者や電力会社(以降 Utility と呼ぶ)側が任意に
ルに相当し,詳細は 4 章で述べる。
決定することはできない。そのため,CGS の余剰電力
を Utility の系統の供給力として活用していくためには,
熱エネルギー供給機器容量
CGS容量
需要モデル
より魅力的な料金体系を示す必要があるといえる。
余剰電力
買取料金
このような背景から本研究では,政策決定者の立場
運転スケジュール
(余剰電力量)
年間総コスト
から CGS 余剰電力買取制度の在り方とその効果を検
信頼度評価
モデル
供給信頼度
討する。提案する買取制度の有用性を示すためには,
CGS を設置する需要家にとっての利益と,Utility の視
Utilityの電源容量
点で見た経済性・供給信頼度への影響を考慮して,総
全体需要
合的な見地から最適電源構成を評価することが重要で
コスト評価
モデル
電力供給
コスト
図 1 提案する評価モデル
あろう。そこで,本研究では,余剰電力買取料金が需
要家の CGS 導入インセンティブに与える影響と,
CGS
える影響を評価することが可能なモデルを提案すると
ともに,数値試算例を通して CGS 余剰電力買取を含め
熱交換器
暖房負荷
ガスボイラー
熱交換器
給湯負荷
ガス吸収式
冷温水機
た最適電源構成を評価する。
放熱ロス
2
系統
電力負荷
Utility の電源構成・電力供給コスト・供給信頼度に与
排熱投入型
吸収式冷凍機
余剰電力制度の概要
本研究では,CGS からの余剰電力買取を含めた社会
貯湯槽
冷房負荷
図 2 需要家のエネルギーシステム
経済性の観点から望ましい電源構成を検証することが
21
ガス
3
ここで Y2,Y3 は設備投資コスト[¥]と運用コスト[¥],
需要家の行動モデル
x は各種機器の年経費率[%],YCGS,YAR,YGB,YGAU
はそれぞれ CGS,吸収式冷凍機,ガスボイラー,ガス
3.1 需要家エネルギーシステム構成
吸収式冷温水機の設備固定費[¥],M は CGS の年間メ
本研究では,電力ならびに熱の需要を有する需要家
ンテナンスコスト[¥],Yog,Ygas は系統電力ならびに
が新規に図 2 に示す各種エネルギー供給設備を導入す
都市ガスの購入に関わる年間コスト[¥],Yuc は CGS
る状況を想定する[1]。なお,本研究ではガスエンジン
の起動停止に関わる年間コスト[¥],Yic は余剰電力の
で発電を行うガスエンジン CGS を想定する(以降,単
売電で得る年間収入[¥]である。
に CGS と記述)
。すなわち,需要家は,自らの電力・
以上の目的関数は, CGS の出力上下限制約や電力
熱需要への供給に関わるコストが最小になるように各
や熱の需給平衡制約,CGS の起動停止制約などの制約
種設備容量や運用方法を決定することを考える。
条件を考慮して最小化を行っている。
電力需要に対しては,系統からの買電と CGS による
3.4 需要モデルの適用例
自家発を選択・組み合わせて供給することが可能であ
る。また熱需要に対しては, CGS の排熱を利用した吸
ここでは需要モデルの適用例として,熱電比が比較
収式冷温水機,貯湯槽ならびにガス吸収式冷温水機を
的大きく,また比較的規模の大きい工業用需要家(ピ
組み合わせて供給することが可能である。
ーク需要 560kW,電力負荷曲線は電気学会電力系統の
標準モデルの工業負荷をベースに作成,熱負荷曲線は
3.2 余剰電力買取料金
電力負荷に比例するものとした)を対象に最適エネル
一般的に,電力需給が逼迫している状況とそうでな
ギーシステムを設計する。
い状況では電力の価値は異なると考えられる。
これは,
昼間(9 時~22 時)
,夜間(23 時~8 時)の余剰電
現在 Utility が電力需要の多い昼間に比較して,需要の
力買取料金をそれぞれ 14[¥/kWh],7[¥/kWh]とした場
少ない夜間の電気料金を安くするような料金体系を提
合の,最適設計結果を表 1 に示す。このように余剰電
供していることからも理解できる。
そこで本研究では,
力買取料金により需要家のピーク需要以上の CGS が
余剰電力買取料金も時間帯(具体的には昼間と夜間)
導入される結果となった。
で異なる状況を考える。ただし,需要家側が Utility か
夜間の買取料金を 7[¥/kWh]に固定し,昼間の買取料
ら電力を購入する際の料金は時間帯によらず一定とす
金を 12[¥/kWh]~16[¥/kWh]の範囲で変化させた場合の
る。
CGS 導入容量を表 2 に示す。表 2 より,昼間の余剰電
力買取料金が 14[¥/kWh]以上の場合にはある程度の
3.3 エネルギーシステムの設計
CGS 導入が見込まれ,またその容量は余剰電力買取料
前述のエネルギーシステムの設置・運用者は需要家
金とともに増加していく。一方,13[¥/kWh]以下の場合
であるため,その容量は当該需要家の需要に対するエ
は,需要家は CGS を導入しない結果となった。
ネルギー供給コストが最も安くなるように設計される
と考えるのが一般的であろう。そこで本研究では,当
表 1 各種エネルギー供給機器の最適導入容量
該エネルギーシステムの設計ならびにその運用を,次
余剰電力買取料金:昼間 14[¥/kWh],夜間 7[¥/kWh]
式で定義される年間総コスト(Y1)を最小化する最適
CGS
吸収式冷凍機
ガスボイラー
ガス吸収式冷温水機
貯湯槽
化問題を解くことで算出する。この最適化問題は,運
用変数の中に 0-1 変数を用いていることから混合変数
線形計画問題であり,NUOPT を用いて計算を行った。
kW
kW
kW
kW
kWh
容量
800
0
203
189
2799
[目的関数]
表 2 買取料金(昼間)と CGS 導入容量(kW)
min Y1  Y2  Y3
x
M
100
 Yuc  Yic
余剰電力買取料金(円/kWh)
CGS導入容量(kW)
 YCGS  YAR  YGB  YGAU 
 Yog  Ygas
............... (1)
22
12 13 14 15 16
0 0 800 800 900
電力供給コスト(円/kWh)
3.6
の約 3.5%(ピーク需要 560kW×18 軒)が CGS を導入
3.4
して,余剰電力買取制度に応じたと想定する。また,
3.2
Utility は常に系統容量の±3%の LFC 容量を確保して
系統の需給調整を行うものとする。
3
2.8
買取料金,Utility による新規電源建設容量をパラメ
2.6
ータとして変更させた場合の電力供給コストと電力量
Energy:0[¥/kWh] LFC:0[¥/kWh] CGS:0kW
2.4
Energy:15[¥/kWh] LFC:0[¥/kWh] CGS:800kW×18
2.2
0.000001
不足確率 LOEP を評価モデルを用いて算出した。結果
Energy:14[¥/kWh] LFC:0[¥/kWh] CGS:800kW×18
0.00001
を図 3 に示す。昼間の余剰電力買取料金が 15[¥/kWh]
0.0001
LOEP
では,電源の新規建設のみで供給力を増強したほうが
図 3 LOEP と電力供給コストの関係①
経済的であるという試算結果となっているが,CGS 導
入を促すことができる余剰電力買取料金の最小値であ
る 14[¥/kWh]の場合では,すべての供給信頼度基準に
4
Utility モデル
おいて CGS による余剰電力買取を含めた供給力増強
は電源の新規建設のみで供給力を増強する場合と同等
4.1 信頼度評価モデル
以上の経済性を有していることが確認できる。すなわ
ち,今回想定した条件では,余剰電力買取料金が
本研究では,供給力が不足している現状に対して,
14[¥/kWh]であれば,CGS の余剰電力買取による供給
Utility が新規に電源を建設した場合,あるいは CGS の
力確保が社会的に妥当であることを示している。
余剰電力買い取りにより供給力を増強した場合に,供
給信頼度に与える影響を評価する。供給信頼度の評価
5
には,各設備の故障を乱数によって確率的に模擬し,
各負荷と供給力の大小関係から停電の有無を判断し,
LFC 容量買取料金の導入
5.1 提案する買取制度の拡張
供給信頼度指標を算出する時系列モンテカルロ法(以
下 MCS)を用いる。
4 章では,CGS 余剰電力買取を含めた供給力増強は
電源の新規建設のみで供給力を増強する場合と遜色な
4.2 コスト評価モデル
い経済性を有していることが確認できたが,CGS 余剰
Utility の各供給力増強シナリオが決まると,次に
電力買取の有用性を示すためにも CGS 発電のさらな
Utility は,自らの電源を経済的に運用するために経済
るメリットを考慮可能なようにモデルを拡張する必要
負荷配分(以下 ELD)を行い,各発電機の所要燃料費
がある。
の合計(以下総燃料費)を最小とするような各発電機
CGS の大きな特徴の一つに,自然エネルギー発電と
の出力を決定する。この総燃料費と供給力増強に要し
は異なり出力が可制御な点が挙げられる。電力系統で
たコストの和が Utility の電力供給コストとなる。ただ
は,時々刻々と変化する需要に対して常に供給(発電
し,
本研究では Utility が余剰電力買い取りを行う場合,
量)を一致させる必要がある。一般的に需要変動の周
必ず 3 章で示した最適化問題の解から導出される余剰
期が十数分以下と短い変動成分については事前予測が
電力量を買い取り,それ以外の電力量に対して経済負
困難なため,あらかじめ調整力を確保したうえでリア
荷配分を行なっていく。
ルタイムに発電機出力を調整して需要変動を吸収する。
需給のアンバランスは系統の周波数に影響を与えるた
4.3 数値試算例
め,特に周期が数分から十数分の需要変動分に関して
ここでは,11 台の電源[2](総容量 240MW)を有す
は,負荷周波数制御(以降,LFC と呼ぶ)と呼ばれる
る系統モデルを対象に,提案評価モデルを用いて CGS
系統の基準周波数との偏差から発電機出力の調整量を
余剰電力の供給力としての価値を評価する。
決定する制御手法を用いて需給バランスを維持してい
系統需要に関しては,全体のピーク需要を近年の電
る。そのため,出力が可制御な CGS も事前に調整力を
力不足問題を反映させるためにピーク需要時の供給予
確保しておけば Utility の需給調整に参加することが可
備力が 3%となるように設定した。この内,全体需要
能である。
23
そこで,本章では新たに LFC 容量買取料金を導入し
取料金との差は石炭火力や水力ではさらに大きくなっ
て,需要家の CGS を余剰電力買取だけでなく,LFC
ていく。そのためこの結果は,余剰電力買取と比べ,
にも活用した場合を想定し,システム全体に与える経
5[円/kW/h]の LFC 容量買取のほうが,Utility にとって
済的影響を評価する。
は自身の電源で確保する場合とのコスト差が少ないこ
とに由来している。
5.2 LFC 容量買取料金導入による影響の評価
本研究では,
CGS を設置する需要家が LFC 容量 1kW
表 3 各種買取料金(昼間)と CGS 導入容量(kW)
を販売する場合,需要家は上げ代,下げ代ともに 1kW
余剰電力 (\/kWh)
確保した上で CGS を運転させることを義務づける。実
LFC (\/kW/h)
0
1
2
3
4
5
際には,CGS の出力は LFC 容量の範囲内で時々刻々
と変化していくが,LFC が需給調整する変動成分の周
期(数分~20 分)であれば,CGS の 1 時間出力平均値
は LFC 上限と LFC 下限の出力の中間値に近い値とな
3.6
の出力は前途した中間値として評価を行っていく。
3.4
電力供給コスト(円/kWh)
るため,以降,本研究では簡単のため,1 時間の CGS
このように,提案する買取制度に LFC 容量買取料金
を導入する場合,3 章で示した需要家の行動モデルの
目的関数は(2)式のように修正される。
min Y1  YCGS
x
 YAR  YGB  YGAU 
M
100
 Yog  Ygas  Yuc  Yic  YLFC
12
13
14
15
0
0 800 800
0
0 800 800
0
0 800 800
0 800 800 900
0 800 900 900
0 800 900 900
3.2
3
2.8
Energy:0[¥/kWh] LFC:0[¥/kWh] CGS:0kW
2.6
Energy:15[¥/kWh] LFC:0[¥/kWh] CGS:800kW×18
2.4
Energy:14[¥/kWh] LFC:0[¥/kWh] CGS:800kW×18
2.2
0.000001
Energy:13[¥/kWh] LFC:5[¥/kWh] CGS:800kW×18
0.00001
............... (2)
0.0001
LOEP
ここで YLFC は LFC 容量の販売で得る年間収入[¥]
図 4 LOEP と電力供給コストの関係②
である。この目的関数を最小化する際に考慮する制約
6
条件に関しても,CGS の出力変化率を考慮した最大
おわりに
LFC 容量制約や出力調整のための上げ代,下げ代を考
慮した出力上下限制約が新たに加えられる。
本研究では,CGS 発電の余剰電力買取による供給力
3 章と同様に夜間の余剰電力,LFC 容量買取料金を
確保の可能性を電力供給コスト・供給信頼度の両面か
7[¥/kWh],0.1[¥/kW/h]に固定し,昼間の余剰電力,LFC
ら考察するための評価モデルを提案した。試算結果か
容量買取料金を 12[¥/kWh]~15[¥/kWh],0[¥/kW/h]~
ら,CGS 発電の余剰電力買取による供給力確保は,大
5[¥/kW/h]の範囲で変化させた場合の CGS 導入容量を
規模電源の新規建設によるものと遜色ない経済性を持
表 3 に示す。このように需要家の CGS が系統の需給調
つ可能性が示された。また,LFC 容量買取料金を新た
整に参加した場合,LFC 容量買取料金の設定次第では
なインセンティブとして導入し CGS を電力系統の需
余剰電力買取料金が 13[¥/kWh]でも CGS 導入を促すこ
給調整に参加させることで,さらに CGS 余剰電力買取
とが可能となった。
の経済性を向上することも確認できた。
また,4 章と同様に買取料金,Utility による新規電
参考文献
源建設容量をパラメータとして変更させた場合の供給
コストと電力量不足確率 LOEP を評価モデルを用いて
[1]
坂東茂・渡辺裕己・浅野浩志・辻田伸介:
「電力・
算出した結果を図 4 に示す。LFC 容量買取料金を導入
熱負荷特性がマイクログリッドにおける電源シ
により新たに CGS 導入を促すことが可能となった余
ステム機器容量設計に与える影響について」電学
剰電力買取料金が 13[¥/kWh]の場合,14[¥/kWh]の場合
論 B,128,1,pp.67-73(2008)
と比べてさらに経済性が向上していることが確認でき
[2]
R.Billinton et al. : “A Reliability Test System for
る。Utility の LNG 火力の可変費と比べ,CGS の余剰
Educational Purposes – Basic Data”,IEEE Trans.
電力買取料金は約 5.5[円/kWh]大きく,その燃料費と買
Power Systems, Vol.4, No.3, pp.1238-1244(1989)
24