ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ISFJ2013 政策フォーラム発表論文 環境保全型農業の推進1 表示制度の再検討を通して 千葉大学 三枝愛 倉阪研究室 早川陽平 農林水産分科会 穂刈千絵美 2013年11月 1 本稿は、2013年11月30日、12月1日に開催される、ISFJ日本政策学生会議「政策フォーラム201 3」のために作成したものである。本稿の作成にあたっては、倉阪秀史教授(千葉大学)をはじめ、多くの方々か ら有益且つ熱心なコメントを頂戴した。ここに記して感謝の意を表したい。しかしながら、本稿にあり得る誤り、 主張の一切の責任はいうまでもなく筆者たち個人に帰するものである。 1 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ISFJ2013 政策フォーラム発表論文 環境保全型農業の推進 表示制度の再検討を通して 2013年11月 2 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 要約 近代における技術開発や研究により、多種に亘る農薬・化学肥料が生み出され、農業に よって環境に負荷を与えてきた。そのような時代を変えていくため、農家は生産者とし て、農業と環境の関係性について見つめ直し、限りある資源をはじめ、生物の多様性を守 るために尽力すべきではないだろうか。それは単に、環境負荷の少ない方法で栽培された 農産物の生産量を増やすだけではなく、流通に沿わせ、増加した農産物が消費されるシス テムの構築が不可欠となることを意味する。 本稿では、環境保全型農業を普及・促進するために実行すべき政策について、消費者側 の視点と、生産者側の視点という 2 つの方向から考察し、政策提言を行うことを目的とす る。 具体的には、①現在多数の制度が存在する環境保全型農業の表示制度を総括し、国で統 一的かつ効果的な表示制度を作成すること。また、その表示制度と環境保全型栽培に取り 組む生産者への補助金制度を一元化し認証にかかるコストを削減した新制度を作成するこ と、②環境保全型農業で栽培された農産物を購入する消費者へポイントを支給し、環境に 配慮された農産物に接する機会を設け、生産量だけではなく消費量も増加させること、③ 環境保全型農業の表示マークに対する認知度が依然として低いことや消費者が農業の環境 に及ぼす影響に対して正しい認識を持っていない現状を改善するために、積極的な広報活 動を行うこと、④技術的支援など環境保全型農業に取り組みやすくする環境づくりを行う ことについての 4 つを提言する。 本稿の構成は以下のとおりである。 まず第一章は、第一節で農業が環境に与える影響について説明し、自然循環機能や良好 な景観形成等、農業の持つ環境保全上の多面的機能を生かしながら、環境に対する負荷を 減らしていくことために、環境保全型農業が必要になることを述べる。第二節では、日本 の環境保全型農業政策への取り組みの経緯を述べるとともに、まだ環境保全型農業の普及 の道半ばであることから、さらなる政策を打ち出す必要性を示す。 第二章では、現在日本で実施されている環境保全型農業政策を概観することで、今後さ らに環境保全型農業を拡大させるためには、どのような政策が必要になるのか探るための 糸口を探す。第一節では、国の制度とともに、地域においてさまざまな制度が存在する環 境保全型農業の表示制度を整理する。第二節では、平成 23 年度から始まった環境保全型 農業直接支払交付金制度について述べる。 第三章では蔦屋栄一(2007)「わが国有機農業推進法展開の課題―韓国の親環境農業取組 実態を参考に―」『農林金融』pp37~49 農林中金総合研究所と日本有機農業研究会 (2012)『有機農業への消費者の理解増進調査報告』を本稿の方向性を決定づける先行研究 として取り上げ、我々が行ったヒアリング調査とアンケート調査の目的と本稿の独自性を 述べる。 第四章では、我々独自の分析・調査として、有機栽培農家 3 名、環境保全型農産物流通 関係者、千葉県庁、農林水産省へのヒアリング調査、千葉県の消費者、農家を対象とした アンケート調査を行った。これらの調査の目的は日本の環境保全型農業推進における問題 点などを明らかにすることである。第一節では、有機農業者への調査として、熱田忠男氏 3 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 (千葉県匝瑳市熱田農園)、林重孝氏(千葉県佐倉市林農園)、農業法人富士エコパークビレッ ヂ(山梨県南都留郡) 今井雅晴氏に対してヒアリング調査を行った。第二節では、高安和夫 氏(NPO 法人銀座ミツバチプロジェクト理事長)に対してヒアリング調査を行った。第三節 では、千葉県庁を訪問し、農林水産部 安全農業推進課 環境農業推進班の児玉友孝氏と小 倉玲子氏にヒアリング調査を行った。第四節では、農林水産省を訪問し、経営局 経営政 策課 課長補佐の望月光顕氏と生産局 農産部 農業環境対策課 環境直接支払推進係長 新 津泰亮氏にヒアリング調査を行った。第五節では、農産物に関するアンケートを実施し た。対象は千葉県在住の 10 代~60 代の男女である。紙媒体アンケートに記入してもらい 回収した。アンケートの目的は消費者の農業と環境の関係に対する意識、野菜を購入する 際の基準、環境保全型農業に関する認証への認知度、許容価格差などの調査とした。第七 節では調査結果を考察し、以下の分かったことからどんな問題解決のアプローチをするべ きなのか考える。 ・ 新規取組農家への保障制度が不十分 ・ 認証取得のメリットが少ない ・ 農薬使用量などの基準が不適切 ・ 農薬使用量を購入基準にしている人が少ない ・ 環境保全型農業のマークの認知度が他の表示マーク(特保など)に比べて低い ・ 消費者は農業に環境保全や安全性を求める一方で、実際の購買意識・活動では低価 格のものを求める傾向が見られる これらの結果から環境保全型農業を推進していくためには、農家が環境保全型農業に取 り組むことで得られるメリットを創出することで生産量の拡大を図るとともに、基準を適 正なものにすること、消費者からの認知度向上を図ること、環境意識の向上を図ることに よって需要量を拡大していくことが必要であると考えられる。 第五章では、前章であがった課題について問題解決のアプローチとして以下の政策を提 言し、第一~四節でそれぞれの詳細を説明する。 第一節 表示制度統一と環境保全型農業に新規取組農業者への所得補償 第二節 ポイント制度を通した消費拡大 第三節 農業と環境の関係性を周知 第四節 環境保全型農業に取り組みやすくする環境づくり 第一節では、環境保全型農業の表示制度を整理してより消費者にわかりやすい段階わけ された表示制度を創設し、そして新たな表示制度に連動する形での環境補助金制度を提案 する。 第二節では、環境保全型農産物の消費拡大のため外食産業を介した消費者へのア プローチを提案する。まず、環境保全的農産物を取り扱う店であることを証明する表示 マークの使用を導入する。これによって消費者が環境に与える負荷の少ない農産物を使っ ている飲食店を選択し入店することを可能にする。同時に、マーク付農産物を購入する消 費者へポイントを支給することで、環境に配慮された農産物の消費拡大を目指す。第三節 では、農業が環境に与える影響について消費者の理解が不足しており、環境保全型農業の 経営が成り立つことを阻害しているとの認識から、食育など教育を通じた環境意識啓発の 必要性を主張する。第四節では、農薬・化学肥料を減らして栽培する技術を確立させるた めの基盤整備や病害虫に強い有機種苗の開発の援助、無農薬種子の販売など、農業者が環 境保全型農業に取り組むに際して、個人では解決するのが難しい栽培方法や技術に対する 支援が必要であることを踏まえた、環境保全型農業に取り組みやすい環境づくりについて 述べる。 第六章では我々の政策提言の実現性や今後の展望について記述する。 4 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 目次 はじめに 第1章 第1節 第2節 第2章 第1節 第2節 第3章 第1節 第2節 第4章 第1節 第2節 第3節 第4節 第5節 第6節 第7節 第5章 第1節 第2節 第3節 第4節 問題意識 農業の環境に対する影響 環境保全型農業への取り組み 日本の農業の現状 環境保全型農業取組みによって栽培された農産物の表示・認証制度 環境保全型農業に対する補助事業 先行研究 韓国の事例に見る段階分けされた認証 消費者の環境保全型農業への理解 実施調査 有機農業者へのヒアリング調査・分析 環境保全型農産物販売業者へのヒアリング調査・分析 千葉県へのヒアリング調査・分析 農林水産省へのヒアリング調査・分析 消費者へのアンケート調査・分析 農家へのアンケート調査・分析 調査全体への考察 政策提言 表示制度統一と環境保全型農業に新規取組農業者への所得補償 ポイント制度を通した消費拡大 農業と環境の関係性を周知 環境保全型農業に取り組みやすくする環境づくり 第6章 展望・政策の効果 第7章 付録 第1節 第2節 消費者へのアンケート 農家へのアンケート 先行論文・参考文献・データ出典 5 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 はじめに スーパーで買い物をする際、様々なマークを見かける。食品に関するもの、健康に関す るもの、集めると景品がもらえるものと、種類は実に多様である。とくに農産物に関する 商品には「特別栽培農産物」、「有機 JAS」、「○○さんが作った△△」などマークがた くさんあり、それらが環境にやさしいのだろう、安全なのだろうとは感じるものの、どの マークが最も環境保全に貢献しているのか、人体に安全なのかは分からない。スーパーに 限らず飲食店でも「協力農家で栽培した△△」、「おいしい」、「安全な野菜」の文字を 多く目にするが、実際にそれはどれくらいの農薬・化学肥料を削減しているのだろうか。 これは一人の消費者として実際に買い物や食事をするときに感じたことであり、現状にお いて環境にやさしい農産物を正確に選択し、消費できる環境が整っていないことが分か る。 農薬・化学肥料が開発された近代以降、世界各地に農業によってもたらされた環境問題 が存在する。そのような時代の中、農家は生産者として、農業と環境の関係性について見 つめ直し、限りある資源をはじめ、蛍やトンボなど本来その場所に生息する生物の多様性 を守るために努める必要がある。 ただし環境保全型農業を推進するにしても、環境負荷の少ない方法で栽培された農産物 の生産量を増やすだけではなく、流通に上手く乗せ、増加した農産物が消費されるための 一本のラインも同時に形成されなければならない。しかし現状では生産者を支援する制度 も、流通を促す仕組みも、上述した消費のための対策も不十分なのではないか、という考 えのもと、本稿では生産者・消費者・行政・流通関係者へのヒアリング・アンケート調査 に基づいた、認証・表示制度を活用した生産・流通・消費拡大のための政策を考察し、提 言したい。 第 1 章では問題意識として農業が環境に与える影響をまとめ、耕作面積当たりの農薬使 用量と有機農業の農地面積を他国と比較する。第 2 章では現在日本で行われている環境保 全型農業政策の概要を説明する。第 3 章では先行文献として、他国における段階分け認証 と、日本国内の環境保全型農業に対する理解推進についての 2 つの論文を記載する。第 4 章では我々が行ったヒアリング、アンケート調査のまとめと分析を行う。第 5 章では政策 提言として前章の分析に基づき、認証・表示の統一制度と補助金制度を連動させた新制 度、購入者へのポイント制度と、教育を通じた環境意識の啓発、その他環境保全型農業に 取り組みやすくする体制作りについて記述し、それによる効果を説明する。 6 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第1章 問題意識 第1節 農業の環境に対する影響 農業は農産物を生産し、私たちの生活の基礎として大きな役割を担ってきた。また、農 業は自然循環機能を有しており、適切な農業生産活動は、農地等において良好な二次的自 然環境(人間活動によって創出されたり、人が手を加えたりすることで管理・維持されて きた自然環境のことである。里地里山を構成する水田やため池、雑木林、また、採草地や 放牧地などの草原などがこれにあたる。)を形成するとともに、自然環境の保全、良好な 景観形成等、環境保全上の多様な機能を発揮する面を有している。一方、農薬や化学肥料 といった近代農法が農業生産を大きく発展させたが、農薬や化学肥料等の不適切な利用や 管理等は、環境への負荷や二次的自然環境の劣化を招いてきた。例えば、不適切な施肥 は、河川や地下水等の水質汚染・富栄養化を招くおそれがあるほか、温室効果ガスである 一酸化二窒素の発生、土壌劣化等、環境へ負荷をかけるリスクがあるし、農薬は生物多様 性に影響を与え、使い方を誤れば農業者自身や消費者に被害を及ぼす。2 近年では、日本を含めた世界各地でミツバチの大量失踪・大量死が起きている問題 (「蜂群崩壊症候群(CCD)」)の原因としてネオニコチノイド系農薬が指摘されている。3 また、ネオニコチノイド系農薬は人体にも被害をもたらすとする報告もある。 4 欧州連合 (EU)の欧州委員会は予防原則の観点から原因の一つとされるネオニコチノイド系の殺虫剤 3 種類の使用を 2013 年 12 月から EU 全域で禁止することを決定しているが、日本では、 ミツバチの減少とネオニコチノイド系農薬との科学的な因果関係が明らかでないとして、 使用中止などの規制はまだされていない。5 ネオニコチノイド系農薬に限らず、農薬の人体・環境への影響には解明されていないも のが多いが、重大な悪影響を及ぼす可能性は存在するため、規制や措置を施すべきとする 予防原則の考え方6を取り入れ、できる限り農薬に依存する農業からの転換を図っていくこ とが重要である。農業の多面的機能については貨幣評価も行われている。(図 1)7 たと 農林水産省「平成 24 年度 食料・農業・農村白書」 (http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h24_h/trend/part1/chap3/c3_8_01.html) 2013/9/10 データ取得 3 山田敏郎・山田和子・和田直樹(2012)「ジノテフランとクロテアニジンの蜂群に及ぼす影響」The Japanese Society of Clinical Ecology, Vol.21, No.1 4 平久美子・青山美子(2006)「2005 年に一定地域のネオニコチノイド系および有機リン系殺虫剤散布後自覚症状を訴 え受診した患者の心電図所見とその季節変動」『臨床環境医学』第 15 巻 2 号 平久美子・青山美子(2011)「ネオニコチノイド系殺虫剤の代謝産物 6-クロロニコチン酸が尿中に検出され亜急性ニ コチン中毒様症状を示した 6 症例」『中毒研究』第 24 巻 3 号, 5 農水省「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(Q&A)」 (http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_mitubati/qanda.html#q2) 2013/9/10 データ取得 6 環境破壊に伴う被害の重大性が科学的に完全には分かっていなくても、予防的に対策をとることが社会にとって耐え られないほど大きな費用にならないのであれば、予防対策を実施することは価値があり正当化されるという考え方 7 農業の多面的機能のうち、物理的な機能を中心に貨幣評価が可能な一部の機能について、日本学術会議の特別委員会 等の討議内容を踏まえて評価を行ったものである。機能によって評価手法が異なっていること、また、評価されて いる機能が多面的機能全体のうち一部の機能にすぎないこと等から、合計額は記載していない。保健休養・やすら 2 7 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 えば、田畑の貯水機能による洪水防止機能は治水ダムなどで代替しようとすると年間約 3 兆 5000 億円のコストが発生する。河川流況安定機能を利水ダムで代替しようとすると、 年間 1 兆 4633 億円の費用がかかる。その金額は莫大であり容易に代替するのは困難であ るから、農業の持つ多面的機能を維持・向上させていかなければならない。一方で、先に 述べたように農業には環境に負荷を与えている側面があるのも事実であるから、環境への 負の影響を減らしながら、多面的機能を活用しなければならない。 農業の多面的機能の貨幣評価の試算結果(図 1) 機能の種類 洪水防止機能 評価額 3 兆 4,988 億円/年 河川流況安定機能 1 兆 4,633 億円/年 地下水涵養機能 537 億円/年 土壌侵食(流出)防止機能 3,318 億円/年 土壌崩壊防止機能 4,782 億円/年 有機性廃棄物分解機能 123 億円/年 気候緩和機能 87 億円/年 保健休養・安らぎ機能 2 兆 3,758 億円/年 評価方法 水田及び畑の大雨時における貯水能力 を、治水ダムの減価償却費および年間維 持費により評価(代替法) 水田の灌漑用水を河川に安定的に還元 する能力を、利水ダムの減価償却費およ び年間維持費により評価(代替法) 水田の地下水涵養量を水価割安額(地 下水と上下水道の利用額の差額)により 評価(直説法) 農地の耕作により抑止されている推定 土壌侵食量を、砂防ダムの建設費用によ り評価(代替法) 水田の耕作により抑止されている土壌 崩壊の推定発生件数を、平均被害額によ り評価(直説法) 都市ご み、汲 み取 りし尿 、浄 化槽汚 泥、下水汚泥の農地還元分に最終処分場 を建設して最終処分した場合の費用によ り評価(代替法) 水田によって 1.3℃の気温が低下する と仮定し、夏季に一般的に冷房を使用す る気域で、近隣に水田がある世帯の冷房 料金の節減額により評価(直説法) 家計調査の中の、市部に居住する世帯 の国内旅行関連の支出項目から、農村地 域への旅行に対する支出額を推定(家計 支出) 出典:日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)」 (株)三菱総合研究所「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価に関する調査研究報 告書」より作成。8 これまで述べてきたことからわかるように、農業の持つ環境保全上の多面的機能を活用 しつつも、農薬や化学肥料による環境への負荷を軽減し、人体への健康被害を減らしてい くためには、環境保全型農業9が普及し、農業が持続可能なものになる必要がある。 8 日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申)」 (http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/shimon-18-1.pdf) 2013/10/31 データ取得 (株)三菱総合研究所「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価に関する調査研究報告書」 (http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/shimon-18-1.pdf) 2013/10/31 データ取得 9 農林水産省では農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥 料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」として平成 4 年から推進。 8 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第2節 環境保全型農業への取り組み 日本では、一部の農業者や消費者の農産物の安全に対する意識の高まりから生産者と消 費者主導で有機栽培等の環境に優しい農業は発展してきたが、農林水産省は平成 4 年に初 めて環境保全に資する農業の推進を提唱し、10 その後、「農業の持つ物質循環機能を生か し、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等によ る環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」を環境保全型農業と位置づけ、全国的に推進 していくことを打ち出した。11 図 2 は我が国における環境保全型農業関連政策の動きをま とめた年表である。平成 4 年以降、表示ガイドラインが整備され、1999 年には、減農 薬・減化学肥料・土づくりに取り組む農業者をエコファーマーとして認定する持続農業が 制定された。2000 年には混乱していた有機農産物の表示を適正化するために、有機 JAS 制度が開始された。2006 年には有機農業を国として推進していくことを定めた有機農業推 進法が施行され、2011 年に、環境保全に資する農法に取り組む農業者を支援する環境保全 型農業直接支払対策がはじまった。 環境保全型農業に係る社会情勢12(図 2) 年(平成 ) 1992(H4) 月 6 1994(H6) 1996(H8) 1999(H11) 10 4 12 7 2000(H12) 3 2001(H13) 2005(H17) 4 3 2006(H18) 2007(H19) 12 3 7 10 10 10 9 10 4 6 2008(H20) 2009(H21) 2010(H22) 2011(H23) 2012(H24) 10 「新しい食料・農業・農村政策の方向」の中で、土づくり等を通じ て、化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的 な農業を環境保全型農業と位置づけ全国的に推進。 「有機農産物等に係る青果物等特別表示ガイドライン」制定 環境保全型農業推進本部を設置(農林水産省) 「有機農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」改訂 「食料・農業・農村基本法」成立 「持続性の高い農業生産方式の導入 の促進に関する法律」成立 「食料・農業・農村基本計画」閣議決定 「有機農産物のJAS規格」制定 「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」改訂 「食料・農業・農村基本計画」改訂 「環境と調和のとれた農業生産活 動規範(農業環境規範)」策定 「有機農業の推進に関する法律」が成立 「農地・水・環境保全型向上対策」導入 「農林水産省生物多様性戦略」策定 「今後の環境保全型農業に関する検討会」(~H20.3 月) 「地力増進基本方針」の一部改正 「農林水産分野における生物多様性戦略の強化」の提言 エコファーマーネットワークの設立 生物多様性条約第 10 回締約国会議(COP10)の開催 「環境保全型農業直接支払対策」の導入 リオ+20(国連持続可能な開発会議)の開催 農水省「新しい食料・農業・農村政策の方向」(新政策) 平成 4 年 6 月公表 http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo02/newblaw/hoko.html) 2013/9/10 データ取得 農水省「環境保全型農業の基本的考え方」平成 6 年 4 月公表 (www.library.maff.go.jp/GAZO/00151045/00151045_01.pdf) 2013/9/10 データ取得 12環境保全型農業推進会議「全国環境保全型農業推進会議とは」(http://www.ecofarmnet.jp/01about/index.html) 2013/9/10 データ取得 11 9 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 図 2 のように、1992 年から 20 年以上にわたって環境保全型農業を推進する施策がとら れてきたが、環境保全型農業の普及は未だに不十分である。主要国における耕地面積当た りの有効成分換算農薬使用量でみると、日本の農薬使用量は、先進国の中では高い水準に あり、ほかの温帯・熱帯気候の国と比較すると、我が国が温暖多雨な気候であることを考 慮しても、まだ削減の余地があると考えられる。(グラフ 113) また、有機農業経営の農地面積比率についてみても、OECD 諸国の中で、日本は 0.2% 2) 14で依然低い水準にあり、有機農業の普及が不十分であると考えられる。(グラフ OECD(2013),OECD Compendium of Agri-environmental Indicator15ただし、2004 年は OECD database: Environmental Performance of Agriculture in OECD countries since 199016 以上に挙げた主要国との比較からわかるように、日本の環境保全型農業に対する政策は 効果が十分に上がっているといい難い。したがって、いかにして日本の環境保全型農業政 策をより実効性のあるものにするのかという点に我々の問題意識はある。 13 FAOSTAT, Active ingredient use in Arable Land & Permanent Crops (tonnes per 1000 Ha) (http://faostat3.fao.org/faostat-gateway/go/to/download/E/EP/E) 2013/10/30 データ取得 農水省「平成 23 年度有機農産物等の格付実績」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/jiseki_h23_250213r.pdf ) 2013/9/10 データ取得 15(http://www.oecd.org/tad/sustainable-agriculture/agri-environmentalindicators.htm) 2013/10/30 データ取得。 16(http://www.oecd.org/fr/croissanceverte/agriculturedurable/environmentalperformanceofagricultureinoecdcountriessince1990.htm) 2013/10/30 データ取得 14 10 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第2章 日本の環境保全型農業政策 以下、現在行われている環境保全型農業に関する政策を概観する。ただし、地域ごとの 取り組みについては千葉県で行われているものを中心に取り上げることとする。 第1節 環境保全型農業の取り組みによって栽培された農 産物の表示・認証制度 有機 JAS 農林水産省では、農林物資の品質の改善、生産の合理化、取引の単純公正化及び使用又 は消費の合理化を図るため、農林水産大臣が制定した日本農林規格(JAS規格)による 検査に合格した製品に JAS マーク(図 3)を付けることができる「JAS 規格制度」を定め ているが、そのうち、有機農産物、有機加工食品、有機飼料及び有機畜産物の 4 品目につ いて、有機 JAS 規格が定められており、有機 JAS 規格に適合した生産が行われているこ とを農林水産大臣が登録された登録認定機関が検査により認定されることで有機 JAS マー クを農産物等に表示することができる。また、有機 JAS マークがない農産物と農産物加工 食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付す ことは「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」12 条で禁止されており、 違反者には罰則が科せられている。 なお、有機 JAS は、コーデックスガイドライン17に準拠して定められたものであり、 米、欧、豪、等の諸外国においても、我が国と同様にコーデックスガイドラインに準拠し た制度である。したがって、海外で生産された有機農産物であっても、同等性が認定され たものについては有機 JAS マークを付して販売することが可能である。(平成 25 年 4 月 現在、有機農産物に関し、同等性を有している国としては、EU 加盟 27 カ国、オーストラ リア、アメリカ合衆国、アルゼンチン、ニュージーランド及びスイスが農林水産省令で指 定されている。)18 野菜における有機 JAS 取得件数は伸びているものの、そのほかの作 物では取得件数が伸び悩んでいる。(グラフ 3) 図 3:農林水産省「有機食品の検査認証制度」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/img/yuuki.jpg) 2013/9/11 データ取得 消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963 年に FAO 及び WHO により設置された国際的 な政府間機関であり、国際食品規格の策定等を行っているコーデックス委員会が 1999 年に採択した「有機的に生 産される食品の生産、加工、表示及び販売に係るガイドライン」 (http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/codex/standard_list/pdf/cac_gl32a.pdf) 18 農林水産省消費・安全局「有機食品の検査認証制度について」, (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/250411-yuki-kensa-seido.pdf) 2013/9/11 データ取得 17 11 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 農林水産省「国内における有機農産物の格付実績の推移」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/jiseki_h13_h23.pdf ) 2013/9/11 データ取得 エコファーマー エコファーマーとは、平成 11 年 7 月に制定された「持続性の高い農業生産方式の導入 の促進に関する法律(持続農業法)」第 4 条に基づき、減農薬、減化学肥料、土づくりに ついて「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」(導入計画)を都道府県知事に 提出して、当該導入計画が適当である旨の認定を受けた農業者(認定農業者)の愛称名で ある。エコファーマーになると、認定を受けた導入計画に基づき、農業改良資金の特例措 置が受けられる。なお、エコファーマーは全国環境保全型農業推進会議が制定したエコ ファーマーマーク(図 4)が使用できたが、平成 23 年 3 月末をもって、マークの商標権を 譲渡された 17 都道府県を除いて、使用できなくなった。19 使用停止の理由はマーク管理 が不徹底であり適正なマーク運用を図るのが難しくなったためである。(グラフ 4) 図 4:全国環境保全型農業推進会議「エコファーマーマークについて」 (http://www.ecofarm-net.jp/05ecofarmer/images/091111_a.jpg) 2013/9/11 データ取得 農林水産省「持続性の高い農業生産方式導入計画の認定状況」 (http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_eco/pdf/ef.pdf)2013/9/11 データ取得 19 茨城県、東京都、神奈川県、長野県、富山県、福井県、静岡県、愛知県、滋賀県、京都府、兵庫県、鳥 取県、島根県、香川県、愛媛県、鹿児島県、沖縄県にマークの商標権が譲渡され、今後は 17 都府県に よる運用されることとなった。全国有機農業推進会議 HP , http://www.ecofarm-net.jp/05ecofarmer/index.html#03 12 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 特別栽培農産物 農水省の定める「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に基づいて、地域の慣行レ ベルより、節減対象農薬の使用回数が 50%以下、化学肥料の窒素成分量が 50%以下で栽 培された農産物である。都道府県によっては、県独自のマークを作成し、併せて表示して いる場合もある。(図 5,6,7,8) 図 5:青森県 図 6:埼玉県 図 7:和歌山県 図 5:青森県「青森県特別栽培農産物認証制度」 (http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/sanzen/img/tokusai_miho n.gif) 2013/9/10 データ取得 図 6:埼玉県「埼玉県認証特別栽培農産物」 (http://www.pref.saitama.lg.jp/uploaded/image/376379.gif ) 2013/9/11 データ取得 図 7:和歌山県「和歌山県特別栽培農産物認証制度」 (http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070300/071400/tokusai/image/ mark.jpg)2013/9/11 データ取得 図 8:新潟県 図 8:新潟県「県特別栽培農産物認証制度」 (http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_TopRight/541/131/imgKen2.GIF ) 2013/9/11 データ取得 ちばエコ農産物 千葉県独自の環境保全型農業に対する認証である。千葉県が定める標準的な技術基準に 比べて農薬や化学肥料を 1/2 以上低減し、栽培に関する履歴の記帳と情報公開を行う等の 基準を満たすことで認定され、ちばエコ農産物のマーク(図 9)を使用することができ る。20 また、ちばエコ農産物の安定供給のため、ちばエコ農業産地の指定も行っている。 ちばエコ農産物の栽培件数は制度開始から 10 年を迎え、伸び悩んでいる。(グラフ 5) 図 9:千葉県「ちばエコ農業情報ステーション」 (http://www.pref.chiba.lg.jp/annou/eco- jouhou/images/ninsyou.gif) 2013/9/11 データ取得 20 千葉県「ちばエコ農業の推進について」 (https://www.pref.chiba.lg.jp/annou/eco-jouhou/saibaikijun.html) 2013/9/10 データ取得 13 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 (千葉県庁作成資料を参考に作成) もっと安心農産物 JA 千葉グループ千葉が運営する認証システムで、①土づくりについては原則として、 作付け前に土壌分析を実施し、腐植に富み、養分バランスの良い、土壌条件を確保し、適 量の施肥を行うことが求められる。②農薬に関しては栽培に必要な最小限の農薬と散布回 数を考慮して、統一栽培暦を作成し、作成した統一栽培暦に記載された以外の農薬使用は 禁止される。さらに、耕種的防除等代替技術を活用し、化学合成農薬の使用を可能な限り 削減すること等の基準を満たすことが必要である。③化学肥料については統一栽培暦によ り、使用肥料を統一し、施用化学肥料の窒素成分量は「千葉県主要作物等施肥基準」(平成 6 年 3 月)による窒素施肥記載量の50%以下とこと等の基準21を満たすことで認定され、 マークが使用できる。(図 10) 図 10:JA グループ千葉「もっと安心農産物のご紹介」 (http://www.ja-cb-mottoanshin.com/image/gaiyou/sikumi- sample7.gif) 2013/9/11 データ取得 ここまでみてきたように、環境保全型農業に対する認証・表示制度は複数存在し、全国 の都道府県や農協、事業者も独自に環境保全型農業に対する表示制度を展開している。創 設から一定の時間が過ぎ、認定件数は伸び悩んでいるものも多い。以下に、ここで紹介し た制度の概要をまとめておく。(表 1) 21 J A グ ル ー プ 千 葉 「 『 も っ と 安 心 農 産 物 』 生 産 ・ 販 売 運 動 推 進 要 領 」 (http://www.ja-cbmottoanshin.com/b-gaiyou/yoryou070201.pdf) 2013/9/10 データ取得 14 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 制度名 有機 JAS 規格 特別栽培農産物 導入年度 平成 12 年 6 月 平成 4 年 10 月 制度区分 JAS 法に基づく認証制度 農水省表示ガイドライン 認定審査 登録認定機関 確認責任者(生産者が定める) 機関 (農林水産大臣登録・認可) 認定等の 登録認定機関(第三者機関)が書類審査及び実地 生産者みずから確認責任者を定め、書類調査及び現 方法 検査により申請者を認定する。(認定後も最低年 地確認(栽培期間中 1 回以上確認)。申請品目を 1 回調査) 認証する。 化学肥料を使用しない。 化学肥料(窒素成分)は慣行農業の 1/2 以下 肥料 ・生産圃場では生産開始 2 年以上(永年性作物は 3 年以上)化学肥料・化学合成農薬を不使用。 農薬 節減対象農薬の使用回数は慣行の 1/2 以下 化学合成農薬を使用しない。 ・生産圃場では生産開始 2 年以上(永年性作物は 3 年以上)化学肥料・化学合成農薬を不使用。 土づくり 必須:土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮 必須:土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮 情報開示 生産履歴記帳は義務付けられている。 生産履歴記帳は義務付けられている。公開原則。 制度名 エコファーマー ちばエコ農産物 導入年度 平成 11 年 7 月 平成 14 年 4 月 制度区分 持続農業による知事認定 千葉県認証制度 認定審査 認定委員会(農業事務所) 地域審査会(農業事務所) 認定等の 「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する ①栽培計画の審査②申請書類及び出荷前の現地確 方法 法律」に基づき、「減農薬」「減化学肥料」「土づ 認 くり」の 3 つの技術を導入する計画を県(農業事務 証) 機関 を県(農業事務所)が実施。(申請品目を認 所)が認定。 肥料 化学肥料低減技術の導入 化学肥料(窒素成分)は慣行の 1/2 以下 農薬 化学農薬低減技術 化学合成農薬の使用回数は慣行の 1/2 以下 土づくり 土づくり技術の導入 堆肥施用等の土づくりは必須(養液栽培は、廃液 の適正処理の実施) 情報開示 千葉県ホームページで詳細開示 制度名 もっと安心農産物 導入年度 平成 14 年 11 月 制度区分 JA 全農の登録制度 認定審査 JA グループ千葉 機関 「もっと安心農産物」検査委員会 認定等の ①計画審査②出荷前の生産工程検査(現地確認) 方法 ③集・出荷検査(出荷期間中) を検査委員会が 実施(申請品目を登録) 肥料 化学肥料(窒素成分)は慣行の 1/2 以下 農薬 化学合成農薬の使用を可能な限り削減 ・栽培に必要な最小限の農薬と散布回数を考慮し た統一栽培暦の作成 土づくり 土壌分析結果を反映した土づくり 情報開示 ホームページで概要開示。個人・技術情報は取引 表 1(千葉県庁ヒアリング時頂戴した資料を参 考に作成) 先から要求があれば書面で提供。 15 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第2節 環境保全型農業に対する補助事業 環境保全型農業直接支援対策(環境保全型農業直接支払交付金) 平成 23 年度から、農業者等が化学肥料・化学合成農薬の5割低減の取組とセット地球 温暖化防止を目的とした、農地土壌への炭素貯留に効果の高い営農活動や生物多様性保全 に効果の高い営農活動に取り組む場合に支援を行う環境保全型農業直接支援対策を開始し た。①主作物についてエコファーマー認定を受けており、22 ②農業環境規範に基づく点検 を実施している者で、①化学肥料及び化学合成農薬の使用を都道府県の慣行レベルから原 則として5割以上低減する取組(「5割低減の取組」)と、②地球温暖化防止や生物多様 性保全に効果の高い営農活動を行うことなどが要件となっている。支援単価は取組内容に よる。(表 2) カバークロップ 8,000 円 炭素貯留効果の高い堆肥の水 4,400 円 全国共通取組 質保全に資する施用 有機農業(うちそば等雑穀・ 8,000 円 飼料作物) (3,000 円) 対象取組や支援単価は承認を受けた都道府県によって異な 地域特認取組 る。 表 2:支援対象取組と支援単価 (平成 25 年度環境保全型農業直接支払交付金パンフレットより作成) 22 ①共同販売経理を行う集落営農②導入指針が定められていない主作物③有機農業の取組(都道府県の導 入指針に定められた技術、都道府県が定めた技術)については特例措置があり、交付金を受けられる。 16 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第3章 先行研究 本稿の方向性を決定するうえでここでは特に 2 つの研究を取り上げる。 第1節 韓国の事例に見る段階分けされた認証 蔦屋栄一(2007)「わが国有機農業推進法展開の課題―韓国の親環境農業取組実 態を参考に―」『農林金融』pp37~49 農林中金総合研究所 本稿の第一章でもみたように総じて欧米は有機農業をはじめとした環境保全型農業が日 本比べ、普及定着しているといえるが、日本とは気候が大きく異なるため、日本の環境保 全型農業政策を考える上では、同じ温帯モンスーン地帯にあり、1997 年に環境農業育成法 を成立させ、99 年からはこのための直接支払いを開始するなど、日本に先行した取組みを 展開している韓国を参考にすることが有益である。 韓国では、有機栽培から低農薬栽培までを親環境農業として段階的にレベルアップをは かり、環境直接支払いの拡充等の政策が行われている。こうした政策は親環境農産物の増 加に効果を見せているが、販売能力が追いつかず価格低下を招いていること、稲作・畑作 は有機農業技術確立の目途が立ちつつあるものの、果樹については技術開発が困難に直面 するなどの課題を抱えている。 韓国の事例から、①段階わけをして、有機農業から減農薬・減化学肥料農業までの環境 保全型農業全体の中で適切に位置づけ、慣行農業者が環境保全型農業へ取り組むことを促 すとともに、すでに環境保全型農業に取り組んでいる農家がより環境に負荷をかけない農 業形態へ進むことを評価するような認証制度や補助金制度を構築することが、環境保全型 農業を普及させるうえで有用であることと同時に②供給の面からだけでなく需要サイドか らのアプローチをし、消費者の支持を得ない限りは環境保全型農業が本当に定着すること はできないということがわかる。 第2節 消費者の環境保全型農業への理解 日本有機農業研究会編(2012)『有機農業への消費者の理解増進調査報告』日本 有機農業研究会 この調査報告はインターネット上で 2000 人の一般消費者を対象に実施されたアンケー ト調査の報告である。本報告の中では、「有機農業(オーガニック含む)という語を聞い たことがある人は、93.5%(1,870 人)にのぼり」とあり、有機農業という言葉自体は幅 広く認知されていることが確認された一方で、「40.6%の回答者が、化学肥料も合成農薬 も原則として使用しないことを理解していたが、その他の回答者は、「わからない」 (34.4%)か、あるいは間違った回答を選択しており、知識の浸透が十分でないことが明 らか」とあった。また、有機 JAS 規格についての認識と理解については、「有機 JAS 17 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 マークを知らない人が、55.1%と半数を超えている一方、その内容まで理解している人 は、4.3%に過ぎなかった。」とあるが他方で、今後の購入意欲についてみると、「現状で 良い」(49.2%)と答えた回答者が最も多いが、「増やしたい(購入したことがない場 合、購入するようにしたい)」という回答も 24.2%あった。「購入を減らしたい」、ある いは「購入しない/購入をやめる」という回答は、合わせても 45 人(2.3%)であっ た。 この調査報告によれば、有機農業の用語自体は聞いたことがあっても、その重要性や農 業が環境に与える影響についての知識を消費者が持ち合わせていないことが有機農業に対 する消費者の支持が実際の購買行動として現れない大きな原因であると考えられる。加え て、有機 JAS マークがその知名度の低さやから、有機農産物に一定の関心がある消費者の 適切な選択を妨げていると考えられる。 この調査報告は有機農業に関するものであるが、環境保全型農業全般についても同様の 傾向があると考えられる。(この点については我々が実施したアンケート調査が次章で明 らかにする。) 以上、2 つの先行研究から、農業者が環境保全型農業へ取り組みやすい環境を作る供給 サイドからの政策と消費者が環境保全型農業で生産された農産物を手に取るようにさせる 需要側へのアプローチの両方が必要なことがわかる。 そして、現行の政策では環境保全型農業の需要と供給の両者に対する働きかけが不十分 である。現行制度よりも環境保全型農業の普及を促進できる政策を検討するにあたり、 我々は各方面に対するヒアリング調査とアンケート調査を実施することにした。実施調査 の内容と分析については次章で詳しく述べる。 また、有機 JAS 制度をはじめとした認証・表示制度の問題点について言及する論文は多 いが、具体的にどのような制度を設計すべきかまで踏み込んだものは少なく、我々の論文 の独自性はここにあると考えられる。 18 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第4章 実施調査・分析 この章では、有機農業者へのヒアリング調査、環境保全型農産物販売業者へのヒアリング 調査、千葉県へのヒアリング調査、農林水産省へのヒアリング調査、消費者へのアンケー ト調査、農作物生産者へのアンケートといった手法による分析結果について言及する。 第1節 有機農業者へのヒアリング調査・分析 我々は平成 25 年 5 月 18 日、8 月 24 日に熱田忠男氏、7 月 14 日に林重孝氏、8 月 28 日 に農業法人富士エコパークビレッヂに対して環境保全型農業推進のための問題点などにつ いてヒアリング調査を行った。 (1) ヒアリング対象について ①熱田忠男氏(千葉県匝瑳市熱田農園) 完全無農薬・無化学肥料の米・野菜を、まだ有機農業という言葉が一般的でなかっ た 1975 年から生産しており、無農薬野菜の消費者団体「菜っ葉の会」を主宰する とともに、数十カ国の外国人研修生を受け入れ指導してきた実績がある方である。 ②林重孝氏(千葉県佐倉市林農園) 1980 年から千葉県佐倉市で有機農業をはじめ、09 年環境保全型農業全国コンクー ル農林水産大臣賞受賞された方である。NPO 法人日本有機農業研究会副理事長、 有機 JAS 認定機関有機農業推進協会常務理事、NHK 文化センターユーカリが丘教 室の講師も務められている。 ③今井雅晴氏(山梨県南都留郡 農業法人富士エコパークビレッヂ) 富士エコパークビレッヂとは敷地面積約 9,000 坪のエリアでパーマカルチャー23と いうオーストラリアのライフスタイルを創造し提唱している施設である。有機農法 をつかった食の循環にも取り組んでいる。 (2)ヒアリングの調査内容 ① 熱田忠男氏 ・ 有機 JAS 認証は、検査・認証にかかる金銭的コストが大きく、申請のための記録 などの手間も非常に煩雑である。また別表と呼ばれる許可資材リストが存在し、そ こで農薬の使用が認められるなど、基準が低い。消費者と提携関係を結んで販売す るような有機農業者にとっては認証をとるメリットがない。 ・ 環境保全型農業直接支払交付金の申請も手続きが煩雑。 ・ 外食産業に卸していたこともあるが、最初の顧客集めとして利用されて、固定客を つかんだ後には契約を切られてしまった。 23 パーマカルチャーとは、人間にとっての恒久的持続可能な環境をつくり出すためのデザイン体系のこと。 PERMACULTURE「パーマカルチャーとは」 (http://www.pccj.net/aboutpc/aboutpc/pages/000008.html) 2013/9/12 19 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ② 林重孝氏へのヒアリング ・ 有機農業で大事なのは消費者と“提携”関係をむすぶこと。提携関係による契約は収 入を安定させる。行政には生産者が提携相手を見つけられるような仕組みを作ってい くことを望む。消費者直の提携関係のほかにも、らでぃっしゅぼーや、大地を守る会、 CSA、などの企業との契約の道もある。 ・ 有機農業は取り組み開始から 5 年は収量が安定しないため、新規取組者への補助が必 要である。 有機 JAS について ・ 認証は不特定多数の消費者に売るときには必要だが、生産者と消費者の間に信頼関係 が存在するような販売形態では必要ない。申請のための記録などの手間も非常に煩雑 で生産者への大きな負担になる。 特別栽培農産物、ちばエコなどについて ・ 農薬・化学肥料の 5 割削減の基準は、地域の慣行の使用量である。近年は栽培技術の 発展によって慣行栽培においても農薬・化学肥料の使用量は大幅に減少している。し かし都道府県ごとに基準となる慣行栽培の設定年度が異なるため、認証を受けていた としても品質が担保されているとは言い難い。 ・ とりわけちばエコの慣行農業の農薬使用基準は古く、あてにならない。 ③ 今井雅晴氏へのヒアリング ・ 有機農業を始めて 15 年になるが、いまだに上手く野菜がつくれない。有機農業は非 常に難しい。 ・ 売ろうと思っても、見た目があまりよくないので消費者が購入してくれない。本当は 見た目以上の商品価値があるということが伝わらない。 ・ 有機農業をするためには、周辺の農地からの影響を受けないようにするために緩衝地 帯を設けなければならず、作付面積が減ってしまう。日本は一戸当たりの農地面積が 小さいため、作付面積減の影響が大きい。 (2) 有機農業者へのヒアリング調査まとめ 以上のヒアリングからわかったこととは、 ・ 有機野菜をつくっても、商品価値が正しく評価されない ・ 国の環境保全型農業に関する政策は、認証・表示制度が先行しており、環境保全型 農業を推進させるための制度整備が遅れている。 ・ 日本の有機農業とは産消提携型24で発展してきたが、このように消費者と信頼関係が 築けて一般市場を介さず販売するスタイルでは認証や表示が必要ない。表示以外の 支援策が必要 ・ 有機農業を始めてから約 5 年は収量が安定しないため、新規取組み者に対する所得 補償をより拡充させるべき。 ・ 各種認証制度(有機 JAS など)は検査費用、記録義務などの農家の負担が多い県設定 の環境保全型農業の農薬使用量の設定が適切ではないため、その品質が担保されて いない (特別栽培農産物、ちばエコ農産物など) 24 産消提携とは生鮮食料品の流通を市場にゆだねずに,農協・漁協などの生産者集団と消費者集団の直 接的な結びつきによって行い,安全性の確保,適正な価格協議などをめざす運動。 Kotobank「大辞林 第三版の解説」 (http://kotobank.jp/word/%E7%94%A3%E6%B6%88%E6%8F%90%E6%90%BA) 20 2013/9/12 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第2節 環境保全型農産物流通関係者へのヒア リング調査・分析 我々は平成 25 年 10 月 25 日に訪問し、理事長の高安和夫氏にヒアリング調査を行っ た。そこでは、高安氏が環境保全型農業を推進するにことを決めた契機、銀座ミツバチプ ロジェクトが進めているマーク制度、マーク認証の課題についてお話を伺った。 (1)ヒアリング対象について 高安和夫氏(特定非営利法人銀座ミツバチプロジェクト 理事長) 「銀座農業塾」を開講し、塾長として次世代の農業の担い手を育成する。2009 年エコ ジャパンカップ環境ニューディール政策提言優秀賞受賞。2010 年茨城農政審議会農業改 革委員に就任。10 年一般社団法人日本在来種みつばち協会を設立し、代表理事に就任。 2010 年 NPO 法人銀座ミツバチプロジェクトが環境大臣表彰受賞。12 年農林水産大臣よ り「食と地域の絆づくり」優良団体に選定される。 (2)ヒアリング調査内容 現行農業政策について ・1~3%の割合まで有機生産者を増やさないと、消費者に認知されにくく、流通に乗らな い。社会的インパクトが足りない。 ・海外と比べて取組農家が少ないのだから減減農家まで範囲を拡大して環境保全型農業を 推進することが大事。 環境保全型栽培をはじめた契機 ・農薬は使わない方が農家にとっても良い。長野のリンゴ農家出身の国会議員 篠原孝の 経験例 農家の母親が、農薬頒布だけは子供にさせないでくれというほど危機感を持っ ている。 ・農薬の空中散布は人体にも影響をおよぼす(山間部の子供の脳神経への影響がある) ・作物の品種改良は、農薬の使用が前提となっているため、消費者に需要がある農作物を 環境保全型で栽培することが難しい。 ・都会の人が癒しを求めて、また子供が農業体験として農村に来ることで地域経済が活性 化する(参考:英国の環境保全型農業推進の運動)という可能性があるため、本来の自然 の姿を農薬の使用で失ってはならない。 ・都会人は農村部の環境に対してもっと責任を持つべきであり、環境保全型農産物を消費 することで、環境保全に寄与していくべきである。 ・ネオニコチノイドの問題は、被害があることを把握していながらもすぐに禁止せず、被 害を拡大してしまったという薬害エイズの問題と通じるところがある。 マーク認証・基準について課題 ・欧州でも7種類あるネオニコチノイド中の成分のうち、3 成分しか禁止していない。 ・国や企業が積極的に農薬の毒性について研究すべき ・作物によってはネオニコチノイドを使用しないで栽培することが難しいものがある。 ・米以外では農薬を使わずに栽培することが難しいものがあり、基準として挙げた殺虫剤 使用禁止について(自然由来殺虫剤は使用許可するなど)どこまで許容するかが難しい。 ・農薬基準は対人的な影響だけでなく、環境に対する影響ももっと考慮したものにすべ き。天然素材由来成分のポジティブリスト形式にしたらどうか。 21 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 (2)ヒアリング調査まとめ ・政策として社会的に効果を発揮するには、有機栽培だけに対しての支援ではなく、条件 を緩和した環境保全型栽培にまで補助対象範囲を広げ、制度を利用している農産物が流 通に乗るようなシステムを作成しなければならない。 ・農薬の使用が、農薬使用範囲近隣住民の人体に影響があるという情報がありながらも、 使用禁止を出来ていない。 ・基準として殺虫剤使用禁止を設定したが、作物によっては不可欠な薬品中の成分となっ ている場合もあるため、認証取得を妨げる要因となっている。基準は明確化することよ りも、複雑化し作物ごとの特性を考慮する必要がある。 第3節 千葉県へのヒアリング調査・分析 我々は平成 25 年 9 月 4 日に千葉県庁を訪問し、農林水産部 安全農業推進課 環境農業推 進班 班長の児玉友孝氏と副主査の小倉玲子氏にヒアリング調査を行った。そこでは、県 の環境保全型農業、環境にやさしい農業への取り組み、今後の農業のあり方などについて お話を伺った。 (1)ヒアリングの調査内容 基本姿勢 平成 4 年から国の環境に配慮した持続的な農業の推進がはじまり、千葉県は国の基本方 針にのっとって環境への負荷軽減を目指した「環境保全型農業」と、農業生産者と消費者 の顔の見える関係というニュアンスを含んだ「環境にやさしい農業」の二本柱で様々な取 組を行っている。県としては、慣行栽培における施肥基準の励行、農薬使用基準の遵守を していれば人体・環境への悪影響はないという見解でいる。 環境保全型農業推進の取りくみ 環境保全型農業全体としての推進の取り組みは、技術研究・指導・設備投資の補助と いった技術導入のサポートと、ちばエコ農産物(以下ちばエコと表記)などの認証・マーク の推進とそれらの PR などといった環境保全型農業推進の取組の発信の 2 つに大別するこ とができる。 ちばエコ 千葉県ではちばエコ農産物の推進を積極的に行っているが、全国統一の制度である特別 栽培農産物に統一しない理由は、ちばエコの制度は平成 14 年につくられ、平成 15 年に特 別栽培農産物の現状の制度がつくられたのよりも早かったということ、ちばエコ農業では 種子への農薬処理は 1/2 削減基準の中に含まれないが、特別栽培農産物では含まれるとい うことが挙げられる。そのため特別栽培農産物に県の取り組みを統一しようとすると、ち ばエコの認証をとった生産者に不利益が生じてしまうからである。ちばエコの基準が平成 13 年のもので古いということだが、基準の改正もやはり生産者の不利益になるということ で、平成 25 年現在改正の予定はない。 有機農業 有機農業の推進の取り組みは、元来有機農業者たちの自助的な活動によって行われてお り、平成 18 年に国が有機農業推進法をつくるまで、行政はノータッチの状態であった。 そのため県としての動きもまだあまりなく、農家の自主的な活動を支援するというのが基 本的な姿勢である。 22 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 今後の課題 環境保全型農業の今後の課題としては、農家の主体性をのばし消費者と積極的な関わり を持つということがあげられる。 国への要望としては、ここ数年は国の姿勢が低調なの で、リーダーシップを発揮して方向性を明確に示してほしい。攻めの農業に伴う農地の集 積に関しては、農地の大型化と環境保全は敵対するものだと考えていない。大型化にいか にして環境という視点をおりこんでいくということが重要だ。 (2)千葉県へのヒアリング調査まとめ ・ 千葉県としても全国統一の基準が良いということは考えているものの、生産者の利益 を優先して県独自のちばエコ認証を推進している構図が見えた。 ・ 各県の独自の認証が多く存在する背景には、国の対応の遅れがある ・ 有機農業は生産者の努力に頼っていて、支援が遅れている 第4節 農林水産省へのヒアリング調査・分析 我々は平成 25 年 9 月 18 日に農林水産省を訪問し、経営局 経営政策課 課長補佐の望月 光顕氏と生産局 農産部 農業環境対策課 環境直接支払推進係長 新津泰亮氏にヒアリング 調査を行った。そこでは、環境保全型農業についての補助金、環境保全型農業を推進する 必要性、今後の農業と環境の関連性についてお話を伺った。 (1)ヒアリング調査内容 ・生産した農産物をいかにして流通に乗せるか、消費に対する政策について、農林水産省 は、今まで整備が不十分であった。 ・環境保全型農業が発展しない背景には、①コスト(栽培コスト、認証コスト)が価格に反 映できないから、②(特に有機農業は)高度な栽培技術が必要だからという理由がある。 ・環境保全型農業を推進することで、環境負荷を軽減させられるということを、得られる 公益性や外部経済効果に注目して政策目標を立てるべき。 ・表示制度を統合することについて言えば、有機 JAS は国際基準に準拠していて、緩和し てしまうと国際基準を満たせなくなる可能性があるため、変更は困難である。 ・現状では民間団体に委託し、審査費用を農家が負担しているマーク使用認定審査を政府 が新たに実施することは大きな負担になるが、環境保全型農業に対する補助金認定審査 とマーク使用認定審査を抱き合わせにすることによって、補助金を与えるための審査経 費が一元化されるため、全体でのコスト低減が可能になる。 ・特別栽培農産物制度についての問題点 ①農薬、化学肥料の基準量が絶対量ではない(地域によって差がある) 栽培技術の発達により農薬使用量削減が進んだが、都道府県によって基準更新がなさ れている場合となされていない場合があり差異が生じており、基準の正当性に欠け る。 ②本当に環境保全に貢献した基準とは限らない ・現在、消費者は農薬使用量を削減して栽培された農産物は安全という意識を持って消費 行動をとるが、その消費者の意識を安全というだけでなく、環境保全にまで拡大する必 要がある。 ・マーク表示の全国統一については、消費者が必要だと訴える動機があるならば簡素化し 統一してもいいが、地域ブランドのような差別化を図る要素に使用されていることも考 慮するべき。 23 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 (2)ヒアリング調査まとめ ・認証取得と補助金制度を一元化して運用することで、現状で制度ごとに農家と行政に発 生している審査費用を削減できる。 ・現状で国際基準に適している、有機 JAS 規格自体の基準を変更することは難しい。 ・基準更新を都道府県に一任するのではなく、国が主体となって更新を要求しなければな らない。 ・農薬使用量を削減して栽培した農産物の環境との関連性を、消費者に対して周知してい かなければならない。 第5節 消費者へのアンケート調査・分析 我々は平成 25 年 8 月 8 日から野菜の消費に関するアンケートを実施した。配布回収は大 学周辺の自治会、幼稚園、保育園、千葉大学のサークルを介して行った、また西千葉第三 土曜市にて行った。対象は千葉県内に在住の 10 代から 60 代以上までの男女である。アン ケートの目的は消費者の農業と環境の関係に対する意識、野菜を購入する際の基準、環境 保全型農業に関する認証への認知度、許容価格差などの調査とした。全体で 197 部回収。 調査は全 7 項目 ① 野菜を購入する際の基準 ② 環境保全型農産物の認証マークの認知度 ③ これからの農業に重要なこと ④ 有機農業に対する印象 ⑤ 有機農産物を購入する際の許容価格差 ⑥ 環境保全型農産物の認証マークは統一すべきか ⑦ 回答者の性別・年齢 アンケートの全内容は付録として本論文の末尾に置く。 (1)消費者に対するアンケート調査結果 ① 野菜を購入する基準 この項目では野菜を購入する際に気にしていること上位 3 つを、選択肢の中から選 んで回答していただいた。結果は「鮮度」(69.4%)、「値段」(59.5%)、「国産」 (47.1%)が高い割合で選ばれた一方で、「無農薬・無化学肥料」は 13.2%、「減農薬・ 減化学肥料」は 6.6%となり、「マーク」にあたっては 0%という結果になった。これ らの 3 つの割合は「その他」を除いた選択肢の中のワースト 3 であった。 24 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ②環境保全型農産物の認証マークの認知度 この項目では選択肢に並んだ 10 の表示マークの中から知っているもの全てを選んで 回答していただいた。なお、エコファーマー・マークについては平成 24 年度 3 月末を もって全国的な使用は停止されたが、全国的に統一されて一定期間(9 年間)使用された マークであったため、環境保全型農産物の認証マークの認知度調査の一環として参考ま でに選択肢にふくめた。 結果は「特定保健用食品マーク」(88.6%)、「エコマーク」 (85.4%)、「JAS マーク」(79.7%)などに比べて「ちばエコ」(25.2%)、「有機 JAS」 (22.8%)、「エコファーマー・マーク」(18.7%)といった環境保全型農産物の認証マーク は認知度が低いことがわかる。 ③これからの農業に重要なこと この項目では消費者がこれからの日本の農業に何が重要であると考えるのか、選択肢 からあてはまるものをすべて回答していただいた。結果では、上位 5 位が農産物の安全 性(67.2%)、後継者確保(65.6%)、農業従事者の所得向上(48.4%)、環境保全(45.1%)、食 糧自給率(44.3%)となった。このことから消費者は日本の農業の発展を希望する一方で 安全や環境保全の重要性を意識していることが分かった。企業参入(18.9%)や農産物の 低価格化(10.7%)が低い割合に留まったのはそのような意識が背景にあると考えられ る。 25 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ④有機農業に対する印象 この項目では有機農業に対する印象を選択肢の中から、あてはまるものをすべて回答 していただいた。結果では「健康に良い」(68.9%)、「環境に良い」(43.4%)、「おいし い」(39.3%)といったプラスイメージの回答が多かった。農林水産省は平成 19 年に出し た「有機農業の推進に関する基本的な方針」25で、有機農業が化学肥料・農薬を使用し ないこと等を基本とする環境と調和の取れた農業であることを知る消費者の割合を概ね 平成 23 年度までに 50%以上にまですることを目標として掲げているが、アンケートで の「無農薬・無化学肥料」とした回答は 50%に達している。一方で「有機栽培」=無 農薬・無化学肥料という正しい知識を持っている人の割合は (無農薬・無化学肥料の 回答数-無農薬・無化学肥料かつ減農薬・減化学肥料の回答数)/全体の回答数*100 から 求め、結果は 33%であった。そのため実際には十分に知識が普及しているとはいいが たい。 ⑤有機農産物を購入する際の許容価格差 この項目では消費者が有機農産物を購入する際にどの程度まで割高になっても許容す るかを調査した。ただし、ここでいう有機農産物の定義は、回答者の認識によって違う ため、無農薬・無化学とは限らず、農薬使用量が削減された農産物という認識のもと回 答している消費者の数を含む。 結果はグラフの通り「2 割増し」までに消費者の 83.5%が集中した。①、③の項目よ り、消費者は農業に環境保全や安全性を求める一方で、実際の購買意識・活動では低価 格のものを求める傾向が見られる。 25 農林水産省「有機農業の推進に関する基本的な方針」 (http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/pdf/d-2.pdf) 2013/9/12 データ取得 26 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ⑥環境保全型農産物の認証マークは統一すべきか この項目では有機 JAS マーク、エコファーマー・マーク、ちばエコマークをすべて 環境保全型農業に関するマークだと前おきしたうえで、これらの表示について基準を設 定し直して統一されたマークを使用すべきと考えるか、異なったマークをつけて差別化 を図るべきと考えるか調査したものである。結果は 65.5%の人がマークを統一すべきと 回答した。 (2)消費者アンケート調査の考察 ・ 野菜を購入する際に「無農薬・無化学肥料」、「減農薬・減化学肥料」を基準にしてい る人は少なく、「マーク」を参考にしている割合は 0%であった。 ・ 環境保全型農業のマークの認知度が他のマーク(例:特定保健用食品)などに比べて低く い。 ・ 消費者が農業にたいして、食の安全性や環境保全を求める一方、そうした考えが実際の 消費活動に繋がらない。 第6節 農家へのアンケート調査・分析 我々は平成 25 年 9 月 1 日から 31 日にかけて農産物の栽培に関するアンケートを実施し た。配布は、千葉県内の山武郡市農業協同組合、さんぶ野菜ネットワーク販売促進部の方 にご協力いただいた。毎月 1 日に発行されている農協月報に、我々のアンケートを宣伝と いう形で挟ませていただいて睦岡地区、日向地区に配布し、郵送による回収を行った。 1000 部配布したものの、回答数は 16 にとどまった。アンケートを月報の中に広告ととも に挟み込むのみで、回答を促す呼びかけなどを行わなかったためだと考えられる。回答数 が少ないため、統計的に扱うのではなく、補足的なインタビューとして扱う。 アンケートの目的は農家の農業に関する考え、これからの農業に必要なこと、環境保全 型農業に関する認証取得の有無、環境保全型農業取組のために必要な支援方法などの調査 とした。アンケートの全内容は付録として本論文の末尾に置く。 (1)農家に対するアンケート調査結果 ・農産物の安全性、後継者確保、所得の増加を重要視している。 ・認証を取得している農家は、スーパー販売、対面式直売時に役に立つと考えている。 ・認証取得における負担として選択される項目は、記録義務が多かった。 ・マーク認証制度における改善点として、政府に求めるものには、消費者のマーク認知 度の向上があがった。 ・マーク認知度が低い理由としては、行政の広報不足があげられた。 ・認証を取得しない農家は、農業が環境保全に役立っていると考える割合も大きく、取 得コスト分の利益が見込めないとして収益が下がることを危惧している。 27 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 (2)農家アンケート調査の考察 ・マークの認知度が上がれば、認証を取得するメリットとなり得る。 ・認証を取得することによる利益が、生産者には明確化されていない。 ・行政によるマークの周知不足つまり、消費者側へのアプローチ不足を指摘している。 第7節 調査全体の考察 第一節から第六節までの調査・分析によって判明した問題点や留意すべき点を大きく 4 つの項目に分けて考察していく。 (1)環境保全型農業を推進する上での認証制度、表示制度、補助金について 乱立するマーク認証制度を統一認証マーク制度として整えた上で、国際基準に準拠した ものや、農薬の使用回数や量・用途に対してではなく残効性や成分などを反映した複雑な もの、環境保全へ貢献する取組みの実施有無など、正当な基準を設定して段階分けする必 要があると考える。 また、マーク表示認証と補助金認証を一元化して認証審査にかかるコストを下げること で、環境保全型農業取組者を拡大することや、今まで有機栽培など対象を限定していたそ れぞれの制度をまとめることで、1 つの制度における対象範囲を拡大し、同種マークを掲 載した環境保全型農産物総量を増加させ、消費者のマーク認知度上昇を図るべきである。 (2)環境保全型農産物の消費拡大について 今まで、農林水産省は生産者側をフォローする政策を主として行ってきたが、環境保全 型農業を推進し、環境保全型農産物の生産量を増加させるのであれば、消費者へ需要確保 のためのアプローチをしなければならない。生産者が求める、長期的な契約を締結するこ とへの支援、消費者が環境保全型農産物を手に取るような仕組みの構築を政府が担うべき である。消費量すなわち出荷量が増加することが証明できると、農家が環境保全型農業に 取り組むメリットを確立できる。 (3)農業と環境の関係性の理解について 現状として、農薬・化学肥料使用量削減栽培を「健康によい」ものと認識している消費 者は 7 割近く存在するが、「環境によい」ものだと位置付けている消費者は、約 4 割に留 まる。統一基準におけるマークを周知していくとともに、農薬・化学肥料使用量削減栽培 農産物を環境保全型農産物とし、これらを消費者が「環境によい」とする認識を広めてい くことで、環境意識向上を図り、農村における生物多様性についても周知していくべき だ。 (4)環境保全型栽培技術について 有機栽培だけに関わらず、環境保全型農産物の栽培では、種子の洗浄方法やコンパニオ ンプランツ 26の組み合わせ、病害虫への対策など、特別な知見や技術を要する場合があ る。これらの知識・技術を新規取組農家が習得できる機会を設け、生産量不安定性に関わ るリスクを低減することで、環境保全型農業新規取組者を増加させる必要がある。 次章にて上記項目であげた、問題点や留意点を満たす政策的アプローチ方法について述べ ていく。 26 一緒に植えることによって、相互的に生育に良い影響を与える植物の組み合わせ。病害虫の予防が出 来、農薬使用量を削減することができる。 28 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第5章 問題解決へのアプローチ 農産物を購入する際に、マークを購入する基準の上位 3 条件に入れる消費者は 0%で あった。27 また、有機農業者からは有機農産物をはじめとした環境保全型農産物が市場に おいて適正に評価されていないという声が聞こえる。28 現行の制度では国だけでなく地方 自治体などの様々なマークが乱立し、消費者を混乱させてしまい、信頼性が希薄化してい ることから、マークは役割を果たしていないのではないかと我々は考えた。そこで国が制 度を統一し、制度内で環境保全への貢献度の高さによって段階分けを行い、同族のマーク を使用することで、マークの認知度を上げ、消費者の混乱を防ぎマーク本来の役割を復活 させる。認証を受けた農業者はその段階に応じた補助金を受けることとする。認証制度と 補助金制度を一元化することで、現状それぞれの制度ごとに発生している確認コストを低 減することができる。 また、現在、有機 JAS については紛らわしい表示の使用が罰則をもって禁止されている が、我々が提案する制度においても、マークの不正使用に対する罰則を設けるなど実効性 が担保された制度にし、使用の適正を図ることが重要である。 第1節 表示制度統一と環境保全型農業に新 規取組農業者への所得補償 (1)新制度の段階わけ 新制度において統一される認証制度は有機 JAS 制度と農薬・化学肥料使用量 5 割削減の 特別栽培農産物、その他各自治体で設定される認証制度とし、それらを環境保全への貢献 度に応じて[1]~[3]の 3 段階に分けることとする。段階[1]と段階[2]は農薬・化学肥料使用 量 5 割削減の特別栽培農産物、その他各自治体で設定される認証制度をさらに環境保全へ の貢献度によって 2 つに分けたものである。段階[1]は現状の特別栽培農産物制度の基準を 維持し、単純に農薬・化学肥料使用量を 5 割削減するものとし、段階[2]はそれに加えて指 定された農法を行うこと、農薬の種類も限定されることとする。段階[3]は現状の国際基準 であるコーデックスガイドラインに準拠した有機 JAS 制度をそのまま組み込んだものとな る。 5 割削減層を 2 段階に分割する理由は、5 割削減といった単純な使用量ベースでは農薬 の種類や強さは考慮にいれられておらず、農家が使用量を減らす代わりに残効性の強い、 生物影響も考えられる農薬を使用するようになる可能性があり、同じ 5 割削減でもそれぞ れの農業者の取組みには大きな差があるためである。そこで 5 割削減の層を 2 段階に分け ることでより正確に取り組みの環境評価をすることができる。有機 JAS 規格は国際基準 に対応していることから、有機農産物の海外輸出をスムーズに行うためその基準を維持す ることとする。 27 28 第 4 章の消費者へのアンケートを参照のこと 第 4 章の有機農業者へのヒアリング調査を参照のこと 29 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 有機 JAS [3] [2] 特別栽培農産物・その他認証 (農薬・化学肥料 5 割削減) [1] 段階[1]農薬・化学肥料量 5 割削減 段階[2]農薬・化学肥料量 5 割削減かつ指定された農法・農薬の使用 段階[3]有機栽培、無農薬・無化学肥料(有機 JAS 規格に相当) ・新制度全体の管理は国が責任を持つが、農薬・化学肥料削減量は各都道府県の慣行栽培 の施肥基準・農薬使用基準に基づくため段階[1]と段階[2]の管理は各都道府県が担う。 ・新制度開始に当たって各都道府県の慣行栽培の施肥基準・農薬使用基準を最新のものに 更新する。その後基準は国の指示のもと、定期的に全国同時に見直すこととする。 ・新制度の開始から 3 年の猶予期間を設け、期間終了後に特別栽培農産物制度・各自治体 の設定する認証制度は終了することとし、それらの認証表示マークの使用も禁止され る。有機 JAS 認証取得者はそのまま段階[3]の認証に移行する。特別栽培農産物の認証・ 各地方自治体の設定する認証を取得している者は更新された新基準に適合することがで きれば段階[1]、段階[2]に手続きを簡略化して移行することができる。 ・新制度の認証を受けたものは、より高い段階の基準に適合することができれば、その段 階の認証を新規に受けるのに比べて手続きを簡略化して移行することができる。 ・認証を取得していない農産物に、「有機」、「オーガニック」、「エコ」といった紛ら わしい表記をつけることを禁止する。 (2)段階分け統合マーク案 [3] [1] [2] マークは基本の形を全国で統一するが、都道府県ごとにそれぞれの特色を打ち出した マークを使用してもよい。 (3)認証制度と補助金制度の統一 我々は補助金制度と認証表示制度を統一することとし、段階[2]、段階[3]の認証を取得 した生産者には補助金を与えることを提言する。 現行の補助制度として環境保全型農業直接支援対策 (環境直接支払)が存在し、農薬・化 学肥料 5 割削減を前提条件として、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農 30 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 活動に取り組むことで、それにともなって発生する追加的コストにたいして国と都道府県 が 1:1 の負担割合で共同支援する仕組みになっている。しかし、補助金制度と認証制度 が別個に存在しているため、補助金を受け、認証を取得する生産者には、それぞれの制度 ごとに栽培記録義務や書類準備をなどのためのコストが発生してしまう。同時に確認のた めの行政コストも制度ごとに発生してしまう。 であるからして補助金制度と認証制度を統一し、高い基準に補助金を与えることで、生 産者がより高い認証の取得を選択すること、現状で補助金制度と認証制度を受けるために 発生する生産者側のコストと、確認のための行政コストを低減させることが可能であると 考える。 段階[1]に補助金を与えない理由は、現行の環境直接支払制度は農薬・化学肥料使用量 5 割削減は前提条件とし、それ以上の環境保全のための取りくみのコストを補てんするも のであり、それにならって単なる 5 割削減の基準である段階[1]の取組みに対して補助金 を給付する必要がないと考えるためである。補助金の支払いの負担割合は現行の環境直接 支払にならって国と都道府県が 1:1 で負担することとする。 現行の環境直接支払制度では、指定された環境保全的な営農方法の選択によって補助金 額が決定するが、我々の提言する補助金制度は、取得する認証によって補助金額が決定す る。そのため認証ごとの補助金額を定める必要がある。 【補助金の決定方法】 補助金は段階[2]、段階[3]の栽培方法をとることで段階[1]の栽培方法をとった場合に比 べて得ることができなかった利益を補てんするものとする。補助単価、補助金額は以下の 式で計算することができる。 10a 当たりの補助単価 (段階[2][3]) =(段階[1]の 10a 当たりの時給-段階[2]または[3]の 10a 当たりの時給)×段階[2]ま たは[3]の 10a 当たりの労働時間 補助金額=10a 当たりの補助単価×耕作面積÷10a 【試算】 まず平成 15 年の農林水産省の「米生産費の全国累年統計」、「平成 15 年環境保全型農 業推進農家の経営分析調査」29によると耕作面積 10a 当たりの所得は農薬・化学肥料量 5 割削減の段階[1]だと、41,076 円なのに比べて有機栽培の段階[3]は 74,350 円となり、段 階[3]の場合の方が高かった。一方、10a 当たりの労働時間で比較してみると段階[3]の場 合は 44.23 時間となり 21.31 時間の段階[1]の 栽培に比べて長かった。ここで、それぞれ の時給を計算すると、段階[3]の時給は 1681 円となり、段階[1]の時給の 1,928 円よりも 低くなった。このように試算した段階[1]の栽培の時給と各段階の時給の差額に各段階の 労働時間をかけることで 10a 当たりの段階[1]の栽培とのコスト差が算出できる。このた め、政策的な後押しがない場合には、段階[2]や[3]への移行を選択しないため、段階[1]の 栽培とのコスト差を補助金によって埋めることとしたい。 段階[3]の補助単価を算出した結果 10a 当たりで 11,000 円となった。しかし段階[2]は新 しくつくられる基準であるため、段階[1]とのコスト差を計算することはできない。そこ 29e-stat「米生産費の全国累年統計」 (http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001014632&cycode=0) 2013/10/28 データ取得 農林水産省「平成 15 年環境保全型農業推進農家の経営分析調査」 (http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kankyo_hozen/) 2013/10/28 データ取得 31 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 で農薬・化学肥料量 5 割削減かつ環境保全的な取り組みを行う環境直接支払制度の補助 単価を参考にして、基準の設定と 10a 当たりの補助単価を 8,000 円とする。 平成 15 年のデータを使用したのは、平成 15 年以降には環境保全型農業者の所得、労働 時間などの統計がとられていないためである。なお統計資料の不存在のため、米のみでの 試算となっている。 補助単価 農業形態 作物名 所 得 労働時間 時給(¥) (¥)/10a (h)/10a [1] と の (¥)/10a 差額(¥) (十の位で四捨 五入) 段階[3] (有機栽培) 段階[2] 段階[1] 米 74,350 44 1,681 247 1,100 米 米 33 21 1,804 1,928 123 4,000 41,076 (出典)各種資料から筆者作成 次にこの制度で発生する補助金額の総額を算出することとする。 統計資料の不存在のため、各段階の認証を受けた農産物はすべて米であると仮定する。 段階[2]の耕作面積地は、現在環境直接支払を適用されている耕作面積のうち、30有機栽培 に取り組んでいる耕作面積を差し引いた値とし、段階[3]の耕作面積地は現在有機 JAS 認 証を取得している耕作面積とした。31 まず段階[2]の補助金総額は、耕作面積 2,697,000 a×補助単価 8,000 円÷10a から求め られ、結果は 2,157,600,000 円となった。同様に段階[3]の補助金総額を求め、結果は 1,048,190,000 円となった。二つの結果の合計から補助金制度に必要な金額が求められ る。国と都道府県の補助負担は 1:1 のため、国の負担額は 1,602,895,000 円となる。 「平成 25 年度 農林水産予算概算決定の概要」32によると環境保全型農業直接支援対策へ の予算は 2,470,000,000 円であり、新制度に移行した場合は、867,105,000 円の余剰金が 生じる。この余剰金を第 2 節以降からの財源として活用することとする。新制度に移行 すると、環境保全型農業に取り組む生産者への補助金の全体額は減ることとなるが、第 2 節で述べるポイント制度などに振り替えることで消費の拡大を促し、結果として従来通り 生産者への補助金に活用される場合に比べて、大きな経済効果が得られる。 農業形態 段階[3]有機栽培 段階[2] 作物名 米 米 面積(a) 952,900 2,697,000 補助単価(¥)/10a 11,000 8,000 各段階の補助総額(¥) 1,048,190,000 2,157,600,000 3,205,790,000 1,602,895,000 補助総額 国の支援総額 (出典)各種資料から筆者作成 24 年度環境保全型農業直接支援対策の実施状況」 (http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/kakyou_chokubarai/pdf/jissi.pdf) 2013/10/27 データ取得 31 農林水産省「国内における有機 JAS ほ場の面積」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/24yuuki_menseki_kokunai_130208r.pdf) 2013/10/31 デー タ取得 32 農林水産省「平成 25 年度 農林水産予算概算決定の概要」 (http://www.maff.go.jp/j/budget/2013/kettei.html) 2013/10/28 データ取得 30農林水産省「平成 32 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 (4)新規有機栽培取組み農業者に対する支援 前章の有機農業者へのアンケートから有機栽培への導入・移行にはコストがかかり、導 入・移行後も収量が安定するまでに数年を要することがわかった。したがって、経営が軌 道にのるまでの期間は有機栽培に移行するための支援をすることが段階[3]の有機栽培農 業に取り組む農家を増やすうえで大きなカギになる。 そこで(3)で提唱したマークの段階 分けに応じた補助金制度において、段階[3]に新規で取り組む農業者は追加的な補助を受 けることができることとする。 ただし、支援金は一定期間環境保全型農業に取り組むことを条件に支給し、短期間の内 に環境保全型農業から撤退してしまうような場合には返還させる。なお農業自体に新規に 取り組む場合、新規就農者のための補助金として、設備投資のための準備金と、所得の確 保のための補助金を包含した青年就農給付金制度があるが、所得確保のための給付金は新 規有機栽培取組み農業者に対する支援金との 2 重取りになってしまうため禁止する。33 第2節 ポイント制度を通じた消費拡大 これまでの環境保全型農業政策では、生産者に対する政策が中心であったといえる。34 しかしながら、第四章の調査で言及したように真に環境保全型農業が普及・定着するため には消費者が積極的に購入するようになることが不可欠である。環境保全型農産物の消費 Ⅰ.該当する農産物やメニューを利用した消費者にポイントを与える。このポイントは 拡大のため、我々は第 1 節で提案した「マーク」のある環境保全型農産物を店頭で購入 集めることで後日、商品券と交換できるものとする。 する消費者、または外食店で当該農産物を使用したメニューを注文する消費者に対し、ポ Ⅱ. 外食店においては、環境保全型農産物を取り扱う店であることを証明する外食店用 イントを付与する制度を提案する。 のマークを表示させる。 制度の具体的な運営方法について、説明する。 ①第二節で提案した「マーク」のある農産物には、生産者があらかじめポイント示すシー ルを添付しておく。 ②外食店においては、「マーク」付き農産物を3分の1以上使用したメニューを注文した 消費者は会計時に小売店の場合と同様のポイントシールを与えられる。 ③消費者はハガキまたはインターネットを介して 1 ポイントを 5 円として商品券への交 換を申請する。 ④制度の実施は国が行う。 ⑤財源については、環境直接支払を本章第 1 節で提案した補助金制度に変更した際に、 生じる余剰財源を利用する。費用の試算については後述する。 ⑥各農産物へのポイントの割り当ては以下のように、第 1 節で提案した「マーク」に連 動した環境への貢献度から決定する。基本的には段階[1]の農産物・商品には 1 ポイン ト、段階[2]の農産物・商品には 2 ポイント、段階[3]の農産物・商品には 3 ポイントを 与える。外食産業などで異なるランクの農産物が混合して使用されている場合、使用さ れているマーク付き農産物中で最も使用割合の多い野菜を基準にポイントを付与する。 (1)ポイント制度導入の効果 現状においてもスーパーなどの小売店では、環境保全型農産物が販売されているが、農 業が環境に与える影響への理解が進んでおらず、購入のインセンティブが不十分である。 このポイント制度には、それを補う役割があるとともに、ポイント制度を通じて消費者も 農業と環境の関係性を考えるきっかけとして働くことが期待される。 農 林 水 産 省 「 農 業 を 始 め た い 皆 さ ん を 応 援 し ま す ! 」 (http://www.maff.go.jp/j/new_farmer/) 2013/10/30 データ取得 34 本稿第 2 章を参照。 33 33 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 また、この制度の特徴として、それぞれ 3 段階の野菜のマークに対応する外食店用 マークを設けることである。(例:段階[1]と段階[2]のマーク付き野菜を使用する企業で は段階[1]と段階[2]両方の外食店用マークを使用することができる。)近年、消費者が環 境に配慮された商品を好む傾向が強くなっており、外食店側もこのポイント制度に参加す ることで、企業イメージの向上、ライバル企業との差別化を図ることができ、店の強みに することができる。また、契約農場からの農薬量・化学肥料量を制限した野菜を使用する 外食店が増えてきたが、各社それぞれが違う基準で栽培された農産物を使用しており、表 記も「できるだけ農薬や化学肥料に頼らない方法で育てられた野菜」とされることが多 い。そのため消費者はどれだけ農薬などが軽減されているのかといった農産物の正確な情 報を得ることが難しいという問題点が存在するが、外食店用マークも 3 段階に分けて、 それぞれ野菜のマークのものに対応しており、企業は使用する農産物のマークの段階に応 じた外食店用マークを使用することで、消費者は正しい情報を得ることができる。この外 食店用マークについても消費者を惑わすような紛らわしい表示は禁止される。 各社の表示を統一することにより消費者への正確な商品情報の提供が可能になる。マー ク付農産物使用店であることを証明する表示マークを外食企業が使用することによって、 企業は自身の商品の品質を証明でき、消費者は商品の正確な品質情報を知ることができる からである。このように、外食店にも導入のメリットがあることから、制度の普及が期待 でき、外食産業という大口需要者を通じて環境保全型農産物の普及が大きく進むと考えら れる。 (2)ポイント制度を行うためのコスト試算 環境保全型農業で作られた農産物の流通量を直接示す近年の統計がないため、日本の耕 地面積に占める環境保全型農業用地の割合から、日本の農産物市場に占める環境保全型農 産物の流通量を推計し、それらの農産物にポイントを付加した場合の費用を計算する。 農産物の供給量は農林水産省「平成 24 年度食料需給表」35の粗食料36の値を用い、段 階[1]と段階[2]の流通量は、農林水産省の「全国の主要都市平均の国産標準品、有機栽培 品、特別栽培品及び輸入品の品目別価格、販売数量、店舗数」37から推計し、段階[1]につ いては 4,181,000 トン、段階[3]に関しては、129,000 トンとなる。段階[2]の農産物の供 給量は現行の環境直接支払を受けている者の数から環境直接支払いを受給する有機農業者 の数を引いたものになると仮定して 234,000 トンになると試算した。 穀類 いも類 豆類 野菜 果実 合計 粗食料のうち農産物 段階①の供給量 段階②の供給量 段階③の供給量 にかかる部分(㌧) (㌧) (㌧) (㌧) 13,614,000 2,914,000 1,073,000 13,696,000 6,629,000 37,926,000 35農林水産省「平成 1,501000,000 321000,000 118,000 1,510,000 731,000 4,181,000 84,000 18,000 7,000 84,000 41,000 234,000 463,000 99,000 37,000 466,000 226,000 129,000 24 年度食料需給表」 (http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/index.html ) 2013/10/31 データ取得 36 粗食料とは、食料の国内消費仕向量-(飼料用+種子用+加工用+減耗量)のことである。 37 農林水産省の「全国の主要都市平均の国産標準品、有機栽培品、特別栽培品及び輸入品の品目別価 格、販売数量、店舗数」 (http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/seisen_doukou/pdf/seisen_q13_2.pdf) 2013/10/31 データ取得 34 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 販売単位当たりの量は、米 3kg、イモ類は 200g、豆類 300g、野菜 100g、果実 150g と仮定し、販売個数(例:ピーマンが何袋売れたか、大根が何本売れたかなど)を (各マーク付き農産物の供給量)÷(販売1単位当たりの量) で算出した。したがって、段階[1]の農産物は約 22,470,000 個、段階[2]の農産物は約 1,260,000 個、段階[3]の農産物は 6,934,000 個が流通することになる。 段階[1]の販売個数 段階[2]の販売個数 段階[3]の販売個数 合計 (個) (個) (個) (個) 500,224 1,606,051 394,256 15,097,101 4,871,431 22,469,063 穀類 いも類 豆類 野菜 果実 合計 27,954 89,751 22,032 843,674 272,231 1,255,642 682,561 2,191,473 537,966 20,600,154 6,647,119 30,659,273 154,383 495,671 121,678 4,659,379 1,503,457 6,934,569 そして、それぞれの農産物やそれを使用したメニューを注文した消費者に前述のとお り、段階[1]の商品については 1 ポイント、段階[2]については 2 ポイント、段階[3]につい ては 3 ポイント与えるとすると、下記の式より制度実施にかかる費用は約 228,920,000 円となる。この金額は第一節で我々が提案した表示制度と補助事業を実行することで得ら れる余剰財源を活用することで新たに財政的な負担をすることなく実行できる。 ポイント制度実施費用 試算の結果を下記の表の通りにまとめた。 段階①に対して付与するポイント総額=販売個数×1 ポイント×5 円 段階②に対して付与するポイント総額=販売個数×2 ポイント×5 円 段階③に対して付与するポイント総額=販売個数×3 ポイント×5 円 穀類 いも類 豆類 野菜 果実 合計 段階①のポイント金 段階②のポイント金 段階③のポイント金 総ポイント金額 額(¥) 額(¥) 額(¥) (¥) 2,501,119 8,030,256 1,971,280 75,485,504 24,357,156 112,345,314 279,541 897,512 220,323 8,436,736 2,722,309 12,556,421 2,315,741 7,435,071 1,825,173 69,890,688 22,551,858 104,018,531 5,096,401 16,362,839 4,016,776 153,812,928 49,631,323 228,920,266 第3節 学校給食・食育を通した農業と環境の 関係性の周知 農業は農薬や化学肥料の使用によって周辺環境を汚染破壊するという側面が存在する が、同時に水田が湿地と同じ環境を提供することで日本の多様な生態系を支えてきたとい うような環境保全的な側面も有する。 35 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第 4 章 3 節のアンケート調査によって、多くの消費者がこれからの農業に環境保全が 重要であるという認識を有しているものの、まだ環境保全的な意識は実際の消費選択に影 響を与えていないことが分かった。そこで我々は、消費者の農産物消費に対する環境意識 を高めていくためのアプローチが必要だと考えた。 ①学校給食への地域の環境保全型農産物の使用 ②授業と給食の時間をタイアップさせた食育 学校給食に地域で生産された環境保全型農産物を使用し、それと家庭科の授業や作物栽 培の体験授業を連動させる。それによって子供たちは農業が環境に与える悪影響、好影響 を学習し、実際に学習した環境にやさしい生産方法で栽培された農産物を食べることがで きるため、効果的に環境意識を高めることができる。子供の環境意識が高まることで親の 環境意識にも影響を与えることが期待できる。 また、マーク付農産物を優先的に給食に取り入れることとすることで、マーク付農産物 の需要を確保することができる。 文部科学省は学校給食に地域のマーク付農産物を優先的に取り扱い、授業と給食を連動 させた食育を行う旨の通知を、附属学校を置く各国立大学長・国立久里浜養護学校長・各 都道府県知事・各都道府県教育委員会教育長宛てに出すこととする。通知を受け取ったも のは通知内容を達成するための処置を講ずる。 第4節 環境保全型農業に取り組みやすくする 環境づくり 農業者が環境保全型農業に取り組むのを困難にさせている要因は、技術的なむずかし さ、栽培の失敗などによる金銭的リスク、それに農薬を使用していない種を入手すること が困難、などが考えられる。これらの問題を解決して農業者が環境保全型農業に取り組み やすい環境を整えていくことが必要である。そのための政策提言は以下のとおりである。 (1)環境保全型農業技術の確立、指導 各都道府県で技術研究所を設け、その地域の有機農業者を必ずメンバーに入れるこ ととする。研究所で確立された技術を、指導員を通じて農業団体・個人農家に普及さ せていく。また講習会も開くこととする。 (2)病害虫に強い有機種苗の開発 国設置の研究機関や(1)で設置を提言した研究所で病害虫に強い有機種苗を開発する。 (3)無農薬種子の販売 有機農業者や千葉県のヒアリングから、農薬を使用していない種子の入手が困難という 問題点が明らかになった。そこで無農薬種子の販売促進を促すこととする。 (4)環境保全型農業に即した農業共済制度の確立 共済制度の仕組みをつくることで、生産者たちの共助で生産リスクに対応する。 36 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 第6章 展望・政策の効果 現状での環境保全型農業推進のための政策は環境保全型農業直接支援対策など生産者 への補助金に限られ、消費を増やすための方策はとられてこなかった。そこで本論文では 環境保全型農業を推進するためには生産側へのアプローチだけではなく、需要を増やすた めの消費側へのアプローチが必要不可欠であるとし、表示制度やポイント制度などの消費 者を対象とした需要・供給の拡大のための政策を提言した。消費対策に補助金を振り替え ることで、従来通り生産者への補助金に活用される場合よりも、効率的で大きな経済効果 が得られる。 また、補助金制度は小規模の競争力の弱い生産者も包含し保護する性質を持つが、消費 拡大策は、大規模でより高い経営努力を行う生産者が、それに応じた利益を得ることがで きる。環境保全型農業の補助金制度を縮小し、消費拡大策へ転換していくことは、環境保 全型農業推進の方策でもあり、かつ日本の強い農業の推進のための第一歩でもある。 農業は環境に対して、多面的に良い影響を与える一方、農薬・化学肥料の普及に伴い、 環境に負荷を与える側面も有していることから平成 4 年以降環境保全型農業が農林水産 省においても推進されてきた。しかしながら、漸進的に政策が打ち出されていく中で一定 の効果があったとはいえるものの、有機 JAS 認定圃場は伸び悩み、そのほかの環境保全 型農業に関して近年は少なからず停滞気味だったといえる。 そこで、我々の政策提言では、農業者がさらに環境保全型農業に取り組むためのインセ ンティブを与える認証制度と補助事業の在り方と、ポイント制度という形で今まで弱かっ た需要サイドへアプローチしていくことを提案した。これらの政策は農業者の工夫や努力 を誘発し、消費者を巻き込む形で環境保全型農業を促進することができる。 この提言によって、伸び悩む環境保全型農業が消費者も絡みながらダイナミックに普及 が進み、農業の多面的機能を生かし、環境負荷を低減した持続可能な農業が実現されてい くことを望む。こうしたことは農業が単なる食料生産の手段から、環境や生物多様性を考 える場としても機能するようになりつつあることを示している。 また、我々の政策提言は生産者対策が中心を占めがちであった農林水産政策において、 農家の創意工夫を引出すようにするとともに、今後は消費者の視点も取り入れることで、 生産者と消費者がウィンウィンの関係を築けるような日本の新しく力強い農林水産業を考 えるための一歩にもなるだろう。 37 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 先行論文・参考文献・データ出典 先行論文 ・蔦屋栄一(2007)「わが国有機農業推進法展開の課題―韓国の親環境農業取組実態を参考 に―」『農林金融』農林中金総合研究所 ・日本有機農業研究会編(2012)『有機農業への消費者の理解増進調査報告』日本有機農業 研究会 参考文献 ・蔦谷栄一(1999)「我が国における持続型農業展開の課題―アメリカ、スイスの事例 から。カギを握る IPM を軸とした具体的実践―」『農林金融』Vol.52 (9) pp.2-26 ・大塚俊之・根本正之(1997)「土壌の富栄養化が農村地域の河川周辺雑草群落の動態 に及ぼす影響」『雑草研究』vol.42 (2) pp.107-114 ・蔦屋栄一(2007)「わが国有機農業推進法展開の課題―韓国の親環境農業取組実態を参考 に―」『農林金融』pp37~49 農林中金総合研究所 ・長谷川晃生(2004)「環境保全型農業をめぐる農産物表示制度の現状」『調査と情 報』第 206 号 pp.4-7 ・篠崎 里沙・胡 柏「有機農産物についての消費者意識と生産農家の実態把握」『愛媛大 学農学部紀要』pp11~17 愛媛大学農学部 ・山田敏郎・山田和子・和田直樹(2012)「ジノテフランとクロテアニジンの蜂群に及 ぼす影響」”The Japanese Society of Clinical Ecology” Vol.21, (1) pp.10-23 ・日本有機農業研究会(2012)『有機農業への消費者の理解増進調査報告』日本有機農業研 究会 ・原剛(2007)『環境が農を鍛える』早稲田大学出版 ・荘林幹太郎・木下幸雄・竹田麻里(2012)『世界の農業環境政策』農林統計協会 ・嘉田良平(1998)『世界各国の環境保全型農業』農山漁村文化協会 ・原剛(2001)『農から環境を考える』集英社 ・藤本彰三・松田藤四郎編著(2005)『代替農業の探求』東京農業大学出版会 ・藤本彰三・松田藤四郎編著(2006)『代替農業の推進』東京農業大学出版会 ・農政ジャーナリストの会編(2010)『生物多様性と日本の農業の未来』農林統計協会 ・日本有機農業学会編(2001)『有機農業研究年報 Vol.1 有機農業 21 世紀の課題と可能 性』コモンズ ・高安和夫(2012)『銀座ミツバチ奮闘記』清水弘文堂書房 引用文献 ・山田敏郎・山田和子・和田直樹(2012)「ジノテフランとクロテアニジンの蜂群に及 ぼす影響」” The Japanese Society of Clinical Ecology”, Vol.21, No.1 ・平久美子・青山美子(2006)「2005 年に一定地域のネオニコチノイド系および有機リ ン系殺虫剤散布後自覚症状を訴え受診した患者の心電図所見とその季節変動」『臨床環 境医学』日本臨床環境医学会 第 15 巻 2 号 38 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ・平久美子・青山美子(2011)「ネオニコチノイド系殺虫剤の代謝産物 6-クロロニコチ ン酸が尿中に検出され亜急性ニコチン中毒様症状を示した 6 症例」『中毒研究』へるす 出版 第 24 巻 3 号 データ出典 ・農林水産省「平成 24 年度 食料・農業・農村白書」 (http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h24_h/trend/part1/chap3/c3_8_01.html ) 2013/11/1 データ取得 ・農林水産省「農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(Q&A)」 (http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_mitubati/qanda.html#q2) 2013/10/30 データ取得 ・農林水産省「新しい食料・農業・農村政策の方向」(新政策)平成 4 年 6 月公表 (http://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo02/newblaw/hoko.html ) 2013/10/30 データ取得 ・農林水産省「環境保全型農業の基本的考え方」平成 6 年 4 月 (http://www.library.maff.go.jp/GAZO/00151045/00151045_01.pdf) 2013/10/3 データ取得 ・農林水産省「平成 23 年度有機農産物等の格付実績」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/jiseki_h23_250213r.pdf) 2013/10/30 データ取 得 ・農林水産省「有機食品の検査認証制度について」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/250411-yuki-kensa-seido.pdf) 2013/10/30 データ取得 ・e-stat「米生産費の全国累年統計」 (http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001014632&cycode=0 ) 2013/10/28 データ取得 ・農林水産省「平成 15 年環境保全型農業推進農家の経営分析調査」 (http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kankyo_hozen/) 2013/10/28 データ取得 ・農林水産省「平成 24 年度環境保全型農業直接支援対策の実施状況」 (http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/kakyou_chokubarai/pdf/jissi.pdf) 2013/10/27 デー タ取得 ・農林水産省「国内における有機 JAS ほ場の面積」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/24yuuki_menseki_kokunai_130208r.pdf ) 2013/10/31 データ取得 ・農林水産省「平成 24 年度 農林水産予算概算決定の概要 環境保全型農業直接支援対 策」(http://www.maff.go.jp/j/budget/2012/pdf/kettei_b032.pdf) 2013/10/28 データ取得 ・農林水産省「農業を始めたい皆さんを応援します!」 (http://www.maff.go.jp/j/new_farmer/) 2013/10/30 データ取得 ・農林水産省「平成 25 年度 農林水産予算概算決定の概要」 (http://www.maff.go.jp/j/budget/2013/kettei.html ) 2013/10/28 データ取得 ・農林水産省「全国の主要都市における主要野菜(国産標準品、有機栽培品、特別栽培品 及び輸入品別)の小売価格・販売動向」 (http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/seisen_doukou/pdf/seisen_q13_2.pdf) 2013/10/31 データ取得 ・農林水産省「平成 25 年度環境保全型農業直接支払交付金(取り組みの手引き)」 (http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/kakyou_chokubarai/pdf/tebiki.pdf) 2013/10/30 データ取得 ・FAOSTAT, Active ingredient use in Arable Land & Permanent Crops (tonnes per 1000 Ha) (http://faostat3.fao.org/faostat-gateway/go/to/download/E/EP/E) 2013/10/30 データ取得 39 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 ・OECD(2013),OECD Compendium of Agri-environmental Indicator (http://www.oecd.org/tad/sustainable-agriculture/agri-environmentalindicators.htm) 2013/10/30 データ取得 ・OECD database: Environmental Performance of Agriculture in OECD countries since 1990, Farm Management (http://www.oecd.org/fr/croissanceverte/agriculturedurable/environmentalperformanceofagricultureinoecdcountriessince1990.htm) 2013/10/30 データ取得 ・日本学術会議「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価につ いて(答申)」 (http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/shimon-18-1.pdf) 2013/10/31 データ取得 ・(株)三菱総合研究所「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の 評価に関する調査研究報告書」 (http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/shimon-18-1.pdf) 2013/10/31 データ取得 ・環境保全型農業推進会議「全国環境保全型農業推進会議とは」 (http://www.ecofarm-net.jp/01about/index.html) 2013/9/10 データ取得 ・農林水産省「有機食品の検査認証制度」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/img/yuuki.jpg) 2013/9/11 データ取得 ・農林水産省「国内における有機農産物の格付実績の推移」 (http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/jiseki_h13_h23.pdf) 2013/9/11 データ取得 ・全国環境保全型農業推進会議「エコファーマーマークについて」 (http://www.ecofarm-net.jp/05ecofarmer/images/091111_a.jpg) 2013/9/11 データ取得 ・農林水産省「持続性の高い農業生産方式導入計画の認定状況」 (http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_eco/pdf/ef.pdf) 2013/9/11 データ取 得 ・青森県「青森県特別栽培農産物認証制度」 (http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/sanzen/img/tokusai_mihon.gif) 2013/9/10 データ取得 ・埼玉県「埼玉県認証特別栽培農産物」 (http://www.pref.saitama.lg.jp/uploaded/image/376379.gif) 2013/9/11 データ取得 ・和歌山県「和歌山県特別栽培農産物認証制度」 (http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070300/071400/tokusai/image/mark.jpg ) 2013/9/11 データ取得 ・新潟県「県特別栽培農産物認証制度」 (http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_TopRight/541/131/imgKen2.GIF ) 2013/9/11 データ 取得 ・千葉県「ちばエコ農業情報ステーション」 (http://www.pref.chiba.lg.jp/annou/eco-jouhou/images/ninsyou.gif) 2013/9/11 データ取得 ・千葉県「ちばエコ農業の推進について」 (https://www.pref.chiba.lg.jp/annou/eco-jouhou/saibaikijun.html) 2013/9/10 データ取得 ・JA グループ千葉「もっと安心農産物のご紹介」 (http://www.ja-cb-mottoanshin.com/image/gaiyou/sikumi-sample7.gif) 2013/9/11 データ 取得 ・JA グループ千葉「『もっと安心農産物』生産・販売運動 推進要領」 (http://www.ja-cb-mottoanshin.com/b-gaiyou/yoryou070201.pdf) 2013/9/10 データ取得 40 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 付録 1―消費者アンケートの全回答 我々が平成 25 年 8 月から 9 月にかけて行ったアンケートの内容と、その回答について 記載する。ただし、対象は千葉市内の住民、千葉大学の学生で、197 名から回収された、 無回答や複数選択があったため、回答の合計とアンケートの回収数は一致しないものもあ る。以下はアンケートの内容である。 41 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 以下は消費者アンケートの全回答である。(「各問の回答数に占める割合」の数値は小数 点第三位以下を切り捨てているため、合計は 100 にならないことがある。) 問 1 2 3 選択肢 国産 値段 産地 無農薬 減農薬 味 マーク 旬 見た目 鮮度 その他 特定保健用食品 PSE マーク エコファーマーマーク JIS マーク JAS マーク エコマーク ちばエコ農産物 有機 JAS マーク CE 耳マーク 環境保全 生産効率 農産物安全性 国際競争率 後継者確保 食料自給率 企業参入 ブランド化 所得向上 農産物低価格化 有機栽培推進 わからない その他 合計 各問中の (人) 割合(%) 57 72 42 16 8 20 0 20 27 84 3 109 17 23 81 98 105 31 28 24 7 55 39 82 26 80 54 23 16 59 13 31 6 6 47.11 59.50 34.71 13.22 6.61 16.53 0.00 16.53 22.31 69.42 2.48 88.62 13.82 18.70 65.85 79.67 85.37 25.20 22.76 19.51 5.69 45.08 31.97 67.21 21.31 65.57 44.26 18.85 13.11 48.36 10.66 25.41 4.92 4.92 42 問 選択肢 4 5 6 7 健康に良い 健康関係ない おいしい 味が悪い 新鮮 見た目悪い 環境に良い 環境関係ない 無農薬 減農薬 胡散臭い その他 同じ価格 1割 2割 3割 4割 5割 6割 7割 8割 9割 2倍 2 倍以上 マークを統一 マークを差別化 男性 性別 女性 10 代以下 20 代 30 代 年齢 40 代 50 代 60 代以上 合計 (人) 84 12 48 1 13 14 53 2 61 40 1 6 20 31 45 13 2 5 0 0 0 0 0 1 72 38 49 71 17 24 11 20 7 44 各問中の 割合(%) 68.85 9.84 39.34 0.82 10.66 11.48 43.44 1.64 50.00 32.79 0.82 4.92 17.39 26.96 39.13 11.30 1.74 4.35 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.87 65.45 34.55 40.83 59.17 13.82 19.51 8.94 16.26 5.69 35.77 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 「その他」と答えた回答者が自由筆記欄で記述した内容を掲載する。 問 1 ・野菜を買う際に気を付けること:野菜に含まれる栄養。ビタミンとか ・放射能 ・メニューでの使いやすさ 問 3 ・一般の人も自分で農作物を作る ・本当に人間の体や、土に生きる力を与えるような農業 ・鮮度を保ったまま輸出できる技術+それにともなう販路 ・味の定量化 問 4 ・高い ・お金と手間がかかる。高い ・慣行農業よりは、健康的、環境に配慮している、おいしい ・たかい ・わからない 43 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 付録 2―農家アンケート 44 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 45 ISFJ政策フォーラム 2013 発表論文 46
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