加飾フィルムを使用する加飾技術の最新動向 MTO技術研究所 桝井捷平 1.まえがき 近年各種のプラスチック加飾技術の検討が著しく進んでいる。現時点(2010 年初頭)で 筆者が把握している日本での加飾技術動向を表1に示す。 この中で、印刷、塗装、真空蒸着、着色などで加飾したフィルム(またはシート)を用 いて、フィルムを成形品表面に貼合せる、あるいは印刷、塗装、真空蒸着などの加飾面を 転写させる加飾技術はモバイル機器、通信機器、ソフト感を必要としない自動車内装品な どに適用しやすく、各種のパターン、色などを施すことができ、現時点で最も活発な動き のある加飾技術である。 2.フィルム使用加飾技術の開発の経緯 従来、家電、OA機器、携帯電話などに使用されているプラスチックの筐体の表面加飾 には、印刷、塗装、蒸着、メッキ等が用いられてきた。しかし、製品形状が複雑化し、機 能性付与が求められ、さらに環境負荷の問題、コスト面などから、加飾フィルム使用によ る加飾技術が多く用いられるようになった。 プラスチックのインモールド加飾技術の中におけるフィルム加飾技術の位置づけは一般 的には図1のように考えられる。品質も高いが、コストも高い方法で、1つ下の、「高機 能着色樹脂使用」と「表面高品位転写成形」の組合せ技術がさらに進歩すると、この方法 との競合もあることを考慮しておく必要がある。 逆に、薄いシートでソフト感が出せれば、視覚的・触覚的に感性にうったえる加飾がで き、新たな展開が期待できるのではないでしょうか。 3.フィルム加飾に使用される成形方法 成形方法としては射出成形によるインモールド成形が主であるが,成形品にあとから貼 合、転写させる新規真空・圧着法(オーバーレイ法)として布施真空が TOM 工法1)を開 発して、形状適応性がさらに広がった。 インモールド成形はさらにインモールドラミネーションとインモールド転写に分類され る。それぞれIML(FIM)、IMDの略称が使われる。しかし、表2に示すようにい ろいろな略称が使用され、同じ略称でも異なる範囲を示すものもあるので注意が必要であ る。代表的な方法として、日写IMD(日本写真印刷)2)とTOM(布施真空)を図2~ 3に示す。 4.加飾フィルム 加飾フィルムならびにその成形技術は大日本印刷、日本写真印刷が数十年前から供給し ていたが、表3に示すように、近年この分野への参入メーカーが著しく増え、ベースフィ ルム、意匠表現の異なるものが多く供給されている。さらに新規参入を計画しているとこ ろもあり、ますます競合が激しくなると思われる。コンバーティング技術の取り込みと成 形にまで踏み込んだ開発、提案が競争力のポイントになる。 意匠表現もスタート時から使用されているグラビア印刷による方法以外に、各種印刷、 塗装、着色、蒸着が用いられ、さらにこれらの組合せによる意匠表現が用いられている。 加飾フィルムの構成例を図4に示す。加飾フィルムは各種バリエーション、各種機能の 組込みが可能で、それぞれ表4,5に例を示した。 1 加飾フィルムに使用されている主要なフィルムは表6のとおりであり、目的、使用する 方法によって使い分けがされている。 4.海外の状況 表7に示すように海外でも本分野の検討は活発である。全般的には日本の状況と同様で あるが、次の点で異なる。①自動車外装用の Dry Paint Film(Formable Film)の採用が 進んでいる。②GAI(ガスアシスト射出成形)やミューセル発泡成形など他技術との組合 せの発表が多く見られる。③成形技術としては射出成形によるインモールド加飾(Back Injection Molding)が中心であることは日本と同様であるが、HDPF(Bayer の超高圧成 形)も使用されている。TOM 工法に類似する方法は見当たらない。 Dry Paint Film(Formable Film)としては、耐候性の優れたプラスチック材料が使用 されている。 5.フィルム加飾の使用部品と市場規模 図5~8に日本および海外でのフィルム加飾部品例を示す。 また、表10にフィルム加飾が用いられる主要用途、状況、市場規模を示す。リーマン ショックの影響等で、需要予想そのものがかなりばらついているので、ここでは 2008 年 の各製品の生産台数を示す。それぞれの製品で、フィルム加飾が使用される割合、使用フ ィルム面積は明確ではないが、ある調査資料では日本での加飾フィルムは 2007 年で 370 億円程度の市場と言われている。また、他の情報では 600 億円を超えているとも言われて いる。現在の最大(少なくとも数量ベース)の用途は携帯電話筐体で、その他パソコン、 各種機器のタッチパネル、自動車内装トリムなどに使用されている。 ただ、携帯電話は、特に海外で、開発期間が極めて短くなっており、製品ライフも短く、 低コスト化が進んでいて、より安価な加飾方法の模索も行われていると言われている。こ の分野でフィルム加飾が永久に主流であり続けるか否かは明確ではないと思われる。 4 プラスチックの加飾技術の動向と将来展望 自動車,家電製品,日用品などにおいて、今や若い世代を中心に、製品表面の見栄えは 購入を判断する重要な要素になっており、加飾は今後もますます盛んになると考えられる。 加飾技術のなかで,現時点でもっとも活発な動きのある加飾フィルムを使用した貼合、 転写技術は、今後もさらに加飾フィルム、成形方法が進歩し、興隆をきわめると思われる が、いずれは総合力の差で淘汰が進んで特定の物が生き残っていくものと思われる。 今後もそれぞれの加飾技術はその特徴を生かした範囲内で、よりコストパフォーマンス の高い技術への改良が求められる。 コストパフォーマンスを高めるために、見栄え、感触の向上と同時に、機能付与もされ る加飾技術、適用範囲の広い加飾技術が注目されると考えられる。 また,環境問題がより重視され、カーボンニュートラルの材料など、製造における環境 負荷が小さく、リサイクルしやすい素材を選択し、有機溶剤の使用や廃棄物の量ができる だけ少ない環境にやさしい技術が求められる。 さらに,消費者主導型の少量多品種の時代になっており、加飾技術も大量生産方式に適 した方法よりも、多品種少量生産に適したものが主流になっていくものと思われる。 5.参考文献 1)http://www.fvf.co.jp/ 2)藤井憲太郎,コンバーテック, 2008,6 2 3)http://www.reiko.co.jo/product/color 4)長谷高和,TECHNO-COCMOS,21,(3),48,2008 3 軟質表皮材貼合 品 質 フィルム転写 ・貼合 高機能着色 /高品位転写 高品位 転写成形 通常着色 /成形 コスト 図1 フィルム転写・貼合成形の位置付け 図2 日本写真印刷の Nissha IMD 工程概念図 図3布施真空のTOM装置概念図 4 印刷箔 メッキ調箔 光彩色箔 光輝性メタリック箔 (麗光の HP から)3) (日本ビーケミカルの資料から)4) 図4 加飾フィルムの構成例 5 森六テクノロジー 帝国インキ 日本写真印刷 図5 日本のフィルム加飾製品例-1 三菱エンジニアリングプラスチック RIM成形品の表面を三次元形状にフィットする、 特 殊なフイルムで一体成形して意匠を付与。 アキレス 富士通 ホンダ 植物由来プラスチックを使用した携帯電話 図6 TOM工法成形品例 日本のフィルム加飾製品例-2 6 Johnson Controls PPfilm insert/ MuCell による発泡樹脂の back injectionによるドアトリム ・PPフィルム厚さ:250-600μ ・形状等によって、予備賦形 あり、なし ・Benz E-classのドアトリムに採用 図7 海外のフィルム加飾製品例-1 Smart car roof module consists of GE's Lexan SLX film back-molded with long-glass urethane composite. 図8 BayerのMakrofol? 3D Metalic FG film を用いたIML K2007 The 2003 and 2004 Acura 3.2 TL features TPO rocker panels and body side moldings decorated with Soliant’s Fluorex dry paint film Metallic finish on the whole TPO instrument panel of the 2003 DaimlerChrysler Pacifica is provided by Avery Dennison’s Thermark acrylic film laminate 海外のフィルム加飾製品例-2 7 表1 プラスチックの加飾トピックス(国内-1) 分類 小分類 概要 1)加飾フィルム貼合で ①新オーバーレイ法(TOM)の開発 適用範囲の拡大 ②各種加飾フィルムの開発 (各社で、加飾面、ベースフィルムを改良した加飾フィルムを開発) 2)低コスト加飾の展開 ①金型表面高品位転写射出成形 金型加熱冷却、エア注入などで、金型面を高品位転写。 (表面層なし加飾) ②機能性フィラー混錬材着品使用 メタリック等の意匠性付与 ③鏡面ブロー成形 スーパーポーラス電鋳型使用して、鏡面のブロー成形品。 ①モルフォ蝶の構造色実現 微細金型加工、微細転写成形、光学系多層膜成膜組合せで 3)高品位加飾の開発 フィルム、装置の改良・開発で多次元、高級転写、貼合に拡大。 モルフォ蝶の色再現。 ②多層膜蒸着 薄い多層の蒸着膜で着色。見る方向で色が変化。 4)ソフト表面部品の ①ソフト表皮材貼合成形での進展 2種表皮部分貼合、2樹脂・1表皮部分貼合、超低圧成形。 成形技術の進歩 ②2層成形で表層にソフト層 ソフト/ハード2層成形で自動車内装トリム。 5)装飾+機能 ①特殊フィルム使用で機能も付与 特殊素材、処方のフィルム使用で機能も付与(耐候、耐薬など)。 ②真空蒸着 EMI付与 6)環境対応加飾 ①バイオマスプラスチック利用 バイオマスプラスチックの芯材、繊維、布など利用。 ②レーザー加飾 レーザーで樹脂を発色等。 ③UV硬化インクジェット印刷 UV硬化インクで成形品に印刷。 ④水溶性塗料 溶剤不使用塗料で塗装。 ⑤インモールドコート 溶剤不使用塗料でインモールド塗装。 表2 略語 インモールド加飾技術の略語 英語名称 備考 IMD In-Mold Decoration ・インモールド加飾成形の総称 ・転写成形 IML In-Mold Lamination ・表皮材貼合成形 ・フィルム貼合成形 In-Mold Labeling ・容器などへのラミネーション (絵付け成形) IMF In-Mold Forming ・フィルム貼合成形 (台湾などで使用) B(I)M Back(Injection) Molding ・表皮材貼合成形 (欧州などで使用) FIM Film Insert Molding ・フィルム貼合成形 (KURZ等が使用) IMC IMP In-Mold Coating In-Mold Painting ・インモールド塗装 ・金型内塗装 8 表3 日本の代表的な加飾フィルム 会社名 フィルム名 フィルム材質 大日本インキ MMA、PET等 日本写真印刷 PET等 凸版印刷 (FIM用加飾フィルム) 帝国インキ PC、MMA、PET セイコーアドバンス 東レフィルム加工 メタルミー、タフトップ PET 信越ポリマー ミレティンフィルム MMA、ABS 日本ビーケミカル FILMART MMA、PU バイエルマテリアル Makrofol&Bayfol PC クルツジャパン ABS、PC等 東洋紡績 コスモシャイン、ソフトシャイン PET リケンテクノス 各種 東山フィルム PET 麗光 アートホイール PET アキレス PU 総合研究所 メタラーレ 住友3M (ブラックアウトフィルム) 特殊ポリマー 三菱ガス化学 PC 本田技術研究所 (外装用フィルム) 塗料をフィルム化 注1) TOMは布施真空のオーバーレイ成形工法の名称。 注2) 空欄部分は入手情報では不明。 表4 分類 基材シート による バリエーション 転写層材料・ バリエーション 工法による バリエーション 成形方法 サーモジェクト 日写IMD、IML (FIM) (FIM) (TOM) HDVF、(TOM) (TOM) FIM成形 CFI 真空貼合工法 意匠表現 印刷等 印刷等 印刷等 印刷等 印刷等 印刷等 印刷等 塗装 塗装 印刷、蒸着 印刷、塗装、着色 印刷等 印刷等 印刷、塗装、着色 着色、印刷 塗装 転写箔のバリエーション 加工、材料 艶消し 部分艶消し ヘアライン スピン エンボス アルミペースト パール顔料 シリカなど プロテイン 金属蒸着 ホログラム 意匠効果 すりガラス状 艶、艶消しを併せ持つ ヘアライン 同心円状 木目等 メタリック感 キラキラ感 艶消し感 シルクタッチ メタリック感、ヘアライン レインボー 9 表5 分類 機能 一般機能 ハードコート 帯電防止 抗菌性 ハーフミラー 電波・ 電波透過性+ミラー 電磁波 機能 電磁波遮蔽 光機能 紫外線フィルター 赤外線フィルター 熱線反射 光学特性 光拡散 表6 加飾フィルムへの機能性付与 性能 耐擦傷性 埃付着防止 カビ防止、菌繁殖防止 選択的透視性 ミラー意匠を有し、電波透過 用途例 携帯電話窓部、オ-ディオ製品パネル 店頭陳列製品など トイレタリ用品、浴室用品 携帯電話窓部、オ-ディオ製品パネル アンテナ内蔵携帯電話、パソコン、 自動車エンブレム(追突防止機器) EMIシールド パラボラアンテナ、EMIシールド 太陽光による退色、劣化防止 有機EL使用機器の装飾パネル 化粧品容器 紫外線波長選択 カメラストロボ発光部(発行色の波長調整) 赤外線波長選択 パソコンの赤外受光部 赤外線反射 カメラストロボ発光部 高光線透過率 携帯電話窓部、オ-ディオ製品パネル 光拡散 オ-ディオ製品パネル インモールドフィルムの特性比較 項目 通常PET 易成形PET PC PMMA 厚み(μ) 25 25 300 500 引張り 190℃強度(MPa) 70 30-45 0.1 1 特性 190℃伸度(MPa) 120 250-300 280 400 熱特性 融点(℃) 260 220-250 220-240 ガラス転位温度(℃) 70 59-65 105-150 72-105 耐薬品性 耐酸性 ○ ○ ○ △ 耐アルカリ性 ○ ○ × △ 耐溶剤性 ◎ ◎ △ー× × 耐油性 ○ ○ ○ △ 自己消火性 HB 燃焼性 HB HB 10 表7 会社名 海外文献に見られる主要加飾フィルム 製品名 Bayer フィルム構成など 用途など Macrofol、Bayfol ・PC、PC/PBT ・各種自動車内装採用、外装検討 Makrofol 3D ・クロム表面フィルム ・クロムメッキ代替え検討 ・AcryticとPVDFのClear Coat/同Color Coat ・Body-Side、Rea Tail Gateなど外装部品採用 Metalic FG Film Avery Aveloy /20-30milのABS or TPO Thermark Soliant LLC ・Acrylic ・Instrument Panel等採用 Fluorex IMD Film ・AcryticとFluoropolymerのClear Coat/同Color Coat ・Rocker Panel、Body Side等採用 /Adhesive Layer/0.3-300milのABS or TPO Fluorex Bright ・Bright Crome調(Florida、Arizonaの1年耐候試験合格) Mayco Plastic MIC Formable Film ・4層フィルム Senoplast USA Senotop GE Plastic ・Bumper、Fescia採用 ・Front & Rear Facia採用 ・PMMA Clear/PMMA Color/ABS,PC Blend 1-2mm Bumper等採用 ・Lexan SLX/Lexan Color Film ・Roof Module採用、Front Fascia、Fender、 ・Crome-look IMD Film Door Panel、Hood等検討 ・Ultem PEI Film KraussMaffei/GK ・カラーペイントフィルム(/25%LGFABS) ・Rear Door試作 (射出、射出プレス) Johnson Control ・PPフィルム//MuCell発泡樹脂 ・BenzのE-classのDoor Trim採用 Evinik Degussa メタリック調Vestamid Film ? ・PA612/PA62層フィルム//PA6、66樹脂 ・MMAフィルム//PC Schraeiner ProTec CLF ・自動車まどガラス ・保護層/レーザー感応層/ベースカラー層/特殊接着層 ・レーザー書込み Advannced Decirative System ・導電性インクを使用 ・電子回路を組み入れ Schster Kunststoffe Tecnik ・磁化可能インクを用いたMMA,PCフォイル ・3次元立体感付与, 複雑形状面適用 Nwstal ・MucellとIMLの組合せ Battenfeld ・GAIとIMDの組合せ 表8 分野 加飾フィルムの主要用途、状況、市場規模 主要用途 情報通信 携帯電話筐体 関係 ノートパソコン筐体 備考 (主として日本の状況) 対象品の生産台数 加飾フィルムの 需要(百万円) (2008年)*2(百万台) *1 世界 日本 A情報 1100 38 2007年 370億円 130 3 ローエンドモデルでもIMD,IML 加飾拡大 40%弱がIMD、IML(2008) 少量多品種とネットブック拡大 でIMLの比率急上昇 B情報 最近 >600億円 オーディオ製品パネル 家電関係 家電機器の操作パネル 薄型テレビ筐体 エアコン筐体 各種機器 各種機器のタッチパネル 2009年に200万m2の需要 デジカメ 自動車 自動車内装トリム 日本、韓国では水圧転写、 関係 欧米ではIMLが主流 自動車内装メーターパネル 自動車外装 欧米で先行使用 自動車情報端末 化粧品 化粧容器 家庭用品 トイレタリー用品 注1)*1:調査会社等の資料 2)*2:調査会社等の資料から(加飾フィルム使用の有無は関係なし) 115 130 70 11 12 5 11
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