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日皮会誌:101
(12), 1423-1431,
1991 (平3)
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特異な経過をとった小児の悪性リンパ腫
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一肝機能障害を伴った種痘様水庖症様皮疹で発症し
6年後にT細胞性悪性リンパ腫で死亡した1例−
池谷 敏彦
新田悠紀子
鈴木
敏子
鬼頭美砂紀
佐々田健四郎
清水
宏之*
堀口久美子*
藤本 孟雄*
原
一夫**
要 旨
腫をはじめとして,その辺縁疾患を含めてきわめて多
特異な臨床経過をとった小児のT細胞性悪性リン
彩な臨床像をとる.それらの発症の機序については,
パ腫の1例を報告した.症例は14歳の男児で体格,発
さまざまな推測がなされているが,明確にはされてい
育はやや不良.8歳夏から両頬部および耳介に自覚症
ない.しかし,疾患の根本はLymphoreticular
状の無い丘疹が出現し,中心臍高を持つ小水庖から腐
ignancyであり,その発症のきっかけとなるものが,ウ
爛,結痴し,厳痕を残して治癒することを繰り返すよ
イルス感染や蚊刺などの昆虫アレルギー,あるいは紫
mar-
うになった.同じ頃から2∼3週間ごとに2∼3日間
外線暴露などの物理化学的刺激などのものであれ,個
続く不明熱,関節痛が出現,また肝機能障害も出没す
体の免疫機構の破綻が関係していることはまぎれもな
るようになった.皮疹は加齢と共に増悪する傾向を示
い事実であろう.これらの疾患群には皮疹を伴った症
し,冬季も軽快しなかった.発熱,関節痛には抗生物
例の報告も多いが,それらも多様である.
質は無効で,ステロイドが有効であったが,皮疹には
我々は8歳時に種痘様水庖症(Hydroa
Vaccinifor-
効果を示さなかった.異型の種痘様水庖症として経過
me(以下HV)の症状で発症し,HVとして経過観察
を観察していたところ,13歳12月頃より皮下硬結が出
中に肝機能障害を合併し,不明熱,関節痛を繰り返し,
没するようになり,そのころから顔面の皮疹の出現は
加齢とともにHV症状が増悪し,6年後にT細胞性悪
減少する傾向を示し始めた.9月初旬から39℃台の発
性リンパ腫で死亡した1例を経験した.その興味ある
熱,中旬から加えて下痢,嘔吐が著明となった.入院
臨床経過を報告するとともに,HV様発疹と悪性リン
加療にても軽快せず,躯幹,四肢に皮下硬結が汎発し,
パ腫との合併について若干の考察を試みた.
悪性リンパ腫と診断されたが,11月16日永眠した.
症 例
剖検を行ったが,悪性リンパ腫の原発巣は確定でき
患者:1974年生まれの男児
なかった.モノクロナール抗体を用いた腫瘍細胞の膜
初診:1983年7月22日
表面形質の検索により,T細胞性悪性リンパ腫と確認
家族歴:血族結婚および家族内光線過敏症はない.
した.
既往歴:特記すべき事なし
種痘様水庖症様の皮疹が先行発症した悪性リンパ腫
現病歴:1982年夏頃より両頬部に自覚症状の無い丘
および類症を文献的に検索し,自験例の発症の機序を
疹が出現し,小水庖から痴皮を形成し,癩痕を残して
推測した.
治癒することを繰り返していた.同じ頃から2∼3週
間毎に2∼3日続く37∼39℃の不明熱が出現する様に
緒 言
なった.発熱は時として関節痛を伴うことがあり,ま
小児期におけるリンパ網内系の疾患は,悪性リンパ
た皮疹は発熱と共に増悪する傾向を示した.
初診時現症:一般状態良好,体格やや小,意識明瞭
愛知医科大学皮膚科学教室
で肝牌腫および表在リンパ節の腫脹は認めなかった.
*愛知医科大学小児科学教室
顔面の両頬部を中心に口唇,前額部,耳介に丘疹およ
¨愛知医科大学第1病理学教室
平成2年12月3日受付,平成3年7月15日掲載決定
別刷請求先:(〒480-11)愛知県愛知郡長久手町岩作
雁又21 愛知医科大学皮膚科学教室 池谷敏彦
び中心臍高を有する小水庖を認め,一部に癩痕および
痴皮を付着する廉爛を認めた(図い.
臨床検査成績:初診時と経過中ならびに14歳時の悪
1424
池谷 敏彦ほか
表1 臨床検査成績一I
二二
検査時期
初診時
1983
1983. 7 ∼1987
白血球数 ×10ワμ1 8
20
33-37
29
リンパ球 %
73
49-54
43
異型リンパ球%
く1
463
0
血小板数 ×103/μI 301
TP g/dl
7.2
435-468
211-222
6.4-6.9
TB mg/dl
0.69
0.41-0.48
BUN mg/dl
10.4
10.9-12.4
GOT mU/ml
162
168
541
522
1.180
30-494
29-614
375-1.090
GPT mU/ml
LDH mU/ml
ALP mU/ml
IgG mg/dl
表2 臨床検査成績―
4.4
頼粒球 %
赤血球 ×lOVμ1
図1 初診時臨床像(9歳時)
5.4-10.1
1988
9/20
362-602
-
5
−
481
10/17 11/8
1.8
34
1.4
41
21
12
0
10.8
364
407
266
6、5
44
−
5.5
0.64
0.6
0.8
-38.1
31
−
22
9.8
95
−
6.3
722
148
1,210
18.3
76
−
218
-
32
−
62
−
737
477
1、200
3,060
622
-
M mg/dl
90
167
114
A mg/dl
E mg/dl
712
-
897
一
1,152
-
612
-
ALP
522mU/ml,
3,200
-
454
-
II
GOT
162mU/ml,
血中コプロポルフィリソ
2.20μg/dl (0.5-2.0)
LDH
541mU/mlと肝機能に異常がみられた.しかし
プロトポルフィリソ
28.90μg/dl (14−55)
再検したー‥一般血液検査では,リンパ球数は正常にもど
尿中ウロプルフィリソ
<1
meg// (<9)
コプロポルフィリソ
31
meg/day
便中ウロポルフィリソ
<1μg/100g(10−40)
糞便巾のポルフィリン検査,HSV抗体価,HB抗原,
コプμポルフィリン
34μg/100g(400−1,200)
HB抗体,免疫血清検査などに異常は認めなかった(表
プロトポルフィリン
55μg/100g(<1,800)
2).
ポルフィリン体定量(初診時)
GPT
168mU/ml,
り異型リンパ球も認めなかった.その他血中,尿中,
(<50)
リンパ球幼若化現象(1988/ 9 )
PHA (37.700-62,400)
PHA十 24,715
CPM
control 282
CPM
臨床経過ならびに治療:1983年7月29日より,皮疹
に対してはステロイド含有牡膏の外用,発熱に対して
はMinocycline
60mg/ ロの投与を行ったが,いずれも
CON-A (24.300―58,200)
効果は認められなかった.
1984年5月には,
CON-A圭 20,784
CPM
control 282CPM
mU/ml,
と高値を示したが,同年7
GPT
614mU/ml
GOT
リンパ球膜表面形質(1988. 9 )
CD4 25.0% (25−56)
月にはそれぞれ54mU/ml,
48mU/mlと低下した.こ
CD8 25.9% (17一44)
て増悪,寛解を繰り返した.皮疹は特に冬に軽快する
CD4/8 0.97
HLAタイピソダ(1988. 9 )
傾向は見られなかった.
の後も皮疹は消長を繰り返し,GOT,GPTも無治療に
Alocus; A2,A24
Blocus; BW46, BW61
1986年9月,運動会後に38∼40℃の発熱が見られた
Clocus;CWl. CW3
かし解熱傾向はみられず,皮疹および肝機能の増悪を
DR locus ;DRW6.
DO locus ;DQWl
DRW8,
ため,再度Minocycline
DRW52
みたため,β−メサゾソ1.
100mg/日の内服を試みた.し
5mg/日を4日間投与したと
ころ,皮疹,発熱ともに著明に軽央した.その後は発
熱時にβ−ノサゾソの内服を間欠的に行い経過比較的
性リンパ腫発症時臨床検査成績を比較して表1にそ
良好であったが,発熱,肝機能の増悪はときどき出現
の他の臨床検査成績を表2に一括して示した.初診時
し,皮疹は加齢と共に増悪する傾向を示した(図2).
には,一般血液検査においてリンパ球が73%と増加し,
皮疹に対して有効な治療がないため,患者は当科へ
異型リンパ球の出現を認め,血液生化学検査において,
の通院を中断し,当院小児科にて肝機能のみについて
494
1425
特異な経過をとった悪性リンパ腫
図2 12歳時臨床像
経過を観察されてトだ.この間,発熱時にはやはりス
テロイドの短期投与がなされていた.1987年末頃から,
時々皮下に浸潤を伴う硬結が出現するようになった
が,培養にてS.
aureusが分離されたため,毛嚢炎とし
て処置されてトた.
図3 a:14歳時入院時臨床像,b:同皮疹拡大像
1988年9月初句より39℃台の発熱
が出現し,9月15日より嘔吐,下痢示顕回となったた
表3 臨床検査成績―Ill ウイルス抗体価
め,9月20日当院小児科へ入院となった.
1983/ 8
入院時現症:体温39.2°C,脈拍126/分,呼吸数24/分,
血圧102/40mmHg,
skin turgor 低下.顔面に直径5mm
までの癩痕が多数見られたが,丘疹や小水庖は認めな
かった.直径0.7∼3Cmの皮下結節や四肢や躯幹に散
HBs Ag
HBs Ab
HSV
vzv
EBV VCA IgG
在し,一部に発赤,然感,圧痛を伴うものも見られた
1989/ 9
/10
一
一
<4
く4
X640
×640
VCA IgM
VCA IgA
<10
<10
<10
<10
EA-DR IgG
EA-DR IgA
く10
く10
入院後の経過:感染症が疑われ,補液と抗生物質
EBNA
CMV CF
×320
×20
<10
(Cefoxitin十Aztreonam)による治療にもかかわらず,
IgG(FA)
入院3日目より胸水が増加し,その培養からS.
IgM(FA)
HTLV-I
(図3a,
b).咽頭発赤はなく,右胸部で呼吸音減弱し,
肝4cm,牌3Cm触知したが,表在リンパ節は触知しな
かった.
aureus
が分離された.この時点で外科により胸部の皮下結節
/n
<10
HIV
×16
×20
<10
−
−
の生検が行われたが,病理診断は脂肪織炎であった.
持続吸引と各種抗生物質の投与にも症状の好転が見ら
れず,胸部X-Pの陰影も増悪したため,10月24日,外
から胸部X-Pに雲状陰影が出現し,徐々に増悪し,そ
科により肺剥皮術が施行された.壁側胸膜は肥厚し,
の後両肺野に円形陰影が多発してきた.11月1日に吐
肺表面は厚い被膜で覆われていた.右上肺葉実質およ
血し,咳歌,血性痰,呼吸困難が出現し,全身状懸か
び前胸部,左下肢の皮下結節の生検示行われ,この組
悪化したため11月8日よりICUにて人工呼吸器によ
織で悪性リンパ腫と診断された.
る管理がなされたが11月16日永眠した.
術後一時的に症状の改善が見られたが,術後4日目
自験例の各種ウイルス抗体価を表3に示した.
池谷 敏彦ほか
1426
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ふノ噺、ごこ£・4
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図4 a
4 ・卜卜
図5
b
。
”・
=な‘
●
・
a:12歳時顔面皮疹の病理組織像(HEX50)
同拡大像(HEX320)
初診時顔面皮疹の病理組織像(HEX80),
剖検所見概要:大動脈弓部から気管分岐部にリンパ
b:同拡大像(HEX320)
節が腫大癒合し,大小の腫瘤よりなる大きな腫瘍塊を
形成し,割面では壊死に陥ったリンパ節が多数見られ
た.肺にはクルミ大の腫瘍結節が多数見られた.腸間
膜リンパ節は栂指頭大腫脹,肝牌腫が認められ,肝に
は腫瘍浸潤がみられた.回盲部に潰瘍が見られたが,
腫瘍の浸潤はみとめなかった.骨髄への腫瘍の浸潤は
みられなかった.
剖検診断:1)悪性リンパ腫,びまん性,大細胞型
(心,両肺,牌,左副腎,肝,胃,皮膚),
2)右肺線組
素性肋膜炎十分葉異常(二葉)十両肺うっ血水腫,3)腔
水症(腹水,左胸水,血性心嚢水),
4)出血傾向,5)
脂肪肝,6)大腸潰瘍,7)膀胱炎.
病理組織学的検討
初診時顔面丘疹:表皮は軽度の角質増殖が見られ,
一部に境界明瞭な壊死巣が認められる.真皮では毛嚢
および血管周辺に小円形細胞浸潤が認められるが,核
の異型性はみられず,濾胞形成も見られない(図4a,
b).
図6 a:入院時躯幹皮膚結節病理組織像(HEX40),
b,c:同周辺部拡大像にみられたcytophagic
niculitis(HEX
1,000)
pan-
1986年顔面小水庖:表皮は非薄化し,一部に壊死を
認める.表皮内および表皮直下に浮腫および多胞性の
1427
特異な経過をとった悪性リンパ腫
図8 剖検時鎖骨上席リンパ節病理組織像(HEX
320)
好中球を貪食した組織球が認められ,いわゆるcytophagic panniculitisの像が見られた(図6b,
c).
1988年10月,下腿結節:真皮深層から皮下脂肪織に
かけて,小円形細胞と組織球の棚密な浸潤をみる.浸
潤細胞の核はクロマチンに富み,核の異型と多数の核
分裂像がみられる(図7a,
b).
剖検時鎖骨下リンパ節:リンパ節は種大し,正常の
図7
b
a:剖検時大腿皮膚結節病理組織像(HEX40),
構築はみられず,核異型の強い腫瘍細胞でしめられて
同拡大像(HEX320)
いる(図8).
免疫組織学的検討
水庖形成があり,水庖内には好中球,好酸球を認める.
初診時,12歳時,入院時,経過の末期および剖検時
真皮浅層から深層にかけて好酸球,組織球を混じた小
のパラフィンに包埋した組織標本の浸潤細胞および腫
円形細胞の槻密な浸潤を見るが,浸潤細胞の核の異型
瘍細胞を,
性は認めない.壊死性血管炎の像は見られなかった(図
免疫組織学的に検討した結果を表4に示した.それぞ
oa, b).
れのモノクロナール抗体は,LCA(CD45)は白血球,
1988年9月,入院3日目の胸部皮下硬結:真皮深層
LN-1
から皮下脂肪織に桐密な小円形細胞の浸潤を認める
はB-Cell,
(図6a).浸潤細胞はリンパ球様細胞,組織球が主体で,
T-Cellの細胞表面抗原に反応し,
一部に核の異型を認める.浸潤細胞の周辺では赤血球,
原, BerH2
Abidin-Biotin-Complex
(CDw75),
LN-2
UCHL-1
(ABC)法により
(CD74)およびL26(CD20)
(CD45RO),
MT-1
(CD45R)は
LN-3はHLA-DR抗
(CD30)はKi-1抗原を認識する1).また同
表4 自験例の浸潤リンパ球および腫瘍細胞の免疫組織学的検討
抗体名
CD分類
採取時期
LCA
CD45
LN-1
CDw75
LN-2
CD74
L26CD20
LN-3
UCHL-1
CD45RO
MT-1
CD45R
Ber・H2
CD30
組織診断
初診時
HV
十
-
-
-
-
-
+
ND
1986. 7
HV
+
-
-
-
-
-
+
ND
1988. 9
CP
+
-
-
-
+
+
+
ND
1988.10
ML
+
-
-
-
+
+
+
+
剖検時
ML
+
-
-
-
+
HV
: Hydroa
vacciniforme,
CP : cytophagic
panniclitis.ML:ma】ignant lymphoma,
negative nor positive,ND: not done, 木:respond
to HLA-DR
+
十
positive,
+
−:negative.÷
+
neither
1428
池谷 敏彦ほか
図9 HV様皮疹.免疫組織学的染色
a:MTl,
時に施行したリゾチーム,
b :L26
S-100蛋白染色はいずれも陰
性であった.初診時および12歳時のHVと診断された
時点で,表皮内および真皮に浸潤しているリンパ球は,
図10
腫瘍細胞.免疫組織学的染色
T-cellマーカー陽性細胞が主体で,
a:MTl
b : L26, c:UCHLl,
B-cellマーカー陽
d : BerH2
性細胞はみられなかった(図9).入院時および剖検時
の腫瘍細胞もT-cellマーカー陽性細胞で,
B-cellマー
が1例,
non-T,
non-Bが4例であったと報告してい
カー陽性細胞はみられなかった.活性化T細胞を認識
る.
するLN3は入院時以降の腫瘍細胞のみに陽性であっ
自験例の悪性リンパ腫の原発部位は剖検では確認で
た.腫瘍細胞はKi-1リンパ腫に陽性をしめすBerH2に
きなかったが,T細胞悪性リンパ腫であったこと,皮
陽性を示した(図10).この結果より自験例の悪性リン
膚に結節が散発していた小児科入院時に,胸部X線像
パ腫をKi-1陽性のT細胞悪性リンパ腫と診断した.
に感染症を思わせる陰影がみられたこと,またその時
考 按
点で表在リンパ節の腫脹がみられなかったこと,剖検
1862年Bazinにより命名されたHVは,主として小
時に大動脈弓部から気管分岐部に最も大きな腫瘍がみ
児の日光露出部に,紅斑,中心臍高を有する小水庖と
とめられたことから,縦隔原発の可能性が高いと考え
して発症し,痴皮を形成した後種痘様の癩痕を残して
ている.
治癒することを繰り返す,原因不明の日光過敏性疾患
自験例で悪性リンパ腫に先行して出現したHV様
である.また通常加齢により軽快する予後良好な皮膚
皮疹が,悪性リンパ腫と関係するか否かは問題である.
疾患である.自験例では当科で経過を観察していた初
自験例のようにHVと診断された後,悪性リンパ腫あ
診時以降の3年間の症状は,組織学的所見および臨床
るいはその類症を発症した症例の報告や,HV様の発
検査所見からHVとするのが妥当と考えられた.しか
疹が悪性リンパ腫に先行して出現した症例の報告は,
し加齢による増悪,肝機能の異常,発熱や関節痛を伴っ
まれではあるが,散見され,いずれもT細胞性悪性リ
ていたことで,通常のHVと異なっており,この時点
ンパ腫である(表5).自験例において払運動会の後
で悪性リンパ腫への移行の可能性を示唆する症例と考
に皮疹の増悪を見るなど,光線過敏性はみられたが,
えて報告した2).
通常のHVと異なる種々の全身症や臨床経過から,悪
小児に発症する悪性リンパ腫は,小児の悪性腫瘍の
性リンパ腫の発症になんらかの関連があったと考えた
内では白血病,中枢神経腫瘍に次いで多く,その5
い.
∼10%を占めるとされている慌また,
自験例で,何時悪性リンパ腫が発症したかは明らか
Bernardら4)に
よれば116例の非ホジキソ小児悪性リンパ腫のうち,縦
でないが,少なくとも当科で経過を観察していた時期
隔原発が50例(43%)ですべてT-Ce11系,腹部原発が
のHV様皮疹の免疫組織学的検討では,浸潤している
45例(39%)で,うち44例がB-CeH系,1例がnon-T,
リンパ球はT細胞主体であるが,浸潤細胞に核の異型
non-Bで,皮膚原発リンパ腫は5例(4%)でT-Cell
は認められず,好酸球や組織球が混在しており,また
1429
特異な経過をとった悪性リンパ腫
表5 HV様皮疹が先行して出現した悪性リンパ腫およびその類症の報告
症例
瓢
年齢
性
詣
HV様発疹
出現年齢
16
7∼8
1)
TL
16
M
2)
LP
13
F
3)
LP
M
4)
TL
5)
7
TL?
自験例 TL
OHNOら5)
8
6
発熱,軽度肝肺腫
寺師ら6)
4
4
突然の高熱,一過性肝障害
四肢の抜打ち様潰瘍
加藤ら7)
3歳より重症蚊アレルギー
発熱,肝障害
川上ら8)
M
14
11
20
F
20
9
M
14
8
14
報告者
変装腫,GOT,GPT上昇,
14
TL : T cell・Lymphoma,
その他の症状
6歳より重症蚊アレルギー
肝機能障害出没,
四肢の抜打ち様潰瘍
発熱,関節痛,肝障害
LP : Lymphomatoido
papulosis, TL?:T
赤井9)
cell ma】ignancy ?
活性化T細胞を標識するLN3は,末期の腫瘍細胞で
リーには当てはまらないものの,初期から高lgA血
陽性であるのに比し陰性で,反応性の浸潤と考えられ
症,高lgE血症がみられたことから,なんらかの免疫
た.しかし,当院小児科入院後に外科で施行された胸
不全状態にあったことが推測される.そのため,まず
部皮下結節の穿刺生検の組織標本では,核異型性の強
多クローソ性のリンパ網内系細胞の増殖状態をぎた
いリンパ球および組織球の桐密な浸潤が皮下脂肪組織
し,紫外線の障害を含めた様々な抗原刺激に対して反
にみられ,一部の組織球は赤血球および多核白血球を
応してHV様の皮疹を発症し,さらに,繰り返し反応
貪食し,いわゆるcytophagic
panniclitisの像がみら
れた.この浸潤したリンパ球は大部分がT細胞で,
IA
を重ねるうちに,免疫監視機構の破綻をきたして単ク
p−ソ性のT細胞性悪性リンパ腫を発症したのでは
抗原陽性であり活性化T細胞と考えられ,この時点で
なかろうかと推測七た.
は悪性リンパ腫が発症していたと考えられる.小児の
また,経過の末期にEBウイルス(以下EBV)の抗
悪性リンパ腫は経過が早いとされており10)臨床経過
体価のうち,
とあわせて,入院の数力月前,実際には皮下硬結が出
EBVの活性化をしめすEA-DR
VCA-IgGは640倍で変化はなかったが,
IgGが,10倍未満から
没し始めた1987年末頃に悪性リンパ腫が発症したと推
320倍と著明な上昇を示し,またEA-DR
測している.
下から20倍に上昇を示した.抗体価の異常な上昇は,
一方,悪性リンパ腫や慢性リンパ性白血病などの患
やはり免疫監視機構の破綻がB細胞に潜伏持続感染
IgAも10倍以
者が,各種抗原に対してAnergyを示す事実が知られ
していたEBウイルスが再活性化したためであろう.
ており,さらに重症蚊アレルギー患者が悪性細網組織
EBウイルス感染が,免疫不全状態下で各種のリンパ
球症を高頻度に発症することも報告されている.奥平
増殖性疾患,すなわち悪性リンパ腫やVirus・
ら11)は2歳から発症した重症蚊アレルギー患者が,10
Associated
歳時に悪性リンパ腫様の腫瘍で死亡した症例を報告
などを発症することが報告されているが,自験例にお
し,繰り返す蚊アレルギー刺激が反応性の網内系細胞
いてEBVの再活性が,悪性リンパ腫の発症に関係し
増殖を来し,それがさらにHistiocytic Medullary
reticuIOSiS12)に類似した状態に進み,最終的にTrue
Hemophagocytic
Syndrom
(VAHS)13)14)
たか否かは不明である.
自験例のごとく,発熱や肝機能障害などの全身症状
malignancyをきたしたと推測している.
を伴った病態を示すHV様皮疹は,リンパ増殖性疾患
HV様皮疹については,表4に示した如く重症蚊ア
の発症を予知するDermadromの可能性が高く,慎重
レルギーからリンパ腫や8),悪性組織球症類症9)を発症
な検索と厳重な経過観察が必要であろう.
した症例,
この論文の要旨は第11回日本小児皮膚科学会(1987.
Lymphomatoid
papuloSis6)7)や,悪性リン
パ腫5)に先行して出現した症例の報告がみられる.こ
東京),第88回日本皮膚科学会(1989.
れらの症例にHV様の皮疹が出現する理由について
皮膚科2000年(1990.
はいずれの報告にも記載はなく,不明である.自験例
においては,従来報告されている免疫不全のカテゴ
6.
4 .金沢)および臨床
5 London)において発表した.なお
学会発表時,免疫組織学的検討が不十分でB細胞性悪性リ
ンパ腫として発表したことを訂正する.
1430
池谷 敏彦ほか
文
献
1)佐藤雄一,古屋周一郎,向井 清:悪性リンパ腫の
皮,43
免疫組織学的診断,病理と臨床,7
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tiocytic
障害を伴ったHydroa
胞性免疫低下症例の臨床と病理 ,日皮会誌,93:
医大誌,16
Vaccinformis
: 35-40,
の1例,愛知
1988.
711-722,
Medullary
Reticulosisの像を呈した細
1983.
3)本郷輝明,藤井裕治,水野義仁で小児の皮膚リン
10)大野外誉郎,水野文夫:EBウイルスとBリンパ
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原出版,東京,
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Caillaud
T.non・B
549-554,
with
nant
S, Bowman
J, Boumsell
L : Non-
are rare in childhood
cutaneous
tumor.
and
召・lood, 59 :
1982.
5)OonoT, Arata
existence
Melvin
J, Lemerle
lymphomas
associated
BM,
of hydroa
lymphoma,
1306-1309,
伴った悪性リンパ腫の1例,医療,37
T, Ohtuki
vacciniforme
Aγd
Y : Co-
and
malig-
Dermaiol,
\22 :
1986.
: 705-709,
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Medullaly
Reticulosisお
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13)
Mroczek
EC,
Markin R,
Weisenburger
Purtilo DT
1984.
DD,
Grierson
mononucleosis and virus・associated hemo-
6)寺師浩人,片桐一元,藤原作平,新海 法,市川弘
phagocytic
城,高安 進,篠 力:種痘様水庖症様皮疹に始
111
まりリンパ腫様丘疹症類似の症状を呈した1例,
14)清水宏之,水野三省,菅野弘之,安藤伯秋,藤本孟
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: 911-916,
HL,
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7)加藤三保子,杉山貞夫,神保孝一:Lymphomatoid
: 647-656,
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Paihol
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1987.
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drome(VHAS)の1症例,小児科診療,53
1977.
1227-1231,
1990.
:
1431
特異な経過をとった悪性リンパ腫
A Case
of T・cell Lymphoma
Hydroa
in a Child with
Vacciniforme
-like Eruptions,
and Arthralgia
and
Unusual
Clinical Course
Repeated
Abnormal
Unknown
Showing
Fevers
Liver Functions
ToshihikoIkeya, Yukiko Nitta,Toshiko Suzuki, Misaki Kito,Kenshiro Sasada,
Hiroyuki Shimizu*, Kumiko
Horiguchi*, Takeo Fujimoto* and Kazuo Hara**
Department ofDermatology,AichiMedical University
*Department ofPediatology,
AichiMedicalUniversity
**Department ofFirstPathology,AichiMedicalUniversity
(Received
December 3,1990;acceptedforpublication
July 15,1991)
A
14・year-old boy was
asociated
with
Medical
repeated
University
vacciniforme.
on
These
aware
attacks
July
of papules
and vesicles on his face at the age of 8. He had abnormal
of unknown
12, 1974,
symptoms
were
fever and arthralgia. He visited the Department
and
was
gradually
diagnosed
worsned
clinically
as the patient
and
grew
liver functions
of dermatology,
histolc≪ically as
older. Oral
atypical
Aichi
hydroa
antibiotics therapy
was
ineffective to these symptoms・
He
developed
Pediatrics,
was
He
of malignant
died
malignant
Tumor
apn
of dyspnea
lymphomas
cells were
J Dermatol
words: T
outbreak
University
while n0 lympho
effusion. Biopsy
diagnosis
Key
Aichi Medical
recognized,
pleural
frequent
of fever, diarrea
on September
node
specimens
was
taken
and
He
was
admitted
20, 1988, at the age of 14.The
palpable. The
from
vomiting.
pulmonary
indurated
enlargement
decortication
pulmonary
parenchyma
to the
was
of liver and
performed
and
Department
of
spleen
for intractable
left lower
limb
gave
a
lymphoraa.
and
deterioration
of multiple
recognized
of general
conditions
as T-cells based
on the surface
101: 1423∼1431,1991)
cell lymphoma,
on
November
16, 1988. The
autopsy
organs・
hydroa
vacciniforme,
child
maker
examination
with
ABC
technique.
revealed