公費負担妊婦健康診査−日本産婦人科医会の調査結果から

母子保健情報 第58号(2008年11月)
Ⅰ 妊産婦健診
公費負担妊婦健康診査−日本産婦人科医会の調査結果から
か
せ き
しげ
あき
医療法人格医会可世木病院理事長 可世木 成 明
いわ
なが
しげ
あき
岩永レディスニック理事長・院長 岩 永 成 晃
キーワード
妊婦健康診査、公費負担、全国調査
最頻値は、昨年度は2回であったが、本年度は5
はじめに
回と大幅に増加した。厚生労働省も同様のデータ
平成19 年1月 16 日、厚生労働省雇用均等・児童
を発表している(雇児母発第 1031001 号、平成 19
家庭局母子保健課長より、各都道府県・政令市の
年 10 月 31 日)
、(雇児母発第 0530001 号、平成 20
母子保健主管部(局)長あてに「妊婦健康診査の
年5月 30 日)
。
公費負担の望ましいあり方について」と題する通
今回の調査結果で回数は全国的に増加はしたも
達が出された。平成19年度地方財政措置(交付金)
のの、地域による格差が認められ、委託単価には
で、妊婦健康診査も含めた少子化対策について拡
かなりのばらつきがあることが判明した。既に日
充の措置がなされ、各市町村における妊婦健康診
本産婦人科医会各支部に報告し、マスコミにも発
査の公費負担について相当回数を増やすことが可
表した内容であるが、調査に当たった筆者らはこ
能となり、14 回程度(最低限5回)行われること
こにその一部を記述し、問題点について述べさせ
が望ましいとされている。
ていただく。
妊婦・乳児健康診査については、母子保健事業
1.公費負担妊婦健診回数(市町村単位)
が都道府県から市区町村に委譲されており、各都
道府県医師会が医療機関の代理人として市区町村
表1、図1に昨年度(平成 19 年4月)と本年度
との間で一括委託契約を締結する地域が多かった。
(平成 20 年4月)の調査結果を比較して示す。昨
平成 16 年日本産婦人科医会の調査では 47 都道府
年度の回答は41支部にとどまったが、本年度は47
県のうち 33 地域で支部内統一がなされていたが、
全支部から回答を得ることが出来た。
地方財政措置に伴い各地方自治体の状況に応じて
公費負担回数の最頻値は、昨年は2回であった
対応はさまざまとなり、地方交付税の交付団体・
ものが本年は5回になっている。5回以上実施し
非交付団体によっても対応に差が生じている。事
ている市町村の比率は昨年が 17.13% で、本年が
業の実施主体は市区町村であるため、地区医師会
90.85% と増加した。ほとんどの地域で回数が増加
との交渉でより低額な個別契約をねらうところも
した。47 支部中 29 支部(47.61%)が全県下で5回
ある。妊婦検査の内容や金額については、各市区
以上実施と報告している。さらに集計時点で回数
町村と一括代理契約を締結し都道府県内で統一す
の少なかった地域も、
その後回数を増加している。
べきと考えられる。
厚生労働省の公費負担の回数に関する通知が出さ
日本産婦人科医会では公費妊婦検診の各地域の
れたことに加えて、各地区の医師会、日本産婦人
実態調査を平成 19 年4月と平成 20 年4月に行っ
科医会支部の交渉が実ったものと考えられる。
た。その結果、全国の市町村における妊健回数の
─ 41 ─
母子保健情報 第58号(2008年11月)
や里帰りの時にも同等のサービスが得られる。埼
表1.公費負担妊娠健康診査回数(市町村単位)
妊健
市町村数
回数
H19 年5月
H20 年4月
0
1
0
1
65
5
2
877
59
3
62
85
4
35
14
5
137
1,354
6
11
22
7
27
66
8
1
12
9
2
0
10
6
43
11
0
1
12
1
5
13
4
5
14
4
48
15
22
59
16
0
4
合計
1,255
1,782
5 回以上実施
17.13%
90.85%
(日本産婦人科医会 医療部会調査、平成 20 年3月)
玉、山梨、三重など県内で回数も委託単価も統一
している都道府県も少なくはない。
3.都道府県別公費負担妊婦健診回数の内訳
表2に都道府県別公費負担妊婦健診回数と市町
村数を示す。中央の3列部分は、中に5回施行市
町村数、その左側に1回∼4回の計、右側に4回
∼ 20 回の計を示している。
北陸、近畿、九州地方で負担回数の少ない市町
村が多い。反面、東北、関東、東海地方では、負
担回数が多いように見られる。
東北ブロックでは 6 回以上が 50%、10 回以上が
32% を占めた。福島はほとんどの市町村が6∼ 15
回であり、秋田はほとんどの市町村が6∼9回と
なっている。次いで回数の多いのは、中国、近畿、
東海であった。
関東、東北ブロックでは神奈川を除いて回数の
少ない市町村はほとんどない。東京、愛知では全
地区が5回以上であり、10 回以上の市町村も多く
図1.公費負担妊健回数と市町村数
みられる。
市町村数
1,400
H19 年 5 月
北陸ブロックでは回数の多い市町村もあるが、
H20 年 4 月
1,200
回数の少ない地区がやや多い。
1,000
近畿ブロックは、滋賀、兵庫では回数が多いが、
800
その他の県では4回以下の市町村数が44%を占め
600
ていた。
400
九州、四国では、6回以上施行している市町村
200
0
0 1
2
3
4
5
6
7
8
がほとんど無く、特に福岡、宮崎、香川で4回以
9 10 11 12 13 14 15 16
下の市町村が多い。
今後増加するよう期待したい。
妊健回数
全県下5回以上実施:29 都道府県(29/47:61.8%)
4.妊婦健診回数の多い市町村
表3に妊婦健診回数の多い市町村を示す。北海
2.地域別の回数、委託単価、契約内容
道については表には多い地区が示されているが、
都道府県内部でも市町村の財政状態等によって
一方少ない地区もみられる。全体を見渡してみる
大きく異なる。委託単価は市町村によってさまざ
と仙台市や東京都のような政令都市も入っている
まであるが、大雑把な平均でみると、第一回:
が、比較的小規模の市町村が多いようである。愛
10,537.0円、第二回:5,465.9円、第三回以降:6,262.9
知県では超優良企業とその関連企業を有する地方
円、五回合計;29,667.8 円であった。
自治体では回数の多い傾向が認められた。財政豊
都道府県全域で回数や単価が統一されていれば、
かであるためと推定される。
妊婦が行政枠を越えた地域の機関に受診した場合
一方過疎地で財政的にさほど豊かではないと思
─ 42 ─
母子保健情報 第58号(2008年11月)
表2.都道府県別公費負担妊婦健診回数の市町村数
都道府県
北海道
青森
岩手
宮城
秋田
山形
福島
茨城
栃木
群馬
埼玉
千葉
東京
神奈川
山梨
長野
静岡
新潟
富山
石川
福井
岐阜
愛知
三重
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良
和歌山
鳥取
島根
岡山
広島
山口
徳島
香川
愛媛
高知
福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島
沖縄
合計
0
4 回以下
1
2
3
7
8
4
27
1
4
1
1
1
4
4
5
5
7
3
7
23
23
13
2
1
0
5
6
17
1
5
59
85
∼4
5
6∼
4 合計 回 合計
6
1
16 149
11
0
23
17
0
27
8
2
4
30
2
0
0
25
1
0
27
4
31
4
26
1
42
1
0
22
9
0
35
3
3
0
70
0
0
52
4
0
41
21
2
29
2
1
0
28
0
0
80
1
1
0
38
3
2
3
24
4
1
0
14
1
1
4
15
0
4
10
3
2
7
30
5
0
30
19
1
0
29
0
0
0
26
1
1
24
0
1
36
7
0
1
4
19
9
3
20
19
0
25
5
0
0
15
4
0
15
6
1
0
21
5
2
0
20
3
2
1
16
3
1
0
24
0
4
4
11
2
2
0
19
1
0
34
0
1
24
42
0
1
1
19
0
0
23
0
0
48
0
0
20
0
6
23
1
0
43
3
0
41
0
14 163 1,354 265 22
7
2
6
2
22
4
3
2
1
2
1
1
4
6
4
2
1
3
66
8
9
10
4
1
2
1
6 回以上
11 12 13
14
2
8
1
15
2
16
1
17
20
合計
176
40
35
36
1
1
25
31
1
2
3
20
60
1
44
3
2
1
31
38
70
1
1
2
56
19
62
33
28
81
1
41
1
1
31
15
19
2
17
1
1
1
2
42
5
9
49
29
2
18
4
1
1
26
25
43
32
39
30
19
2
1
21
2
1
26
1
23
1
1
20
24
17
1
20
34
66
20
23
48
20
30
46
41
12
0 43
1
5
5 47 59
3
1
1 1,782
(日本産婦人科医会・医療対策部調査、平成 20 年4月)
2
1
1
─ 43 ─
母子保健情報 第58号(2008年11月)
表3.妊婦健康診査回数の多い市町村(10 回以上)
都道府県 市区町村名
(政令都市◎、中核都市○)
北海道
青森
岩手
秋田
宮城
福島
茨城
栃木
東京
静岡
新潟
栃木
新潟
福井
愛知
滋賀
岡山
広島
山口
愛媛
島根
新冠町、幌延町、枝幸町、士幌町
下川町、上士幌町
初山別村、幕別町
秩父別町
神恵内村、和寒町、剣淵町
おいらせ町
七戸町、六戸町、横浜町、東北町、六ヶ所村、東通村、佐井村、三戸町
平泉町
岩泉町、田野畑村
大仙市
男鹿市
◎仙台市
南会津町、小野町
桑折町、国見町、棚倉町
福島市、伊達市、川俣町、飯野町、大玉村
郡山市、いわき市、白河市、本宮市、鏡石町、天栄村、西会津町、磐梯町
三島町、昭和村、泉崎村、中島村、矢祭町、塙町、鮫川村
大洗町 宇都宮市
鹿沼市、上三川町
中央区、港区、新宿区、文京区、台東区、墨田区、江東区、品川区、
目黒区、大田区、世田谷区、中野区、杉並区、北区、荒川区、板橋区、
足立区、葛飾区、奥多摩町
川根本町
村上市、関川村
鹿沼市、上三川町
宇都宮
粟島浦村
糸魚川市
一部の若狭町
東郷町、長久手町、江南市、知立市、東浦町
飛島村、大府市、三好町、安城市、武豊町、碧南市、刈谷市
○豊田市
彦根市、愛荘町
豊郷町、甲良町
多賀町
長浜市、米原町、虎姫町、湖北町、高月町、木之本町、余呉町、西浅井町
高島市
美咲町、西粟倉村
鏡野町
庄原市
周防大島町
八幡浜市
吉賀町 海士町
邑南町
─ 44 ─
公費負担
妊健回数
10
14
15
16
全回
10
14
14
10
13
14
10
10
13
20
10
12
10
14
14
5
10
12
15
17
14
10
14
14
10
12
20
10
15
10
14
10
10
10
10
16
母子保健情報 第58号(2008年11月)
われても、意識して公費負担回数を多くしている
「無料券」と呼称する地区もあるが、不十分な内
ところも見られる。これらの地域は、一つには人
容であれば「補助券」と呼ぶべきであろう。妊婦
口が少なく出産数が少ないので補助の回数を多
サービスを如何に厚くしようかと考える自治体が
くできることもあろうが、何より少子化対策とし
ある一方、体裁だけを繕う姿勢の自治体がある。
て熱意を込めてとり組んでいることが考えられる。
母子手帳に挟み込む書類などの表記のような細か
5.妊婦健診公費負担の健診内容と委託単価
安全・安心な妊婦管理のために自治体に望むこと
い部分まで細心の注意を払い、妊婦さんにとって
満足のいく妊婦健康診査公費負担になるよういっ
そうの努力をお願いする。
地方自治体との交渉で必ず問題になるのは公費
妊娠経過中、13∼14回の妊婦健康診査が必要で
負担妊婦健診の価格、すなわち健診費用と検査
あるが(
『産婦人科診療ガイドライン産科編 2008』
内容の設定である。表4に厚労省が雇児母発第
参照)、安心の出来る良質な妊娠管理のためには
0116001号「妊婦健康診査の公費負担の望ましい
そのうち、少なくとも5回については表4のリス
あり方について」で示している最低限とする検
トのごとき検査内容が望まれる。助産所において
査項目と、日本産科婦人科学会/日本産婦人科
も妊健の公費負担が行われるべきであるが、リス
医会の『産婦人科診療ガイドライン産科編 2008』
トの検査項目は助産所で行い得ても診断は医師に
に記載されている超音波検査を加えて、それぞ
よるべきものも多い。従って助産所の場合には、
れの検査に保険点数をあてはめて表示した。委
助産所で行う公費負担妊婦健診に加えて上記の5
託単価の見積りは自費で行われている検査項目
回に相当する健診を嘱託医療機関で行い、出産時
について診療報酬の点数を参考として算定した
のいざという時に備えるのが望まれる。妊娠中か
ものである。産科の再診に当たっては、単に問
ら助産所と嘱託医療機関の緊密な連携を構築する
診・外診だけでなく、特定疾患管理料と外来栄養
べきと考える。
指導料に相当する診療が行われていると考える。
妊婦が訪れる全ての健診機関で、この妊婦健康
積算の参考として1点 10 円として算定すると第
診査公費負担制度が適用されなければならない。
一回の 17,370 円から第五回の 11,540 円、五回計
公費負担制度を運用する行政は医政発第 0330061
61,940 円となる。前記のごとく、今回の調査で5
号で示されている「分娩における医師、助産師、看
回分の概算総額の平均は 29,667 円であった。全
護師等の役割分担と連携について」と同様の見地
国的に十分とは言えない委託単価であり、検査
を忘れることなく妊婦サービス構築にあたるべき
項目にも注意を払った総額の値上げが望まれる。
と考える。
現在、検査内容・委託単価共に十分な地区は少な
おわりに
い。
安 全 ・ 安 心 な 妊 婦 健 診 の た め に は 当 該 行 政
舛添厚生労働相は8月22日の閣議後会見で、少
(国、都道府県、市町村)の十分な理解が必要であ
子化対策として、出産関連費用への公費負担を大
る。地方自治体によっては健診回数を増加する代
幅に拡充する考えを明らかにした。出産前の健診
償として単価を安くすることがある。お産環境が
費用を全額公費で負担するほか、平均40万円程度
悪化している中で、十分な行政サービスをしてい
とされる出産費用を全額給付する仕組みを検討す
ただきたい。日本産婦人科医会としては安心の出
るとしている。安心のできる妊婦健診、出産管理
来る良質な妊娠・分娩管理を提供するために必要
のために十分な補助を前提として大いに期待する
な環境を構築する責を負っている。妊婦健康診査
ところであるが、昨今の経済情勢から中途半端な
公費負担はあくまでも「補助券」であり、必要な
ものとなって母子保健の上から逆効果となること
検査をすべてカバーできるものとは言えない。
を懸念するところである。
─ 45 ─
母子保健情報 第58号(2008年11月)
表4.妊婦健診公費負担に関する委託単価の見積り
1.「必要最低の項目」についての委託単価見積もり(診療報酬換算による)
参考:
「妊婦健康診査の公費負担の望ましいあり方について」(平成 19 年1月 16 日、雇児母発第 0116001 号)
妊婦診察には単に再診だけではなく、特定疾患指導料、外来栄養指導料に相当する指導が含まれる。
第1回 問診・診察
4 ∼ 12 週 血圧・体重測定
再診料
特定疾患管理料
外来栄養指導料
71 第3回 問診・診察
225 24 週前後 血圧・体重測定
130
再診料
特定疾患管理料
外来栄養指導料
71
225
130
尿生化学
尿中一般物質半定量検査
28
尿生化学
尿中一般物質半定量検査
貧血検査
末梢血一般検査 23
血液検査
末梢血一般検査 血液型
ABO 血液型、
Rh 血液型
21
21
胎児の発育状態・胎盤の位置の確認 超音波検査(体表)
胎児奇形・先天異常の検出は含まない
530
梅毒検査
TPHA 検査 梅毒脂質抗原検査
32
15
採血料
血液検査判断料
12
135
B 型肝炎抗原検査
HBs 抗原
C 型肝炎抗体検査
HCV 抗体
グルコース
血糖
現在の妊娠週数の確認
超音波検査(体表)
胎児奇形・先天異常の検出は含まない
530
子宮頸ガン細胞診
細胞診検査(婦人科材料)
150
12
40
135
144
144
146
採血料
子宮頚管粘液採取
血液検査判断料
免疫学検査判断料
生化学的検査判断料
病理判断料
再診料
特定疾患管理料
外来栄養指導料
尿生化学
再診料
特定疾患管理料
外来栄養指導料
28
530
984
合計
71
225
130
尿中一般物質半定量検査
28
血液検査
末梢血一般検査 23
グルコース
血糖
11
胎児の発育状態・胎盤の位置の確認 超音波検査(体表)
胎児奇形・先天異常の検出は含まない
530
採血料
血液検査判断量料
生化学的検査判断料
12
135
144
合計
71
第5回 問診・診察
225
36 週前後 血圧・体重測定
130
尿中一般物質半定量検査
胎児の発育状態・胎盤の位置の確認 超音波検査(体表)
胎児奇形・先天異常の検出は含まない
23
1,154
合計
120 第4回 問診・診察
11 30 週前後 血圧・体重測定
2,027
合計
第2回 問診・診察
20 週前後 血圧・体重測定
尿生化学
29
28
1,309
再診料
特定疾患管理料
外来栄養指導料
尿生化学
尿中一般物質半定量検査
血液検査
末梢血一般検査 71
225
130
28
23
胎児の発育状態・胎盤の位置の確認 超音波検査(体表)
胎児奇形・先天異常の検出は含まない
530
採血料
血液検査判断料
12
135
合計
1,154
『産婦人科診療ガイドライン産科編 2008』
2.その他の実施することが望ましいとされる項目
妊娠初期
HIV 抗体
風疹抗体
トキソプラズマ抗体
130
75
27
妊娠初期あるいは妊娠後期 HTLV-1 抗体
クラミジア検査
85
210
36 週ころ
130
GBS 検査
『産婦人科診療ガイドライン産科編 2008』
─ 46 ─