特集2-改質褐炭『UBC』 - 神戸製鋼所

特集
未利用資源の可能性をひらく
プルノモ大臣と
神戸製鋼・犬伏社長(当時)
自宅のキッチンから始まった、
UBCへの挑戦。
インドネシアの資源立国に貢献する、
カリマンタン島の実証プラント。
神戸製鋼は、
1980年代から、
石炭液化技術の開発過程で、
褐
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特集
改質褐炭『UBC』
「てんぷら」の原理が、使えなかった石炭を
高付加価値の資源に変える。
ほとんど利用されていなかった低品質の褐炭を、高品位の瀝青炭並みに改質する。
未利用の石炭資源の有効活用を図るのが、神戸製鋼グループが開発を進める改質褐炭
『UBC』
技術。
2010年の商業化を目指し、2008年12月からインドネシアで大型実証プラントが稼働しています。
エネルギーの安定供給に貢献し、石炭灰やSOxも低減するこの技術に、大きな期待が寄せられています。
神戸製鋼は、
経済産業省の支援を受け、
インドネシア・カリマンタ
炭の可能性に注目していました。
その成果をさらに発展させるべく、
ン島にUBC大規模実証プラントを建設。現地の資源投資会社プ
1993年からUBC技術の研究をスタート。最大のテーマは、褐炭
ミ
・リソーシズ社、
大手石炭会社アルトミン社とパートナー契約を結
に含まれる大量の水分を効率的に抜くことでした。
この問題は、
一
び、
2008年12月には南カリマンタン州のサツイ石炭鉱区で大型
人の技術者のひらめきで解決されます。現:技術開発本部・本部
実証プラントが稼働を開始しています。
長代理の重久卓夫理事はこう語ります。
「その日、休みをとってい
カリマンタン島には、
地表近くに膨大な褐炭の層があります。ア
た私は、
自宅のキッチンで鍋にてんぷら油を入れ、
サンプルの褐炭
ルトミン社では産出する褐炭を環境負荷の小さいエコ・コールとして
を加熱する実験をしてみました。含まれていた水分が抜け、
石炭の
低価格で販売していましたが、
熱量が少ないため市場から歓迎され
唐揚げが予想を超えるスピードでできあがったのです。
しかも、
油の
てはいませんでした。
しかし、
褐炭を原料に高熱量のUBCをつくるこ
中に石炭の成分がほとんど溶け出さず、
きれいに分離されていまし
とで、
市場は世界に開けます。UBCを輸出して外貨を獲得し、
国内
た。」̶ 重久は、
さまざまな油で
“石炭の唐揚げ”
にチャレンジし、
水
の産業を振興する。
それがUBCプラント建設にあたりインドネシア
分を抜くために最適の油を見つけ出しました。技術者の自宅のキッ
政府が描いたスキームです。2008年12月に行われた実証プラント
チンから、
UBC技術は実用化への第一歩を踏み出したのです。 の竣工式典には、
神戸製鋼の犬伏社長
(当時)
などの関係者に加
重久の実験から生まれた方法は
「てんぷら方式」
と呼ばれ、
やが
え、
インドネシア政府からプルノモ・エネルギー鉱物資源大臣も出席
て実験室から小規模実験装置へと規模を拡大。2001年からはイ
しました。UBCに寄せる、
インドネシア政府の期待の大きさがうかが
ンドネシアに建設した小規模実証プラントで実用化のステップを歩
えます。
み続けました。
「てんぷら方式」
でUBCをつくる方法は、
①数mm程
大型実証プラントでは、
2009年
度に粉砕した褐炭を、
アスファルトを含んだ石油と混ぜ合わせてス
度末までの実証運転でUBCの大
ラリー
(粒を含んだ液体)
にする ②スラリーを加熱し、
褐炭の中の
規模サンプルを主に日本国内の
水分を蒸発させると共に、
褐炭の隙間にアスファルト分を染み込ま
電力会社へ試供し、
2010年度か
せて自然発火を防ぐ ③油を分離し、
できあがったUBCを固めてブリ
らの商業化を目指す計画です。
ケッ
トにする。
このプロセスを経て完成したUBCは、
6,350kcal/kg程度と瀝
青炭と同等の熱量を持ち、
灰の量は瀝青炭の約1/3です。使えな
中央制御室(CCR)
でのミーティング
眠っている世界の資源を、
日本の技術で揺り起こす。
い資源だった褐炭が、
高熱量で環境負荷も少ない高品位のエネル
ギー源に生まれ変わります。
資源小国である日本は、
多様な資源供給の道を確保することで
リスクヘッジを図る必要があります。世界中に広がる褐炭の産出
改質褐炭(UBC)
プロセスフロー
循環油
石炭
アスファルト
国へのUBC技術の提供は、
資源国を活性化し、
日本への資源供
スラリー
給を守ることにつながります。
世界中に眠る褐炭が、
加熱・脱水
3つの側面から
環境負荷を低減するUBC。
神戸製鋼の技術で高付
UBC
含油ケーキ
循環油
循環油
油分回収
石炭は、
世界の1次エネルギーの約3割をまかなう重要なエネル
UBC粉
加価値のエネルギー源に
生まれ変わる。
その日は、
遠
くありません。
UBCブリケット
稼働中のUBC大型実証プラント
ギー資源です。
しかし、地球に眠る石炭資源の約半分は低品位
成型
炭です。中でも褐炭は、
瀝青炭に比べ水分を多く含むため発熱量
が低く、
自然発火もしやすいため、
ほとんど利用されていませんでし
た。
その一方、
褐炭は灰分や硫黄分をあまり含まないため、
燃焼し
ても環境への負荷が小さいという利点を備えています。
改質褐炭を固めた
UBCブリケット
(原寸大)
褐炭から水分を抜くことで発熱量を高め、高品位のエネル
担当
技術者
ギー源に改質するのが、神戸製鋼のUBC
(Upgraded Brown
から
Coal)
技術です。UBCを火力発電などに利用した場合、瀝青炭
に比べ、灰分やSOxが低減でき、褐炭をそのまま使った場合に比
べてCO2排出が抑制されることがわかっています。UBC技術は、
未利用資源の有効活用に加え、
地球環境の保全の面からも注目
されているのです。
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神戸製鋼グループ 環境・社会報告書2009
「てんぷら方式」で、多様な資源リサイクルの道が広がります。
技術開発本部・本部長代理 理事 重久卓夫
褐炭から水分を抜く
「てんぷら方式」は、他のさまざまな資源にも応用できま
す。例えばコーヒーの入れ滓やバイオマス
(活性汚泥)
から水分を抜くことで、ある程度の熱量を
持った燃料になります。これらを石炭に加えて火力発電などに利用することで、それだけCO2の
日があたらなかった資源を有効に活用し、環境
発生を抑えることができるのです。UBC技術は、
世界中の発電所で使ってもらい
負荷も低減する、
これからの時代の技術です。いずれはUBCを、
たいですね。
神戸製鋼グループ 環境・社会報告書2009
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