震災特別号 マグロ基地・気仙沼は必ず蘇る - 責任あるまぐろ漁業推進機構

Organization for the Promotion of Responsible Tuna Fisheries
震災特別号)
ニュースレター No.2407(11年4月
〒107‐0052 東京都港区赤坂1‐9‐13(三会堂ビル9階)
電話 :03‐3568‐6388 FAX :03‐3568‐6389
URL : http : //www.oprt.or.jp E-mail : [email protected]
─ みんなの力で おいしいマグロを いつまでも ─
発行・社団法人 責任あるまぐろ漁業推進機構
このたびの東日本大震災により被害に遭われた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
被災地、漁業の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
社団法人
責任あるまぐろ漁業推進機構
マグロ基地・気仙沼は必ず蘇る
日本かつお・まぐろ漁業協同組合・常務理事
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佐藤安男氏に聞く
2011年3月11日。日本にとって忘れられない日となった。太平洋沿岸
の東日本一帯を襲った未曾有の地震と津波は、マグロ漁業基地である気
仙沼をも一瞬で飲み込んだ。津波の去った街には今も、大型マグロ漁船
が芸術家の設置したモニュメントのように乗り上げ、夢と錯覚してしま
いそうなほど、現実離れした空間を生み出している。この未曾有の災害
に、「マグロ基地を救え!」と、国内外のカツオマグロ漁業の仲間たち
が動きだした。しかし、そこには支援したい気持ちと、混乱する現場の
間で、美談だけでは語り尽くせないさまざまな思いも錯綜した。被災後、
日かつ漁協グループ会社が所有する船を使い、物資輸送に奔走した日か
つ漁協の佐藤安男常務に話を聞いた。
(インタビュー・浮須雅樹)
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最初は、船員家族の安否確認最優先
――震災後、日かつ漁協がまず取
り組んだのは。
佐藤 最初は、組合員の安否確認
です。われわれとして優先すべきは
船主や船主の家族、そして船員や船
員の家族の安否だと思いました。震
災当日の夜からあらゆる手段で安否
確認をしました。
――安否確認は、洋上からもかな
り感謝されたそうですね。
佐藤 実はマグロ船の船員には被
災地である東北出身者が多い。震災
の報を聞いた船員たちが、すぐさま
家族の安否を確認しようと各船の船
舶電話に駈け寄り列ができたそうで
す。
しかし、
ご存じの通り、
震災直後
は陸でも電話が通じない。
普段から
家族の近くにいられない船員の不安
と心配は、
相当だったと思います。
だ
からこそ、
通信は不安定ながらもさ
まざまな手段を持つ組合が安否の確
認を請け負いました。
実際に所属船
の船員から約250人の安否確認依頼
があり、
非常に喜んでもらえました。
――日かつ漁協は、震災後から物
資を洋上から運ぼうと苦労されたよ
うですが。
佐藤 ええ。ちょうど震災時に組
合にいた船主の船が近くにいたの
で、気仙沼に早速入ってもらいまし
た。海ならば簡単に行けそうだと思
うでしょうが、実はすごく大変なの
です。海の底にも瓦礫が積み重なり、
いつプロペラに絡んで止まってしま
うか、乗り上げてしまうかわからな
い。そんなところに簡単に船を進め
られません。最悪、船が使い物にな
らなくなってしまう。いろんな船主
の方からも「うちの船を使ってく
れ!」というありがたい申し出をい
ただきましたが、被災地でそんな事
故を起こせば逆に迷惑をかけてしま
う。そこは皆さんの思いだけを受け
取り、慎重に対応しました。
――3月26日に、グループ所有「開
発丸」で救援物資を運んだとか。
佐藤 開発丸は、水産総合研究セ
2
OPRT ニュースレター
ンターに貸し出していたものです。
3月31日までが貸出期限でしたが、
水研センターは快く、物資輸送への
利用を承諾してくれました。
――実際に、物資輸送といっても
大変だったようですが。
佐藤 被災地に何が必要か、気仙
沼に問い合わせたところ、医薬品が
足らないという答えをもらいまし
た。被災した気仙沼の周辺にあるこ
とはあるが、陸の輸送手段が分断さ
れ運べないと。ここは船の出番と思
い、同じくマグロ基地である三崎の
船主や街の方に協力いただき、医薬
品を運ぼうと思いました。しかも、
気仙沼のマグロ船主たちからは、自
分たちに必要な物資でなく、気仙沼
の市民みんなに役に立つものを送っ
てほしいという声をもらいました。
自分たちも大変なのに、頭が下がり
ます。
――医薬品の輸送は想像以上に大
変だったとか。
佐藤 ええ、医薬品というのは食
品や衣料のようにただ送ればいいと
いうわけでな
く、医師の処
方箋がないと
買うこともで
きないので
す。それであ
らゆる手段を
通じて気仙沼
の病院に連絡
をとり、逆に
発注してもら
う形をとることで、準備を進めまし
た。そのほかにも医薬品業界のルー
ルがあったのですが、そこは医薬品
業界の方に理解いただいた部分もあ
ります。ありがたいことです。
空回りしがちな善意と支援
――どれくらい運んだのですか。
佐藤 2000万円くらい用意しまし
た。最初、気仙沼の病院からのオー
ダーはすごいボリュームで1億円相
当に達していたのですが、陸からの
医薬品が届くまでの当面のものとし
て、2000万円を日かつグループの資
金の中で捻出し負担して持っていき
ました。そのほか、鹿児島の船主や
市などの地域、高知、三重、静岡、
神奈川など、マグロの基地と言われ
る場所から多くの物資やお金が届
き、それを被災地に迷惑をかけない
ように仕分けして送りました。感謝
していただけたと思います。
――医薬品ひとつ届けるのも大変
だったようですね。
佐藤 みなさん、善意でいろいろ
送っていただける。最初はわたしも
それでいいと思っていましたが、現
地からすると、非常にありがた迷惑
な部分もあることを知りました。仕
分けしていない物資は使い物になら
ないし、ただ駆けつけてもらうだけ
だとなんの役にも立たない。そうし
た中で、「なんとかしてあげたい」
という善意の気持ちを、現地の人に
本当に役立つ形で届けるにはどうす
ればいいのか、そこが一番腐心した
No.47
ところです。どうしても善意だけが
空回りしてしまいがちになります。
善意の押し売りはしないように心が
けました。
復興へ思いをしっかりサポート
――これからも気仙沼はマグロの
基地としてあり続けることができる
と思いますか。
佐藤 わたしは、気仙沼はマグロ
の基地として必ず蘇ると思っていま
す。菅原茂市長も言っているように
自然条件からみても、気仙沼はマグ
ロの基地になるべくしてなった場所
であることもありますが、地元の漁
業者は復興に対する強い意欲を持っ
ています。私からみれば少し気負い
すぎではないかと思うほどです。で
も、そうした気持ちが復興には必要
だと思います。復興は簡単なもので
はありません。気仙沼の街をどうし
ていくか、そのグランドデザインを
誰が描くのか、そこにマグロ漁業を
どう位置づけるのか、これからいろ
んな議論が行われると思います。菅
原市長が目指すように6月のカツオ
のシーズンには水揚げもスタートす
るかもしれませんが、すぐに完全な
ものにはなりません。すべて整うに
はやはり5年∼10年の歳月が必要に
なります。その長い時間、復興への
思いを持ち続けることは本当に大変
だと思います。そこを日かつグルー
プとしてもしっかり支援して、マグ
ロの基地として気仙沼が蘇ることを
応援していきたいと思っています。
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震災に対し海外からの義援金相次ぐ
責任あるまぐろ漁業推進機構(O
PRT)に、海外のOPRT会員か
ら義援金が相次いでいる。3月31日
までに送金された義援金は1千万円
に達し、日本かつお・まぐろ漁業協
同組合(日かつ漁協)
に寄託された。
その後も、会員、会員外、国内外を
問わず関係者から見舞いの言葉がO
PRTに多数寄せられている。
ハワイはえ縄協会は4月7日、義援
金5,000米ドルをOPRTに寄託し
た。シーン会長からは、「悲痛な想
いで一杯。ハワイはえ縄協会の会長
として、当協会の会員の想いをお伝
えするとともに義援金をお送りた
い。特に、当協会の会員が強い結び
OPRT
ルニア州に本部のある米国、カナダ、
ニュージランドのビンナガ対象漁船
船主団体)のウェイン・ヘイキラ専
務は、「なんでも援助できることあ
れば、言ってきてくれ」とのメッセ
ージを寄せ、会報で義援金を呼びか
けていることを伝えてきた。
つきを感じているマグロ関係地域の
ためにお役にたてていただければ幸
い」
。
とのメッセージも寄せられてい
る。 インドネシア漁業連合会(I
FF)ジョーン・アル
バート会長は、「災害
の余りの惨状に言葉が
無い。何とか支援がで
きればと思っている。
当会の会員は、被災地
救援のボランテイアが
必要であれば、いつで
も日本へ行く用意があ
る」とした。 さらに
WFOA(西部漁船船
石川日かつ漁協組合長
(左)
に義援金を渡す
主協会―米国カリフォ
原田OPRT専務
OPRT ニュースレター
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漁業の町 壊滅 3月11日 マグニチュード9
2分36秒の地震と15分後の大津波
気仙沼・遠洋漁船コミュニティ紙「みなと便り」より
気仙沼で遠洋漁船コミュニティ紙「みなと便り」を発行している
熊谷大海さんは、高台に逃れたが、震災直後の気仙沼の変わり果て
た姿に、息を呑んだ。「みなと便り・東日本大震災特別号」は、地
震と津波のもたらした惨状を克明に伝えている。「震災により、尊
い生命を失くされた方々のご冥福と家を失くされ、今尚、避難生活
を余儀なくされておられる方々には心からお見舞いを申し上げま
す」との熊谷さんのメッセージとともに、「特別号」の一部を転載
させていただきました。
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3月11日午後2時46分に発生した
北部太平洋側を中心にした「東日本
大震災」は死者、行方不明者合わせ
て2万人を超え、その数は日増しに
増え続けている。
その前兆は2日前に発生してい
た。9日午前11時45分頃、金華山沖
東160キロ附近、深さ約10キロを震
源とするマグニチュード7・3、気仙
沼では震度4が確認されたが40キロ
程内陸部にある登米市は震度5弱を
観測した。
沿岸沿いの気仙沼市では発生から
3分後には津波警報が発令され、白
昼の漁港に緊張が走った。今回の大
地震はそれから2日後だった。地震
はこれまで観測した事のない2分36
秒の揺れが続いた約15分後に大津波
が町を襲った。大地震直後、戻るに
戻れない15隻程の沿岸漁船や1隻の
客船が襲って来た大津波に真正面か
ら挑んだ。これまで何十年も海に出
て来たがあれ程の高い波は見た事が
ないと助かった唐桑の漁師たちは
口々に語る。大津波の爪跡は丸2日
燃え続けた気仙沼湾と共に明らかに
なった。
長年、世界一の遠洋マグロ延縄漁
船の基地になって来た気仙沼港はそ
の隆盛時代の面影は見えない。町の
いたる所では家屋が倒壊して道を塞
ぎ、漁船で賑わう海岸通りの漁業関
震災後、道なきガレキの山を歩
き続け、ガソリンが手に入らな
い中、夢中で取材撮影しました。
遠洋漁業に、そして三陸を始め、
東北の町の早期復興に力を貸し
て下さい。
熊谷大海
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2日前に前兆地震
連会社や施設はほぼ壊滅状態になっ
ていた。更に市の北側にある鹿折地
区の岸壁には毎年、サンマ漁を待つ
中型漁船が係留されているがそのほ
とんどが鹿折地区の民生(市民生活)
地区の家を倒壊し、道を塞ぐように
多くの船が乗り上げている。更に火
災がこの地区を襲ってしまった。
マグロ漁船も係留中だったため、
そのほとんどが被災した。当初の話
では天災による事故は漁船保険の対
象外となっており、その行方が心配
されたが政府の強い要望で保険が適
用される見通しが出されているがあ
くまで船体保険のみであり、その他
の漁具、設備、備品は保険対象外。
特に資本に乏しい個人経営者にとっ
ては経営を断念するしかないと嘆く
船主もいる。
!気仙沼市の魚市場附近は約1メートル地盤が沈下した為、向こう側に見える商港岸壁への道
路が寸断されている。
左側が湾であり、
陸地との境が見えず危険な状態が続いている。
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No.47
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『買って・食って・支えよう』―ウエカツ水産
皆さんご周知のとおり、震災や原発の影響は、魚
食そのものだけでなく、ひいては日本全土の経済を
揺るがしております。
読者の方々の中には、役に立ちたいが自分に何が
できるのか、居ながらにしてやきもきしておられる
方も、多数おられることでしょう。
30余日が経過し、被災した浜で一部漁船が残った
ところは既に漁に出かけ、水揚げをしているとの報
道も聞いておられると思いますが、いかんせん、当
然のことながら流通の仕組みが壊れていますから、
十分な稼ぎとはなりにくい。そこに追い討ちをかけ
るように、停電や原発の影響によって、飲食店のお
客が減っており、自粛ムードによって多くの予約が
キャンセルされ、結果として、東の消費地市場であ
る築地では、例年の8割減にサカナや野菜の売れ行
きが低迷という事態です。
よろしいですか。まだまだだけれども、これから
被災地は復興期に入ろうとしている。おそらく数年
で再びサカナを獲り始める。
まさにそのとき、私たちが今まで以上に魚食から
遠ざかっていたらどうなるでしょうか。消費地市場
や飲食店や小売店こそが、将来復興した被災地生産
者の受け皿です。活力を弱めては、いけない。
そもそも、節電は当たり前。むやみにガソリン使わ
んのも当たり前。状況を冷静に判断してむやみな買
占めなどしないことも、災害や原発がなくたって当
たり前のことでしょう。
で、一方、被災もしていないのに、なんとなく自
粛ムードだけが広がって、なんとなく外で金を使わ
!"""""""""""""""""""""""""""""
!""""""""""""""""""""""""""""""""
ないという状態にあるわけですが、そこはメリハリ
つけた賢い金の使い方をしましょうよ。金を溜め込
んでいたって、死ぬときは死ぬんです。使わずに食
わずに死ぬくらいなら、使える人は、今こそ、きっ
ちり使うときだと思いますが、いかがでしょうか。
それが、復興を目指す被災地を国民が支えるという
ことです。『買って・食って・支える』
。
その覚悟を
私たち消費地が崩さず継続していくならば、必ずや
日本の魚食や被災地の漁業はよみがえります。大丈
夫。
なぜなら、我々人間が生き物である以上、自分の
国土の範囲で食っていくのが基本であって、すなわ
ち食こそが国民であり、国のありようそのものだか
らです。今、皆さんにお願いしたいことは、被災地
復興の状況やモニタリングの数値を注視しつつ、過
度な敬遠はしない、ということです。漠然とした不
安は、個々の心の中で増殖していきます。そのよう
な自分の内部に流されぬ、賢明なる消費をしていこ
うではありませんか。
食べてくださる貴方が、同志です。共に復興を誓
おう。
(ウエカツ水産=上田勝彦氏)
同氏は4月1日から『水産庁 増殖推進部研究指導
課 普及・育成班 情報技術企画官(加工流通課併
任)
』
に異動。生産・流通・消費の広範囲な分野の支
援・普及・育成・広報に邁進中。
詳しくは、OPRTホームページ「ウエカツ水産
コーナー」に掲載(URL : www.oprt.or.jp)
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られ、どのような経緯を経て食卓に
のぼるのかは余り知られていませ
ん。こ のDVD
(47分)
は、
全国鰹鮪
近代化促進協議会が企画、インド洋
原田専務が会長代行に
で操業する遠洋マグロはえ縄船の様
追跡!ニッポンのマグロ
3月14日に大日本水産会に設置さ
子やマグロ資源の現状を通して、マ
れた東日本大震災対策本部の本部長
グロ資源、遠洋延縄漁業の未来を考
世界の海から食卓へ
として、被災地の水産分野の復興に
えます。
DVDご希望の方は、
事務局
DVD完成
専念するため、白須敏朗(社)責任
(日本鰹鮪漁業協同組合 指導部小
あるまぐろ漁業推進機構(OPRT)
日本人に馴染みの深い魚、マグロ。 野TEL03―5646―2381)
まで。
(教
会長は、平成23年3月31日をもって、 しかしマグロがどのような現場で獲 育機関には、無償提供も可能です)
震災対策に専念へ
白須会長が辞任
OPRTの会長・理事を辞任した。
定款に従い、当面、原田雄一郎専務
理事が会長代行を務める。
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!""""""""""""""""""""""""
!"""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""
編 集 後 記 東日本大震災で亡くなった方、行方不明の方の数が日を追うごとに増えていく。その数の
多さと、残された方々の痛みに想いを馳せると言葉を失う。鎮魂を祈るのみ。震災発生と
ともに、外国のOPRT会員、マグロ漁業関係者、等、世界からお悔やみの言葉を、沢山いただいた。その
一部を紹介する。「愛する者そして家財、漁船、漁業施設等を失った人々の痛みを和らげる言葉は見当たら
ない。悲しみに暮れるのみ。
「
」日本の皆様の悲しみを、私たちも共にし、祈りをささげている。
「
」大いなるも
のの知恵と慰めは、今、それを最も必要としている人々のもとにあることを祈念している。
「
」この大災害を
懸命に乗り越えようとしている日本政府と日本の人々の強い意思に心から敬服します。
」
福島原発がこれから
どうなるのか?不安が日本を覆っているが、挫けてはいられない。なんとか立ち上がって、歩んで行かねば
ならない。世界の多くの人々の励ましの言葉も支えに。
(原田)
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