Nara Women's University Digital Information Repository Title Iターン就農による耕作放棄地の再生 Author(s) 松浦, 二郎; 柳井, 妙子; 室谷, 雅美; 花輪, 由樹 Citation 大学院生の自主企画による研究セミナー : 奈良女子大学大学院人間 文化研究科「魅力ある大学院教育」イニシアティブ生活環境の課題 発見・解決型女性研究者養成(文部科学省採択教育プログラム), 平成 20年度, pp.33-40 Issue Date 2009-03-25 Description 2008年11月25日(火)15:30∼17:30 奈良女子大学生活環境学部会議 室A棟1階にて開催された研究セミナー「Iターン就農による耕作放 棄地の再生」の実施報告書 URL http://hdl.handle.net/10935/1446 Textversion publisher This document is downloaded at: 2014-11-10T20:12:04Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace 奈良女子大学大学院人間文化研究科 平成20年度「魅力ある大学院教育」イニシアティブ 生活環境の課題発見・解決型女性研究者養成(平成17年度文部科学省採択教育プログラム) 大学院生の自主企画による研究セミナー 1ターン就農による耕作放棄地の再生 平成20年度「魅力ある大学院教育」イニシアティブ支援プロジェクト 大学院生の自主企画による研究セミナー実施報告書 1.企画内容 (1)セミナーの名称 「1ターン就農による耕作放棄地の再生」 (2)開催日時・会場 2008年11月25日(火) 15:00∼17:30生活環境学部会議i室A棟1階 (3)講演者 松浦 二郎(花の里&二郎さん農園経営者) (4)企画者 柳井 妙子(人間文化研究科社会生活環境学専攻博士後期課程3回生) 室谷 雅美(人間文化研究科社会生活環境学専攻博士後期課程3回生) 花輪 由樹(人間文化研究科住環境学専攻博士前期課程1回生) (5)支援教員 中山 徹(生活環境学部住環境学科准教授) (6)参加人数 14名(内訳:[学内]教職員0名,大学院生6名,学部学生・研究生2名,[学外]6名) (7)セミナー概要 本セミナーは2008年11月25日(火)15:00∼17:30、生活環境学部会議室において、花 の里&二郎さん農園経営者の松浦二郎氏を講師に迎え開催しました。松浦氏は運輸省時代に 海外100都市を回る船員として勤務した後、東京で飲食業経営、出版業勤務後、55歳で広島 県大崎上島に移住して農業に従事した1ターン就農者です。現在は、無農薬でJAS規格を取 得したブルーベリー栽培、みかん栽培、シシリアのトマト栽培、そしてバラ園経営をされて います。 今回、松浦氏より1ターン就農による成功の秘訣と1ターンに関心のある人への提言を聞 きました。成功の秘訣は、①橋渡しをしてくれる人との出会い(土地確保…地元オピニオン 一33一 リーダー、栽培…師匠の確保 ②耕作放棄地を再生利用するための課題(土地と出あう、土 地を知る…地元の人の助言、オリジナルな工夫…オーナー制度などのチャレンジ) ③素人 感覚の農業(少々の雑草…無農薬だから、気軽に何でも新規栽培)を実施しているそうです。 これから就農しょうと考えている人に対しては、①明確な目的設定(これから何がしたい のか?)②若い年代での移住(定年からでは遅すぎるのか?)③自分の世界は自分で創る ④ 人生を三分割して仕事と趣味を楽しむ ⑤社会貢献などの話しを聞きました。 人口減少が進んでいる中山間地域において1ターン、Uター・・一ン、 Jターンの人たちの多様な 視点、知恵、技術、ネットワーキングは、今後地域の活力源になっていくものと思われます。 実践活動をされている松浦氏の話は、地域再生において大変貴重なものでした。 皿.実施報告 1.1ターン就農 1.1 はじめに 都会生活者が田舎で農業をする「1ターン就農者」が少しずつ増えてきています。島でいかに自 分らしく人生をエンジョイしていくかを紹介していきたいと思います。 1.2 大崎上島の概要 私は現在、広島県の瀬戸内海にある大崎上島という 島に住んでいますが、外周35キロの小さな島です。こ こには日本一というものが6つあります。一つは、中 国電力の発電装置。石炭火力発電ですが、公害が出な い装置で日本一、2号機が稼動すれば世界一になるそ うです。二番目が私もつくっていますブルーベリーで す。目に好いアントシアニンの含有率が日本一です。 三番目は島の神峰山に登れば、115の島が見渡せます。 多島見として日本一です。四番目は、造船で栄えた町に現存する木造5階建ての家です。五番目 は、今流行りのエタノールの貯蔵量が日本一です。最後は鉛の生産量が日本の40%あり、日本 一です。 交通網としては、新大阪から新幹線で三原に行き、そこからバス代わりの船が出ています。竹 原からは車が乗れるフェリーが一日43便あります。長くても1時間待てば次の船があります。 島では、14歳未満の人口が減少し、65歳以上の人口が増えています。毎年250人減少してい ます。最盛期には人口約3万4000人でしたが、現在は約9000人です。小さな島ですが、以前は 一34一 4つの村がありました。合併した今では一つになってい ます。ですから、それぞれの地域性というものがあり、 外から来た人間にはその違いがわかります。 この島は以前、造船で栄えたところですが、現在は 40社あった造船関係の会社も8社となっています。.大 型スーパーは2店舗あります。スーパーは人口5000名 で1店舗という勘定でできているそうです。人口6千、 7千になると1店舗になるでしょうね。いい例が、大 崎下島というの が隣にありますが、人口4500名です。スーパーを出店してほしいけど、スー パー側がその話に乗ってきてくれません。また大崎上島では全島光ケーブルが張り巡らされてい ます。役場の人が総務庁に提案し、全戸に光ケーブルを張り巡らされました。島では、コンピュ ーター関係の仕事はすぐにできます。 1.3 大崎上島での生活 人間の縁というのは、非常に大切だと思います。何も知らないところで土地を見つけて農業を 一から始めるわけですから、人との出会いがないとできません。私が55歳の時でした。香川県出 身でしたので、最初は香川県内で土地を探していました。農業試験場の人にブルーベリーをやり たいなら、大崎上島に横本正樹さんという方がいるからと紹介してもらいました。横本さんを通 して土地の所有者を紹介してもらい、荒れた畑と果樹 園(耕作放棄地)を借りて農業を始めました。土地は 耕作放棄地となるとすぐに荒れてしまい、10年も手を 付けないとみかんの木も死んでしまいます。 誰もがやっている通常の畑や果樹園の利用とは異な り、いかに付加価値の高いものを生産して収入を得る かということを考えました。そこで、バラ園、みかん 栽培、ブルーベリー栽培を農業の3つの柱にしました。 1.4 1ターン就農者の挑戦 (1)バラ園 ブルーベリーを植えてもすぐに収入に結びつかないため、私は、バラ園をつくりました。苗を 私が買ってきて植え、管理までし、一株3000円で好きな時にバラ園に来て、各自でバラの花の 摘み取りをお願いするオーナー制にしました。250株を一人ずつ説明して回ったら1週間で完売 しました。最初、「田舎の家には、バラの木を植えていない家なんて一軒もないから売れるわけが ない」と言われ反対されました。結果は完売です。人が考えないことを考えることが必要です。 一35一 バラの木一本ずつに名札を作り、バラの名前、由来などを記載しました。ヨーロッパのバラ園で は、このようにしているそうです。 (2)みかん栽培 みかん畑は1反(300坪)を年1000円で貸してもらえます。私は8反つくっています。みかんの 栽培に関しては、最初、農協から教えてもらった通りに農薬を撒いていました。私は、夜、晩酌 をしますが、農薬を散布した日はお酒が飲めなくなりました。それで無農薬のみかんの栽培を始 めました。りんごでは、青森県に木村さんという無農薬栽培の方がいらっしゃり有名ですね。無 農薬の研究をしてみると、大地とは、本来植物を育てる力があることがわかりました。3∼5年の 間で木は痛みますが、土にはカがあります。MOA(岡田茂吉アソシエーション)という団体がそ の考え方で、私もそこにみかんを卸し、販売先を開拓しました。 学校給食の管理栄養士に聞いてみても、S、 Mサイズしか市場にでてこないため予算的に合わ ず、半分に切ったみかんを子どもたちには出したくないということでした。3Sサイズのみかんは、 本来は20kgで100円ぐらいでしか買ってもらえず、ジュースにしかならないのですが、無農薬 みかんは、北海道の学校給食で20kgを3000円で購入してもらっています。 JAS規格を取得する ことで、流通が開けました。現在は、北海道の学校給食以外に仕出屋さんにも無農薬ということ で高く買ってもらっています。生産物を変えることで、農業の一次産業の未来はいくらでも広が っていきます。私は、みかん10kg 4200円、 S kg 3000円(送料込)で販売しています。農協を 通した金額に比べて3倍ぐらい高い値段です。農協を通せば、毎日市場の値段で金額が異なりま す。私たちは、こちらが年初めに値段を決め、それに見合うような良い品種を作るよう努力して います。JASをとるのは5∼6年かかりますが、その後は安定した収入になります。 (3)ブルーベリー栽培 ブルーベリーに関しては、1ターン就農をするに当たって、いろんな条件に合うことで選択しま した。ハウスがいらない、小さくて軽い、年をとっても作業ができる等です。大崎上島のブルー ベリーのアントシアニン含有率は日本一で、高い評価を得ています。 ブルーベリーの栽培での苦労は、ノウハウがゼロだったため、横本さんに全て教わりました。 普通の農家の方はノウハウを教えてくれませんが、横本さんはノウハウを含め、全てを教えてく れました。現在ブルーベリーは直販をしています。1kg 3000円。加工用では、ジャム、ジュース にでき、1kg 1500円で販売しています。 2. 1ターン就農の成功の秘訣 (1)将来の目標をしっかりと考えておく 田舎では、何をしたいのかを自分でしっかりと考えておくことが大切です。私のことを考える 一36一 と、体力的に後5年ほど早かったらよかったと思います。定年退職して急に田舎暮らしするとい っても難しいでしょうから、その準備をしておくことが大切ですね。家族に対しても根回しをし ておくことです。今では、仕事と趣味とをゆったりとした島時間で楽しんでいます。 (2)橋渡しをしてくれる人との出会い 島には、荒れた畑と果樹園が至る所にあります。だからといって誰にでも土地を貸してくれる かというとそうではありません。先祖代々受け継がれてきた土地を、見ず知らずの人に誰も貸そ うとはしません。私の経験からいえば、地元の有力者、オピニオンリーダー的な人とのつながり、 その人に必要なことを頼めるかが重要なポイントになります。 私の栽培の師匠は、ブルーベリーは横本さん、みかんは中原さん、トマトは安本さんです。授 業料は物納、一杯飲んでおしまいといった気軽な師弟関係です。 (3) しがらみのない自由な感覚 本業の農家の人は、地域の中で農業とはこういうものだというものができていて、新しいこと に挑戦することは難しいようです。私は、人がやらないことを考え実行していますが、それは他 所から来た人間だから仕方ないと周囲が思ってくれているところがあるからできることだと思っ ています。 最近は、永年栽培(みかん、ブルーベリー)に加え、単年栽培(トマトなど)を併用すること で多角化し、バランスの取れた経営を目指しています。トマトに関して言えば、「シシリアン・ル ージュ」というトマトを栽培しています。これが非常に美味しい。加熱するともっと美味しいで す。女性の肌にいいですね。このトマトは、今まで日本にないものです。こういう風に、今まで 日本に無いものを見つけることが大切です。これまでは「桃太郎トマト」一色を農協を通してみ んなが作っています。先日、佐竹さんというイタリア日本料理協会会長のところに行ってきてト マト料理のフルコースを食べてきました。「シシリアン・ル・・一・・ジュ」とは、こういう人が絶賛して いるトマトです。単年度収穫で1年に2回収穫できます。7月12日に種を植え、霜が降りる頃収 穫できます。このトマトの食べ方は、たこ焼きの器械に入れて焼いて食べるのが大阪で流行って います。東京ではスパゲティで食べる人が多いです。 または、すき焼き感覚で食べるのも美味しいです。ト マトを忌むきして味付けはオリーブオイルと塩とニ ンニク少々です。その中に豚肉、きのこ、野菜を入れ て食べるんですが最高に美味しいですね。他にも黄色 と赤のカナリアンというトマトもブレイクしてくる だろうと思っています。新しい品種で新しい食べ方の ものを耕作放棄地の活用で提案していくことが必要 一37一 だと考えています。 3.情報交流会 参加者6名(他大学講師1名、大阪府職員1名、奈良女大学院生3名、講演者1名) 自己紹介と感想 * 自然の中で暮らすのはすばらしいことだと思います。東京という大都会の中での人間関係と 田舎の中での人間関係はどのような違いがあるのでしょうか? * 田舎の中に新しいものを入れることは注目もされるだろうが、オリジナル性を出すことの大 切さを勉強した。 * 山と海の生活を研究しています。特に瀬戸内海での研究ですのでよろしくお願いします。 * 大阪府の役人で、まちづくりのNPOをつくっています。今大阪府庁で新都市開発をやって、 次世代の役に立つまちづくりをしょうとう考えています。周辺の地域の「農」との関わりを どうしたらいいか、クラインガルデン(滞在型市民農園)をつくって退職者に活動する仕掛 をつくりたいと考えています。結果的に休耕地の再生まで辿り着けるかどうかはわかりませ ん。 * 新しい空気が大崎上島に入ることによって、地域が変化していっているのではないかと思え ます。よそ者を受け入れる余地のある地域は、良い意味で変化・発展する機会があると考え ています。大崎上島の今後が楽しみです。 Q:近所との付き合いはどうですか? A:最初、挨拶漏れがありました。どこまでに引越挨拶をしたらいいのかわからず、自分なりに ここまででいいのではないかと考えて行いました。挨拶をしに行かなかった家の人が農協に 出ていて、1年問、農協便りをもらえませんでした。 また、やなつこい人はどこでもいます。うちのみかんは美味しいといっても、本当のプロは絶対 に教えてくれません。いかに教えてもらうようにするか、或いは何か新しいことをするかだ と思います。ブルーベリーは全くノウハウはいらなく、荒地の方が合っているからよかった です。 Q:田舎って、どの程度の田舎なのでしょうか? A:隣近所、昔みたいに味噌、しょうゆを貸し借りすることはなくなっています。大雑把に鍵を かけないで外出できるのは、橋がかかっていないから。しかし、造船所などには外国人もき ているから島の人には鍵をかけた方がいいと忠告されています。コンビニはありません。以 前、できたけど採算が合わなくて撤退しました。 一38一 Q:働く場はありますか? A:仕事はいくらでもあります。私は、農業主体で仕事をしているけど、友達が船のはしご(タラ ップ)をつくっています。半日行って5000円もらっています。農家で時間を決めて朝から晩 まで働く人は少ないです。健康であれば、いろんな職業に従事できます。 Q:1ターン者は増えていますか? A:私の後に6人ほど来ています。神戸でパンの修行をし、自然発酵で焼いたパン工房を開いた 人がいます。全国旅役者をしていた人が来て、1年住んでみてよかったら妹と両親を呼ぶと いっています。他に農業をしている夫婦もいます。インターネットで見てくる人が多いです ね。 Q=年約250名減少しているということですが、対策は何かないのでしょうか? A:1ターン、Jターンで1組増やすにはかなりの労力が必要です。そこで2000∼3000人一度に 増やすことを考え、NPO法人「上島の風」を立ち上げました。これは、町有地である大串ふ れあい工房(65haの平地、沼、自然が豊か)を活用して、障害者や病院のリハビリセンター の施設を作れば2000人位増えると考えました。どこからお金を引っ張り出せるか。相談役 に日本赤十字社長近衛忠輝、国際オリンピック猪谷千春、日本社会事業大学教授を立てまし た。青写真を作って町や社協に話をもっていったけど、今まで町と国とのパイプがなかった ために現実的な話として取り上げてもらえませんでした。近衛さんから相談にのると言われ、 瓢箪:から駒が出るかと期待しましたが。国は財政難だけど福祉のことには出したがっている から、チャンスだったけど、残念ながら島の人には話が大き過ぎて怖がってしまい、無い話 になりました。 (文責 柳井妙子) 一39一 資料 アンケV一一一一・ト ア ン ケ 一 ト 2008年11月25日 本日は、院生におる自主企画セミナーにご参加いただき、ありがとうございました。今後の活 動の参考資料とさせていただきたいので、アンケートへの記入をよろしくお願い致します。 13枚配布 7枚回収 1.今回のセミナーは何によって知りましたか? ・新聞の告知欄 (0%) ・奈良女のHP (0%) ・企画者からのメール (85%) ・校内ポスター (15%) 2.「1ターン就農について」の講演はいかがでしたか? ・大変興味がもてた (85%) ・普通 (15%) ・あまり興味がもてなかった (0%) 3.自由討論会は、いかがでしたか? ・ しっかりと話ができた (0%) ・まあまあ満足 (15%) ・自分が思っていることが話せ なかった (0%) ・討論会に参加できなかった (85%) 4.今後、どのようなセミナしに関心がありますか?(複数回答可) ・中心市街地について (1名) ・環境問題 (3名) ・教育問題 (2名)地方自治 (3名) ・若者や高齢者の居場所について (0) ・福祉について (0) ・国際問題 (1名) 5.年齢 10代 (1名) 20代 (4名) 職業 大学関係者 (4名) 行政 (3名) 住所 奈良市内 (5名) 奈良市外 (2名) 40代 (2名) ご協力ありがとうございました。 一40一
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